転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「只今、参謀室から野戦訓練の計画が発表された。明朝6時を期して、星ヶ原一帯で作戦行動に入る」
作戦室にて、部下たちに訓示を通達するキリヤマ隊長。
彼が星ヶ原一帯のマップを示すと、そこには無数の戦車群が描かれている。
「目標になる戦車隊は、マグマライザーでリモートコントロールされることになっている。たとえ訓練ではあっても気持ちを引き締め、実戦のつもりで行動するように、以上!」
「「はい!」」
「ダン、ちょっと来てくれ……」
残された四人は、久しぶりの野戦訓練に盛り上がった。
「いよーし! 野戦なんて久しぶりだなぁ!」
「おい、コッチの方の腕は確かかい?」
「うーん、仕上げをしておく必要がありそうだよ」
ライフルを構えるジェスチャーで、アマギに尋ねるフルハシ。
聞かれた名プランナーとしては、最近研究室に籠りっぱなしで、自信なさげに首を傾げた。
どうやら二人は連れ立って野外射撃場へと行くようだ。はりきってるなあ……
「だけど、どうして思い出したかのように野戦訓練なんかするのかしら?」
「そうだなぁ……きっと、この前の恐竜タンクみたいな重量級兵器が攻めて来る事を想定して、対戦車戦闘技術を高めておく為だろう……」
もしくは、より安価な歩兵用装備でも、怪獣を足止めできるような戦術を考案する為か……
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屋外射撃場で、射撃訓練中のフルハシとアマギ。
そこへ突如、大きな笑い声が響きわたった。
「アッハッハッハッハハハ……! そんな撃ち方で、敵が倒せるんですか?」
土手で高笑いしていた青年が挑戦的な笑みを浮かべて近寄ってくる。
ここは防衛軍の敷地なのだから、この男もまた防衛軍関係者なのだろうが……
「何ぃ……?」
「ちょっと失礼……」
睨むフルハシを気にも留めず、アマギから受け取ったライフルで即座に命中させる謎の青年。
「2発下さい」
こんなものは当然だと言った顔で、次は続けざまに二発発射。
一発はクレー射的に、もう一発は上空へ……
顔を見合わせるフルハシとアマギの間に、真っ黒なカラスの死体が落下してきた。
「フッハッハッハッハ……」
渋面の二人に構わず、笑い続ける青年は真顔に戻ると強烈な自己紹介を始めるのだった。
「アオキです、よろしく……」
―――――――――――――――――
「君たちに預けることになったアオキ君だ。明日の野戦では充分揉んでやってくれ」
「よろしくお願いいたします」
「近い将来、ウルトラ警備隊の一員として活躍するかもしれない男だ、頼んだぞ……」
「はぁ……よろしく……」
俺は、マナベ参謀に紹介された男へ、そうして引き攣った笑みを返すのが精いっぱいだった。だが、それも致し方なかろう。
なんせ
漏れ出そうになる内心を抑えつつ、必死に表情を取り繕おうとはするが、これがなかなかうまくいかない。結果として、引き攣ったような変な笑顔になってしまった。
このアオキ隊員……実は俺がウルトラシリーズで一、二を争う程嫌いな人間なのだ。
ウルトラセブンだけで言うなら堂々のトップ。
なんなら、
カジ参謀は、行き過ぎた思想と固定観念に囚われて暴走してしまったが、最後まで本気で地球を守ろうとしていたという一点だけは、認めてやってもいい。
ところがこのアオキは……自分の栄達こそが第一で、他の隊員の事なんか二の次だ。
防衛軍の本分を忘れて、敵を出世の為に利用しよう等と……引き合いに出した俺が言うのもなんだが、カジ参謀と比べるのも烏滸がましい。防衛軍の風上にも置けない奴なのだ!!
