転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
成層圏に浮かぶマックス号の中で俺、フルハシ、タケナカ参謀の三人は助けが来るのを待っていた。フルハシ隊員は光線の影響で苦しそうにしているが、俺と参謀は精神的な疲れで参っているというのが大きい。来るか分からない助けを、敵陣で待ち続けるというのは、思っていた以上に神経をすり減らすみたいだ。
オレはセブンが助けに来る事を知っているが、もしオレの起こしたバタフライエフェクトで失敗したらと思うと……
そんな時、参謀が艦内の異変に気付き、俺の肩を叩く。確かに船内が俄かに騒がしい。この水泡が弾けるような独特の音は、奴らゴドラ星人が、翻訳機を使わず仲間同士で会話する際のいわば地声だ。
まるで何かを叫びあっているような……? そして、すぐ近くで一際大きな戦闘音が聞こえたと思ったら、待ち構えていた俺達の前に等身大のセブンが転がりこんでくる。
「おッ! ウルトラセブンだ!」
《マックス号はゴドラ星人に占領された! 早く脱出しよう!》
うわ!!こいつ!?直接脳内に……ッ!!
そうか、なんで声がダンの声そのままなのに隊長達は気付かないんだと思っていたが、テレパシーでの念話だったのか!?
脳内に響く声はボコーダーでも掛かったかのように変声し、普段のダンの声とはまるで印象が違う。
電話越しの声が全然違ったり、普段自分が聞いている声と録音で聞いた声がまるで違ってショックだったり……いや、というより【声】として聞こえてる訳ですらないのか、コレ。伝えたいイメージがそのまま流れ込んでくるというか……
いやいや、そんな場合じゃない!
「まってくれセブン! まだマックス号の乗組員が捕まっている!」
《なんだって!?》
「右舷だ! きっと右舷に奴らの母艦が張り付いているはずだ、それをなんとか切り離してくれないか? この船は俺達でなんとか取り戻す! 信じてくれセブン!」
《……分かった、任せる。右だな?》
「ああ、左舷は任せろ!」
「よし、酸素ボンベを……あっ!」
「デュエ!」
船室に入ってきたゴドラ星人の喉元に、ハンディショットが深々と突き刺さる。
そのまま目にも止まらぬ速さでセブンが飛び出していく、まるで真っ赤な流星だ。
と、ここで重大な事に気付く。
「しまった……武器が無い!」
先程、観測ロケットを飛ばした際に、オイタをし過ぎた俺達はカンカンに怒ったゴドラ母ちゃんに
流石の奴らといえど、武器も取り上げずに軟禁するのはマズイと懲りたんだろう。
「いや、ここは気密室になっている、という事は……あった! 消火斧だ! ……一本だけだが」
そうか、船なら浸水や火災時に備えて扉を破壊するための消火斧が各所に備えられてる!
ゴドラ星人め、さては原始的すぎて、斧が武器だと認識できてないな。もしくは、脅威にはならないと思っているのか。
「フルハシ隊員!」
「……いや、これはお前が持て。銃を手に入れるまでは、斧でもいいから武器をもってないお前さんなんか、頼りにならん」
「ええっ!? フルハシ隊員はどうするんです……?」
「俺はこの、鍛え上げた鋼の肉体こそが、一番の得物だよ。全身凶器人間さ! むんッ!」
そう言って力こぶを見せるフルハシ隊員。
……まあ、確かに本編の活躍を見ても説得力はある。
等身大での艦内戦闘なら、斧を装備した俺より主力というのは、言い過ぎでもなんでもないような気がしてきた。
「では参謀、まずは乗組員を解放します。そのあと、数の暴力で武器を奪い返しましょう」
「案内を頼みます、我々の後ろから付いてきてくださいね……参謀、それは?」
「……これかね? なに護身用さ、ないよりはマシだろう? ……安心したまえ、先頭はキミたちに任せるよ」
そう言って、いつの間にか艦長秘蔵のワインを一本拝借している参謀がニヤリと笑う。
……やだこの人、絶対殺る気満々じゃん……!
火炎瓶にでもするおつもりですか……?
本当に戦わないでくださいね! 貴方にもしもの事があったら、俺達が隊長に殺されてしまう!
