転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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セブン抹殺計画 第七段階

 

 

ポインターで現地へ急行したキリヤマ達。

 

アマギの観察眼は、地面に見慣れたブルーグレーの人影が、大の字で寝転んでいるのを見逃さなかった。

 

「隊長! あれを!」

「ソガ! ……おいソガ! 大丈夫か!?」

「あ……うぅ……」

 

呻き声が帰って来た事に、ひとまず安心し、互いに頷き合う仲間達。

しかし、そこに倒れているのはソガだけだ。

 

「ダンは?」

「分かりません……」

 

苦し気に呟くソガ。

 

『ダァアアアアン!!』

 

フルハシとアマギの声が、泉が丘に木霊するも、返事はない……

二人は山彦のように、ソガを助け起こすキリヤマの元へ戻っていくしかない。

 

「ソガ、大丈夫か」

「ハイ……」

「隊長、見当たりません!」

 

そんな時、谷の向こう側で、なにかがゆっくりと浮上する。

夕日を反射する透明な結晶体……ガッツ星人の円盤だ!

 

「ハッ!?」

「退けっ!」

 

キリヤマの合図と共に、一斉に走り出す男達。

その矮小な背中目掛け、ガッツ円盤から砲撃が襲い掛かる!

 

ソガの甘言にのせられ、まんまと彼を放り出したガッツ星人達だが、その挑戦を受ける事と、みすみす撤退を見逃すような真似は決してイコールではないのだ。

むしろ、この程度で死ぬような相手からの挑戦など、受ける価値すらない。

 

自分達と戦いたいならば、まずは生き延びて、対戦者足る実力を見せろという、ガッツ側からの意思表示に他ならなかった。

彼らは、戦闘においてとことんまで真摯で、かつ、容赦が無いのだ。

 

逃げる警備隊の周囲に、陽電子迫撃砲が着弾し、荒野が爆ぜる。

 

この時、先頭をひた走るアマギは、敵の攻撃が自分達をまるで追尾してこない事に気がついた。

 

爆発火球は前後左右へバラバラに落ちてきて、真っ直ぐ走ることもままならない。しかし、自分達の進路とは全く関係の無い場所への着弾も多いのだ。

 

人類より遙かに優れた科学力を持つ、百戦錬磨の侵略者が所有する兵器にしては、半数必中界……つまり集弾率があまりにも疎らに過ぎる―――それこそ彼は、先の空中戦において、レーザーバルカンをたった一度、それもほんの挨拶程度に斉射されただけで、乗機たるホーク3号を撃墜されたのだから、その恐ろしいまでの射撃精度を身を持って知っているのだ―――なのでこの攻撃は、わざと散布角を広くとり、偏差修正を行わない、面制圧を目的としたパターン射撃に違いないと推測した。

 

……ならば!

 

アマギは、自身から数メートル先の地面が盛大に爆ぜたのをこれ幸いに、たったいま耕されたばかりの地面へ目掛け、まるで真昼の流星を思わせる見事なフォームで飛び込んだ!

 

少しばかり先行していた彼の長い足ならば、そこからさらに僅かばかり進んだ先へ見える、より安全な稜線の向こう側まで逃げ込めただろう。

 

だが、衰弱したソガを庇いながら後方を走るキリヤマとフルハシは、恐らく第二射へ間に合わない。

 

一人で安全圏へ退避するくらいなら、自分自身が道標となって、比較的安全な避難場所を教えた方が、部隊全体の生存率を向上させられる。

 

単砲による同時射撃下では、同じ場所へ弾が落ちる可能性は限りなく低い……なんて、あくまで確率論的な気休めでしかないが、それでも、盛り上がった周囲の土を遮蔽と出来る分、蹲って投影面を減らした方が、直立しているよりずっとマシだろう。

 

アマギの背中が、簡易防空壕へ逃げ込むのを見てとると、フルハシの行動は早かった。

 

負傷者との下手くそな二人三脚を一方的に切り上げるや、キリヤマの肩から半ばひったくるようにソガを取り上げて、その背中を渾身の力で前方へと押し込んだ。

 

「ヴヷァ゙ア゙!!」

 

もはや聞き慣れてしまった情けない悲鳴が、アマギを飛び越し、砂丘の向こう側へもんどり打って倒れ込むのをしっかり見届けると、今度は足元で蹲る痩身の隣へ駆けつける。

 

このお利口な後輩が、ここだと言うんだから間違いない。先ほどソガを放り投げた先を除けば、そこが一番安全なのだ。アマギか隊長の言う通りにしていれば、死ぬことなんて有り得るもんか。

