転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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実はこの話、原作時点からしてダンとソガが同時に訝しんでいるところに、アンヌがトドメのように証拠を持ってくる……なんて流れなので、ましてやソガの中身が転生者……なんて、もうね。

閑話です。


円盤“は”来た

 

「あの……食べないのかい?」

「……」

 

行きつけの蕎麦屋『増田屋』にて。

フクシン青年は、自身の対面で俯いている男の子に、恐る恐る遠慮がちに声をかけた。

 

彼らの目の前には、ざるそばが二人前置いてあるのだが、少年は椅子へ横向きに座っており、完全にそっぽを向いたままだ。

 

やだなぁ……麺が渇いちまうよ……

 

フクシンは内心で、そんな事をぼんやり嘆いたが、さりとて、すっかり不貞腐れた様子の連れより先に箸をつけるのも気まずいし、どうしたものかとため息を吐く。

彼は、非常に押しの弱い性分なのだ。

 

「サブ、この子どうしたんだい」

「あーそのぉ……」

 

横から蕎麦屋の店主であるシゲさんが、こっそり耳打ちしてくる。

たかだか客と店員の関係なのに、どうしてこう首を突っ込んでくるんだろう。

馴れ馴れしいのは、よして欲しいナ……

 

「ちょっと親戚の子で……」

「ふーん……若い身空で大変だな」

「はぁ……」

 

鬱陶しいから適当な嘘を言ったものの、そうであったらばどれだけ良かったか……と、思わず天井を仰いだ。自身の吐いたその場しのぎが、実態とあまりに乖離しすぎている事について。

 

なにせ、目の前で塞ぎ込んだまま一言も発さない少年は、フクシンの血縁どころか日本人、いや……この星の生き物ですらないのだから。

 

なんとこの男の子の正体は……宇宙人だ。

 

しかも正真正銘、地球を狙う侵略者だったのである。

 

だった……などと過去形なのは、その侵略がすっかり頓挫してしまった後だから……という他ない。

 

――――――

 

ついこの間の事である。

 

日課の星空観察の最中、偶然にも円盤群を発見したフクシンは、ウルトラ警備隊に通報したのだが、基地や天文台の観測には異常なしとの事だった。

 

それを知らされ気落ちするフクシンの前に、ふらりと現れたこの少年は、自身をペロリンガ星人と名乗り、フクシンを『きれいな星の世界』に連れて行ってくれると言ったのだ。

 

彼らは円盤を星にカモフラージュして接近し、人類が気付かない内に大船団で地球を取り囲んでから、地球に降伏を迫ろうとしていた……らしい。

 

だがセンサーは騙せても、人間の直感までは騙せず、フクシンのようにカモフラージュを見破ってしまう人間が稀にいる。

彼らは逆にそれを利用して、オオカミ少年の如くそういった人々に騒がせた後、誰もそれを信じなくなってから悠々と侵略を開始する手筈だった。

 

結果は……推して知るべし。

 

―――――――

 

「なんだよ、一瞬の露光だから星は写真にうつらないって……どれだけ原始的なのさ!」

「うん、なんか……ごめんよ」

 

彼らの誤算は、地球のカメラが思った以上に低性能過ぎたという事か。

 

フクシンの取った写真には、何の変哲もない星空が写っていたが、あまりにはっきりと星が写り過ぎていたため、逆に異常だと判断されたらしい。

 

実際に侵略が開始されようとしたその日、ステーションや各基地から宇宙戦闘機や爆撃艇がわんさか飛び立ち、地球人が油断していると思い込んでいた円盤群を、月の裏側で手ぐすね引いて待ち構えていたのだと言う。

 

つまり防衛軍は最初の通報の時点でとっくに準備を始めていて、わざと泳がされたフクシンと星人達は、まんまと一杯食わされたという訳だ。

 

この記録的な快勝は、ニュースで連日流されており、さっきも店のテレビからアナウンサーの声が聞こえていて、彼の機嫌がすこぶる悪いのもそのせいだ。

 

「……地球人は嘘つきばっかりだ」

「うーん……」

 

騙されたのは僕も同じなんだけどな……

 

だが気持ちも分かる。

フクシンと違い、彼は味方全滅の引き金を引かされてしまったのだから。

 

それを思うと、胸が罪悪感でじくじく痛む。

 

彼がフクシンを案内してくれた家……の皮を被った秘密基地は、すっかり防衛軍に差し押さえられていたので、てっきり捕まってしまったのかとも思っていたが……

 

今日、何の気なしにあの河川敷を自転車でぶらぶらしていたら、膝を抱えている彼を見つけたのがさっきの事。

 

寂し気なその表情を見てしまったフクシンは、いてもたってもいられず、気付けば彼をこの増田屋に連れて来ていたという訳だ。

 

幸いというべきか、ウルトラ勲章に付いてきた金一封で懐は温かい。

そばを一食奢るくらい、なんてことはないのである。

 

……まあ、新しい望遠鏡を買ってしまったので、いうほど余裕があるわけでもないのだが。

 

「……元気出しなよ」

 