「いくぞ!」
廊下に出ると、そこら中にゴドラ星人の死体が倒れていた。
顔の発光器官が焼き切れていたり、首元や関節部分の甲殻が見事にひしゃげているものばかりだ。セブンがその剛力で力任せにぶっ叩いたせいだろう。
やっぱり人間大の個体じゃあ、セブンの足止めすら出来んか。
ゴドラの死体でセブンの通ったルートが丸わかりだ。面白いな。
「船室はこっちだ! あの角を右に……おい、来るぞ!」
「でりやあああああああ!!!!」
曲がり角で待ち伏せしていた個体に、姿も見えないうちから走りこんでいたフルハシが身をかがめ、勢いそのままに渾身のタックルをお見舞いする。
自分達に対して突進などという野蛮極まりない方法を採るとは思っていなかったのか、意表を突かれたゴドラ星人は壁に叩きつけられ、倒れこむ。
「やれ、ソガ!」
「うおおおおお貰ったぁあああ!!」
大きく振りかぶった消防斧を、遠心力その他諸々を乗せ、その頭頂部で仲良く並んだ眼球の直球ド真ん中に振り下ろす!
脳天唐竹割りじゃああああ!!!!!!
会心の一撃!!
決まったぁあ!!
カッキーーーーン!
「……ハァ!!??」
小気味良い金属音をたてて必殺の斧が弾かれる。
左右に真っ二つに分かれてグロ注意になるはずだったゴドラ星人は、しばらくフラフラと目を回していたが、頭を二、三度振って立ち上がると、呆気にとられる俺に飛び掛かってきた!
地面に引き倒され、マウントを取られる俺。
「大丈夫かソガ! ……あッコイツ! くそ、放しやがれッ!」
加勢しようとしたフルハシの背後の扉が開き、もう一体のゴドラ星人が現れ、そうはさせじと羽交い絞めにする。
うおおっ!? マズイ!
俺に覆いかぶさるゴドラ星人は俺の首元を掻ッ切ろうと、シャキシャキとその鋭利なハサミを開閉させながらじりじりと迫ってくる。
必死にハサミを遠ざけようと、抑える両腕に全力を込めるが、まるでびくともしない。
……というかコイツ、力強すぎだろ!!! 全然押し返せないんですけどおおおお!!
「ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!!!」
「動くな! ソガッ!」
裂帛の気合を込めた掛け声とともに、ガラスの割れ砕ける音が甲高く響き渡り、バイザーを降ろした顔面へ細かな破片と液体が降ってくるのを感じる。
横合いから思い切り殴りつけられたゴドラ星人は僅かに怯み、ハサミからかかる圧力がほんの少しだけ軽くなる。
「ウオオオオオオォォォ!!!!!」
ゴドラ星人の肩口から覗く、鬼の形相をしたタケナカ参謀は、割れ砕け、先端が鋭利なナイフのようになったワイン瓶を逆手に持ち、ゴドラの真っ白な喉元目掛け、その切っ先を抉りこむように何度も何度も突き刺していく!!
参謀が腕を振り下ろす度に、ガラス同士が擦れる際の酷く耳障りな擦過音と共に、ワイン瓶もたちまち割れて小さくなっていくが、それをまるで意に介さず、一心不乱に連続攻撃を繰り出す!!
やがて、勢いよくガスが抜けるようなブシュウ! という音を断末魔代わりに、ゴドラ星人の体から力が抜ける。
うう、戦わないでとか生意気言ってすみませんでした参謀……
やはり、別人とはいえ、ウルトラマンもいない世界線で何度も日本を救ってきただけはある。
ゴドラ星人より参謀の迫力の方が怖かったのは内緒だ。
「さ、参謀……た、助かりました……」
「……ハァハァ、いや、いいんだ。昔取った杵柄という奴さ。……それよりフルハシだ!」
「このやろう! 俺様を舐めるなよぉおおお!!!! エヤァ!!」
参謀に助け起こされた俺が、加勢しようと目を向けると
丁度、フルハシ隊員は、ゴドラ星人を一本背負いで床に叩きつけているところだった。俺がまったく敵わなかった相手をたった一人で、である。
「……おい、あの白い管の部分を狙え、今度は仕損じるんじゃないぞ!」
「ハッ!」
お互いのハサミと拳をボクサーのように構えて、フルハシと隙を伺いあっているゴドラの首元目掛け、背後から白い管状組織を断ち切るように防火斧を振り下ろす!
