転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ノンマルトの渚(Ⅲ)

 

ポインターの中、ハンドルを握るダンの隣では、アンヌが意気消沈している。

 

結局、学校では彼女の会ったと言う少年は、見つからなかったのだ。

 

あるいは、この付近の子供ではないのかもしれない。

 

そんな事よりもダンは、テープの中で、少年の発した言葉がずっと引っかかっていた。

 

(ノンマルト……僕の故郷M78星雲では、地球人のことをノンマルトと呼んでいる。ノンマルトとは人間のことだ。だが、確かに少年はノンマルトと言った。それはどういう意味だろうか。人間でないノンマルトがいると言うのだろうか……?)

 

ダンの抱える悩みの事など露知らず、ポインターの窓からぼんやりと海岸を眺めるアンヌ。

 

水夫達が、網引きの巻き取り車を数人がかりで回している。

 

まるで古代の奴隷のよう……

 

そんな事を考えていると、岩場に座る青いボーダーシャツが見えたような気がした。

 

「ストップ!」

「どうしたの?」

「あの子だわ……」

 

車を降りていくと、岩場の上で、子供が小さな背中を丸めてオカリナを吹いていた。

物悲しいメロディーが、波間に揺れる。

 

「君! ……随分さがしたわよ。君、なんて名前?」

「シンイチ」

「そう。ねえ、シンイチ君、なぜ、海底開発センターが壊されてしまったの?」

「ノンマルトが怒ったのさ!」

 

なぜ?

アンヌは努めて優しく問いかける。

 

「海底はノンマルトの物だもん!」

「ノンマルトってなんなの?」

「本当の地球人さ!」

 

この子は何を言っているのだろう。

地球人に、本当も何もないではないか。

私達が地球人なのだから。

 

「ずっとずっと昔、人間より前に地球に住んでいたんだ。でも、人間から海に追いやられてしまったのさ。人間は、今では自分たちが、地球人だと思ってるけど、本当は侵略者なんだ!」

「人間が、地球の侵略者ですって?」

 

まさか。

 

まるで信じられないといった様子のアンヌに、無言で頷きを返すシンイチ。

 

「君……ノンマルトなの?」

「人間はずるい。いつだって自分勝手なんだ。ノンマルトを海底からも追いやろうとするなんて……」

「シンイチ君は人間なんでしょ。だったら人間が人間のことを考えるのは、当然のことじゃない。海底は私たちにとって、大切な資源なのよ」

 

シンイチの言葉を遮るアンヌ。

そろそろ議論が平行線になりそうだったからだ。

しかし、少年はますますいきり立って声を荒げた。

 

「でも、ノンマルトには、もっともっと大切なんだ!」

「わたしは人間なんだから人間の味方よ。シンイチ君もそんなこと言うべきじゃないわ」

 

シンイチは口を真一文字に結んで押し黙る。

アンヌの瞳の中に、堅い拒絶の意志を見てとったからなのか。

 

その時、ダンが岩陰から姿を現す。

超人的な聴力で、全て聞いていたのである。

 

「シンイチ君!」

「人間がやるんなら、ノンマルトもやるよ! 僕知らないからね!」

 

シンイチは捨て台詞を残し、そのまま海にとび込んだ。

ダンとアンヌは心配そうに海を見つめるが、いつまで経っても少年が浮かび上がってこないではないか。

 

溺れて沈んでしまったのだろうか。

いや、それとも……

その時、ダンのビデオシーバーが鳴る。

 

「はい、こちらダン!」

「キリヤマだ! 城南大学の海底探検部の船が襲われた! すぐ戻れ!」

「了解!」

 

後ろ髪を引かれたアンヌが振り返るも、水面には白いオカリナが揺蕩っているだけだった。

 

――――――――――――

 

ホーク1号が急行した時、巨大なタコの如き触手を持った怪物が、大学所属の調査船に絡みつき、海底に引きずり込もうとしていた。

 

「ノンマルトってのは、奴のことか!」

「船が危ない!」

 

