転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「食らえ!」
「セ゜イ゜ア゜ツ゜カ゜イ゜シ゜」
ソガの構えたパラライザー、そしてユートの両手首に装備されたターボ・パラライズブラスターが一斉に煌めいた!
目もくらむような閃光と共に、麻痺光線がプラチク星人の躰を打ち据える。
完全に不意を突かれた星人は、あまりの不快感に大顎をすり合わせ、甲高い叫び声を上げた。
「ギュピィイイイイィイイ!!」
しかし、あのワイアール怪人すら一撃で昏倒させた光線を何発も食らったというのに、少しひるむだけで一向に大人しくなる様子がない。
それどころか、こちらの攻撃が致命傷にならない事を悟ると、口からプラスチック液の霧を噴射してきた!
「うわっ!」
慌ててユートを盾に身を隠す。
念のためにバイザーを下ろしといて正解だった……こんな霧、一息でも吸い込もうものなら、プラスチックの膜が気管にへばりついて、たちまち窒息死だ。
しかし誤算だった。こんなにもパラライザーの効きが悪いとは……
プラチク星人はやたら可燃性が高く、ウルトラガンで撃ったら車内が大炎上不可避なので、こうするしかなかったのだ。まさか敵の弱点が裏目にでるとは……
プラチク液で俺達を牽制した敵は、くるりと背を向けて、一目散に逃げだそうとする。
車外に出て巨大化しようという腹積もりだな? そうはさせるか!
「やれっ! U-8!」
「ツ゜イ゜ケ゜キ゜ ツ゜イ゜ケ゜キ゜」
ユートの体の表面から、パリパリと硬化したプラスチック片が剥がれ落ち、金と銀で彩られた左腕が敵の背中を睨む。
奴らの吐くプラスチック液は、生身の人間が食らえばカチカチに固められてしまう即死級の攻撃だが、呼吸の必要もないユートにとっては、内側から馬力で突破すれば良いだけの話だった。なんなら、防錆コーティングを重ね掛けしてもらったようなものだ。
そして……
「チ゜ェ゜ー゜ン゜ア゜ー゜ム゜」
ユートが不可解な電子音を奏でると、前腕部に装備されていたブラスターが後ろへスライドし収納される。そして次の瞬間、ジャキリとシリンダーの回るような音がしたかと思うと、彼の左手首が轟音と共に爆ぜ、薬莢のようなものを排出した。爆圧によって彼の左手……つまり高密度のチルソナイト鉄球が敵の背中へと射出されたのだ!
スキンケアの礼として、ユートが差し出した奇抜な握手は、タラップに足を掛けようとしていたプラチク星人の肩を強かに打ち据え、大きく態勢を崩させることに成功する。
ユートの腕から伸びた鎖が、ジャラジャラと床を擦りながら巻き取られていき、再び彼の手首を回収すると、今度は両の腕を振り上げながら、倒れこんだ星人目掛け猛然と突撃を開始した。
「ハ゜イ゜シ゜ョ゜ ハ゜イ゜シ゜ョ゜」
そして今度は強烈な左フック! 星人のわき腹が鉄球で凹む。
現在のユートは、以前の重戦闘サイボーグとの戦を経て、損傷の激しかった右腕部を、接近戦用のより頑丈なものへと換装されていた。
そして、低下した遠距離能力を補う為に、前腕部にパラライザーを二門ずつ増設された上に、左手の破壊力を活かすための射出機構も組み込まれていたのだ。
強化された恐ろしい連撃が、次々と星人の胴へ振り下ろされていく。その容赦のなさは、いつかのノガワ隊員を彷彿とさせるものだった。
しかし、対する星人の方はというと、あの時のダンのように一方的に殴られるばかりではなかった!
鉤爪のついた指が、ユートの腕に食い込み、キィキィと耳障りな擦過音を響かせつつ、マシンパワーと拮抗する。
そして、信じられない事に、徐々に押し返そうとしているではないか!?
「な、なに!?」
そ、そうか! コイツ、発火性が高すぎて雑魚っぽく思ってただけで、純粋な肉弾戦じゃあ、あの力自慢なセブンと互角に殴り合って、疲労困憊になるまで追い込むパワーと持久力があるんだった!
俺が後ろから撃ちまくってるパラライザーも一向に効かないし、めちゃくちゃ強敵じゃねえか!!
やっぱり、いくつかユートの部品を地球製のパーツに替えたから、元々よりも出力が下がってるのも響いてるのか?
