転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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地球圧殺計画 20%

ダイモード鉱石を持ってほくほく顔のフルハシは、おお急ぎで作戦室へ戻ってくる。

 

「おい! これだ! これがありゃあ、セブンが生き返るんだろう!? 早速助けに行こうぜ! なあ!?」

「あー……」

 

だが、迎える仲間達の方はと言うと、今一つ反応が鈍いというかなんというか……彼が予想していたものとは、些か違う様子であった。

 

「……なんだい……歯切れが悪いな……?」

「実は今、それを説明しようとしていた所で……糠喜びさせてしまい申し訳ありませんが……残念ながら、すぐにセブンを助ける事は……出来ないんです」

「なんだってっ!?」

「まあ、待て。アマギの説明を聞こうじゃないか」

 

フルハシに手渡された青い石ころを、何らかの計測機器の光に当てたり、大きさを巻き尺で正確に測りながら、アマギは溜息をついた。

 

「やっぱり……」

「おい、どうしたってんだ? まさか……ニセモノだったりするのか?」

「いえ、紛れもなくこれはダイモード鉱石です。それは昨日の内に調べた時にハッキリしています。ですが……それと同時に、問題点も……純度が、足りないんです」

「純度ぉ?」

「ええ、実は……かつてこのダイモード鉱石を、兵器に転用した例が、既にあるんです」

「なんだって!」

「もしかして……それって前にアマギ隊員の言ってた……」

「ああそうさ。その兵器こそ……マルス133。僕の原点にして目標……いや、永遠の課題だ」

 

その眼差しに神妙な光を宿して、アマギが深く頷く。

確かにその名は、誰かから聞いた事があるような気がするが……生憎と、実際に自分で使う機会の無い兵器の事なぞ、フルハシの耳には右から左だった。

 

「マルス133……? どっかで……」

「以前、バラージ砂漠に現れた非常に強力な怪獣を、現地に秘宝として伝わっていた、ダイモード鉱石の巨大な原石を激突させる事で退治したとあります。その折に、運良く回収できた破片をベータ線発信器に組み込んだレーザー銃が、マルス133です。記録によれば確か、フルハシ隊員のお兄さんも現地にいたようですから、それで聞いた事があるのでは?」

「ああ! そうだ兄貴が言っていたような……凄い威力の銃だったって……でも、もう無いんだろ?」

「はい、残念ながら宇宙恐竜の襲来時に、一丁が基地と共に焼失。現存する最後の一丁は、火星開拓団が、危険な原生軟体動物を撃退するために使用中です。今から取り寄せたのでは、とても間に合わない」

「それで、その兵器に使用された物と比べて、この石の純度が著しく低いと言うことか?」

「ええ……というよりも、件の石の純度が信じられない程に高かったと言うべきでしょう。もしかしたら原石ではなく、何らかの超技術によって、工業的に精錬された物だった可能性すらあります。もちろん、現在の地球の技術力では再現不可能ですが……」

「ああ、ノアの神から貰ったって、そういう……」

 

妙に得心いった顔で頷くソガは、当時の資料と今回の測定結果を見比べていた。

 

彼がつまみ上げたカラー写真には、フルハシの物とは比べ物にならない程に、深い蒼を湛えた石の破片が写っている。その大きさは、親指の爪程しかないが、石の向こう側は決して見えない。

 

ところが今、彼の手許にある石を持ち上げてみれば、うっすらとではあるが、向こう側から不安げに此方を覗き込むアンヌの顔が、真っ青に透けて見える。

 

同じ物質なのに色が違うという事は、それはつまり、光の透過率や反射率に差異があると言う事だ。

 

「とにかくマルス133と同等、もしくはそれに準ずる出力が得られなければ、今回の用途には……出力を増幅させるために、何らかの工夫を施さねばなりません」

 

石の測定値や、そこから算出されるエネルギーの計算式は、わざわざ資料を見なくても諳んじられるくらいに、アマギはこの技術に精通していた。

 

自身の半生を捧げてまで、かの作品を再現、量産しようと苦心し続けていたアマギであるからこそ、突然にセブンから開示された情報を、素早く地球上の科学力と照らし合わせた上で、なんとか応用可能なラインまで落とし込めたのである。

 

これが彼でなければ、石の出力が足りないと分かった時点で、完全に匙を投げてしまうところだ。

 

「この石ひとつじゃ、リキがないんだな……」

「せめてサイズが拳大か、同じ純度の物がもう一つあれば……」

 

