転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「基地が2体のアロンに襲われています!」
「なにっ!?」
緊急通信で基地から齎されたのは、とびきりの凶報だった。
「しかし、基地は岩盤で厚く防御されているはずだ! いかにアロンと言えど、富士の麓をまるごと掘り返せるわけはあるまい」
「それが駄目なんです。ガッツ星人の円盤に、富士山頂の予備動力施設が破壊されてしまって……その余波で一部の電気系統が麻痺してしまったんです!」
「なに、予備電力が?」
「その中にはキリーの発射口ハッチも含まれています。現在、基地の側面が外から丸見えになってしまっているんですよ!」
「なんだと……!」
事の重大さに、キリヤマは思わずよろめき、黒い装甲版にもたれかかった。
「……やられた」
囮を使って目標をおびき出すのは、ガッツ星人の十八番だったはず。それは既に分かっていた。
しかしまさか……本物のウルトラセブンまでをも釣り餌にするなんて。
ガッツ星人は、ここ一番という場面で、自らの最も得意な戦法を、最大規模に拡大した上で使ってきたのだ。
こちらは敵の手の内が分かっていたのに、それを読み切る事が出来なかった……!
まさに磨きあげた一芸のなせる技。
キリヤマにとっては、指揮官として痛烈なまでに敗北を喫したと同義であった。
「……我々には、帰る手段が無い」
「そうか、その為に奴らは……」
アマギが無残な姿のマグマライザーを見やる。
足回りが徹底的に破壊されており、走行はもはや不可能だ。
……尤も、例え無傷であろうともマグマの最高速度は時速100キロ。
どれだけとばしても、ここから基地までは1時間以上もかかる。
その頃には全て終わってしまっているだろう。
警備隊が、鈍重な地底戦車でここに乗り込んだ時点で、用心深いガッツ星人の策は既に成功していたのである。
さらに付け加えれば、この策の真に悪辣な点は、例えその懸念があったとしても、地球防衛軍はセブン救出に全力を傾けなければならない事に変わりは無いと言う部分。
戦う前から相手を雁字搦めにして、選択の余地を一切無くしてしまうというのが、彼らの恐るべき狡猾さなのだ。
ハッとしたアンヌが、僅かな期待を込めて隣に立つ仲間の方を見たが、直ぐに目を逸らす事となる。
その顔から、いつも湛えられていた余裕の笑みが消え失せ、代わりに焦りと後悔の色が覆っていたからだ。
そして彼女は理解した。彼の持ち札が完全に無くなってしまったのだと。
「なんとか迎えの航空機は出せないのか!?」
「それが、そちらへ向かうルート上に敵の円盤が居座っていて、向かった端から落とされてしまいます! 発進口上空の制空権を確保するのでも手一杯な状況です!」
「……ここまでして我々を基地から引きはがしたのだ。敵も必死に妨害するだろう」
「くそッ!!」
ソガが思わずヘルメットを地面に叩きつける。
彼の顔には悔しさがいっぱいに滲み出ていた。
……そんな時。
『デュワッ!!』
「……なんだ?」
セブンが徐に両手を掲げ、その銀色に光る立派な胸板を、僅かに降り注ぐ朝日の方向へ向かってぐぐっと突き出したかと思うと、数秒間そのままの姿勢で制止した。
その様を怪訝そうに見上げていた警備隊員達からは、彼の胸が、いつも以上に光輝いているようにも見える。
いっそ反射ではなく、彼の胸全体が発光しているかのようだ。
しばらくそうしていたセブンは、やがてこちらに向き直ると、一度だけ大きく頷き、力を込めるように両の拳を突き合わせた!
