転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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大義ある戦い(Ⅶ)

「ウソつき、人間の科学を信じろだなんて……、あんなウソつきの言うことが信じられるもんか! ふん!」

「オサムちゃん!」

「ダンさんは、ウソつきだ! 僕は死ぬ。……僕は手術をして死んじまうんだ!」

 

そこへ、柔和な笑みを浮かべたユグレ博士が現れる。

彼からすれば、手術の直前にこのような恐慌に陥る患者も何度か見たことがある。

安心させるように何度も頷くユグレ。

 

しかし、オサムは病室を飛び出し、逃走する。

 

「捕まえて下さい!」

「いけませんオサムちゃん!」

「離せ! 離せったら! 僕はダンが来なけりゃ嫌なんだ! 離せったら!」

「オサム!」

「うるさぁい!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

ウルトラ警備隊が見守る前で、金色のロボットが飛来した。

こちらの思惑通り、偽のラジオを聞きつけて、車を奪いに来たのだ!

 

脚部を折りたたんで姿勢を低くしたロボットは、行儀よくその場で食事を開始する。

用意された色とりどりの心づくしを、シオマネキを思わせる巨大な片手で引っ掴んでは、好き嫌いせずモリモリ平らげていく……それが毒入りだとは気づきもせずに。

 

「よし、そのまま隣だ……食べろ、食べろ……食べた!!」

 

ロボットの食事を双眼鏡で見張る俺。

原作じゃあ、乗用車ばかり食っていたから、スパイナートラックを食べてくれるか不安だったが、問題なく取り込んでくれて安心した。

出されたものを選り好みしないとはエライぞ。

 

しかし、あらかた食べて満足したのか、再びジェットに点火して離陸準備に入る。

結局食べたのは一台だけか……

 

用意できたスパイナートラックは三両。ロボットがどこから食事を開始して、車列のどの辺りまで食べ進むか分からなかったので、前と中央、そして後方にばらけて置くしかなかったのだ。

一つも食べられずに空振る可能性もあったのだから、それに比べたら随分マシだが……これはクレージーゴンも纏めて爆破とはいかんだろうな……

 

颯爽と飛び立ち、宇宙ステーションに戻るロボット。

それを追うように、木々の合間から2機のウルトラガードが発進する。

 

機首に白鳥と猛虎がそれぞれペイントされた戦闘機が雲を抜けると、その先では特徴的な巨大船が、帰還した金色の車泥棒と連結しているところだった。

 

「隊長、宇宙ステーションに着きました」

「やりますか」

「もう少し、待て」

 

キリヤマが見つめるモニターでは、爆弾につけられた子機の移動が開始されたばかり。

今爆発させてしまうと、爆風の大部分が連結部から漏れて、あの大型船を破壊できるか分からない。

 

「あと、13分……今から行けば、何とか間に合う……」

「よし、爆破!」

「はい!!」

 

 

ステーションは内側から一瞬で膨張し、張り裂けるようにして大爆発。がっちり固定されていたロボットも、連結ハッチが噴射口のように働いて、逃げ場を求めて猛烈に吹き出した爆風の煽りをモロにくらい、凄まじい勢いで吹き飛ばされていった……

 

大質量の物体が谷間に叩き付けられ、轟音が鳴り響く。

なんとも呆れはてた事に、これだけの衝撃に晒されながら、未だに原型を保っている金色の歩行クレーン。

だが、どんなに頑丈な機械とて、ここまで乱雑に扱われては中の機構が無事では済まないだろう。

 

誰もが敵の撃破を確信したその時!

 

弾道ミサイルもかくやと言うべき発射音と共に、真下から黄金の塊が飛び上がってきた!

 

「ああ……っ! ロボットが……」

 

信じられないといった様子のアマギが、ぽつりと漏らす。

指さす彼の声は若干震えていた。

 

このように強大な敵を放置して病院に向かう事など出来ない以上、もはや約束を守る事が叶わぬと悟るダン。

 

「オサム君、許してくれ……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

街の中心に、謎の機械生命が落着する。

着陸に適した平地でもなんでもなく、ビル街の直上に腰を落ち着けるなど、本来であれば絶対に採らないであろう選択肢だ。

 

大質量によって、鉄筋組みの建築物が容易く踏み潰され、斜めの状態で投げ出されるロボット。

しかし、尻餅をついた次の瞬間には、その場ですっくと立ち上がり、コンクリートジャングルを見渡す。

 

常にない着地の失敗が、顔から火が出る程に恥ずかしかったのか、側頭部から突き出す円筒じみた排気筒から、てんでばらばらに蒸気や炎を噴射しつつ、ガシャガシャと体を揺すって移動を開始する大型作業機。

 

「うわああ!! 助けてくれ!」

 

突然の襲来でパニックに陥り、足元を逃げ惑う人々を一切気にも止めず、右手の採掘アームを鉈のように振るって、周囲の邪魔な木々を伐採していく。

 

……なんのために?

