転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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地球圧殺計画 60%

 

男は、闇の中を歩いていた。

 

目のさめるような真紅の肉体に、銀細工を貼り付けたような姿をした、不思議な男だった。

 

彼は虚空に向かって何事かを叫んでいる。枯れ果てた喉で、あらん限りの声を振り絞って何かを伝えようとしていた。

 

しかし、言葉が彼の口から出た瞬間、周囲の闇が忽ち纏わり付いて、それを掻き消してしまう。

 

さっきからずっと、それの繰り返しだった。

 

それでも、男は叫ぶのを止めない。何か、そうせねばならないような……使命感のようなものが、彼を突き動かしていたからだ。

 

だがもはや、一体何を伝えようとしていたのかすらも忘れてしまった。とても……とても大事な秘密を教えなくてはならなかった気がするのだが……教える? 誰に?

 

分からない。

 

それでも彼は叫び続ける。なぜなら、そうせねばならないから。

 

もしかすると……彼が声を発し続ける事自体が、重要なのかもしれない。

 

そうだ、きっとそうに違いない。そうすれば彼らが絶対に私を見つけてくれる。

 

彼ら……? 彼らとは誰だ?

 

……分からない。

 

苦しい。

 

男はついに立ち止まってしまった。

彼はとっくに満身創痍で、精も根も尽き果てていたのである。

 

肉体は至るところが傷つき、ボロボロで、全身からだらだらと血を流していた。

……そう、血だ。

 

彼の躰が赤いのは、頭のてっぺんからつま先まで、余すところなく血で汚れているからなのだ。

 

別にその全てが彼の流したものという訳でもない。誰かの返り血だって含まれているだろう。でもそれが誰のものだったのか、どこからどこまでが自分の血か、さっぱり分からない程度には血みどろで、なにより彼は、もはやそんな事すらも気に止められない程に消耗していた。

 

ただ右も左も、立っている地面の感覚さえ分からないこの空間で、全身をじっとりと濡らす赤い液体の気怠い重みだけが、唯一の感覚だった。

 

急にそれが堪らなく不快に感じた男は、両手を顔の前まで持ってきて、掌を覗き込もうとする。

 

だが悲しいかな、目の前には吸い込まれそうな程に深く、濃い漆黒が広がるばかりで、どれだけ近づけても指の輪郭すら判別できなかった。

 

目も視えず、音も聞こえず、あらゆる感覚が遮断されたこの世界に放り込まれてから、自分はいったいどれだけ歩き続けてきたのだろう。

 

思えば、自分の手足も長らく視界に入らなかったので、果たしてそれが本当にまだあるのか確信できない。もしかしたら、とっくの昔に千切れていて、はるか後方で転がっているのではないか?

 

彼はその疑問を解消しようと、広げた両手を、そのままさらに近づけて、自らの顔面をぺたぺたとまさぐった。

 

頬を、口を、鼻筋を、目を、あるいは耳を。

 

それらの位置や形を見極めようとして……粘ついたもので指の先がずるりと滑るばかりで、ちっとも詳しい事が分からないのだった。

 

はて……私はいったい、どんな顔をしていたのだったか?

 

というよりも……私は……

 

 

わたしはいったい、ナニモノなのだろう?

 

 

ふと、激しい眩暈を覚えた男は、自身の目の前で、険しく切り立った渓谷が唐突に口を開いた事を理解した。

 

闇の中を見通せず、地面の感触どころか何の気配も感じられないが、分かるのだ。

自分の目の前で、道がふっつりと途絶えてしまっている事が。

 

ああ、そうか……

 

 

わたしは、死ぬのか。

 

 

あと一歩踏み出せば、この肉体は容易く重力に引かれて滑落し、谷底に叩き付けられてバラバラに千切れ砕け散ってしまうのだ……という事をソレは悟った。

 

 

……それも良いかもしれないな。

 

 

なにせ彼は疲れていた。

もうこれ以上どうしろというのだ。

長く苦しい道のりを、血へどを吐きながら歩き続ける意味がいったいどこにある?

