転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ノンマルトの渚(Ⅴ)

 

どこまで行っても、少年の声がダンを糾弾する。

 

シンイチの声が聞こえなくなる場所を探して、ダンは逃げ回った。

 

まるで犯罪者を咎めるような、トゲトゲしい響きが、ダンの耳朶を打って離さない。

 

どうしてノンマルトの事を守ってくれないの。

 

どうしてアイツらばかり、ズルいじゃないか。

 

ウルトラセブンは、地球の守護者じゃないの。

 

どうして、どうして、どうして、どうして……

 

ノンマルトだって、地球の仲間じゃないか!

 

 

「ここは、ノンマルトの渚だよ! 人間は出て行け!」

「シンイチ君! 僕は……闘わなければならないんだ」

「バカヤロー!」

 

シンイチの叩き付けたオカリナが、岩にぶつかり、けたたましい音を立てて粉々になった。

 

さながら、ウルトラセブンへの失望で、砕けてしまった少年の心のように。

 

……その破片を見つめるダンの心も、また。

 

「……ジュワッ!」

 

――――――――――――

 

 

「目標、南西15度! 深底200!」

 

俺はさ、ノンマルトの使者が大っ嫌いだ。

 

「敵艦発見!」

 

よくもまあ、こんなお話を作ってくれたもんだよ。

 

12話なんかより、よっぽど封印したい。

 

カジ参謀の気持ちも、分からなくはないね。

 

「距離1200!」

 

ことある事に引き合いに出されて紹介されるのは、この話かR1号で、さもなくばマヤか。

 

どれもこれも爽快感とはかけ離れた、重苦しいエピソードばかり、おかげでウルトラセブンは、風刺色の強い社会派作品かのように扱われる始末。

 

違うだろ、ウルトラセブンは、普通のSF冒険活劇として充分に満足行く作品だろうが。

 

マックス号のように、ストーリー展開ガバガバの、エンタメ極振りみたいな回があると思ったら、キングジョーをはじめとした、強大な敵に対する、セブンと人間の熱い共闘が描かれたり。

 

かと思えば、毒タバコで人間を皮肉ってきたりするその裏で、ペガッサのような悲劇があるから、良いアクセントなんじゃねえか。

 

そのSF的な物語の幅の広さこそ、ウルトラセブンの魅力だろうが!

 

ノンマルトノンマルトノンマルト……うるせぇ!

 

ウルトラ警備隊がいかに素晴らしいチームか力説しても、「でも、原住民をよく調べもしないで虐殺したんでしょ?」と言われたら黙るしかないだろが!

 

一部だけじゃなくて、全話見ろ!

 

ちょっと囓ったような層からキリヤマ隊長を、タカ派の人類史上主義者みたいに言われる俺の気持ちが! 分かってたまるか!? 聞いてんのか、原作者! このキング・ジョー!

 

おまけに平成版になってまで、この件をほじくり返されて、地球防衛軍を悪者にされ、挙げ句の果てにはセブンが宇宙犯罪者だ。

 

侵略者の味方をする事は、宇宙の掟で許されていない?

 

だったらじゃあ、そのご大層な宇宙の掟とやらで、今すぐ侵略歴のある宇宙人を片っ端から罰してくださいよ!

 

犯罪者リストなら、地球から快く提供してやるからさ!

 

真面目なセブンは法を遵守するのが分かってるから、そいつに全部罪をおっ被せて落とし所にしたんだろ?

貧乏くじ引かせたんだろ?

 

正直者がバカを見るような運用しといて、なーにが宇宙の法じゃ! おとといきやがれ!

 

「目標敵艦、グローリア号。撃てっ!」

「地獄に落ちろオラァッ!」

 

誘導式の短魚雷なんか必要ない。

センサーの分まで炸薬を詰め込んだ、最大威力の重魚雷がたった一発あれば充分だ。

 

グローリア号の土手っ腹に命中し、ひき裂けるように爆沈!

