転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「これより、バルタン星人のU-TOM撃滅作戦を開始する!」
ユートムはとっくに撃滅したんだよなぁ……
俺のせいで、バンダ星人の侵略ロボットことクレージーゴンの呼称が、なんかとんでもない事になっちまったけど許してくれ。
キチガイロボット呼ばわりよりかはマシだろう。
地図を広げながら、割り当てを決めている隊長を尻目に、ウルトラガードへ積み込む爆弾をチェックしているアマギを捕まえ、それとなく話しかける。
「……なあアマギ」
「なんだ?」
「奴の装甲がペダニウムだったと仮定してさ。仮にスペリウム爆弾を30個食わせた想定だと……破壊しきれるもんなのかね?」
「いいや、それは不可能だ」
「やっぱり? じゃあさ、スペリウム爆弾なんかより、ライトンR30とか……それこそ全部スパイナーに変えちまった方がいいんじゃね?」
「……無理だな」
「なんでぇ?」
はあ……と呆れたように溜息をついた名プランナーが振り返り、面倒くさそうな顔でこっちを見下ろしてくる。
「理由は二つある。まずはお前が知らなくても仕方の無い技術的な話だ。ライトンR30は超硬物質を外から破壊する為のものであって、今回みたいに最初から内部破壊が狙えるなら必要ない。そしてスパイナーの威力は確かに折り紙つきだが……その代わりに安定性に欠ける」
「安定性……?」
「お前は奴の食事風景を直接見てないから、そんな事が言えるんだ。スパイナーをあんな乱暴に放り込んだら、その瞬間にたちまちドカンだぞ! きちんと回収時の衝撃に耐えて尚かつ、こちらの指定したタイミング通りに起爆できるようにするなら、乗用車になんかとても納まらないよ」
「マジ?」
「ラリーの時だって、本物のスパイナーはお前達のジープの座席を引っ剥がして載せていただろう。遠隔起爆装置まで組み込んだら、大型トラックの荷台サイズになっちまうよ! その点、スペリウム爆弾は威力こそ劣るが、扱い易さはピカイチだ。ダンが何も考えず引き合いに出したと思うのか? お前が言うように、全部スパイナーで揃えたりしたら、忽ちトラックばかりの車列が完成だ。流石に怪しくて敵が食いつかんだろう」
「なるほど……」
そんな理由があったのか……その辺りは詳しく知らんかったから、全く思いつかなかった……
「そして、こっちはお前も知ってる筈の、より現実的な理由だ……」
「はて……そんなんあったか?」
「V2が無くなってしまった担当宙域の穴を、宇宙機雷で埋める為に、この前ありったけの爆薬を持っていったばかりだろうが! ライトンもスパイナーも、とっくに在庫切れだよ! この馬鹿!」
「あっ……そうだった……」
すっかり忘れてた……
本当に余計な事をしてくれやがったな、マゼラン星人め……!
おかげでクレージーゴン爆殺計画が丸潰れじゃないか!
「安心しろ、装甲が抜けないからこその内部爆破じゃないか。操縦してる宇宙ステーションさえ壊せば、ロボットをどうこうする必要はない」
「だが……ユートみたいな自律式だったらどうする?」
「……それは、確かに無くはないだろうが、ステーションが爆発するという事は、連結されたロボットも吹き飛ばされるという事だ。人工知能なんて複雑な回路は無事では済まないだろう」
「しかし……」
「なぜそんなにロボットの撃破に拘るんだ?」
当たり前だ。
原作じゃあ結局、ステーションを爆破できても、生き残ったクレージーゴンがコントロールを失って、大暴れするからだよ。
その上、一戦目で全員が痛感した通り、このクレージーゴンが強いのなんのって!
エメリウムもアイスラッガーも弾き返すわ、セブンは踏んづけていくわで、いつかのキングジョー並の強敵なのだ。
だったら同じようにライトンR30でさっさと吹き飛ばせばいいのに……と考えていたが、まさかやらなかったんじゃなくて、物資的にやれなかったとは……世知辛いね。
じゃあ、そんな状態でいったいどうやって倒したんだと言うと……セブンをエレクトロHガンからぶっ放して勝った。
いや、何を言ってるのか分からねぇと思うが、俺も分からねぇ。
セブンは、自分の力だけではクレージーゴンに勝てないと悟るや、体を瞬時にミクロ化して、地上でフルハシが絶賛連射中のランチャーの銃口に飛び込む。
そのまま敵目掛けて発射されたセブンは、空中でどんどん巨大化していき、激突! 爆発! 勝利!
