転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
地球軌道上では、警備隊の駆るホーク1号と2号が、猛猪を追い立てる猟犬のように、ミサイルの周りをぐるぐる飛び回っては、弾頭とエンジン基部の一点へ向けて、何度も何度もレーザー精密照射による反復攻撃を繰り返していた。
だが、一向に弾道弾が止まる気配は無く、その場にいる全員の心が、逃れられぬ絶望によって手折られそうになる。
その時!
彼らの背後、護るべきたった一つの青い星から、真っ赤な流星が一直線に、ダークマターの深海に光の尾を曳いて飛来した!
「セブンだ!」
巨大ミサイルの表面に取り憑いたセブンは、透視力を使い、不気味な飛翔音を奏でる鈍色の悪意を、隅々まで検めた。
すると、弾頭の右側に、ごくごく僅かなひび割れが一筋だけ発生しているのを、見て取ったのである。
ステーションV2の全質量と、警備隊が最後の瞬間まで諦めまいと、必死に加え続けた猛攻撃を足し合わせたにも関わらず、たった一筋、それも巨大な図体に比してほんの僅かな大きさしか、損傷を与えられなかったのだ。
そんな破孔は、何光年と離れた長大な宇宙空間を航行し、無数のデブリや小惑星帯を突き抜けた上で、惑星の地殻を穿ち抜く事を想定して、特別頑丈に造られた兵器にとって、掠り傷以下の何物でもなく、なんら本来の威力を損なうものでは無い。
だが……星空よりも深い慈愛と、苛烈なまでの情熱を太陽の如く内包した、真紅に燃える平和の使者が、その超人的な腕力で外殻を叩き割り、内壁を突き破って中の空間へ侵入するには、充分すぎるぐらいに致命的な傷だったのである!
ミサイルのコントロール部分では、あらゆる機器がひしめいており、それらが寸分の狂いもなく噛み合って、ただ合理的に、地球を破壊し尽くす為の歌を刻んでいた。
セブンには、それらの機器が一体どのような目的で、何の為に動いているかまでは分からない。
彼が知る中ではアマギや、いつかのペダン星人ぐらいに天才的な専門家であれば……もしかしたら、これらの役割や名称を瞬時に言い当てる事ができるのかも知れない。
しかし残念ながら、彼の工学知識の限度を超えてしまっており、ミサイルを解体する等といった芸当は不可能である。
当然ながら、惑星を破壊しうる程に頑丈な質量兵器を粉砕するにも、同等のエネルギーが必要な為に、彼一人の小さな腕では、それを成す事はできない。
いくら怪力無双のセブンでも、流石に惑星を破壊する力は無いからだ。
……とは言え、今から宇宙爆撃艇を爆装したり、R3号を組み上げて飛ばす時間も無いし、なによりも、そんな兵器に頼らなくては地球が守れないと、地球人に思って貰っては困るのだ。
彼らはようやく、単なる暴力だけの自衛とは、また別の道を模索しようと……果てしなく、しかして偉大な一歩を踏み出そうとし始めたのだから。
ではどうするのか……?
彼が周囲を見渡しながら、慎重に奥へ進んでいくと……
『やはり……あった!』
測距儀だ!
いくら太陽系とマゼラン星団が隣同士とは言え、2点間を最短距離で一直線に結べば、その間でいくつもの惑星や暗礁地帯を貫通する事になる。
さらに、いくら損傷が無くとも、V2のような質量物体と衝突すれば、軌道に誤差が発生する事は避けられない。
広大な宇宙空間に置いては、たった1°の誤差も、最終的には数光年のズレを引き起こす原因となるのは、恒星間航行を行う者にとって常識だ。
であるならば……ミサイルが回避運動をした後に、その軌道のズレを都度都度、修正していく必要があり……それにはミサイルの現在位置を含めた2点間の正確な座標と、それらをリアルタイムに反映する高度な計算機が必要な筈だと踏んだセブン。
しかしてミサイルの最奥部には、彼の想定通りに巨大な電算機が鎮座していたのである。
セブンは記憶の中から、マゼラン星域内で普遍的に用いられている言語形態を幾つかピックアップすると、目の前に羅列された記号の群れと照らし合わせながら、座標と経路に関する数式を紐解いていく。
星々の公転周期や、それによる惑星間衝突の発生確率等も算出せねばならない恒点観測員にとって、空間飛翔物の軌道計算は必須技能だ。
セブンの優れた頭脳が、スーパーコンピュータに匹敵する速度を発揮して、難解で複雑な計算式の意味や、そこへ代入するべき値を次々に解き明かしていくではないか。
そしてついに、ミサイルを制御するのに必要な解を導きだした!
