転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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もう終盤も終盤だし……少しくらいはっちゃけても……まあええか!


セブン対セブンの激闘(Ⅰ)

 

白いブーツで金属製タラップを駆け上がれば、カン、カン……と小気味よい音が第4格納庫の乾ドック内に響き渡った。

 

辺りを見渡せば、そこかしこで作業員が顔を突き合わせ、真剣な表情で何かしかのチェックに勤しんでいる。

 

ここは駿河湾に面した、防衛海軍の造船所兼格納庫であり、この下にはハイドランジャーの浸水ドックもある。とはいえ、今は空っぽだろうが。

 

この広いドックで、一体どれだけの人間が働いているのか……想像しただけで眩暈がするようだ。

 

この歳にもなって迷子になるわけにはイカン……と、フルハシは前方から歩いてきた白衣の研究員らしき男に、申し訳ないとは思いつつ声をかけた。

 

「ちょいと君。すまないが、アマギを見なかったかい?」

「ああ、フルハシ隊員。お疲れ様です! アマギ隊員なら、そちらをもう一段上がって、そのまま突き当たりです。ちょうど、このコードの束を辿っていけば分かりますよ」

「おう、これか! 助かったぜ! ありがとさん!」

 

にこやかにそう言って、自分たちの足元を指差す研究員。

フルハシが無意識のうちに跨いでいたそれは、階段の先へと延びており、これを道標にすれば目的地へと着けるらしい。

 

こんなに分かり易いなら一安心だと破顔したフルハシは、目線を下げ、そして少々の違和感にふと首を傾げたが……すぐハッとして、壁際にひょいと忍者のようにへばりつき(キャットウォークが狭すぎて、彼の肩幅ではそうせざるを得ない)、研究員の為に道を開けてやった。

 

「どうもどうも……」

 

手刀を切りつつ、目の前を横切っていく男の後ろ姿を、怪訝そうに見送ったフルハシは、気を取り直してタラップを駆け上がり、中身のよく分からない配線を辿っていく。

 

進めば進む程に、その道標へ方々から様々な管が合流していき……やがて彼の太ももぐらいはあろうかという程に太くなった頃、そのケーブルに半ば埋もれるようにして、アマギが巨大な電算機と格闘しているのを見つけた。

 

四方八方から集中したケーブル類が、まるで触手のようにうねり狂う中心にいるせいで、遠目からは巨大なタコにでも襲われているようにしか見えない。

 

だが、さらに近づいて彼のデスクを覗きこんだフルハシは、自分の見立て以上に、後輩の陥っている事態は深刻なのだと理解した。

 

アマギの足元には、本やら資料やらが堆く積み上がって散乱していたからだ。とっ散らかっていた……あのアマギの机が、である。

 

いつも几帳面なアマギは、その仕事ぶりもキチッとしていて、フルハシの知る彼の姿と言えば……たいてい図面一枚に、それ以外は本当に必要そうな最小限の道具とコーヒー……それがアマギという男の仕事風景だったはずだ。

 

自分やソガならいざ知らず、あの整理整頓が隊服着てるような奴がねぇ……隊長などは普段から、『机の乱れは思考の乱れ』と身辺整理を口酸っぱく言い含めてくるので、フルハシとしては頭をぺこぺこ下げるしかないが……その言葉を借りるなら、今のアマギの脳内は、この作業場の如くしっちゃかめっちゃかだと言う事だ。

 

あの大天才がこうまで追い詰められるとは……

 

「おいおいアマギセンセ、大丈夫かい?」

「えっ…………ああ、フルハシ隊員ですか」

 

目元に隈を作ったアマギが、うっそりと顔を上げる。

 

「ひでぇ顔だな……なんか手伝える事あるか? つっても俺にゃあ、荷運びくらいしか出来ねぇけどよぅ……」

「いえ、結構ですよ。もう最終チェックの段階ですから……というよりも、貴方がなぜここへ? 珍しい」

 

疲れた顔で鼻頭を揉むアマギが、隣のコーヒーカップに手を伸ばすも、既に空っぽだったので何も啜れず、さらなる顰め面を披露した。

 

「ああ! ソガからコイツを届けてくれって頼まれてな……アイツ、俺を使いっ走りにしやがった! 偉くなったもんだぜ、まったく……帰ってきたら覚えてやがれ!」

「ソガから……?」

 