みたいな凄まじいテンポのゴリ押しで決着するのだ。
初めて見た時は、あまりにも唐突過ぎるのと、究極の力押し具合に目が点になったのを覚えている。
いやまあ、一番ぶったまげたのは間違いなく、撃ち出した本人であるフルハシ隊員だろうけど……
オレはいったい何をしちまったんだぁ? ……みたいな表情で、思わず銃口覗いてたのが笑ってしまう。
これがその名もステップショット戦法。
……子供の頃は、他のシーンの凝りように比べて、ここだけすげえ雑じゃない? とか思っていたもんだ。
どうしてアイスラッガーの効かない敵に、地球の銃でセブンを撃ち出したくらいで勝てんねん?
だが……こちらの世界にやってきて、セブンの戦いを直に見ているうちに、あの時、何をどうしたのか、というのがボンヤリとだけ分かってきた。
まず、我らがセブンの飛行速度は皆さんご存知の通りマッハ7だ。
ところがそれは、あくまで地球上における最高速度であって……デュワッと飛び立った次の瞬間に、いきなりマッハ7フルスロットルなわけではなく……上空で徐々に加速して最終的にマッハ7に到達する。
もしもあの巨体でそんな事したら、毎回ソニックブームで地上はめちゃめちゃだし、それを念力で押さえ込むのも消耗する。だから彼は、本当に急いでいる時は燃費の悪いテレポートを使うのだ。セブンの能力にも限界があるという事だな。いかなセブンと言えど、初速だけはダァーッとジャンプしたのと同じ速度しか出せない。
しかし、自分を銃弾サイズにまで縮小すれば、その問題はある程度解決する。
ライフル弾の初速は、一般的なものでもマッハ1とか2とかザラに出る(とソガの記憶が言ってる。よくもまあそんな知識持ってたな。流石はスナイパーだ)なので、防衛軍の秘密兵器なら音の壁を越えるなんて余裕だろう。この時点で既に最高速度の四分の一弱を稼ぎ出しているんだな。
その上で、さらに卑怯なのは……セブンは
身も蓋もない雑な言い方をすれば、『速度×質量=破壊力!』なわけで。
重たい物体を素早くぶつけりゃ、そりゃ痛い。
だが、重ければ重いほど、これを素早く動かすというのが難しい。素早く動かそうとすれば、軽ければ軽いほど良い。でも軽いもんぶつけても痛くはない……というのがジレンマだ。
どうあがいても地球の兵器じゃ、打ち出した弾丸が、速度はそのままに質量だけ増大していくなんて現象は起こりえない。
ところがこの緋色の弾丸は、発射後にどんどん重くなっていくだけに留まらず、自力で飛翔能力まで持っていて、凄まじい加速性能を有しているのだ。
速度も質量も青天井で上昇していくライフル弾とか、もしも実現しようものなら、劣化ウラン弾なんか屁でも無い威力を叩き出すに決まってる。そんでセブンを徹甲弾にすることで、それを実現してしまったのだ。
しかも……
アマギ直々の解説を聞いて初めて知った事ではあるが……このエレクトロHガンは、単なるロケット砲ではない。
ダークが落っことしていったピストルの技術を流用して作られた、れっきとしたメテオールであり、撃ち出す弾丸の表面電子を励起してうんたらかんたら……要約してびっくり、つまりプラズマガンなんじゃねーか!
プラズマっちゅーのは、そこに存在するだけで様々な現象を引き起こす、固体でも液体でも気体でもない第4の物質……らしい。(アマギ談)
俺のチンケなおつむじゃあ、あんまり理解出来ないが、そんなもんをぶつけりゃ、そりゃ怪獣も痛いでしょうよ……というのは分かる。
で、そんな銃で今回射出したのが、セブン。
彼の拳は岩をも砕く強靱さだが、それはあくまで人型の固体状になっているだけであり、元を正せば太陽エネルギーの塊だ。
そんなセブンを? プラズマ化して? 噴射?