ところが、アマギの曇り顔を吹き飛ばすように、フルハシがその大きな手をポンと打つと、それはそれは暢気な声で重大機密を言い放った。

 

「そうだ! 大丈夫ですよ! 半分はナツコが持っているはずだから!」

「「なにィ!?」」

 

 

―――――――――――――――

 

 

日もすっかり落ちて、夜闇に沈んだレース場。

人影の消えたピッチに、1台の車が最後のランから帰ってくる。

 

当然の事ながら、ガッツ星人の宣戦布告が成されたのはつい先程の事であり、地球の危機について知っている一般人はまだまだ少ない。

 

愛車のコスモスポーツから降りてきた女の名はナツコ。

その首元には、青く澄んだ石が鎖に吊られ、きらりと輝いている。

まだ年若くとも、こう見えて大陸横断ラリーにも参加経験のある、凄腕女性レーサーだ。

 

そして今回、アフリカラリーの途中に、砂漠で立ち往生したキャラバンを救ったら、それがたまたま有力者の息子だったのである。

 

例え人名救助の為とはいえ、コースと日程を大きく外れた彼女は、当然ながら失格扱いだったが、本人はちっとも気にしていなかった。

 

そして助けられた部族達の長は、自分の栄光を擲ってまで施された行為にいたく感銘を受け、その感謝の印として青い石を彼女に贈ったのだ。

 

……本当は、息子の嫁になってくれとも頼まれた――つまりあの石は、族長筋の者が婚姻の証としてのみ身につける事が許される、非常に特殊な……言わばエンゲージリングのような意味合いを持つのだ――が、ナツコ自身は既に心に決めた相手がいるのだと、丁重に断って石だけ頂戴したのは内緒である。

 

「はい、記録です」

「わぁい、良かった。じゃ、お願いね……」

 

最終ラップタイムが、なかなか満足いく内容だった事に上機嫌なナツコは、練習を切り上げて愛車のキーをスタッフに渡すと、帰り支度をするべくロッカーへ向かう。

 

だが……そんな彼女は、真っ暗な廊下を歩きながら、僅かな違和感を感じた。

 

自分の足音に紛れて……誰かもう一人が後をつけてきているような気がしたのだ。

 

「……誰?」

 

馴染みのスタッフはみんな帰って、先程キーを渡した彼だけのハズ。

車を車庫に入れて、その他諸々の始末があるのに、こんな早く終わるものだろうか……?

 

彼女の呼びかけに、何の返事も帰ってくる事はなく。

 

釈然としないまま、ナツコは再び歩き始める……が。

 

 

ひた……ひた……

 

冷たく硬質な何かが、コンクリートを踏みしめる。

 

勢いよく後ろを振り返ってみても、そこには誰もいない……

 

試しに、右足を思いっきり踏み鳴らしてみる。

ガレージの反響が、そのように聞こえたのかという淡い期待と……もしもこれが、けしからん悪戯の類であったら、ただじゃおかないぞ、という苛立ちを意思表示する狙いも兼ねての確認だ。

 

それはもう、婦女子たる身で、命知らずのレーサーなんぞをやっているのだから、このレース場でもナツコのじゃじゃ馬を知らぬ者はいない。

 

例え何かのサプライズだとしても、彼女が機嫌を損ねかけているとなれば、早々に内容を明かすはずだ。

 

だが……柱の陰から見知った顔が、舌を出しながらバツの悪そうにペコペコしつつ出て来るなんて事はなく……

 

ナツコのブーツがたてた乾いた音が、先程とは全く別の響きでもって、虚しく反響するだけだ。

 

ひた……ひた……

 

 

いる!

 

人間ではない、何かがこの空間に存在する……!

 

直感的にそう判断したナツコは、一目散に逃げ出した!

 

曲がり角で振り返った時、巨大な頭部と細長いかぎづめを持つ異形の影法師が、ガレージの壁に踊っているがチラリと見える。

あれは、ダメだ。人間の力の及ばない存在だ。

 

凶暴な野生動物、天候や災害、マシントラブル……

 

過酷なラリーを最後まで走りきれるレーサーというのは、驚く程に少ない。

 

どれだけ技量の高いベテランであろうとも、不慮のアクシデントに見舞われれば、そこで容赦なく脱落していくのがレースの世界。

 

実力が高度に競り合う、厳しい勝負の場では、時として、いや常に……運が、最後にモノを言うのだ。

 

ナツコは、自身がここまで来れたのは、類い稀なる運と直感力の賜物だと信じている。

 

この直感に従ってコースを選び、時に砂嵐を、時に土砂崩れを、トップ集団5台が絡む記録的な大事故をすら回避してきた。

 

ある時など、妙な胸騒ぎがするからといって、もう少しで1位ゴール寸前だったレースを降りた事すらある。

後で調べてみれば、エンジンが爆発寸前だったと、真っ青な顔でピッチクルーが告げてきた。

 

そんなナツコの勘が言っている。

 

逃げろ。

 

……でも、いったい何処へ?

