転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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他人の星(Ⅴ)

「……は? え? いやそれは……ああ~? えっと……」

「ソガ、やはりキミは工作員には向かないナ。せめてシャドー星人として生まれてくるべきダッタ。そうすれば、そんなに苦労して動揺を隠す必要も無かったロウ」

「うるさいね」

 

唐突にそんな事言われたら、誰だって困惑するわ。

一応、オレがこの時代の人間ではないという事は当たっている。

だが、聞いてきたという事は確証がない状態だろう。

まだ挽回が……

 

「当たらずとも遠からずといったトコロか……これで、ワタシが本当の意味で信頼できる地球人は、アンヌだけになってしまった……」

「それは……それは違うんだ! あの時にまっさらな状態で無かったとしても、お前を助けたいと思った事は本当なんだ! 俺が初めてお前を知った時の感情そのままなんだよ!」

「……ヤレヤレ、自分の秘密がバレた事よりも、こちらの方が焦るのか。事ここに至って、他人を気遣う余裕があるとはナ……やはりワタシは、キミやダンのそういうトコロが、あまり好きになれそうも無い。キミ達の強さが、心底羨ましいと思えてシマウ……キミ達が善意で施そうとしてくれているのは分かってイテモ……我々のような者ニハ……時にそれが眩し過ぎるんダ。善意の光で照らされる事が苦痛とナル場合もアル……この数ヵ月、如何に自分の心が浅ましいか思い知ったヨ」

「……ダーク、お前は浅ましくなんかないよ……誰しも、自分が弱っている時に他者を気遣う事なんかできない……俺だって、そうさ……誰もがそうなんだ。自分が満ち足りていてこそ、初めて誰かに優しく出来る……だから、誰かに与える事ができる奴は、強いと思うんだ……」

 

オレが呟いた言葉に、ダークが息を呑んだような気がした。

とはいえ、オレは顔を背けていたし、彼の表情は分かりにくいので、真偽の程は分からないが。

 

「……悪かっタ。こう言えバ、キミが傷つくだろうと思ったんダ。ワタシの気持ちを少しくらい思い知らせてヤレ……とね。あの事があってからコッチ、随分と皮肉が多くなってしまってナ……その、ナンダ。キミのそういう顔が見られたノデ、多少なりとも収穫はアッタヨ」

「ダーク、お前……あの時は気付かなかったけど、随分イイ性格してんだな」

「……ン? 今の文脈で、なぜワタシが賞賛されるのか理解デキナイ」

「ああ、これは悪かった。今のはな、地球の言葉で『このひねくれ者め』と言ったんだ。翻訳機に登録しとけ」

「そういった言い回しを使う方ガ、随分とひねくれているのではナイカ……?」

 

そう、俺たちはこれくらいで丁度いい。

憎まれ口の応酬を楽しむ余裕が無くっちゃな。

 

「……60点、かな」

「ナニ?」

「及第点だけど、満点をやるにはちょっと足りない……って感じ。というか、よく自力で辿り着いたな。なぜそう思ったのか聞いても?」

「キミが不用心すぎただけダ。そもそも、なぜマヤの名を知ってイル? 最初の言葉もそうサ、キミの前にこの姿を晒したのは今日が初めての筈なのに、なぜ一目でワタシだと気付イタ? それに……先程からワタシは意図的にダンを地球人の勘定から除外しているガ、気付いているカ? 本来であれば、そこに疑問を差し挟むべきナノダ」

「え? あ……そ、れは……」

 

思った以上に……脇が甘かったようですねコレは。

だって、知ってることを知らないフリするのって……結構、難しいんだよ?

 

「それにキミはあの時、まるで幼い頃からウルトラセブンを知ってイルような口ぶりだったガ……この星に根を降ろして情報を収集してみて驚いたヨ。セブンが地球に姿を現したのは、つい最近じゃないか! これでは辻褄が合わナイ。ワタシが最初にキミへ疑問を抱いたのはその時ダ」

「俺、そんな事言ったっけ……?」

「言ったサ。記憶力には自信ガ有るんダ。そして気付いてシマエバ、キミの言動が随分とちぐはぐな事にモ思い至る事が出来タ。発信機付きの救急箱ナンテ……どうして用意する必要がアル? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から使う機会があったノカ?」

「……手ぐすね引いて待っていたのさ、お前と会える日をな」

「それで、キミはペガッサと地球の間に発生した、悲しい歴史を知る男だと思った訳ダ。……マゼラン星の所業も、全て知っていたからこそ……マヤを殺シタ。キミの知る歴史上で、あの娘は結局……死んだノカ」

「……そうさ、ダンが説得したが……自決したよ」

「成程ナ……」

 

流石の知能と言うべきか……オレの考えは殆ど見透かされていたという事だ。

正直、ダークと話す時まで意識してそこらへんを誤魔化そうとした覚えは無かったかもしれない。

地球の事をよく知らない宇宙人なら、細かい部分まで気付かないだろうと、無意識に手を抜いていたんだろうな。

完全に油断していたが故のミスである。

 

