転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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消された出番

「キリヤマ隊長及び、ウルトラ警備隊に次ぐ。ただいまユシマ博士が南極より到着しました。エアポートに集合してください」

「了解! いこう」

「……おや、珍しいな」

「どうした? ソガ? 腕時計なんか見つめて」

「……いやなに、超音速ジェットでも、遅刻はするんだなと思っただけさ」

「お前の寝坊じゃないんだから」

「うるせえやい」

 

今日は南極の地下基地から、日本の頭脳とも評されるユシマ博士がやってくる日だ。

極東基地のレーダーを改良するため、視察にカモフラージュしてユシマダイオードを取り付けにくるのだ。

……つっても、既に飛行機内でビラ星人に洗脳されてるけどな。

 

ウルトラ警備隊からは、その滞在期間中のボディガードとして、フルハシが護衛の任に就くことになっている。うん、納得の采配だ。

例えゴドラ星人が暗殺に来たって、身を挺して守ってくれるだろう。

 

……もっとも、さしものフルハシといえど、時間停止とかいう最強のチート技の前ではまるで役に立たんのだが。

 

というわけで今回は、目覚まし時計を一杯買ってきたぞ。

本来の精神の代わりにオレが入ってしまったせいで、今回のソガ隊員はめちゃめちゃ朝に弱い。

隊のみんなも知ってるくらいだ。

 

そんな俺が大量に目覚まし時計を買い込んでも、そしてそれを寝ずの番をするフルハシ先輩や、時差ボケに苦しむであろうユシマ博士に好意で貸してやったとしても、そこまで不自然ではあるまい。

ああ、ついでにポインターの中にも一個忘れてきちゃうかな。

これで準備OKだ。

 

「……おい、えらく念入りだな。時計屋でも始めるつもりか?」

「いやなに、到着が遅かったもんで、ジェットの機内時計を確認したら、10分も遅れてやがるのさ。きっと南極からの時差って奴だろう……博士の腕時計も遅れてたらかわいそうだからさ」

「……ハァ、さてはあんまり地理の勉強をやってこなかったんだな。南極から、経線に沿って進むジェットで時差が発生するもんか」

「そうなのか!?」

「そうなの」

「もう、まだ寝ぼけてるんじゃない? そうね、博士に爪の垢を分けてもらえないか、明日聞いてみましょうよ!」

「よせよアンヌ!」

「ハハハ、でも不寝番のフルハシ隊員には有難いでしょう。優しいですねソガ隊員」

 

……うむ、全然怪しまれてない。

隊員のみんなから見ても自然という事は、ビラ星人にも警戒されてはいないという事だ。

俺のおつむの評価と引き換えに、トラップの設置としてはいい感じ。

まあ、今回もセブン無双だからそんなに頑張るつもりはないけど……念の為にね。

 

そして翌朝。

 

「博士、よくお休みになれまして?」

「まあね。……でも、疲れていたせいか、夢ばかり見ていたらしい」

「博士のような優れた科学者ってどんな夢をごらんになるのかしら? ソガ隊員に聞かせてあげてくださいな」

「興味あるなあ、僕も夢を沢山見るんですが、きっと天才の夢とは違うんでしょうね!」

「いやあ、ごく当たり前のつまらん夢ですよ。……そうだ、昨夜は宇宙人の夢を見たなぁ。……地球防衛軍に一人だけ宇宙人がまぎれこんでいてね。そいつが僕の仕事の妨害をするんだよ」

へぇ……と頷く俺は、隣でダンが、ギクリと肩を竦めたのを、横目でちらりと確認する。

 

まだまだ地球人の()()が下手だなぁ……ええ?

 

そう、実は今回の第五話は、ダンが地球人としてのふるまいを矯正する話でもある。

もちろん彼はセブンなので、宇宙的知性や超能力で、宇宙人の工作をすぐ見破ったりする。

だが、それを根拠に行動してしまうと、周囲と情報の齟齬が発生してしまい、とてもマズイことになる。

 

……というのを、このユシマ博士を巡るビラ星人との一件で学んだんじゃなかろうか。

この後の話はそういう事態がぐっと減るからな。

だからあえて、今回はあんまり手出しせず、しかし、お手本だけは見せてやろうと思う。

 

そう、【真相に気付きながらも、それを周囲にさりげなく伝えていく地球人の擬態ムーブ】ってやつをさ!!!

