転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
【朗報】令和セブン公開決定!!
いやったぁアアアアアアーーッ!!
【悲報】時間僅か7分のショートムービー
短い!!
もっと!
もっともっと供給して、ホラ!!(強欲)
「ワア、ミテクダサイ。オオキイ、ミズタマリダ。アレガ、〝海〟デスネ。スゴイ、ナァ」
後部座席から、ピーピーとがなり立てるような電子音と共に、角張った人工音声が響く。
抑揚もへったくれもない、ごくごく平坦な棒読みの台詞。
だがそこに、歓喜と驚嘆の色が確かに混じっているのをアンヌは聞き取った。
勿論、そんなのは単なる錯覚にすぎない。
しかしそれがどうにも可笑しくって、彼女はクスリと小さな笑みを零す。
「ウフフ……違うわユート。あれは川よ。か、わ。分かる?」
「ワカリマス。カワ。イワユル〝河川〟デスネ。ツマリ、アレガ、スベテ、タンスイ、ナンデスカ」
「そうさ。だから、君がうっかり落ちたとしても、海よりは錆びにくいだろうね」
「ソンナ、ヘマ、スルワケ、ネエダロ。ダンジャ、アルマイシ」
「おっ、言ったな? コイツぅ!」
ポインターのハンドルを握るダンは、バックミラー越しにわざと顰め面を作ったが、後ろに載せた珍客が暢気に歯車を回すのを見て、ハハハと笑う。
そう、彼らの後ろには今日、U-8が載っていた。
今までは内蔵バッテリーの問題で、発電機無しには基地から一定範囲以上離れられなかったU-8だったが、近頃、思いがけず動力関係の技術が立て続けにブレイクスルーを起こした事もあり、通常起動でさえあれば、半永久的に動き回れるようになったのである。
しかも、ソガやアマギの友人であるというイチノミヤ氏が、ついにU-8の圧縮言語を解き明かし、アマギと共同で開発した自動音声による翻訳声帯を取り付けてくれたのだった。
これにより、行動範囲とコミュニケーションの制限が取り払われたU-8は、搭載された人工知能に、より深い学習をさせる基盤が整ったため、こうして隊員達に同行させるように通達が出たのである。
MJ計画も、ついに大詰めといったところであろうか。
隊員達も、すっかりこのマスコットに愛着がわき、彼と会話ができるようになるのを今か今かと待っていたので、この変化を大いに喜んだ。
もちろん、彼はたった一人でとんでもない重量のため、本来は七人乗りのポインターの定員はたったの2名となってしまい、後部座席に搭載されているウルトラミサイルも、ランチャーごと外さなくてはならない為、彼を連れて行けるのは、もっぱら戦闘予定の無いパトロール時などに限定されているのだが。
「ソレデ、キョウノ、でーとこーすハ、もんきーぱーく、デスカ」
「「ええっ!?」」
不意の言葉に、二人は思わず赤面した。
「な、なに言ってるのよユート! これはれっきとした任務よ!」
「そ、そうさ、隊長が言っていたのを聞いてなかったのかい?」
―――――――――――――――
出発前の作戦室。
「これが昨夜の現場写真だ」
「惨いやりかただ……」
キリヤマ隊長から渡された写真を見たフルハシは、思わず顔を顰めて、肩越しにちょこんとこちらの手元を覗き込むアンヌにもよく見えるよう、写真を傾けてやった。
二人の警官が、頭から血を流して倒れている。
彼らの首や四肢は、それぞれあらぬ方向に曲がっていて、その命がとっくに失われている事を如実に示していた。
例え医者として凄惨な人体を見慣れているアンヌであっても、なるべく直視したくはない代物だ。
忠実に職務へ励み、その結果として殺されてしまったのであろう彼らの事を思えば、胸が痛む。
「警官の死因は、二人とも頚骨を粉々にされていることだ」
「ええ」
「おそらく相当強烈な一撃を、首に受けたと思われる。その力は、人間の限界をはるかに超えている」
「……すると、人間じゃないかも知れませんね」
「うむ、県警から捜査の依頼を受けたのも、その点からだ……これを見てくれ」
頷き、別の写真を取り出す隊長。
そこには、真っ二つにへし折られた警棒が写っている。
「これは、人間の力では考えられんことだ」
おまけに付け加えて言うなら、現場には千切れた鎖と思しき破片が見つかっており、警官の死体のうち片方は、義務として携帯しているはずの手錠を所持していなかった。
このことから推察できる最悪の想定として、『加害者は手錠をはめられたのに、腕力だけでそれを
もしもそうならば、由々しき事態だ。
いかな木製といえど直径数㎝の警棒を容易く叩き折り、鋼鉄製の手錠をあまつさえ嵌められた状態で引きちぎるというのは、それら道具の強度に精通している人間にとって、その字面以上の度し難い事実を孕んでいた。
「たまたま現場付近を通りかかった目撃者の話によると、ゴリラのようなものが、3mもある塀に飛び上がって、軽い身のこなしで塀伝いに逃げていったとのことだ」
「ゴリラねぇ……なるほど怪力なはずだぁ!」
得心いったと納得するフルハシを、すぐさま制すキリヤマ。
「あわてるな。まだゴリラと決まったわけじゃない。初めからゴリラと判っていたら、何もウルトラ警備隊に捜査を依頼しなくともよかろう」
またしても写真を取り出す隊長。
地面に点々と残る血痕が写っている。
警官の所持していた拳銃は、実弾が一発無くなっていた……つまり。
「これは犯人が撃たれたとき、傷口から出たものと見て間違いない。また、目撃者の逃げて行ったという塀からも、これと同じ型の血液が検出されている。つまり、これは犯人の血液なのだ」
