転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
読み手に不親切な書き方となっている事を陳謝いたします。
ではどうぞ。
「頼む! この通りだ! 優勝させて下さいお願いします!」
「……なにをしている?」
今、オレが何してるのかって……?
見りゃ分かるだろ?
☆DO☆GE☆ZA☆
土下座だよドゲザ。
頭を地に擦り付けて絶賛、ゲザッてる真っ最中だよ!
「……巫山戯るな! 貴様……事もあろうに、このおれに対して、よくもそんな恥知らずな真似が出来たな!」
そんでオレの後頭部を怒鳴りつけているのは、同期のヒロタだ。
顔を上げると、非常に蔑んだ目でこちらを見てくる。
まるでゴミでも見るような眼差し。
「何とでも言うがいい。射撃大会で、俺がお前に勝てると思うか? いや、無理だね。賭けてもいい。だからこうして頭を下げてるんじゃないか!」
「貴様ァ……!」
「頼む! 俺はウルトラ警備隊でやらなければならない事が、まだまだ沢山あるんだ!」
「それがなんだと言う!」
「射撃大会優勝者に与えられるのが、トロフィーだけではない事くらい、お前も知っているだろう……?」
「……ッ!」
足に縋りついたオレから目を逸らすヒロタ。
「大丈夫だ! お前の事も併せて言っておくから……! というか、俺がウルトラ警備隊に行けば、自動的に枠が埋まってお前は晴れて参謀本部継続だ。どっちにとっても悪い話じゃない。WIN-WINじゃないか! ……痛ッ!」
そう言うと、ヒロタの顔にサッと赤みが差し、俺を引きはがすように足を蹴り上げる。
吊り上がった眼で、俺を睨む彼は、怒りで小刻みに震えていた。
「前々から、最近のお前は本当に気色が悪いと思っていたが……ついにそこまで堕ちたか! 八百長の相談などと……このままお前と同じ部屋にいたら本当に撃ち殺してしまいそうだ! 失せろ! 今すぐおれの前から消え失せろ!」
部屋から叩き出されたオレの眼前で、ドアが凄まじい勢いで閉められた。
中からガチャリと鍵の閉まる音が聞こえる。完全拒否の構え。
……ふぅ、こうなってしまったか。
まあいい。ある意味予定通りだ。
どっちに転んでも良かったが、出来れば双方ともに理解しあったうえで……と言うのが望ましかったんだがなぁ……
オレがソガに憑依してしまった為に、原作には無かった友好関係が築けたのがイチノミヤなら、原作以上に仲が険悪となってしまったのが、このヒロタだ。
ソガの同期である彼は、射撃大会で優勝を争う程のライバルであり……その激しい対抗心に付け込まれ、敵の宇宙人に利用されてしまう。
その彼をなんとかしようと思って、憑依後にそれとなく接触して原作以上に仲良くしようとしていたんだが……これがあんまり上手くいかなかった。
なんというか、射撃の腕で張り合いさえしなければいいと思っていたのが甘かったみたいで、その……性格面がそもそも反対というか、反りが合わないと言うか……
オレが下手に出れば下手に出る程、苦々しい顔をするんだな、これが。
かといってマウントとろうとしても反感買うだけだし、対抗心を刺激するだけで意味がないしで……
ホント気難しくって嫌になる。
これならイワムラ博士のご機嫌とりの方がよっぽど簡単だった。
なんなんだお前は……ホントなんなんだ!?
それで大した手応えのないまま、ついに射撃大会を迎えてしまったというワケ。
こうなったらもう、『どうしようもなく情けない奴』として奴の対抗心そのものを萎えさせるしかない!
ここまでやれば、悪魔に魂売ってでも勝ちたい! とは流石に思わないだろう。
そもそも謙遜でも作戦でもなんでもなく、オレが憑依してしまったせいで、ソガスペックは原作よりも落ちているから、ぶっちゃけ普通にやってもヒロタが優勝する。
下がり幅にごく僅かしか影響がない為に、普段の任務ではそこまで支障がないだけで、原作時点でも僅差で争ってたヒロタには絶対負ける!
じゃあなんでこんな事してるかと言うと、普通にやって勝った結果を、ペガ星人に『私のおかげだ』とか言われないためだ。
扱いやすい駒として、ヒロタに目を付けられる事をそもそも避けたいので、『こいつのライバルがこれではつけ入る隙がありませんわ』とペガ星人すら呆れさせる為にやっているのだ!
ハハハ! どうだ見たかペガ星人! 貴様の作戦なんぞお見通しじゃボケェ!
引きこもりは大人しく母星に引きこもってろ下さい。
さ、明日は射撃大会だし、さっさと寝よう!
