転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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脅威の超エンジン(Ⅳ)

 

その頃、パークの地下室では……

 

「キャアーッ!!」

 

ムチで打たれた手首の痛みに、悶絶するアンヌ。

それを冷徹な表情のまま見下ろす白衣の助手。

 

外の戦闘音を聞きつけ、自室を抜け出してパーク内を探っていたアンヌだったが、不意を突かれ囚われの身となっていたのだ。

 

「アアッ……ウッ……」

 

振るわれるムチの痛みに悶えるアンヌの悲鳴に反応し、地下室の隅からは抗議するような激しい唸り声。

 

「ううぅぅ!!」

「……むごい!」

 

鎖に繋がれたゴリーだ。

その扱いを見たアンヌは、女助手の所業を非難する。

 

だがそれを、顔色ひとつ変えないままに、フンと鼻で笑い飛ばした彼女は、吐き捨てるように言った。

 

「その男は、人間の格好をした猿人間さ」

「えっ?」

「体は人間だけど、脳波は猿のものと交換されているんだ。この……脳波交換装置によってね。お前の脳みそも、今夜、猿のと替えてやるからね」

 

助手の指し示した先には、機械の取り付けられた手術台があった。

 

絶好のタイミングで現れるミヤマ博士。

取り縋るアンヌを冷たく突き放すと、淡々と命令を下す。

 

「手術台にのせろ」

「はかせ……」

 

博士はアンヌに目もくれず、普段の温厚さからは正反対の形相を浮かべると、隅で暴れるゴリーに向かって指を突きつけて、激しい口調で彼を叱責した。

 

「お前の勝手な行動によって、我々の目的が危うく警備隊に漏れるところだった!……バカめが!」

「やめて! ……お願いします、やめてください!」

 

アンヌの懇願がまるで聞こえていないかのような博士は、機材の様子をチェックし、調整を始めた。

それを見てアンヌは理解する。

 

博士は何らかの催眠状態に置かれ、操られているのだと。

彼は生態学の権威であって、このように高度な装置を作製したり、現調できるほどの工学知識はないはずだ。

 

博士を操っている何者かがいる……

機械を頭に被され、絶望の悲鳴を上げるアンヌ。

 

すると、それを見ていたゴリーの顔つきが、一挙に剣呑なものへと変わった。

そして始まる……変貌。

 

「うがあああああああっ!?」

「な、何をするゴリー!? やめろ!!」

 

超猿人の姿となったゴリーは、自らを戒めていた両腕の鎖を引きちぎると、アンヌを手術台に固定していたベルトを掴み、力任せに破壊した!

 

制御下にあった筈のゴリーが思わぬ暴走をしたことで、呆気にとられる博士と助手。

 

毛むくじゃらの指が、アンヌへ向かって伸ばされた!

 

その時!

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

地下室全体が大きく揺さぶられ、天井からパラパラと破片が落ちて来る。

 

狂乱の最中にあった三人と一匹は、思いがけぬ衝撃に一旦動きをとめ、敵味方すらも忘れた表情のまま、その音の出どころに向かって一斉に振り向いた。

 

地下室の重厚な鉄の扉が大きくへこみ、周囲の壁には蜘蛛の巣のような亀裂が幾重にも走っているではないか。

扉が歪んで出来た隙間の向こうから、誰かの声が漏れてくる。

 

 

「もう一度だ、頑張れ!」

「……まさか」

「それ、さん、に、いち!! やれっ!!」

 

 

 

バゴォオオンッ!!

 

 

重々しい鋼鉄の扉が、くの字に折れ曲がって紙切れのように蝶番ごと弾け飛び、薬品棚を直撃する。

分厚いモルタルの壁が粉々に粉砕されて出来た大穴の向こう、濛々と舞い上がる砂ぼこりが晴れた先には――隻腕の鉄人が、残された片腕を振り抜いた姿勢のまま突っ立っていた。

 

「ルック アット ユー」

 

その背後から、怒りの形相を湛えた男が、ウルトラガンを構えて部屋へ突入する。

U-8をポインターのエンジンと繋ぎ、彼のバッテリー上がりをジャンピングスタートさせたダンが、救援に現れたのだ!

