転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「……で、地球人はガワだけ古代人のままで、その精神だけが、暴力的な宇宙人と入れ替わった。その体は元々自分達のものだから返せ、そう言いたいんだな?」
ヤオは目を瞑り、静かに首を振った。
「確かにこの時の肉体の持ち主が今も生きていれば、そう出来たかもしれません。しかし、そうするには時が経ちすぎました。我々はお互いに、世代を重ね、進化を重ね、もはやこの時とは別の種族となってしまった。ノンマルトに押しつけられた肉体も、海底へ適応していくにつれ、豊かな髪は失われ、皮膚は鱗へ変わり、瞳も殆ど退化した。我々は、もはや心も体もすっかり海のいのちです。そんな我々が、今更地上を取り返したところで、いったい何の意味があるというのでしょう……」
悲しげにヤオは呟いた。
それは、その道理が分からなかった同胞へ向けてのものなのか。
「それに地上人の全てが、その侵略者の末裔という訳でもありません」
「というと?」
「単純な話です。彼らは船でやってきました。それは非常に大きな船団ではあったものの……星を丸ごと持ってきたわけではありません。元から住んでいた人間の方が遥かに数が多かった。当然、全ての宇宙人が入れ替わりを終えても、当時の人口の半分にも満たない」
「余りが出たのか……その人間は?」
「もちろん、奴隷です」
「せやろな」
視線をヤオから外し、眼下の原始地球を眺める。
人間が人間に指示を飛ばして畑を耕させていた。
疲れて倒れた男が、空に浮かべられて悲鳴を上げている。
精神体は宇宙人由来なので、超能力が使えると……なんかセコいな。
かと思えば、むこうの山には、どこかで見たような生き物達のシルエット。
平べったい鋭角をした、シャベルの如き口を持つ巨大なトカゲと、鼻先がドリルのように回転するカラフルな怪魚が、力を合わせて穴を掘っている。
「彼らとてそんな事は百も承知だったので、入れ替わり先には、集団の長や土地の権利者を上から選んで行きました。元から朧気にあった支配構造を乗っ取って、それを強化した方がずっと効率的でしたから……海底に押し込んだ円盤群とノンマルトの存在だけは、巧妙に隠されましたが、急激な発展だけは隠しようが無かったみたいですね。あなたがたも、既にこの出来事を発掘していますよ。確か……新石器革命と呼ぶのでしたか」
「詳しいな、本当に海底人?」
「私も、何か出来る事はないかと、地上人について必死に学んだ時期がありました。それだけです」
「そう……」
「因みに同じ頃、私たちノンマルトが、かつて最も多く住み栄えていた所は、都市ごと彼らによって沈められました。正確には維持出来なくなったと言いますか……アトランティス、ムー、レムリア……我々はザバンギをはじめとした神獣達の力を借りて、大陸と文明を築いていましたので、侵略時に殺されたり傷付いた彼らの力が弱まり、交信能力を持つ我々が居なくなって、それらの土地は崩壊してしまいました。侵略者達にとっても、誤算だったようですね」
いい気味です……と、ヤオが小さく呟くのを、俺はあえて聞き逃した。
それくらいは、彼女にも吐き捨てる権利があるだろうと思ったので。
「支配層になった侵略者達は、食料や資源を生産する地上部分と、自分達が休むための地下基地を、完全に分けて作らせました。万が一にも反乱を起こされないよう、地上の奴隷達には、進んだ文明に一切触れさせず、地下基地で働かせる奴隷達は、鉄人形に厳しく見張らせて、情報が決して外に漏れないようにしたんです」
「徹底してんな」
「それはもう。各地の労働者が結託できないように、我々の使っていた言語もいったん全て破壊して、地区毎でバラバラになるよう、イチから構築し直しました。ノンマルトは共通言語で、スムースに意志の疎通が取れていたのに……その方が明らかに効率が良いにも関わらず、彼らは奴隷の分断に心血を注ぎました。その名残が、地上の国々なのでしょう」
マジ?