本当は通報するべきなんだろう。

なんて言ったって、彼は侵略者の残党なんだし……でも……

 

あの顔を見たら、そんな仕打ちは出来ない。

別に、彼の姿が子供だから絆されたって訳じゃない。フクシンは星人の本当の姿を知っている。

 

では何故かと言われれば……異郷の地で、身の置き所がない気持ちは、痛い程分かるからだ。

 

上京してからこっち、良い事なんて一つもありゃしない。

フクシンは、彼に自分を重ねて見ている事に、うっすら気付き始めていた。

 

「帰りたい……」

 

「うん……そうだね」

 

男の子がぽつりと呟いたそれに、思わず同意が口を突いて出た。

彼は……本当に、子供なのかもしれない。

 

宇宙人の寿命や成長が、地球人と同じである保証なんて全くないじゃないか。

彼の今の姿が、それこそ人類に換算した年齢の可能性だってある。

もしそうだったら、こんなに小さい子供がたった一人……

 

フクシンは、蕎麦をまだ一口も啜っていないというのに、ずしんと胃に鉛でも飲み込んだように錯覚した。

 

「ごめんください」

 

その時、がらがらと引き戸が開いて、妙な男が暖簾を潜ってくる。

何故かフクシンは、その男から目を離せなかった。

 

夏場だと言うのに、全身真っ黒づくめ。

見るからに仕立てのいいスーツをぴっちり着こなして、洒落た中折れ帽まで被っている。けっ、男が香水なんてつけちゃってさ。

 

畳んだサングラスを胸ポケットに差し、お手拭きを使う所作の一つ一つが、やけに気品というか気障ったらしさに溢れていて、こんなうらぶれた下町に、全くもって不釣り合いとしか言いようがなく……

 

「あら、ロンさん! 今日も来てくださったのね!」

「これはこれは、マダム。ご機嫌麗しゅう。笑顔がまるでヒナゲシのようだ」

「あらやだ、お上手なんだから!」

「……ブッ!? ゲホッ! ゲホッ!」

 

思わず茶を吹き出してしまい、その場の全員から白い目で見られてしまった。

 

仕方ないじゃないか!

聞いたか? 「まだむ」だって!?

女将さんがそんなガラかい!? 満更でもなさそうにブンブン振る腕の太さが見えないのか!?

お世辞もいいとこ、ダイコンだ。

 

しかも、あの様子ではそれなりの常連らしい。

 

確かにフクシンは昼時しか来たことが無かったが、夕方にはこんな変人が入り浸っていたなんて……

 

「では、天ざるを二枚」

 

天ざるを!? 二枚!?

 

「あいよ、それにしてもよく食べるねぇ!」

「ここの蕎麦は絶品ですからな」

「あんた聞いたかい!? 絶品だって! こんなシケた蕎麦屋、褒めてもなんも出ないよぅ!」

 

ニコニコしながら厨房へ引き返す女将を、唖然としながら見送るフクシン。

なんだあれは……あんな表情見たことがない。

 

そもそも女将さんが出て来る事自体がまれで、出てきてもぶっちょう面で乱暴に皿を置いて行くだけだと思っていたが……

 

何者だ、あの男。

 

というか、天ざるを一人で二枚も?

フクシンがいつも頼むのは、かけ蕎麦か拉麺くらいで、今日のざる蕎麦だって大分奮発したのに……

 

一体どれだけ羽振りが良いんだ……?

 

思わず男の顔をまじまじと見てしまった。

 

声は非情に朗々としていて惚れ惚れするような美声だが、顔立ちの方は別段変わった事もない。

それなりに整ってはいるが、ハンサムすぎるという訳もなく……ああいや、確かロンなんて呼ばれていたな。中華系か?

それにしちゃあ流暢によくも喋る。

 

確かにこの辺りは出稼ぎの移民が多いし、その関係だろうな……などと考えていると、ばっちり目があった。まずい。

 

「おや、如何なさいましたかな? 私の顔に、何か?」

「いや、なんでもないです……すみません」

 

フクシンはとっさに目を逸らした。

なんというか、その柔和で人好きする笑顔に、一発で苦手なタイプだと分かったからだ。

 

あれはきっと、要領がよくて、自分の思い通りに他人を動かすのに慣れてる類の人間だろう。自分が働いている所の工場長とかが、正にそう。

 

フクシンは昔から、周囲の顔色をびくびく伺いながら生きてきたので、いつしか、そういった嗅覚のようなものが備わるようになっていた。

 

だからといって良いことなんてひとつも無い。むしろ出会う人間が片っ端から鼻について、ほとほと嫌になる。

 

もう本当に、こんな星なんか棄てて、出来る事ならばいっそ、星空の向こうへ行ってしまいたいくらいには……人間が嫌いなのだ。

 

目の前で項垂れている、彼だけだったんだ、こんな自分に、あの時優しい言葉をかけてくれたのは。

 

確かに、侵略作戦の一環だったかもしれない、自分を利用していたんだろう。

 

 

でも、一緒に星の世界に行こうと誘ってくれた、その気持ちだけは……嘘じゃなかったはずだから。

 

 

だから僕は……

 

 

ずるるるーッ!

