転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
呆気にとられたように動きを止めたガッツ星人達は、またしても互いに顔を見合わせて、相互認識のすり合わせを素早く行った。
即ち、目の前の地球人の言葉を理解出来なかったのは、偶々、自分という個体がエラーだったという可能性を排除する必要があったので。
そして、誰一人として思考経路に問題が無い事を確認してから、ソガに返答をよこす。
『貴様の理論は支離滅裂だ』
『戦闘行為を行わずして勝敗が決するなどありえない』
「……あのですね。前提条件をしっかりさせておきたいんですけど……アナタ方は『勝ちたい』んですか? それとも『強者でありたい』んですか?」
『勝利した者こそが強者だ!』
「じゃあ、強者として振る舞いたい、という事で……おK?」
『……そうだ、我々の強大さを、全宇宙に知らしめる事こそが、絶対の使命だ』
「まあ、セブンを倒して名を上げようってんだから、そうだろうと思ってたけどさ……」
その返答は、ソガにとっては予想通りだったらしいが……
「あーあ! もう全然ダメやんか! なーんも分かってへんわ! 閉廷! 解散! 残念ですが面接は以上です」
『待て、理不尽に我々を否定する事は許容できない。説明を要求する』
「説明も何も。俺はね? あーやっぱりガッツ星人強すぎるわと、敵ながらアッパレ! それでこそガッツ星人やと感心してたわけ。引き分けとかならいざ知らず、セブンを相手に完全勝利を成し遂げるような強敵は、後にも先にもガッツ星人ただ一人! セブンの戦った敵の中で最も強大な敵たり得たのは、それはガッツ星人をおいては他にはいないと! そう考えとったわけですよ!」
『ホ……ホウ?』
「ところが! 蓋を開けてみればどーですか!? とんだ肩透かしもえぇところ! ガッツ星人がこんなに軟弱な敗北主義者だったとは! ぶったるんどる! ガッツを出せ、ガッツを!」
『なんだト!?』
「自分達がいったいどういう戦い方をしたのか、そのスーパーコンピュータ顔負けの天才おつむで、もっぺん考えてみたらよろしいわ。ええか? まず、怪獣を捨て駒にしてセブンの性能を丸裸にします。次にセブンに対して最も有効な戦術を組み立てます。極め付けには、万が一にも負ける可能性を無くす為に、先にセブンの味方をボコボコにした上で、地球人を人質にします。 ……完璧か!? もうこれは蟻の這い出る隙間もない程完璧なんよ!? ぼくのかんがえたさいきょうの地球侵略以外の何者でもない! 誰がここまでしろと言った? 宇宙一の策謀家の名声を欲しいままにせんと気が済まんのか? 頭にちっさいチブル星人載ってんのかい! これで勝てねば貴様は無能だ!」
『ま、マァ……当然の事ダ』
罵声を浴びせたいのか、それとも持ち上げたいのかサッパリ分からない文句を聞いて、ガッツ星人は面食らいながらも、僅かに満更でもなさそうに喉をならした。
男の言葉は、語気の荒さを考慮しさえしなければ、明確にガッツ星人の計画を褒め称える内容であると気づいたからだ。
攻め入った星の住人から、それも完全に屈伏させる前の者から純粋な称賛を浴びるというのは、ガッツ星人をして初の経験だった。
これで、ガッツ星人の強さに対し、第三者からの正当性が得られ……
「だから駄目なんよ!」
『どうしてそうナル!?』
あまりの驚愕に、ついつい吼えてしまうガッツ鳥。
「あんな? メタを張る……つまり相手を研究して、傾向と対策をしっかり立てるという行為はな? ……【弱者】の戦い方やねん!!」
『……?』
「普通に真っ向から挑んでも勝てへんから、弱点ついたりするんであって……相手を研究しようとした時点で、その相手を強者と認めて、自分をその下に置く行為に他ならんわけよ! わかる? 相手の動きを封じて、出落ちを狙うってのはなぁ……」
ソガは、溜めに溜めて、ずっと言ってやりたくて仕方なかった特大の爆弾を落っことしてやった。
「
……つまりはそういう事だった。