 

……終わりにしよう。

 

彼は、錆び付いたように重たい足を、ギクシャクと持ち上げて、先に広がる深い深い奈落の底へと踏み出した。

 

ああ、さいごに一目だけでも……

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっちへ行ってはダメっ!」

 

彼の腰が、何か太い綱のようなモノで後ろへ引っ張られた気がした。

 

尻餅をついたまま、声のした方向へ、ぼんやりと顔を向ける。

 

すると、闇の中を誰かが走ってくるではないか。

 

その誰かさんは、地味な色合いの隊服に身を包み、まだあどけなさの残る小顔に、まったく似つかわしくない厳ついヘルメットを被って、白い手袋に包まれた右手をぶんぶん振りながら此方へ駆けてくる。

 

「もう、こんな所にいたのね!」

「キミは……」

 

彼女は腰に手を当てて、若干の不機嫌さを滲ませながらも、確かな安堵と深い愛情の籠もった瞳で、青年の姿を見下ろした。

 

「ダン! 随分探したんだから!」

「……アンヌ」

 

アンヌの差し出した手を、半ば反射的に掴んだダンは、強引に引き起こされたせいで、立ち上がった後に少しばかりよろめく羽目になった。

 

「ほら、早く行きましょ? 隊長がお冠よ」

「う、うん……」

 

いつの間にか隊服に身を包んでいたダンは、彼女に手を引かれるままついてゆく。

 

ぼくは何をしていたんだっけ……?

 

いまいち状況の飲み込めないダン。

何か大切な事をしなくちゃいけなかったような……?

 

「ホラ、もうアナタの出番が来ちゃってる!」

「出番……?」

 

アンヌの指さす方向には、闇の中にぽつんと、スポットライトで照らされたかのように、マウンドとバッターボックスが浮かび上がっていた。

 

「……なぜ野球?」

 

首を傾げたダンの脳裏に、いつかの記憶が思い起こされる。

 

……そういえば、キリヤマ隊長に連れ出されて、みんなで野球の猛特訓をしたことがあったっけ。

 

隊長曰く、心身を鍛えつつ、連携を磨くのに最適だ……と、レクリエーションの名目で行われたソレは、案の定、普段の訓練にも勝るとも劣らない厳しさで敢行され、千本ノックの後半では、ソガ隊員が半ベソでボールを追いかけていた……ような気がする。

 

……そうか、今日がその成果を披露するための、大事な試合の日だったのか!

 

すっかり忘れていた。危ないところだ。

 

ダンが冷や汗を拭うと、彼はいつの間にかユニフォームに着替えて、打席に入っていた。

 

「……いつの間に」

 

いやいや、今はそんな事を気にしている場合ではない。

勝負に集中しなくては。

 

ダンはバットを強く握りしめ、マウンドに立つ相手の投手をしっかりと見据えた。

 

青白く、不健康そうな顔立ちのピッチャーが、大きく振りかぶって……投げた!

 

「……うっ!?」

 

途中で上下左右に揺れるボールを、ダンのバットは捉えられず、気がつけばミットの中に収まっているではないか。

 

思い出したぞ! そうだ、この魔球だ!

 

この独特の振動する魔球に、前回いいように討ち取られてしまったんだった。

 

球のブレを見極めなくては、この魔球は撃てないのだ。

 

「えいっ!」

「ツーストライク!」

 

あっという間に追い込まれてしまう。

 

「……ダン」

 

ベンチでマネージャーボードを握りしめるアンヌが、不安げな瞳でダンを見つめる。

 

「落ち着いて、打球をよく見極めるんだ! その魔球には、一定の法則があるハズだ!」

 

巧打者であるアマギが、メガホンでアドバイスを送る。

 

「……っ!」

「ボール!」

 

頷いたダンが、冷静に打球の軌跡を目で追う。

彼の動体視力は、打球が僅かにストライクゾーンから外れているのを見逃さなかった。

 

「そうだー! 諦めるんじゃねえぞー! 粘って粘って粘りまくれー! 死に物狂いで食らいつくんだー! お前なら出来る!」

 

四番を背負ったフルハシが、持ち前の大声で檄を飛ばす。

 

「ふんっ!」

「ファール!」

 

力強い声援に押されたダンの両腕が、バットを凄まじい速度で振り抜き、僅かに打球へ掠らせる事に成功した。

全く芯を捉えられてはいなかったが、彼のパワーは何とかボールを後ろのフェンスへかちあげる事には成功した。

 

「はあ……はあ……」

 

だが、やはり自分には魔球攻略の決定的なタイミングが掴めない。

このままで良いのだろうか……出塁を見据えた方が良いのではないか?

