転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「……は? なんて?」
「ですから、わたくしが、貴方をこの宇宙にお呼びしたと、そう申し上げているのです」
「いやいや……嘘だぁ」
何を言い出すかと思えば。
「お忘れですか? ここはわたくしと貴方の精神を繋いだ世界。しかし、ただ見た目通りにソガ隊員の精神へチャンネルを繋げようとすれば、貴方ではなく元の人格を呼び出す事になります。貴方がたの置かれた、複雑な状況を初めから知っている者でなければ、この交信自体が成功しない」
「なん……だと……?」
確かに言われて見ればそうだ。
例えヤオが逆行者だとしても、未来が変わったからと言って、ソガ隊員と接触しようとする事はイコールではない。
あの態度は……彼女が最初からオレの事情をわきまえていたからで……
ん、待てよ?
「って事はオレ、死んだの?」
「それは……どちらのソガ隊員についてでしょうか?」
「あっ、そうか……え? でもオレがこっちへ来る前に、本編のソガ隊員が死んでたら、そもそも話が合わなくね? ……まさか、お前が殺したのか!」
「それこそまさか、です。ただでさえ禁忌の手段に手を染めているのに、自分達が助かる為に他者を殺した等とバレたら……貴方様に……使者となる筈の者が怒り狂うのは明白です。そのような者をこそ、選んだのですから」
「おう、その通りだ。理性的で助かったな。もしそうだったら、Uターンしてノンマルト虐殺してたぞ」
「まず結論から言えば、ソガ隊員は……その肉体の持ち主は、死んではおりません。精神が活性化している状態で、他の魂を憑依させても、まず定着しないだろう事は予想できました。ですので最大限まで弱り切った時に、その意識を奥深くまで封印し、死体に限りなく近い仮死状態へする事で、依り代として使える状態にしたのです」
「なぜそんな回りくどい事を……シンイチよろしく死体を用意すれば良かっただろ? それこそダンのように手柄を立てさせて入隊させれば良かった! それに……なぜソガ隊員を選んだんだ。もし、ウルトラ警備隊なら誰でも良かったというなら、なんならキリヤマ隊長や参謀達をすげ替えた方がもっと楽だったんじゃねえか?」
「それは偶然……いや、必然的にそうなっただけです」
「必然だぁ?」
「そうです。その肉体の持ち主は、自分の身を危険に晒してまで、我々の盟友を殺さずに追い払う事を選びました。もちろん、あの場所で彼に傷を負わせれば、仕留めきれなかった場合に、暴れ狂った盟友が港をめちゃめちゃにしてしまうからそうしたのだ、とも分かっています。しかし、海の仲間を殺す事無く事態を解決した彼ならば、そこに宿る精神もまた……と、願掛けのようなものでしょうか」
「願掛けってお前……やる気あるのか?」
「大いに本気でしたとも。そして、勘違いされているようですが、死体なら誰でも良かった、というのは誤りがあります。我々が使者として蘇生出来る者には、先ほども申し上げた通り、代償だけでなく、ある条件があるのです」
「ほう、条件」
「それは……我々ノンマルトの元の肉体……つまり、侵略者の末裔として、その血と因子を色濃く受け継いだ者だけが、我々の技術で精神に介入できる素質を持つのです」
「なにっ!」
「フルハシも、シンイチも、宇宙人の因子を色濃く発現していたが為に、過激派に利用されてしまった……その素質を持った者が少なかったからこそ、かつての地上人との接触も、思うように進まなかったのですから」
「フルハシやソガが宇宙人の末裔だって? ……あっ!」
「思い当たるフシが、お有りのようですね」
まさか、フルハシ隊員がやたらと頑丈なのって……そういう事なの!?
度々発揮する妙な鋭さは、野生のカンだと思ってたけど……もしかして、ダンの第六感と同じ事してんのかっ!?
そしてオレは、昼飯時か何かにフルハシとした、いつかの馬鹿話を思い出す。
そう、ダンの目が光るという話だ。
作劇上の都合じゃなくて、周りにバレてんのかよアッハッハ……なんて笑ってたが、そもそも、人類には不可視領域の光線を使って、ダンが周囲を透視してる時に、その反射光が常人に見えるハズがないんだ!
そして、それが見える
オレはバカか?