彼はずっと、侵略者や怪獣といった、明らかな格上に対して、原作知識というチートを駆使しつつ、まさに手段を選ばず戦ってきた。
……と同時に、それが決して誇れるような事でもないと自覚もしていた。
セブンやウルトラ警備隊が、絶対に使わないであろう汚い手をとった事も、一度や二度ではない。
ただそれは偏に、それらを食らわせるべき相手が強すぎるから、死に物狂いの中で手段を選べないのであって。
ましてやその結果で得た勝利を、誇った事など一度もなければ、下した敵よりも自分が上等だなんて吹聴しようともしなかった。
彼にとって、真に誇るべき存在は、大いなる正義の為に、素面で命を懸ける人々だけであり、自分のような小手先のカンニング行為が許されるのは、彼が身を投じる戦いが、生きるか死ぬかの生存競争だから……という事に他ならない。
勝つ為には手段を選ばない……戦いに臨む上で最も正しい在り方。
しかし、手段を選ばなかった時点で、勝利を誇る資格は決してない。
それが、彼の信条だった。
泥臭くて薄汚い、弱者なりの矜持であった。
それなのに……自分と同レベルの行いをしている者が、こともあろうにあのウルトラセブンを、彼の大事な友人を槍玉に挙げて、その尊い精神の気高さを踏みつけ、嘲笑ったのだ。
彼は、ガッツ星人がただ純粋な勝利と実利だけを追い求めた結果として、このような方法を採ったなら、同意とともに深い頷きを返しただろう。
だが、そこに付随する名声や栄光までをも欲する事だけは、決して、許しておく事が出来ないのであった。
尤も、それだけではない。
警備隊の激務からくるストレス。死と隣り合わせの戦場に身を置く狂気。容易くこちらを踏み潰してしまう巨躯への根源的な恐怖。そしてソガという男に対する責任。
いくら、外見の器がそうあれかしと誂えられていたとは言え、もとは単なる一般人に過ぎなかった男が、耐えられるものではない。
彼の精神はとっくに摩耗し、限界ギリギリだったのだ。
溜め込みに溜め込んだ、あらゆる負の感情が、吹きこぼれる寸前の鍋の如くシュンシュン湯気を立てていたのが、仲間達との軋轢や、ささいなミスとして表出化しはじめていたところへ……
不運にも彼らはやってきてしまったのだ。
なんなら、最悪のタイミングであった。
超特大のストレスとして、モロボシ・ダンへの後悔を自覚し、最大限に恥じ入った直後だったのだから。
端的に言って、ソガは、完全にブチギレてしまったのである。
「わかる? セブンはな? ただでさえ凄まじい縛りプレイ中なの。デュワっと放った光線が、敵に避けられた時、後ろに俺達がいたら大惨事不可避。そうでなくてもビルに掠っただけでバカヤロー案件なわけ。いちいち攻撃の度に射線も考えなきゃいけないし。宇宙の平和を守る者として相応しい立ち振る舞いも要求される。平和は守る、ルールも守る。両方やらなくっちゃあならないってのが、正義の味方のつらいとこだな。 ……ところがどうだい、おたくらは? 適当に撃ったミサイルが、セブンに当たろうがホークに当たろうが、街に着弾しようが、なんなら山に落っこちて木一本燃やすだけでも戦果アリだ。地球に損害を与えた事には変わりない。とんだイージーモードもいいところ! えーマジ? イージーモード!? キモーイ! イージーモードが許されるのは、小学生までだよねぇ!?」
『イージーモード……?』
「セブンは凄まじいハンデを背負った状態で戦ってるんだから、そのセブンとイイ勝負してる時点で、そのハンデ分負けとんねん!」
『何っ!? 我々は決して、接戦を演じているわけではない! 見ろ!』
ガッツの指差す画面の中では、彼らの狩りが大詰めに入るところであった。
――――――――――――
幻影に対してワイドショットを連発したセブンは、まさに疲労困憊といった様子で膝をつき、その額では緑色のビームランプがゆっくりと明滅している。
これが、警備隊員の装備であるカラータイマーの点滅であればまだしも、この時のセブンは、そのような物は有していない。