 

これは自慢じゃないが俺の方に一日の長がある。

おれの捜査……というかヒント出しを見て学ぶのだ、セブンよ。

ついでに牢屋破壊の言い訳も考えないで済むようにしてやろうじゃないか。

……その代わり戦闘は任せたからな。思う存分無双しちゃってください。

 

そうこうしているうちに、ユシマ博士に指名されたダンが、レーダーにユシマダイオードを取り付けると、たちまちショートしてシステムがダウンする。

 

……ふふふ、正気に戻ったらレーダーの修理は、貴方にバッチリやって貰うから覚悟しとけよ博士! いや博士悪くないんだけどさ。

 

レーダーがダウンしたことに、長官はお冠だ。

指令室でお叱りを受ける。

「単なる偶然とは、どうしても思えない節がある。……その場合フルハシ! ボディガードとして何をやっておったか!」

「ハッ、私の責任であります。……博士、本当に申し訳ありません」

「いや、フルハシ隊員の責任ではありませんよ。私の考えでは……残念なことに、この基地には宇宙人のスパイが入り込んでいるようですなぁ……」

 

まさに大正解だ。

それを言っているのが宇宙人のスパイ本人でさえなければ、百点満点の名推理だ。

 

「ダン君、私の手から受け取ったダイオードを、あの時、何かとすり替えたんじゃありませんか?」

「なんですって! 博士、私がスパイだというのですか!?」

「……お言葉ですが博士、何の証拠があってそのようなことを?」

「証拠? レーダーが故障するという、重大なアクシデントが起きているじゃありませんか。……まぁ、私はあえて、この中にスパイがいるとは云いませんが…。明らかに私の仕事を妨害しようとする何者かの計画的な犯行であることに、間違いはありませんなぁ……」

 

お前、ついさっきスパイがいるって自分で明言したとこやぞ。

……もっとも、博士もといビラ星人のお仕事(侵略)を妨害しようとしている奴は、ここにいます。ごめんなさい。

 

探偵が得意顔で、こいつが犯人です! って指さした時に横から。すみません私がやりました! って出て行きたくない?

などと、ダンを陥れようとしているビラ星人の計画を滅茶滅茶にしておちょくりたいという、非常にしょうもない衝動に駆られるが、我慢だ我慢……だめだ、まだだ、まだ笑うな。

 

その場はいったん解散となる。

ダンは今頃、博士が何かを企んでいると確信して、後を追い機械室に行ったかな。

 

「隊長、先程の件ですが……」

「安心しろ、ダンがスパイなどと、誰も思っちゃいない」

「ハッ……しかし、博士の言っていたことの半分は本当かもしれませんよ」

「何!?」

「これを見てください」

 

ガラガラと机に目覚ましをぶちまける。

 

「この時計達が一体どうした?」

「これは私が、同じ日に購入した、ただの私物ですが……よく見て下さい」

「……二つだけ、二分ほど遅れているな」

「この二つは昨日、私が博士やフルハシ隊員に貸したものです。渡す前はピッタリだったのに、どちらもきっかり二分遅れてるんです! ……そしてこれは外のポインターに忘れていたもので、まるで他のと誤差は無い」

「つまり、ユシマ博士が滞在していた部屋の時計だけ遅れている、と?」

「おかしかったのは博士が乗って来られたジェットの機内時計もです……たった数分ですが、博士の周囲だけ時間が狂っているんです!」

「たったこれだけの事で……スパイは博士の方だとでも言いたいのか?」

「いえ、しかし……偶然でしょうか?」

 

その時、指令室の回線が鳴る。

「こちら機械室のウエノです! モロボシ隊員がユシマ博士を襲っています! 応援を!」

「なんだと!?」

 

駆け付けてみれば、通報通りに二人の男が揉み合っている。レンチを武器にしている博士より、どう見ても明らかにダンの方が優勢なのが笑ってしまう。確かにこれは揉み合っているというより、博士がダンに襲われている、だな。

なんとか二人を引きはがしたかと思うと、今度こそダンは腰からウルトラガンを引き抜き、博士へと向けるではないか! 