「ゴリラのでしょう?」
「……違う」
首を横に振る隊長。
「ゴリラの血じゃないんですか?」
「うむ……人間の血だ」
最近発足したという科学捜査研究所……通称SRIが送ってきた分析結果として、その血は紛れもなく人間の血液であり、A型であるとの情報が付け加えられていた。
現在日本で飼育されているニシローランドゴリラにはB型しかいない。
もちろん、マウンテンゴリラなど、他の種類であれば話が別なのだが……それらの種類が密かに日本へ持ち込まれているとなれば、また別種の事件性が浮上してしまう。
幸か不幸か、密輸団の活動は最近報告されていなかった。
「人間?」
「恐怖のあまり、ゴリラと間違えたんでしょう。似てますからねぇ、直立して歩いていれば……」
「では、仮に人間だったとして、3mも飛び上がれると思うか? しかも、警棒を真っ二つにして、首を叩き折るほどの力……一体どんな人間が想像できる!? 言ってみろ!」
「はぁ……」
ソガとアンヌの視線が、一瞬にしてフルハシの元へ集中するが、何かを感じた本人が、訝し気に向き直る直前、慌てて逸らされた。
「ダンは?」
「……」
どう思う? と隊長に水を向けられたものの、彼とて答えに窮する質問だ。
いかに自身の正体がウルトラセブンであるとはいえ、人間態時に発揮できる出力なんて、たかが知れている。
そんなダンだからこそ、今回の犯人の異様さが身に沁みて理解できた。
およそ人類が出し得る最高峰と思しき、フルハシやダンの怪力ですら、鋼鉄製の手錠を引きちぎるなんて芸当は不可能なのだから。
そもそも、鎖が破壊される前に、その応力を受けるであろう手首が耐えきれないのだ。
手首、手錠、鎖。
これらに1トン以上の力が満遍なくかかった上で、最も脆かったのが鎖の部分でなければ、そんな現象は発生し得ない。
つまり少なくとも、敵の外皮は鋼鉄以上の強度を持っている事になる。
ダンが同じことをしようとすれば、セブンの姿に変身しなくてはならなかった。
「ゴリラと見えてゴリラじゃない……人間の血液で人間とも思えん、では一体……何だ?」
どちらにせよ、警察は密輸団の線を洗い、ウルトラ警備隊は異星人の侵略に関する予兆として捜査するしかない。
元はウルトラ警備隊の前身が、警察機構の一組織だった事もあり、こういった怪奇事件の捜査から彼らが完全に切り離されるのは、人員や体制が整ってから……もう少し後になるだろう。
それまでは、彼らの管轄なのだ。
―――――――――――――――
もちろんあの場にもU-8は居たし、その上で、ゴリラやサルの生態に詳しいマヤマ博士に話を聞く為、彼の居るモンキーパークへ向かう事になっているのも知っている。
「デモ、ソガタイインガ『いいかユーエイト? くれぐれも二人のデートの邪魔はするんじゃないぞ?』ト、イッテキマシタ」
警備隊のエンブレムが貼り直された、U-8の銀色をした胸の奥で、キュルキュルとカセットテープが回り、録音されたソガの肉声が再生される。
なんということだ、本当に出発前のU-8へ向かって言ったらしい。
「あ、あのなあユート……それは、ソガ隊員の……ジョークだよ」
「そうよ! 冗談も分からないんじゃ、まだまだね!」
「じょーく、アルイハ〝冗談〟ツマリ、でーとトイウノハ、〝嘘〟ナンデスネ?」
「「そ、それは……」」
U-8の返しに、それぞれの理由から言葉を詰まらせる二人。
ダンは、〝冗談〟と〝嘘〟の間にある、僅かなニュアンスの違いを、この頭の固い友人に分かるよう説明するにはどう言えばいいのか、咄嗟に思いつかず、どうにも返事を決めあぐねた為。
そして、未だに頬を紅潮させたままのアンヌは言わずもがな……
「ソレハ、ヨカッタ」
「え?」
「ジャア、アンヌタイイン。ワタシト、でーとシマショウ」
「「ええっ!?」」
今度ばかりはアンヌだけではなくダンも度肝を抜かれ、急ブレーキを踏んでしまう。
あまり使われていない川沿いの道だったので、後続車が居なかったのが幸いであった。
「な、何を言っているんだユート!? アンヌとデートだって? キミが? まさか!」
「あ、ああそうだ。あれでしょう? 時間を決めて待ち合わせするっていう、元々の意味よね! 確かに仕事でも使うらしいし、任務だってある意味デートよね。わたしたちの方こそ、過剰に反応しちゃったわ。ごめんねユート」
「なぁんだ。安心した……」
語源的な意味合いか。
ホッとした様子で、力を抜いてシートにもたれるダンだったが……
「チガイマス。『ん? デートってのはなぁ……なんていうかその……男女がお互いを知ったり、仲を深め合ったりして、恋愛感情を高めるために遊びにいくことさ』ワタシハ、イミヲ、シッタウエデ、オサソイ、シテイマス」
「……ちょ、ちょっと……この子ったら……」
突然の事に、どうすれば良いか分からず、ドギマギしてしまうアンヌ。
「いいかいユート。デートや恋愛っていうのは、人間同士でするものさ」
「ナニカ、モンダイデモ?」
「いやだからさ……キミは……ロボットじゃないか」
なんとも言えない顔で指摘するダン。
今更そんな事を口に出す羽目になるとは思っていなかったからであるが……
「ワタシハ、ニンゲンデス。異常ナシ」
「なんだって!?」
ついにダンは振り返って、U-8の顔をまじまじと見つめるのだが……彼の強化ガラス製の顔は、つるりとしたままなんの表情も浮かべる事はなかった。
果たして本気なのか、それとももしや……冗談を学習して、意趣返しに言っているのだろうか?