『ダァーッ!!』
次の瞬間、なんとセブンの体が足先から解けるように分解されていき、アッと言う間にその姿がかき消えてしまったではないか。
「セブンが……消えた?」
「あっ! まさかあのバカ野郎……!!」
「どうした、ソガ!」
皆が困惑する中、一人だけ慌てたような、そしてどこか怒ったような声を発するソガ。
「今のは消えたんじゃありません! テレポートです! ベル星人の時にやってみせたように、瞬間移動したんです!」
「なに、テレポート!?」
「アイツ……俺達の基地を守りにいったんだっ……!」
彼の言葉を裏付けるように、通信機の向こうから、喜色の混じったウエノの声が聞こえてくる。
「アッ! セブンです! セブンがあらわれました! 本当に救出が成功したんですね!」
「おおっ!」
「ぃよしっ! セブンならアロンを倒せるぞ!」
「……いや、ダメです先輩。違います」
「なにぃ……?」
セブンによる救援が間に合ったと知り、安堵するメンバーの中で、ただ一人表情の優れないソガ。
その理由は、彼の説明を待つまでも無かった。
「……いや、待って下さい、様子が変です。セブンは……セブンは明らかに弱っているようです! 二体のアロンを相手に、全く歯が立ちません!」
「なに、あのセブンが!」
「でもさっきはガッツ星人の円盤を撃ち落としていたのに……」
「やっぱりか……! ウエノ隊員! セブンの額は? 額のランプはどうなってる!?」
「額ですか……? アッ! 緑の部分が点滅しています! あんな状態のセブンは初めて見ます! あれはいったいどういう事なのでしょうか!?」
困惑するウエノ隊員の返答に、ソガはぎりりと奥歯を噛み締めて呟いた。
「……エネルギー切れだ……」
「エネルギー切れだと!?」
「そんなはずは無い。さっきマグネリウムエネルギーを最大出力でチャージしたばかりじゃないか!」
「いや、あれでもきっと、止まってしまったエンジンを再点火するスターター程度でしかないんだと思う。その証拠に、さっき日光浴して太陽光をチャージしていたじゃないか」
「あれは太陽からエネルギーを充填していたの?」
「アンヌ、ついさっきまで意識不明で寝たきりだった病人が、点滴で意識を回復したと思えば簡単だ。起きていきなり戦闘できると思うか?」
「……そんな、無茶よ!」
セブンの現状を理解したアンヌが、一気に顔を青ざめさせる。
「しかもテレポートなんて、下手したらワイドショットより消耗する大技だ。そんなの病み上がりでやってみろ、光線技を撃つエネルギーすら残ってるか……」
「そんな状態で助けに行って、なんになるって言うんだ!?」
「それでも体でアロンを押し留める事は出来る……アンタと同じですよフルハシ先輩!!」
「……ッ!」
ソガが包帯に巻かれたフルハシの左腕を掴み上げる。
それだけで、彼は後輩の言いたい事がありありと分かってしまった。
怪我を押してもセブンの救出に付いてきた自分。例え操縦が出来ずとも、自分が聴音ソナーを担えば、アンヌをドライバーに据える事で、手の空いたアマギを繊細な新兵器の調整に専念させられる。
今、自分に出来る事を精一杯。
その考えに心底共感してしまえたが故に、フルハシは二の句を継ぐ事が出来なかった。
彼が同じ立場であったなら、迷いなくそうしただろうからだ。
「セブンは、依然として窮地のままという事か」
「……はい。そして……俺達はそれを、もう援護してやる事も出来ない……」
「……」
絞り出すように呟いて、その場に蹲るソガ。
言葉も無く、ただ沈痛な面持ちで顔を逸らすしかない仲間達。
各々の表情は違っていても、その心中はみな同じだった。
……絶望。
彼らには、地球の為に最期まで戦う意志と覚悟がある。
だが……それを示すべき戦場に立つ事すら出来ないという事が、どれほどの屈辱か。
彼らは、それを嫌ったガッツの策略によって、盤面から完全に爪弾きにされてしまったのであった。
―――――――――――――――