あとはこのうちの一点が、マイナス方面へ振り切れるように逆算するだけだ。
測距義のダイヤルを赤い指がカリカリと回すにつれて、地球へ到達寸前だったミサイルの鼻先が、徐々に持ち上がっていく……
彼が行った事は、解き明かした数式の難解さに反比例するかのように、至ってシンプル。
適当な諸元を再入力して、無関係の惑星に迷惑をかける訳にはいかない以上、最も確実で簡単なのは……設定されているスタートとゴールの地点を、そっくり返してしまう事だった。
実際にはもっと複雑なプロセスが必要になるが……とにかくセブンは、自身の持ち得る全ての知識を総動員して、ミサイルを逆進させる事に成功したのだった!
間一髪で地球の破壊を防いだセブンは、脱出する事もしばし忘れて、一息ついた。
そして、自身がこの場に居合わせた事への奇妙な巡り合わせに思いを馳せる。
今まで、レッド族由来の強靱な膂力と、父親譲りの優れた戦闘センスだけを頼りに、数々の侵略者を打ち負かしてきたセブン。
悪辣なる者達との戦いの中で、彼は自身が、正規の戦闘訓練を受けた戦士でない事を口惜しく感じた事が幾度かあった。
自分にもっと力があれば、より多くの者を救う事が出来たのではないか? そう思わなかったと言えば嘘になる。
だが……今回ばかりは、ここに立っていたのが、自分よりも優れた戦士……例えばそれこそ、勇士司令部長である父であっても、果たして地球を救う事が出来たであろうか……?
彼は自身の経歴と、今回の事件に関するこの数奇な縁に、深く感じ入った。
この広大な宇宙に揺蕩う、物言わぬ者達の確かな意志……運命とも言うべき星々の願いを聞いたような気がしたからだ。
『そうか……ぼくでなければ、だめだったんだな?』
ならば……この結果もまた、地球とマゼラン星が、お互いに望んで引き寄せた結果なのかもしれない。
このミサイルでマゼラン星が傷つく事もまた無いだろう。
かの星の上に住まう人々は、慄き、大いに焦るだろうが……それもまた運命だ。
地球人はかつて、自らの過ちの結果を、代償として多大な出血を強いられながらも……ほんの僅かな助力があったにせよ……自分達の力で後始末をつけた。
それならマゼランの人々も、自分達の悪意が跳ね返ってきた時、自分達の力でそれを御する責任がある。
そこに、第三者の助力があったとて一向に構わない。
その者にとって、彼らが手を差し伸べるに足る存在だと言うに過ぎず……それもまた彼らの普段の行いに対する報いだからだ。
とはいえ、ミーヤの口ぶりでは、マゼラン星の周囲には今やそんな存在がいるかどうか……
これを機に、彼らはこれまでの行いを大いに反省するだろう。
……反省して欲しいし、そうすると信じたい。
でなければ、この無限に広がる宇宙において、彼らはずっと独りぼっちのままだから……
それはあまりにも、寂しい事ではないだろうか。
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「……何だって? マヤが……生きている?」
「ソウダ。我々の方で身柄を保護してイル。キミにとっては興味がナイだろうと思って、言わずにおくつもりダッタガ……気が変わっタ」
「え? どうやって? 俺は……確かに……」
「
「そうか、お前が……助けてくれていたのか……恩に着る……は、ハハ……」
それを聞いたオレは、へなへなとその場にへたり込んだ。
……なぁんだ、知らない内に、ダークがオレの尻ぬぐいをしてくれていたのか。
これは……どうもご迷惑をおかけしました……
「……待てよ? その場にいたなら、ダンがアレ盗まれるのも、見てたって事か……?」
「ソウダガ? 実に面白い見世物ダッタ。こういう時は、『溜飲が下がる』というのだったカ」
「おいおい、見てたならそっちも助けてやれよ……」