彼のランプはまだ、単なるエメリウム粒子変換機構でしかなく、そこに供給される太陽エネルギーの量が既定値に満たない瞬間が発生した為に、機能不全に陥って、発光つまり変換が出来ないでいるのだ。
エメリウム粒子は、決して攻撃の為だけのエネルギーではない。効力を調節すれば、他の生命を活性、正常化できる事からも分かる通り、本来は肉体に正の作用を齎すものである。
これを自前で精製する能力が、同族の中でも極めて高いからこそ、セブンは地球人に憑依する事無く、地球人の姿を保ち、環境の異なる星に長期間滞在できるのだ。
つまり、セブンの肉体構成において重要な位置を占めるこの粒子は、額から常時産出されなくてはならないものであり、この精製が阻害される事は紛れもなく異常な事態。
カラータイマーは点滅する事で活動限界を知らせ、エネルギーを最低限度保持するストッパーの役目を果たすが、今のエネルギーランプはいわば電池切れや接触不良で、本来想定されていない動きをしているに過ぎない。
それは、彼のエネルギーが底をついたというサインであり、もはや戦闘力の枯渇どころか、これ以上闘えば生命維持すらも危ういという事である。
『デュ……ワ……』
セブンの限界を見てとったガッツ星人は素早く、次なる段階へ、即ち追い込みからトドメを刺す為の行動へシフトチェンジする。
これまでガッツ星人は、幻影やバリアで、敵の攻撃を躱し続け、光線を反射する程度にしか手を出していなかった。
セブンが息も絶え絶えになっているのは、躍起になって全力を出し続けたせいであり、それは『自業自得』というものだ。
だが、これからは……違う。
二体に分身したガッツ星人は、これまで量子的な揺らぎの最中にあった自身の体を、観測強度を強める事で完全に空間へ確定化。実体化した脚部で蹲るセブンを思いっきり蹴り上げた!
鱗に覆われた
ヘビクイワシの如き、猛烈なピストンキックの連打! セブンの躰がかち上げられ、よろめいた先でもう一体からの強烈な蹴り返し!
二足歩行の獲得により、ガッツ星人の頭部は通常の鳥類よりもさらに肥大化している。見た目通りに尋常な重さではない。そんな、ただでさえ重量のある頭脳を常に支え続ける事により、下半身の発達もさらに促進されるという好循環。そうして鍛えられた強靭な足腰から、鋭く放たれる足技の数々で、セブンを左右からお手玉してしまうガッツ星人。
エネルギー不足と深刻な肉体ダメージで、セブンがその場から一歩たりとも動けなくなった事を確認すると、ガッツはその両目からワイヤー状のビームを放って彼を雁字搦めに拘束してしまう。
そうして万が一の可能性すら排除した上で、彼らはセブンに敗北という概念を粒子状にしたものを叩きつけるのだ。
彼らが丹精込めて塗布した、敗者のレッテルは、予め準備していたガッツ星人お手製の、強化ガラスのように煌びやかでかつ強固な拘束具と適合し……亜空間から呼び寄せた透明な十字架に、セブンをすっぽりと収めてしまった。
自身の下した強者というトロフィーを、ショーウインドウの中で踊るマネキンのようにしてしまうこの納棺作業をもって、ガッツ星人の勝利が確定する。
嗚呼――卑怯と言うなかれ。ガッツ星人は粗にして野だが、卑ではない。
今回は偶々、その目標となったウルトラセブンが搦手にすこぶる弱かったが為に、このような迂遠な手を使っただけであり、肉体が貧弱な訳でもなければ、敵を甚振って喜ぶ趣味がある訳でもない。
ただ、こと戦闘という部分において……ただひたすらに容赦が無いだけだ。
強さを貴ぶガッツ星人は、戦闘という格付け行為を絶対視すると同時に、ある意味神聖視しているとも言える。そこで手を抜くという事は、相手に対する最大限の侮辱にも等しい行為であり――仮にも最強たるガッツ星人の相手に相応しいと、他ならぬ自分達が認めた相手なのだから、全力をもって相手をする事こそが、対戦者に対する最上級の賛辞であり礼儀なのだ。
彼らが求めるものは単なる勝利ではない。ガッツ星人の経歴を飾るのは、その全てが、圧倒的で鮮烈な勝利でなくてはならない!
