転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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ノンマルトの使者(Ⅳ)

 

「……なんですって? 失礼、聞き間違えましたか?」

 

「もう一回言ってやろうか? ……お断りだね」

 

「断るって……死んでしまうかも知れないんですよ? それもただ死ぬのではない、円環の理から外れたまま、輪廻転生すらもできず、完全なる消滅! 魂の安息無き……」

 

「あーもう、うっるせぇなぁ……」

 

鬱陶しげに髪を掻き毟ったソガは、つま先で土に埋まった石ころをほじくり返しながら、それがさも当然であるかのように言い放った。

 

「なるほど、このまま帰らねえなら死んじまうかもしれない……それがどうした? 人は生きてりゃいつか死ぬ。でも、今日じゃない。生憎とオレは、太く短く生きる派でね」

 

「なっ!?」

 

「お前達が弄くりまわせる以上は、魂というものも実在して、ひとは生まれ変わりをするんだろう……で、それがどうした!? 次の人生なんて知った事か! 前世が思い出せないなら、オレからしたら他人じゃい! そんなもん! 知覚できんなら、普通に死ぬのと変わらんわい!」

 

目を見開き、呆気に取られた様子で立ち尽くすヤオ。

構わずソガは口を開いて、彼女に向かってまくしたてた。

 

「だいたいな、今のオレは最高に輝いてるわけ。前世じゃどんな暮らししてたか知らねえけど、地球の為に戦うなんて事あるか? 無いね、絶対無い。憧れの職業ランキングで、パイロットだのYouTuberだの、相手にならん程ぶっちぎりの1位がウルトラ警備隊だ。いわば子供の頃の夢を現在進行形で叶え続けてる真っ最中やねんこっちは! それを? ここまでやらせといて? 途中で取り上げようってたって、そうはいくか!」

 

「あの、ソガ隊員……」

 

「世の中にはな……2種類の人間がいる。糖尿病が怖くて、糖質ゼロのダークチョコレートしか食えない奴。知ったことかと、生チョコケーキを頭から齧り付く奴! オレは後者だ!」

 

「チョコを食べない人もいるでしょう」

 

「んなもん人間じゃねえ。ノンマルトだノンマルト」

 

「このゲスラが……」

 

ああん? なんつった?

 

「巫山戯ている場合ではありません。真面目な話なんです」

 

「大真面目だよ! こちとらなぁ、伊達と酔狂だけで今まで戦ってきとんねん! 死ぬのが怖くて推しが推せるか! 限界オタクなめんじゃねえ! 第一、ここで素直にハイそうですかと帰る奴が、あのキリヤマ隊長に嚙み付けると思うのか!? オレみてえな天の邪鬼を呼んだ、お前が悪い!」

 

「そ、それは……ん? あまのじゃく? まさか……意地をはっているのですか? わたくしが帰れと言ったから、駄々を捏ねているのではありませんよね?」

 

「ん、そうだが?」

 

「~~~~~ッ!?」

 

「おお……これウメェな。味もそのままじゃん」

 

ヘルメットに隠してある、非常用の糖衣チョコレートを取り出して、ポリポリ囓るソガ。

 

ここが精神世界なら、おやつ代わりに非常食を貪り喰ったとして、減りもしなければ、誰にも怒られないという事に気付いたらしい。

 

「あ、あ……貴方と言う人は……ッ!」

 

「……ああ意地だ。そうだとも。ここで帰ったら、オレはこの世界に、『ノンマルトを救う』ために来たって事になっちまう。……そうじゃねえだろ! オレは、誰かに言われたわけでもなく、自分の意志で! セブンを、地球を! 守ってきたんだ!」

 

「……!」

 

「これはオレが始めた物語だ! だったらオレにはその結果を、最後まで見届ける義務と、権利がある! 違うか!」

 

「そんな事……!」

 

「オレは、オレ自身のために! この地球を守ると決めたんだ! それがオレの見つけた意味だ! 横から他人にゴチャゴチャ言われる筋合いはねぇっ!」

 

そう叫ぶソガの迫力に、ヤオは気圧され、つい目を背けてしまった。

彼女は、込み上げる罪悪感をどう処理すれば良いのか分からず、狼狽えるしかない。

 

奥歯を食いしばり、辛うじて絞り出せたのは、あまりにも情けないと自分でも思うほどに、身勝手な懇願じみた問いかけだけだった。

 

「そんな事を言われては……わたくしは……どうすれば良いのですか……」

 

「知るか、んなもん。自分で考えろ…………と言いたいが」

 

つかつかと歩いてきたソガは、俯いたヤオの頬を鷲掴みにすると、無理矢理に開けたそこへ、銃口でも捻じ込むような乱暴さで、糖衣チョコレートの粒を突っ込んだ。

 

「今までの会話で分かった事だが、人間とノンマルトじゃ、価値観と歴史背景が違いすぎて、とてもじゃないが話が纏まらん。お前らに考えさせたらどうせ失敗するのが目に見えてる。オラ、糖分を補給しろ」

 

「せいひんせひゃいへ、ものほたふぇてひょ、ひみひゃはりはへ」

 

「オレを向こうに送って、その後の交渉どうするつもりだったんだ? おまけに寿命まで削ってさ。馬鹿なの? 死ぬの?」

 

「もぐ……それは地上人とノンマルトの問題であり、貴方にそこまでのご面倒をおかけするわけには……」

 

「あのさぁ……せっかく助けた命なんだから、もう少し上手いこと立ち回って貰わなきゃ困るんだわ。いなくなった後で交渉決裂なんてされた日にゃ、殴られ損なの。分かる?」

 

溜息をついて首を振るソガの、なんと憎たらしいこと!