 

恐れ知らずの怪力自慢は、一切の疑問なく出来たての窪地へ身を伏せると、その巨体で痩せっぽちの天才を肉布団で隠すように覆い被さった。勿論、彼が受け持つのは敵へより近い左側。

 

そうしてぽっかり空いた、着弾痕の右側スペースへ向かって、キリヤマが走る。

先に伏せていた二人の背中を、私はここにいるぞと言わんばかりに撫でつけながら、アマギの右脇へぴったりと寄り添った。

 

彼らの周囲へ、二度目の砲撃が降り注ぐ。

亀のように身を縮こめて、それをやり過ごす警備隊。

 

この時、ソガがもしも生粋のスナイパーであるならば、部隊から離れた位置で敵の射点を確認し、再移動のタイミングを知らせる役目を果たせたかも知れないが、今の彼にそんなマークスマンじみた行動をとる余裕は微塵も無かった。

 

フルハシに助け起こされながら、死に物狂いで走る。走る。

 

彼らが、負傷者を抱えながら無事に切り抜けられたのは、非常に運がよかったからに他ならない。なぜならガッツ星人の撃っていたのが……単なるデブリ排除用のイオンモーターでなければ、こうはいかなかっただろう。

 

ガッツ星人は、逃げ惑う小目標を撃つという機会が全く無かったので、円盤に対人火器を装備していなかったのだ。その必要も無いと言うべきか。

 

そもそも、僅か百数センチ程度の大きさしかない生命体が、ガッツ星人の対戦者に選ばれる事自体が稀であり、そういった種族は往々にして、巨大機動兵器か超射程高火力の粒子兵装で武装しているものである。

 

歩兵が携行火器を用いて、それも目視可能距離で交戦するなど余りにも原始的で野蛮極まりない。

 

そんな相手をフュージョンブラスターで薙ぎ払ったりする事は、如何に容赦の無いガッツ星人と言えど躊躇われた。慈悲や配慮でもなんでもなく、彼らの矜持が、それを許さなかったのだ。

 

それこそ、ホークを撃墜したレーザーバルカンで機銃掃射でもしていれば、忽ち警備隊は、塵も残さずこの宇宙から蒸発していたハズである。

 

地球人にはこの程度で充分だろうという、無意識の侮りが、彼らから害虫駆除の機会を奪った。自身の逃がした生命体が、どんなに危険な毒虫なのか、ガッツ星人はまだ知る由も無い。

 

「全車突撃! 警備隊の撤退を援護せよ!」

「射程に入り次第、順次発砲! こちらに注意を向けさせるんだ!」

「彼らを殺させてはならん! 撃てぇぇ!!」

 

間一髪、到着した特車部隊が一斉に攻撃を加えつつ、敵と味方の間へ割り込んだ。荷台のガトリングランチャーから盛大に火を噴きながら前進していく装甲トラックの群れ!

 

「みんな! こっちよ!」

 

ポインターで陸上部隊を率いてきたアンヌが、救急鞄を担いで合流する。

天使の救援が間に合ったのだ。

 

「た、助かった……!」

「動かないで、今治療するわ……」

 

命からがら安全圏へ辿り着けたソガは、打撲や擦り傷だらけの体をアンヌに預けながら、ようやく一息つけた。

 

生身の隊員には、爆発で飛び散った瓦礫ですらも脅威だが、防衛軍の装甲車であれば、直撃を食らわない限りは、少なくとも壁の役割くらいは果たせるらしい。

 

ガッツ星人としても、少しでも脅威度の高そうな相手の方が満足できるので、喜んで標的をそちらに切り替えた。

 

死に物狂いの陸戦隊と、命中率の低い工作用装備で撃ち合うガッツ円盤。星人からしてみれば、パチンコでバッタの群れを何匹殺せるかという、暇潰しのお遊びに興じているようなものだろう。

 

その上……陸上部隊の放ったロケットの濃密なカーテンは、周囲の岩壁や空中に火薬の華を咲かせるばかりで、円盤に一つも着弾しないのだ!