対等な土俵に立っての辛勝など、全くもって意味が無く、誰もが認める強者を、手も足も出ない程完膚無きまでに叩き伏せててこそ、初めて勝利と言えるのだ。
そうガッツ星人は、戦闘に対して呆れる程真摯であり続けただけである。
その結果として、常に最大効率のオーバーキルを信条とするようになっただけの話だ。
それを……
―――――――――
……この地球人は。
『ドウダ、せぶんノ、敗北ガ、今マサニ確定シタ!』
『気分はどうだ地球人これでもまだセブンの勝ちだと言い張るつもりか』
決定的な瞬間を見せつけられた男は、やがて口を開いて――
「それがどうした!」
またしても呆気にとられるガッツ星人。
「いいことを教えてやろうか、ガッツ星人。この世で一番、強い台詞……つまり宇宙最強の言葉をな。それがどうした、だ。ほう確かにセブンが負けたらしいな……それがどうした? 日本では……あ、いや
『いや、それはない』
「なんだと……?」
『貴様を解放すると、セブンの生存確率が0.7%程上昇してしまう。セブンの処刑が完了するまで、貴様にはここにいてもらう』
「……は?」
ソガは、致命的な失敗を犯していた。
活躍しすぎて星人に目を付けられないように気を配っていたつもりでも、ガッツ星人の目は誤魔化せなかったという事だ。
忽ち彼の顔に焦りが浮かぶ。
「それは……困る」
『ホウ……』
……命乞いか。
目の前の生物が、全く理解しがたい存在なのではないかと、言い知れぬ不安を抱きかけて――ガッツ星人にソンナ感情は存在シナイ!――いたところへ、ようやく分かりやすい、それもある種でガッツ星人の求めていた反応が返ってきたので、人心地つけた。
大抵の星は、ガッツ星人が圧倒的な力を見せつければ、容易く屈服してきた。そして、それが最も賢明な選択なのだから当たり前であるとも。強大な存在の庇護下に入る事は生存に置いて、非常に重要な事であり、ガッツ星人は庇護下の存在にはそれなりに寛容であろうとしている。それが統治において最も効率的であると同時に、強者たる者のふるまいだと理解しているのだ。
彼らが他星への挑戦時に、その標的とする者以外の命、特に民間人や、ガッツ星人の相手にすらならないような戦士の命を徒に取らないのも、そういった考えからである。
いずれ、自分達の所有物となる資源を、なぜ自分達自身の手で浪費しなくてはならない? それは馬鹿のやる事だ。
……尤も、反逆するのであれば、別であるが。
この男もようやく軍門に下る気になったか。さあ、吐け。自身の保全の為に。今までの無礼も、こちらを上位だと認めるならば、許してやらん事もない。言うのだ『地球をあげます』と!