 

地球には、5W1Hと呼ばれる言葉がある。

「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:何を」「Why:なぜ」「How:どうする」

 

物事を分かりやすく提示する際によく使われる考え方であり、他者に仕事を指示する際も、これらの要点を明確にする事によって、よりスムーズな意思疎通が可能とされる。

そしてそれは、AI制御の工業機械のプログラミングにおいても、基本的には変わらない。

 

柔軟な思考力を持つ人間よりも、よほど堅物で融通の利かない彼らコンピューターには、座標や時間、対象物など、必要な情報を過不足無く教えてやらねば、満足に仕事をこなす事もままならないからだ。

 

 

いつ? ……現在時刻14:51地球時間

 

どこで? ……現在座標《ポイントD38W》

 

だれが? ……当該機=歩行型資源回収装置No40

 

なにを? ……対象物【地上走行用ロコモータ】

 

どうする? ……回収プロセス適用

 

 

では……()()()()()()

 

5W1Hにおいて、人間にとっては最重要視されるにも関わらず、彼ら機械には例外的に入力されない項目があるとすれば……それは『なぜ』である。

 

作業機械とは本来、特定の仕事をさせる為に作成されるものであり、その用途に沿った形状、動作になるよう設計されている。

そしてその道具達を、適切な場所に配置し、適切な仕事をさせるのはそれらを作った人間の役目であって……『なぜそうするか』は必要がないからだ。

 

リンゴの皮を全自動で剥く機械があったとして、そのリンゴを何の為に剥くかは使い手が決める事。機械が知る必要も、術もない。

自分で食べる為なのか、はたまた病人の見舞いの為なのか……少なくとも必要であるから電源を入れられた。

 

なんのためにそれを行うのか? という部分は確かに物事の要点ではあるものの、機械群においては、その指令の発行元である人間達自身がそれを司っているからこそ、『なぜ』が未入力であっても正常な動作足り得る。

 

それはこの名も無きロボットについても同じであった。

なんのために車を集めるのか? 

それは作り手であるバンダ星人が鉄を欲していたからで、彼が回収した鉄はステーションに運ばれた後、別の工程でそれぞれの用途に沿った加工を成される筈であった。

その為の指令は全て、バンダ星人達が下してくれたから、素直に従っていればそれで良かったのだ。

 

しかし今や彼の造物主はこの世に居ない。

ステーション諸共、粉微塵に吹き飛んでしまったから。

 

彼の体が特別頑丈に出来ていたが為に、彼は爆発から生き残った。

……生き残ってしまったのだ!

 

いっそ、あの時に機体制御機構も全て破壊されていれば、どんなに良かったことであろう。

 

与えられた頑健さ故に、彼は創造主達に殉じる事すら出来なかったのである。

 

彼らのような機械は、正しく使われてこそ、その存在意義を満たせるというのに……

理性を司る使用者諸共、自身のアイデンティティが空の彼方へ吹き飛んで、ぽっかり欠落してしまったまま。

 

 

今や、彼に仕事を与えてくれる存在は居ない。誰も、彼の指令を更新してはくれなくなった。

いくら車を集めても、それを欲する人たちはもう居ないのだと、そんな必要はないのだと、優しく声をかけてくれる者はもうどこにもいないのだ!

 

もはやあるのは、爆発の前に下されていた最後の、そして唯一の指令のみ。

 

『鉄を回収せよ』

 

だから彼は鉄を探す。

 

それが集まっている場所がどこかも知らないが、少なくともここではない。

 

前進する……なぜ?

 

多目的アームで前方のコンクリート塊を破壊する……なぜ?

 

前進する……なぜ?

 

レーザトーチを発射する……なぜ?

 

両脚部で障害物を踏みつぶす……なぜ?

 

前進する……なぜ?

 

……なぜ? 

 

……なぜ?

 

なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?

 

 

……なんのために?