基地では、まさしく死闘が繰り広げられていた。
「撃てぇー!」
「駄目だ、効かねえ!」
「構うもんか! 効くまで撃ちまくれ!」
戦車隊の砲火に照らされ、アロンの巨躯が暗闇の中に浮かび上がる。
雷雨を背負った怪獣の血走った眼光が、矮小な不届き者共を見下ろした。
愚かな反逆の報いを受けさせるべく、アロンが胸を反らし、息を大きく吸い込んでブレスを吐き出そうとしたところへ……
『デュ、デュワ!!』、
横合いから飛び出してきた深紅の巨人がその喉元へ飛びついて、怪獣の嘴をとっさに上空へ向ける事でなんとか陸戦隊を守った。
しかし……
『ゴゴガガアアアアアアッ!!』
『デュアッ!! ダッ……ッ!』
セブンの背中を、鋭いかぎ爪が襲う。
もう一体のアロンが、隙だらけの巨人を後ろから怪力で思いっきり殴りつけたのだ。
たまらず地面にころがるセブン。
その腹部を、拘束の無くなった一体目のアロンが踏みにじる。
「いかん、セブンが!」
「集中砲火ー!」
真っ赤な戦友を助けようと、装甲車や武装トラックから火線が伸びるのだが……
『ゴガゴゴ!!』
その前に、山の如き巨体が立ち塞がる。
二体目のアロンは、片割れやセブンよりも一回り大きな体を持ち、飛び道具はないものの、圧倒的な耐久力と怪力を見せつけていた。
大きさに似合わぬ俊敏さで、一気に戦車隊へと距離を詰めると、一両を文字通りぺちゃんこに踏みつぶし、一両をかぎづめで串刺しにすると、それを武装トラックの群れへ向けて放り投げた。
忽ち鉄くずの山が出来上がる。
『デュ!!』
これ以上暴れさせてなるものかと、泥だらけのセブンが立ち上がり、巨大アロンを羽交い絞めにしようとする。そんなセブンを嘲笑うかのように、アロンは翼を大きく羽ばたかせてセブンの躰を打ち据える。
「師団長! 第四から第六小隊全滅!」
「各歩兵分隊の損耗、とまりません!」
「特車課3班、応答ナシ!」
強力な二体の怪獣を前に、被害が積み重なっていく。
ガッツ星人はソガの……否、人類の諦めの悪さを見て学び取ったのだ。
最後に勝った者こそが勝者だと。
セブン防衛戦においては負けだ。真っ赤なトロフィーもくれてやる。
それがどうしたというのだ?
一度倒したセブンなど、もはやガッツ星人の敵ではない。
こうして基地を襲撃すれば、テレポートで駆け付けるのは目に見えていた。
いくら復活したとて、エネルギーの切れたところをアロンで袋叩きにし、もう一度捕獲してしまえばいいだけのこと。
地球は我々ガッツ星人の物だ。
人類は飛車を取り返す事に必死になりすぎて、王将が取られれば負けだと忘れていた。
セブンこそが絶対に守らなければならないキングの駒だと、錯覚してしまっていた。
軍は軍であるが故に、従うべき命令を下す指令部を失ってしまえば、組織立った反抗が出来なくなる。
ガッツ星人は、正しく地球人の流儀に則って戦闘を理解した。
「敵はこちらの攻撃に、ひるむ様子すら見せません!」
「……山だ」
「は?」
「敵を生き物と思うな! 我らは山と戦っているのだ! 山は血を流さん! 怯みもせん! だが、撃ち続ければいずれ削れ、砂になる! 殺す必要はない! ただひたすらに撃ち続けろ!」
「そうだ! 単なる山に負けたとあっては防衛陸軍の名折れぞ! セブンの果敢な攻めを見習わんか!」
「ウルトラ警備隊の助け出したセブンを、我らの眼前で死なせたとあっては、キリヤマ隊長にいったいどう顔向けするのだ!」
「撃て! 撃て! 削り殺せ!」
「なんとしてもセブンと基地を守り抜くのだ! 陸戦隊の名誉にかけて!」
「うてぇーっ!」
「歩兵は戦車を盾にしろーっ!」
地下や山肌からせり上がった防衛砲台や、森の中に隠された偽装バンカーから、一斉に攻撃が加えられる。
岩陰や捩じれた戦車の残骸から、ひょっこりと姿を現した歩兵達の対戦車ロケットが、アロンの頭部に集中する。
逆上したアロンが、怒りに喉を震わせて、ついに猛毒の硫黄ガスを噴射した!