オレ、万年英語が赤点だったんだけど、急激に侵略者側へ殺意湧いてきたわ。
ノンマルトの肩持ちます。
「肉体の寿命が尽きる前に、自らの子孫とまた入れ替わり……スペアの肉体を確保するため、彼らは彼ら同士でよく交わり、たくさんの子を成しました。精神体がよく馴染むよう、第一世代に何らかの因子を埋め込んだらしく、それを受け継ぐ彼らの子もまた、何らかの能力を有して生まれてくるので、その支配は盤石でした。しかし……」
そこで、言葉を切るヤオ。
不思議に思って隣を見ると、彼女の口元には、うっすらと喜悦の笑みが浮かんでいた。
「ある時を境に、翳りが見えはじめます。子孫達に受け継がれる能力が、徐々に弱まっている事に気付いたのです。超能力は、彼らの精神だけでなく、肉体にも寄るところが大きかったのでしょうね。それにいくら支配層とはいえ、階級が下の者達から、いつの間にか奴隷との混血も徐々に進み、無能の産まれる確率の方が高くなっていたのです」
「それで奴らは?」
「さあ……? 自然に淘汰されて完全に同化してしまったか、それとも新たな肉体を求めて宇宙へ旅立ったのか……少なくともノンマルトが気付いた時には、宇宙人達の精神はどこかに消えていました。この時の為にロケットを残していたんでしょうから、おそらく逃げたのでしょうね。ノンマルトだって、本当はスペアに使うつもりで養殖していたのでしょうし」
「ところがとっくに彼らの元の肉体は、海底原人に変質した世代ばかりになっていた。そうだろ?」
「彼らが徐々に力を失っていくにつれ、我々もまた、その肉体に適合し、能力を開花させる者が次第に現れはじめたのです。実に皮肉なものだとは思いませんか? ウフフフフ……あ、すみません……」
ヤオの笑みは、ちょっとした狂気すら感じるものだった。
普通に引いた。
「……ん? 待てよ? 半分は宇宙人入りの支配層として、もう半分は純地球人なんだよな?」
「はい」
「じゃあ、地球人が侵略者の末裔って主張は……どうなん? 嘘を言ってはいないけど……」
「……無理があるとは、わたくしも思います。だからこそ、過激派は、シンイチやフルハシに、あの部分しか見せなかった」
「偏向報道のお手本みてえな手口だな」
「……お恥ずかしい限りです」
ヤオの顔が羞恥に歪む。
……まあ、コイツを責めても仕方ないんだけどさぁ。
だからといって優しくするのも、なんか絆されてるみたいで嫌。
うーむ……シンイチもこんな感じだったのだろうか。
そりゃあ物心ついたばかりのガキじゃ、ノンマルトに感情移入しないなんて、無理だろうな。
ただでさえ、子供というのは正義に強い憧れがある。
今の話を、都合よく端折った上で聞かされりゃ……ああもなろう。
「そして侵略者達が去った事に気付いた我々は、すぐさま地上とコンタクトを図りました。住む場所は違えど、元を正せば同じ地球人。虐げられた者同士、すぐに手を携える事ができると……」
「……あー……」
「結果は、酷いものでした。地上へ向かった同胞達は、無惨に殺され、中にはその肉を貪り喰われた者すらいました! どうして侵略者が、文明レベルの大幅な低下と、能力消失のリスクを呑み込んでまで、元の姿を捨て、その古着を海底深くに仕舞い込んだか、分かりますか? 彼らの肉体は、日光の下では長くその存在を保てないのです! もちろんノンマルトは進化しましたとも、しかしそれでも陸に上がってしまえば、地上人には及ぶべくもない! 我々は弱い。それこそ無手では、子供相手ですら、2、3人に囲まれただけで、為す術なく嬲り殺されてしまう!」
興奮で、ふうふうと荒く息を吐き出すヤオ。
「……なるほど。どうして世界各地で人魚伝説だの、半魚人の逸話だのが残っているか分かったよ。あれは……お前達の事だったんだな」
「それを何度となく繰り返し、ようやくノンマルトは理解しました。地上人は、自分達と姿形の違う存在を、決して仲間とは見做さないのだと……!」
「それで今度は、水死体を蘇らせて使者に仕立て上げたのか……そういや、海で死んだ筈の奴が、ふらっと戻ってくる話も多いわな」
「しかしそれも、なかなか上手くは行きませんでした。なんと言っても、死者蘇生の技術は、我々としても多くの制約と、様々な消耗を強いられるもので、おいそれとは出来ませんし……その能力に目覚めたばかりの頃は、我々自身が、力を使いこなせていませんでしたから」
「……ま、お前さん達がそれなりに苦労したって事は、認めよう。それでもなあ……あんまりにも此方にそれが伝わらないというか……正直言って、今回、いきなり逆ギレしてきたようにしか見えんわけよ。こっちからすると」
「ええそうでしょうね……ある時を境にノンマルト自身も、対話を諦め、自らの存在を隠す事にしましたから。それは地上人が、外海へ漕ぎ出し始めたからです。……確かに全ての地上人が、使者の言葉を信じなかったわけではありません。しかし、それを聞いた各地の王達は……やはり侵略者の血は争えないのだなと、痛感しました。同盟を結ぶどころか、我々の住み家へ艦隊を差し向けてきたのです! 友好の証として、真珠や珊瑚、黄金を渡したのが間違いでした。地上人はこれを喜ぶと聞いたからあげたのに……我々にとっては、大した価値もないからと……それを……奪おうだなんて……」
拳をぎゅっと握りしめ、俯きさめざめと涙を流すヤオ。
……なんでオレが、責められたみたいな気分にならにゃいかんのだ?
