転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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脅威の超エンジン(Ⅲ)

 

「マ゚ッ゚サ゚ツ゚ カ゚イ゚シ゚」

 

U-8の両手首に装備されたターボ・パラライズブラスターが回転し、麻痺効果のある光弾を滝のように噴射した。

 

ガトリングのように弾みをつけて、徐々に速くなっていく発射レート。

 

しかし、ゴリーはU-8が銀の腕をこちらへ向けた瞬間には、すでにその場から飛び退いていた。

野性の勘で、何らかの攻撃が来ることを察知したのだ。

 

腰を曲げて拳を地面につけたかと思うと、獣のような四足歩行で素早く草むらを駆け抜け、半円を描くように敵の側面へと回り込む。

 

ゴリーの駆け抜けた場所を、遅れて光の礫が追従し、閃光が弾け飛ぶも、その姿を捉えきれない!

 

これがゴリーの巧妙な点だった。

もしも彼が、自らの敏捷性を過信し、一直線に距離を詰める事を選択していたら、たちまち濃密な弾幕の中に飛び込む事になっていただろう。

 

しかし、彼は昼間にU-8が動いているところを観察し、彼の弱点ともいうべき特性に気付いていたのだ!

 

つまり、あの変な鳴き声のする生き物は、ほとんど腰を()()()事が出来ない、ということに。

 

U-8はその胴体に、エンジンやバッテリーなどの巨大で重要な部品を多数収納しているため、腰部の可動域が非常に制限されている。

 

出来てせいぜい屈むくらいが関の山。

 

そもそもユートムは、地下基地の警備用インタフェースだった。

狭くて長い通路は、ユートムがその巨躯をもって立ちはだかるだけで、脱走奴隷は道を塞がれ通り抜ける事が出来ず、それでも突破を図る愚か者には左腕でパンチング、逃げる背中には右腕の麻痺銃を浴びせるだけで良かったのである。

 

ユートムは設計段階からして、『距離』という殆ど二次元的な概念しかない場所での運用以外は、全く考慮されてはいなかった。

 

だからこそ、その構造的に縦軸方向への対処能力は優秀であったが、横軸への対応は非常に弱い。

 

例え現在装備されている武装の連射速度自体は高くとも、こんなに拓けた場所で、三次元機動をする素早い相手に偏差射撃が出来るようには造られていないのだ。

 

もちろんゴリーとて、そこまで詳しく敵について考えた訳では無い。

ただなんとなく、横に走ればあいつは追いつけない……と思っただけだ。今回はそれが大当たりだっただけで。

 

「チ゚ョ゚コ゚マ゚カ゚ト゚」

 

人間離れした跳躍力により、腕部の可動域で対処可能な射角から一気に外れられてしまい、U-8はその場で足踏みして敵を正面に捉え続けなければならなかった。

 

だが、それも長くは続かない。

なんとか広域サーモセンサーで敵の動きについていこうとしていたU-8の視界から、四つ足歩行の影が掻き消えた。

 

そしてそれを追うように連射していたパラライザー弾が何かに阻まれ、視界が真っ白に。

 

慌てて赤外線カメラに切り替えた彼の目に飛び込んできたのは、光弾を弾き返すポインターの車体。

 

敵は、障害物を利用してまんまと射線を遮る事に成功したのだ。

 

そして、ババン、ベコン! という金属の上を何かが駆け上がる音と共に、ポインターの影から人型の何かが飛来した。

 

車体後部を踏み切り板に使ったゴリーが、モンキーレンチを上段に構えて、飛びかかってきたのだ!

 

ゴリーは、自身の怪力で振り下ろされた金属工具が、ガラス張りのヘルメットを打ち砕くのを確信する。

 

……しかし!

 

「チ゚ョ゚コ゚サ゚イ゚ナ゚」

「う、うごっ!?」

 

正確無比に動いた右腕のパワーハンドが、レンチをガッシリと受け止め、固定した!