塹壕や物陰の向こうに潜む歩兵達にとって、これほど恐ろしいものはない。
彼らはガスの毒性で死ぬのではなく、その猛烈な肺活量によって叩きつけられたガスの圧力に潰され、または吹き飛び、地面に叩きつけられて死ぬのだ。
「怯むなー! セブンには我々の援護が必要なのだ!」
「戦友を見捨てて逃げる事は許されない!」
「今の彼には、我々しかいないのだぞ!」
アロンが黄色い吐息を吐き出す度に、歩兵が木の葉の如く舞い散り、装甲車が横転する。
それでもお返しとばかりに、重機関銃や対獣ライフルの弾丸がアロンの表皮を僅かに、ほんの数ミリだけ削っては、そちらに毒ガスが吹きつけられていく。
「班長! そんなもので奴は殺せませんよ! 撤退しましょう!」
「どこへ逃げるって言うんだ! 逃げたところで基地がなくなれば同じ事だ!」
機関銃を景気よくぶっ放す上官に向かって、弾薬を担いだ新兵が叫ぶ。
「それでもそんな攻撃に意味はありません! それは班長も分かっているでしょうに!」
「意味はある! 奴がこちらを見ている限りは、基地は攻撃されない!」
「我々が死んだら同じことです!」
「俺達の役目は、奴を殺すことじゃない! 時間を稼ぐことだ!」
「いつまで!」
「ウルトラ警備隊が戻ってくるまでだ!」
「なんですって!?」
雨で滑る手が、思わず弾を取り落とした。
「彼らはきっと戻ってくる! 必勝の策を携えて、セブンを救いにやってくる! それまでに基地が堕とされなければ俺達の勝ちだ!」
「ウルトラ警備隊が戻ってくるなんて……あっ!」
「チッ! 伏せろッ!!」
「班長ぉー!」
ひとつ、またひとつと火点が潰されていく。
減った火力を補う為に、戦車隊が前進する。
近づけばアロンの怪力の餌食になる。
しかし遠くからでは有効打は望めない。
ならば近づくしかない。
少なくとも体の大きな方の怪獣は、飛び道具を持っていない事が分かっている。
奴がこちらを攻撃する為に近づくという事は、その数秒間は、あの巨体をセブンから引きはがせるという事だ。
悲壮な覚悟で戦車が隊伍を組んで突撃していく。
しかし……その上空の戦いは、さらに壮絶を極めていた。
「この天候下でなんて機動だ!」
「そっちだけ自由に動けるのは、不公平だとは思わねえのかよ!」
暗雲の立ち込める空を、円盤と無数の戦闘機が飛び回る。
白鳥や虎のマーキングされたウルトラガードが、炎に巻かれて落ちていく。
雷を引き裂いて、円盤の攻撃が戦闘機をまた一機、火達磨に変えた。
しかし防衛軍側の放つミサイルは、命中率が悪く、バリアに阻まれるどころか、かすりもしない。
荒れ狂う嵐のせいだ。
もちろん自然現象ではない。
戦場を覆う分厚い雲は、ガッツ星人の呼び寄せたもの。
ガッツの科学力をもってすれば、アロンの吐き出した硫黄ガスを起点として、大気中の粒子を操り、巨大な雷雲を作り出すなど造作もないのである。
流石にギラドラス程の天変地異とまではいかないが、そんなものは必要ない。
ただ、地上に太陽光が降り注ぐのを妨害できれば良いのだから。
そうすれば、ウルトラセブンはエネルギーをチャージする事が出来なくなる。
そして彼は予め分析した通り、地球人を見捨てて、雲を突破し太陽まで飛ぶことも選択出来ない。
この戦場は全くもって、ガッツが思い描いた通りの戦場となっていた。
唯一読み違えていたのは地球人が想定以上に好戦的な点か。
本来ならば、アロンの挟撃に加えて、円盤からの上空支援でもう少し早く決着がつくはずだったのだが……