 

 

フクシンが顔を上げれば、例の客が蕎麦をかっ喰らっていた。

なんと豪快な啜りっぷりだろうか。いっそ小気味良いくらいに。

 

口に頬張った麺を咀嚼しつつ、うんうんと小さく頷きながら、満面の笑みを浮かべる男。

おおかた、ぷつぷつとした歯切れの良さを堪能しているのだろう。

 

そして、蕎麦が完全に原型を無くしてしまう前に、ごくんと飲み込み、深呼吸。

 

「ぷはぁ~!」

 

余韻もそこそこに、次を味わうのが待ちきれないという様相で箸が伸び、せいろに山盛りだった麺がどんどんと胃袋へ消えていく。これではまるで飲み物ではないか。

 

「あっ……!」

 

その時、男がワサビを箸の先でちょいと摘まんで、蕎麦に塗りつけて食べるのを、フクシン青年は見逃さなかった。

 

この男……デキる。

 

わさびは、ツユに解いてしまうより、直接ああして蕎麦に付けて食べた方が、辛さを抑えつつ、風味だけをよりダイレクトに感じられるのだ。

 

一般的にはそうして食するのが、()()であるとされる。

 

「くぅ~!」

 

それにしても旨そうに食べるなこの客は。

フクシンは、増田屋の味がこの異国人にも好まれていると知り、少しばかり嬉しくなった。

 

彼は実は無類の麺好き……特に蕎麦には目がないのだが、生憎と上京してからは本当に『うまい』と思える蕎麦屋に巡り会えていない。

それは決して、付近にあるのが不味い蕎麦屋ばかりという訳では無く、単純に好みの話だ。

 

どうも此方の蕎麦ツユが、フクシンには塩辛いばかりに感じてしまい、奇跡的に好みのツユを出す店を見つけたと思ったら、今度は麺が妙に粉っぽい……なんて具合。

 

あまりに美味い蕎麦と巡り会えないもんだから、最近は拉麺ばかりだ。それならどこの店も、対して変わりようがない。それに安いし。

 

そんな中でこの増田屋だけが、フクシンの中でも及第点の蕎麦を出してくれるのである。ちょっと甘みの効いたツユに、喉越しのよい麺。

そうでなければ、ゲンさんはじめ知り合いばかり来る近所の店を選んだりするものか……

 

そこまで考えた時。

 

「げほっ! ごほっ!」

 

対面で、宇宙人の男の子が激しく咳き込みはじめたので、フクシンの思考は現実に引き戻された。

 

男の子は、バッテンに握り込んだ箸を振り回して、蕎麦を口に咥えたまま涙目になっているではないか。

 

素早く彼の薬味皿を確認すれば、そこに乗っていたハズの緑色……つまりネギとワサビが忽然と消えている。

隣の食いっぷりに、食欲を刺激されたものの、ワサビを全部ツユに投入して食べてしまったのか。

 

「あーあー、落ち着いて。そういうときはね、鼻で息を3回するんだ、思いっきりね」

 

何度も鼻で息を吸ったり吐いたり、水を飲ませたりしてなんとか落ち着かせたころ、男の子が睨んでくる。

 

「いったい、なんてものを、たべさせるんだ」

「初めて食べる時に、いきなりワサビを全部使う奴がいるかい……ほら、こっちを使いなよ」

 

そう言いつつフクシンは、まだ真っさらな自分のツユと、薬味全盛りになった少年のツユを交換してやった。

 

まだ食べる前で良かった……などと思いながら、乾ききった蕎麦を啜る。

 

……うん、うまい。

 

さっきはあんな事を言っていたものの、フクシン自身は、最初からツユに薬味を全て解いてから食べる派なので、彼が食べ始めてからだと交換のしようがないからだ。

フクシンとしてはこうした方が、ツユの甘さにワサビの辛さがガツンと効いてよい。どうせ僕は馬鹿舌だよ。ふん。

 

なんせ彼は、蕎麦屋で拉麺を頼むような男であるからして。

 

そうして蕎麦を啜るフクシンの顔を、怪訝そうに覗き込んでいた男の子も、自身の小さな腹がくうくう鳴ったのに観念したのか、恐る恐る蕎麦を口にした。

 

「……ん」

「どう?」

「別に……おなかがすいてるよりは、ましだよ」

「そうか、良かった」

 

ずるずる。ちゅるり。

 

その二重奏に、横から不躾な声がする。

 

「おかわいいですね。息子さんですか?」

「え?」

 

恐るべき早さで一人前を平らげた黒尽くめの客が、ニコニコと話しかけてきたのだ。

 

「あ、いや……親戚の子を……ちょっと……」

「おや、そうでしたか。お住まいは近くに?」

 

なんだこいつは?

 

「ああ、サブの家は斜向かいだよ。ゲンさんの修理屋があるだろ」

「なるほど、あそこですか。ありがとうムッシュー」

 

このクソ店主!

何をぺらぺらと喋ってるんだ!