 

「ざまあみやがれ、クソが」

 

先に手を出した癖に、被害者ヅラしてんじゃねえよ。

 

 

「……隊長、あれは何でしょう!」

 

 

窓から前方を確認したアンヌが、岩陰の向こうに妙な物体が並んでいるのを発見した。

 

海底から生えてきたように並び立つそれらは、どれも丸みを帯びており、色も質感も明らかに人工物。

 

「ハッ、ノンマルトの海底都市!?」

 

巨大な海草が防風林のように都市の周りを囲っており、グローリア号の爆発で一部が掻き分けられていなければ、一目では分からなかっただろう。

 

「もし、宇宙人の侵略基地だとしたら、ほうっておくわけにはいかん……我々人間より先に地球人がいたなんて……いや、そんなばかな……」

「隊長……?」

「やっぱり攻撃だ。ミサイル発射用意!!」

 

敵は明確な意志を持って、地上を攻撃してきており、既に死傷者が出ている。

 

シーホース号や漁村の人々は、民間人であり、卑劣な無差別攻撃の犠牲となったのだ。

 

許しておく事は出来ない。

 

そして、この決断に例え万が一があったときは……

 

短い逡巡の後、当然の判断として、キリヤマは攻撃の命令を下した。

 

……しかし、いつまで経っても、殺意の塊がハイドランジャーから吐き出される事は無かった。

 

「……どうしたっ! 何をしている。発射装着が故障したのか?」

「いいえ隊長。そのご命令は……承服いたしかねます」

「なに!」

 

振り返ったキリヤマは、ソガが発射ボタンから指を離し、体ごとこちらを向いているのを見て取り、一瞬だけ、呆気にとられた。

 

「承服できん、だと?」

「はい。いかに隊長のご指示と言えど、あれが前線基地ではなく、非戦闘員の住む単なる都市ではないと言う確信が無い以上、そのような攻撃はできません。ただの虐殺です」

「上官命令に背いた場合は、軍法会議だぞ」

「だとしてもです」

 

ソガは落ち着いて、キリヤマを真っ直ぐ見返してきた。

 

「……話にならんな。アンヌ、ソガと代われ。奴は疲れてる」

「待てアンヌ。隊長、医者である彼女に、民間人虐殺の汚名を着せるのは、些か酷ではありませんか?」

「莫迦を言うな。彼女も軍人だ。舐めるな」

「……隊長」

 

キリヤマの指示に、赤いボタンを押そうと指を伸ばしたアンヌが、ソガの言葉に思いとどまる。

 

そうして、しばしの間、細く長い指が虚空で小刻みに揺れていたが……彼女はそれを膝に置き、上官に向き直った。

 

「隊長、あの子は……ノンマルトは地球の先住民だと言っていました。もしも本当なら、海底の何処かに、人々の住む居住区があるはずです。私達ウルトラ警備隊が守る、戦う術を持たない人々の住む街が。……もしもあの建造物の中で、普通の営みを送るノンマルトの人々がいるのなら、それを破壊する事は、侵略に当たります」

 

アンヌは震える声で、頭を下げた。

 

「赤十字に誓った者として、それだけは出来ません。御容赦ください、隊長」

「……」

 

アンヌの言葉を噛みしめた男は、やおら立ち上がると、穏やかな声で、申し訳なさすら滲ませた顔で、彼の誇るべき軍医を労った。

 

「そうだな。確かにお前達の言うとおり、懸念の払拭できない状況で、医者である彼女にそのような行為の片棒を担がせる事を強要するのは、指揮官として恥ずべき命令だ。……許せ、アンヌ。私が間違っていた」

「……隊長ぉ!」

「隊長!」

 

そして。

 

「どけ、私がやる」

「隊長!」

 

決意を漲らせたキリヤマに、素早く部下の男が抱きつき、羽交い締めにして彼の歩みを妨害する。

 

ソガとてダンやフルハシには数段劣るものの、ウルトラ警備隊の精鋭だ。

しかも若い。肉体的には最盛期とすら言っていいだろう。

 

本来であれば、四十を手前の、それも僅かに腹の出てきたような男を一人、制圧するなど造作も無い。

 

……しかし、ソガが組み付いた背中は、まるで鋼のようで、一向に引き倒す事が出来ない!

