転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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このままでは勝てないと悟ったガッツ星人が、作者の腹に硫黄細菌をぶち込むと言うダイレクトアタックを仕掛けてくれやがりましたので、胃腸炎で死んでました。
私には残念ながら、マグネリウムエネルギーを投与してくれる警備隊が居なかったのです。


地球圧殺計画 40%

 

二つの鉱石から削りだした円柱状のレンズを、発振器にセットするアマギ。

 

「準備OK。ベーター線照射」

「エネルギーは?」

「順調です」

「撃て!」

 

俺が装置の引き金を引くたびにエネルギー弾が射出され、標的として用意されていたゲルマタントやチルソナイトの合金板を粉々に破壊していく。

 

「硬度15だ。これが割れれば、マグネリュウムに劣らないエネルギーを確保したことになるんだ」

 

そうして出ました硬度15番。

ボーグ星人の残骸から採取したボーグメタルを鋳つぶして、チルソナイト808と混ぜ混ぜした合金版。正真正銘、現在の人類が作れる最硬金属だ。

これ以上を用意しようとしたらもう、ウルトニウムだのペダニウムだのに手を出すしかない。

 

「……なぁ、どうせ今回の目的は15番をクリアしないと意味ないんだったらさ、最初っからこれでやれば良かったんじゃないか? 下の番号からわざわざ繰り上げていく必要あった?」

「……あのなぁ、装置やレンズが、出力を上げても問題なく動作するかどうかの実験も兼ねてるんだよ。いきなり最大出力でぶっ放して壊したら、それこそ次善策すらとれなくなるだろうが」

「あ、そっかぁ!」

「お前みたいに何でもかんでもぶっつけ本番でやったらな……ああなるんだよ」

 

そう言ってアマギが指さす先には……

 

「あでででで!! アンヌ! アンヌ!」

「もう! しっかりなさい! そんな事で怪力が泣くわよ!」

「もっとこう……手心と言うか……なぁ!?」

「こんな無茶する人にかける情け、なんて、ない、わ!」

「いぎぎ……でもよ、そんなに縛ったら指どころか、腕一本うごかせねぇぜ?」

「そんな必要ある?」

「あるともさ! これからセブンを助ける大一番って時に、一人だけベッドで寝てられるかい。そういうのはな、ソガの役目だよ」

「呆れた……その大事な時に大怪我こさえて来たのは誰? ほら、ナツコさんももっと言ってやって! この人すぐこれなんだから!」

「フルハシさん……アタクシも、アンヌさんの言う通りにしてた方がいいと思いますワ」

「くそぉ~~味方はいねぇのかぁ……」

「まぁまぁ。お前の活躍でナツコ女史も、石も無事だったんだ。名誉の負傷と言う奴さ」

「参謀……!」

 

アマギがこちらをゆっくりと無言で振り返った。

 

「……うん、俺が間違ってたよ。安全第一で行こう」

「お前が利口でなによりだ」

「終わったか? よし……撃て!」

 

隊長の号令と共に、跡形も無く粉砕された15番の標的。

 

「やったぁ!!」

「みんな! いいな! ……破滅の道を選ぶのは、地球人か、ガッツか……これが、我々の最後の作戦だ!」

 

砕けた標的を指さしながら、険しい表情で述べるタケナカ参謀。

この場にいる全員の顔に決意が漲る。

 

そして一同は、セブンを救うべく、残された最後の希望であるホーク2号のハッチへ……

 

「ちょっと待った!!」

「……なんだ」

「今、いい所だったろうが……」

 

出鼻を挫かれ、ヘルメット片手にどやどやと戻ってくるメンバー達。

うん、ごめんな。

完全に水を差す形になっちゃったけど、そのまま行かせるわけにはいかねぇんだわ。

 

「皆さん、さっきのアマギの話ではありませんが、ここは一つ、安全第一で行きましょうよ」

「お、なんだぁ? まぁた、いつもの臆病風が吹いてきたかぁ?」

「ふふふ……敵を知らば百戦危うからず……というのは、今回の敵であるガッツ星人が教えてくれた兵法です。なんせ自他共に認める強敵ですからね、我々もそんな敵に倣って、相手をもっとよく観察すべきではないかと」

 

今の段階では、プロファイリングがね、足らんよ、敵のさ。

 