男の口がよく回るように、ガッツはわざわざ水をむけてやった。
『なぜ困るノダ……?』
「ここにいると、円盤ごと隊長達に吹き飛ばされるので……死にたくありません」
『……ハ?』
「唐松インコと犬死には……いやーきついっす」
三度、ガッツは顔を見合わせた。
そして、今度は努めて優しく……理解力の乏しい雛か何かへ語り掛けるように、確認を取った。
『貴様、自分の状況が分かっているのか?』
「状況……?」
『貴様が乗っているのは、ただの拘束具ではない。我々の操作ひとつで、自由に電流を流す事が出来る。拷問具であると同時に、処刑台なのだ。いつでも貴様を殺せるノダゾ?』
「……それが? どうしました?」
『貴様さては……馬鹿ダナ?』
『ウルトラ警備隊の脅威度を三段階下方修正』
「いや、その機能を使う必要ないっしょ?」
『貴様がこれ以上、舐めた事を言えば、すぐに口を塞ぐ必要がある』
「いやいや! あり得んでしょ! 事もあろうに無敵のガッツ星人が? 俺を? 殺す? いやないない。だって、それって、俺に対して負けを認めるって事だよ?」
『なに?』
「だってさ、ガッツ星人が怒るってことはさ、俺の言ってる事が図星だってことでしょ? というか万が一図星であったとしてさ、本当の強者だったら、そんなの気にしないよね? だって『無敵』なんだもんね? それはどんな侮辱にも耐えうる強靭な精神を持ってるってことでさ……よりによって、銀河最弱の野蛮人たる地球人ごときの言葉に心がささくれ立つとか、あまりにも雑魚すぎるでしょ。いや、俺の知ってるガッツ星人は、そんな事しないね。獅子は兎を殺すにも全力とか言うけど、それは満足に狩りのできない飢えたライオンで、本物はハーレムの頂点として寝てるからね? ライオンの周りで虫が鳴いてても怒ったりする? いや人間でもしないわ、むしろ地球人は、秋の音色として虫の声を楽しむ余裕すらあって、つまりそれはガッツ星人よりも精神的に超越してるってこと? 怒るってのはさ、『負け』なのよ。分かる? 分かれ。そんなに殺したきゃ、さっさとやれよ。セブンにすら勝った相手がそんなちゃっちい器だとは思わんかったけど……」
『グゥ……』
宇宙には、命乞いをしつつ、敵の油断を誘う手合いもいる。シャドー星人やプラチク星人の潜入部隊がよく使う手だ。そのような手合いも、鎧袖一触にしてきたガッツ星人も、よもや自分から死にたがるような相手は初めてだ。
ほとほと対応に困ってしまった。
「その上で言わしてもらいますけど、俺を攻撃した瞬間、俺達の間に戦闘行為が発生したことになって、つまりはガッツ星人は地球人と同等だと、そういうことになるんですわ、戦いってのは同じレベルの者同士でしか発生しないわけでさ。そんな雑魚相手に、地球人が負けを認めると思う? いや思わないね。だって、俺はウルトラ警備隊の恥さらしとか言われるくらい弱虫なんだけどさ、その俺ですら負けを認めてないのに、いわんや他のみんなはどうよって話なんですわ。」
『貴様……やはり馬鹿ニシテイルナ?』
「馬鹿にしてるだって……? 滅相も無い! だってあのセブンが手も足も出ない作戦を考えられるって事はすげえ賢いってことじゃん? そもそも、絶対に勝てる弱っちい相手にだけ戦闘を仕掛けるってのも、だいぶクレバーだと思うし、あんなつよつよバリア持ってるのに、地球人が怖いから万が一にも負けないように人質とるってところも、オレは心の底から尊敬してるよ。それオレの一番好きで得意な戦法だもん」
口を尖らせて、非常に悔し気に言い放つソガ。まさしく本心から言っているのであろうことは、ガッツ星人でなくとも見て取れる。
「でもねぇ、流石にこんな手は思いつかなかったね。なにせ、自分達より圧倒的に
『待テ、ソレハ、聞キ捨テ、ナラン』
「え、でもオレが防衛軍で臆病者って呼ばれてるの知ってるよね? オレのコト調べたんだもんね?」
『確カニ、ソノ情報ハ、アル』
