転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ビター・ゾーン(Ⅰ)

「おお、ご苦労さん」

「別に異常はありません」

 

指令室で通報の確認から戻ったダンとアマギを出迎え、労う。

そうして休憩室へと向かうダンを追いかけようとすると、フルハシ先輩に腕を掴まれしまう。

 

「おい、ソガ! 最近どうした? ダンにベッタリじゃないか。休憩ぐらい一人でゆっくりさせてやれよ」

「いやあ、その間にさっきのパトロール資料を貰って、報告書を手伝ってやろうと……」

「ソガ……こんな事を言うのもなんだが……あんまり二人の邪魔してやるなよ」

「……ハア?」

 

フルハシがしばらく言いよどんでいたが、意を決したように小声で、俺の耳元へヒソヒソと言い放つ。

……え、何のこと?

 

 

「当ててやろうか、お前、ダンとアンヌが最近いい感じなのが面白くないんだろ……?」

「……え!? ちょちょちょ、ちょっと待って下さいよ! どうしてそうなるんです?」

「悔しいが、確かにダンが来るまでうちの色男といえば、お前かアマギだったもんなぁ……片方は生真面目にコンピュータが恋人となりゃあ……分かる、分かるぞ」

「待ってください、俺がアンヌに? ……いやないない」

「ウソを吐け! アンヌ隊員と言やあ、この極東基地きってのマドンナ。300人の隊員の憧れの的だぞ。以前はちょっと芋っぽいなんて言う奴もいたが、最近は特に色気づいちまって……」

「そりゃまあ、急に垢ぬけて、さらに可愛くはなりましたけど……それが誰のせいかは、一目瞭然でしょうに」

「だからこうして、心を鬼にして、かわいそうな誰かさんを引き留めてやってるんじゃないか。人の恋路を邪魔するなんて、主義に反するが……悪い事は言わん、やめとけって! お前の為を思って言ってるんだぞ」

「いや、ですからね、俺としてはダンこそお似合いだと思ってますよ」

「本当か……それにしちゃあ、最近やけにアピールが過ぎるぜ? 医務室の周りをウロチョロしたり、荷物を持ってやったり……」

「それは……」

 

仕方ないじゃないか!

オレは少女に擬態したピット星人を、正体の分からないうちからパラライザーで騙し討ちして麻痺させたり、問答無用で撃ち殺したりしたもんだから、アンヌからの好感度というか、信用度がマイナス方向に振り切ってるんだからさ!

普段は女子供や病人に優しいんだぞっていう面をチョットでも見せておかないと、マジで野蛮人だと思われかねない。

しかも、その好感度上げを短期間にしなくちゃならないってんだから、恋愛シミュレーションの早解きかってくらいハードモードなんだぞ!

 

別にアンヌとずっとお近づきになりたいんじゃなくて、オレとしてはたった一話分だけ信用して貰えればそれでいいんだからさ!

 

 

「もしかして……ストオカァの気でもあるのか?」

「失敬だな! だいたいね、僕にはこれでもガールフレンドがいるんです! 滅多なこと言わないで貰いましょうか!」

 

まだ中身が切り替わってからは電話だけで直接会えてないけど……

そう教えてやると、フルハシはひとしきり驚いた後、今度は俺を酷い女たらしかのような目で見てくる。違うそうじゃない!

なんでオレがこんな不名誉な扱いを受けなきゃいけないんだ……

それもこれも、全部あのピット星人とかいうクソアマのせいだ!

R1号が完成したら、撃ち込み先として真っ先に提案してやる!覚悟しろ!

 

というかそんな事よりダンだ、今見失うとほんとにマズイ!

後ろで通信員が変な電波とか言ってるから、絶対今日だ!

 

フルハシを振り切って、休憩室へと向かったダンの後を小走りで追う。

途中でアンヌの部屋の近くを通るハズだから、それまでに追いつかねば!

 

「おおい、ダン。また報告書を手伝ってやるよ」

「ああ、ソガ隊員、いいんですか? 指令部を離れて」

「いいんだいいんだ、そんなことより後輩育成さ」

 

すると、遠くからアンヌが悲鳴を上げて、ダンを呼ぶ声がする。

 

「ダン! ダン! 助けて! 部屋に変な生き物がいるの!」

「なにッ!」

 

そう言って、俺達はアンヌの部屋にすっ飛んでいく。

良かった、間に合った……

……でも今さ、確実にアンヌ俺の事スルーしたよね?