 

「ダン!」

「アンヌ!」

「アンヌタイイン」

 

しかし、そんな乱入者の顔を見て、より一層怒り狂った者がいる。

大事な雌を奪われると思ったゴリーだ!

 

「うがああーッ!!」

 

超猿人が絶叫と共にダン目掛けて飛び掛かり、床に彼を叩き伏せると、両手を固く堅く組み締めて大上段に振りかぶる。

今度こそ、そのにっくき顔面に拳を振り下ろし、物言わぬ挽肉に変えてしまうつもりなのだ!

 

「ガラアキ ダゾ」

 

そこへ突進したU-8が、自身の重量を活かして馬乗りになったゴリーに体当たりした!

これにはさしものゴリーですら、たまらず吹き飛んで、その先に堆く積まれた標本の群れに突っ込み、藻搔く。

 

「ツイゲキ ツイゲキ」

 

このチャンスに、U-8は残された左腕の鉄球を高々と振り上げるが、それより速く。その手首に細長いものが巻き付いた。

 

「邪魔をするな! 機械人形!」

 

助手は電磁鞭のスイッチを入れ、回路をショートさせようと試みるも……

 

「カデンヒン ジャ アルマイシ」

 

拷問用、つまり生体を殺さない程度に調節された電圧では、彼の絶縁加工を突破出来なかった。

 

U-8が縛られた左腕をぺいっと軽く振ってやるだけで、つられた助手は本棚へ激突し、その場にノびてしまう。

 

「ええい……くそっ!」

「あっ、待て!」

 

形勢不利と見たか、博士は壁伝いに大穴へにじり寄り、そこから外に向かって脱兎の如く駆けだした。

 

起き上がったダンが腕を伸ばすも届かない。

咄嗟にウルトラガンを構えるも……

 

「待って! 博士は操られているのよ!」

「そうか……しまった……」

 

逃げた博士か、目の前の怪物か。

逡巡するダン。

 

「オエ ダン」

 

瓦礫から身を起こし、此方を睨みつける野獣を牽制しながら、U-8が告げた。

 

ダンはチラリとアンヌを一瞥する。

それに彼女は頷き、短いアイコンタクトを交わした。

 

「アンヌを頼むぞ、ユート!」

「マカセロ」

 

頼もしい電子音を背に、ダンが階段を駆け上る。

彼の身体能力をもってすれば、息切れした博士に追いつくなど造作も無い。

 

「ダァーッ!」

「うっ!」

 

取り押さえた博士の鳩尾に、キツい一発をお見舞いすると、気を失ってその場にくたりと崩れ落ちる。

 

「ふぅ……あとは……」

 

事件の黒幕を倒すだけだ。

 

その時、ダンの脳内に甲高く耳障りな笑い声が響く!

 

「ウキャキャキャキャキャ!!」

「やっぱり貴様……ゴーロン星人!」

「さすがはセブン。よくぞ見破った」

「人間と猿の脳波を入れ替えて、どうするつもりだ!?」

「猿人間を増やすんだ。地球はやがて猿人間が支配するようになる!」

 

ガイシテス太陽系またの名をゴーロンネビュラと呼ばれる星域は、高度に発達した宇宙猿人達が暮らす宇宙である。

 

星系内の各惑星はどこも自然豊かで、様々な種類の猿人達が円熟した穏やかな精神で助け合い、それぞれの持ち味を活かした社会を形成しているが、残念な事に時折、平和な社会に適応できず、先祖返りした狂暴性を持て余す重犯罪者が一定数排出されるのだという。

 

そんな時、第五惑星イプシロンでは、逮捕した凶悪犯に対して、脳波交換を用いて能力はそのままに、人畜無害な性格に矯正して社会奉仕させる精神改造刑を言い渡すのだ……と、セブンはかつて知り合ったサイボーグエージェントに教えて貰った事があった。

 

恐らくこのゴーロン星人も、そのような危険思想を持つ脱獄囚だったのだろう。

 

まさか自分がかけられるハズだった処刑道具を、地球侵略の為に使いこなしてしまうなんて……なんと恐ろしい奴だ!

