転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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大義ある戦い(Ⅱ)

β号を分離させ、即興の編隊を作り出したウルトラホークは、猛烈なミサイル攻撃を開始した。

爆炎に包まれるロボットの体。

 

しかし、鋭く振り返ったキリヤマが見たものは、攻撃を物ともせずに巨蟹が食事を始める光景だった。

腹部にある巨大シャッターを開き、そこへ右手のハサミでがっしり掴んだ車両を、次から次へと放り込んでいくロボット。

 

ダンとフルハシの駆るβ号が、今度は正面から大きく開いた敵の口内を狙って攻撃を行うが、すぐさまシャッターが閉じて堅牢な装甲によりミサイルが弾き返されてしまう。どころか全くそれを意に介さず、ハサミでハイウェイの車両を掴み上げるのを止めようともしない。

 

そうしてβ号が背後へ旋回したのを見計らって、絶妙のタイミングで口を開けると、再び戦利品をもりもりと貪り食い始めるのだ。

 

「なんてずぶとい野郎だ……!」

 

取りやすい位置にある車をあらかた平らげたロボットは、今度はその足で高速道路を崩しながら前進する。

料理が疎らになった眼前の皿を文字通りちゃぶ台返しにしてしまうと、新たな満漢全席が彼の前に用意されるという寸法だ。

 

愛車ごと取り込まれてはたまらないと、車を乗り捨てた人々が慄き逃げ惑う。

巨大な怪物の姿を認めたドライバーの皆が皆、てんでバラバラに逃げ出したせいで、もうすっかり車列は止まってしまい、どの車すら前にも後にも進めない。

 

前列の人々の逃げる時間を稼ぐため、何より老齢のユグレ博士を守る為に、アンヌは運転席から降りて護身用のレーザーピストルでロボットを押し留めようと金色の頬を撃つ。

 

だが、それもロボットの装甲の前では全く効果なし。どころか、余計に敵の注意をこちらに引いてしまった。

歯車を組み合わせたような顔が自分の方を向くのを見たアンヌは、とっさに車内に戻ってバリアのレバーを引こうとするが……あいにくと、今乗っているのはポインターではなかった。

 

凄まじい振動が三人の車を襲う。ロボットの鋼鉄製アームによって、両側からがっちりと挟み込まれてしまったのだ!

車列の中からふわりと持ち上げられる緑の車。

 

ダンは、見覚えのある車が挟まれているのを見て取り、目を見開く。

そして通信機からはアンヌが懸命に自分を呼ぶ声がする。

山の如き巨躯を持つロボットからすれば、まるでミニカーのようなサイズ感だが、間違いない……あの中にはアンヌ達が乗っているのだ!

 

「チクショウ……!」

「弱ったな……」

「β号! 攻撃を中止せよ!」

「隊長!」

 

敵に人質をとろうという意図があったのかは定かでないが、これでは爆撃が出来ない!

それでもなんとかロボットの捕食を妨害しようと、その眼前を低く飛び、注意を引き付けようとするウルトラホーク達。

スレスレの位置にまで最接近した彼らの目には、持ち上げられた車の窓から、アンヌが身を乗り出して助けを求める姿がハッキリと見えた。

 

だが、ロボットの目の前を旋回しようとしたその時!

敵の頭頂に設置された、ライトのような部品が明滅し、青白い怪光線を発してきた!

 

いままで車を回収するだけだったロボットからの、思わぬ反撃に不意を突かれ、翼に光線を食らってしまうβ号。

目の前で戦闘機が炎を噴き上げ墜落していく様を見て、ユキコが引き裂けんばかりの悲鳴を上げる。

 

けれでも、敵に反撃手段があると分かって尚も、捨て身の妨害を試みるウルトラホーク。

再び額帯鏡めいたレーザートーチから光線が発射され、銀の翼を追いかけるが、そのまま突っ切る事で何とかそれを躱すキリヤマ。

ロボットの光線は狙いが遅く、旋回中の隙を狙われさえしなければ、ホークの加速性能で振り切れる。

しかし、旋回を妨害されるという事は、こちらも敵を妨害出来ないという事。

 

このままでは三人が敵に食われてしまう!

 

「デュアアアアッ!!」

 

その時、ビルの谷間から、真っ赤な巨人が姿を現し、鉄の化け蟹に飛びかかった!

巨大な右腕に取付いて、車を挟むクレーンをなんとかこじ開けようとするセブン。

 

しかし、ロボットはそんなセブンの登場にも一切焦る事無く、鬱陶しそうにハサミを振ると、真っ赤なパワーファイターを容易く跳ね飛ばしてしまう。

片腕のたった一振りで、大きく吹き飛ばされ、もんどりうって工場に倒れこむセブン。

 

邪魔者が居なくなったと思ったのか、やれやれとでも言いたげに、シャッターで出来た大口を開けるロボット。

摘まんだ車を食べてしまう気なのだ。

 

そんな事、許してなるものか!