 

生憎と、今の彼女は百戦錬磨のレーサーではなかった。

普段であれば、心の赴くままにハンドルを切ればいい。

 

そうすれば、彼女の愛車が、ナツコの行きたい場所へと運んでくれる。シートに座ってヘルメットを被っている間だけは、彼女の視界には常に進むべき道が見える。

 

だがしかし、ひとたび車から降りてレース場を出てしまえばナツコは、ほんの少し気が強い、うら若き乙女でしかないのだ。

 

エントランスの二階に出たナツコ。

右に進めばロビーに繋がる長い廊下。左に行けばロッカー室。

 

廊下はだめだ。柱もなければ扉もない。

あの影から身を隠す事も出来ず、丸見えになってしまう。

 

しかし、ロッカー室やシャワー室ならば、中から鍵をかける事が出来る。

 

ナツコは当然ながら、左の道に足を踏み出して――

 

《――もしも――》

 

ブーツが止まる。後ろからは不気味な音が、気配が、彼女の背中に手を伸ばそうと――

 

《――もしも、もしもですよぉ? この先、貴女の身に、とてつもない困難や、何か恐ろしい事が降りかかった時――》

 

彼女の脳裏に、嗄れた老人の声が響いた。

 

《決して、奥まった方向へ行っちゃあなりません。……外です。外の世界に目を向けなさい。身を晒しなさい。例えどれだけ、だだっ広く、寂しげに見えたとしても、外の世界には、貴女を見つけてくれる人がきっといます。貴女が声をあげて、助けを求める限り、きっと――それを、どうか忘れないで》

 

帰国した日、迎えを待つベンチで、青い衣装に身を包み、古びた鞄を大事そうに抱えて話しかけてきた、あのどうにも胡散臭い老爺の言葉を、ここにきてなぜか思い出したのだ。

 

《あたしゃあ、嘘はつきませんよ。お嬢さん》

 

占いなんて、普段のナツコなら歯牙にもかけないし、現に今の今まで忘れていたというのに……どうしてだろう。

 

彼のふにゃりとした笑顔なら、信じてみてもいい気がしたのだ。

 

踵を返して、ロビーを全力疾走するナツコ。

後ろがどうなっているかなんて、気にする余裕は一切無い。

 

自分自身がラリーカーにでもなったかのような錯覚に陥りながら、長い廊下をひた走った。

突き当たりのドアノブに、指がかかる。

 

取っ手を捻じ切りかねないくらいに勢いよく回し、僅かに開いた隙間へ、猫の如き身のこなしで体を捻じ込むと、全体重をかけてドアを閉めた。

 

磨りガラスにぴったりと耳をつけて、向こうの様子を窺うも、怪しい気配が走ってくることはない。

 

扉一枚距てた事で、ようやく一安心ついたナツコは、未だに激しく上下する胸を手で押さえながら、はち切れそうな心臓と肺を労るべく、深呼吸をひとつ。

そして出口に向かって振り向い――

 

 

 

 

 

 

『オオオオオオオオオォォォォォォォ……』

 

 

暗闇に妖しく光る二つの眼光と、月夜を反射する鋭い嘴と鉤爪が、視界いっぱいに広がった。

 

 

「キャァァァァァアッァァァァァァァァーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

辺りをつんざくナツコの悲鳴。

彼女は、あまりの恐怖に遠のきかける意識の中で、自分の喉が、これほど高い音が出せるのだと、場違いな感想を抱きながら……

 

 

 

最も聞きたいと願ってやまなかった、雷の如き銅鑼声の幻聴が、その耳を力一杯殴り付けた為に、手放しかけた正気を反射的に引っ掴んだ。

 

 

 

 

「てめぇ!! 何してやがるっ!!!」

 

 

 

 

再起動したナツコの動体視力は、自身を覗き込む変な動物のこめかみに向かって、見慣れた金属標識の先端が空を切って吸い込まれていくのを捉えた。

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