 

ちらりとダンがベンチを見やる。

 

腕組みをしたままどっかり座り込んだキリヤマ監督は、ダンの不安げな視線に気付くと、両腕を胸の前でクロスさせ、指先を握り込んでから、それらを体の両側へ持って行って小さいガッツポーズを作った。

 

そうして、右腕の人差し指を一直線にピンと伸ばし、相手のピッチャーを力強く指し示す!

真っ向勝負のハンドサインだ!

 

それを見たダンの瞳に、もう迷いは無かった。

 

それからはただひたすらに、打球を掠るバットのたてる乾いた打撃音と、フェンスが揺れる耳障りな金属音が立て続けに繰り返される。

 

積み重なっていくファールの声。

 

荒い息を吐きながら、敵の打球に食らいつき続けるダン。

あと少し、もう少しで掴めそうだ。魔球攻略のタイミングがあと少しで……!

 

しかし、彼の疲労もピークに達しようとしていた。腕も足もパンパンだ。

このままでは、打ち返す前にスタミナが切れてしまうかもしれない……

 

駄目だ、僕がやらないといけないんだ! 僕が……っ!

 

「タイム!」

 

その時、すぐ近くで声が挙がった。

試合の時が止まり、意気込んでいたダンの闘志が、急激に萎んでいく。

ああ……なんて間の悪い……

 

ダンが珍しく恨みがましい視線を向けた先で、待ったの声をかけた張本人……今まで無言で魔球を受け止め続けていたキャッチャーが、すっくと立ち上がる。

 

そして彼が徐にマスクへ手をかけ、それを勢いよく剥ぎ取った時、ダンは今度こそ度肝を抜かれて口をあんぐり開けたまま固まってしまった。

 

「お前さ、肩に力入り過ぎ。……もっと気楽に行こうぜ、気楽に」

「そ、ソガ隊員!?」

「よう、びっくりした?」

 

悪戯の成功した童のような顔で、キシシと笑うキャッチャーは、なんとソガだったのである。

 

ダンは混乱の最中にあった。

なぜ貴方がそんなところに?

いや、それよりも……

 

「敵が魔球で来る事が分かってたなら、どうして先に教えてくれなかったんですか!」

「いや、悪ィ悪ィ……でもさ、それだと……ちっとも面白くないじゃん?」

「え?」

「やっぱさ、様式美っつーの? いったん苦戦してから頑張って反撃! みたいな? そういうのってホラ……大事じゃん?」

「は、はあ……?」

「まあ俺もね? 魔球の秘密とかまで全部知ってたらさ、対抗策をお前に授けられたかもしれんが……残念ながらそれは知らないの。じゃあさ、どっちでも一緒じゃん? よしんば知らなかったフリしてた方が、相手が喋ってくれるかもしんないじゃん?」

「……あの……まあ……そうかも……しれませんね?」

「敵がいい気になってから絶望に叩き落とした方がさ……もう二度とこちらと勝負しようって気が起きなくなるくらい心をバッキバキに折れるし」

「スポーツマンシップの欠片もありませんね」

「俺スポーツマンじゃないし、敵のキャッチャーだし」

 

思わずダンの口から深い溜息が漏れる。

 

「どうだ? 肩の力抜けた?」

「ヘナヘナでバットが持ち上がりませんよ……」

「いいじゃんいいじゃん! 別にさ、この打席で負けたっていいんだぜ。お前がアウトになったって、まだ皆がいるんだしさ。次のチャンスが回って来た時に、また勝負すればいいんだよ。最後に勝ちゃなんだっていいのさ、最後に勝ちゃあ」

「次のチャンスなんて……」

「勝負はまだ一回の表だ! 気楽に行こうや!」

「……えっ? そうだったんですか?」

「俺がそうだって言えばそうなんだよ! お前が打ち返すまでずっと一回の表だ!」

「そんな無茶な」

 

あんまりな物言いに、不謹慎とは思いつつ、ついつい笑い声がこみ上げて来てしまう。

 

ソガはマスクを被り直しながら、ダンの肩を叩く。

 

「さっ、お前には俺達がついてる。どーんと大船に乗ったつもりで三振してこいや」

「ソガ隊員、貴方は僕の味方なんですか? 違うんですか?」

「……同じ方向は向いてるだろ?」

「なるほど、確かに」

 

