転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
帰還して、隊長から自室待機を命じられていた俺は、やがて参謀室に呼び出された。
直ちに出頭し、参謀達やキリヤマ隊長の前で、長官に敬礼する。
ヤマオカ長官直々の命令とは……こりゃ終わったかな。
「よく来たソガ隊員。戦いの垢を落とす間もなく呼びつける事となったが、実は貴様にやってもらいたい任務がある」
「ハッ、なんでありましょうか!」
「うむ。マナベ参謀」
「はっ。ソガ隊員、こちらへ来て、この窓を覗きたまえ」
「……? 分かりました」
手招きするマナベ参謀の隣へ行くと、彼は壁に取り付けてある小さな秘密窓を開いて、そこへ促す。
確か、マジックミラーで隣室の応接間と繋がっていたはずだ。
どれどれ……
見れば、白くヒラヒラしたローブのような服を着た女が、姿勢よくソファに座って、じっと前を向いていた。
なんというか……貝殻を繋いだみたいなネックレスをしちゃいるが、それ以外はぶっちゃけ普通の日本人女性に見える。
「彼女は?」
「ノンマルトの代表と名乗って出頭してきたので、身柄を確保した。念の為、ボディチェックは済ませてある。武装の類どころか、衣服とネックレス以外は何も持っていなかったが……どんな危険な能力を隠しているか、ハッキリ言って未知数だ。とはいえ、今のところは抵抗もなく、此方の指示にもよく従い、大人しくしている」
まあ武器がなくても、念力とか使っても不思議ではないわな。
「それで、なぜ私が?」
「ああ、実は降伏に際しての条件……というか要請があってな。交渉の窓口として、ソガ隊員、キミを指名して来ているんだがね」
「えっ!? 私に? ……ダンやアンヌではなく?」
「それを呑んでくれるならば、無条件降伏も辞さないと言ってきている。心当たりは無いか?」
「いや全く」
ダンはセブンだし、アンヌも一応はシンイチを介してコミュニケーションの実績がある。
まあ、二人とも彼の言葉には対して耳を貸さなかったわけだから、話をしても仕方ないと思われたのかも知れないが……
でもそれ以外のウルトラ警備隊の面子は、全くノンマルトと接点がない。
せめて、降伏勧告をした隊長に接触するべきだろう。
接触したところで、隊長の本性は鬼! 悪魔! キリヤマ! なので、余りのギャップにひっくり返ってしまうかもしれないが……するとそのキリヤマ……間違えた、悪魔隊長が口を開く。
「因みに、私も声を聞かせて貰ったが、あの時ハイドランジャーの中で、我々が聞いたあの声だった。……思うに、彼女は私達のやりとりを、何か特殊な能力で聞いていたのかもしれん」
「やりとりとは?」
「はっ…………彼らに、降伏勧告をするようソガが進言し、私がそれを受け容れた。ただ、それだけのものです」
「……隊長」
「とはいえ、もとは奴の口から出た考えですので、私自身よりは、ソガの方が与しやすいとノンマルトが考えても、不思議ではないでしょう」
「うむ、なるほど」
「……」
「何だ、ソガ。長官の御前だからとはいえ、そんなに恐縮して私の顔色を窺う必要はないぞ」
「いえ……」
まあ彼らからすれば、隊長にボコボコにされながら攻撃を思い留まらせた救世主……に見えなくもないか?
「その点、ソガ。キサマは、キュラソー連邦の保安官を歓待したり、ワイルド星間連合との捕虜交換締結の場にも居合わせた実績がある。先方の名指しが無くとも、異文明との接触に際し、適任であると、私は判断した」
「長官もこう仰っている。ノンマルトの使者とのコンタクト、やってくれるな」
「は、はあ……し、しかしタケナカ参謀、自分は調印の形式など知りませんでして……」
「ハハハ、調印と来たか。随分と自信満々じゃないかソガ隊員。君に賠償請求その他が出来るなんて思っちゃいないさ。そういった部分はこちらで詰める。君は、相手の言い分を聞き出すだけでいい。第一、相手は海底原人だ。物物交換の概念が通じれば御の字とすら、私は考えているよ」
「や、ヤナガワ参謀……助かります……」
この人がケツ持ちしてくれるなら、まあ……安心だ。
あとは……
「何だ、その目は」
「いえ……」
「元はと言えば、お前の撒いた種だ。自分の責任は、自分で取れ」
「……ありがとうございます!」
―――――――――
部屋に入ると、推定ノンマルトの代表が、ソファからふわりと立ち上がり……
そのまま床に三つ指ついて、深々と頭を下げてきた。
「この度は、我々ノンマルトの降伏を受け容れてくださり、感謝の言葉もございません……」
「あ、いやあの……」
え、こういう時どうすればいいの?