「ほう、一理あるな。では、お前の見解を聞こうじゃないか」

「ありがとうございます。ガッツ星人はね、まず……戦闘狂です」

「戦闘狂?」

「セブンを倒して名を上げようと言う行動原理や、わざわざ正面切っての戦闘に拘る面から言って間違いありません。だって、あれだけ敵の事が分かってるんですよ? 寝込みを襲うなりして暗殺してしまうのが、一番簡単です」

「まぁ、そうだな」

「セブンに寝込みが存在するかという疑問があるが……生命である以上はなんらかの休息期間が必要か」

「それをわざわざ彼を呼びつけてまで戦ったという事は……飽くなき闘争心に突き動かされている種族……という事かしら?」

「……続けたまえ」

 

参謀が続きを促す。

 

「しかしその割には、粗暴であったり、思慮に欠けているかと言えばそうではなく……逆に凄まじいまでの慎重派です。これは、ホーク1号をわざわざ罠にかけて撃墜したという彼らの言葉からも分かります」

「……どういう事だ?」

「彼らはね、何もしなくともホーク3号を素の力で撃墜する事が可能だ。という点に着目すべきなんです。そりゃあ、1号の方が性能高いですよ? でも、それは我々地球人から見ての話……ガッツ星人からしたら、どんぐりの背比べでしょう?」

「ふぅむ……」

「確かに、言われて見れば……彼らは1号の何をそんなに恐れたんだ……?」

 

1号と3号では、速度がマッハ4を超えるか超えないか、という違いこそあれ、その火力にさしたる差はない。機動性なら3号が有利だが、その3号をして旋回中に撃墜されている。

防御力においても僅かに1号が優ると言えるが……ガッツ星人の優れた武器の前では特筆すべき事も無い筈だ。

あとは大気圏突破能力の有無だが……彼らを発見したのは既に大気圏内まで突入された後であり、その機能が活かされる事はない。

まさか、逃げる際に追撃される事を考慮して……? いや、あのガッツ星人が、自分達の負けた時の事を考える訳が無い。

ではなぜ……

 

「……分離だわ」

「お、アンヌ。なんて?」

「1号は分離が出来る。でも3号は出来ない。彼らからすれば、1号以外は全てただの戦闘機よ。でも……」

「そう! 分離して何をしてくるか分からない! 1機が3機になったり戻ったりするだけでもややこしいのに、こっちにゃ戦闘巧者のキリヤマ隊長がいますからね。ナースを固結びしたり、ガンダーを四重奏で泣くほどもてなしたり出来る」

「なるほど、それを嫌って奴らは、ダンとアンヌを囮に使ってまで……」

「緻密な計画は、その中の要素が不確定であればあるほどに狂いやすい……と」

「でもよぉ、結局その1号は壊れちまって使えねえ……今更そんな情報がなんになるって言うんだ?」

「過程がどうあれ、やはり我々は残されたホーク2号で出撃するしかない」

「最も大気圏内性能の低い2号で?」

「そうだ……そして、それこそが奴らの思う壺だと、そう言いたいんだな? ソガ」

 

腕組みした隊長が、こちらを鋭く見て来るが……それを俺は余裕をもって受け止め、皆を安心させるように掌でジェスチャーする。

 

「まあまあ皆さん。そろそろ、ガッツ星人の性格が分かって来たんじゃないですか? 恐ろしい程の負けず嫌い、勝つ為には決して手段を選ばず、そのくせ超が付くくらいの臆病者……どっかで聞いた事ありませんか? そんな奴。……それも皆さんの身近で」

「負けず嫌いで、臆病者で?」

「そんな奴……?」

 

聞いていたメンバー達の視線が辺りを彷徨い……そして、ある一点で固定された時、皆の表情はなんとも言えないモノへと変わった。

彼らの視線の先で、ソガが満面の笑みを浮かべていたからだ。

ご丁寧にピースサインまで添えて。

 

「ソガぁ……いくらなんでも」

「それはよぉ……」

「自意識過剰ってものじゃないかしら……」

「いやいやいや! 別にね! 俺がガッツ星人に勝るとも劣らない智将だって言いたい訳じゃなくってですね! オレでも考えつくような策は、とっくのとうにガッツ星人も考えていて、当たり前のように使ってくるだろうという事ですよ」