「おいおい冗談だろ、負けるなU-8!」
「ム゜チ゜ャ゜イ゜ウ゜ナ゜」
ソガが驚くのも無理はない。その恐るべきパワーの秘密はプラチク星人の特殊な身体構造にあった。
そもそも、プラチク星人は巨大な
その上、体表から滲みだした高分子が疑似筋肉のように周囲を覆っているのだ。
いかに即効性の高い麻痺光線と言えど、それが作用する神経が肉体の奥深くに防御されているならば、効きが悪いのも当然であった。
そして、この疑似筋肉を構成するプラチクポリマーは、発火性が高いという弱点はあるものの、非常に優れた可変性を持つ。ポリマーの性質を変える事で、表面は絶縁体でありながら、その内部は電位差によって流動性を持たせるといった芸当も出来たのである。つまり、全身が強化ゴムで覆われた導電性高分子アクチュエータの塊と言ってもよい。
そして、この素晴らしい物質を、プラチク星人は体内の共生菌の働きによって、無限に精製出来るのだ!
プラチク星人はこの共生菌のおかげで、硬い外骨格を持つ生物でありながら、そのナナフシのように細長い体にプラスチック製の筋肉を張り付ける事で、内骨格のように応用し、まさに両者のいいとこどりをしたようなもの。
この加工性の極めて高い物質のおかげで、プラチク星は埋蔵資源へほとんど依存することなく発展する事ができた。いまや地表の全てが、彼らの生み出すプラスチックの都市で覆われているといっても過言ではない。
それに反比例するように、主食である繊維質植物の栽培に使える土壌が減ってしまった為に、こうして侵略行為に手を染めるしかないというのも、皮肉な話ではあったが。
とにかく、こと接近戦においては、昆虫由来のタフネスと、工業製品の如きパワーを発揮するのが、プラチク星人という種族であった。
「ギュピィイイイイィイイ!!」
「カ゜ネ゜ン゜コ゜ミ゜カ゜ チ゜ョ゜ウ゜シ゜ニ゜ノ゜ル゜ナ゜ヨ゜」
「いかん、押されてる!」
さっきから、ユートが必死に殴りつけてるというのに、まったく堪えた様子の無いプラチク星人。
このままでは時間の問題だ……燃える以外の弱点は無いのか……!?
ユートの右手が敵を掴もうとするも、レースのようなヒダが揺れるだけだ。
……待てよ? そうか! あのヒダか!
あのヒダが梱包材のように衝撃を吸収してしまうから、ユートが思いっきり殴りつけてもダメージが少ないんだ!
プラチク星人の胴体は、モサモサした半透明のひらひらに覆われている。原作ではあのヒラヒラがエメリウム光線で一気に燃え上がって一瞬で骨になるんだが、なぜそんな燃えやすい物を付けているのか……?
きっと物理的な防御力がめちゃくちゃ高いからだ! そりゃセブンに真っ向からタイマン仕掛ける訳だよ! いくら殴られても死なない自信があったんだな!
ということは……弱点はヒラヒラが付いてない部分だ!
「ユート、ボディをいくら殴ってもダメだ! 頭だ! 頭を狙え!」
「リ゜ョ゜ウ゜カ゜イ゜」
ソガの言葉を聞くやいなや、ユートの左腕が再び重々しいリロード音を響かせて、星人の顔面を殴った瞬間、さらに至近距離から爆砕アッパーを解き放った!
下顎からかち上げられたプラチクは、流石に堪えたのかヨロヨロと後退する。
「ホ゜シ゜カ゜ミ゜エ゜ル゜セ゜」
そして、ユートは、そのまま振り上げた左腕を、ぐるんと一振り! 敵の顔面に反射して、後方に飛んで行った鉄球は、その勢いに引かれるまま、今度は大きく弧を描いて、星人の巨大な複眼の並ぶ脳天に直撃した!
「ギュピェッ!?」
プラチク星人は、節足動物であるがゆえに、脱皮によって成長する。その時、彼らは非常に珍しい事に、その脱皮殻を完全には脱ぎ捨てず、肉体に付着したままにしておく。こうしておくことで、外敵に襲われた際、古い皮が身代わりになり、偽装や防御になるのだ。
これは、彼らの祖先が脆弱なただの昆虫に過ぎなかった頃からの本能であり習慣だった。この優れた防御術によって、貧弱な幼虫の間を乗り切った後は、共生菌の作り出す高分子液で外敵を捕食する……というのが、彼らの生存戦略だったのだ。
その名残は、今なお彼らの服飾文化として根付いており、齢を重ねた個体になればなるほど、このミノが立派となり、権力の象徴となる。
もちろんの事、このミノが齎す防御効果も依然として健在であり、ソガが咄嗟に見抜いた特性は、当たらずとも遠からずと言ったところであった。
流石のプラチク星人も、視界を確保する為に、頭部の脱皮殻だけは早々に脱ぎ捨ててしまうからである。
「ギ……ギュギ……」
モーニングスターの一撃で、頑丈な頭の殻がかち割れ、黄色い体液を流す星人の顔を、巨大なペンチのような右手が掴む。
「ア゜ン゜リ゜ミ゜テ゜ッ゜ト゜モ゜ー゜ト゜イ゜コ゜ウ゜」
右手首のモーターが、回転の過加熱によって灼け付き、白熱していた。
突如として手首が展開したかと思うと、四枚のラジエーターが蒸気と共に展開する。
「コ゜レ゜ヨ゜リ゜キ゜ョ゜ウ゜セ゜イ゜ハ゜イ゜ネ゜ツ゜キ゜コ゜ウ゜ヲ゜サ゜ト゜ウ゜シ゜マ゜ス゜」
高まる熱気が右手に集中し、空気が蜃気楼のように歪んでいく。
ジャキリと響くは断罪の叫び!