「ダン。アンヌハ、ニンゲンカ?」
「そりゃあそうだよ!」
「アンヌ。ダンハ、ニンゲンカ?」
「ええ、もちろんよ!」
「ダッタラ、ボクモ、ニンゲンダ。キミタチガ、ニンゲント、イウナラ、ボクト、ナニガ、チガウンダ?」
「それは……」
顔を見合わせる二人。
「やだわこの子ったら……ペットはよく自分の事も小さい人間か、さもなくば飼い主を変な姿の同種だと思い込んでいるって言うけど……周りがみんな人間ばかりだから、自分がロボットだって分かってないんだわ、きっと」
「そうか、彼にはもう、同じ体のお仲間がいないんだったね……」
ダンの瞳が、寂し気に揺れる。
確かに、無機物のみで構成されているものは人間に定義されない……なんてことは今更すぎて、これまで誰も彼に教えたことはなかった。
おまけにU-8はもう、曲がりなりにも自分で考え、会話まで出来るほどに成長したのだ。
……その肉体の構成成分以外に、彼を納得させられる要素はいったいなんだろうか?
魂の有無なんて言っても、U-8にはきっと理解できないだろうし……あいにくそれを証明する手立てを持っていない以上、彼に根拠を強請られても困るだけだ。
こうなったらもう、一度帰って、アマギ隊員に新しいデータを入れて貰うしかない。
コミュニケーションが可能になった途端、とんでもない行き違いが浮き彫りになってしまった形だ。
「あのね、ユート? 人間はね、そもそも任務中にそんな話はしないものなの」
「ソウナンデスカ」
「そうだぞ、あんまりアンヌを困らせちゃダメじゃないか」
「オマエニハ、イワレタクナイゾ、コノ、ボクネンジン、オタンコナス、マジメクンロボ」
「はぁ……お前がこんなに口が悪かったなんて、思いもしなかった……」
「いったいどこで覚えてきたのよ、そんな言葉……」
頭を抱えるダンと、呆れて肩を竦めるアンヌ。
二人の頭には、ほぼ同時に下手人と思しき男の顔が浮かんできたので……
揃って恨み節をぶつけることとなった。
「ショウガアリマセン、ニンムニ、シュウチュウ、シマショウ」
「是非そうしてくれると助かるよ……」
切り替えの速さは流石ロボットといったところか。
疲れた声で同意するダン達。
「ソレニシテモ、ガケクズレガ、アッタノニ、もんきーぱーくカラハ、フッキュウノ、ヨウセイガ、ホントウニ、ナカッタノ、デスカ」
「え? ああ、うん……」
「変よねぇ……」
実はそれも、今回の訪問理由の一つではある。
モンキーパークは、警官の殺された名古屋駅からの直通ラインが、数日前からがけ崩れで塞がっているのだ。
本来ならば、基地から通じるシークレットハイウェイの出口から、山をほぼ直線距離で登ればすぐに到着するのだが、その道も閉鎖されているため、わざわざ川沿いを登る道を使って遠回りしなくてはならなかった。
だというのに、パークの職員からは救援要請もなく、行政側は誰もその事態に気付いていないという有様。
そりゃあ、今走ってるような下道はあるわけだから、完全に閉ざされたわけでもないが……少々呑気すぎやしないだろうか。
市街地への近道が無ければ、彼らも困るだろうに……これではまるで、孤立したがっているかのようだ。
それとも、車も無しに山中を駆け下りるのが、全く苦ではない程に、職員たちが健脚揃いとでも言うのだろうか?
惨殺された警官。
ゴリラのような犯人。
近傍のモンキーパーク。
閉ざされた主要経路……
それらを一度に結び付けるには、あまりに飛躍しすぎているが……
ダンはどうしても、悪い予感を拭い去れなかった。