隊長が博士を庇い、アンヌが制止している間に、ダンからウルトラガンをボッシュートだ。危ないからね。

 

「見たかね諸君、この男は僕を殺そうとまでしたんだ。これではっきりしたでしょう……この男こそ宇宙人なんだ! スパイなんだ!」

 

論理の飛躍が過ぎますぜ博士。

 

「フルハシ、ソガ……ダンを独房に監禁しろ!」

 

……あちゃあ、駄目だったか……

 

「隊長、違います! この男の言うことを信じてはいけません!あとで酷い目にあいますよ!」

「ソガ、独房のカギはお前がセットして、くれぐれも目を離すな!」

「……ハッ!」

「宇宙人は博士のほうです! 離して下さい!」

「ええい、こいつはだいぶ重症だなぁ……」

「どうして僕のいう事を信じないんですか!」

「……その根拠を、お前さんが示さないからだよ」

「根拠ですって!?」

 

こうして独房に入れられるダン。

……と、その見張りに立たされる俺。

なんで……? これじゃあダンがセブンに変身できないじゃないか。

変身の邪魔だからとダンから腹パン食らうのは、もう少し後のはずなんだが……?

 

俺が首を捻っていると、やがて基地に警報が鳴り響き、宇宙船団の接近をキャッチしたと告げる。

しめた! これで離れられるぞ!

折よくビデオシーバーに着信がある。

みると映っているのは隊長の顔だ。

 

「ソガ! 何をしている! 早く上がってこんか! 出撃だ!」

「ハッ! ただいま!」

「……ところで、さっき機械室のタイマーが数分だけだが遅れていた。防衛軍の計器が狂っているなどありえんことだ! 人手が足りんから、代わりの誰かをやって、直させてこい!」

「……まさか……隊長ッ……!?」

「奴も勘の鋭いところはいいが、それだけではなく、お前の推理を見習って貰いたいものだな……急げよ?」

 

……オイオイ、部下の育て方がスパルタ過ぎやしませんか? 隊長?

成長の為にわざと独房入りってのは、もしも受けるのが俺だった場合は勘弁したい育成法だ。そんなスパルタで育った奴が教えるもんだから、後々レオが泣くことになるんだぞ!

 

「ソ、ソガ隊員……?」

「隊長がユシマ博士を見つけてこいってよ!」

「……ありがとう!」

 

どうやら独房の修理はしなくて済みそうだ。

……俺もさっさとウルトラホークで大空へ進むとするかな!

 

あとはもう特筆するべきことは何もない。

セブンとウルトラホークの前では、ビラ星人の宇宙船団など相手では無かった。

一機、また一機と墜落し、爆発炎上!

戦場となったホテルの庭園で、巨大化して睨み合うビラ星人とセブンを、煌々と照らすように、渦まく炎がうなりをたてて燃える!

 

……というか、時間停止なんてすげえ武器があるんだから戦闘にも使えばいいのに……いや、もしかして()()使()()()()()のか!?

確かにそうでも無けりゃ、直立したウチワエビみたいな、見るからに弱そうなビラ星人がセブンに攻撃当てられるわけないか……

どうやら、時間停止が使えるのも船団の旗艦に乗ってたボス個体だけみたいだし、さっさとトドメと行きますか。

最後の一機をレーザーで叩き落とし、セブンが真っ二つにした巨大ビラ星人の真上にシュート! 

 

どうだ見たか! 俺達こそが地球を守る警備隊、その名もウルトラ警備隊だ!

 




本編でも、この一件のおかげで警備隊の面々としても「ダンがまた訳のわからない事を言っているけど、多分合ってるんじゃない?」みたいな認識になったんじゃないだろうか。

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