コイツのせいで、今回の話は被害甚大。今ここで射殺しないだけ、感謝して欲しいくらいだぜ。
しかもそんな腐った根性で、エリートである自分の方が、なんぞ得体の知れぬ元風来坊であるダンよりもウルトラ警備隊として相応しいとか思っているのが、一番腹が立つ!
いや、きちんと教育されたエリートと、素性の分からない者だったら、明らかに相応しいのは前者な筈なんだけど、両者の中身を知っているオレからすると、もう論じる気にもなれない程の明確なんだよな。
……とはいえ、ここは冷静になろう。
ソガ隊員は誰にだってフレンドリーなナイスガイなのだ。その評判を貶める訳にはいかぬ。
握手の為に右手を差し出す。なんて偉いんだろうかオレは……
ところが、アオキはじっとこちらを見つめるばかり。
「どうした?」
「いえ、これが
「どのソガかは知らないけど、多分そのソガだと思うよ」
「お噂はかねがね……なにせ、私の先輩になる方ですから」
「俺がお前の先輩? ハハハ! よせよ、鬼が笑うぜ」
「……よろしくお願いします」
真面目な顔のアオキは、その場で敬礼を返した。
そこへフルハシとアマギが帰ってくる。
「あ、君たち。紹介する者がいるんだ」
これ幸いと、アンヌと通信機の調整へ戻らせてもらうぜ。
後ろでは、二人がすげえ顔をしている事だろう。
「ねえ……あのアオキ隊員って、なんだかヤな感じ。参謀に紹介されてる時なんて、あたしの方を見ようともしなかったわ」
「まあ、そういってやるな。よく言うだろ? 弱い犬程なんとやら……てさ」
「アラ、ソガ隊員がそんな風に言うの、珍しいじゃない」
「俺達の大事な仲間を、女風情がと見下す奴なんて、たかが知れてるってこと」
その時、突如鳴り響く警報!
国籍不明機が上空へ侵入との報告だ。
直ちに出動しようとする俺達へ、待ったをかけるアオキ。
「たかが一機や二機の敵機なら、私ひとりで十分です。任しといて下さい!」
血気盛んなアオキの申し出を受け、参謀が了承する。マナベ参謀に付き添いを命じられたフルハシの顔といったら……。
―――――――――――――――――
伊豆上空を旋回する国籍不明機には黄色い豹がペイントされ、紅白の吹き流しが取り付けられていた。
コックピットでは、にこやかなキリヤマとダンの姿。
「間もなくやって来るだろう、実力もさることながら、大変な自信家だそうだ。遠慮しないで揉んでやれ」
「ハッ!」
「おい、来たぞ……」
すれ違いざまに交差する、二機の地球防衛軍支援戦闘機ウルトラ・ガード。
国籍不明機の吹流しを見て、フルハシは事の全貌を悟った。
どうりでマナベ参謀があんな意見具申をすんなり通したはずだ。
訓練生の腕前を試す為に仕組まれた模擬戦だったとは。
「ハハッ、そうだったのか。吹き流しをつけた敵機は初めてだな? アオキ。相手はダンだ、気楽にやれ……」
ところが、白鳥のペイントされたアオキ機からは模擬弾ではなく、実弾が発射された!