周囲をブンブン羽虫の如く飛び回る航空機が、鬱陶しくて仕方ない。
「やめろ! そのまま突っ切れ! 旋回は……!」
「駄目だ、三番機が落ちた。ここで俺が戻らないと、カバーがで―――」
「……馬鹿野郎が」
如何に貧弱であろうとも、地球人が闘志を燃やして立ちはだかるというのなら、ガッツ星人は全力をもって相手をする。それが対戦相手に対する礼節だからだ。
それを知ってか知らずか、ウルトラガードのパイロット達は、円盤に追いすがり、挑発し、そして爆散していく。
性能差では絶対に勝てない事が分かっていても、決してそれを止めようとはしないのだ。
少なくとも、空を舞う愚か者達の命がつきるまで、地上部隊とセブンは空爆に晒されずに済むのだから。
―――――――――――――――
通信機の向こうから、阿鼻叫喚の声が聞こえてくる。
通信士の伝える戦況を、タケナカ参謀が必死に立て直そうとしているが……後手後手だ。
無理もない。
そもそも基地機能の半分が麻痺しているので、即応可能な戦力から泥縄式に出撃せざるを得ないから……戦力の逐次投入になってしまっている。
キリヤマ隊長がなんとか一部の指揮を執って負担を減らせないか試みてはいるが、タイムラグが激し過ぎて上手くいってない。
俺達は……主戦場から遠く離れた場所に放り出されて、何も出来る事がない。
詰んだ。
完全に詰みの状態だ。
いずれ防衛戦力が尽きて、セブンのエネルギーも尽きる。
そうなったら今度こそお終いだ。
オレは……失敗したんだ。
もう泣く気にもなれない。
ここまで必死にやってきて、このザマか。
ガッツ星人相手に啖呵を切ったのが悪かったのか?
でもああでも言わなきゃ、あそこからどうやって帰れって言うんだよ。
やっぱり正史を変えた時点でダメだったんだ。
俺のやってきた事は、無駄だった。
無駄に被害を増やしただけで、結局地球もセブンも守れなかったじゃないか。
何かが、ボキリと折れかけて……
……その時。
聞きなれた響きが、どこかから聞こえて来た。
「……なんだ?」
「トンネルの方から、何か来るぞ」
「……あれは、まさか!」
マグマライザーの掘った穴の向こう側で、何かがちらりと光ったかと思った次の瞬間!
暗がりの中から、その身に科学と勇気の色を宿した我らの忠実な番犬が、両目を爛々と光らせて、エンジンの遠吠えと共に、砂利を蹴散らしながら雄々しく飛び出して来た!
「ポインター!?」
「一体誰が乗ってるんだ!?」
鮮やかなドリフトを決めて、立ち尽くす警備隊の面々の前へ、ピタリと止まった忠犬から降りてきたのは……
「みなさま、ご機嫌よろしくって?」
「ナツさん!?」
愛用のヘルメットを被り、レーサースーツに身を包んだナツコさんだった。
「……え? えっ? まさか運転してきたんですか?」
「ええもちろん。ワタクシの職業をお忘れになって?」
「いやいやいや……地下トンネルを、全速で?」
「前にフルハシさんが自慢していましたもの。俺達のポインターは絶対にパンクしないんだぞって。でしたら道が地上だろうと地下だろうと全然関係ありませんわ。一本道で逆に走りやすかったくらい。確かにこの子はちょっと頑固で気位の高い所がありますけれど……じゃじゃ馬具合でいったら、ワタクシのコスモスポーツの方がずっと利かん坊ですのよ。うふふ」
そうしてニッコリと笑うナツコさん。
いやいや、装備も使わず走るだけなら、運転の仕方はそりゃ普通の車と変わらんけど……
鍵はどうしたのよ?
え? ガレージから一緒に帰っただろって?
