転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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マックス号生還せよ!(Ⅲ)

ゴドラ星人の指示でマックス号船員はいくつかの気密区画に押し込められ、俺とアマギ、そしてタケナカ参謀だけは一等船室に分けられた。

流石ゴドラ星人、人質の重要度でランク分けしてやがる。

いざとなったら、俺達三人だけ残して他は殺す気満々だ。

 

二人が起きてきたら、マックス号はゴドラ星人に拿捕され、人質として捕まっている事を伝える。

 

「ソガ隊員、なんということを!」

「……いや、むしろよくぞやってくれた。私の意識がハッキリしていれば同じようにしたかもしれん」

「えッ?」

「奴らの言によれば、例え断ろうと数人が人質になっていたのは変わらない。それならば一人でも多くの人員を確保するべきだ。」

「そうして全員が揃っていれば、ここを取り返すチャンスがあるかもしれんと思ったんだ」

「……なるほど」

「ソガ隊員の言う通り、このマックス号には精鋭中の精鋭ばかり選抜してある。彼らを一度に失うことは、マックス号一隻だけをくれてやるより遥かに損失だ。船は再び建造できるが、一度失った命は二度と再び戻ることはない」

「では、今は助けを待つしかないか……」

「基地の仲間を信じて、耐え忍ぶんだ」

 

ああ良かった。

タケナカ参謀が理解ある人で助かった……

実際、この人の人望のおかげで艦長たちが踏み留まってるまであるからな。

 

すると艦の後尾に微かな衝撃が走る。

 

「む! なんだ今のは?」

「まるで何かがドッキングしたような感じでした」

 

……もう来たのか、早いな。

 

 

しばらくすると船室のドアが開いて、バイザーを降ろした宙間装備の隊員が現れる。

顔が見えなくてもすぐ分かる。あの筋骨隆々な体系はフルハシ隊員だ。

 

「ソガ! アマギ! それに参謀も! ご無事だったんですね!」

「……うむ、現在は虜囚の身だがね」

「なんですって?」

「それよりも、ここに来るまで、敵と会わなかったのか?」

「敵? 誰だいそりゃあ?」

「フハハハハハハ!!!」

 

得意げな高笑いと共に、肩を震わせてハサミを振りかざす異形の侵略者が姿を現す。

 

「それは我々、ゴドラ星人ダ!」

「くそうッ!」

「やめたまエ!」

 

フルハシが腰のウルトラガンに手を伸ばすが、それよりも早く、シャコじみた恐るべきスピードでゴドラ星人のハサミが突きつけられる。

 

「今更無駄なことダ……なんの為に貴様をこの部屋まで素通ししてやったと思ウ?」

「素通しだと……ハッ!?」

 

再び艦尾において軽い金属音と衝撃を感知した我々は、フルハシの乗ってきたホーク2号が奪われたのだと悟る。

 

「貴様の代わりに我々の仲間が向かったトコロダ……今現在、地球防衛軍の注意力は、船の消失した海域に集中していル……その隙に、我々は、地球を、征服するダロウ!」

「なんだと!? ……基地の仲間や、ウルトラセブンが許すはずがない!」

「そうだ、この地球には、我々防衛軍だけでなく、頼りになる強力な助っ人がいるんだぞ!」

「ウルトラセブンだト……? ワッハッハッハ! そちらはとっくに対策済みダ。先に潜入していた工作員が既に倒したワ!」

「そんなことできるもんか!」

「いまこの船を助けに来ないことガ、なによりの証拠だとは思わんカ……?」

「そんな、ウルトラセブンが……」

「ウルトラセブンだけではナイ、あと15分もすれば、地球防衛軍は原子の粒となって、吹っ飛んでしまうダロウ!」

 

ハサミを大きく振り上げ、自らの勝利を宣言するゴドラ星人。

我々に決定的な事実を突きつける!

 

「地下18階の第二動力室に時限爆弾をセットしたトコロダ……フフフフ……フハハハハハハハハハ!!!!」

 

そう言い残すと、高笑いと共に空間へ溶けるようにして消えていくゴドラ星人。

あーあ、言っちゃった。

 

どうしてこう、これだけ大掛かりな計画をしておいて、大事な部分を喋ってしまうんだろうか。

こいつがそのことをバラさなかったら、計画はうまくいったかもしれないのに……いや、そうなったら俺が困るんだけども。

いやまあ、気持ちは分かるけどさ……俺も考えたゲームのシナリオとか、やってもいないうちにプレイヤーに話したくて仕方がないもんな。分かるよ。

 

あと、こいつら組織立って動いているし、計画の為なら、基地と共に殉じる覚悟もあると来た。

多分、テロリストとかああいった類の、自分に酔っちゃうタイプなんだろうな、それも種族単位で。

めちゃくちゃ士気は高いけど、いざ事を起こすときに興奮しまくって、暴走しちゃう……みたいな。

基本的に全部の行動がツメが甘すぎるんだよお前ら……だからこうして原作改変が楽なんだけども。

 

「ウルトラセブンも倒されたのか……」

「待て、そんなはずは無い」

 

隊員達の間に暗い空気が広がりかけるが、参謀が制止する。

 

「ウルトラセブンが倒されたのなら、我々を生かしておくはずがない。万一の場合に備えているんだ! ということは……」

「セブンはまだ健在だ!」

「うむ、冷静に考えるんだ。15分以内にここを脱出して、時限爆弾の事を連絡しなければ、大変な事になる!」

 

無線が使えないこの状況で、フルハシ隊員がマックス号に搭載されている観測用ロケットを使う事を提案する。

やるやんフルハシ!! バカっぽいとか思っててごめんな!