ようやく本題を思い出したのか、フルハシが小脇に抱えていた封筒を差し出した。

怪訝そうに受け取ったアマギが中身を確認すると……やおら歓声を上げる。

 

「おおっ! 遂に完成したのかっ! いやあこれでようやく肩の荷が降りますよ、助かりました」

「そんなに大事なもんだったのかぁ? なんなんだソレ?」

「うーん……最終プログラム兼、原稿の続き……ですかね」

「はぁ!?」

「まあまあ、僕の仕事はこれで一段落って事です。あとは下の連中に渡すだけ」

「下の連中……?」

 

彼の言葉にハッと気付いたフルハシは、差し出がましい忠告であると重々承知しつつも、先ほど思った事を口にした。

 

「なあおい、アマギ。こういう作業場でサンダル履きはいくらなんでも危ねえからよ、研究員でも止めるように言ってやった方がいいぜ? 同じチームなんだろ?」

「ああ、見たんですか。言っても聞かないんですよ、彼ら」

()()? まさか……流行ってんのか!?」

 

てっきり一人だけの問題行動かと思ったら、複数人いるのか! 危機管理意識がなっちゃいない!

 

「まあ自己責任ですし、僕らが口出し出来る事ではありません……あれでなかなか、見た目以上に高性能ですからね」

「……? もし安全靴が足りねえなら、俺から上に言っといてやろうか……?」

 

よく分からない顔でそう言うフルハシを、苦笑しつつやんわり制したアマギは、取り出した紙束を大事そうに『P.D』名義のファイルへ挟み込んだ。

 

アマギがいそいそと帰り支度を始めたので、手持ち無沙汰になったフルハシ。

自分のやるべき仕事が終わったらしい事を理解した彼は、いよいよ好奇心を抑える必要が無くなったので、自分たちの隣にずっと鎮座していた巨大建造物を振り返り、鉄柵に凭れながら、しげしげとその威容を眺める事にした。

 

「……しっかし、これが噂のマックス号Ⅱ世かぁ! 遠目で見たときにも、随分でけえと思ったが、こうして近くでゆっくり見ると益々信じられねえなぁ! ホントにコイツが浮かぶのかい?」

 

まるで少年のように瞳を輝かせながら、心からの感嘆を漏らすフルハシに、アマギが思わず笑みを零す。

 

「もちろん。しかし、我々だけの力では到底為し得なかったのもまた事実です。アンダーソンやリヒター博士をはじめとした、数々の協力がなければ……このMJ号は絶対に完成しなかったでしょう」

「だろうなぁ……」

「ま、とはいえSF小説家なんぞをアドバイザーに招くと言われた時は、流石に正気を疑いましたけど」

「な、なんだいそりゃあ? 天下の地球防衛軍も堕ちたもんだな……」

「ハハハ、やはりそう思いますよね?」

 

アマギは、当時の心境を懐かしく思ったのか、心底可笑しそうに笑ったが、机の上に置いてあった付箋だらけの空想科学小説は、忘れずに鞄へしまい込んだ。

 

「……そうだ、僕はこっちの調整にかかりきりで結局知らないんですが、一体誰が乗艦する事になったんですか? 相当揉めてた印象がありますが……」

「ああ、最終的にアラキ艦長達が手を挙げてくれたらしいぜ。こんな曰く付きの船だしなぁ……誰も乗りたがらねえだろうに、ありがてぇこった」

「なるほど、だからか。じゃあやっぱりMJ号というよりも、海軍的にはマックス号Ⅱ世で通すつもりなんですね」

「さてなぁ……どうだっていいじゃねえか、名前なんざ!」

「そうは行きませんよ……」

 

上機嫌でガハハと豪快に笑うフルハシに、アマギは溜息しか出ない。

 

「それで? 肝心のソガは?」

「伊良湖岬さ」

「ああ、例の……」

 

つい先日、通報があったのだ。

怪しい動きがある、と。

しかし、その通報者というのが……

 

「ホントなのかねえ? 俺には、どうもあのノンマルトとかいう奴らがいまいち信用できん。そもそもだよ? 内容も内容じゃないか。なんだっけほら、あの……ザバーンだかザブーンだかが怯えてるって……」

「ザザーンですよ」

「そうそれ! それがいったい、どうしたっていうんだ? 魚が怖がってるなら、奴らが子守歌でも歌ってやるんじゃ駄目なのかい?」

「それがなんでも、ただの魚類ではないらしい。海の同胞だとかいいつつ、正体は怪獣だそうで……」

「なに、怪獣!?」

 