降伏に来た使者を、頭下げさせたままはマズいか?
でもコイツらはそれでも仕方ないくらいの事を仕出かしたわけだし……直ぐに頭上げさせても、防衛軍の面子的にNGなのか?
どっち? どっち? どっちなんだい!?
俺は土下座するのは慣れてても、土下座されるのは慣れてないんだよ!
助けて隊長!
ダメだ、鏡で俺のテンパり顔しか見えねえ!
「あの、まずは話を進めて頂いてから……謝罪はその後正式にという事で……」
「そういうわけには参りません。わたくしは、貴方にもはや言葉では言い表せない恩と……その贖罪をしなければならないのです、ソガ隊員」
「ま、まあ……そうでしょうね」
僅かな残党以外は、一族郎党皆殺しにされるとこだったわけだし……?
民間人への無差別攻撃までしたわけだから……残当か。
「いいえソガ隊員。わたくしは、貴方が今、想像する以上の……」
「あの……ひとまず、なんで私をご指名になったのかを聞かせて頂いてから……」
「……分かりました。もとより、全てをお話しするつもりでしたから、先にそちらを済ませてしまいましょう……そして、その為にはまず、我々ノンマルトの事について話させて頂きます。その方が……より、円滑でしょう」
「はあ……?」
「お見せいたします。ノンマルトが、いったい何者なのか」
「お見せって……あッ!」
次の瞬間には、俺は森の中にいた。
さっきまでの応接間は消え失せ、じんわりと湿った空気が辺りに充満し、さわさわと木々が囁く声が耳を撫でる。
「……ここは、わたくしの精神世界。貴方の精神と一時的にチャンネルを繋げました」
「お前……!」
「お待ちください。わたくしに貴方をこれ以上害そうという気はありません。信じては頂けないかもしれませんが、敵になるつもりはないのです。どうか話をお聞き下さい」
「言うに事欠いて、信じて下さい、だと?」
「いざとなれば、その銃でわたくしを撃ち抜いて頂いて構いません。本来は精神世界で武器は使えませんが、今なら、強い攻撃の意志をのせて引き金を引きさえすれば、それを弾として撃つことも出来ましょう」
言われた通り引き金を引く。
女の後ろで、枝が折れて地面に落ちる。
「なるほど、本当のようだな」
「ッ……それで私を殺せば、この世界はたちまち崩壊し、先ほどの部屋に戻れるでしょう。これが……今わたくしに示せる誠意です」
別に掠らせた訳でもないんだが、ここにある木を傷付けただけで、彼女は僅かに苦悶の表情を浮かべて、こめかみを押さえた。
あ、ごめん。
精神世界を傷付けたらそうなるか。
……まあいいや、一人で敵地に乗り込んできたその気丈さに免じて、俺は彼女を信用することにする。
「そういえば、名前聞いてなかったな」
「……ヤオ、とでもお呼び頂ければ構いません」
「そうか、ヤオさんや。俺達の体ってどうなってるの? もうバレてると思うからぶっちゃけちまうと、俺達の対談ってみんなが見てるから、怪しい動きあると即座に隊長達が突入してくるんだけど……?」
「ご安心を、精神世界での時間は、一炊の夢のようなもの。戻ったとしても、傍から見れば僅かな身じろぎに感じられるでしょう」
「あっそう。じゃあ大丈夫か」
「ええ、ですからここでは、ウルトラ警備隊として振る舞う必要もないのですよ」
「なに……?」
「わたくしもまた……本来の未来を知っています。アナタと同じように」
「なっ!?」
今度こそ俺は、危うく引き金を引いてしまう所だった。
驚きが先行しすぎて、殺意がうまく乗らなかったのが幸いしたらしい。
「そんなに驚く事でしょうか? 私たちが、やろうと思えば時を遡る事が出来るのは、貴方も知っている筈です」
「……あっ!」
そうか!