「じゃあ合ってるよね? ん? ああーー!! しまったぁー!! あの勇猛果敢、常勝無敗、戦場の魔術師ガッツ星人を? こともあろうにオレなんかと同列に扱ってしまったぁーー!! こんなことしたらオレ、殺されちゃうんじゃない? あーでも、別にそれもいっかぁ。そしたらオレの『勝ち』が確定するわけだもんな。ガッツ星人は一生オレに勝てないわけか。こんな弱者に負けるなら、死んだ方がマシだもんな。あーあ、普通に戦えば普通に勝っただろうに、わざわざ自分達で自分達の戦いに泥を塗るなんて、ガッツ星人哀れすぎん? ああガッツ……かわいそ……なんでガッツすぐ負けてしまうん? ううぅ……アァンマリダァ……! それもこれもガッツが足りなかったばかりに……シクシク……」
挙句の果てには泣き真似までする始末。
ここにもし地球人を連れてきて彼の様子を見せれば、それが例えアマギでなかったとしても「あ、こいつ楽しんでやがるな」という事が分かった筈だ。
それぐらいには、調子に乗っているソガ。
彼とて、余りの怒りと勢いで『ガッツ星人に喧嘩を売る』という自殺行為を行った事に気付いた時にはもう遅く、文字通りサァっと血の気が引いた。
しかしそれで逆に冷静になってしまい、ふと改めて状況を鑑みた時に……こう思ったのだ。
「これもしかして使えるんじゃね?」
……と。
なにせ思った以上に、彼の挑発へガッツ星人が食いついてきたのがいけない。
意想外の僥倖だったとすら言える。
そして、とっくにソガの中では「適当に騙くらかして、打開の糸口を見つけよう!」という段階から「多分これ騙せるわ」へと意識がシフトチェンジしていた。
あのガッツ星人を、単なる地球人が口先一つで欺こうなどと……画策しただけでも、とんだ思い上がりとしか言いようがなく……確信したというならば、それはもはや、舐めている。
ガッツ星人の嗅覚と指摘は正しかった。
彼は、ガッツ星人の『戦い方』を馬鹿にしていたのではなく……『ガッツ星人を』馬鹿にしていたのだ、心の底から。本気で。
本人的には無意識であったが。
惜しむらくはただ、ガッツがテレパシーを使わなかった、否、使えなかったばかりに、その両者の間にある微妙な違いが分からず、勘違いを加速させてしまった事であろうか。
もっともらしい顔で、正論という棍棒を振りかざす野蛮人が、心の中では舌を出して嗤っている事がバレていたら、ソガは確実に死んでいただろう事は間違いない。
ではいったい、その謎の自信はどこから来たのかといえば……
生き物とは常に、心の赴くままに暴力を振るっても構わない『弱者』を、隙あらば見つけようとするものである。
相手の反撃できない位置から、一方的に他者を好き放題貶めるという行為ほど、人が夢中になれる娯楽はない。
好き好んで他者の揚げ足をとっては、散々悪し様に言う事にかけて、銀河でも地球人の右に出る者はいないだろう。
まさしくソガも、そう言った行為において天下一品の腕を持つ人種の一人であった。
だが、彼は善良な小市民であったから、普段はそんな経験はやりたくてもできやしない。
ところが今回、事もあろうに自分が決して敵わないような強大な存在、それも超有名な大物悪役相手にそれができるとなればどうなるか。
ソガの脳内では、ただでさえ生命の危機に晒された事でアドレナリンがドバドバと放出されていたのに、そこへ間欠泉のようにドーパミンが噴出し、際限なく降っては湧き、降っては湧きを繰り返す事で、たちまち頭の中が脳内麻薬のナイアガラと化した。
メトロンの毒タバコなど、比ではない程の中毒性をもって、かつてない興奮状態に陥るソガ。
これが普段であれば、臆病で小心者な性質が鎌首をもたげ、『死にたくない』という理性が歯止めをかけるのだが……
そんなブレーキは、とっくにフルハシが力任せに捩じ切ってしまっていたので、もう止まらない。止まれない。
クレージーゴンもかくやというべき無敵の暴走特級がここに爆誕した。
あとは秒速700キロで突っ走れ。