「言いたい事はわかるがな……」

「オレ如きの裏もかけんようでは、ガッツ星人の手のひらの上で一生踊り続ける事になりますよ?」

「……」

 

この時、得意気なニヤニヤ顔を突き出されたフルハシにとって、なにが一番、癪に障るかって……それに対して妙に納得してしまった自分が居る事だった。

 

「で? ソガ星人は何をしてくるんだ」

「ウルトラアマギはせっかちだねぇ……ほらアンヌ、これを解いたらセブンはキミのモノだ。……とオレがこれ見よがしにその辺に置いといたとして、素直に信じるかい? 誰でも触れるようなところにだよ?」

 

地図上に置かれていたセブンの人形を、キーチェーンでぐるぐる巻きにしてアンヌの前に放り投げる。マップが見やすいかなと思って、私物を持って来てたのだ。

縮尺に対してデカすぎるってんで、ほったらかしにされてたが……役に立ってよかったよ。

 

「これを……」

 

持ち上げた人形とソガの顔を見比べるアンヌ、そしてそれを両脇から覗き込むアマギとフルハシ。

しばらく三人は怪訝そうにしていたが……やがて一斉に三者三様のしかめ面を披露する事となった。

彼らの脳内で、ソガが非常に憎たらしい顔をしながら鎖の端を摘まみ上げ、『はい、あーげた』などとケタケタ笑い出したからである。

 

「ソガぁ……いくらなんでも」

「それはよぉ……」

「もうちょっと大人になった方がいいんじゃないかしら……」

「自分で振っといてなんだけどさ、みんなの中でオレってどういう扱いなの?」

 

すると、我々のやり取りを黙って見ていた隊長が、にこやかに俺の腰を叩く。

みんなの肩から、イイ感じに力が抜けたのを見て取ったのだろうか。

 

「さて、諸君の考えるソガ星人、もといガッツ星人は、果たしてどんな手を使って来るのか、聞かせていただきましょうか」

「ハッ、やはりなんといってもですね、敵のバリアは強力です。あの時みたいに、セブンの周囲へ見えないバリアを張り巡らせてしまえば、我々がそこへ突っ込んでいった瞬間、壁にぶつかって、たちまちドカーン!」

「いえ、それを待つ必要すらもないでしょう。なにせ、我々の目的が彼を救う事であると分かっている以上、侵入コースもセブン正面のごく狭い範囲に限られます。あとは待ち伏せて、その飛行経路上を掃射してしまえばいい。敵の持つ武器は、それが出来るだけの基礎性能があります」

「……ううん、もっと言うなら、あの空中に見えているセブンの像そのものが、幻なんじゃないかしら。私達全員に催眠をかけて、集団幻覚を見せているのよ! 偽物でなければ、わざわざあんな場所に置いておかないわ。取り返されないか、不安ですもの」

「ひゃあ、そんな事が出来るのかい?」

「ああ……彼らの科学力であれば、空気中の塵や埃といった微粒子に映像を投影して、巨大なホログラムを作り出すくらいは、造作もないでしょうね」

「なるほどなるほど……どちらにせよ、このまま飛んで行っても、我々は敵の罠に嵌る公算が極めて高い。という事だな? みんなも随分と性格が悪くなったものだ」

 

ハッハッハとひとしきり笑った隊長が、さて……とこちらを見据えて来る。

 

「答えをお聞かせ願おうか、ソガ星人」

「答え、ですか?」

「そうだ、これらの策を取り揃えていた貴様は、これから我々に何をされると一番困る?」

「ああ……」

 

隊長の問いに、少しばかり考えて、俺は頷きを返した。

 

「流石ですね隊長、自分で言っておきながら、そういう視点で考えてはいませんでしたが……私がこれから具申しようとしていた策は、私としてもバッチリ困る策でしたよ」

「ほう、それは朗報だ。言ってみろ」

「セブンにミサイルを撃ち込みましょう」

「……なに?」

 

あれ、聞こえなかったかな。

 

「セブンにミサイルを撃ち込みましょう」

 

キラキラした目でこっちを見ていたタケナカ参謀が、深いため息とともに、頭を抱えて机に崩れ落ちた。

 