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「リヒター博士を連れて来たぞ」
『そうか、でかした』
ペガ星人は催眠によって自らの手駒とした隊員に対し、鷹揚に頷いた。
最低限、リヒター博士を暗殺出来れば御の字と思ってはいたものの、生け捕りに出来ればそれはそれで使い道がある。
なにせ、こちらには催眠装置があるのだ。
気圧の関係で宇宙船から自由に出歩けないペガ星人にとって、有力な手駒が増えるのは喜ばしいことであった。
『さて……』
リヒター博士の頭には袋が被されてぐったりとしている。
ペガ星人は、悪魔の笑みを浮かべながら、地面へ投げ出された背広の男ににじり寄った。
――――――――――――――――――
地球防衛軍、部隊対抗射撃大会。
ウルトラ警備隊の代表は、ソガ。
次々と標的を打ち抜き、点数が出る。
「うわぁ、999点だぁ……」
「ヒロタ隊員と同点よ」
ヒロタと点数の並んだソガは、同点決勝を行うこととなった。
決勝の先攻はヒロタ。
クレー射撃の標的を拳銃で打ち抜くと、くるりと銃を回して、銃口に息を吹きかけるヒロタ。
まさに余裕の笑み。
後攻、ソガ。
じっと構えて標的が飛んでくるのを待ち受け……まさに発砲の瞬間。
何かに足を取られ態勢を崩すソガ!
標的は、むなしく空のかなたへ……
ヒロタの優勝が決まった。
―――――――――――――――――
「ここ一番でミスるなんて、お前らしくないじゃないか!」
「残念だわ……。優勝祝いの準備までしてたのに……」
「いやぁ、すまん。なぜミスったか、自分でもわからないんだ」
「まぁ勝負は水モンだ。来年を目指せばいいさ」
「そうですよ」
ソガを取り囲んで、口々に励ます警備隊の面々。
そこへ優勝トロフィーを持ったヒロタが近づいてきた。
「すまんな、ソガ。勝ちを譲ってもらって……」
「いやぁ、あれが俺の実力さ。優勝おめでとう」
「ありがとう。この優勝カップになりかわって礼を言うよ。おかげでウルトラ警備隊のような殺風景なところに行かずに済んだからな……ハッハッハ! ……じゃあ失敬」
「やな感じ……。いくら参謀本部のエリートだからって、人間的には最低よ!」
勝ち誇り去っていくヒロタの背中に向かって、あっかんべーをするアンヌ。
「あれでも根はいい奴なんだ……。ただ、俺たちの友情を邪魔しているのは……これさ……」
じっと、手の中の拳銃を見つめるソガ。
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手の中の拳銃を見つめる男。
自らの私室にて、物思いにふけるヒロタ。
(確かに、最後のミスは奴らしくない……いや、これこそが俺達の実力差なのだ。いったい何を悩んでいるんだ。これでおれはまだ、参謀本部に居られる……それでいいじゃないか)
すると、どこからともなく男の声がするではないか。
『優勝おめでとう、ヒロタ君』
「お前は夕べの……!」
『君の望み通り、勝たせてあげたよ……』
「じゃあ、俺が勝ったのはお前が……」
『そう……夕べ君は、優勝できるなら友達を裏切っても、魂を悪魔に売ってもいいと言った……』
「俺はそう言った。お前は、俺の何が欲しいのだ?」
『それは今夜……。では、また……』
おれは一体、誰に魂を売ってしまったのだろうか……?
ヒロタの部屋の電話が鳴った。
―――――――――――――――――
後日、参謀室にて。
射撃大会で上位に進出した隊員達が集められていた。ソガ、ヒロタ、ミナミ、スズキの4人である。
「諸君を呼んだのは他でもない。実は、世界的な宇宙ロケット研究家であるゼムラー教授が今日、ベルリン空港で、何者かに射殺されたのだ」
「犯人の手がかりは?」
「今のところ、全然なしだ。しかしこの事件は、単なる殺人事件としては考えられない。……というのも、地球防衛軍は目下、秘密裏に人工太陽の研究を続けているが、殺された博士や教授たちは、皆この計画に従事していたんだ」
「人工太陽計画……」
参謀室に、緊迫の空気が張り詰める。
「ところで、この計画の最高責任者であるリヒター博士が、来週中にも日本を訪れることになっている。犯人たちは、当然狙ってくるだろう。なにしろ、計画の青写真はすべて、リヒター博士の頭の中に、収められているんだからな」
「君たちの任務は、博士の安全を守ることにある。射撃大会で上位入賞した腕をフルに活用してもらいたい」
隊長の言葉に、意味ありげなアイコンタクトを交わす二人……
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羽田空港へ秘密裏に到着したリヒター博士。
博士を出迎え、護衛に入る隊員達。
一位のヒロタと三位のミナミは博士とともに1号車、二位のソガと四位のスズキは2号車に乗り込んだ。
空港を後に基地へ向かう2台。
しかし、その車列へ強引に割り込んでくるダンプカー!
敵は待ち伏せしていたのだ!
「行くぞ!」
車を降車し、ダンプカーに向かう二号車の二人。
マシンガンの連射音が荒野に響き渡り、スズキがうめき声を上げながらドウっと倒れる。
死角まで走りこんだソガは一撃で敵を倒す。
見ると、1号車のドアは開け放たれ、同様に襲ってきたダンプカーには敵が倒れている。
走り寄り、後部座席を覗き込むが……そこには、頭を打ち抜かれた博士の無残な姿。
「博士! 博士……しまった!」
任務は失敗だ。
「ヒロタは……?」
ヒロタとミナミ隊員の姿がない。
「ヒロタァァアア!!」
ヒロタを探すソガ。
その時、ダンプカーの影からソガを狙う拳銃が……
「あっ……!」
気付いた時には、時すでに遅く、凶弾はソガをも襲った。
腹を撃たれたソガは、意識が薄れる中で、敵へと撃ち返し、逃げてゆく男の後姿を見ていた……