「セブンを拘束して即勝利とはとんだ腰抜けの集まりじゃのう、ガッツ星人。リーダーがリーダーなら……それも仕方ねェか……!! “ガッツ星人”は所詮……先の時代の“敗北者”じゃけェ……!!」
いくら虫けらのさざめきといえど、流石に堪えるのが辛くなってきた宇宙人。
ハァハァと、興奮で息を荒げだしたガッツが震えた声で問う。
あまりにも今の一言は、聞き流すには強烈にすぎた。
『敗北者……ダト……?』
「あん?」
『取リ消セ……!!! 今ノ言葉……!!!』
「ハァ? アンタ馬鹿ァ?」
口の端をひんまげて、これでもかと憎たらしい顔を披露すると、一息で捲し立てる。
「取り消せだと……? 断じて取り消すつもりはない……! 」
『ッ!?』
「そりゃあそうだろうが? 地球の守護者セブンに阻まれ『地球の支配者』になれず終いの、永遠の敗北者が“ガッツ星人”だ。どこに間違いがある……!? 無敵、無敵と配下に持て囃されて……闇討ちまがいの茶番劇で銀河にのさばり……何十万年もの間、ガッツ星に君臨するも 『勝者』にはなれず……何も得ず……!! 終いにゃあ自分達でそれも貶め……!! オレに言わせりゃ、たかが雑魚の惑星相手に睨みを利かせたぐらいで“無敵”気取りとは笑わせる……!! 実に空虚な人生じゃあありゃあせんか? 宇宙人は正しくなけりゃあ、生きる価値なし!! お前ら侵略者に生き場所はいらん!! “ガッツ星人”は敗北者として死ぬ!! スペースデブリにゃあ誂え向きだろうが!」
溜まりに溜まった鬱憤を潤滑油にして、ソガの頭脳と舌の根が普段より数倍の滑りを獲得し、凄まじい勢いで回転を始める。
マシンガンのように噴射した持論と罵詈雑言が、雨あられとガッツ星人に降り注ぐこと矢の如し。
まさに立て板に水。
あまりの勢いに、頭でっかちな星人は、豆鉄砲を食らったような顔で立ち尽くすばかりだ。
「あの、なんだろう、とにかく侵略者がイキるの止めてもらっていいですか?」
星人の優れた聴覚がそれらを一言一句聞き逃さずに捉えると、圧倒的な理解力でもって中身を吟味し始めて、それに対する正しい返答を考え始める宇宙鳥人。
ソガが何かの言葉を投げかける度に、どんどんと人数が増えて、あーでもないこーでもないと別人格が議論を紛糾させていくガッツの脳内会議。
ガッツ星人の権謀術数は、あらゆるデータを根気強く収集し、それらを慎重に検討した上で、熟慮に熟慮を重ねた事によって発揮される。
故に正確無比で、恐ろしいまでに非の打ちどころのない計画が実行された時、その標的にされた者は、もはや何人たりとも逃れる事は出来ないのだ。
「こんな作戦考えられるなんてかしこいね♪ 死ねよ。雑魚インコがよ。しかしその計画力、誉高い」
そんな高度な知能を持つガッツ星人であれば、目の前の男の理論が、どれもこれも微妙に破綻しており、敢えて取り上げるべき実のある話ではない事など、いずれ分かるだろう。
しかし……その答えを出すには余りにも時間が無かった。
情報をよく噛み締めて、吟味し、じっくりと考えるには、ソガが有り得ないくらいに喧し過ぎたのだ。
「僕の彼女というか妻というか細君というか奥さんは、プロテ星人ですら勝てなかったくらいの圧倒的強者? といいますか? もはや宇宙最強なんですね。だって彼女は戦闘員でもなんでもない身であるわけでして、でもスパイより強い。可愛いは正義という人いっぱいいますけど、じゃあなんでっていうと、僕を愛しているからなんですって。キミにはそういう人います? まだ? じゃあソガクンの方が強いですよね」
彼はもう随分と気持ちよくなって、その場で思いついたある事ない事を好き勝手に吹聴するだけで良かったので、ガッツ星人の情報処理能力を完全にパンクさせる事に成功した。
恐ろしい程に硬度の高い暗号文を入手したと思い、非常に有能な暗号解読のエキスパート達を総動員して、ようやっと解読に成功したと思ったら、それが単なる薩摩弁の恋文であった時、人はそれをなんと呼ぶだろうか。
……徒労だ。