 

「師団長! 我、有効弾認められず!」

「同じくウシジマ車、手応えナシ!」

「射程や精度では敵に圧倒的優位がある! 被弾を恐れず突き進め! どんな武器でも、銃口を押しつけて撃てば絶対に当たる! 全車吶喊!」

「ハッ! 吶喊します!」

「撃てぇぇ!」

 

敵に打撃を与える為に、ますます勢いを増して前進していく陸戦隊。

 

「あっ! いけない!」

 

ソガがそれを止めようと……する前に、彼の上司が一歩早かった。

 

「待てっ、全車停止! 全車停止だっ! 射撃を継続しつつ、直ちにその場で停車せよ!」

「隊長……?」

 

キリヤマは眉間に汗を伝わせて、真剣な眼差しで敵を見つめていた。

アマギもそれに倣って、円盤の周囲を観察すると……やがて舌打ちと共に、敵の戦法を理解した。

 

「畜生……何か強力なバリアを張り巡らしたんです」

「やはり……」

 

このまま陸戦隊が突撃を続けていれば、前衛は全速力でバリアに激突し、大破炎上してしまったに違いない。

 

しかし、そうはならなかった。

 

キリヤマの脳裏には、昨夜の光景が克明に刻まれていたからだ。

すなわち、あの銀の巨獣が、彼の大切な部下を逃がす為に、その身を擲ち犠牲になってまで囮役を買って出てくれた事へ、深く感謝し、そしてそれをただ見届けるしか無かった己の無力さを恥じ、激しく後悔していたのである。

 

だからこそ、あの物言わぬ巨大な同志が最後に放った、命懸けのメッセージを、キリヤマはしっかりと受け取っていたのだ。

 

敵が不可視の壁を自在に操るという事を。

 

「警備隊全軍に告ぐ、敵は強力なバリアに包まれている模様だ。現在位置より前へ進むな! 順次後退せよ!」

『無駄な抵抗は止めろ。このまま戦闘を続ければ、君たちは全滅するだけである。地球防衛の切り札、ウルトラセブンは、我々の手中にあるのだ……』

 

その目前に突如、十字架型のカプセルに囚われた、セブンの無惨な姿が晒された!

 

「た、隊長! ……セブンが!」

 

口を押さえ、信じられないという表情でわなわなと震えるアンヌに、ガッツ星人の宣言がさらなる追い打ちをかける。

 

『地球の全人民に告ぐ、君たちの英雄セブンは、夜明けと共に処刑されるであろう!』

 

 

―――――――――――――――

 

 

天文班から明朝の日の出は5時21分と報告された。

セブンの処刑まで、あと12時間足らずしかない。

 

 

失意と焦燥に沈む作戦室。

 

「チキショー……どうしたらセブンは蘇るんだい?」

「何しろ、相手が宇宙人だからな、見当がつかない……」

「……ねぇ、さっきからセブンのことばかり言ってるけど、ダンはどうなるの? 敵に連れて行かれたのよ!!」

 

呻るフルハシとアマギに向かって、凄まじい剣幕で詰め寄るアンヌ。

思わず言葉に詰まるフルハシ。

こちらを睨む彼女の瞳には、涙が滲んでいた。

 

そこへ、キリヤマが静かに言葉を投げかける

 

「アンヌ、決して忘れてるわけじゃない……ただ、ガッツ星人が、セブンを夜明けに処刑するという意味を考えるんだ」

「だって……」

 

尚も言い募ろうとするアンヌに、今度はタケナカ参謀が暗い表情で諭す。

 

「やつらは、我々の目前でセブンを処刑し、地球人に心のよりどころを失わせようとしているのかもしれない……そうすることによって地球人は、彼らと戦う勇気を失い、服従を認めてしまうようになるだろう……」

「セブンを見殺しにはできないんだ」

 

あまりにも重苦しい沈黙が作戦室を支配した。

 

「……じゃ、ダンは犠牲になれって云うの?」

「アンヌ! ……ダンは……もう殺されているかもしれない……!」

「エッ……!?」

 

愕然とするアンヌ。

誰もが心の片隅で思いながら、しかし決して考えずにおこうとしていた最悪の可能性を、タケナカは敢えて断言せざるを得なかった。なぜなら……

 

「もし生きていたら……なおさら敵の基地を叩くことはできないだろう……」

 

この地球の危機において、人質まで取られていては、攻撃の意志が鈍ってしまう。

それならいっそ、ダンはもう死んだものとして扱った方が……タケナカはその胸中で、他ならぬ自分自身に対して唾棄した。

 

だが、アンヌは諦めない。

涙を拭い、キッとした表情をうかべると、部屋の隅でただ一人黙々と何かの資料を書き込んでいる男の元へ、つかつかと突撃した。

 

「……そうだわ! ソガ隊員! 貴方は敵に捕まっても帰って来れたじゃ無い! ねぇ、何か策があるんじゃないの? ネェ、答えなさいったらッ!」

 

手許の紙をひったくって、その向こう側にある顔を下から睨めつけると……そこには、悲しみでも、怒りでもない……ただ氷のような無表情があるだけだった。

 

「……ッ!? そ、ソガ隊員……貴方はあんなにも……ダンと仲が良かったじゃない! それを……どうしてそんな表情が出来るのよッ!」

「それがなんだ……? 奴はな……死んだよ」

「……そ、そんな……」

 

絶望の表情で、膝から崩れ落ちるアンヌ。

 

「そしてもう、俺にはそれで何かしようという気力すら無いんだ。なぜなら……これを見ろ!」

 

机の下で膝をつくアンヌに、追撃をかけるかの如く、ソガは自分の持っていた紙を見せつける。

そこには、驚くべき事実が記されていた!