咄嗟に躱したダンの機体を掠るように飛んでいき、吹き流しが見事に撃ち抜かれ、風に飛んでいく。
「おい! 無茶をするな!」
フルハシの注意も意に介さず、今度はピッタリと敵へ食らいつくアオキ。
二機の操縦が一歩でも間違えば、あわや接触大惨事となる翼スレスレの危険飛行だ。
そうして急旋回から、まるで体当たりのような急降下。そして、ヘッドオンからの実弾射撃。
もちろん、アオキとて本気で直撃を狙っているわけではない。どれもダンが回避すれば十分に回避できるギリギリを見極めたコース。
いかにアオキの技量が高いかの証明ではあったが、ダンが避け損なう事など露程も配慮されてはいなかった。
それは、およそ模擬戦で行われるような機動ではなく、『ウルトラ警備隊なら、これくらい避けてみせろ』と言わんばかりの明確な挑発行為だった。
「貴様、気でも狂ったのか!」
「フルハシさん、あれは敵機です。撃ち落としても当然ではありませんか!」
「何だって!? 貴様には、あの吹き流しが見えなかったのか!」
「手心を加えろっていうんですか。私たちは敵機の侵入を告げられて出てきたのですよ。そんな馴れ合いの訓練でお茶を濁して、何の役に立つんです!」
「引き返せ!」
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参謀室で談笑するキリヤマ、ダン、そしてマナベ。
フルハシが気を揉んだ先程の激戦も、この二人にしてみれば、活きの良い跳ねっ返りだな、といった様子であった。流石に肝が据わっている。
「アオキ君、紹介しよう。キリヤマ隊長とモロボシダン隊員だ」
握手を求めるダン、それに渋々ながら応じるアオキ……。
「なかなか、やるじゃないか」
「よろしくお願いいたします」
「危うく殺されるところだったぞ」
「ホントは、ウルトラ警備隊の欠員が、2名できるところでした」
「アオキ君!」
キリヤマが放った、場を和ませるつもりのジョークに、不謹慎な返しをするアオキ。
これには先程まで微笑んでいたダンも、眉根に皺を寄せる。
「フハッハッ……ダン、こういうハリキリ男だ……頼んだぞ……」
「はい……」
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作戦室では、先日から引き続き、震度計が怪しげな動きをキャッチしていた。
「おかしいな? 震源地は、南東10キロ以内の地点なんだが……」
「10キロ以内っていえば、第28地区じゃないか……。星ヶ原一帯だぜ!」
それを聞き、いち早く行動に移ろうとするアオキと、その腕を掴む。
「アオキ、勝手な行動は許さないぞ! 僕と一緒だ。……ちょっと調査してきます」
「待て待て、俺もついてくぞ。なあ? お前には期待してるからなアオキ」
そもそもダンは、アオキから目の敵にされてるからな。
一緒に行って、厳しく押さえ込もうとしても火に油だ。
その点、ソガ隊員は正規のルートで入隊したエリートだから、ダンよりは当たりがまだマシだろう。
ところが、俺の方をチラッと見たアオキは、えらく煙たそうな顔をしていた。
……なんで?
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ポインターで星ヶ原に着いた俺達は調査を開始する。
「アオキ、レーダー探知機をセットしてくれ」
グランドソナーに何かが反応する。地中に何者かが潜んでいるのかもしれない。
「こっちに向かってくるな……。ちょっと待っていてくれ」
(今だ、ダンより早く事件をキャッチできる)
車外に出たダンを出し抜き、ポインターのアクセルを踏むアオキ。
「おい、アオキ! 何してる!」
「なんですかソガさん? こんなところで下車して何になるというんです? あの丘の向こうを早く調べなければ、逃げられてしまうかもしれない」
丘の手前で停車し、降りるアオキの肩を掴む。
「おい! ダンを待て!」
「放してください! それとも怖気づいたんですか? やはり噂通りなんですね。ウルトラ警備隊にこんな臆病者がいるなんて……そんな消極的な行動しかとれないなんて、貴方に防衛軍としてのプライドは無いんですか?」
「あぁ? ねえよそんなもん」
「だったら貴方と話すことなんかありません!」