その情報が初耳だったフルハシは、流石に目を剥いた。

確かに字面だけ見れば一大事だが、ますますもって怪しさ満点。

だいたい、怪獣が何かに怯えることなどあるものか。逆に、その怪獣を使って、またぞろ地上侵攻でも考えてるんじゃないのか……

 

「でもね。一つ付け加えるなら……」

「あん?」

 

フルハシの心中を見透かしたアマギが、なんとも言えない顔で補足する。

 

「一緒に聞いてたソガが、妙に驚いた顔で、うんうん頷いてましたよ」

「え、ソガが? あー……そいつぁ……うーん……」

 

腕組みしつつ2回ほど唸ったフルハシは、神妙な顔で頷いた。

 

「じゃあ、なんかあるんだろうな」

「……」

 

フルハシの言葉に、アマギは思わず苦虫を噛みつぶしたような表情で黙り込んでしまう。

彼としては、根拠の薄い判断基準で動くのが心底嫌いだからだ。

 

だが……先輩隊員の言葉を否定するための確固たるデータがあるわけでも無し。

むしろその実績が、半ば統計学的数値に片足を突っ込みつつあるという事実と……なにより、アマギ自身がそう思っているというのが、本当に気に食わなかった。

 

「なるほど、それでこんな重要な書類を、俺に押しつけてまで現場に出てったのか。相変わらず熱心な奴だ。せっかく自分のアイデアが形になるって時に……」

「まったく、いつも言うだけ言いっ放しで、最後は丸投げなんだからアイツは……」

「まあそう言ってやるなよ。おめえほどじゃないが、奴もここんとこうまく寝れてなかったようだぜ?」

「ふん、どうだか……今頃はダン達とプールではしゃいでるかもしれませんよ?」

「そんなわけ……いや、やりかねねえな?」

「ね?」

 

ドック内で二人の笑い声が響く。

ここに本人がいれば、『俺の事なんだと思ってんの?』と突っ込みの一つでも入りそうな言い草だが、生憎と居ないのだからしょうが無い。

 

彼らも別に本気でそう思っているわけではないが、普段の行いに振り回されている身としては、こうして笑い話のタネにするくらい必要経費だろと言ったところだろうか。

 

……思ってないよね?

 

 

―――――――――

 

「……ハックシュン!」

「おや、ソガ隊員。大丈夫ですか?」

「ずっと日陰にいるから、冷えちゃったのかしら?」

「ああいや、大丈夫大丈夫」

 

ここは平和で美しい伊良湖岬……

 

近頃、この一帯に怪現象が頻々と起こっているとの情報をキャッチした地球防衛軍では、ハイドランジャー隊で海底を捜索する一方、ウルトラ警備隊のダン、アンヌ、ソガの3隊員を現地に派遣。

 

その原因を追求することになったのである……

 

ソガ達三人はここ最近、所属不明の水中翼船に乗って現れる謎の女を監視するため、水着を着込みプールサイドで観光客に紛れていた。

 

「きっと疲れが祟ったんだわ。MJ計画の為に働き詰めだったところに、この調査任務でしょう? 隊長も少しくらい休ませてあげれば良かったのに……」

 

「いや、俺が行かせて欲しいって行ったんだよ。ホラ、おあつらえ向きにプールで療養がてらって事さ。任務なんてついでだよ、ついで」

 

「とてもそうは思えない目つきですが……」

 

「何も知らなければ、さっきから凄い熱視線よ。これで鼻の下でも伸びていたら、あの人にクラッと来ちゃったのかと思うくらい……フフ、それともまさか、本当にそうじゃないでしょうね? その時は……」

 

「おっと、彼女に言いつけるのだけは、やめてくれよ」

 

自身も上下セパレートの青い水着姿を披露しつつ、アンヌが冗談めかして言ってくる。

 

とはいえそんな彼女も、あのサロメ星人の女も、俺からすれば水着のデザインがあまりにも古臭さすぎてサエコさん一筋なので、そんな目で見ようという気すら起きないね。

……本当だよ?