一人乗りのロケットにアマギをのせて射出するということになり……

 

「今こそマックス号を取り戻す時です!」

「いや、今はその時ではない」

 

ええ!? なぜなんです参謀!? 陽動にピッタリでは?

 

「今は一刻も早くロケットに行かねばならん。他の乗員を救出している時間はないし、騒ぎを大きくして途中で気付かれては元も子もない」

「な、なるほど……」

「俺が必ず基地を救って、助けを呼んでくる!」

「そうだ、それに早打ち名人がその腕じゃあ、まるでアテにならん。お前はここで参謀をお守りしろ」

「……分かった」

「彼らに任せよう……まずは戸口の見張りを倒すんだ!」

 

……まあ、原作通りでもこの二人に任せていれば成功するし、俺が変に動いたせいで結果が悪いように変わったら意味が無いか……

それにしてもだ。

戸口で騒いで開けさせた後、扉の死角に隠れたもう一人が攻撃するという、どんな作品でも見る古典的な脱出方法に引っかかるとは……

マヌケな奴め、わざわざ扉開けずとも、テレポーテーションができるだろお前たち。

もしかして保護色で隠れてるだけなのか?

 

そうしてアマギとフルハシは迅速に行動を開始した。

元々ゴドラ達も、閉じ込めている乗員や艦橋、武装制御室等の重要区画を重点的に警備していたせいで、観測ロケットはノーマークであった。

彼らはそれを、巨大なミサイルだと認識していたので、火器管制さえ掌握していれば良いと思い込んでいたのだ。 

戦う事しか能のない野蛮な地球人が、戦艦にそんなもの(観測用)を積んでいるなんて、ましてやそれで脱出しようなんて理解できなかった。……端的に言うと奴らは地球人を完全に舐めていた。

 

気付いた時にはロケットは発射体制に入っており秒読みであったが、間一髪!

制御室に飛び込んだ一匹が、人類よりも遥かに優れた瞬発力で、即座に二人を光線で撃ち抜く。

ゴドラ星人の爪から発射される光線は生体電流を圧縮した衝撃波だ。例えガラス越しであってもロケット内部のアマギを麻痺させるには充分であった。

この自慢の生得武器を使って、太古の昔から彼らの祖先は獲物を狩り、ゴドラ星の生態系に君臨してきたのだ。

 

だが、ここでもゴドラ星人は一つミスを犯す。

麻痺して倒れたフルハシを置いて、ロケットの乗員を先に回収しようと、制御室から出てしまったのだ。

こうした部分を、今生のソガは『ツメが甘い』と評しているのだが、それはゴドラ星人の成り立ちに起因する。彼のまったくあずかり知らないことではあるが。

 

彼らの祖先は元々、ゴドラ星の海底に蠢く無数の、地球で言う甲殻類の一種であったが、幼生期を特定の海綿動物の中で過ごすという珍しい生態を持っていた。

生物由来の二酸化ケイ素でできた頑丈なゆりかごの中で安全に齢を重ね、その海綿動物よりも大きく成長すると、それを今度は着込むように体へ取り込み、お互いを体組織の一部として利用するという共生関係にあったのだ。

 

繁殖に関わる特殊な生態を持った彼らが、アリやハチのような社会性を持つのにそうかからなかった。

やがて高度な文明を持つまでに至るのだが、その進化の途中で、兵隊ゴドラ達は海底を闊歩し、見つけた獲物を、地球のテッポウエビなどがそうするように、先の生体電流光線で気絶させ、生きたまま、より上位の、女王蟻のような個体への捧げものとして持ち帰っていた。

……つまり、ゴドラ星人にとっての()()()()とは、トドメを刺さず、完全に動きを封じた、生殺しの状態の生き物を、その()()()()姿()()()()()()()()()……というのが最も愛して止まない、遺伝子に刻まれた作法ということである。

 

そのせいで地球人の、いやフルハシ・シゲルという男の底力を見誤ってしまった。

腕部に掠っただけで、未だにソガの右腕は十全に動かない。

ましてや、そんな威力の光線を至近距離でそれも体幹にモロに食らった生物が、すぐさま息を吹き返すなど有り得ない。なんなら、威力の減衰した方のアマギ隊員の方が、用心の為に追撃が必要なくらいだろう。

ゴドラは詰めが甘いのではなく、()()()()()()()()()()()のだ。

ただ、非情に運の悪い事に、そこで倒れていたのが宇宙規模で非常識な男だったというだけだ。

 

全身の筋肉が引き攣り、満足に動かないというにも関わらず、フルハシ隊員は最後の力を振り絞って、ロケットの発射レバーを引いた!!

この時、彼を動かしていた原動力はまさしく、《気合》と《根性》というほかない。

それはゴドラ星の発達した科学においても、まるで解明できない未知のパワーだった。

 

ハッチが開き、アマギを乗せたロケットが宇宙空間へ飛び出していく!

人類反撃の鏑矢が、宇宙的常識外の男(筋肉バカ)の手によって、放たれた瞬間だった。


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