 

しかし、ヤオも交渉についてはさっぱりノープランだったので、押し黙るしかない。

 

とにかく彼を元の場所へ帰して、けじめを付ける事だけを考えていたからだ。

 

皆殺しの憂き目を回避できただけで僥倖であり、その後の事など……思いもよらなかった。

 

なにせ彼女は、ここで寿命を使い果たして死ぬつもりでいたので。

 

「しかし……」

 

「オレがここにいる意味は、地球の未来をより良くすること。それはノンマルトの事も含まれてる。お前らの問題を上手いことしなきゃ、地球の汚点として一生擦られ続けるのが分かってんだからな」

 

「はあ……しかしわたくし共は、これ以上を望みません。地上を返せなど今更過ぎて、海底でひっそりと生きていければ……」

 

煮え切らない彼女の様子を見て、苛立たしげに足踏みしながらソガは呻った。

 

「それじゃこっちが困るってんの! おたくらは地上攻撃しちゃったんだから、償いをするべき先が沢山ある! それもせず引き込もったら、今度こそ虐殺不可避だぞ?」

 

「ではどうするのです? ノンマルトの事実を公表し、地球人が侵略者の末裔だと、宇宙に向けて喧伝するのですか?」

 

「するよ? 当たり前じゃん。そんなの前提条件すぎて、それこそ言うまでも無いというか……」

 

「……えっ?」

 

今度こそ、完全に虚を突かれた様子のヤオ。

まさに信じられないと、顔に書いてある。

 

「そんな事をすれば、地上人達は地球を去らねばならなくなりますよ?」

 

「ナンデ?」

 

「それは……何人も、自らの居場所以外で生きる事は許されていないからで……」

 

「それさ、ここは日本なんだから、日本人以外の外国人は即刻退去せよって言ったら、宇宙的にまかり通るんか?」

 

「あっ……それは……」

 

「我々地球人は? グローバルな種族であるからして? ノンマルトだろうが地上人だろうが、果ては宇宙からの移民者でも、他者に迷惑さえかけないならば、どうぞ受け容れますとも。ははあ、地上人にここはお前の星ではないから退去せよと仰る。では残念ながらあちらにおります可哀想なペガッサの難民も揃って出て行けとそう言うわけですね? なるほど確かにここはノンマルトの星ですから、それ以外の種族には居住権が無いと! そういう事でございますか!」

 

にこにこと喋りまくるソガを見て、ヤオは……完全に引いていた。

 

顔や口調は先ほどなどより、よほど穏やかで紳士的であるにも関わらず、なにか得体の知れない恐怖すら感じてしまうくらいに、ドン引きしていた。

 

「ところで先ほどから、我々の事を侵略者、侵略者とお呼びになりますけれど、先祖の罪をその子孫にまで被せようなどという、愚劣で遅れた考え方は、この地球ではとっくのとうに廃止されておりまして、もしや我々などよりよほど高尚で進んだ考えをお持ちであろう宇宙連邦様がよもやそのような……まさかそれがスタンダードだなどと、ハハハ。御冗談を」

 

ドン引きしていた。

 

「……それを、言うのですか」

 

「言うが? あのキリヤマ隊長に喧嘩売ったんだ。もうこの世に怖いモンなんかあるかいな! それも、仮にも法の下に通達してくるような奴に。目には目を、歯には歯を。正論には正論! その上で殴りかかってくる奴は、そいつこそ侵略者だよ」

 

「わたくしは……人選を、間違えたのでしょうか」

 

「さて、その為にはノンマルトにも、地上との和平を結んで貰わなきゃならないんだな。地球はもう、人間の物でも、ノンマルトの物でも無い。地球星人達の星。そうなりつつあるんだ。例え、俺達から『地球人』という肩書きが引っ剥がされても、人間としての誇りを忘れない限り、ヒトとして在り続ける事は出来る。一日そこらで解決する話じゃない……そりゃ時間もかかるだろうさ」

 

「その為に、残されたわたくしの命を使えと、そう仰るのですね?」

 

「だから、ここで俺達だけが話してても、しょうが無いってわけ。チョコレート食い放題は、捨てがたいけどな」

 

おどけて見せるソガを見て、くすくす笑うヤオ。

彼の言う事は、あまりにも理想論に過ぎ、そう上手くいくのだろうかという不安もある。

 

だが、どうせ死んだはずの命ならば、それも……悪くはない。

 

「頼むよ、みんなの力でヒトの革新って奴を見せないと、セブえもンが安心して宇宙に帰れないんだ! オレが使者だと言うのなら、使者らしく最後の仕事くらいしてやろうじゃねえか」

 

「せぶえもん……? 分かりました。感応を解除します。我々の精神はすぐにあの場所へ戻る事でしょう」

 

「ヤオ。これでオレとお前は共犯者だ」

 

「共犯者……?」

 

「さっきはああ言ったが……この世でたった一人だけ、オレにド正論で、真正面から文句を付けられる奴がいる。オレはその人にだけは、絶対に勝てないし、その人が出て行けと言ったら、尻尾巻いてすごすご退散するしかない」

 

「えっ……あ、分かりました。ウルトラセブンですね」

 

「いや、違うね」

 

「ではいったい……?」

 

ソガは、精神世界が解除される、その瞬間を少し待ってから、ヤオが反論できない絶妙なタイミングを見計らって舌を出し、ウインクした。

 

「ソガ隊員がブチ切れた時は、一緒にゴメンナサイしような」

 

「なっ……!」

 

二人の姿が原生林から掻き消えた。

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