 

「羨ましいですな。ご近所にこんな美味しい店があるなんて」

「はあ……」

「しかし、この辺りは夜中まで騒々しいですし、あまり小さなお子さんの成長にはよろしくないのでは?」

「いや、別に……」

 

成長ったって……

 

この段階になってようやっと、フクシンはこの後の事に思い至った。

 

彼をどうするべきかという事に。

蕎麦を奢ってハイサヨウナラ?

 

しかし家に連れて帰るのか? あの狭い安アパートに?

そりゃあ、今は勲章の褒賞金があるとはいえ、二人分の食費となると……

 

「いつまでお預かりになる予定なのですか?」

「ご両親が迎えに来るまで……だよ……ね?」

 

迎え……?

フクシンは自分で言っていて、その虚しさに気付いてしまった。

 

迎えと言うのはもちろん、あの照明カバーだか、灰皿だかを重ねたみたいにヘンテコリンな形の円盤だよな?

 

この子に来るのか? そんなものが。

来るとして、それはいつ?

 

「……」

 

思わず黙り込んでしまったフクシンは、彼の視界の外で、ロンと呼ばれた黒尽くめの異国人が、にんまりと笑みを深める瞬間を見逃した。

 

「ほう、少々お困りのようで……如何でしょう。わたくし、こう見えてアパートの大家をしておりまして……」

 

そうして差し出された名刺にはでかでかと『盟道(メドウ) (ロン)』の文字が鎮座しており、小さく北川町の住所……恐らくアパート『星雲荘』の場所が記載されていた。

 

「はあ……」

 

「まだいくつか空き部屋がありましてね。彼にそのうちの1つを管理……と言っては大層に聞こえますが、端的な表現では入居……していただければな、と」

 

「いやでも」

 

「家賃の事でしょう? いえいえ、こんな小さな子に払えなどと申しません。私の代わりに共有スペースや、周辺の清掃なぞを手伝って頂くだけで充分ですとも。なにぶん多忙の身でして、そこまで手が回らないのですよ」

 

「うーん……」

 

はたしてそんな都合の良い話があるのだろうか……

 

「実を言いますと、このぐらいの子供がいるといないとでは、ご近所や新規入居者からの印象が天地の差でして……私にとっても良い事づくめなのです。その点、そちらの坊やは大人しくて実に良い子そうじゃありませんか。現状では、なぜか女性入居者の割合も多くて……彼女らの精神面にも非常に良い影響を見込めるのでは、と考えています」

 

それは勿論、日中に彼の面倒を見てくれそうな相手が多いという事でもありますよ。

 

……と、メドウ=ロンなる男は声を潜めて耳打ちした。

 

「……しかし……」

 

確かに聞く限りでは、良い話のように思える。

なにせ、フクシンには殆ど損がないのだから。

 

それでも、相手は怪しげな異国人で……こうして集めた女子供から臓器を抜き取り、裏で売り飛ばしているのでは……という懸念が脳裏を掠めたり、いやいや、この男の子は宇宙人なのだから、そんな悪人は返り討ちだろう……と考えたところで、そもそもそれが一番の問題点なんだった! と気付いたり……

 

「ちょっと……考えさせて……欲しい……です」

 

もしょもしょと、フクシンがなんとも尻すぼみな回答を寄越しても、ロンなる男は一向に気分を害したりせず、それどころか。

 

「時に、お二人ともテンプラは召し上がらないので?」

 

などと、素っ頓狂な事を言ってくる。

 

「あ、いや、別に……は? 天ぷら?」

 

「いけませんなぁ……よもや、この店のテンプラを召し上がった事がない? それはもはや、人生の損失ですぞ」

 

「は?」

 

まるで煽るような台詞を言い放ったロンは、盛り合わせの揚げ物から、大ぶりな海老天をつまみ上げると、それにサクリと歯を立てる。

 

「ううむ……美味! 実に美味! 軽やかな衣の奧に隠されたエビの身が、舌と口蓋を心地良く押し返す弾力のなんと豊満なことよ! さながら絹を纏った貴婦人に口づけを交わすかのようだ!」

 

フクシンが呆気に取られているうちに、今度は茄子をじんわりと天つゆに浸したかと思えば、サッと引き揚げた身からツユが滴るよりもはやく口へほおばる。

 

 

「んん! なんだこれは!? 私は、確かに固体を食したハズだ……なのになぜ、衣の中からねっとりトロリと旨みが溢れてくるのだ? まさに熟した果実の汁が舌に絡み付くかの如く……そうか、茄子にツユを吸わせるなどと……もはや罪! 罪の味だよこれは……」

 

ごくり……と知らずうちに喉が鳴る。

 

あ、コイツ海老の尻尾残しやがった……勿体ない。

 

フクシンは、思わず財布を開いて中身を確認するが、彼の口からは溜息だけが漏れる。

 

「はふぅ……やはり、これは是非とも味わうべきだ。ムッシュ! こちらの方々にテンプラの盛り合わせを! 勿論、支払いは私が」

「はいよ!」

「ちょ、ちょっと! 僕らは別に……」

「おやおや? そちらの彼はもう興味津々というご様子ですが?」

 

ロンが指し示す先には、隣の天ぷらをじっ……と見つめる少年の姿。まさに釘付けだ。

 

「これも何かの縁、ご馳走させては頂けませんか? いやいや、決して何かを要求しようなんて腹積もりは、ありませんとも。ただ、私の好きな物をより多くの人に知って頂きたい。それだけの事ですよ」

 

嘘だ。絶対にさっきの話を断り辛くさせる為に違いない。

ここまで見え透いていると、一周回っていっそ清々しさすら感じてきた。

 

くそ、絶対に誘いに乗ってやるもんか。天ぷらだけ美味しく頂いてやる!