どうしてこんな重要な事に気付かなかったんだ……
フルハシがタフすぎて、アイツ宇宙人かよ、なんていつも冗談で言ってたが、まさか本当にそうだったなんて……
「いや待て、ウルトラ警備隊に宇宙人の子孫が集中しすぎだろ」
「それほど不可思議な話では無いと思いますが? 宇宙人の因子は、発現すれば大なり小なり何らかの能力を齎すのです。つまり血を受け継いでいない人間よりも遥かに優秀と言う事。精鋭を組織するために人類の上澄みを掬った時、そこに因子持ちが集中するのは、むしろ当然の摂理と言えましょう」
「……マジ? この世界の一般人が、たまにやたら強いのって……」
「いつかなんて、半端にレイオニクスとして覚醒した少年が、無意識に我々の領域へ侵入してきた事もありましたが……傷付けずに追い返すのに苦労しました……友達の力を借りなければ、とてもとても」
「なんか大変だったみたいね……」
つか、なんだ?
もしかしてアンヌもアマギも隊長も……そうなの?
ええ……ウルトラ警備隊に一人だけ宇宙人と転生者が紛れてるんだとか思ってたけど……他のみんなも、たいがいやんけ。
「いや待て、そんな話はどうでもいいんだ。オレは? ソガ隊員じゃなくて、アンタが呼んだ方のさ! ノンマルトが蘇らせたって事は、オレ……あっちで死んでんの?」
「それは残念ながら……分かりかねます」
「はぁ!? アンタが呼んだんだろが!」
それで分からんって、どういうこっちゃねん!
「落ち着いて下さい。確かにわたくしの行った儀式で、貴方がこちらへやってくる事になりましたが……別にわたくしは、貴方
「ヤオ……せっかく平和的に解決できたんだからさ、あんまり怒らせないで欲しいんだわ」
「……ハッキリ申し上げると、わたくしが望んだのは『
「……もう、忘れちまったよ。セブン本編の事ですら、大筋以外はだんだん曖昧になってきてる」
「そう、ですか……大変、申し訳ありません……」
「いや……」
俺達の間に、気まずい空気が流れる。
ヤオが、なぜあんなに下手に出て来たのか分かった。
自分達の生存の為に、実質二人の人間を犠牲にしたわけだから、そりゃそうだ。
オレだって、思うところしかない。
「……で? だからアンタには、オレがもともと死んでたのか、それともノンマルトが時空を弄くったからこっちに来ちまっただけなのか、判別がつかないってわけか?」
「ええ……少なくとも、我々の儀式に呼び寄せられたと言うならば、その魂を肉体から剥離させられる程度には、意識レベルが低下していたとは思いますが……それが死によるものか、はたまたただの睡眠時によるものか、定かではありません。なにせ、死者の蘇生以外で魂に介入したのは、前例がありません。全くの未知の事です」
「ま、世界の壁も越えてるしな……」
「え?」
「……いや、ちょっと待て。睡眠って言ったな? ノンマルトの儀式的には、睡眠も死と同義なのか?」
質問すると、目線を空に向けて少しばかり逡巡するヤオ。
彼女にとっても初の試みだったからか、考えを整理しているのだろう
「……そうです。正確には、周囲の変化を知覚できない状態。思考を行っていない無意識下では、肉体を制御できません。その肉体の持ち主も、今は同じような状態にあります。夢を見ているか、さもなくば気絶しているのと同じです」
人間は考える葦である、とはよく言ったものだが……別に、考えるのをやめた途端いきなり植物として扱う、とは一言も言ってねえんだわ……
寝てる間なら、葦のように植え替えても文句が言えんとそういう事か?
バカが! とんちやってんじゃねえんだよ!
