転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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確殺の0.4秒(Ⅴ)

「ソガ隊員! 開けて! ソガ隊員!」

「ソガ! 何をしているんだ! 開けろ! ソガ! 開け……ソガァ!」

 

ドンドンと、必死に扉を叩きながら、中へと呼びかけるアンヌとヒロタ。

中で異様な笑い声を発したかと思うと、数分間も閉じこもったまま出てこないソガを心配しての事だ。

マスターキーを取りに行ったダンがそろそろ帰ってくるかと思った時分……中で閂の開く音がしたかと思うと、唐突に岩戸が開け放たれた。

 

「やぁ……心配かけたな、二人とも。泣くなよ、アンヌ」

「ソガ隊員……良かったわ、無事で……本当に……!!」

「ソガ、その態度は何だ! アンヌ隊員はな、中で貴様が馬鹿なマネでもしているんじゃないかと……!!」

「なるほどな……悪かったよ……本当に」

「ううん、いいの。いいのよソガ隊員……何かショックな事を思い出させてしまったのね?」

「……これから先は、おれが聞こう。極秘任務に関する事だからな……歩けるか? 正気に戻ったならば、お前を連れて行かなければならん」

「ああ……頼むよヒロタ」

 

ヒロタに連れられ、とぼとぼと歩いて行くソガ。

彼らが尋問室の方へ歩いて行くのを、アンヌは涙を拭って見送った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

後部座席に、気を失ったソガを乗せて、夜の荒野を走るヒロタ。

その上空から巨大な円盤が、車を迎えるかのように着陸してくるではないか。

円盤に向かって、ヘッドライトの点滅でサインを送るヒロタ。

円盤の下部がエレベーターのように開いて、車を取り込んでいく。

 

「う、ここは……」

 

手足を拘束されたソガの目の前には、憎たらしく嘴を撫でつけるペガ星人と……その隣にはヒロタの姿があった。

 

『久方ぶりだね、ソガ隊員』

「ペガ星人! ……ヒロタ! これはどういう事だ!?」

『どういう事だと言ってもね。君のように特殊催眠術で、我々の命令どおりに働く地球人は沢山いて、このヒロタ君もその一人だというだけだ』

「な、何!?」

『つまるところ、君達はお互いにお互いを出し抜こうとして、共倒れしたという事だ。実に滑稽だね』

 

ペガ星人と一緒になって笑うヒロタを見て、歯噛みするソガ。

 

「ペガ星人……なぜそうまでして、人工太陽計画を妨害しようとする!」

『人工太陽が計画通りに完成すると、我々の本隊が地球に侵入するコースを塞いでしまうので……邪魔なのだよ』

「……待て、そもそも地球の気圧に耐えられない種族が、なぜ地球を欲するのだ?」

『地球を欲する……? 自惚れるな。別に我々はこの星が欲しいのではない。太陽系方面軍の前線集積基地として、この地点が丁度都合の良いだけだ。我々にとっては、遠征軍の単なる中継地点に過ぎない』

「なにぃ!?」

 

驚愕に目を見開いたソガの前で、星図のホログラムが展開していく。

 

『移住するには不便な星だが、軍事基地の中で過ごす分にはテラフォーミングも必要ない……我々の銀河から地球を挟んで逆側、リブラシグマにあるブラキウム星団、そこに巣食うガルトリアンとの戦争こそが、我々の目的だ。それが達成された暁には、このような星、いくらでも返してやろう』

「く、くそ……」

『さて、すっかり催眠が解けてしまったようだが……君にはもうひと働きしてもらう』

「俺は絶対そんな催眠術にはかからん……かかってたまるか! ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝!!!!」

 

 

―――――――――――――――――

 

 

再び羽田空港。

本物のリヒター博士を出迎えるウルトラ警備隊とヒロタ。

今度は2号車にフルハシがリヒター博士とともに乗り込み、運転手はヒロタ。

1号車のポインターはハンドルを握るダンの隣にソガが座り、後部座席にはアマギが控えている。

 

「しかし、大丈夫なんですかソガ隊員……?」

「だいじょうぶだ…… おれは しょうきに もどった!」

「おい、ソガ……あんまり無理するな」

「うるさいな……少し黙っててくれ……」

 