低空飛行で接近し、出来るだけ至近距離から催涙弾を撃ちかける。

怪獣と船の距離が近すぎて、通常の攻撃では危険すぎるからだ。

 

もちろん催涙弾といっても、対怪獣用のものであるから、サイズはほとんどミサイルみたいなもの。

とてもじゃないが、人体に悪影響が無いとは言えないし、小規模とはいえ、着弾すれば爆発だってする。

 

しかしこれでも、ホークに搭載している兵装の中で、なるべく殺傷力の低い物を選んだのだから、船員達には割り切ってもらうしかないだろう。

 

本物のロケット弾やレーザーで誤射されるか、このまま怪獣に真っ二つにされるよりかはずっとマシなはずだ。

 

刺激性の煙が粘膜にさぞや染みたのか、仮称ノンマルトは吸盤から船を解放すると、触手を空に向かって振り回してホークを威嚇する。

 

その隙に全速力で離脱する調査船。

手酷くやられて、甲板に並んでいたクレーンやコンテナは全てぺちゃんこにへし折られてしまったものの、スクリューだけはなんとか無事だったらしい。

半ば傾きかけているが、救助船のいる方向まで逃げるくらいはできるだろう。

 

防衛対象が離脱したのを確認すると、ホークは今度こそ正真正銘の対獣ロケット弾をこれでもかとお見舞いした!

 

あまりの威力に、スミを吐き出し。慌てて海中へ逃げ込む怪獣。

 

……が、大ダコにとっての脅威は決して上空だけに居るのでは無い。

 

「発射!」

「ハイ!」

 

 

キリヤマ隊長の恐るべき二段構え。

号令と共にソガが発射レバーを倒す。

怪獣の背後から忍び寄ったハイドランジャーが、必殺の重魚雷を無防備な背中に解き放った!

 

脇腹と首筋に長槍を突き込まれた怪獣は、たまらずと言った様子で飛び上がり、思わず水上に頭を出してしまう。

 

すると今度は、待ってましたと言わんばかりに、ホーク1号の急降下爆撃!

 

凄まじい爆発の雨に、触手が一本千切れ飛んでしまった怪獣は、放心状態で海底にゆっくり沈んでいく。

 

空と水中からの両面攻撃。

水に潜って姿を隠す怪獣に対しては、実に有効な戦術だ。

 

「これぞウルトラ作戦第七号さ」

 

海底に横たわり、ゆらゆらと触手を揺らして海藻に擬態する事で、なんとかこちらの目を誤魔化そうとする怪獣。

 

俺はその喉元へ、魚雷の照準を合わせた。

 

悪いなガイロス、隠れんぼへ付き合ってやるほど、怪獣に対する容赦は持ち合わせていないんだ。

 

極東支部ご自慢の、七〇式圧縮酸素魚雷をくらえ!

 

正中線に対獣魚雷を被雷してしまった怪獣の肉体が、びくんと大きく跳ねる。

へたりと岩場に力無く垂れ下がる触手。

 

ようし、やっつけたぜ。

 

 

 

……とでも言うと思ったか!

 

「隊長、タコは知能が高いと言いますからね。死んだふりかもしれません。念のために追撃しておきましょう」

「うむ」

 

海底にくたりと広がるガイロスの上を、ゆっくり通り過ぎつつ、ありったけの爆雷をばら撒いておく。

 

次々に炸裂する攻撃に、今度こそ怪獣は沈黙した。

 

死亡確認、ヨシ!

