転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
部屋を出ると、アンヌがミネラルウォーターを抱えて、扉の前で待っていた。
「アンヌ! ……戻ってくるのが、ずいぶん遅かったな」
「ええ、水が重くって。……そっちは随分と早かったみたいね」
「ああ、ペガッサを救わないとならんからな。じゃあ、行ってくる!」
「待って、私も行くわ!」
「いや、君は残れ! ……ダークはまだ重症なんだぞ、ドクターが患者をほったらかしてどうする」
「……じゃあ、ペガッサの人たちをお願いね?」
「任せろ!」
指令部に戻ると、ダンがペガッサ人の受け入れを主張しているが。
「ペガッサ市は、予定の時刻に、計画通り、爆破!」
しかし、マナベ参謀の意思は固かった。
「参謀! 爆破の前にペガッサ市民の避難を勧告しましょう! こちらから輸送機をありったけ飛ばして、避難民を受け入れるんです!」
「そんなことをして何になる。地球上の人口が倍、いやそれよりもっとになるかもしれんのだぞ。共倒れになる」
「宇宙に都市を建設するような種族です、その科学技術はこの地球防衛軍の戦力を飛躍的に高めてくれるでしょう……いや、それだけではありません。彼らは完全自給自足ということは、地球の食糧問題すら解決してくれるでしょう!」
「なぜそんな事を言い切れる?」
「先程、アンヌの部屋にペガッサから使者が到着したからです。彼らは電波を受け取れなかった事を想定して、自分たちの仲間をメッセンジャーとして、送り込んできたんです!」
「何!? なぜそれをもっと早く報告せんのだ!」
「それが事故で瀕死の状態でして……さっきようやく話を聞けたんです! アンヌは現在も彼を治療中です」
「そうか……」
キリヤマ隊長が、俺とダンを交互に見やる。
これは、ダンの情報源も同じということがバレたな。
後でこっぴどく叱られるが、しょうがない。
まあ、ほとんど嘘だが、半分は本当の事だ。
いや、地球を破壊にきた工作員が、それを正直に話すわけがない。
俺は、騙されているのだ。
「参謀、彼の言うように、異星人との技術交流は、この地球にとって、得難いものでしょう。合理的な作戦だと、私からも進言いたします」
「……うむ、では爆破準備と同時に進める。ホークは破壊任務に就く1号と輸送機の護衛任務に就く2号に分かれ、出撃!」
「了解!」
ダークの忠告通りに、輸送機にありったけの水を満載していく。
ペガッサ人の乗るスペースは、人数に合わせて水を減らして確保する。
ようは、これだけ準備してますよというのがアピールできればいいのだ。
ホークと輸送機が出撃、ペガッサ市に向かう。
その途中、指令本部から作戦変更の暗号電文がある。
「爆破は中止せよ…」
「しめた!ペガッサ市の修理は終わったんだ。地球もペガッサ市ももう安全なんだ!」
「違う……ホーク1号に搭載せる爆弾では、ペガッサ市の破壊は不可能なり」
「なんだって!?」
「新爆弾を搭載した宇宙爆撃艇は、すでに北極基地を発進……」
「ちぇっ、オマエさんのは小さいから止めとけ、大きな爆弾を持った奴が今そっちに行くからだってさ……」
「くさるな……我々には任務が残っているんだ……。栄光ある任務が!」
読み上げるキリヤマの顔は晴れやかだ。
「……状況は最悪なり。目標は予定通り、新爆弾で破壊する。ホーク1号はペガッサ市に先ぶれとして危険を通告し、市民の脱出を援助、後続の輸送機を安全に地球まで誘導せよ」
「うわああい!」
「どうだ、ダン、栄光ある任務だろ!」
「はい、隊長!」
ホーク2号の護衛する輸送船団からホーク1号は先行しペガッサ市住民へ避難勧告を行う。
「ペガッサ市の危険が迫っています、直ちに脱出してください。我々が安全に地球に誘導します。われわれはやむを得ずペガッサ市を破壊します。脱出してください。そして、再び宇宙に大都市を建設する日まで、地球に移住してください。地球はあなたがたを待っています。地球は美しい星です」
ペガッサ市の周囲を高重力に捕まらない範囲で旋回するホーク1号。
しかし応答はない。
「早く脱出してください! 我々が地球に誘導します! こちらには水の用意もあります!」
ダンが必死に呼びかけるが、しかし、ペガッサ市からの応答はない。
爆破まで残り25分
「こちらホーク2号!」
「ソガの声だ!」
一号から後方を見やると、巨大輸送機を従えたホーク2号が肉眼で見える。
「ペガッサ市へ、我々は貴方方からの使者を保護しました。D区画のライン9と名乗る市民を、地球へメッセンジャーとして送って頂き、感謝します。彼は不時着の事故で瀕死の重傷を負い、死亡しました。」
「……えッ?」
「我々は彼の勇気ある行動に敬意を表し、その最後の頼みを聞き届けるためにやってきました。彼から、貴方がたが、大量の水分と、特殊な植物を必要とすることは聞いています。一刻も早く、工場から植物のタネと、老人や女子供を脱出させてください。我々は、彼に報いるために、一人でも多くの命を救いたいと考えています。この水の水質が、貴方たちの生命に問題なく使用できることは彼が調べてくれました」
それでも応答がない。
「なぜだ! 地球人をバカにしているのか! 宇宙に進出もできない種族が、ペガッサ市を破壊できないとでも思っているのか! そちらの密度が8万倍な事も聞いている! そのための爆弾だって爆破が可能だと計算結果が出てるんだ! 彼のお墨付きだってある! なぜ脱出しない! 死んでしまうんだぞ!」
噓だって構うもんか!