 

「やめてください! そんな事をすれば、地球防衛軍の汚点となります! この先、絶対に困る事になるんですよ!」

「怖じ気付いたかキサマ! それとも、ノンマルトの手先になっているのか!」

「それならとっくに、後ろから撃ってます! まずは降伏勧告から……!」

「離せ! 離さんかこの……莫迦者がっ!」

「ウッ! ……がっ!」

「キャアッ!」

 

キリヤマの肘がソガの鳩尾を抉り、拘束が緩んだ瞬間、あっという間に正対した隊長が、唸りをつけて右腕を振るう。

 

彼の鉄拳制裁は一度では終わらず、さらにソガの左頬を、握りしめた裏拳が強かに打擲した。

 

床に倒れ、椅子に取り縋るソガを見下ろしながら、キリヤマがウルトラガンを静かに引き抜き突きつける。

 

それを見たアンヌは、あまりの事に色を失い、半狂乱でキリヤマの腕を下げさせようとするが、上官の狙いはソガの眉間から一向に離れない。

 

「やめてください! 隊長、やめて!」

 

「ソガッ! 我々がやっているのは戦争だ! それも、個人や国などと小さなものではなく、地球に住む全人類の命がかかった戦いなのだ! 僅かな判断の甘えが、無辜の民を危険にさらす事になる! 汚点だなどと、女々しい事を気にして勝てるものではない! どうしてそれが……わからんのだッ!!」

 

「だったら最初から! あんなガキはさっさと始末するなり拷問にかけるなりして! ノンマルトにはこちらから先制攻撃するべきだった! 違いますか!? でもそうしなかった! なぜだと思いますか!」

 

「なにッ」

 

「ソガ隊員も! やめなさい! 冷静になって!」

 

「我々が……地球防衛軍だからでしょう!? 人々を、力無き者を守るためだけに、その行いの尊さのみを免罪符として、本来は唾棄すべき暴力を保持して振るう事を許されている、ただ一つの組織! それが俺達なのではないのですか!?」

 

「……それはっ!」

 

「我々は宇宙攻撃軍では無い。地球防衛軍なのだと……誰かを殺す為ではなく、命を守るために戦うのだと……そう教えてくれたのは貴方ではありませんか! キリヤマ隊長! 私がここに居る意味を、それを探せと、背中を押してくれたのは他でもない貴方だっ! その言葉がいったいどれだけ……それは、嘘だったんですか!? あの美しい信念は、ただのその場しのぎの、薄っぺらい建前だったんですか!」

 

「っ!? ……キサマァ!」

 

その時はじめて、キリヤマは僅かにだがたじろいだ。

 

ソガは震える声で、尚も叫ぶ。

 

「どうして分からないですって……? 分かっています! あのノンマルトが引き起こした諸々の問題を……詳しく調べてしまったからこそ、今後起きるであろう危機の全ての責任を、貴方が独りで背負って、墓場まで持っていこうと考えている事くらい、分かっているんだっ!」

 

「なんですって!?」

 

隣の隊長を振り返るアンヌ。

彼女が見たその顔には、小さな驚きが浮かんでいたために、上官の思惑を知る事になる。

 

「地球の為に、たった一人で悪人になって、孤独な戦いをしようなんて人を……どうして見捨てられるんです。俺達の隊長は、こんなにも素晴らしい人なのに、どうして素直に賞讃させてはくれないんですか? 俺達の戦いは、尊い行いなのだと、誇らせてくれないんですか……?」

 

「ソガ隊員……」

 

「……なにを莫迦な……」

 