「助ケル? ワタシが奴ヲ? なんの義理がアッテ!? 重ねて言うガ、ワタシはダンの事まで許した覚えはナイ! 奴はキミと違って、ワタシを救おうとしてはくれなかっタ……!」
「そんな事はない! ダンも泣きながらペガッサに避難勧告をしていたんだぞ!」
「……地球人の姿デナ。しかし、地球を救う時は、惜しげもなく正体を晒すクセに……」
そう呟いて、ダークは下へ俯いた。
無意識なのか額をさするような仕草をする。
その時オレは初めて、彼のつるりとした顔の右側で、肉が蚯蚓腫れのように醜く盛り上がっており、大きな三日月型の向こう傷が刻まれているのだという事に気付いた。
そうか、あれは……きっとセブンと戦った時にアイスラッガーで付けられた傷だ。
劇中ではカキーンなんて硬い音がしたし、よたよたと走っていった記憶があるから、致命傷ではないんじゃないかと思っていたが……いや、そうか。
もげた腕すら、元通りに繋げて見せると豪語した医療技術を持っているのに、あんな傷跡を消せない訳が無い。
あれはきっと……わざと残しているんだ。
「ダンを……憎んでいるのか?」
「憎ム……? 憎むなんてもんじゃナイ! 奴は大嘘吐きのノ、裏切者ダ! お優しい、口先バカリの理想主義者! その上、英雄気取りの酷い依怙贔屓デ……ただの偽善者ダ! ……何が友達ダ! 奴は……お気に入りノ地球人ニハ甘い顔をスル癖に……結局、ペガッサを救ってはくれなかっタッ!!」
「ダーク……」
彼が腕を振り回し、暴言の数々を吐き捨てる。最後の叫びを、空き地に大きく響かせながら、傍に落ちていた石ころを思いっきり蹴り上げた。
こちらに背を向けながら、はあはあと、肩で息をするダーク。
そうしてその男は、弱々しく絞り出すような声で、旧友への本心を告げるのだ。
「……ダガ、感謝してイル」
「感謝……?」
「ソウダ。奴があの時、力尽くデモ止めてくれなかったラ……ワタシは……一時の感情に流されテ、取り返しのつかない過ちを犯すトコロだった。この手デ地球を……同胞達の第二の故郷ヲ、愛する者達全てヲ、吹き飛ばしてしまうトコロだったんダ!!」
彼の声は、翻訳機越しにでも分かるくらい震えていた。
それ程までに、自らの所業の恐ろしさを思い返していたのだろう。
「ダカラ……本当ハ奴にも礼を言いタイ。感謝しこそスレ、奴を憎むなんてソンナ事……そんな恥知らずナ真似が出来るト思うカ?」
「……だったら面と向かって礼を言えばいいじゃないか」
「……駄目ダナ。言ったロウ? そうするにはワタシは、狭量デ、頑固スギル……キミには分からないだろうネ、ソガ。……そして、分からなくて良い。キミ達はそれで良いンダ」
「そんな寂しい事、言うなよ……」
「違ウ、そうじゃナイ。キミ達には、相手の気持ちを想像出来ル聡明さがアル。ダガ、あくまで当事者ではナイ……弱者ガ、強者の孤独ヲ理解出来ナイように、持つ者ガ、持たざる者の気持ちを知る事もまた難シイ。いかなる者モ、自分とは異なる他者に対シテ、それを取り巻く状況ヤ、心情を慮る事は非常に困難なのダ。……かつてワタシが、地球ヲ、自力で散歩も出来ないただの石ころダト、思い至れなかっタようにネ……」
「想像するだけでは限界が有ると言う事か?」
「……時と場合にヨル。キミ達地球人の最大の武器もマタ……他者を思い遣る想像力ト……愛ダ。ワタシは、キミ達からそれを学んダ。ダカラ……今度はワタシが、彼女達にそれを教える番ダト思う」
「彼女達って……もしかして……マヤと、さっきのアイツの事か!?」
「時には光で照らすダケでは救われない者もイル。特に我々のヨウナ影に生きる者ニハ……傷を舐め合う時間もマタ、必要なのダ」
……ダンや俺が説得しても、上から目線でしかないが、同じく異郷の地でひっそりと隠れ住むしかない彼らの言葉なら、まだ聞く余地があるかもしれないと言う事だろうか?