 

そして当のサロメ星人はと言えば、パラソルの下で真っ赤なストールを肩へ巻き、チェアにゆったりと腰掛けている。まったく優雅なもんだ。

それとも、その視線はサングラスで分からないが、向こうもこっそりダンを盗み見ているのかもしれない。

 

「……おっ? なんか時計を取り出したぞ」

「アンヌ、女の近くで見張るんだ」

「ハイ!」

 

水音を立ててプールに飛び込むアンヌ。

 

「今日こそ尻尾を掴んでやるぞ……」

 

さて、そろそろだ……見てろよサロメ星人め……

知らず知らずの内に、俺は口角を吊り上げていた。

 

 

―――――――――

 

 

海底で、定期的に響くソナー音。

 

「こちらハイドランジャー、まもなく目的地へ到着」

 

息を殺したように静かな潜水艇内で、ハイドロフォンに耳を澄ませていた防衛隊員が、ハッとする。

 

「不思議な音波が聞こえてきます……!」

「なに?」

「……こっちに向かってくる……魚雷かミサイルかと思われますッ!!」

 

そう実はこの時、2基の大型水中ミサイルが、凄まじい速度でハイドランジャーへ放たれていた。

 

サロメ星人の海底基地からの、完全な奇襲攻撃だ。

 

はたしてハイドランジャーは原作通り、このまま為す術無く撃沈されてしまうのか!?

 

 

「よし、音響データリンク、開始!」

『了解! 2号艇、リンク開始します!』

 

通信機から聞こえる友軍の声。

なんと、この海域にはハイドランジャーが2隻いたッ!

 

ノンマルトの通報を重く見たソガの提案によって、防衛軍は保有するハイドランジャーを、全力投入していたのである!

 

それぞれの潜水艇は、お互いのソナーで得られた情報を、電算機で高度に擦り合わせ、接近物の位置情報から推進速度、果ては周囲の地形まで正確に把握したのだ。

 

「目標ロックオン完了!」

「迎撃レーザー、発射!!」

『発射!!』

 

2隻の艦首から照射されたレーザーは、それぞれに割り当てられた標的に寸分の狂い無く命中し、2基の大型ミサイルを木っ端微塵に破壊した!

 

『迎撃確認!』

「やった!」

「素晴らしい成果だ!」

「このローレライシステムがあれば、水中では敵なしだぞ!」

 

狭い艇内が歓声に満ちる。

 

「しかし……出撃前に警告された通りに、明確な攻撃行為を受けましたね」

「うむ、ソガ隊員の言っていた通りだ……流石だなあの人は」

『では、2号艇はこれより、応射準備に入る。1号艇、オクレ』

「敵攻撃軌道の逆算結果、出ます!」

 

データリンクによって、先ほどの攻撃がどの方向から飛んで来たか、おおよそは割り出してある。

つまり、その先に確かな敵がいるのだ。

 

「本部、こちらハイドランジャー1号。敵からと思しき魚雷攻撃を迎撃せり。これより威力偵察を敢行する」

「1号艇もタイミングを合わせるぞ」

『飽和攻撃のお返しと行くか』

「重魚雷、発射準備よーい!」

「注水開始!」

 

始まる反撃のカウントダウン……その時。

 

『ぐわっ!? な、なん――』

 

通信機の向こうから、困惑の声が聞こえると同時に凄まじい破壊音がハイドランジャーを横合いから殴りつけた。

 

「どうした! 2号艇、応答せよ!」

「爆縮音! 2号艇反応途絶……!」

「そんな、やられたのか!? 今の一瞬でっ?」

「デコイ射出するんだ! 急げ! デコイ撒けーぃ!」

「状況確認!」

「駄目です、2号艇の爆発パルスでソナーが効きません! ローレライシステムダウン……っ!」

「いったい何が起きたんだ……」

 

あまりに突然の事態へ、呆然とする隊員達。

 

「ッ!? いかん、魚雷射出して全速後退!」

「撤退ですか!? しかし敵の正体はまだ……待て、なんだ今の音は……!?」

 

ずるずると……まるで巨大なものが、這いずるような……

 

直後、激しい衝撃が船体を突き上げる!

 

 

「し、下だぁっー! 下に何かいるぞォーッ!!」

「本部、本部! 謎の攻撃を受け――!」

「撃て! 撃てえええっ!」

「うわぁああああ!!」

 

苦し紛れに装填済みの魚雷を吐き出すが……もう遅い。

 

あとは無残に圧壊した残骸を一つ残して、光の届かぬ水底に再び深い静寂が戻った。

 





真昼の決闘という事で、今章は12時更新。
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