ぽたぽたとソガの頬を、涙が伝う。

 

尊い争いなど、この世にありはしない。

命を奪うに、誇らしいも何もあるものか……

 

しかしそんなキリヤマにも、たった一つだけ、否定しようの無い事実がある。

 

それは……敵の目の前で、自分たちがこれだけ悠長にしているのに、あの建造物群は、反撃らしい反撃を未だに一切してこない、と言う事だ。

 

それがどういう意味を持つのか。

その先へ思考が辿りつかないように、彼は努めて気を逸らさねばならなかった。

 

「それに、人の口に戸は立てられません。例えここでアレを打ち壊して、一旦は封じ込められたとしても……秘密はいつか、絶対に詳らかになる時が来ます。その時になって、虐殺の事実が明らかになった時、地球は宇宙に対して、どう弁解するのですか?」

 

「弁解だと? いったい何を弁解する必要がある!」

 

「あります! そうする義務が、地球にはあるはずだ! そうでなければ、酷く嘆き悲しむ男を、貴方は知っているはずじゃありませんか。地球がその説明責任を果たさなかった時……ウルトラセブンはどうなるって言うんです!」

 

「なに、セブン……?」

 

思わずキリヤマは、素の疑問を返してしまう。

 

「なぜここで、彼の名が出て来る」

 

「地球がいつか、宇宙社会に進出した時、それが自称先住民を虐殺した上で生き残った種族だとなれば……その人間の為に戦った彼もまた、酷い汚名を被る事になるのは明白です」

 

「なんだと!?」

 

「あれらが隊長の仰るように侵略宇宙人であったなら……それを喧伝する事こそが狙いでしょう。地球人は、先住民を問答無用で撃滅するような野蛮な種族だ、ウルトラセブンも共犯者だ。そうして大義名分を与えることこそ、敵の思う壺です。そんな策に乗るのは、まっぴらごめんですよ」

 

ソガの言葉に、キリヤマの眉がつり上がる。

 

「そう思って貰って結構だ! なんだかんだと理由を掲げて侵略すれば、容易く反撃を躊躇するような軟弱な組織だと、地球防衛軍が見做されるよりは余程良い! そしてそこに、セブンは関係ない! 事実を隠蔽したのは我々地球人……私と言う個人であって! 彼に罪は一切ない!」

 

「宇宙がそう判断すると思いますか? 彼が地球で、なんと呼ばれているか御存知でしょう!?」

 

ソガは興奮で上下する肩を一旦鎮め、息を整えて、噛みしめるようにその名を口にした。

 

 

()()()()()()()

 

 

「ウルトラ警備隊の、七番目の隊員。……我々ウルトラ警備隊の行いは、彼の名誉に直結するんです! 所属する組織の責任からは逃れられない!」

「……ばかなっ!!」

 

今度こそ、キリヤマは目を剝いて、彼の言葉を切り捨てた。

 

「そんなものは詭弁だっ! その名前は、彼の本名ではない! 我々が、身勝手な羨望と欲求を一方的に押しつけただけの、たわいも無い児戯に過ぎん! 大体彼が、それを自分から名乗っているのを聞いたのか!?」

 

「いいえ隊長! しかし、ひとつ確かな事は……彼はかつて、マックス号の事件の時、貴方を『隊長』と呼んだ! 宇宙人が地球人を区別するためなら、個人名である『キリヤマ』と呼ぶはずだ。そうではなく、貴方をそう呼んだと言う事は! 貴方がこの地球を守る組織、ウルトラ警備隊を率いる長に、相応しい男であると認めた何よりの証左ではありませんか!」

 

「なっ!?」

 