そういやコイツら、平成版で死んだフルハシ参謀を、自分達の証人にするために、蘇生して過去へ送り込んだんだった!
「って事は……アンタも未来から来たのか」
それに対し、ゆるゆると首を振るヤオ。
「……わたくしは……生まれ変わったのです。同胞達の行く末を見届けた精神だけが、記憶を保持したまま……その記憶だけが、この世界にいたわたくしの肉体の中で、ある日突然、目覚めました」
「あー、憑依転生モノかと思ってたら、実は逆行モノじゃったかー……」
「……?」
俺は思わず頭を抱えた。
てっきり、この世界でバグを起こしてるのは、オレだけかと思ってたら、他にもいたのか。
待てよ?
とりあえずヤオはいいとして、他にも変な奴いないだろうな?
セブンの時代に後の時代の作品からラスボスとか来られたら、正直詰むから止めて欲しいんだけど……
「ソガ隊員?」
「ああいや、続けてどうぞ……というか、知ってたならなんで攻撃してきたんだよっ!」
「それについては……本当に申し訳ありません。過激派を抑える事が出来なかったのは、わたくし達の明らかな失態です。しかし、恥を忍んで弁解させていただくと……我々も一枚岩ではありません。あなたがた地上人が、誰か一人の思惑で全てが決まったりしないように、ノンマルトも……いやむしろ、我々の意志を統一する事は、地球防衛軍以上に難しかった」
「ほう?」
「我々は、いくつかの氏族が寄り合い、それぞれの特技を活かしながら生活してきました。ソガ隊員が見逃してくださった海底都市。あれは、確かにノンマルトにとって最も大きく重要な居住区ですが、あれ以外にも、我々の住み家はあります。ごく小さいものではありますけれど」
「ふーん。じゃあアレをぶっ潰しただけで、虐殺だ根絶やしだと、ネチネチ言われる筋合いねーじゃねえか」
平成版の残党もいたしな。
しかしヤオは悲しい顔で再び首を振った。
「いいえ、あの都市は各集落を繋ぐハブのような役目を果たして居ました。あの場所が破壊されれば、残された集落は分断され孤立し、やがて滅んでしまうでしょう。やはり、わたくしと貴方の知る歴史で起きたあの事件こそが、ノンマルトにとって致命的だったのです」
「そうかい……で? この歴史でアンタはその間何してたの?」
「何も」
「……は?」
「ガイロスを操る能力を持つ者達は、みな過激派の氏族に属していました。もともと、彼らの氏族が狩りや防衛の主な担い手でしたから……わたくし達は、弱い。彼らの暴走をとめられるような手段は……」
「ハイハイ、分かった。その件についてはもうこれ以上言わないよ」
「ありがとうございます……」
ま、人間で言うなら、ウルトラホークやポインターを使えるウルトラ警備隊がクーデター起こしたら、民間人がそれを鎮圧できるかと言う話だろうな。
俺ですら、R1号を止められなかったたんだから、しょうがあるめえ。
「……というか、もっとどうにかならなかったのか? あんたら下手過ぎなんだよ。やり方が! 切羽詰まる前に、もっと早い段階で地球人とコンタクト取るとか、あっただろ」
「……お言葉ですが、我々が本当に地上人と接触を図らなかったと……本当にそう思われますか?」
「なんだと……?」
ヤオは、この時ばかりは苛立ちを見せたが、自分がどのような立場か思い直したのだろう。
息を整え、何かに集中し出した。
「前提を知らない状態で、長々と話しすぎました。まずは、ノンマルトの真実をお伝えしましょう。その方が、貴方も納得しやすいでしょうから。色々と……」
「……」
腕を組んで彼女が何を始めるのか待っていると、俺達の頭上を、何かが凄まじいスピードで、次々と飛び越えて言った。
「今のは……」
「少し、視点を変えます」
「うおっ!? あ、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」
たちまち俺達の体は地面から飛び上がり、一定の高さに達すると、今度は横移動。
眼下を木々が滑っていく。
まるで鳥になったような気分だ。
つまり最悪。
オレは高所恐怖症だっつってんだろ!