ああ……そうね。
「……待って下さい。いくらポインターの速度でも、距離を逆算したら、さっき出てきたのではとても間に合わない。ナツコさん、いったいいつ基地を出発したんです?」
「ここへの攻撃が始まってしばらくしてから……胸騒ぎが止まらなくて……何か忘れてるんじゃないかしらと思っていたら……あの鳥が全然飛び出してこないんですもの。あ、これは皆様を呼び込んで何か良くない事を企んでいるに違いない! と思いましたわ!」
「……どういうこったい?」
ありがとう先輩。
そして安心してくれ、別にフルハシ隊員の頭が悪いわけじゃない。
俺も理解出来てないから。
「だってそんな筈ありませんもの。ソガさんが仰っていましたわ。ガッツ星人は酷い負けず嫌いだって。そんな負けず嫌いがやられっぱなしだなんて、おかしいじゃありませんこと? やられた事は絶対に仕返ししなくっちゃ気が済まない。それが負けず嫌い。ニセモノ石で騙された上に、巣をいいようにされて黙ってるなんて、負けず嫌いの風上にも置けません!」
「ははあ……なるほど?」
「その点、ワタクシにはガッツ星人の気持ちが手に取るように分かりました。なにせ、負けず嫌いの度合いでいったら、ワタクシの方がずっとずーっと、あの変な動物よりも高いに違いないんですからね! ワタクシがガッツ星人なら、警備隊の皆様を絶対に一番酷いペテンに掛けてやらなきゃ気が済みませんわ」
「……ハッハッハッハッハ!! ガッツの野郎、負けず嫌いさでナツコに負けやがった訳か!」
「ええ、レーサーなんてね。いくら気取っていても、結局はみーんな、飛びっきりの負けず嫌いの集まりなんですから!」
「まったくお前って奴は……最高だ! 地球一……いや、宇宙一の負けず嫌いだぁ!」
「きゃぁ!!」
思わずといった様子で、ナツさんを片手で抱き寄せたフルハシ先輩が、その場でぐるりと1回転する。
するとナツさんは、フラフラとそのまま尻もちをついてしまった。
「お、おい……ナツコ……大丈夫か?」
「もう! 当たり前よ、フルハシ隊員! いくら凄腕レーサーだからって、デコボコの地下道を、アクセル全開で走り抜けるなんて、普通じゃないわ! きっと凄く神経を使ったはずよ。大丈夫、ナツコさん? 立てますか?」
「え、ええ……」
そう言いつつ、アンヌがヘルメットを脱がせると、その下からはじっとりと濡れた髪が零れ、よくよく見れば、額には滝のように冷や汗が滲んでいる。
アンヌの見立てによると、過集中による神経衰弱らしい。
「す、すまねぇ……」
「大丈夫よ、ワタクシったら、ちょっと張り切りすぎちゃったみたい」
「……隊長」
「うむ……ナツコくん。今回の貴方の働きは、まさに値千金の価値がある。この場で地球防衛軍を代表して、お礼を述べさせて下さい。貴方の協力のおかけで、我々は再び敵に立ち向かう事が出来る!!」
「お役に立てましたでしょうか?」
「少なくともウルトラ勲章の授与は確定です。フルハシ!」
「ハッ!」
「貴様はここでご婦人をお守りするんだ。残念ながらポインターでは定員オーバーだからな」
「えっ? ポインターは7人乗り……」
「いいな!」
「は、ハイ!」
続々とポインターに乗り込んでいく俺達。
「ありがとうナツコさん。あとはフルハシ隊員がこれ以上無茶しないように見張っていてください」
「アマギさんもお気をつけて!」
「ナツさん、あなたもあまり無茶しちゃだめよ?」
「アンヌさん……ワタクシはアンヌさんみたいに戦う事は出来ないけれど……ここで応援しているわ」
「……ええ、きっとセブンを助けてくる。約束するわ。せっかくあなたのくれたチャンスを、無駄になんかしてなるもんですか」
アンヌが彼女をひしっと抱きしめてから駆けていく。
「……ナツコさん、前言撤回させて下さい。やっぱり貴女の協力がないとダメだったみたいです」
「いいえ、ソガさんの言葉があったからですわ。それに……」
「それに?」
「……ううん、背中を押してくれた方がいましたの。閉じこもってないで、外に目を向けなさいって。その人の言葉を信じただけ」
「なるほど、じゃあ今度その人に会ったら、ありがとうって伝えておいてください。皆さんのおかげで地球は守られそうですって」
「……おいソガ」
「なんです?」
「セブンを、頼む」
「言われずとも」
「おーい、早くしろー!」
アマギが呼んでる。行かなくては。
「いってきまーす!」
「ソガ、早く窓を閉めろ! オートパイロット起動!」
「こちらキリヤマ、迎えは不要だ。航空戦力は全て防衛に回して構わん! 我々が帰還するまで、なんとしても基地を死守せよ!」
「了解! お待ちしております!」
「ホバー良好」
「後部ジェット展開!」
ガッツ星人め、俺達を基地から隔離して勝った気でいるな?