 

まさか止められるとは思わず、驚愕するゴリー。

どれだけ力を篭めてもビクともしない。

 

「ポッ゚シ゚ュ゚ウ゚ ポッ゚シ゚ュ゚ウ゚」

「うぎっ!」

 

()()()()の如き形状をしたパワーハンドが、工具を掴んだまま手首ごとぐるんと回転し、絡め取るような動きで敵から凶器を奪う。

 

「ムダナ テイコウ ハ ヤメナサイ」

 

武器を失った相手に、電子音で呼びかけるU-8。

そのまま彼がパワーハンドに力を篭めると、メキメキ音を立てて、()の字に折れ曲がっていくモンキーレンチ。

 

「うほっ!?」

 

金属塊が展延する程の握力を見せつけられ、目を見開いたゴリーは、サッと身を翻すと近くの木陰に隠れる。

 

「タダチ ニ トウコウ セヨ」

 

倒れたダンを庇うように前に出るU-8の姿を、ゴリーは血走った目で睨みつけた。

 

邪魔な雄を殺そうとしたのに、奴が邪魔をするせいでトドメがさせない。

それにあいつは自分よりも力が強い。

 

……ゆるせない。

 

それを認識した途端、ゴリーの中で、凄まじいまでの殺意と闘争本能が爆発した。

 

……ころしてやるっ!!

 

「ふーっ! ふーっ! フゴッ! ウがアあアアアアアっ!」

 

咆哮、そして――変貌。

 

ゴリーの顔を、指を、そして全身を黒い毛が覆っていく。

 

膨張し、盛り上がった筋肉によってシャツは破れ、ミシミシと骨格が組み変わる音が、夜の闇を引き裂いて、辺りに響き渡った。

 

「ウギャアアアアッ!!」

 

蹲った男が、月明かりに向かって吼えた時、その顔面すらももはや醜く歪み果て、掘りはより深く、唇は突き出し、そこにあったのは紛れもなくゴリラの貌。

 

実はこのゴリーは、ゴーロン星人によって脳波を猿と入れ替えられた、猿人間だったのだ!

 

「ウホッ!! ウホッ!!」

 

先ほどよりも素早い身のこなしで、するすると木の幹をよじ登ったゴリーは、一番太い枝を掴んでゆっさゆっさと葉を揺らし、見せつけるように突き出した自らの胸板を、両の掌で打ち鳴らした。

 

「ウキキキーッ!?」

 

そのまま枝をベキリとむしり取ったかと思えば、不安定な樹上をものともせず、両足だけで立ち上がって、力一杯それを槍投げの要領で放り投げる!

 

「テ゚イ゚コ゚ウ゚カ゚ク゚ニ゚ン゚」

 

しかし、それにも焦らず短く呟いたU-8の右腕部で、花弁が開くようにラジエーターが展開したかと思うと、彼は飛来する大質量に向かって、赤熱する黄金の右ストレートを振り抜いた!

 

「ユ゚ー゚ト゚イ゚ン゚パク゚ト゚」

 

轟音。

 

高速回転するパワーハンドの軸に溜まった熱量が、強制冷却機構によって圧縮空気と共に排出され、一直線に飛来する即席破城槌を真正面から木っ端微塵に粉砕した!

 

「ホオオオオオオオオオオオオオッ!」

「パイ゚シ゚ョ゚ パイ゚シ゚ョ゚」

 

その貌を怒りにどす黒く染めて、戦闘力をさらに倍増させた敵が、性懲りも無く枝を力任せに叩き折るのを確認し、次に左腕を大きく掲げるU-8。

 

「チ゚ェ゚ー゚ン゚ア゚ー゚ム゚」

 

月明かりで黄金色に輝く手首の中で、ジャキリと何かが装填されたかと思うと、次の瞬間には、爆砕ボルトの圧力で彼の左拳……つまり高密度のチルソナイト鉄球が凄まじい勢いで射出された。

 

銀の拳骨が猿もどきの顔面を殴りつけようと迫るが、大きくジャンプし、それを回避するゴリー。

 

枝が千切れ飛び、木の幹に鎖鉄球が深々とめり込んだ。

U-8が鎖を巻き取り始めれば、バキバキ音をたてながらゆっくりと倒れていく巨木。

 

しかし、その繁茂した枝葉がU-8のカメラを遮った瞬間、一つの影が飛び出した。

木が倒れる勢いすらも利用して、ゴリーが奇襲を仕掛けたのである!