たった一枚の手紙へかかずらわっている間に、彼らの貴重な時間が浪費されて、より重要な議題をスルーしてしまったのと同じ事が、ガッツ星人にも起こっていた。
なにせ、ソガのふっかけた議論に最初から中身などないのだから。
「今のままではいけないと思います。だからこそガッツは今のままではいけないと思っている」
ガッツ星人の、妥協を許さぬ完璧主義的な在り方が、今回ばかりは仇となった。
全ての物事を多角的に考えて、最適解を導こうとするガッツ星人の目の前で、未だに得意顔のまま講釈を垂れ続けているのは、ただの地球人ではなく……ソガなのだ。
話の中身や情報の確実性よりも、相手を言い負かす為の膨大な文量と、勝ち誇らせる暇をも与えぬ返信の瞬発力こそがなによりも最重要視される、平成・令和の厳しい情報社会の中で培われた感性を持つ男。
それが彼だ。
よりによってこんな男に、そんな宇宙人の相手をさせるなど……
まさしく『役不足』というものだろう。
これがゴドラであれば、残忍な高笑いと共に、忽ちソガを縊り殺していただろう。
ちゃぶ台の向こうにメトロンが座っていれば、鼻で笑って、とりあう事も無かった。なんなら、ウィットに富んだジョークの一つでも切り返してきたかも知れない。
お堅いぺダン軍人を侮辱しようものなら、拷問だ! とにかく拷問にかけろ! となった筈で。
ペガッサやマゼラン星人? よしてクレ、野蛮人と話が通じる等と思われタラ、こちらの程度が知レル。
だが、ガッツ星人は非常に思慮深く、挑戦者に対してどこまでも真摯である。
鷹の如き気高さと獰猛さを、梟の瞳のように透徹した知性で覆い隠した、銀河に羽搏く猛禽。
それがガッツ星人だ。自他共に認める戦人。
……ところが、このソガにとってはそうではない。
ガッツ星人にとっては非常に運の悪い事に……彼の中では、既にガッツ星人の格付けはとっくの昔に終了していたので、いくら策を尽くそうが、その順位が変動する余地は全くなかったのである。
……そんなわけで、いかに宇宙広しと言えど、よもや無敵と名高いガッツ星人に、あろうことか口喧嘩を挑んで来る愚か者など、皆無であった。
だから、これは彼らにとって初めての経験で、全くの未知との遭遇であったのだ。
雑な言い方をしてしまえば……
ガッツ星人は種族単位で、致命的なまでに、レスバに弱かったのである。
「というわけで、キミ達が人類に勝利することは、残念ながら、無理です。はい論破。証明終了QED! 俺の勝ち! 何で負けたか、明日までに考えといてください。そしたら何かが見えてくるはずです。ほな、地球いただきます!」
如何に慎重派といえど、そろそろ限界を迎えそうなガッツ星人。
あともう少し続けていたら、数百万ボルトの電流が彼の躰を駆け巡り、一瞬で炭素の塊と化していた。
だが……
「そんなガッツ星人に、朗報があります。実は、ここからでも入れる保険があるんです! これをすれば、地球人とて、負けを認めねばなりませんね」
『それはナンダ!』
「さっきも言った……縛りプレイです」
『縛り……?』
なんだその言葉は。
「確かにガッツ星人からしたら、地球人と正面切って戦うなんて、とんだおままごとでしょう。分かります。そもそもの難易度が低すぎて、満足感が得られない。そんな熟練プレイヤーにこそ許された、神々の遊び、まさに酸いも甘いも知り尽くした強者に相応しい戦い方こそが、縛りプレイ! 自分に敢えて枷を付けて、挑戦するんです! 慢心せずして何が王か!? どうです? あなたの人生、せめてノーマルモードくらいは挑戦したら?」
『それは……』
「ああもう、理解が遅いなぁ……分かりやすく言ってあげましょう」
ソガは、四肢を拘束されたまま、大の字ですぅと限界まで息を吸い込みむと……
そうして、胸の中の空気を全て吐き出して咳き込んだ後、少し掠れた喉を酷使しつつ、口の端を不敵に釣り上げたソガは、ガッツ星人の瞳の真正面から睨みつけて宣言した。
「我々の挑戦を……受けるな?」