 

確かゴーロンネビュラの中でも、金色のたてがみを持つ種族は、高貴な血筋のエリートとされ、他の猿人よりもさらに進化した頭脳によって、様々な超能力を発現するのだという。

 

脳に直接語りかけてきた所を見るに、おそらくこの個体は、超常的なテレパスを駆使できるに違いない。

 

「それで博士たちを、脳波催眠にかけて操っていたんだな!」

「彼らは私のロボットだ。私の思い通りに動く。だがお前は騙せなかった。その代わり……殺す!」

「ぐわっ!!」

 

ウキャキャキャ!!

 

猿の不快な叫び声が木霊する。

モンキーパーク内の無数の猿の思考を、直接セブンの脳へ送りつけたのだ!

 

脳波攻撃に、頭を抑えて苦しむダン。

這いつくばるようにしてセンターから外に出てみれば、そこには巨大化したゴーロン星人がこちらを見下ろして嘲笑っている。

 

「デュワッ!」

 

ウルトラアイを装着し、自らも巨人の姿となったセブンは、アイスラッガーを構え、ゴーロン星人と相対する。

 

しかし、途端に掻き消える星人の姿。

 

セブンの脳のうち、視覚情報を司る部分に猿の思考を送り込み、自分の姿を認識出来ないようにしたのだ!

 

……だがセブンは冷静だった。

 

かつてのガッツ星人との戦いを反省した彼は、目に見えるものだけではなく……心の目で見て、敵の気配や敵意が動く瞬間を待っていた!

 

『デュア!』

 

セブンの投げ付けたアイスラッガーが、ジャンプしたゴーロン星人を空中で撃ち落とす!

 

『ウギギギ……おのれ……!』

 

毛皮の防刃効果で致命傷を回避したゴーロン星人は、胸元から血を流しつつ、セブンを睨む。

こちらが見えていないと思って油断した……だが!

 

『これでもくらえ!』

『デュアーッ!?』

 

ゴーロン星人が全身全霊で放った脳波光線がセブンの頭脳を揺さぶった。

 

――――――――――――

 

「ふっーっ! ふっーっ!」

 

地下室に獣の荒い呼吸と殺意が充満する。

 

じり……じり……と距離をつめるゴリーに対し……

 

「ショー タイム」

 

爆薬が装填される音と共に、U-8が爆砕ストレートを真正面からゴリーの顔面に目掛けて解き放った!

 

しかし、ゴリーはその攻撃を知っている。

ひょいと首を逸らし、迫り来る鉄球をやり過ごすと、無防備な敵に向かって駆け出そうと……

 

「うがっ!?」

 

背後で何かがぶち当たる硬質な音が二回響き、その内容も分からぬまま、ゴリーは咄嗟に身を伏せる。

 

その頭上を、鈍く光る鉄球が通り過ぎて行くのを見て、彼は思わず身震いした。

 

これが狙いだったのか!

 

だが……

 

「 ば か め 」

 

一発逆転の策を失敗し、今度こそゴリーは勝利を確信した。

雄叫びを上げて、黒き野獣が凄まじいスピードで突撃する!

 

「サル ノ ヒトツオボエ」

 

その瞬間!

U-8の胸奧で唸りをあげる、脅威の超エンジン!

 

ぎゃりりと地下室の床を削りながら、巻き取られていく鋼鉄の鎖!