すると今度も、ガスか何か気体のようなものを勢いよく噴出して、プツリと糸が切れたようにその場へ倒れこむゴドラ星人。
さっきまでの強さは何処へやら、だ。
「やつら、硬い甲羅で身を包んでいるくせに、手足の動きがえらく素早いと思ったが、まさか圧縮空気で動いていたとは……」
「まるで工場のコンプレッサみてえだ!」
「……しかし、よく気付かれましたね」
「ああ、セブンの倒した個体が首からシューシュー音を立てていたんでまさかと思ったが……見ろ、白い部分はガラス繊維だ」
「……っていうと、光ファイバーのような?」
「うむ、生体の一部としては非常に頑丈だが……ここなら我々の武器でもなんとかなりそうだ。次に進むぞ!」
「ハイ!」
弱点さえわかればこちらのものだ。船室を一つずつ開放し、通路にある斧や艦内戦闘用の小銃を手に入れては配っていく。
「おお、無事に生きていたか! ……この臆病者め! 随分と待たせてくれたなぁ!」
「艦長! よくぞご無事で……」
「こちらの戦力が整い次第、まずは動力室と艦橋を制圧する。追い詰めた結果、自爆でもされたら敵わんからな」
「……ハッ、参謀! 我々海兵の力を今こそお見せしましょう!」
それからはもう凄かった。
やはり戦いでものを言うのは、なんといっても数だなと思ったね。
ゴドラ星人の装甲は強固で、艦内用の小口径銃では容易くはじき返されてしまうが、
一匹に対し数人がかりで打ち込めば、どれか一発は目玉や発光器、白い管を傷つけ、動きを鈍らせることが出来るし、実際に彼らの練度がそれを可能にした。
そうして弱ったところに消防斧を持った船員がとどめを刺す。
対してゴドラ星人の武器は当たれば猛烈な痛みと痙攣で戦闘不能になるが、
いや、実際に食らった俺とフルハシから、効果を聞いた艦長たちが本当に言ったんだって!
つまり、簡単に言うと死ななきゃ安い。
先頭の船員がやられても、その背後から後続隊員が飛び出し、斧だの拳銃だの消火器だの、艦内のありとあらゆる凶器で攻撃を仕掛けてくる。凶器じゃなくていっそ、狂気だ。
それぐらい、自分たちの艦を奪われた海兵達の怒り具合は凄まじかった。彼らの誇りを傷つけられたのがよっぽど、腹に据えかねたらしい。
撃たれても死なないと分かった途端我先にと突撃して袋叩きにしていく船員たちを見て、彼らのバーサーカー具合に俺が引いていると、フルハシが何を当然の事を……といった表情で首を傾げる。
いや、一番のバーサーカーはこの人だった。
とっくに我々のウルトラガンは取り返したのに、自分の分を参謀に渡して、自分は斧を両手持ちして暴れ回っている。
この船に乗ってる奴で頭バーサーカーじゃないのは今や俺だけだ。
もう今日からこの船の名前は狂気度マックス号だ。
そうしよう。
俺の口から乾いた笑いが漏れると同時、右舷から何かが引きはがされるような金属音が聞こえてくる。
どうやらセブンがやってくれたらしい。
……この艦内の惨状を見て、地球人を嫌いにならないでくれるだろうか……なんてかんがえていると、艦が大きく揺れる。
……ああ、巨大化したセブンがマックス号を持って地球に帰還してくれているのだな……と理解したところで、オレは愕然とした。
……そういやオレ、船を奪還した後、海に戻す方法を何にも考えてなかったわ。
いや、ホーク2号で牽引するとか、なんとか……とりあえず防衛軍の科学力でなんとかなるやろ、としか考えていなかった。
セブンの仕事を減らす為にやったことで、結果的にセブンの仕事を増やすことになろうとは……
ゴドラ星人の事を、まったくとやかく言えないな。
一番詰めが甘かったのはオレでした。
……地球人にはハサミなんて無いんだけどなあ……
というわけで無事、マックス号生還!
マックス号応答せよは、今から見返すと突っ込みどころ満載なんですが、エンターテイメント性はバッチリだと思います。
よくぞ30分にあれだけの展開を詰め込んだな、と。
お陰で当初の予定を大きく上回って5話分になってしまった。
今後、マックス号はダンやソガのパトロール任務を大きく削減してくれることでしょう!
それは、直接怪獣と戦うことよりも、ダンのエネルギーを節約する助けになるはずです。
なにせ、ウルトラ警備隊は6人しかいないのだから。
シフトがキツイ!!