居心地悪いぜ、まったく……
ただ……価値観というのは、教育によって生まれ、継承されていく。
だから例え、中身が宇宙人の侵略者ではなくなったのだとしても……その支配を受けた者もまた、そうする事が当然だと思っているわけだ。
むしろ、そうする事しか知らないというか。
地球人は侵略者の末裔……か。
なるほど、彼らの主張を否定する事は、出来ない。
「もはや事ここに至っては、和解は無理だと悟りました。ガイロスの力を借りて艦隊を追い払うと、私たちはもう二度と地上へ干渉するのはやめようと誓ったのです」
「ガイロス? あっ……もしかして……」
「そうです。かつては彼に敵う船なんて、この海のどこにも無かったのに……あなたがた地上人は、ついに伝説のクラーケンすらも、容易く打ち破ってしまえるように進化したのですね……我々は、貴方達が心底恐ろしい……恐ろしくて、たまらない……」
「……」
「……少々、取り乱しました。貴方に言っても、仕方の無い事なのは、分かっています。お許しください」
「だったら、その誓いを守ってて欲しかったところだとしか言えんな」
「その通りですね。しかし、我々は危機に瀕していました。海洋プラント建設の為に、海溝にアンカーを打ち込んで、大地を安定させようとしたでしょう?」
「そうなのか?」
「……申し訳ありません、ついあなたを、地上人の代表であるかのように扱ってしまいます。とにかく、あれが決定的でした。いかに先細りの種族とはいえ、このままいくと……我々はエネルギーの供給先を失い、多くの命を失う事になるでしょう。それに我々とて心を持つヒトです。もともと地上を憎む過激派はいましたが……その蜂起に絶好の口実を与えてしまいました」
「……待てよ? じゃあ使者なんか立てる必要なくない?」
「最初に申し上げた通り、我々は一枚岩ではない。過激派にも同じことが言えます。組織と呼ぶのが烏滸がましいくらいに漠然としたあの集まりは、複数の氏族から成り立っていて……各氏族の方針は、それほど纏まってはいませんでした」
「シーホース号襲ったのと、ガキ寄越して来たのは、過激派の中でも別の派閥ってことか?」
「おおかた、子供であれば容易く此方の言い分を刷り込めると考えたのでしょうが……使者とするには、些かノンマルトの側へ引き込みすぎましたね。あれではわざわざ地上人を使う意味が無い。ノンマルトがそのまま行って話した方がまだマシです」
上手くいくわけないだろ……と思ったが、よく考えたらコイツら、海底という狭いコミュニティに一万年以上も引きこもってた、文字通り筋金入りのコミュ障だったわ。
「シンイチは余りに純真すぎ、発信者としての立ち位置が我々側へ寄りすぎました。ノンマルトから見た主観的な意見ばかりでは、地上人から拒絶されてしまうのも当たり前でしょう。その失敗を活かして、次に選んだのがフルハシ参謀でした。彼は地位も名誉も、信用もあり、何よりノンマルトではなく、あくまで地上人としての立場から、その功罪を証言できます。しかし……」
「人選が悪かったな」
コクリと頷くヤオ。
「彼は……フルハシは、どこまで言っても地上人でした。自らと同じ人間の側を愛する思いが強すぎて……結局、突きつけられた証拠を認め、歪められた地球人の罪というものを自覚して尚も、それらを無視して、ウルトラセブンに懇願する事ができてしまえたのです。またしても過激派の思惑は外れることになりました」
あの人ほんと図太いからなぁ……
使者とするには、フルハシの面の皮が厚すぎたんやな……って。
「彼を生き返らせてくれた事だけは、感謝してもいいぞ」
オレの言葉にヤオは少しだけムッとした様子を見せ、何事かを反論しようと口を開きかけたが……結局、頭を振って、別の言葉を述べた。
「……わたくしは、未来で彼らの犯した罪とその失敗を知り、深く絶望しました。わたくし達ノンマルトには、もはや救われる道が無いのだと……理解できてしまったのです。声を上げなければ、誰にも顧みられる事無くひっそりと滅ぶ。声をあげても無視される。だからと言って、自棄を起こして暴走すれば滅ぼされる」
「……まあ、見事なまでに詰んでんな。ちょっと……同情するよ」
「ですので……わたくしは、自助の為に動く事を諦め、禁忌の道を選びました。ノンマルトが生き残る為には、ノンマルトではない誰かが、ノンマルトではない誰かの為に、ノンマルトを救う道を選んで貰うしかないのだと……他のなにがしかの目的の
なんと卑屈な……それでいて悲壮な結論。
事ここに至っては、自らの生存権すらも、他者に委ねるしかないくらい、彼女らは追い詰められていた。
「そしてそれは、ノンマルトにも、地上人にも出来ず、そのどちらでもない者にしか出来ない選択です。まったく、彼女の言葉は至言でした。人間が人間のことを考えるのは、当然のこと……ノンマルトであるわたくしもまた、いざ動く時には絶対に私情を挟んでしまうはず。それでは、ダメなのです……ここまで言えばお分かりでしょう。」
「あ?」
「貴方こそ、我々が生き残る為に一縷の望みを託した……わたくしが選んだ最後の……ノンマルトの使者。それが、貴方なのです。ソガ隊員……いや」
ヤオが、真正面からオレの瞳を見据えて、一筋の雫を流しながら微笑んだ。
「名も知らぬ、遥かなる我らが英雄。苛烈で歪んだ、優しき人よ」