 

「だからといってさっきの話は……」

「ええどうぞ、よくよくお考えになって下さい。なにせ、時間はたっぷりある……」

「なんだって?」

 

ガラガラガラ……と後ろで引き戸が開く。

 

「ごめんください! ここは『ますだや』であってるのかな!?」

 

振り返ると、若い男が()()()を掻き分けて、店内をキョロキョロ見渡している。

 

「先生! ここです!」

「せんせい?」

 

先生と呼ばれた男――どう見たってロンよりも年下な若造――は、店の真ん中で知り合いが手を振って呼んでいるのをすぐに見つけたらしく、爽やかな笑みを浮かべながら颯爽と席についた。

どうやらロンは、この店で彼と待ち合わせをしていたらしい

 

「ヤアヤア、久しぶりですね」

 

「ようこそ先生。我々は君の来るのを待っていたのだ」

 

「おや、一応時間通りだと思ったんだけども」

 

「これは失礼、私は待たせるよりも、待たされる方が好きな性分でね」

 

多分その人、蕎麦が待ち遠しくて一足先に食べたかっただけですよ……と思ったが、フクシンは黙して語らず、他人のフリに努める事にした。

まあフリも何も、最初から他人なんだけども。

 

だが、店内を興味深そうに見渡す若者――それこそフクシンとそう変わらない年頃――の顔にどこかで見覚えがあるような気もして、いったいどこで見たんだったか……と首を傾げていると。

 

「へぇ……ここが今度のオススメかぁ。今日は何を食べさせて貰えるのか……俄然、期待が高まってきたよ、伯爵?」

「はくしゃくぅ!?」

 

ハッと口を噤むがもう遅い。

 

「……彼は?」

「ついさっき知り合いましてね。我がアパートの入居希望者の後見人です」

「ああ! あの愉快なアパートの!」

 

待ってくれ、まだその話は保留中なのに。

ぶんぶんと首を振るが、こんなのは言った者勝ちである。

ロンはどこ吹く風で、優雅に紅茶を注いで……違う、あれ蕎麦湯だ。あんまりにも所作が品に溢れてて見間違えた。

 

というか、ちゃっかり蕎麦湯まで貰っていやがる。なんて図々しいんだ。

因みに引っ込み思案なフクシンは、「蕎麦湯下さい」を中々言い出せなくて、ここではついぞ飲んだ事がない。

 

最初から出してくれる形式の店は珍しいのだ。ついでに言えば、蕎麦湯が美味い店というのも、それ自体が非常に貴重である。……閑話休題。

 

「ハハハ、驚くのも無理ないか。安心してください、ただのペンネームですよ。彼がファンレターをくれる時はいつも『夕暮れ伯爵』名義でね、文通での交流期間が長かったものだから、こうして顔を付き合わせるようになってからもそう呼んでしまうんです。没落貴族ならぬ、落日貴族なんですって。面白いでしょう?」

 

「ファンレター?」

 

「ええ、私はこちらのタウラ先生の著作が愛読書なのだよ。 『北川人情放浪記』……もしも読んだことが無いなら、是非とも一読する事を薦めよう。そうすればもう、虜になること間違いなしだとも」

 

ロンのその言葉でフクシンは、さっきからずっとモヤモヤしていたものの正体にようやく思い至った。

 

「タウラ……タウラって……まさか、あんたあのSF作家のタウラ先生!? いつだったかの出版社主催コンテストで新人賞とった!?」

 

「やだなぁ……そういう誉め方は星雲賞とってからにしてくれるかい?」

 

「す、すごい……本物だ……」

 

どこかで見たと思ったのは、作品の著者近影で見たのだ。皮肉っぽい笑い方がそっくりじゃないか。

 

フクシンは星座観察が趣味で、よく宇宙関連の雑誌を読んでいた。

そしてその雑誌に短編をいくつか載せている関係で、タウラの事も知っている。

 

特に、大昔の伝承やお伽話を、SFに上手く絡めた切り口が中々独創的だなと印象に残っていた。つい最近だと、不時着した宇宙人が村人に河童と間違えられて、双方共に大混乱する話が面白かっただろうか。

 

数百年後に再びやってきた宇宙人の大使が、もてなしとして出されたサラダに舌鼓を打っていたら、実は先遣隊の撒いた食用でも何でも無いテラフォーミング用植物だと知り、ひっくり返るというオチも秀逸だった。

 

「おや、先生はSFも書かれるのでしたか」

 