立ち上がったセブンが組み付き、もう一度ハサミをこじ開けようとするが、ビクともしない。

真っ赤な両腕に凄まじい剛力が宿り、筋肉が小刻みに躍動するが、クレーンは1㎜も開く気配が無いではないか!

セブンの眼前には、車内で叫ぶアンヌの姿。

 

「ダァー!!」

 

金色の鉄面皮にキックをお見舞いし、敵の腕を振り回すセブンだが……ついに力負けして、ハサミを高々と掲げられてしまう。

ただでさえ巨大な体のロボットが、その全長と同サイズ、ともすればそれ以上に長いアームを振り上げると、さしものセブンの長身でも、腕が届かないのだ。

まるで意地悪な大人に、ミニカーを取り上げられた子供のように、無様に取りすがるしかないセブン。

 

しかし、敵の意図はセブンにそんな嫌がらせをする事では無かった。

高々と振り上げたハサミを、今度は巨人の顔面目掛けてハンマーのように振り下ろすロボット!!

 

自分の顔と、ただの車が衝突した場合、どちらが粉々になるかなど分かり切っている。

大切な存在をぺしゃんこにする訳もいかず、咄嗟にしゃがみ、なんとか顔を伏せるセブン。

 

振り下ろし攻撃が外れると、ロボットは再び腕を持ち上げ……

今度はそのモーメントが最大になった瞬間、堅く閉じられたハサミをパッと開いた。

呆気なく上空へ放り出される車両。

 

弾かれたようにセブンの四肢が動き、真っ赤な筋肉をしなやかなバネのように使いジャンプすると、放物線を描く車を空中でキャッチ!

と同時に、念力で車を包みこんでその衝撃を相殺する。

あまりの恐怖体験に中の人々は目を回してしまってはいるもの、彼らが無事な事を確認すると、車をロボットの居ない反対側のハイウェイにそっと置くセブン。

 

そうして、赤い巨人が一台の車にかかりきりになっている隙に、ロボットはどうしていたかと言うと……

行儀よく片腕を頭上に持ってきて折りたたむと、両足を内部へ格納し、その下から現れた巨大なジェットを猛烈に噴射して、上空へさっさと逃げていった。

 

邪魔が入ったと見て、河岸を変える事にしたのだ。

車を放り投げたのも、敵がその車両に固執しているのを見て取り、逃走の囮とするため。

堅牢な装甲と強力無比のパワーだけでなく、高い判断力まで兼ね備えているとは……今度の敵も、なんと手強いのだろう……

 

ひとまず敵を見送ったセブンは、追撃を上空のウルトラホークに任せ、自分はダンの姿に戻り、アンヌ達の元へ急ぐ。

運転手が気絶したために、緩やかな走行を続ける車になんとか追いつくと、サイドブレーキを引いた。

急ブレーキの衝撃で目を覚ましたアンヌは、目の前に愛しい顔を認め、安堵の笑顔を交わし合う。

 

「……ダン!」

「うん。博士、お願いします!」

 

あれほど凄まじい体験をしたばかりだというのに、ドクターユグレが力強い頷きを返すのを見て、ダンは胸を撫で下ろした。あとはオサム君が覚悟を決めるだけだ。

 

「アンヌ、すぐ病院へ!」

「ダンさん……」

「必ず行きます。オサム君の手術までには!」

 

走り去っていくダンの背中を、不安げに見送るユキコ……

 

無事に病院までたどり着いたアンヌ達は、オサムの病室へ向かう。

足音を聞きつけ、眠っていたオサムが笑顔で飛び起きてくるが……来客の顔を見た瞬間、さも残念そうに顔を歪めた。

 

「……ッ! ……なんだぁ、アンヌさんかぁ……」

「ダンさんはね、いま宇宙人のロボットと戦っているの……だから……」

「じゃ、来てくれないんだね……」

「さ、ユグレ博士の時間がないのよ。手術していただきましょ……」

「……やだ」

「オサムちゃん……」

「やだやだやだ! ダンが来なけりゃ、僕はイヤだ!」

 

布団を被ってしまうオサムの姿に、ユキコとアンヌは顔を見合わせた。

 

 

――――――――――――――

 

 

あの後、逃げる敵を追撃したウルトラホークだったが、ロボットは上空で巨大な飛行基地に連結すると、雲の中へと消えてしまったのだった……

 

無念そうに帰還した隊長達を、作戦室で出迎えるダンとソガ。

以前の事件で受けた傷によりまだ本調子ではないため、ソガは戦闘機動の予想される今回、基地で待機していたのだ。

 

「どうでしたか、隊長」

「残念ながら、取り逃がしてしまった……」

「あんな図体でウルトラホークを振り切るなんて、敵の母艦は凄まじい性能だ。β号が合体出来ていれば、最大出力が出せたんだがな……」

「母艦?」

「コイツさ」

 

アマギが悔し気に、写真の束を机に投げつける。

敵にはあえなく逃げ切られてしまったものの、その姿はしっかりとホークのカメラが捉えていたのだ。

……そしてなんと、ダンはそこに写る敵の姿に見覚えがあった。

 