だが残念。
ナツコさんとポインターが、全てをひっくり返してくれた。
確かにポインターの運転は、普通車とあまり変わらない。
ただしそれは普通に走行していれば、の話。
驚くなかれ、ポインターの最高速度はなんと……時速365キロだぜ。
オートパイロットでジェットエンジンをかっ飛ばせば、あっと言う間だ!
待ってろよセブン!
「ポインター、発進!」
Q、もしかしてこの世界の精神科って……
はい、精神医療に関しては、放映当時とさほど変わりません。
放映年である1968年には、世界保健機構のクラーク勧告(精神病患者に対する人権無視的な医療実態への是正勧告)を無視。とありますので、当時の日本がいかに精神疾患に対して遅れていたかが分かります。
なにせ、劇中でキリヤマ隊長自ら「キチガイ病院」の発言がある事からも、当時の風潮が窺い知れると言うもの。
精神保健法が施行されたのも、それからさらに後の1987年。
ちょうど、セブン世界の劇中設定とされる年代で、ようやく土台が出来つつある……という感じ。
ウルトラマンのジェロニモン回におけるイデ隊員や、最終回付近のダンなんて、今から見れば明らかに肉体的な過労だけでなく、精神的ストレスからくる鬱症状も併発していると診断されるでしょうが、それら全部ひっくるめて「ノイローゼ」で済まされてしまう時代です。
ダンですら、クラタ直々に軟弱者呼ばわりされるくらいですから、ソガが躁鬱状態だなんて、周囲からはまったく理解出来ないでしょう。
精々、アンヌが「少し疲れてるんじゃない?」と療養を勧めてくる程度かと。
そして、他の科学や医療技術に比して、そういった分野が遅れがちなのも、ある程度説明がつきます。
なぜなら、この世界において、様子のおかしい奴はたいてい……「宇宙人に操られている」という事例が、あまりにも多すぎるから。
そりゃあ、催眠解除の方法ばかり探るようになるでしょう。まあ、そちらの技術で副次的に人間の精神に対する理解が深まるのを待つしかありません。
さらに言うと、この世界は年がら年中、怪獣に襲われたり、宇宙人と戦争状態にあるわけで……鬱になった奴から死ぬ。なんなら、鬱になる前に死ぬ。
これが一番の要因ではないかと。
イデはたまたま隣にピグモンやハヤタ=ウルトラマンがいたから助かっただけで、どちらかいなければ、そのままドラコに叩き潰されていたでしょう。
ダンですら乗機を撃墜されており、それでも生きてたのは正体がセブンだから。常人ならばあそこで終わりです。クラタに怒鳴られる事も無かったでしょうに。
精神疾患を抱えた状態で生き残る方が稀なので、症例に対する理解が深まるわけがない。という事です。
なので、これからどれだけソガの様子が異常になっても、「もしや宇宙人に……」と疑われる事はあっても精神病棟にぶち込まれる事はありません。よかったね。
現代の精神科がこれだけ発達しているのは、いかに日本が平和かの証左なのかもしれません。