 

すたっ……と、U-8の背後に着地したゴリーは、手に持っていた太い枝を機械人形の股下に差し込んだかと思うと、それをテコのように使って彼の左脚を絡め取りつつ、渾身の体当たりを背中にむけて喰らわした。

 

「ア゚ッ゚」

 

と言う間にすっころんで、バタバタと藻掻くU-8。

もちろん、いつかのキングジョーのように自力で起き上がれないという事はないが……それでも即座にというわけにもいかなかった。

 

そしてそれは大きな隙となる。

 

「クキキ……」

「ナ゚ニ゚ヲ゚ス゚ル゚」

 

ゴリーは、傍に転がっていた金属片……折れ曲がったレンチだったものを取り上げると、それを迷い無く差し込んだ!

 

U-8の右腕で、シューシューと水蒸気を噴き上げている排気口に目掛けて。

 

「ヤ゚メ゚ロ゚」

「ウオオオーーッ!」

 

それをレバーのように力一杯押し込めば、ビスが弾け飛び、無惨に歪んでいくラジエーター。

 

そうして取っ掛かりが出来てしまってからは速かった。

 

缶切りの要領で歪みや亀裂をどんどん拡げていったゴリーは、その破損個所が肩口にまで到達した事を見てとると、こんどは蛇腹のように重なった金属板を引っ掴み、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ……

 

「マ゚サ゚カ゚」

「ガアアアアッ!」

 

総身にあらん限りの力を込めて、歯を食いしばった猿人が力いっぱいに関節を逆側へ引き倒せば、歯車と火花が飛び散り、ついにU-8の右腕が、肩口からボロリともぎ取られてしまったのである!

 

ゴリーは猿人間だ。

しかし、ただの猿人間ではない。

 

脳波を猿と入れ替えられたと言っても、それだけで人間が鉄を破壊する怪力や、桁外れの跳躍力を発揮したり、ましてや野獣のような姿に変身できるわけがないのだから。

 

実は彼の肉体には、外科手術によってゴーロン細胞が埋め込まれており、感情が昂るとそれら細胞が活性化して、その肉体を異星人に近しい状態へと瞬時に作り替えてしまうのだ。

 

もちろん、純粋な馬力や装甲ではU-8に軍配が上がるだろう。

 

しかしゴーロン細胞を活性化させ、超猿人の姿となったゴリーは、怪力はもちろん、皮膚や毛も柔軟性はそのままで鋼鉄並みに強靱となり、なにより俊敏さは比べるまでもない。

 

その上、1番の長所は……その知能だ!

 

確かに彼の言語野は大きく退化し、短い単語や呻るような発声でしか意思疎通が取れない。

 

故に勘違いされやすいが……彼は簡単な命令に従い、敵味方の区別がつき、道具を使ってポインターを破壊する程度の知能は、未だに有しているのである!

 

これが、脳を丸ごと移植するのではなく、脳波だけを交換する利点と言えるだろう。

 

ゴーロン細胞を使いこなす為には、強い野性本能や激しい闘争心が必要だが、知能は人間並みのままに保つ。

それをクリアする方法こそが、まさに脳波交換だった。

 

そして驚くべきことにゴリーはこの力を、なんのアイテムも使わず瞬時にスイッチし、特別なエネルギーもまったく必要としないのだ!