「は? ……な、バッカおめぇ! これから助けようって相手にミサイルだぁ? このやろっ」

「フルハシさん、落ち着いて」

「そうです、ナツコさんの言う通りです。我ながら完璧な作戦なんです」

「どこが!」

「まずフルハシ隊員案のバリアがあった場合、ミサイルは途中で爆発しますが、バリアの場所が分かります。次にアマギ隊員案も、ミサイルは迎撃されますが、待ち伏せている敵の位置が分かります。最後にアンヌ隊員案、セブンが幻であった場合。ミサイルはセブンを素通りします」

「……もしもバリアや迎撃もなく、セブンが本物であった場合は?」

「ミサイルはセブンに直撃します」

「あのねぇ……」

「大丈夫! セブンはガッツじるしの十字架ケースに入ってるからさ。ワンチャン敵の拘束を破壊できれば一石二鳥じゃん? というか、地球人のミサイルでガッツの箱やセブンが傷つくと思う?」

「ソガッ!!」

「ひぇ、すみません!!」

 

怖ぇ顔した隊長の叱責が飛ぶ。確かに今のは地球防衛軍としては失言だった。

 

「ま、まあ……ガッツ星人としては、セブンが本物であれ偽物であれ、このミサイルが着弾してセブンが死ぬのは困るので、それだけはなんとしても阻止する必要があります」

「なぜだ?」

「だって、地球人がセブンを先に殺してしまったら、ガッツ星人の処刑宣言が嘘になってしまうからです」

「ああ……」

「なんでだ? 自分で殺す手間が省けていいじゃねえか」

「ガッツが先輩みたいに賢い考え方をする奴らなら、我々はお手上げでしたね」

「……?」

 

うーんと、苦い表情で唸っているのは参謀だ。

 

「いかに実害がないとはいえ、やはりウルトラセブンに地球人から攻撃を加えるというのは……彼は捕虜で元非戦闘員だ」

「その心理的ハードルの高さを乗り越えてこそ、ガッツ星人の意表を突けるんです! 奴らも流石に、いきなり味方を撃つとは思わんでしょう」

 

まあ、オレはあの空中に浮かんでるのが偽物って分かってるから、こうやって好き放題言えるんだけどさ。

あれかな、セブンが恒点観測員って明かすの、早まったかな……?

そんな時、何事かを考えていたアマギが顔を上げる。

 

「隊長、いかがでしょう。いつかの特殊噴霧装置を使っては」

「特殊噴霧装置……ふむ」

「ぺダン事変の折、神戸港沖合のキングジョーに向けて、沿岸部の砲兵隊から、弾頭を換装した長距離ミサイルで攻撃していましたよね。あれならば、バリアを可視化できるし、セブンに直接当てる必要はありません、かすらせて十字架に着色できなければ、それは幻です」

「アマギおまえ……天才か」

「あらかじめ提言するなら、これくらいは考えておけよ……」

「よし、それで行こう! 参謀!」

「うむ、現在展開中の各陸戦隊は、マナベ参謀が掌握してくれているはずだ。こちらから連絡しよう」

「お願い致します! 我々は、万が一、空中のセブンが偽物だった場合に備え、2号以外に使える機材がないか、洗い出すんだ!」

「了解!!」

 

方針が決まり、各々が慌ただしく動き始めていく……

 

「あ、そうだ参謀。ついでにマナベ参謀へ許可を取って頂きたい事がありまして……」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

泉が丘上空に、巨大な十字架が浮かんでいる。

ガラスで出来たかのような透明な箱の中では、深紅の巨人が身じろぎ一つせず、ただぐったりとその身を露にしていた。

 

その十字架は、巨大であると同時に空へ浮かんでいるが故に、どの方角からでも、視力の許す限りという注釈はつくものの、非常に遠くからでも観察が出来た。

 

直下は防衛軍によって規制されているが、深夜だと言うのに詰めかけた報道陣のカメラがあらゆるアングルから、捕らえらえた巨人の姿を中継している。

常であるならば、異星人の人権を無視したマスコミの破廉恥さをなじるべき場面ではあるが、それも仕方ない。

 

地球の為に戦ってきた正義のヒーローが、あと数時間で処刑されてしまうというのだから。

 

そこへ……遠方より、一本の矢が飛来する。

 

「アッ! ご覧ください! あれはなんでしょう!? 防衛軍の新兵器でしょうか!」

 