ブチ殺すぞ!
「見えてきました」
「あれは……」
森の向こうに、神々しいピラミッドが建ち並んでいる。
湖の中心には、直立した爬虫類のような……というか、彼らの守り神であるザバンギの姿が掘られたレリーフが突き立っている。
かつてのノンマルト、海底に追いやられる前の彼らが住んでいたという都市だ。
なぜそれを知っているかと言うと、オレがこれを見るのが初めてではないから。
平成版で、蘇ったフルハシ参謀が、歴史を見てきたと語る背景で流れていた光景、そのままがオレの眼前に広がっていた。
そして……そのピラミッド群に、円盤ロケットの編隊が襲来し、ビームで空爆していく。
あの妙に、ちゃちいんだか、手が込んでるんだか、よく分からん、見る角度で印象の変わるデザインの円盤も、映像で見た通りだ。
そんなもん作れた奴が祖先なら、もっと人類の歴史は早回しだっただろ、と思った記憶がある。
……が、今それをもう一度見させられても、何の感慨も浮かばない。
あくびが出そうだ。
ヤオは、オレがこれ見たこと無いと思って、わざわざ見せてくれたんだろうか。
だとしたら拍子抜けだな。
「……ご丁寧に見せてくれたところ悪いけどさ、知ってんだわ、コレ」
「そうでしょうね……ここまでは、同胞達がフルハシ参謀に見せたものと同じです」
「ここまで?」
「貴方に見て頂きたいのは……この先なのです」
「……ん?」
崩壊した都市に、視点が近づく。
炎が燻る街へ円盤が着陸し、スロープのようなものが伸びてくる。
扉が開き、そこから降りてきたのは……
「あっ!? え? どういうコト!? おい!」
それは明らかに人間ではなかった。
体は、真っ黒でつるりとしたウエットスーツの如き衣服で覆われていたが、剥き出しの頭部、その肌の色は……明確に我々とは似ても似つかない、真っ青な能面だったのである。
「は? アレ……どう見てもお前らじゃん! そりゃちょっと違うとこあるけど……明らかに遺伝子的に近いのそっちだろ! アレから俺達になるよりずっと簡単だろうが!」
「見ていてください」
「見ていてって……ほら! ピラミッドから人間出て来た! 地球人が侵略者とか嘘じゃん!」
「……時間を、送ります」
早回しのように青と肌色のヒトガタが動き回る。
焼け出されたボロボロの人間達が、青い肌の宇宙に縛られ、円盤の中へ連れ去られ……
しばらくして、人間
「???」
「お分かりですか?」
「え、何? 弱すぎて白兵戦で返り討ちに遭ったってコト?」
「ハァ……円盤の中を映します」
光景が切り替わると、そこには縛られた大勢の人々がおり、俺達はその列にならんでいた。
前の人間の後頭部が見える。
捕虜の誰かの記憶なのだろうか。
甲高い声で意味不明の言語をわめき散らす宇宙人が、我々の前にならんでいた男を引き摺って、何かの装置に座らせた。
椅子に縛りつけられた男の頭には、変な機械が被せられる。パーマでもあてるのか?
そしてその隣には、これまた縛られた宇宙人が大人しく座っており……
機械が怪しく光ったかと思うと、今度はその宇宙人の方が藻掻きはじめ、人間の男はと言えば、近づいてきた宇宙人の手により、手足の戒めを解かれ、すっくと立ち上がった。
笑顔で宇宙人と頷きあう人間の男。
ああ……そうか。
「なるほど、お前達ノンマルトは……」
俺達の頭に例の機械が被せられる。
視界が光に包まれた時、俺達の目には……ウエットスーツに包まれた、自分の手足が見えた。
「肉体を、宇宙人と無理矢理交換させられた古代人。その末裔と言うことか」
ヤオが、涙の奧に、悔しさと怒りの揺らめきを宿した目で、力強く頷いた。