(このシルエット……そうだ、あれは確か2連星の……)

 

一般的に、星の質量を決めるには重力の大きさを測定する必要があるが、巨大なエネルギーの塊である恒星においては、重力の大きさを測定できるのは、ほとんどが連星に限定されてしまう。

このため、恒点観測員達の間では、連星はその星系における観測の基準点として非常に使いやすいとされている。

 

中でも蟹座にある2連星『HM星』は、銀河系の中で最も強力な重力波を放つ事で有名であった。

新しい星系で観測業務を始める際や、宇宙で迷子になったりした際には、直近にあるこうした特異な星々を基準にすれば、公転周期の再計算がしやすいとして、宇宙に携わる者の殆どが習う基礎知識なのである。

 

そして、そういった有名な星々は、同定に役立つようにその周辺についての情報も、いくつかデータが載っている事が多い。

もちろんの事、HM星も御多望に漏れず、補足情報がいくつかあるのだが……その中に、この恒星系に住む珍しい生態を持つあの種族もまた、殆どのテキストに必ず記載されている。

 

かつて熱心な学生であった恒点観測員340号もまた、教材を隅々まで読み込んでいたので、当然ながらこの円盤を知っていた。

 

一見、鉄くずをそのまま組み合わせたかのような彼らの機械群は、拡張性を担保した結果であり、追求された機能美を有しているのだと、世話になった先輩が熱弁していたが……今では彼も、技術局の次期長官だったか。

 

懐かしい記憶と共に呼び起こされた、かの種族の名前、忘れるはずも無い。

彼らの太陽だけでなく種族そのものが、特記事項として記されているのだ。

非常に傍迷惑な要注意種族として。

 

まさしくこの写真通りの画像が、載っていた。

彼らの母星と太陽がどちらも歪な形をしているからかなのか、育まれた独特の感性でもって作られた、左右非対称のフォルム。

これは……

 

「バンダ星人の宇宙ステーションじゃないか!」

 

思わず口をついて出てしまった言葉に、仲間達が反応する。

 

「えっ……?」

「あッ……」

「ダン、お前どうしてそんなことを……」

「いやぁ……ちょっと……」

 

ダンが言葉に窮していると、唐突に、どこかわざとらしい大声が作戦室に響いた。

 

「なるほどおぉ! バルタン星人かぁ! 確かに資料室で見た、奴らの円盤にそっくりだ! よく覚えてたな! ダン! それでハサミを持っているんだなぁ! こいつぅ!」

「えッ……あ……その……」

「おお、そういやいたなぁ、そんな奴も! 兄貴に聞いた事がある。 パゴスってぇ奴の事も知ってたし、昔に現れた怪獣まで勉強してるなんて、流石はダンだ! 真面目君だなぁ、おめぇは!」

「しかし、名前を間違えて覚えていたのは戴けないな」

「……そうです」

 

バルタン星人の薄っぺらい円盤とは似ても似つかないはずだが……

いや、地球人の感性ではなんらかの共通点が見られるのかもしれない。

 

ダンはこれ幸いと、ソガ隊員の聞き間違いと早合点に乗っかる事にした。

 

(そうか、やつら地球へ車を集めに来ていたのか。自分の星の物資を使い果たして他の星にやって来るなんて、まるで強盗みたいな……)

 

胸を撫で下ろし、バンダ星人の行動に思いを馳せるダンの耳に、ラジオ放送が聞こえてくる

 

《都内の交通情報を申し上げます。街道筋はいつものとおり混雑し、特に、水戸街道の……》

 

「わかった、やつらはこれを聞いて車の多そうなところへロボットを派遣していたんだ……。ようし、いい考えがある! 隊長!」

「……なるほど、偽の交通ニュースを出して、ロボットをそこに引きつけるわけか……」

「そうです。そして、そこに新型のスペリウム爆弾を積んだ車を集結させるのです」

「わかった! そいつをロボットに食わせて、宇宙ステーションに戻ったところで……」

「ドカァァァン! とやるんだ!」

 

そこへアンヌが帰ってくる。

 

「ダン……」

「どうだった、オサム君?」

「ダンさんが来てくれないと言って……」

「まだ、そんなこといってんのか!聞き分けのない子供だな!」

「アンヌ、ユグレ博士の時間は?」

「遅くとも3時には、手術をしなければとおっしゃっています」

「その、シンガポール行きは延ばせないのか?」

「ええ、向こうでも心臓移植の患者が待っているんです」

 

厳しい顔で、マイクを持つ隊長。

 

「……第3格納庫、出動準備!」

 

指示に従い、ウルトラガードの格納庫へ向かう隊員たち。

逡巡するダンに念を押すように、キリヤマ隊長が告げる。

 

「……ダン、急げよ」

「隊長!」

「隊長……!」

「……アンヌ、オサム君を頼む……」

 

こうして戦士は、化け蟹退治に出かけるのであった。


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