「あの時、宇宙から帰ってきた俺に、あんなに嬉しそうに自慢してくれたじゃないですか。……彼は、俺達が自分をそう呼んでいるのを知っています。その上で、俺達を信頼し、無償の愛を捧げてくれているんです。隊長にはそれを裏切る覚悟もおありなんですね? お前が命を懸けて救ってくれた地球人は、お前が思っているような高尚な存在ではない。野蛮で醜く、猜疑心と破壊衝動に満ちた、怨恨からくる負の連鎖を、断ち切る事すらできない愚かな種族だと、そう突きつける役目を……していただけるんですね……」

 

鼻声でそんな事を云う、彼の情けない姿から、キリヤマは目を逸らすと、歯を食いしばり、拳を握りしめて押し黙る。

 

そしてまた、凄まじい形相で部下を睨みつける上官に対し、ソガは悪びれもせずに懇願した。

 

立ち上がり、腹に銃口が突き刺さるのも構わずに、キリヤマの両肩を掴んで、真正面からその険しい眼差しを覗き込んだ。

 

「奴らを殺すなとは言いません。ですがせめて……その前に降伏勧告だけはなさるべきです。我々がやっているのが戦争だと仰るならば、その最後の一線だけは守ってはくれませんか。ルールも知らない愚かな先住民に、信念に則り戦う軍人とは、こうあるものだと教えてやってください。あの冷血なゴドラやガッツですら、追い詰めた我々に投降を迫ってきました。それこそ、あんな見るからに昆虫のようなクール星人ですら! 総攻撃の直前は、我々に生き残る最後のチャンスを与えたんです! それさえしないと言うのなら、地球防衛軍はいったい……我々は、ウルトラ警備隊はっ! 虫ケラ以下の存在なのですか……ッ?」

 

項垂れたソガの両腕が、力無く垂れ下がるのを見つめるキリヤマ。

やがてその手が、ゆっくりと引き戻され、静かに銃を腰のホルスターに戻した。

 

「私からもお願い致します、隊長。地上攻撃が、ノンマルトの総意であるとは限りません。彼らはシンイチ君を介さず、怪獣と潜水艦で、ただ船舶を襲い続ける事も出来ました。もしかしたら……」

 

アンヌの顔を見たキリヤマは、もう一度ソガの後頭部に視線を戻すと、……今までとは違う、普段の落ち着いた声で、反抗的な部下へ問いかけた。

 

「しかし、そうした者達を、我々は下し続けてきた。だからこそ今日がある。……あそこにいるのが、あの時の我々だとして、この状況を逆転されない保証はない。いかに眼前の敵が、手足をもがれたように見えたとしても、戦場に絶対など存在しないのだ。まだこちらに気付いていないだけかもしれない。降伏勧告は、その最大の機会を擲つという事だ。奴らが反撃してきたらどうする」

「その時は……」

 

ソガの顔が持ち上がり、ゆっくりと瞼が開かれる。

 

「もしも、奴らが我々の慈悲を撥ね除けて、最後の一兵になるまで戦う意志を見せたなら……その時は私がこの手で奴らを皆殺しにします。あの基地を壊して終わりなんて、そんな生易しい事はしません。必ず生き残りが出るように半分だけ壊して残りは捕まえます。そのための音響爆雷や電磁網も積んであるんですよ」

 

「……ッ!」

 

真っ赤に充血した眼には、隠しようのない怒りと、殺意がにじみ出していた。

 

それは、ソガがたまに見せる、アンヌの嫌いなあの目だった。

 

「そいつらから他のノンマルトの居場所を聞き出して、草の根掻き分けてでも彼らを根絶やしにしてみせる。封印なんてあまっちょろい。彼らの命も、文化も、歴史も! その全てを破壊し尽くして、地球に生まれてきた事を後悔させてやりますとも! そのために残りの人生捧げたっていい……海底は、我々人間のものだ」

 

「……ふっ」

 

キリヤマは鼻先だけで薄く笑うと、踵を返し、黙ったままコンソールへ歩き出す。

操作盤へ腕が伸びる。

 

それを横から掴むソガ。

 