ダンと二人で立ってたのに、もう一人にはまるで助けを求めなかったな。

……案外強かな女だ。お呼びじゃないのは分かってるが、そんなに露骨だと、傷つくぞ。

 

アンヌの私室に飛び込むダン、いやー流石、モテる男は違いますわ。

普通、女性の私室に入るならもうちょっとなんかあるだろ。

彼女の部屋なら関係ないってか……?

……そうだよ、僻みだよ! 悪かったな!

 

「……何もないじゃないか」

「変ねェ……」

「……弱虫さん、あんまりびっくりさせないでくれよ」

 

そういってアンヌの額を人差し指でつつくダン。

ヒュー! 見せつけてくれちゃってまあ!

そんな指でコツン、なんて仕草、少女漫画でしか見たことないぞ!?

いいかフルハシ、女たらしってのはな、こういう奴の事を言うんだぞ!

 

「あ、ダン! あれよ!」

「誰だ! 出てこい!」

「誰なの!?」

 

腕に抱きついたアンヌを庇いながら、部屋の隅に蠢く漆黒の何かにじりじりと近づいていくダン

 

「危ないわ、ダン!」

「ライトを貸して」

 

アンヌに手渡されたライトを翳してみても、部屋のその一角だけ、真っ黒いままだ。

今度は雑誌を丸めてつついてみると、中へ吸い込まれてしまう。

 

「サ、騒がないでください……ワタシは、ワタシは……クルシイ!」

「誰なの?」

「ワタシは……ハァハァ……ある、遠い都市から……フゥフゥ……来た、ものダ……」

「どうしたんだ!?」

 

黒いモヤの中にいるらしい存在は息も絶え絶えといった様子で、事故を起こし重傷を負った事、手当は自分で済ませた事を伝え、このまま傷が癒えるまで、誰も呼ばす、そっとしておいて欲しいと懇願してくる。

 

その聞こえる声からだけでも伝わってくる痛々しさに、ダンも哀れみを覚えたのか、構えていたウルトラガンをそっと降ろす。

 

「本当の事を言おう……ワタシは……あんたがたニンゲンが信用できないんダ……怖いんダ! ……とても、怖くてたまらないんだ……」

 

彼の告白を聞いたダンは、完全に攻撃の意思を失ったのか、黒い存在を安心させるようにウルトラガンを腰に戻し、痛みに苦しむ声にじっと耳を傾ける。

 

「……アア……痛いなァ……」

「かわいそうに……痛むんだわ」

「うん」

「どこへも行かないで、そこで静かにおやすみなさい」

「ハアァ……許してくれますカ……?」

「ええ」

「ああ……! アリガトウ……!」

 

謎の存在の要望通り、そっとしておいてやる事にしたダンとアンヌは、お互いの意思を確認しあうように、深く頷きあった。

そして……

 

「「あッ!!」」

 

二人同時にしまった! と声を上げ、まさしく痛恨の極みと言わんばかりに後ろをゆっくりと振り向いた。

そうして、ようやく壁に腕を組んでもたれかかる俺の存在を思い出したのか、何度も頼み込むように手を合わせて懇願してくる。

 

俺がそろそろ壁とひっつきそうになっていた背中を離して、スタスタと黒い存在へ近づいて行くのを見て、息をのむ二人。

 

「ソ、ソガ隊員!?」

「安心しろ、どうかしようってんじゃない。隊長達にも黙っておいてやるさ。二人とも、俺を一体どんな奴だと思ってるんだ?」

「ソガ隊員……!」

「これで俺も共犯だな。……いや、別に仲間外れに放っておかれたからって、拗ねてるわけじゃないぜ? 呼ばれもしてないのに勝手についてきたのは俺のほうだからな? ええ?」

「ご、ごめんなさい……」

 

そういって俺は黒いモヤの前に一本のボトルをドンっと置く。

 

「そら、水だ」

「アナタは……?」

「ソガだ。……怪我をしてるってんなら、とにかく水分が要るだろう? 安心しな、毒なんて入ってないさ……もっとも、この星の水を、お前の体が受け付けるかどうかは、知った事じゃないがね」

「水ダ! ア、アリガトウ……水質はコッチで調べるカラ……そっちを向いててくれないカ……?」

「やれやれ、注文の多いお客さんだな」

 

俺の様子を見て、安心したのか笑顔で頷くダンとアンヌ。

ダンとアンヌとペガッサと、信用を得なけりゃイカン相手が多すぎる!

さて、どうしたもんかなぁ……

 

 




さあ、本編6話ダーク・ゾーン開始です。

俺はこのお話が大大大好きで……大嫌いなんですよ。

でも、どうしたもんかなぁ……

八話において〇〇〇の〇〇〇〇は?


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