廃熱をそのまま敵へとぶつける、これぞ溶断破砕強制排気転用武装プラズマクラスター!
「ユ゜ー゜ト゜イ゜ン゜ハ゜ク゜ト゜」
「ギュピィイイイイィイイ!!」
凄まじい熱と衝撃が、ユートの右手首から噴射され、プラチク星人の内部構造を尽く破壊した。
びくりと震えた後、だらりと垂れ下がる敵の前肢は、それがいわゆる擬死の類でない事をありありと示している。
「サ゜ー゜マ゜ル゜エ゜ン゜ト゜」
「お前……こんな事できたのか……」
「オ゜チ゜ャ゜ノ゜コ゜サ゜イ゜サ゜イ゜」
とりあえず、チリチリになるだけで発火しなくてよかったよ……
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「変だな、マグマは実弾を使ってくるじゃないか」
「非常事態が起こったんじゃないの?」
野戦訓練が始まった時、フルハシとアンヌは、目前の光景に首を傾げるしかなかった。
マグマライザーによって無線操縦された戦車から、次々に砲撃を仕掛けて来るのだが、明らかに爆発によって吹き上がる土砂の量が、模擬弾のそれではない。
「隊長、作戦計画を変更して、隊員をこのまま後退させて下さい」
「何だって?」
「隊長!戦車が実弾を使って攻撃してきます!」
「実弾?」
「はい、第一前線では、数人の軽傷者が出ているようです」
「マグマが何者かに奪われたんだ!」
「実戦体制に切り替えるんだ、前線に指令を伝えろ! 様子を見つつ、徐々に後退せよとな!」
幸いにして、無人戦車の狙いは甘く、誰もいないところへばかり弾が落ちるのは、まったく幸運としか言いようが無かった。それでも、避難による転倒や吹き飛んだ礫による怪我人が続々発生し、徐々に後退する防衛軍。
そこへ、後方部隊の担当だったアマギが、息せき切って走って来る。
「隊長!」
「なんだ!?」
「所属不明の戦車が現れて攻撃を開始してきました!」
突如として、砂丘をかき分け、謎のホバー戦車が現れ、陣地に攻撃を開始する。
そこは、マグマライザーからの攻撃に追い立てられ、隊員達が退避するはずだったエリアだ。
もしも、前方の無人戦車隊の攻撃がさらに苛烈であったならば、早急に陣地転換を行った結果、そこへ多くの隊員が伏せていたであろう。
キリヤマが、後退を遅らせるように指示していたのが幸いした。
「畜生……我々の野戦訓練を逆用した奴がいるんだ」
「あれが敵の正体だ」
「チッキショウ……挟み撃ちかぁ!」
「地球防衛軍を骨抜きにしようというつもりなんだ!」
しかし、奇襲による被害がほぼ無かったとはいえ、前方の虎、後門の狼。
マグマ率いる戦車隊か、謎の高性能戦車か、どちらかを突破せねば、じり貧になるのは明らかだった。
「隊長、マグマを奪回して高原から脱出しましょう! それ以外に方法はありません……」
それならば、少なくとも元は自分達の装備であるマグマライザー側の方がまだ御し易い。ダンの提案に、アオキが即座に反応する。
「私にやらせて下さい! 侵略者が誰であろうと、必ず倒してみせます!」
「キサマ、思い上がるな!」
「隊長!」
フルハシに窘められても気にせずキリヤマへ言い募るアオキ。
キリヤマ隊長は、血気盛んな新人の顔を真正面から見据え、まんじりともせず言い放った。
「……まあ、待て……」
「ま、待てですって……ッ!?」
この状況でなにを悠長な!?
まさかこの隊長まで臆病風に吹かれたのではあるまいか?
