転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「カマタさんは僕の恩人の従兄弟でね……火星開拓に行ってしまったその人に代わって、なにかとよくしてくれたんだよ。彼らがいなければ、今の僕がこうして科学を志す事も無かったろう」
「ふーん……じゃあ、ある意味、地球防衛軍の恩人みたいなもんだな」
「こんな事を言っては不謹慎かもしれないが……彼らだけでも助ける事が出来て本当に、良かった……」
病室の扉を開けるアマギ。
そこにはベッドが並んでおり、救助された海底基地の作業員達が体を横たえていた。
顔の上半分に包帯を巻いた男が、ドアの音に気付いたのか、ゆっくりと上体を起こそうとする。
「待ってカマタさん! 起きてはいけません、安静にしていなくては」
「おや、その声は……もしかしてアマギ君かい?」
「ええ、御無事でなによりです」
「いやぁ……命の恩人だよ。本当に、ありがとう」
「あの人が帰ってこないうちに、地球であなたを死なせてしまったら、会わす顔がありませんから……出来ればもっと大勢の方を、助けてあげたかった……」
「いいや立派だよ。あの時の少年が、自分を追いかけてウルトラ警備隊だなんて、奴も鼻が高いだろうさ……」
あんな大事件から救助されてすぐだと言うのに、そうしてアマギを労う男。なるほど、彼が慕うのも分かる人格者だ。
流石に声からは張りが失われて、酷く弱弱しいが、その響きには隠しきれない優しさと親しみが滲み出ている。
この声、どこか懐かしさを感じさせるものがあるんだが……はて、どこで聞いたんだったか……?
まあいい。本当ならもう少しこのまま旧交を温めさせてあげたいところだが、本題に入らせていただこう。
後が押してるもんでね。
「あーすみません。カマタさん……でよろしいでしょうか?」
「ソガ、やっぱり休ませてあげてはくれないか。なんといっても彼らは……」
「いや、いいんだアマギ君。あなたもウルトラ警備隊の方ですね? この度はなんとお礼を申し上げれば……」
「……よして下さい。お二人を見つけたのはアマギだし、身一つで多目的ホースを結合させたのは、フルハシ隊員です。俺は何もしちゃいません……」
「いいえ、閉ざされた空間の中で、打ち返してくれたメッセージが、どれほど心強かったか! あの時聞いたピンの音は、一生忘れないでしょう……コイツと私がこうしているのは皆さんのおかげです。協力させて下さいよ。当時の事をお聞きになりたいんですよね?」
「うっ……」
声を頼りに、俺の手を握りしめてくるカマタ氏の言葉を聞いて、なんだか涙が溢れそうになるが、それをグッと堪える。
こんなところで泣いてる暇はないのだ。
「辛い事を思い出させて、申し訳ないですが……」
「それをお伝えするのが、生き残った私の役目なのでしょうから……あの時、横からの激しい衝撃で、私たちは壁に叩き付けられました。そして次の瞬間には、上の方から凄まじい爆音が響いて……すぐに気を失ってしまいました。ただ一つ言えるのは、あれは決して機材の誤作動によるものでは無いという事です」
「その根拠は?」
「あれ程の爆発を引き起こすと言う事は、おそらく船に積んであったコンプレッサーの、圧縮酸素に引火したとしか考えられません。しかし……直前には、エアや気圧に異常がない事を、上でも下でも確認し合いました。他でもない、私自身が確認したんです! アマギ君……1番棟や2番棟の様子はどうだった?」
カマタの質問に、目を瞑って現場の光景を思い出そうとするアマギ。
「1番棟は中から弾け飛んだみたいにバラバラで……それ以外の棟は、海底のあちこちに吹き飛んで酷いものでした。2番棟なんて、元の位置から10mも移動していたんです! 海底に固定されたままだったのは、お二人のいた5番棟だけでした……」
「やっぱり……」
押し黙るカマタ氏。
何事かを考えて、結論が出たのだろう。
顔をあげて、再び証言を続ける。