「SF()……っていうか、僕はSF()代表作なんだけどね……君みたいに放浪記の方でどっぷり、なんてファンは珍しいんだよ、伯爵? あれは息抜きに書いてみたようなもんだからさ」

 

「ほう! 息抜きであのような傑作を! 流石です先生。そうそう、新刊も楽しませて頂きましたとも。特に主人公が河川敷で咲いていた野草に、故郷を思うシーンなどは、さすらい者ゆえの郷愁がありありと描写されていて、思わず胸を打たれてしまいましたぞ」

 

「……こんな風にね、まあ嬉しい事を言ってくれるわけさ」

 

タウラはそうして茶目っ気たっぷりにウインクするが、それを飛ばされたフクシンはと言えば、自分達の机に届いた天ぷらを食べる事も忘れ、すっかり茫然としていた。

一気に増えた情報量に、そろそろ脳が追いつかなくなってきたからだ。

 

「しかし、先生がSF作家だったとは……なるほど、ようやく合点がいきました」

 

「合点が? 何にかな?」

 

「ええ、ヘンミ先生との接点がですよ」

 

「ヘンミ……ヨシヤ先生の事?」

 

「はい。実は今日お招きしたのは、このお店の紹介がてら、先生に彼の事をお尋ねしようと思った次第で」

 

「……へぇ」

 

タウラは爽やかな笑みを崩さなかったが、フクシンには分かった。

その短い返事が、先ほどよりも微妙に堅く、余所余所しい響きを伴った事に。

 

「……因みに、なぜ? と聞いても?」

 

「ええ実は……」

 

鞄からいそいそと、一冊の冊子を取り出すロン。

 

「先月のこちら、私も寄稿させて頂きましたが」

 

「ああ、僕らの同人誌か……そうだ伯爵。貴方の紀行文は大層評判良かったよ! よくぞあれほど表現豊かに旅情をかきたてられるもんさ! まるで熱海の夕焼け空が目に浮かぶようだったね」

 

「これは光栄の至り! まあ、先生の高尚な文学を解する者ならば、あれくらいのモノは片手間に書けて然るべきと言ったところでしょうか」

 

「優れた読み手が、必ずしも優れた書き手であるとは、限らないけれどもね。逆もまた然り」

 

「身に余るお言葉です……さて、本題ですが」

 

大仰に礼をしたロンが、当然のように話を戻したのを見て、タウラの顔に僅かな焦りが浮かんだのを、フクシンは嗅ぎ取った。

なんだ? なんでそんなに話を逸らそうとしてるんだ、この人?

 

「ああ、これこれ。『彦野の夜鳴き蕎麦』実に面白い作品でした……どれだけ時が遷ろうと決して捨てられぬ思いがある……彼が最期に「地図にない星を見た!」と叫んだ時は、涙を禁じ得ませんでしたね……」

 

「ふむふむ。それで?」

 

「実はこの行……ああ、ここ。主人公の飲む夜明けのブラックコーヒーなんですが……これがね、是非飲みたいんです!」

 

「え?」

 

タウラは、肩透かしを食らったような顔でロンを仰ぎ見た。

 

「それだけ?」

 

「それだけ、ですって? 失礼、先生はコーヒーをあまりお飲みにならない?」

 

「あー……飲むけど、眠気覚ましとして、かな」

 

「でしたら、お詳しく無いのも致し方ありませんな。実はここに書いてある淹れ方をするのは、非常に珍しい豆を使ったものでして……私はそのコーヒーが一番好きだったのですよ! これ無くして、その日が始まらなかったと言っても過言ではない! あのコクと深みを知っている身としては、最早普通のコーヒーなどでは決して満足する事など出来ません!」

 

「へ、へえ……」

 

「故郷を離れ、もはや飲む事も無いと思っていた味をもう一度……ぜひ、ヘンミ先生に淹れて頂きたいのです。豆は私が伝手で入手致します。が、私にはそれを扱う腕が無い。残念な事にね」

 

「ふーん、故郷では誰が淹れてくれていたんです? ご両親? 恋人?」

 

「勿論、使用人ですが?」

 

「……伯爵は時々、本物の貴族みたいな事を言うよね」

 

 

タウラは、疲れたように鼻頭を揉むと、纏っていた緊張感を元のように砕けた物に戻し……いささか自棄っぱちさすら滲ませながら、確認のように聞き返した。

 

 

()()を探しているわけではない?」

 

「下巻……? ああ、彼の著作ですか。生憎と、冒険活劇は私の好む範疇からは外れておりまして、さして興味をそそられませんが……それが何か?」

 

「……いや、なんでもないよ。僕たち作家には、未完の続きをせがまれる事に恐怖を覚える人種もいるのさ」

 

「ああ、それで。ヘンミ先生は日本SF作家倶楽部にも所属しておられないようなので、渡りを付けるのが大変で……」

 

「あー……あそこの入会資格には、冗談みたいな不文律がいっぱいあってね……そのうちの一つに引っ掛かって入れないんだ。ほら、ヘンミ先生、真面目だから」

 

まさかあの一文が機能するなんて、作った本人も思わなかっただろうけど……とタウラは小さく呟いた。

 

「因みに先生の名前も名簿にお見かけしませんでしたが?」

 