……それはもう太陽風なんよ。
フレアを直に押し当てられて、耐えられる奴なんかいない。
そりゃどんな装甲だってブチ抜けるはずだわ。
極小太陽を撃ち出します。それは射出直後から運動エネルギーが二次関数的に増大していきます。……なんて、地球の物理法則に正面から喧嘩売ってるとしか思えない。
ブチ切れたアインシュタイン大先生のシャドウマンが、光の速さで殴りかかってくるレベルのチート技。
それがステップショット戦法なのだ!
咄嗟に編み出した技にしては、実に理に適っている。
……破壊力に関しては。
いやもうね、アホかと。
プラズマ化した皮膚で、敵に向かって激突します、音速で! とか馬鹿の所業である。
というか、表面をプラズマ化するという時点で、パンドンの業火を食らってるようなものなのに、その状態でキングジョー並の金属板に全力の頭突きをかますとか、自殺志願者か何か?
タロウのウルトラダイナマイトに勝るとも劣らない、自爆技以外の何物でもない。
……というかまさか、聞きかじった従兄弟の技をヒントに、ぶっつけ本番で再現しましたとかじゃないだろな?
あれはウルトラ心臓とかいうチート臓器を持つ、選りすぐりのエリートにだけ許された技であって、断じて一介の恒点観測員が放って良いものではない。
ただでさえこの回のセブンは、ダンの姿で重傷を負っており、セブンに変身した後も、その影響かフラついていた。
そんな状態で放ったのが、このステップショット。
エネルギーの消耗という点では、やはりガンダーやガッツ星人のせいであろうが、肉体のダメージという点では、間違いなく今回がトップだったに違いない。
だってあの不死身のタフガイ、モロボシ・ダンが……エピローグでは車椅子に乗ってるんだぜ!?
ワイルド星人に一度殺されて、生き返った直後ですらピンピンしてた、あのダンが!
いかに切羽詰まった状況であったとはいえ、こんな戦法を思いついて、あまつさえそれを素面で実行してしまったセブンの方が、クレージーゴンなんかより余程狂ってるんじゃなかろうか。
一歩間違えれば、この回で最終回を迎えていても、全然おかしくはなかったぞ。
「という訳で、俺はなんとしてでも、あのロボットを倒したいのだ、アマギよ」
「どういう訳だよ……とにかく無い物は無い! 諦めろ」
「かくなる上は、プランBしか……」
「まあ、待て……」
次の策に頭を巡らせる俺の肩を、誰かが叩く。
「……隊長!」
「話は聞かせて貰った。確かにソガの言う事にも一理ある。出来る手は打っておかねばな」
「といっても、本当に在庫が無いんです。今から作成する時間はありませんし……」
「こういう物はな、あるところにはあるものさ……機雷を打ち上げた後に精製されたスパイナーが、海軍と陸軍へ優先的に配備されていた筈だ。その中から一つ二つ、こちらへ回して貰えないか、ヤナガワ参謀に陳情してみよう」
「……ありがとうございます! 隊長!」
「お前の頼みだと言えば、海軍からも参謀からも、そう悪い顔はされまい……いや、逆に顰められるか? ハハハ!」
参謀に今度、菓子折持ってかなきゃ……
いや、胃薬の方がいいかな。
「そういうことならば、あちらで装置を組み立てるための資材も必要になりますね……」
「よし! そっちは俺が後から運ぶよ! アマギと隊長たちは先に行って準備を始めて下さい」
「お、上手く逃げたな……まだ傷は痛むのか?」
「……気圧が変わるとどうにも疼きまして……空の旅はちょっと……」
「構わん。健康体でない者にパイロットの資格はない」
「お前が操縦をトチッて、道連れにされちゃ敵わんしな……ま、最初に言ってた通り、アレでのんびり来いよ。積載量は充分にあるんだから」
「いくら空路が辛いと言って、くれぐれも渋滞に捕まるんじゃないぞ、ソガ。ハハハ」
「その場合、横道が増えるかもしれませんね……」
「「「ハハハ」」」
背後で軽口を叩く同僚達を気にも留めず、ダンはウルトラガードの計器を確かめつつも、しきりに腕時計に視線を送るのだった。