「じゃあ、オレが寝てる時は?」
「ごめんなさい。質問の意図が……?」
「なんで寝たり気絶する度に、オレは体から弾き出されて無いんだって事!」
「ああ、それはご安心下さい。わたくしの術式で、貴方の魂が剥がれてしまわないよう保護されていますし、ソガ隊員の精神はきちんと封印されていますから」
「……その術式ってのは、やたら眠くなったり、逆に眠りが浅くなる副作用でもあるのか?」
「いえ? そのような事は無いハズですが……なにぶん、わたくしにも未知の事ですから、貴方の体にどのような変化があるかまでは……」
「あっそう。いや、ちょっと確認したかっただけだから、気にしなくていいよ」
「……ですが、そのような心配とは、もはや無縁です」
「あん?」
ヤオは、原生林の中で、泥と雑草に塗れるのも気にせず手足を地面に付けると、オレが部屋に入った時と全く同じ姿勢で深々と頭を下げて、こう言った。
「我々ノンマルトの都合で、これまでご迷惑をおかけして大変に申し訳ありませんでした。そしてもう一度、心よりの感謝を。我が一族の総意を代表して、陳謝いたします。我らを滅びの定めから救って頂き、誠にありがとうございました! そして、その償いとして……貴方様を元の時代にお帰しさせて頂きます。もとより、地上人との和平は二の次、その為にこそ、わたくしはここへ参ったのですから」
「はぁ?」
額に落ち葉を貼り付けたまま、ヤオが顔を上げる。
その顔は決意に満ちており、今すぐここで儀式とやらを始めそうな雰囲気を感じたので、すぐさま彼女を制す。
「いや、待てや。償いってさぁ……それ、オレに何もメリット無くない?」
「……確かに、貴方様から見れば、そう思われるでしょう。用が済んだから、さっさと帰れと言うのかと」
「よく分かってんじゃねえか。えらくムシの良い話だと思わんか? んん?」
「しかし……事は貴方様が思っている以上に、時間が残されていません」
「時間がないだと? 何の時間だよ」
「貴方様が消えるまでの、時間です」
オレが……消える?
「御存知の通り、その肉体は本来、貴方のものではありません。ハッキリ申し上げて異物です。わたくしがそうした事を棚に上げて形容するならば、異常な状態にあります。ではそんな体になぜ、貴方の精神が未だに張り付いていられるかと言うと……」
「ヤオの術式でそうしてるって、そう言ったじゃねえか」
「……その内容です。無理やりソガ隊員の精神を奧へ押し込んで、貴方を捻じ込んでしまうと、双方共に反発し合い、お互いの魂が酷く傷付いてしまう」
「……続けて?」
「精神が傷付いてしまっては、正気を保てない。それはわたくし共ノンマルトとしても困ります。我らの趨勢が決まるその時までは、貴方にソガ隊員としていて貰わねばならない。だから、術式にはある工夫をいたしました。貴方の精神が、肉体から拒絶反応を起こされないようにする為の仕掛けを」
ヤオは冷や汗を流しながら、説明する。
そんなにキツく睨んでしまっただろうか。
「貴方の精神は、ソガ隊員本人の精神が回復するまでの代役……つまり
「かさぶた、ね……ハハハ」
「実態としても、そう間違った事は言っておりません。偶々とはいえ……ソガ隊員は生死の境を彷徨う経験、それも、意識を失うレベルの低酸素空間に置かれた事で、あの時は非常に危うい状態にありました。もちろん、本来の歴史で彼は、驚異的な回復力でそれを克服したのを知っております……が、後遺症として軽い分裂症を煩ってしまいました。貴方とて、彼が時折、おかしな様子を見せていたのを知っているはずです。彼の肉体と精神が、常識外れに強靱であったからその程度で済んだようなものの、普通ならば再起不能だったでしょう」
……まさか、ソガ隊員がPTSDだったとは。
確かに本編でも、普段はあんなに格好いいくせに、思い出したかのような三枚目というか、妙に能天気だったり、やたら縁起に拘ったりしてたが……
ストレス障害のせいとか、分かるわけないだろ。
まあ、ウルトラ警備隊で勤務してりゃあ、PTSDなんて日常茶飯事だわな。
どのシリーズの防衛チームだって、毎回あんな激戦を50話近くも戦い続けられる方がヤバイ。
揃いも揃って、鋼の精神の持ち主かよ。
「で? ソガ隊員の精神を医療ベッドに寝かしつけて、オレがその間の……時間稼ぎのカプセル怪獣ってか。ハッハッハ! 考えたな!」
「笑い事ではありません! ソガ隊員の精神が十全に回復した時、肉体は貴方の精神を不要な物として排除しようとするでしょう。既にそうなり始めているハズ。最近、具合が悪かった事はありませんか?」