だが、矢は突如として現れた光の奔流に飲み込まれ、空中で呆気なく爆散してしまった。

ガッツ星人がパルスレーザーで迎撃したのだ。

 

彼らは、ウルトラ警備隊が必ずセブン救出の為にやってくると確信していた。

こうして囮を晒しておけば、例え罠と気付いていても、飛び込んで来ざるを得ないだろうと。

なにせセブンこそが彼らの希望であり最終手段だ。どう足掻いても彼を解放しなくては地球人に勝ちの目は無い。

であるならば、残されたウルトラホーク2号に乗って、やってくるはずだ。

2号はホークシリーズの中でも大気圏外での航行を主軸に置かれている為、地球圏内での機動性など、おまけのようなもの。

こんどこそウルトラ警備隊を一網打尽に出来る……と思っていたのだが。

 

……はて、今のがそうだったのだろうか。

シルエットはよく似ていたが……

 

と、ガッツ星人が空中の画像を拡大しようとしたその時、爆炎の向こうから、新たな矢が飛び出してきた!

 

1本、2本……さらに無数!

それが……全方位からセブンに目掛け殺到する!

 

もちろんガッツ星人の高度な迎撃システムの敵ではない。

ミサイル群は目標に到達することなく、その全てが撃ち落とされてしまう。

 

だが……彼らは充分に仕事を果たしていったと言えよう。

なにせ彼らの仕事は弾着することではなく……周囲に、赤い特殊塗料の雲を撒き散らす事だったからだ。

 

途中までは噴霧装置が、そして最後は爆散のショックで特殊塗料が広範囲に拡散する。撃ち落とされようがされまいが、どちらにせよ彼らの仕事は完遂するのだから、なんと易い。

 

そうしてガッツの迎撃が完了した時、セブンの十字架は周囲から非常に濃く、分厚い塗料の雲で覆われてしまった。

ガッツ星人も当初はこのミサイルこそが、セブンを蘇らせる新兵器なのかと疑ったが……この霧になんのエネルギー反応も見受けられず、盛大に肩透かしを食らってしまった。

 

そして、気付いた。これは煙幕なのだと。

これで視界を塞ぎ、その隙を突いて第二陣、ホーク2号なり本命のエネルギー弾なりが飛んでくるのだと。

だがお粗末なり地球人、このような手でガッツ星人の目を欺こうなどと。

 

彼らは高笑いと共に気流を操作し、一瞬にして、真っ赤な雲をきれいさっぱり洗い流してしまった。

そう……洗い流してしまったのだ。

 

 

だが、ガッツがこのように常ならぬ悪手を取ってしまったのも、仕方のない事であるといえよう。

彼らの計画、戦術は、対象を正しく認識していてこそ発揮される。だが、ガッツ星人は、この煙幕がなんたるかを、十全に理解しきれていなかった。

いや、使用した側である地球防衛軍も知らず、なんならあのソガ隊員ですらも見落としていた、ある一つの秘密が、この煙幕には隠されていたのだ。

 

それは……この塗料が、一体誰によって考案されたのか……という部分。

なにを隠そうこの装置は……モロボシ・ダンの発案したものなのである。

 

防衛軍にとってモロボシ・ダンはただの地球人だ。だから決してそう評される事は無い。

ソガやガッツ星人からすれば、たかが噴霧装置、ダンが考えたから何だと言うのか? 『兵器』というイメージからはほど遠い。

 

だが、マルス133が人類の手で作りだされた初のメテオールであり、マグマライザーが初めて量産されたメテオールなのだというならば、これは、この特殊噴霧装置は紛れもなく、『異星人の監修の元に作り出された最初のメテオール』なのである。

 

だが、特殊噴霧装置とはいうものの、一体何がそんなに特殊なのか? 通常の霧吹きと何が違う?

 

使用している塗料が、特別粘性が高く特殊だから、それを霧状に変えるのに特別な装置が必要なのだ。

 

この特殊塗料は、モロボシ・ダンの、まだウルトラセブンですらなかった者の恒点観測員としての知識から生み出されたものなのである。

 

なぜ観測員が塗料の知識を? と思うかもしれない。

 

それは、恒点観測員がどういう業務か、という部分に起因する。

 

まず、非常に勘違いされやすい事だが『恒点観測局はM78星雲独自の組織ではない』という事だ。

 

この勘違いは、恒点観測員のうち、他文明に接触するという選択を取るのが、ほぼほぼM78星雲人の観測員に限られるから、という部分によるところが大きい。通常の観測員は、観測対象の文明とコンタクトを取ったりはしない。

 

故に、恒点観測局=M78星雲人というイメージが銀河に広がる一因となってしまっている。

 

だが、観測員の任命リストを広げてみた時、その構成員の割合に対して、光の国の住人が占める割合のなんと少ないことか!