「……安心シロ。この答えに辿り着いたノハ……今の所ワタシだけダ。キミと直接に話した事が無ければ、この違和感には気付けナイ。そして、誰かに言うつもりもナイ」

「……そうか、ありがとう……ダーク」

 

気にするなという風に手をヒラヒラと振るダーク。

彼は俺を安心させる為に言ってくれたんだろうが……不思議と彼がそんな事はしないんじゃないかとは思っていた。それなら、わざわざこうして俺の目の前でペラペラ喋る必要なんて無いわけで……彼なりに警告してくれているんだろう。

 

隠す気があるなら、もう少し気を引き締めた方がいいぞ、と。

……これじゃダンの事言えないな。

 

「じゃあ、バレついでに聞きたい事があるんだが……」

「ナンダ?」

「知っていたらで構わない。生き残ったペガッサ星人の中に、『サユリ』っていう地球人名使ってる人いない……?」

「ナニッ!?」

 

オレの質問に対して、ダークの細い眼が、大きく開かれる。

彼は口にしなかったが、声色は明らかに『なぜそれを知ってイル!?』とでも言いたげだった。

良かった。知り合いらしい。

 

「そうか、無事なんだな……それなら、そのサユリ先生のお子さんは…………無事か?」

「……無事だ。彼女の子供だけでは無く、多くの子供が命だけは助かっタ。若い者から先に脱出を優先したからナ」

「そうか、そうか……! 生きているんだな!? サユリ先生は、自分の子を失わずに済んだんだな!?」

 

良かった……本当に良かった。

平成版に出て来た、穏健派ペガッサ星人のリーダーは、サユリと名乗り、地球で孤児院の園長をやっていた。

それは、ペガッサ市から脱出する際に、自分の子供を無くしてしまった悲しみからだったが……地球人だろうとペガッサ星人だろうと、分け隔てなく愛情を注げる素晴らしい人だった。

 

少なくとも今回は……そんな悲しい思いをして欲しく無かった。

 

「彼女もキミの知る歴史に、名が挙がるのダナ? という事は…………待てソガ、泣いているノカ……?」

 

少し考え込んだダークが、顔を上げてこちらを向くと、ひどく驚いた声で聞いてくる。

彼に言われるまで気付かなかったが……どうやらオレは泣いていたらしい。

 

「……ありがとう、お前が教えてくれたお陰で……この世界にきた甲斐ってやつが、もう一つ実感できたよ」

「知ってイルかは分からないガ……彼女ハ……市長の奥方ダヨ」

「なに……! そうなのか!? じゃあ……旦那さんは失ってしまったんだな……」

「彼女程の人格者がいたからコソ、沢山の市民ガ、自らの子供を安心して託シタ。今デハ、親を失った全ての子供たちの母トシテ、彼らに教育を施す傍ら……難民達の指導者トシテモ、忙しくしてイル」

「そうか……サユリ先生は、やっぱりサユリ先生なんだな」

「お前が押し付けた救急箱モ、彼女の元で役立ってイル筈ダ。もちろん、発信機は捨てたガネ」

「そりゃあいい」

「……教えてくれソガ。彼女ハ、キミの知ル未来において……なにか不本意ナ死に方をしてしまうノカ?」

 

彼女は平成版において……過激派の作った兵器を止める為に……その身を犠牲にしてしまった。

 

「過激派のペガッサ星人が、ゴドラ星人と組んで地球を自分たちの物にしようとしてな……兵器型ダークゾーンを止める為に……立派な人だよ。彼女のような人が本当にいるなら、絶対に幸せになって欲しかった……」

「ナニ、ゴドラと……? ……ああ、そうカ」

 

ダークが再び、ざりざりと腹を抱え出した。

何か彼の中でよほど愉快な事が分かったらしい。

 

「どうした、ダーク?」

「……いやなに、喜べソガ。キミは……偉大な男ダ。見直したヨ」

「話が見えないが……?」

「そうか、成程ナ。なぜキミがこの時代にやって来たノカ……何ヲしたいのか……少しわかったような気ガするヨ。こういう事なんだナ」

「一人で勝手に納得されると……困る。キレていいか……?」

「待テ待テ。ただ……安心したマエ。キミの知る時間軸において、過激派を率いたリーダーもマタ……今では地球に復讐しようとハ思っていない筈ダ。ワタシが保証シヨウ。恐らくその男のコトは……よくよく知ってイル」

「何!? 本当か!? ……そうか、良かった……彼女達は……もうあんな悲しい思いをしなくていいんだな!?」

「ソウダ、ペガッサ人の反乱ハ……おそらく起きない、と思ウ……いや、誓ウ。もちろん、人類が裏切ったラ、保証はしないガ……」

「良かった……良かった………!」

 

オレはあの時、結局失敗したんだと思っていたが……少しだけ、事態を好転させる事が出来ていたらしい。

でもそれなら……マヤの事だって……もっと上手くやれたのだろうか……

 

「ソガ……キミが、我々の同胞の為ニ、そうして涙を流してくれた事……彼らに代わって、感謝ト敬意を、述べさせて貰ウ。そして、その礼とシテ……いい事を教えてヤロウ」

「いい事……?」

「マヤは……生きているヨ」


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