 

本来なら死んだふりでやり過ごされてしまうけど、俺はコイツの出番がもう一回ある事を知っている。

 

だからここで、念入りにトドメを刺しておくのさ。

ノンマルトの武器を奪っておくに越した事はないのでね。

 

ガイロス君、よく雑魚扱いされるけど、警備隊にこれだけ一方的に叩かれておきながら、後半にセブンともう一戦できるくらいにはタフなんだよな。

その耐久力だけは目を見張るものがある。

 

残念だが今回は、そのしぶとさを発揮することなく、ここで静かに眠っていてくれ。

 

安らかにな。

 

 

――――――――――――

 

 

「やれやれ、これで人騒がせな事件も無事落着というわけだ!」

「コーヒーでもいれるか?」

「おお、僕にも頼むよ」

 

大物を倒し、ようやく一息ついた隊員達。

 

「海底怪獣ノンマルトを生け獲りにして、水族館に持って行けば、ひともうけできたのになぁ、おしいことをしたよ」

「これで海底の邪魔物も消えた。アマギ、報道班に連絡、テレビ、新聞、ラジオでニュースを流すよう要請してくれ」

「はい」

 

アマギもようやく、フルハシの不謹慎なジョークに笑う余裕が出て来たと見える。

キリヤマ隊長の顔も晴れやかだ。

 

しかしそこへ、マナベ参謀が険しい顔で割り込んでくるではないか。

 

「ちょっと待った! 今、例の子供からまた連絡があってね。ウルトラ警備隊がやっつけたのは、ノンマルトではなく、怪獣ガイロスだというんだがね」

「何ですって!? するとまだノンマルトは……」

「その子の言によれば、ノンマルトは遂に、原潜グローリア号で、地上攻撃を開始することになったと……」

「グローリア号?」

「二ヶ月前、太平洋側で行方不明になったイギリスの原子力潜水艦です」

 

隊長の疑問に、アマギが答える。

新鋭兵器に関しての知識は、やはり彼が図抜けているらしい。

 

横から焦った様子のダンが声をかける。

 

「参謀、その子は?」

「電話をかけて来た場所が判ったんで、隊員が急行したよ。今頃、つかまえた頃だろう」

「……」

「ダン!」

 

マナベ参謀の言葉を聞いたダンは、おもむろにヘルメットをひっつかむと、アンヌの制止も聞かずに走って行ってしまった。嫌な予感がしたんだろうな。

 

……おっと、そうだった。

 

「参謀、急行した隊員の装備は?」

「装備? ……特殊警棒があるにはあるが、子供相手に振るうわけにもいくまい」

「いけません、直ちに射撃装備を解禁してください! 例え外見が子供でも、相手はノンマルトのメッセンジャーです。それにその子自身はただの子供でも、奴らが回収しに来る可能性があります! せめてなんらかの非殺傷武器で警戒する必要があるのではないでしょうか?」

「ふむ……」

「まーた始まったぜ」

「怪獣まで出て来た以上、ノンマルトの実在は疑いようもありません」

「……駄目だ。やはりそれは出来ん。どれだけ行っても我々は地球防衛軍であり、例え宇宙人の内通者であっても、相手が非武装の子供であるなら、武器を携えて追い回す事は出来んのだ」

「……そうですか。差し出がましい口を聞きました。お許しください」

「いや、ソガ隊員の懸念は尤もだ。確保の人員には武装できずとも、その代わりに増員と、少年の確保よりも周囲の警戒を密にするよう伝える。万一の後詰めには武装許可も出そうじゃないか」

「ありがとうございます!」

 

――――――――――――

 

「待てー!」

「とまれー!」

 

海岸沿いを少年が走る。

彼の後ろからは、数人の防衛隊員が追いかけてきており、進行方向からはさらにもう幾人の男達が湧いてきて、子供を挟み撃ちにした。

 

シンイチは逃げ場を失って、四方八方を囲まれてしまったのだった。

 

「捕まえろ捕まえろ」

「囲め、そっちだ」

「大人しくしなさい」

「……ん?」

 

その時、遠くの岩陰で何かがチラリと光ったような気がしたのを、外周で辺りを窺っていた隊員が見咎める。

 

警戒を促そうとした瞬間!