「しかし……」
「案ずるナ。報いは受けさせル。我々にとってモ、住み家を破壊しようとした事は許せナイ。……ダガ、キミ達に預けてモ、どうせキュラソーの流刑地に引き渡すしか手段がナイだろう? あそこの覆面刑ハ、普通のヒューマノイドには耐えられマイ……末端の実行犯ダケを、一人二人、死地に追いやっタところデ、なにも変わらナイ。真に糾弾されるベキはマゼラン星の方針と手段デあって……彼女らは、その生き証人と言う訳サ……」
「なる程な……それは道理だか……出来るのか? そんな事?」
「今は無理デモ、あと少し生活ノ基盤が整えバ……可能性はアル。我々ニハ我々ノ、独自のツテと流儀があるノダ……文句がアルなら、サッサと宇宙に出て来テ、治外法権の撤廃を訴えてみるんダナ」
ダークがざりざり笑いながら挑発してくるが、これはもうしょうが無い。
どこの銀河連盟に加盟すればいいのかすら、地球はまだ分からないのだ。
「……あっそ。まあそんなら好きにしてくれ。俺が目を醒ましたら、マゼラン星人は死んでいました。これでいいか? どうせアイツらがどうなろうと、知ったこっちゃない」
「なる程、こういう時に使うノカ。ソガ、キミもまた随分ト、『つんでれ』なのだナ」
「……やめろよ、男のツンデレなんて、気色悪い……誰得だよ」
「ナニ!? 男性に相応しく無いと言う事は『つんでれ』は女性格の形容詞なのか!? ……イヤ、という事は待ちタマエ……まさかソガ。ワタシの事を雌性個体だと思っているノカ? 確かにキミ達地球人からスレバ、我々ペガッサ人の雌雄差は判別し辛いだろうガ、これでもワタシはれっきとシタ、成熟済みの雄性個体デ……」
「あーもういいもういい! 悪かった、悪かったよ! 俺が悪うございました! お前が男なのは知ってます! ツンデレはごく稀に男に使う場合もございます! さっきのは俺の個人的な主義主張であって、文法には一切関係ありません! そして俺はツンデレです! これでいいか!?」
「ウム、実に簡潔で良いと思うゾ。……ただ、どうやら我々のこみゅにけーしょんニハ、まだまだ大きな隔たりがアルらしいな。それが確認できたダケでも収穫ダ」
「クソしょうもない言葉を題材にして、言語の壁の高さを再認識しないでくれ。気が抜ける」
なんか唐突に話が脱線したけど……なんの話だっけ?
「ついでに、アノじゅーくぼっくす、モ手間賃として貰って行くゾ。上手く言い含めておいてクレ」
「え、ちょ……なんでぇ?」
「当たり前ダ。惑星破壊兵器の誘導技術に関する物品ヲ、素直に手渡せる程、キミ達地球人は信用されてイナイ。言わばキミ達は、前科一犯ノ状態にあるノダ」
「……それを言われると、なんとも……というか、前科一犯なんて言葉、どこで覚えてきた?」
「知人ガ、『北川人情放浪記』とイウ小説を貸してくれてナ。地球人の風土と言語ヲ学ぶのに、役立ててイル。ソガは、知ってイルか?」
「いや、読んだ事ない……」
勉強熱心な事で……でも、なんかペガッサ人の言語が偏りそうなんだけど大丈夫かなぁ……
「心配するナ。我々もその長距離通信機を悪用したりハしないと誓ウ。ただ……仲間の中に、いつか故郷へ還してやりたい女がイルんダ。彼女自身ガそれを望むかどうかハ別として……せめて母星に残された家族ト、一度くらい連絡ヲとれてもイイと思うノサ。両者共に、マダ生きてイルんだからラ……」
「故郷……? もしかして、お前の仲間って……ペガッサ星人だけじゃないの?」
ペガッサシティは無くなってしまったから、彼の言う人物は少なくとも彼の同胞ではないはずだ。
「イヤなに、この辺境の星デ、寄る辺なく生きる異邦の民の……互助組織のようなものサ。様々な理由で地球へ流れ着キ、故郷へ還る術をも失イ、人間ノ中に混じって隠れ住む事ヲ余儀なくされている宇宙人というのハ、キミ達が思っている以上に多いとイウだけダ。もはや故郷や仲間と切り離されてしまった者達ハ、こうして互いに身を寄せ合って生きていくしか無いのダ。案ずるな、我々の中で未だに地球を侵略しようと言うような奴ハ……いや、怪しい奴はいるガ……彼も賢明な男ダカラ、手に入れた細やかな地位と権力を手放すような真似はシナイだろう。むしろ、ここでの生活ヲ気に入ってイル節があるシナ……」