「でしたら最初の爆発は、基地中央の1番棟で起きたと考えられます。居住棟の外壁は、水圧に耐えられるよう特殊合金製です。生半可な衝撃ではビクともしないはずだ。それが一つだけバラバラになっていたという事は……1番棟の爆発がメインシャフトを伝ってシーホース号のコンプレッサーへ逆流し、圧縮空気に引火……その後に、船の爆風がまた換気パイプを伝って、各棟へ届けられてしまったのだと思います」
「そうか、他の棟は上から吹き込んできた爆風が、ドームの底面を突き破って、そのままジェットのように飛び上がってしまったのか!」
カマタの仮説が、脳内で詳細に理解できたのだろう。
あまりに壮絶な有様に慄くアマギ。
「天井が船とパイプで繋がっていないのは、我々のいた5番棟だけさ。通信ケーブルを通さないといけなかったからね……しかし、みんな苦しまずに逝っただろう事は、不幸中の、幸い……だな……」
カマタさんは、仲間の最期に思い至ったのか、ついにさめざめと泣き始めてしまう。
ここまでよく我慢したものだ。なんという精神力だろう。
だがこれで、爆発が海底から始まった事が分かった。
そして……
「1番棟には、特殊合金の外壁を吹き飛ばすような威力の爆発物は置いていないはずだ。なんといっても、海上と基地を繋ぐ玄関口なんだから」
「つまり……これは単なる事故なんかじゃない」
頷き合う俺達。
「ああ……ちきしょう……もう魚は食べられねぇなぁ……」
「……今日を思い出してしまいますか」
「いやぁ……流石の私も、恩人は食えません」
苦笑いでゆるゆると首を振るカマタさん。
「恩人?」
「ええ、本当はね……私達も通信が終わったら、四番棟の点検に戻るはずだったんですよ。でも、メシが終わってさあ戻るかという時に……窓の外に魚が山ほど集まってきましてね」
「魚が、ですか?」
「今までも、カワハギが二、三匹覗きこんでくる事がありましたが……その時は、あらゆる魚が窓をびっしり覆う勢いで此方を見つめていたんです。普段は知らん振りで通り過ぎていく、ドチザメまでもがですよ? こんな事は初めてだなと、相棒と首を傾げていたら……いきなりドカーンと」
怪訝そうなアマギと顔を見合わせる。
まあ、ウルトラワールドならあり得そうな話だ。
特に俺からしたら、今回の下手人はノンマルトと分かっているから尚のこと。
……とはいえ、アマギは信じなさそうだけどな。
「つまり……魚達は何らかの異変を察知していた?」
「さあてねぇ……でも、奴らが引き留めてくれていなけりゃ今頃は……」
「そんな言い草、貴方らしくもない……弱気になっているんですよ。もう休んだ方がいい」
「……そうさ、あいつらがそんな殊勝なもんか。ようやく邪魔者がいなくなるぞと、野次馬に来てただけさ!」
後ろのベッドから皮肉げな声がする。
さっきまで寝ていたもう一人が、いつの間にか目を醒ましていたようだ。
「おう相棒、起きたかい?」
「その声……カマタか。助かったのか、俺達?」
「ああ、そうだ。ウルトラ警備隊が助けてくれたよ。お前さんなんか、ホースが繋がった途端に、気をやっちまうんだから……あの、カラのでっかい隊員さんに感謝しなきゃな。お前を負ぶってくれたんだぜ」
「……他のみんなは?」
「……」
「そうか……」
同僚の沈黙で察したのか、消沈した声を漏らす。
「あの坊主の言うとおり、海底開発なんか止めときゃ良かったんだ……」
「……坊主?」
「いただろう、あのホクロの……そういやカマタは会った事がないのか」
「ああ……あいつらがそんな事を言ってたな……」
「坊主とは? 誰の事です?」
「なんでも、作業をやめろと何度も言ってきた子供がいたそうでね……」
「あの子だ、あの子が知ってる……何か知ってるはずなんだ……あの子が……」
「寝ちまったか……」
呻き声がいびきに変わる。
そりゃそうだ。体力だって消耗しきってるだろうからな。
カマタさんが元気すぎるだけだ。
「……我々は領分を侵してしまったのかもしれないなぁ」
「領分ですって?」
「そうです。私はね、思ってしまったんですよ……煩雑な地上より、静かでキレイな海底の世界の方がずっといいってね……」
「……」
「それはとんだ思い上がりだ。海底は、美しいだけじゃない。我々なんかが思うより、ずっと深くて、ずっと恐ろしい場所のままだった……それを忘れてしまったから、海の神様が怒ったに違いない……お前達なんぞがこちらへ仲間入りしようだなんて、烏滸がましいぞって……」