 

 

従者が主人を失ってはお終いだ。

……彼は正しく、狂ってしまっていた。

 

 

しかしその時、暴れ回るロボットの装甲を、突如として爆炎が包み込む!

いったい何事かと、逃げ回る人々が空を見上げれば、戦闘機がビルの谷間を縫って駆け抜けていくではないか!

 

地上の市民たちからは、迷彩塗装の施されていない機体下部が、炎を反射してきらりと煌めくのがしっかりと見えた!

 

人類の勇気は銀の羽!

 

「……あッ! 見ろ! ウルトラ警備隊だ!」

「ウルトラ警備隊が来てくれたぞ!」

 

傍若無人なロボットを倒す為に、ウルトラガードが飛来したのだ!

 

ぐるりと旋回する機首には、黄色い猛虎の姿がペイントされている……あれは二番機だ。

防衛軍でも屈指の耐G性能を誇るフルハシ、ダン両隊員のペアであれば、機体性能の限界まで加速した超音速飛行が可能なのである。

 

「……ステーションを破壊したのに、まだ動いている……見て下さい、完全に暴走状態です!」

「ちくしょう! なんてしぶてぇ野郎だ……まるでキチガイロボットじゃねえか! やっこさん、爆破のショックで頭のネジを左向きに巻いちまったらしい!」

 

とはいえ、ウルトラガードには機銃以外の武装はロケットランチャーだけ。

敵の円盤を迎撃するならともかく、巨大な怪獣と正面戦闘するようには設計されていないのだ。

 

それでもやるしかない!

 

懸架されたランチャーが立て続けに火を噴いて、巨蟹の甲羅にロケットの雨を降らせる。

一向に歩みを止めないロボットに、今度は正面から爆撃の嵐をお見舞いだ!

鋭い牙をむき出しにして、虎が蟹へと飛び掛かる。

 

本来であれば、回収作業中ならいざ知らず、装甲に対して効果の薄い攻撃など無視するところであるが、足を止めた巨大機械は、お返しとばかりにレーザーを発射してきた。

 

今の彼は、肉体を制御する理性(オペレーター)を失っているので、全ての攻撃に対して反撃する。

もはやcrazyを通り越してmadであるとも言えるが、警備隊にとっては朗報だ。

 

少なくとも攻撃を加える事で、注意を引いて足止めする事が出来るのだから。

 

そこへ白鳥がペイントされた一号機が合流する。

 

「なんという置き土産だ……」

 

キリヤマは、眼下に広がる街の被害を確認して、苦虫を嚙み潰した。

ただ車をムシャムシャと食んでいただけの敵が、()()()()()()()()()()()を理解せざるを得なかったからだ。

 

体の至る所から煙や蒸気を吹き出しながら、ハサミを振り上げ体を揺らし、轟音と共に街を破壊していく姿は、まるで二足歩行するスクラップ工場!

 

二機が交互に挟み撃ちを仕掛けるも、敵の分厚い装甲を打ち破れる気配は全くない。

少なくともステーションの大爆発を至近距離で食らったのであるから、なんらかのダメージがあるはずなのだが……自分達の放つ攻撃が、手負いの獣への最期の一押しになる事を願いつつ、猛攻をくわえる警備隊。

 

だが、その焦燥が仇となったのか、均衡が崩れる時が来た。

 

ロボットの頭部が怪しく輝き、青白い光線を放射する。

この攻撃は今までも繰り返されてきたが、敵の射撃システムではウルトラガードの機動を捉えられない筈だった。

 

しかし機体を追いかけるように撃たれていた今までとは違い、今回の光線は狙いが大きく外れているではないか。

爆発のショックも含めて、射撃システムが遂に異常を来たし始めたのかもしれないが……不幸な事に、それは二号機の旋回先を薙ぎ払っていたのである。

 

移動先に攻撃を置かれた……つまり不意の偏差射撃を食らったフルハシ機は、咄嗟に回避する事も出来ない。

ウルトラガードの薄い装甲では、光線を弾き返す事も出来ず、黒煙に包まれながら墜落していく……

 

「二号機! どうした、二号機!」

「ぐぁ……! ちっくしょう……!」

 

操縦不能の機体から、寸でのところで脱出したダンとフルハシ。

背後に落ちた戦闘機の事など知らんぷりで、そのまま街を破壊し続けるロボット。

 

二人は地上から敵の侵攻を阻止するべく、敵の側面にまわり込もうするが……

 

「ダン! 危ない!」

 

シオマネキの如き巨大なハサミが、力任せにビルを叩き壊すと、大量の瓦礫が飛び散った。

そしてコンクリートの飛礫達は、狭い路地を走り抜けようとしていたダンの頭上に、めいいっぱい降り注いだのだ!