 

廉価版ウルトラセブン……いや、ある意味ではその上位互換とすらも言えるだろう。

 

フルハシ以上の怪力で、U-8に準ずる装甲を有しながら、ダンよりもタフかつ、アマギのように身軽で、ソガの如くずる賢い。

 

にもかかわらず、ひとたび変貌するまで外見は普通の人間と変わらない。

 

ゴーロン医学の粋が生んだ、この恐るべき超兵こそ、猿人ゴリーの正体なのだ。

 

「キ゜タ゜タ゜タ゜イ゜タ゜メ゜ー゜ジジジジggggggggggggg」

「ウホオーッ!」

 

毟り取ったU-8の右腕を高々と掲げ、勝利の雄叫びを上げるゴリー。

 

もしもゴリーの標的が右腕でなかったら、また結果は違っていたかもしれない。

U-8はかつてのボーグロイドとの死闘によって、オリジナルの右腕を完膚無きまで破壊されてしまっていた為に、こちらだけは丸ごと防衛軍製の物と取り替えていたからだ。

 

いかにハイマンガンスチール製の装甲と言えど、それらを繋ぎ止めるビスやボルトまでは、異星人の技術には敵わなかったのである。

 

「キキキッ」

 

ビービーと真っ赤なランプを点滅させて動かなくなった相手を見ると、ゴリーは満足そうに舌を出し、徐々に人間の姿に戻っていく。

 

そうして、ようやく目的を果たそうとしたところで……

 

ビシッと何かに叩かれ、恐怖の表情で振り向いた。

 

「ゴリー! ……貴重な実験材料を殺したわね!」

 

そこには白衣を翻し、電磁ムチを振りかぶった女助手が怒りの形相で立っている。

 

言われるままに、頭から血を流す雄に目を落とせば、奴はピクリとも動いていなかった。

 

 

 

……ころした?

 

 

あたまをなぐれば? しぬ。

 

 

うでをもいだら? しぬ。

 

 

……ついにやったのだ。

 

 

「ぐへへぇ……」

 

「なにを笑っているんだ。お前はお仕置きだよ! ゴリー!」

 

この雌が怖いのはいつもの事だ。

ゴリーはただ、ライバルを排除した満足感に浸っていた。

 

 

―――――――――――

 

 

「う、うう……」

 

よろよろと起き上がるダン。

常人であれば確実に脳挫傷か脳内出血で死んでいただろう。

 

しかし、例え人間の姿に身をやつしていても、その正体はウルトラセブンなのだ。

その生命力の強さといったら、並大抵の怪我では死なず、身に宿した太陽エネルギーが尽きない限りは、回復力も尋常ではないのである。

 

ダンが血を拭い目を瞬かせると、朦朧とする視界の中で、銀色の仲間が倒れ伏しているのが見えた。

 

 

「……ハッ!? ユート! 大丈夫か……!」

 

戦友に駆け寄ったダンは、そのあまりの悲惨さに思わず叫んでしまう。

 

「そ、そんな……! キミ、腕がっ……!」

 

「ダイジョウブ 異常ナシ ダン ハ ダイジョウブ カ」

 

「あ、ああ……」

 

「ヨカッタ」

 

「……そうか、キミが守ってくれたのか……ありがとうユート」

 

「シュウゲキシャ ハ パーク ノ ショクイン デシタ」

 

「なんだって!? ……ハッ! アンヌが危ない! いくぞ!」

 

走り出そうとするダンだったが、U-8がうつ伏せに倒れたまま起き上がってこない事を訝しんだ。

 

「どうしたんだい、ユート? やっぱり腕以外にも、どこか故障してしまったんじゃ……」

 

「バッテリーザンリョウ テイカ」

 

「そうか、それで起き上がれないのか……」

 

確かに全力戦闘を行ったなら、充電が必要なはずだ。

しかし、修理や補充をしている時間は無いし……

 

困ったように辺りを見回したダンの目には、ボンネットが開いたままのポインターが映った。

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