「……神様なんか、居やしませんよ。例え居たとしても、怒って誰かを傷つけるような器の小さい奴が、海の神であるハズが無い。それはただの……怪物ですよ」
「そうでしょうか……そうでも考えなきゃ、爆発の原因は、まったく分からないんですから……」
カマタは包帯の巻かれた顔で、病室の外を向いていた。
開いた窓から聞こえる潮騒の音で、渚の方角が分かるのだ……
―――――――――
作戦室に、ダンとアンヌが帰ってくる。
アンヌに接触して、事件を予告したという子供を探したらしいが、収穫は無し。
学校にも行ったのだが……
「授業中で駄目でした。後で連絡をくれることになっております」
「ご苦労」
「生存者はいましたか?」
「船と海底基地の係員が二人、奇蹟的に助かって、近くの病院へ収容されたよ」
「会って来たんですか?」
「うん」
「原因は全く判らんそうだ、彼らにも……」
「シーホース号の係員が、その子供のことをうわごとのように言ってたよ」
神妙な顔のアマギは、カマタ氏の同僚が、寝入る前に放った言葉が気になるらしい。
「あの子が、何かを知ってるって……」
そこへマナベ参謀が、テープレコーダーを持って入ってくる。
「さっき、長官のところに、子供から妙な電話がかかって来たんだ。……これが録音したものだ」
参謀がテーブルの上にレコーダーを置いて、スイッチを入れる。
『海底はノンマルトのものなんだ』
『そのノンマルトって何だね?』
『人間が、海底を侵略したら、ノンマルトは断然闘うよ』
『坊や……』
『ねぇ、長官にちゃんと伝えておくれよ。海底はノンマルトのもんだから、侵略したりすると、大変なことが起きるよ』
ガチャンと乱暴な受話器の音がして、それきり少年の声は聞こえなくなる。
参謀がスイッチを切ると、すかさずアンヌが頷いた。
「あの子の声だわ」
「ノンマルト……何のことだ?」
「ハーハッハッハッハハハ!」
眉間に皺を寄せる隊長の後ろで、フルハシが豪快な笑い声を上げた。
「嘘っぱちで言ったことが、本当に起こったんでねぇ、調子に乗ってんだよ、きっと」
「ダンカンの時みたいに、宇宙人が人間の口を借りてるのかもしれませんよ?」
「……大体ね、事件そのものが、故意なのか、事故なのかハッキリしないんだよ。こんな子供のイタズラ電話なんて気にしない方がいいよ?」
まったく、この人はいつまで経っても、この調子だ。
安心と信頼のフルハシ隊員。
有事と平時の落差が凄い。
(ノンマルト……ノンマルト。やっぱり、あのノンマルトの事なんだろうか)
俺達のやりとりなんかさっぱり無視して、ダンが一人で考え込みながら作戦室をうろつき回る。
おおかた、ノンマルトという言葉にひっかかりを覚えてモヤモヤしてるんだろうな。
今回の話は、地球の先住民と名乗るノンマルトが、現生人類に対して反撃してくる、という話だ。
かつて海に追いやられた種が、最後の居住圏までも人間に侵略されそうになって……との事。
作中では結局、その話が本当かどうか分からないままノンマルトが全滅して有耶無耶になった……というか、有耶無耶に
セブンの故郷であるM78星雲では、地球人の事はノンマルトと呼称していたそうだから、まあ、本当だったんじゃないかな? とは思っている。
ぶっちゃけ、ノンマルトの主張が嘘だろうが本当だろうが、俺にとっちゃ1ミリも関係ないんだけどな……やることは変わらんし。
とはいえ、恒点観測員であるダン的には、気になるところなんだろう。
安心しろダン。お前の悩みのタネは、俺が綺麗さっぱり取り除いてやるからな。
そうしていつものダンしぐさを眺めていると、俺の目の前で、作戦室の電話がなる。
「はいこちら作戦室……ああ、チョットお待ち下さい……アンヌ、電話」
「モシモシ、友里ですけど……ああ、校長先生。先ほどはどうも……えっ……そうですか! ……はい、すぐお伺いします……では、後ほど」
電話を切ったアンヌが安堵の溜息をつく。
「あの子、みつかりそうです」
「そうか」
「僕も行こう」
出て行く男女の背中に、フルハシが呆れたように鼻を鳴らした。