 

「うわぁーーっ!」

「ぎゃあ!」

 

少年に覆い被さっていた隊員の背中にレーザーが突き刺さり、苦悶の声を上げて倒れていく。

 

「狙撃されているぞー!」

「散れ、散れー!」

「そこの岩場だっ!」

「がっ!?」

 

慌てて散開する隊員達の間を縫って、シンイチがレーザーの発射される先へ逃げ出した。

 

「ま、待ちなさ……ああっ!」

「危ないぞー!」

「駄目だ、こっちがやられてしまう」

「あの子は敵の仲間だったんだ! 撃たれてない!」

 

遮蔽に辿り着くまでに、次々に倒れる隊員たち。

 

だが、敵の隠れていると思われる岩場で、いくつもの粒子が爆ぜ、レーザー射撃が止まる。

 

ショックガン装備のバックアップ隊員達を引き連れて、ダンが崖の上から制圧射撃を敢行したのだ!

 

崖上からの援護射撃を隠れ蓑にして、ダン以下数名の決死隊が、確保班の隠れている岩場に辿り着く。

 

「大丈夫ですか!」

「モロボシ隊員!? 救援ありがとうございます!」

「みんなレーザーでやられてしまいました……」

 

生き残り達の言葉に、ダンが砂浜を見れば、逃げ遅れた隊員達の死屍累々たる様が目に入る。

 

「やっぱりあの少年、ノンマルトだったのか……」

「撃ち返してきたぞっ!」

「怯むな、応射せよっ!」

 

岩場を挟んでの、激しい銃撃戦が開始される。

そして、互いの火線が双方の逃げ場を塞いでしまい、膠着状態に陥った。

 

あちらもこちらも逃げられないが、そのために射撃をやめると、圧が減ってこちらがやられてしまう。

引くに引けない状況が出来上がる。

 

このままでは双方ジリ貧で共倒れになるかもしれない……

 

その時、沖合いでさざ波が立ったかと思うと、たちまち異形の潜水艦が現れた!

 

「あ、あれは何だっ!?」

「……グローリア号だ!」

 

ここへ来る途中、アマギ隊員から聞いた特徴にそっくりだ。

 

艦橋付近を埋め尽くす勢いで、オルガン砲の如く横並びに設置されたフラック群。

それらがまるでパドルシップの外輪のように回転して、凄まじい密度の砲火を形成する。

 

潜水艦としては正気を疑う設計をしているグローリア号であるが、元は異星人の円盤に対しての、移動式対空プラットフォームとしての運用を想定されていた。

 

上空から目視不可能な深度で、敵円盤の移動経路上へ接近し、急浮上からの全力射で、奇襲を仕掛けて撃墜せしめると言う戦法である。

 

英国支部は元々が、周囲を海に囲まれた海軍国家だった事もあり、海上戦力は非常に充実していたのだが、異星人や怪獣に防備の厚い海域を避けての侵攻、離脱を許すという苦い思いを幾度か経験している。

 

それに業を煮やした海軍が、港から遠い海域にはこのグローリア級原子力潜水艦をあらかじめ沈めておき、上空偵察で戦力が配置されていないと油断した敵の前で、潜水艦隊を浮上させ、海上に即席の対空陣地を構築する……と言う構想の基に建造したのが、この兵器だ。

 

それ故、両舷へ張り出すようにしてまで増設された連装砲は、全てが艦首方向に向けて固定されており、前方90度方向へ全火力を投射できるつくりになっている。

 

そのハリネズミのような威容はもはや、潜水艦と言うよりは水中戦艦と呼ぶべきだろう。

 

さながら、かつてのアイアンロックスを彷彿させる苛烈な砲撃が、海岸を襲った。

 

「ダンより作戦室へ……! グローリア号が浮上しました! 激しい攻撃を受けています!」

 

 

――――――――――――

 

ビデオシーバーで救援を要請するダンの背後からは、凄まじい爆音が聞こえており、それに掻き消されないように、ダンは声を張り上げる必要があるほど。

 

「フルハシ、ソガはホーク1号で出動。アマギとアンヌは俺と一緒に来い」

「待って下さい。ホークはまだ本調子じゃありません。対空特化のグローリア号を相手取るなら、アマギのサポートがあった方がいいでしょう。俺が彼と代わります」

「……そうか。ハイドランジャー出動スタンバイ!」

 

さぁて、こっからが正念場だ。

 

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