ソガの言葉に妙な説得力を感じ……いや、全然納得してはいないが、とりあえず試合が進まないので、仕方なくそれで許しておく事にする。今のところは。

 

「さあ、来るぞ……!」

「ハイ!」

「……なあ、敢えて普通のストレートとか指示出来るけど、どうする? 俺、キャッチャーだし」

「是非、あの魔球でお願いします!」

「……そうこなくっちゃなあっ!!」

 

ソガがミットを突き出し、指で何事かのサインを出す。

マウンドの上で、白面のピッチャーが、片脚を高々と振り上げる。

舞いあがるロージンバック。

 

そして……

 

かぎ爪によってV字に変形するほど強く握り込まれた白球が、あり得ない程の運動エネルギーと共に投げ放たれる!

 

空気が震え、巻き上げられたマウンドの砂が竜巻のように軌跡を描く。

 

半ばに差し掛かった時、ボールは上下と左右の方向に大きくブレはじめ、バッターボックスのダンから見れば、残像によってまるで白い十字架がそのまま迫ってくるかのようだ。

 

本物は、あのどこかにある。

 

今までは、その本物を捜そうとして狼狽えるバットの動きに、まるで誂えたような振動によって、そのスイング全てを躱されてしまった。

 

逆だ。

 

向こうに合わせるのではない、こちらに合わさせるのだ!

 

ダンは、普段の自分が行うベストなスイングタイミングから、敢えて一拍待ってから……頭から引き抜いた歪な金属バットを全力でフルスイングした。

 

ここだ!

 

「デュワアアッ!!」

 

魔球のパワーが、彼のバットを弾き飛ばそうと押し返してくる。

ダンも負けじと力を込める。

ボールの高速回転によって引き起こされた帯電現象によって、雷がバチバチと四方八方に飛んでゆき、受け止めるバットから真っ赤な火花がボルケーノの如く噴き上がる。

 

負けない、負けるもんか。

僕は……防衛軍一のスラッガーだぞ!

 

「ダァーッ!!」

 

小気味良い打撃音が炸裂し、レーザービームが相手のピッチャーのこめかみを掠っていく。

 

そのまま電光掲示板に突き刺さる打球!!

 

ホームランだ! 魔球敗れたり!

 

「やったー!」

 

ベンチからチームメイトが飛び出してきて、ダンを力強く抱きしめる。

 

「良くやった!」

「お前なら出来ると信じていたぞ!」

「凄いわ、ダン!」

「ヒヤヒヤさせやがってコンチクショー!」

 

口々に褒め称える仲間の後ろから、相手チームのキャッチャーが歩いてくる。

彼の差し出した右手を、力強く握り返すダン。

 

「やったな」

「ええ、ありがとうございます」

「ほんじゃま次は……俺達で奴等に一泡吹かせに行くとしようや!」

「……ハイ!」

 

ダンの視界が、段々と青白い光に包まれていく。

ああ、なんて暖かい……

 

遠くで誰かが僕を呼んでいる……

 

聞こえる……みんなの声が。

 

そうだ、思い出した。

 

僕の本当の使命を。

 

そうか、僕は……

 

「立ち上がれ、ウルトラセブン」

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

マグマライザーの中で、仲間達が固唾を飲んでその光景を見守っていた。

 

額のランプへ一直線に伸びる光を。

 

彼の四肢に力が戻り、その瞳に輝きが宿る時を、待っていた。

 

 

「……セブン」

「セブン……」

「セブンっ」

「セブン!」

 

マグネリュウムエネルギーの狙いをつけるソガの背後で、それ見つめる仲間の口から、誰かれともなく声が漏れる。

彼らの待ち望む、英雄の名が、かけがえのない仲間の名が!

 

「セブン! セブン! セブン!」

「うおおーっ!!」

 

雄叫びを上げたソガが、出力レバーを目一杯押し込んで、最大出力でエネルギーが注入される。

 

真っ赤な指が、ピクリと動く。

 

「立ち上がれぇ! ウルトラセブン!」

 

呼びかけに応えるかの如く、巨人の瞳に光が宿り、沈黙していた額のランプに緑の輝きが戻った!

 

セブンは両手の人差し指と中指をぴったり揃えて突き立てると、それを電極板のように使用して、光線をスパークさせる!