どうして! どうして誰も応えない……!
俺は、サユリ先生のような悲しい人を作りたくないんだよ!
頼む! 応えてくれ!
そのとき!
《……地球の方々へ、こちらはペガッサ市の市長》
応えた……!!!
「こちらは、地球防衛軍ウルトラ警備隊のキリヤマ隊長! ペガッサ市長、どうぞ早く脱出してください」
《それは順次行っている》
「なんですって! こちらからは確認できません!」
《我々は貴方方のように、宇宙船を使用しません。空間の転移で、移動するのです。ペガッサ市には、宇宙船に使えるようなハッチは存在しないのです》
「なるほど……それで……」
《しかし、転移装置を含め、ペガッサ市の全機能が動力機によって支えられています。今、非常用の限られたエネルギーしか使用できません》
「なんだって!?」
《動力の修理に使っていたエネルギーを転移装置に回しても、全市民の脱出は不可能です。この通信も、エネルギーを消費するため、控えていました》
「そうだったのですか……」
《貴方方の呼びかけは聞こえていました。お願いです。我々の動力が復旧するまで爆破を遅らせてください。ペガッサ市市長としてお願いします》
「それは……」
市長からの通信に言葉を詰まらせるキリヤマ。
ダンが縋るように見つめる中、絞り出すように小さく、すまない、と呟く。
「それは、できません……」
《……では、これ以上の通信は無意味です。……最後に、我がペガッサの市民を保護していただき感謝します。さようなら、地球の人たち》
「……アマギ、爆破まではあといくらだ」
「もう5分もありません。爆破艇も、すぐに離れるよう言って来ています」
「……やむを得ん。 ……ペガッサ市へ、爆破まであと5分! 運んできた水はこの宙域にコンテナごと投棄する! 聞こえているなら難民の為に使って欲しい!」
「……隊長!」
「残念だが地球が生き残るためにはこうするより……」
こうして、ペガッサ市は破壊された。
持ってきた水は全てコンテナごと投棄して、帰路へ着く。
傷心のまま、基地へ戻った俺達は、一言も発さず、アンヌの部屋を目指す。
しかし、ダンのビデオシーバーが無情にも鳴り響く。
……ああ、お前もやっぱり止まってくれないのか。
「ダン! 大変よ! ダークが地球を破壊するって! 私に、ダンとソガを連れて脱出しろって!」
「何ッ!」
「アンヌ、お前の部屋に、ダークのいたところに、救急箱は落ちてるか!?」
「救急箱!? いいえ、無いわ!」
「……ダン、これを使え!」
「これは?」
「最初に無理やり押し込んだ応急セットに発信機も入れといたんだ。あいつが捨ててなければ、居場所は分かる」
「ソガ隊員……」
「ダークを連れ戻してきてくれ、俺は……会わせる顔がない」
ポインターで走り去っていくダンを見送る。
……今日は疲れた。
とても悲しいことがあった日は、昔から眠るに限るな……
とても勝手な事ではあるが、あとの始末は全部セブンに押し付けて、今日だけはもう、一足早く夢の中へと逃げ込ませてもらう事にする。
アンヌにプレゼントしたのと同じ、詰め合わせのチョコレート缶をまさぐると、底の方に残ったダークチョコレートしか摘まめなかった。
大好きなミルクチョコレートばかり食べきってしまったからだろう。
とてもとてもほろ苦い、敗北の味を舌に残したまま、俺はベッドで静かに泣いた。
というわけで、第6話ダーク・ゾーンでした。
とても悲しく、やるせないお話です。
主人公は、『うまくいった話』を元に、回り道をそぎ落としたり、近道をつけ足したりする事はできますが、『うまくいかなかった話』を改変するには独自のルートを開拓するしかなく、それでも決して上手くいくとは限らない、というお話でした。
八話において〇〇〇の〇〇〇〇は?
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る
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ぬ