「ん、僕? そりゃ簡単だ。なんせ既に他の倶楽部に所属してるからね。兼部はどちらにも失礼だから辞退させて貰ってるんだ」

 

「なるほど、カッパ倶楽部ですか」

 

「そういうこと」

 

タウラは、お冷やで一旦口を湿らせると、ため息と共に上体を反らして頭の後ろで腕を組む。

 

「期待して貰ったところ悪いけど……ヘンミ先生にはしばらく逢えないよ。おっきい仕事が入ったからね」

 

「ほう、それは目出度い。私にとっては残念極まりないですが……因みにどのような?」

 

「さあ? なんでもウルトラ警備隊にオブザーバーとして、しょっ引かれたらしい」

 

「「「ウルトラ警備隊!?」」」

 

三人の声が重なった。

 

そしてそのことに、タウラ含めた四人全員が驚いている。

 

「ど、どうしたの……みんな」

「あ、いやいや、ウルトラ警備隊なんて雲の上の存在ですからな……」

「そ、そうですよね、自分達みたいな平々凡々には関わりがないから……」

「ぼくもぼくも……」

 

それぞれが胸中に複雑な思いを抱きながら、すごすごと席に着く。

そんな中で、ロンがこっそりと「先を越されたか……」と舌打ちするのをフクシンは確かに聞いた。

 

よっぽどその幻のコーヒーとやらが飲みたかったのだろうか。凄い執念だ。

 

「でも、小説家をオブザーバーになんか呼んでどうするつもりなんでしょう?」

 

まさか、アマチュア天文家の通報で事件が解決したのを鑑みて、市井からも協力者を募ろうとでも言うのだろうか?

これはもしかして自分にもお鉢が回って来たり……

 

「あーそれは……最近のウルトラ警備隊は、海底人だかとも交流してると言うし、このまま一気に融和路線を打ち立てたいみたいだから、異文明との接触を想定するとなると、SF小説家の意見すらも参考にしたいくらいなんじゃないか? ……あの様子だと、ただあの人が、伯爵みたいに熱心なファンなだけって気もしてきたけど……」

 

あ、違った。全然関係無かった。

というか、その口ぶりだと、このタウラ先生がその件のヘンミ氏を推挙したのだろうか?

 

もしや、今のロン氏のように向こうから乞われて? ……まさかな。

 

「ま、しかし……残念です。ヘンミ先生には我がアパートになんとしても、入居して頂こうと思っていたのですが」

 

「部屋埋めに余念が無いねぇ、伯爵……仲間の貧乏作家に声かけておくかい?」

 

「いえ、入居者は私自身の目で選びたいと考えておりまして……それこそ、そこの彼のように」

 

「ん、ぼく……?」

 

揚げたサツマイモに、ホクホク顔で齧り付いていた少年が、呼ばれた事に気付いたのか振り向いた。

 

「どうかな、君? さっきの話さ。我々双方にとって悪くない話だと思うが?」

 

「うん、そうだね」

 

「えっ!?」

 

そんなに軽く頷いてしまっても良いのか!?

 

ギョッとするフクシンに、男の子が穴だらけの天ぷらを持ち上げて、諭すような口調で言う。

 

「フクシンくん。未来はね、この食べ物みたいなものだよ……ほら、違う穴から向こうを覗けば、また違った景色が見える。君の好きな望遠鏡みたいに、覗き込んだからって正解が見えるわけじゃないんだ。誰にも簡単に見通せそうで、全然見通せないものなのさ。……ねえこれ、美味しいね。なんて食べ物なの?」

 

「……レンコン」

 

「ふぅん……ま、そういうわけさ」

 

いったいどういう訳なんだ。

宇宙人の言うことは、どうにも分からない。

 

「それは良かった。さて入居に当たって聞いておきたいのだが、君の名前はなんと言うんだね?」

 

「名前……? ぼくは、ペガッ……むぐ」

 

フクシンは、慌てて男の子の口を塞いだ。

 

……まさか彼は今、ペガサスだかペガッサだかいう星雲の第なんちゃら惑星ペロリンガ……とかいう、あの長ったらしい名乗りを口にしようとしていたんじゃあるまいな?

 

とんでもない!

こんなところで正体をバラす奴があるか!

 

……しかし、どうしよう。

もしかしなくとも、彼には地球で通用するような名前が無いんじゃないかしらん。

 

これには参った……それこそ、地球人じゃ発音できないようなピニャガピャ某とかだったりして……

 

「彼は……その……」

 

訝しげなタウラと、何故か明らかに面白がっている風な光を宿したロンの視線が、フクシンに集中する。

 

追い詰められた青年は咄嗟に、望遠鏡で見えた彼らの円盤群が、白鳥座の方角からやってきたのを、フと思い出した。

 

「シラトリ……」

 

無垢に此方を見上げる瞳に、かつての自分を重ねれば、母に連れられて毎週のように聞いていた賛美歌が、どこからか聞こえてくるようで。

 

憐れみたまえ、憐れみたまえ、世界よ、どうかこの子を、憐れみたまえ。

 