 

忽ちヒビが入っていくガッツの十字架。

やがて、全面までヒビが行き渡った時、あれほどに強固だった戒めは、硝子細工のように呆気なく砕け散ってしまったのだ。

 

真っ赤な肉体が自由を取り戻し、岩場から素早く身を起こすセブン。

 

誰がどう見ても、文句の付けようがない程に、ウルトラセブンの完全復活であった!

 

「「やったああぁぁ!」」

 

マグマライザーの中で歓喜の絶叫が爆発する。

興奮と達成感の絶頂で互いの体を抱きすくめて健闘を称え合う警備隊の面々。

 

しかし、その周囲には依然として、ガッツの処刑ドローンが戦闘態勢で陣形を整えていた。

 

『デュワッ!』

 

セブンは左手を顔の真横へ持ってくると、それを手刀として振り下ろすのではなく……そこから楔状の青白い光線を繰り出した!

 

ガッツ星人のバリアに、セブンの光線は効かないはず……しかし、光線の命中したドローンは、まるで火の付いた導火線のように勢いよく出火して、着弾場所から溶けるようにして消滅してしまったではないか!

 

ガッツ星人は、一度見た攻撃を直ぐさま分析して無効化してしまうが、それはセブンとて同じ事。

捕まっていた間、無為に時間を過ごしていた訳では無い。時間はたっぷりとあったのだ、敵のバリアの攻略方法をずっと考えていた。

 

敵のバリアは、エメリウムの固有周波を解き明かし、その真逆の周波数帯をぶつけて相殺する事で、こちらの攻撃を無効化してきた。

 

だったら簡単な話だ。

光線の周波数を、普段と全く逆のパターンに変えてしまえばいい。

そうすると、バリアは無効化どころか逆に光線を増幅させて素通ししてしまう。

 

もちろん、光線の周波数を変えるなんて、普段であれば非常に難易度の高い技術である。

だが、周波数調整の為のヒントは敵が既に教えてくれていた。なぜガッツ星人はバリアを展開しながら光線を撃てるのか?

 

それは、ガッツ星人の現在使用している光線こそが、エメリウム粒子と逆の波長に調整されているからに他ならない!

 

であればその光線を幾度も食らい、あまつさえそれを結晶化した物の中に閉じ込められていたのだから、解析は可能だ。

 

……問題は、閉じ込められているセブンのエネルギーが底を尽き、精神の疲弊した状態で、自己と正常な思考を正しく維持できるか、という点につきる。

 

だが、彼はやり遂げた。

 

例えガッツ星人が、彼からエネルギーを奪い、感覚を奪い、そして命すらも奪おうとしたとしても、たった一つだけ奪えなかったものがある。

 

心だ!

 

薩摩次郎から受け継ぎ、ウルトラ警備隊の仲間達と育んだ人間の心。美しい思い出のぬくもりと、熱い意志と絆の力だけは、何人たりとて奪い去る事は出来なかった!

 

例え恒点観測員340号の自我が擦り切れてしまったとしても、モロボシ・ダンとしての意識が、その魂の片隅に無意識のうちに住まわせていた仲間達の小さなビジョンが、セブンの衰弱した精神が自我崩壊因子によって無間地獄へ足を滑らせてしまうのを、すんでの所で必死に繋ぎ止めていたのである!

 

セブンは、マグマライザーから降りてきた、かけがえのない仲間達、命の恩人の顔を、超人的な視力で一人一人目に焼き付けてから、上空を覆う赤く汚れたドームを一瞥した。

 

『デュワッ!』

 

セブンの手から、バリア破壊光線が発射されると、眩い光と共に巨大バリアが掻き消える。

 

「おお……」

 

と同時に、キリヤマのビデオシーバーが着信音をかき鳴らした。

妨害電波とバリアが消失したので、通信が復旧したのだろう。

 

「こちらキリヤマ」

「ああっ! キリヤマ隊長! ようやく繋がった! 良かった!」

「うむ、セブン救出には無事成功した、後はガッツ星人の母艦を叩くだけだ」

 

朗らかに報告するキリヤマ隊長。

しかし、通信機の向こうからは、焦りに焦った返事が帰ってくるではないか。

 

「隊長、急いでお戻り下さい!」

「待て、一体どうした? 何を慌てている?」

 

告げるヨシダの声は、まさしく切羽詰まっていた。

 

「基地が2体のアロンに襲われています!」

「なにっ!?」

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