「そ、そうなんだ……あの……さらっと重大情報を暴露しないでくれる? 言ったか忘れたけど、知ってる事を知らないフリするの、苦手なんだけど……?」
「ダガ、嘘を吐くのは上手かった筈ダ。上手くヤレ」
「嘘じゃないってば! オマエには腹割って話したじゃん!」
「イヤ、キミはダンに勝るとも劣らない嘘吐きダ。よくもペガッサ全市民の前で、人の事を勝手に殺してくれたナ? おかげで合流当初ハ死人扱いだったんダゾ!」
「……え? なにそれ?」
「メッセンジャーは不慮の事故デ死んダ。彼の遺言デ助けに来タと言ったそうじゃないカ!」
「……あ、そりゃー……お前が生きていたら、地球は爆破されるから大丈夫と思って、誰も脱出しないかと思ったんだよ……」
多少憤慨していたダークだったが、オレが素直に白状すると、きょとんとした様子で、しばらくフリーズしていた。
「……なるほど、意外と計算高いのだナ。それなのにどうしてあんなに詰めが甘いノカ……歴史を知ってイルあどばんてーじというのは、予想以上に大きいようダ……?」
「というか、嘘吐きなら、ダークも人の事言えないぞ! なーにが水を持っていけ、そっちに移ってくるかもしらないぞ、だ! ペガッサに宇宙船用のハッチが無い事知ってただろ! お前あれ……輸送機を俺達の脱出艇にするつもりだったんだろ。俺達用に集めさせたんだろ? 人が一生懸命、みんなを救う手立てを考えてたのに、お前はあの時既に、地球もろとも爆散する腹を括ってたわけだ。……違うか」
「グゥ……まさか、ワタシの助言を無視シテ、アンヌを置いていったのハ……」
「俺の方が一枚上手だったという事さ。三人纏めて宇宙に行ってたら、地球は次の瞬間木っ端微塵だ。ざまあみろ」
「やられタ……」
掌で顔を覆い、空を仰ぐダーク。
とはいえ、彼が俺達の事を思って用意しろといった水が、巡り巡って本当に彼の同胞を助けたのだから……ダークは誇っていいと思う。
言葉とは裏腹に、愉快気なざりざり音を発しながら夜空を見上げていた彼は、やがてある事に気付く。
「……オヤ、見ろ……ミサイルが離れて行ク……」
「あ、ほんとだ……ダンがやったんだな」
「それぐらいヤッテ貰わなければ、困ル」
そうしてしばし、二人で星空を眺めていたが、唐突にダークが踵を返して歩き出した。
「……そろそろ、時間ダ。まだ奴ト顔を合わせて平静でいられる自信がナイのでネ」
「そうか……また会えるか?」
「イヤ、あまり接触しすぎて、地球人に気取られたくはナイ。キミは嘘吐きの癖に隠し事が下手ダカラナ……もう会う事も無いだろう……」
「……残念だ。お前ともっと話したかった……」
「……」
ダークが立ち止まり、彼の白い背中が月明かりに反射してキラキラと輝いているように見える。
でも、それももう見納めなのだろう。、
彼らは本来、とても臆病なのだ。
「……ソガ、これだけは言っておく。キミがあの日と、そして今夜……我々の同胞の行く末を憂い、その安息を願っテ落涙した事ヲ、ワタシは決して忘れないダロウ……だから、キミもどうか忘れないでクレ。我々は……ずっと見てイル。キミ達地球人の一挙手一投足を、夜の闇に紛れた影の側の住人ハ、暗がりから怯えた瞳デ、昼の世界をじっと見張っているんだ。キミ達がこれからいったいどうするのかヲ……。地球はもはや、人間ダケノ星ではナイのだという事ヲ……心に刻んでおいて欲シイ」
彼がこちらを向き直り、一歩、また一歩と、後ろ向きに遠ざかる。
「仲間が言っていたヨ。我々はミナ、泡沫の夢を追い求めるあまり、宇宙の闇のなかで、藻搔き、苦しみナガラ、彷徨い続ける愚か者達ダト……だがナ、ソガ……キミやアンヌ、そして……アイツがくれた温もりは……小さな恒星のように瞬いて、今でもワタシの心の中を、照らし続けてイル。キミが、我々のような日影に生きる者にとっても、信頼に足る小さな希望の道標として、輝き続けてくれてイル限り……その光を頼りトシテ、ワタシを包み込もうと忍び寄ってクル、仄暗く甘美な闇の帳に……抗い続けるダロウ。だからどうか、ワタシに夢を見させ続けて欲シイ……いつか……」
「ダーク……待て!!」
オレは、彼に最後の言葉をかけようとして……うまく言葉が出てこない。
彼の輪郭は、もう背後の闇に溶け込んで朧気にしか見えない。
また会おう? ありがとう? ごめん?