 

汚い字で書き殴られた文字列は……

 

《俺たちは、盗聴されている》

 

「……エッ!?」

「どうやって俺が、奴らのところから帰って来たか教えてやろうか……? 無様に這いつくばって、命乞いをしたんだ! 勿論、普通の命乞いじゃない。あたかも、奴らにとって面白い戦いを見せてやる気概があるような風を装おって、防衛軍を焚きつけるメッセンジャーとして見逃して貰ったのさ! 笑えるだろうが! ええ?」

 

《ダンは、生きている》

 

アンヌが、その言葉を食い入るように見つめ、紙の端を握り混みながら震えるのを無視して、ますますソガは、自分がいかに道化じみた行為をしたのか、声を張り上げて告白した。

 

「でもな! セブンを倒すような相手に、俺達地球人が出来るような事があるもんか! 何か策があるだって……!? そんなもん、こっちが教えて欲しいよ! こうなったら、自棄だ! もうみんなで一斉に突っ込んで玉砕戦法しかない!」

「バカを言うな! ソガ!」

「この戦いに敗れるということは、地球の破滅を意味するのだぞ!」

 

《ダンを円盤から助ける為には、セブンに力を貸して貰うしかない》

 

「じゃあ、どうしろってんです! 俺達は負けられない。でも、勝つことも出来やしないじゃないですか!」

「……そうだ。我々は、決して負けられない。絶対に勝つ自信がなければ、戦うことはできないんだ!」

「しかし、このままほっといたら、間もなくセブンは処刑されます! そうなる前に……」

 

腕を広げて敗北主義の論説をぶつソガの前で、泣き崩れていた女性隊員が、決然とした表情で、すっくと立ち上がる。

そして、右手を大きく振りかぶって……

 

バシンッ!

 

細く美しい指が奏でたと思えない程に大きな音が、ソガの頬から発された。

作戦室中に響き渡る程に。

 

「最ッ低!! 見下げ果てた人ねソガ隊員! つくづく見損なったわ! 私たちで争っていたんじゃ、ダンどころかセブンを助ける事だって、できやしないじゃないの!」

「あ、アンヌ……」

「もう、貴方の意見なんか一切あてになんかしない! するもんですか! 貴方は隅で、ガタガタ震えていればいいんだわ! もう二度と口を開かないで!!」

 

眉をつり上げた怒りの形相でソガへ背を向けたアンヌは、歩き去る前に一度だけ、頬を押さえて驚愕する男の方を睨みつけて……

 

彼にだけ見えるように、小さく舌を出してウインクした。それはそれは華麗な笑顔で。

 

彼女は優秀な兵士であり、医者であると同時に……生まれながらの大女優だったらしい。

 

女の涙をダシに使った事に対しては、それでチャラにしてあげる。という事だ。

 

「……おみそれしました」

 

ジンジンする頬とは反対側を、照れくさそうに指で掻いて――周囲の者からはそれが益々、バツが悪そうに見えて迫真であったが――いると、そんな茶番が耳に入らない程に集中していた通信員のヨシダが、声を張り上げた。

 

「……隊長、おかしな発信音をキャッチしました!」

「なに!?」

「宇宙ステーションの回路を使っていますが、ステーションからのものではありません」

「よし、録音して直ちに分析するんだ!」

「ちっきしょう、誰だそんな事をする奴ぁ……!」

 

通信機の周りに集った隊員達は、彼らの後ろで、大きな紅葉を貼り付けてぽつねんと立つ哀れな男が、待ってましたと言わんばかりに口を吊り上げたのを見逃した。

 

 

 

セブン救出に心を砕くウルトラ警備隊に、また、ひとつの謎が投げかけられた……あの発信音は新たな侵略の前触れなのか……? しかも、ガッツ星人によるセブン処刑のときは、刻々と迫っていた……明日は、我々人類の破滅の夜明けになるのだろうか……?





こちらが年内最後の投稿です。
後編は来年となります。

それでは皆様、良いお年を!
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