背広を着たソガは、アマギを窘めるとそのまま前を向いて微動だにしない。

 

「今日のソガ隊員は、まるで別人みたいですよ」

「宇宙人に操られていたのが、よほど堪えたんだろう……もしくは……」

 

何かの紙切れに目を落とし、意味ありげに頷きあうダンとアマギ。

 

やがて山間部に差し掛かると、ヒロタは急にアクセルを踏んで先行するポインターを強引に追い抜き、どんどんと進んでいく。

 

「おいヒロタ、どうしたんだ!?」

「へっへっへっへっへ……」

 

訝しんだ後部座席のフルハシが尋ねると、ヒロタは怪しく笑い……返事をする代わりに彼の肩へ鉛弾をぶち込んだ。

 

「グァッ!! アアッ……!」

「オォ……! ミスターフルハシ!」

 

悶えるフルハシと、懸命に止血しようとするリヒター博士。

二人の様子を満足げに嘲笑いつつ、ヒロタは煙幕を噴射しながらトンネルへと消えていく。

 

スピードを上げて追いかけるポインターだが、トンネルを抜けると2号車の姿はなかった……

 

「車が消えましたよ!」

「トンネルの中にはいなかった……」

「奴ら、シークレットロードを作っていたんですね……戻りましょう!」

「よせ!」

 

その時、ダンの腕をソガが横合いから掴む!

 

「手を離すんだ!」

「なんですって……!」

「ソガ!?」

「人工太陽は、ペガ星人の円盤が地球に侵入するコースを塞いでしまう。ペガ星人のために人工太陽計画をつぶしてしまうのだ……」

「それじゃ、お前は……」

「そうだ……俺はペガ星人のために……うがぁあああ!!」

 

暴れるソガ。

 

「やめてください、ソガ隊員!」

 

アマギのあて身とダンのパンチがソガの首筋と腹部をそれぞれ直撃した……。

あっけなく気絶するソガ。

 

「やっぱり、このメモの通りでしたね……」

「……うん、急ごう」

 

超音波探知機でシークレットロードを探し当て、ヒロタを追うポインター。

 

「うるさい奴らだ……」

 

追い縋るポインターを妨害するため、手榴弾を窓から投げ落とすヒロタ。

山道は大爆発と共に崩れ、大量の土砂へ突っ込んでしまうポインター。

 

そして衝突の衝撃で、ダンとアマギは気絶してしまうが……

逆に我にかえった者がいる。

ソガだ。

 

「俺は何をしようとしていたんだ……? そうだ、今までペガ星人の催眠術に……」

 

ダンを押しのけ、運転席に座るソガ。

 

「よし……行く先は、わかっているんだ!」

 

ポインターのホバーを起動して、ヒロタの後を追う。

先回りに成功したソガは。やって来た2号車のタイヤをウルトラガンで狙撃し、車を止める事に成功する。

 

後部座席からリヒター博士を引き摺り出し、逃げるヒロタ。

 

「ヒロタ!」

「動くなソガ!博士の命はないぞ!」

 

博士の頭に拳銃を突きつけ人質とするヒロタ。

 

「ヒロタ、お前はペガ星人の催眠術にかかっているんだ。目を覚ませ、覚ますんだ!」

「ふん、だまされるもんか!」

「だまされているのはお前の方だ! さあ! その拳銃を捨てろ!」

「断る! ……どうしても博士を助けるつもりなら、俺と勝負しろ!」

「勝負!?」

 

ソガの言葉には耳を貸さず、一方的に条件を突きつけていくヒロタ。

もはや彼は止まらない。

 

「……今から5つ数える。数え終わったら撃つ! いいな!」

「いいだろう! 勝負はいつものやり方か!?」

 

「そうだ! ……ひとつ……ふたつ……」

 

もはや説得を諦め、ホルスターに手を添えるソガ。

 

「みっつ……よっつ……」

 

風が虚しく二人の間に吹きすさぶ。

 

「「いつつ!!」」

 

2つの銃声が、荒野に木霊する。

 

 

やがて……胸を押さえ、どさりと荒野に倒れ伏したのは……ソガであった。


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