でも、こういうときは……やはり……
「……さよならだ、親友。……達者で暮らせよ」
「サヨウナラ、ソガ。……元気デ」
滲んだ視界で見上げる空には、真っ赤な明けの明星が輝いていた。
という訳で第37話「盗まれたウルトラアイ」とその準備稿「他人の星」でした。
いかがだったでしょうか。
まず補足いたしますと、「他人の星」というのは、実際の原稿の前段階の名称、及び内容になります。
37話は「他人の星」のさらに前段階として「標的は踊る」という内容があり……そこでは、工作員はマーヤという名前で、マヤのように改心するのではなく、今話のミーヤのように覚悟の決まりきった工作員で、ラストもダンが力づくでウルトラアイを取り戻すという話だったそうです。
そうしてくれりゃあ、後味も悪くなかったのに……
マヤが自決に使うジュークボックスというのは、元々数字の1と混同するのを避けるため、アルファベットのiのボタンが無いというのは有名な話。
しきりに何度もアップで映し出されるスナックの壁には『I love you』の落書きがでかでかと書かれているのに、マヤの拠り所であるジュークボックスにはアイが無いのです!
スタッフには人の心が無いんか?
そして自決の瞬間、マヤの押し込むボタンは『J』と『7』……
『I』を越えた『7』……果たしてどういうメッセージだったのでしょう。
演出面やストーリーにはめちゃめちゃしっかり気合いを入れているだけに、余計に後味の悪さが際立ちます。
勿論の事、今話は名作と評されるに足るポテンシャルを持っているというのは認めます。
でも、嫌いなもんはしょうがない。
以下、作者がだらだら弁解しているだけなので、興味の無い方はスキップしてください。
さて、冒頭のソガの心情吐露ですが……あれはまんま作者の意見そのままです。
マヤだけがことさらに同情されるべきとも思わないし、やはり、この話は見敵必殺でストーリ―ラインもろとも吹き飛ばすべきだと思っています。
しかし、彼女の真意がどうあったにせよ……今話のミーヤのように自暴自棄になって、全てを道連れにすることもできたのに、そうしなかった。
ダンの差し伸べた手を取る事は出来なかったけれど、自分の意志で、一度は奪い取った地球の命運を、ダンに還してくれたというのもまた事実です。
彼女の選択は、確かに地球を救ったのです。
であるならば……彼女一人が救われないというのもまた……二次創作としてどうなんだ?
でも、ソガが掌を返してマヤを救う事も出来ません、彼はそんな器量のある男では無いのです。
ではどうするか……?
暗くて救いの無い大っ嫌いな本編と、そして作者自身の仄暗い自己満足と破壊衝動のその両方に対するアンチテーゼとして、全て彼の活躍シーンとして全部ひっくり返して貰う事にしました。
これが作者なりの意趣返しです。
一番嫌いな話を、一番好きなキャラクターで中和する。
嫌いな話をスキップするのではなく、如何に自分好みの色に染めるか……
本作のプロットを考えた時に、一番書きたかった話の一つといっても過言ではありませんでした。
ようやく書けたぜ。
元々、ペガッサ星人は本編内で再登場してしかるべきキャラクターだと思っていましたし、実際にムック本などでは、セブンに復讐しようとする話なんかもあったようですね。
じゃあ、どこで出すの? ここでしょ。
ありがとうダーク。
お前のお陰だよ