「おい待て! ……ウ˝ッ!!」
何か腹にスゴイ衝撃を食らった気がして、俺の意識はそのまま闇に沈んでいった……
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その後、気絶して転がるソガと、ポインターで丘の向こうへミサイル攻撃を加えるアオキという光景を目にしたダンは、咄嗟に何が起こったのかを把握しかねた。
アオキを問い詰めると、『何者かの攻撃を受けた。ソガは恐怖に駆られて突然失神したのだろう。あの丘の向こうが怪しい。』などと不明瞭な返答が帰って来たので、さらに首を傾げる事となる。
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格納庫にて。
マグマライザーの操縦席で点検に余念のないナカニシ隊員。
彼は明日の野外訓練で、指揮車であるマグマライザーのパイロットに任命されていた。
なにやら不穏な噂が聞こえてくるが、参謀会議で下った採決は、野戦計画は実行するというもの。
上には上の考えがあろうのだろうし、防衛軍程巨大な組織の中で決まった事は、そう簡単に覆らないのだという事も理解していた。
ナカニシは、自分の晴れ舞台が無くならなかった安堵と、少々の不安をない交ぜにしながら、マグマの最終チェックを終えた。
そこにやってきたアオキ。
ナカニシにとって、アオキは士官学校時代からの先輩だ。
歳は彼の方が上だったが、アオキは飛び級を重ねた秀才で、卒業時も主席であった。
お互いの配属先が分かれた後も、模擬戦や技術交流でそれなりに顔を合わせていた。
新兵から、ウルトラ警備隊の候補生にまで上り詰めたアオキは、彼ら一般隊員にとってはヒーローであり、目標であった。
「調子はどうだい?」
「あっ、上々ですよ……それよりアオキさん、明日は頑張ってくださいよぉ」
「殊勲賞はきっと取って見せるからな。そう思え!」
「なぁに、あなたたちには負けませんよ、ハッハッハ……」
作業が終わり、操縦席を後にするナカニシ隊員。
彼の背中を見送ると、アオキはポケットから発信機を取り出す。
(この発信装置で、敵はマグマを襲ってくるかもしれない。それを叩き潰すんだ)
彼は、後輩の乗るマグマを、敵を釣りだす為の囮に使う事にしたのだ……
―――――――――――――――――
翌日、野外演習当日。
星ヶ原の荒野を、マグマライザーがひた走っていた。
ナカニシとオグラの二名の一般隊員が、コックピットで気を張っている。
訓練とは言え、周囲に不審な動きアリと細心の注意を払うように通達があったためだ。
そのマグマライザーの進行方向で、地面が不自然に盛り上がり……
土砂をかき分け、謎の地底戦車が姿を現した!!
不意打ちを受け、思わず絶叫するナカニシ達。
まるでトンネルボーリングマシンのような、円筒状の先端部分を持つ地底戦車は、マグマライザーのコクピットへ即座にフラッシュを浴びせかけ、乗員を失神させる。
完全に動きを止めたマグマライザー。
やがて、地底戦車から、異形の宇宙人が降りてくる。
まるでレースのドレスのようなひだを纏った彼らこそ、プラチク星人。
地球を第二の穀倉地帯とするべく、強襲揚陸用のスペースタンクで地球を包むブルーバリアに穴をあけ、密かに防衛軍の隙を伺っていたのだ!
優秀なスパイが命と引き換えに手に入れたという触れ込みの情報は、法外な値段であったが、防衛軍が大規模な演習を計画しているというのは間違いなかったようだ。
その演習の標的とするためか、見つけてくれと言わんばかりの反応を垂れ流しながら、敵の戦車が接近してきたので、こうして鹵獲してやろうという腹積もりなのである。
スペースタンクから敵の戦車に突入したプラチク星人は、近くで見る敵の戦車が、思いがけず高性能である事に驚きつつ、これを用いて油断した防衛軍に奇襲を仕掛ける様を想像して、下咽頭を震わせた。
持ち前の怪力で、マグマライザーの昇降扉を引きはがし、難無く車内へ侵入すると、コックピットと思われる方向へ後肢を進め、次の隔壁を開き……
開け放った扉の向こう側に、銃を構えた人影が笑みを浮かべて待ち受けていたので仰天した。
「よう、プラスチック野郎。残念だったな?」
「サ゜ン゜ネ゜ン゜タ゜ッ゜タ゜ナ゜」
「ギュピィイイイイイイイッ!?」