「……隊長! どうしてッ……!」

「離せ、ソガ」

「離しません! お願いします! 撃ち殺されたって構わない! 私は……っ!」

「いいから。離しなさい。……攻撃は、しない」

「……たいちょう!!」

 

キリヤマは、諭すようにソガの肩を叩くと、彼の手をそっと外し、無線の広域帯へスイッチを入れると、マイクに向かって口を開いた。

 

「こちらは、地球防衛軍ウルトラ警備隊隊長キリヤマだ。ノンマルト全員に告ぐ! 諸君らの戦力は完全に粉砕した。我々の勝利だ! 直ちに武装を放棄して、降伏せよ。さもなくば、目の前にある建造物群を地上攻撃の為の前線基地と見なし、速やかにこれを撃滅する! 尚、非戦闘員の脱出は残念ながら認められない。我々にはそれが、病院船なのかミサイルなのか判別がつかない。通告なく動きがあれば、即座に攻撃を開始する。いいな! 10分やる。それまでに返答が無かった場合もまた、これを粉砕するだろう! 繰り返す……!」

 

もう一度、同じ文言を述べた後、スイッチを切り溜息を吐き出すキリヤマ。

 

「これで満足か」

「隊長……ありがとうございます! 本当に……ありがとうございます!」

「帰ったら懲罰は覚悟しろ。それから、いつでも魚雷を発射できるようにしておけ、お前の早撃ちよりも敵が素早ければ、死ぬのは我々だ」

「……ハイ!」

 

みっともなく涙の跡をつけたまま、嬉々として席に戻る部下の背中に向かって、キリヤマは顔を向けずに言葉をなげた。

 

「ソガ」

「ハッ!」

「……殴って悪かったな」

 

きょとんとした顔で、上官を振り返った男は、やがてしどろもどろになりながら、見えないだろう頭をぺこぺこと下げる。

 

「いえ、その自分も出しゃばりましたと言うか……あの、ウチの隊で私を殴ってないのは隊長だけでしたので、これでコンプリートですね!」

「……ばかが」

「あの、隊長……」

 

二人の様子を恐る恐る窺っていたアンヌが、ひかえめに声をかけてきたので、キリヤマは呆れた顔を即座に切り替えねばならなかった。

 

「どうした、さっきの通信をノンマルトが受信出来なかった時は、私も知らんぞ」

「いえ、彼らは……降伏の仕方を知っているのでしょうか……?」

「そんなものは白い布でも……」

「あっ」

 

やがて、相手が人間では無いと言う部分に思い当たった男達は、頭を抱え、鬱陶しげに溜息を吐くしか無かった。

 

そもそも、宣戦布告や降伏勧告、それに伴う国際条例などというものは、国家間における戦いの歴史の中で醸造された文化であり……言ってしまえば、人類が勝手に決めた自分ルールにすぎないのだ。

 

教えてもいない取り決めや、内輪における暗黙の了解を、その外にいる者達までもが理解していると考え期待するのは、あまりにナンセンスと言えた。

 

「どうします? 白い貝殻か骨でも繋げて垂らせとか言ってみますか」

「10分でそれを作れと……ならばあの海藻を振ってもらった方がマシだ」

「非武装の使者に、一人だけ泳いできてもらうとか……」

「敵は海底人だぞ、グローリア号を拿捕するような種族を、近寄らせられるかよ。そんなん泳いできたら、他でもない俺が撃ち落とすわ」

「悩んでいても仕方ない、ひとまず白いものを探せと伝えてみるか……」

 

キリヤマがスイッチを入れようとした時。

 

『それには及びません、キリヤマ隊長』

「なんだっ!」

 

ハイドランジャーの中に、女の声が木霊する。

 

『私はこの都市の代表です。我々ノンマルトは、あなたがた地上人に、降伏します。……この都市にはもはや、皆さんを害そうとするものはおりません。それが出来る者達はみな、グローリア号と共に逝きました。どうか、攻撃なさらないで。伏してお願い致します』

 

 

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