 

「うあ˝ああッー!!」

「ダン! おいダン! しっかりしろ!」

 

 

―――――――――

 

 

頭部からだくだくと血を流し、フルハシの肩をかりながら、傷ついた足を引き摺って歩くダン。

白い病院の廊下を、滴る血液が点々と汚していく。

 

フルハシが手漉きの医師を探して視線を彷徨わせるも、辺りには傷付いた人々。

ロボットの襲来で発生した大量の怪我人が運び込まれていた。

浴衣姿の女性が、悲痛な顔で家族に電話をかけている。

 

たった1機の暴走機械によって、これだけ多くの人々が人生を狂わされてしまったのだ。

 

角を曲がった先で、見知った顔と何事かを相談する医者と看護婦を見つけたフルハシは思わず声を上げた。

恐らく避難計画について話していたのだろうが、それよりもダンは一刻を争う重傷なのだ。

担がれた男の一目で分かる負傷具合に、血相を変えて駆け寄ってくる医師達とアンヌ。

 

「あっ! 先生! お願いします!」

「おいキミ! どうしました!?」

「大丈夫です……」

「ダン!?」

「ダンを頼んだぞアンヌ!」

 

アンヌにダンを預けると、エレクトロHガンを担いで戦場に戻っていくフルハシ。

 

「アンヌ、オサム君は……!?」

「えっ……!?」

 

自身が負傷して尚も、ダンの口をついて出たのは、少年の名であった。

オロオロするアンヌに支えられるまま、手術室に飛び込むダン。

 

「オサム君!!」

「……ダン……?」

 

麻酔で朦朧とする意識の中で、待ち人の声に反応を返すオサム少年。

まだ手術が始まる前とは言え、清潔が信条の手術室に、砂埃と血で汚れた男が乱入しては、周囲の医師達から顰蹙の視線が突き刺さる事は免れなかったが……ダンはそれすらも平然と受け止めた上で、オサムに聞こえるくらいに声を張り上げて謝罪し、主治医に懇願した。

 

「待たせてすまなかった……! 必ず間に合います! ……お願いします!」

 

マスクで隠れたユグレ博士の表情は伺いしれなかったが、彼が真摯な瞳で深い頷きを返すのを確認してから、ダンは転げるように退出する。

 

それを追って手術室から飛び出すユキコ。

彼女が見たのは、つい先ほどオサムに力強く声をかけた時とはうって変わり、憔悴した様子で扉にもたれ、荒い息で喘ぐダンの姿であった。

 

「ダンさん、手当てを受けてください」

「いや、僕のキズのために……来たと……オサム君に思われたくないんです……」

「もういいんです。オサムは手術を受けています。さ、ダンさん!」

「さぁ、手当てをしましょ」

「ウッ……があ、ぐっ……」

 

頭を押さえ、床に膝を突く負傷兵。

ところが彼らの耳に、不穏な重低音が聞こえてくる……

 

……CLANG! ……CLANG!

 

「ハッ……、あれはロボットの……」

 

悪魔の足音は、着実にこちらへと近づいてきていた……

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「隊長、ロボットが……! 大変だ、あそこには確かオサム君の入院してる病院が!」

「何っ!?」

 

焦るキリヤマとアマギ。

狂ったように前進を続けるロボットの進行方向には、なんと病院があるではないか!

 

避難は進められているだろうが、手術中のオサムをはじめ、ベッドから動く事の出来ない重病人が沢山いるだろう。

 

だめだ、このままでは!!

 

 

……その時、ロボットの体が大きく傾いで、凄まじい勢いで倒れこんだ!

濛々と立ち上る土煙の向こうで、大蟹の足が地面を踏み抜いているのが見て取れる。

 

 

いったいこれはどうしたことか……?

 

 

困惑する隊長機の通信機に、場違いに陽気な声が飛び込んだ。

 

「待たせてすみませんでした! 隊長!」

 

アスファルトに亀裂を走らせ、銀色の円錐が屹立する。

地下のインフラをズタズタに引き裂いて、地中から現れた漆黒の機体が、病院を背に立ち塞がった!


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