 

当然である。

 

この無限に広がる広大な宇宙に、線を引き、未知を観測し、安全な星図と航路を設定するという職務に対して、あまりにも人手が足りないのだ。

 

宇宙の地図は、そこを行く全ての者が必要とする。それが例え善人であれ悪人であれ関係ない。地図がなければ闇を無限に彷徨って死ぬだけだ。

だからこそ、あらゆる種族が垣根を超え、それぞれの思惑を一旦脇へやりながら、手を携えて、宇宙の端へ向かって散り散りに飛んでゆく。

 

そんな恒点観測員達の勤務地は常に未知の領域であり、不慮の事故と、それに伴う遭難というアクシデントも付き物である。

 

恒点観測員に求められるものは何か? 高度な計算能力? 原生生物を制圧する腕力? その全てに勝る真の素養、それすなわち、生存能力(サバイバリティ)なのである。

 

なので彼らは宇宙船が故障した時でも生存が可能なように――身一つで宇宙空間を航行できるようなふざけた種族は、銀河にも数えるくらいしかいない――ありとあらゆるサバイバル知識を叩きこまれる。

 

局が指導している護身術も、このサバイバル技術の一環であり、極限状態を想定したテストに合格した観測員が、自動的に一般的な戦士階級と遜色ないレベルまで鍛えられて送り出されるが故に、結果として恒点観測員は全体的に強くなりやすい傾向にある……というだけの話。

 

なぜ、モロボシ・ダンがエリートレンジャーの集まりであるウルトラ警備隊において尚、サバイバルの専門家として名が通っているかというと――今更になるが、一般人であるモロボシ・ダンがなぜ入隊できたのかは、この知識で一芸入隊したようなものだ。サバイバル訓練で防衛軍史上初となる100点を叩き出した男を、軍が放っておくはずが無かった――つまりこういう事だ。

 

そしてサバイバルにおける染料の合成知識……一見地味だがこれも必要である。現地の簡易マップの作製や、必要な情報のメモ……そして、救難信号の作成。

つまり彼らにおける染料・塗料というのは、そのグレードを上げた先に、空中へサインを書き記す事ができる信号弾レベルの物も含まれるという事。

成層圏からでも観測可能なぐらいに発色がよく鮮やかで、かつ耐用年数の極めて高いものが望ましい。

 

だが、不時着した星の物資で、一体どのグレードの物が作成できるか分からない以上、出来る限り多くの精製知識を持っておくことが推奨される。

風の噂に、素人でも宇宙空間へすぐさま救難信号を打ち上げる事ができる技術が、目下研究中らしいと聞くので、そのうちこの慣習は廃れていくかもしれないが。

 

モロボシ・ダンが提供したのは、そんな知識の一片。

 

現在の地球上の物質と科学力で精製可能な、理論上そして実質的ハイエンド品。それこそがこの深紅の塗料なのだ。

 

この赤い液体は、一度付着すれば、並大抵のことでは流れ落ちたりしない。

 

そんな霧に囲まれて、数十秒後にシミ一つない綺麗な姿を晒したとあれば……一体どんな手品を使ったのかと疑われても無理はなかろう。

 

特に、この液体を精製し、移動させ、保管したり、あまつさえ使用するような業務に従事したことのある者であれば、どれだけ注意深く作業を行っていても、全く気付かない内に、裾や袖口があかあかと輝いていた……という経験を持っていて、そんな苦苦しい記憶を持つ現場の隊員達からすれば、それを目にした時、一斉に同じ感想が口をついてしまっても、仕方のない事だった。

 

 

「……そりゃあ、嘘だろ」

 

 

あらゆるものが見守る中で、闇夜に浮かんだ綺麗な十字架は、だんだんとその輪郭をぼやけさせていき……

 

やがて綺麗さっぱり消失してしまった。

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