 

恐ろしい精密さで腕を振るったU-8によって、撃ち出された鉄球の軌跡を描いていた黒金の大蛇が、その鎌首をもたげたのだ!

 

「うごあっ!?」

 

鈍重なU-8には、弾丸よりも速く走るなんて芸当はとても出来ない。

しかし、撃ち出された弾丸がどのような軌道を描くか予測するなんて、それこそ『オチャノコサイサイ』なのだ。

 

彼は、左手の鉄球を地下室の隅に向かって発射し、その壁に反射させる事で、あやとりのようにゴリーを囲む鎖の結界を描いて見せたのである!

 

なにせ彼に搭載されている電子頭脳は、あの宇宙龍ナースすらも制御しきってみせるくらいに演算能力が高い。

 

金属製の紐を、どう()()()()()()良いかなんて、階段を登るよりもずっと簡単なのだから。

 

今こそ振るえ、その腕を! ……鋼鉄の腕を!

 

「ぎゃあああっ!」

「コレガ ホントノ サルマワシ」

「すごいわ! ユート!」

 

ゴリーは全身に絡まった鎖を引き千切ろうとするが、力の篭めやすい姿勢がとれるならいざ知らず、転んだ状態で、その全てを一瞬のうちに外す事など流石に出来なかった。

 

「ムダナ テイコウ ハ ヤメナサイ」

「うっー! うう……」

「そうよ、大人しくなさい」

「……」

 

しばらくばたばたと暴れていたはゴリーは、アンヌの呼びかけに観念したのか、ついに大人しくなる。

のっしのっしと歩いていくU-8。

 

……突如、猿人の眼がぎらりと光った!

 

「うがああああああああっ!!」

「キャアッ!」

 

隣に立ったU-8の脚をむんずと掴むと、それを支えに身を起こしたゴリーは敵の背後をとり、その銀色に光る太い首へ、自らの腕に絡まった鎖を輪のようにして巻き付けたのだ!

 

「ふんんんんんんッー!!」

 

歯を食いしばり、渾身の力で邪魔者の首を締め上げるゴリー。

 

こいつさえ、ころせば。

 

背後で悲鳴を上げる雌を手に入れる事を思い、喜悦のままに声をあげ……

 

「うぐるぅう……はっ!?」

 

「ドウシタ ボケザル」

 

「し……しな ないぃっ……!?」

 

ゴリーの声が、はじめて恐怖に引き攣った。

腕を千切っても、首を絞めても死なないなんて。

 

「ば……ばけ もの……」

「……」

 

U-8は返事の代わりに、右腕を動かした。

在りもしない右腕へ、今だ動けと電気信号が走る。

剥き出しになっていた接合部から、火花が飛んだ。

 

「ウギャアアアアアアアッー!!!」

 

鎖を伝ってゴリーの全身を電流が苛んだ。

恐怖と痛みで闘争本能が萎えていくにつれ、ゴリーの体が人間のものへと変わっていく。

 

「アンヌ イマダ」

 

ゴリーは、感電により朦朧とする意識の中で、あの雌が銃を構えてこちらを睨んでいるのを見た。

 

彼女の瞳をハッキリと真正面から見たのはこれがはじめてだ。

そこに浮かんでいたのは……確かな拒絶の意志だった。

 

ゴリーはチクリとした痛みを感じて、すぐさま深い眠りに落ちた。

その痛みが、針の刺さった腕からするのか、はたまた無傷の胸からするのか分からないままに。

 

「ユート! 大丈夫!?」

「ワタシハ ダイジョウブ」

 

麻酔針をアタッチメントしたウルトラガンを放り出し、アンヌがU-8に駆け寄る。

 

「ソレヨリ ダン ヲ タスケテ クダサイ カレ ハ チリョウ ガ ヒツヨウ デス」

「ダンは怪我をしているの!? ……分かったわ!」

「……」

 

アンヌがパタパタと階段を登っていくと、地下室にはゴリーのいびきだけが残されるのだった。

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