「キリエ」

 

「ふむ?」

 

「シラトリ……キリエ。彼は……シラトリ・キリエと言います」

 

「そうか……なかなか言い得て妙だな。実態に即しているというか……」

 

「ええっ? キリエ? 男の子にかい? その子の親も、妙てけりんな名前をつけたもんだねぇ、浮ついてるよ」

 

タウラの天ざるを運んできたシゲさんが、身も蓋もない事を言う。

 

「いやいや、かのサコン・マスエのように良い作品を書くかも知れませんよ?」

 

「はあ、そういうもんですかねェ?」

 

「なんか……星空みたいに……キラキラした名前を、付けてあげたかった……らしい、です……よ?」

 

「全く変な親だね、サブの親戚だからしょうがないか」

 

真っ赤になりながら、尻すぼみに説明するフクシンに、シゲは肩を竦めて奧に引っ込んで行く。

 

「僕は……まあ、嫌いじゃないかな、この名前」

 

「おや、さっきから偉く大人びた物言いをする子だ。伯爵、貴方のところの住人は、一癖も二癖もある人間ばかり集まるのかな?」

 

「その方が退屈せんでしょう? 百花繚乱(ひゃっかりょうらん)桜梅桃李(おうばいとうり)、是非も無しといったところか」

 

「……家主からして、癖の塊だったね、そう言えば」

 

タウラは、こりゃあキャラクターモデルの聞き取りが捗りそうだ。などとクツクツ笑っている

 

「それじゃあよろしく、家主さん。シラトリ・キリエです」

 

「じゃあひとまずサインだけで構わんよ、細かい事は明日詰めようじゃないか。心配は要らない、君の部屋は角部屋だ。隣にはえらく陰気な男が住んじゃいるが……多分、君なら同郷のよしみで仲良くしてくれるだろう。あれはそういう奴だ」

 

そうして話をする彼らを見て、フクシンはようやく人心地つけた。

ああ、肩の荷が下りた……と。

 

しかし、そんな事を思った途端、心にぽっかりと穴が開いてしまったような心地になるではないか。

 

おかしいな、何故だろう。

 

確かに、今日このまま別れれば、彼らとはもう二度と会う事はないんじゃないか。

 

そんな不思議な予感がある。

 

だが、別にそれでいいはずなのだ。

 

宇宙人の知り合いなんて……厄介事のお手本みたいな物なんだから。

 

このまま、平凡な日常に戻った方が……

 

 

……本当に?

 

 

戻って、いったいどうするんだ?

 

あの日々に嫌気が差してたんじゃないのか?

 

でも、自分には彼らのような特別な事は何も無くて。

資格なんてないんじゃないか?

 

それでも、彼との繋がりが、何か……何か無いか。

 

「……そうだ! タ、タウ…タウラさん!」

 

「ん?」

 

口から食いかけの蕎麦を、だらりと垂れ下げた、若手作家が振り返る。

男前が台無しだ。

 

「あの……ど、同人誌を作っていらっしゃる……んですよね!」

 

「うん、最近はオフセット印刷ってのが普及し始めたからね、昔よりは僕らみたいなのでも、随分とやり易くなったものさ。とはいえ、本当に細々とだけども……なんだい? 欲しいの?」

 

前々回ので良かったら余りが……なんて言い始めたタウラに、フクシンは拳をギュッと握り、気力を振り絞って問いかけた。

 

「あの、それは! 星座の観察記録とかでも、載せられるんでしょうか! ……ね……とか思って……」

 

半ば裏返ってしまった自分の声に、どうしても恥ずかしくなってどんどん小さくなっていくフクシンの姿に、タウラとロンはビックリしたように顔を見合わせたかと思えば……

 

次の瞬間、彼らが恐ろしいくらいに獰猛な笑みを浮かべるのを見て、やはり選択を間違えたかと、青年は激しく後悔して冷や汗が止まらなかった。

 

後にフクシンが息子に語ったところによれば、その時の彼らの瞳と言ったら、それこそ、沼に沈めて貪るべき次なる獲物を見つけたかのような、飢えた獣の如き眼差しだったという。





というわけで第45話「円盤が来た」の後日談、いかがだったでしょうか。

サブタイは、ギリギリまで「円盤が来たはいいが、敵の反撃が痛すぎる!」にしようかと迷っていたのは内緒。

「星が多いな……」って違和感覚えるのが、恒点観測員のダンと星占術好きのソガって感じで良いですよね。

もともと、この回はこういう方向性にしようと考えてたんですが、つい最近行きつけの蕎麦屋が潰れてしまった作者の悲しみを、存分に背負った話となってしまいました……(涙)

尚、日本SF倶楽部には入会に際して『宇宙人は不可』というルールがあるとかないとか……

さて、ここのところ影の薄かった主人公ですが、次回あたりにはそれなりに活躍してくれるんじゃないかな……?

……いや、どうだろうな。ソガだしな。

まあ、彼の活躍は別としても、そろそろなんかはっちゃけたいなと思う今日このごろ。

しばらく書き溜めるかもしれませんが、どうぞ楽しみにお待ち下さい。
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