アオキは今にも叫び出しそうになった。
憧れのウルトラ警備隊の候補生にまで上り詰め、喜んだのもつかの間。
厳しい訓練を積み重ねた自分を差し置いて、いつの間にやら新隊員に収まっていたのは、どこの馬の骨とも知れぬ元民間人。
マナベ参謀に掛け合っても、素性は不明の一点張り。彼を捻じ込んだヤマオカ長官ならば何らかの事情を知っている可能性もあったが、流石にアオキと言えどそこまでの伝手は無かった。
そうして不満が燻っていたところへ、聞こえてきたのがあの噂だ。
曰く、ウルトラ警備隊にはとびきりの臆病者がいるらしい。
宇宙人に降伏を迫られた際には真っ先に白旗を上げ、少しでも甘い顔を見せた異星人にはすぐへりくだり、あげく任務の最中に声を上げて泣き喚く。
おまけに自慢の射撃の腕も、肝心な時に負傷して寝てばかりいるせいでろくに発揮できないと言うではないか。
先の話題に挙がった新人隊員も、クール星人の侵攻時以降は特に目立った活躍も無いくせに、なまじパトロールばかりしているせいで市民には顔が売れチヤホヤされているらしい。
とどのつまり、自分は人気取りのプロパガンダ要員に、先を越されたのだ。
そんな者達ばかりが名誉あるウルトラ警備隊へ選ばれて、それでは自分達はいったいなんだと言うのか?
彼らが栄光の中で不当な喝采を浴びている間、泥にまみれ、血のにじむ砂を噛んだ俺達はいったい何だ?
奴らがピカピカの最新鋭機で飛び回っている間、履帯の付いた鉄の棺桶の中でボロ雑巾のように死ぬ隊員達は、なんだというのか!?
アオキには、到底受け入れられない事だった。
そして極めつけは、よりによって自分のお目付け役があのダンだと!?
あの顔が少しハンサムなだけである、ポッと出の売名隊員を、よもやこの自分に宛がおう等と! まさしく噴飯モノであった。
見返してやる……!
その為には、ダン以上の鮮烈な戦果が必要な筈であった。
まさに今、防衛軍壊滅の危機を救うと言うのは、またとないチャンスなのだ!
マグマが奪われたという以上、ナカニシはもう死んでしまったのかも知れない。
アイツほどの男が何の抵抗もせずに殺されるとは思わず、救援が間に合わなかったのは痛恨の極みだ。
だが、知己を犠牲にした以上、もうアオキは止まれなかった。
もはやキリヤマの命令すらも無視して駆けだそうとした、その時!
「……アッ!? 見ろ! マグマが回頭していくぞ!」
「謎の戦車に向かっていくじゃないか! どういう事だ……?」
今までこちらへ散発的な攻撃を繰り返していた無人戦車の砲塔が、ぐるりと別の方向を向いたかと思うと、先程までのやる気の無さが嘘のように苛烈な砲撃を加え始めたのだ。
爆炎に追い立てられるホバー戦車。
あっけにとられる隊員達のビデオシーバーが一斉に鳴る。
「……おいおい、演技にしては変わり身が遅いじゃないかソガ。そんなに私に不満があったのか?」
「隊長、冗談よして下さいよ。むしろ、例えフリでも真剣にやらんか! ……と怒られるんじゃないかと、こっちはヒヤヒヤしながら手を抜いてたんですから」
「ど、どういう事だい、こりゃあ……?」
未だに理解が追いついていないフルハシを、しかめっ面のアマギが諭す。
「つまり、隊長とソガに一杯食わされたってことですよ。敵も……我々も!」
「ッはッはッは! 悪いなアマギ。……でも、食わせ者は俺だけじゃないぞ?」
「なんだって? どういう事だ?」
困惑するアマギを余所に、ソガは真面目な顔に戻ってキリヤマへ報告した。
「隊長、やっぱりアオキの仕掛けた発信機を頼りに、敵の宇宙人がマグマを鹵獲しようと乗り込んできました! 危うく蝋人形にされるところでしたよ!」
「なんだって!?」
全員の視線が一斉にアオキへ集中する。
「キサマ……どういう事だッ!?」
「ち、違います……じ、自分は……」
「フルハシ隊員、そいつのいう事に耳を傾けてはなりません! おそらくユシマ博士やノガワのように、なんらかの催眠にかけられて操られているんです! 今までの
「「ええッ!?」」
ソガの名推理に、アオキとフルハシの声が重なる。
「次は何をするか分かりません! 早く!」
「そういうことだったのかぁ……!」
「違います! 自分は宇宙人となんか……!」
「今、楽にしてやるからなぁッ!!!」
「うぐぅっ!?」
遠慮を知らぬフルハシが全力で放った強烈な善意のストレートが、アオキの腹に深々と突き刺さった。