「具合? あー……」
ま、ちょっと不注意だったり、感情の抑えが効かん事がなきにしもあらずだが……
「その顔は、やはり……今はまだ、わたくしの術で貴方の精神を保護していますが……それも効力が切れかけている。なにせ、今回の事件さえ解決して頂ければ、すぐにお帰しするつもりだったので、その分しか力を込めておりません。保護が無くなってしまえば、貴方自身の存在を削りながら生きて行く事になるでしょう」
「文字通り身を削る、ってやつか」
「そうして、本人の精神が回復していく一方で、貴方が衰弱していった結果、バランスが崩れた貴方の魂は、突然に肉体から弾き出されてしまう事になる! 本来の手順を踏まずにそのような事をすれば、どうなるか……元に戻れれば良いですが、最悪、弾き出されないまま精神が解けて消滅してしまう可能性だってあります」
「突然は困るなぁ……」
「今ならまだ、間に合います。貴方の精神が傷付いていないままで、元の時間へ穏便な形で帰す事が可能です」
「なんでそんな焦る事がある? その口ぶりだと、結構猶予はあるんだろ?」
「それは……確かに今日お会いして分かりましたが、ソガ隊員本人の精神が、わたくしの予想していたよりも回復が遅いので……」
「回復が、遅い……?」
「わたくしの予想では、もう十分に回復しきって、後遺症の全くない状態で、すぐに貴方と肉体を受け渡せるようになっていると思っていました。ですが……」
「なあ、その精神の回復ってのは、どういう条件で遅れるんだ?」
「さあ、わたくしも詳しい事は……本来ならば、酷く精神力を使うような事をすれば消耗しますが、意識の無い状態でそんな機会は無いはずですし……」
「……オレの意識が無い時に、体を動かしたりすれば?」
「そんな馬鹿な事はありません! 金縛りの体を、無理やり動かすようなものです。消耗するしないの話ではなく、出来るわけがない。そして仮にそんな事をすれば、多大に消耗するのは当たり前ですから、そもそもしようとすら思わないでしょう。肉体や精神が、回復を優先して、無意識的に避けるはずです」
「……そうか。そうなんだな。ちょっと気になっただけだ。合点がいったよ。じゃあさ、ソガ隊員の精神が回復しきるまで延長ってのは? 最初に込めたエネルギーが足りないだけでしょ? もっかい糊付けすりゃいいじゃん」
オレが尋ねると、ヤオは非常に申し訳なさそうな顔で首を横に振った。
「それは……できないのです。わたくし達の蘇生術には、制約と代償が必要と申し上げました……その代償は様々にありますが主な物は術者の生命エネルギー……つまり端的に言えば、わたくしの寿命なのです」
「なんだって!?」
驚くオレに、ヤオは何度もうなずく。
「だったら残りを寄越せと仰るのでしょうが……わたくしの寿命は、貴方をこの時代に呼び寄せるのに殆ど使ってしまいました。そして、いまこうして定着させているだけでも少しずつですが消耗し続けている。そして当然の事ながら……貴方を無事に向こうへ落着させるにも、最初ほどではないにせよ、少なくない寿命を必要とします」
「おいおい……寿命だと!?」
「人一人を蘇らせるのです。当然、その代償も同じものでなくてはならない。わたくしは、はじめからこのタイミングで、貴方を向こう側へ帰す事が出来るよう計算して、術式を組み上げました。貴方がもう少し長く留まれば、わたくしに残されたエネルギーは消耗され、必要量が確保できなくなってしまう」
「なるほど……」
「お分かりになりましたか? 貴方が無事に帰る事ができるのは、これが最後の機会なのです。これ以上ここへ留まる事は、貴方の存在そのもの消滅を意味します。魂が、輪廻の輪に戻ることすら出来ず、文字通りの無になってしまうのですよ!」
「そうか……本当に今帰れば、オレの魂は元の世界へ無事に帰れるんだな?」
「ッ! ようやく受け容れて頂けましたか……ごめんなさい、少々、脅かしすぎました。もちろん、今のはこのまま何もしなかった場合の可能性であって、今のタイミングであれば、安全に儀式を執り行う事が出来ます。わたくしの全身全霊をかけて、貴方様を無事に送り届けると誓います」
ぐっと拳を握り締め、気合いを漲らせるヤオ。
彼女は、少しだけ拓けた場所で、柔らかい土の層を見つけると、ソガが倒れて怪我をしないよう導いた。
「さあ、そちらへ横になっていただけますか……?」
ソガはそれに対し、笑顔でうなずくと、たった一言こう言った。
「だが断る」