転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「……ウッ!?」
暗闇の中で、気が付くダン。
しかし、彼の四肢は既に台座の上へ固く拘束されており、少しも動かない。
(ここはいったい……)
訝し気に周囲を見渡すダンの耳に、上方から高笑いが降ってきた。
「「アッハハハハハハ!!」」
そちらへ顔を向ければ、扉を開けて一組の男女が姿を現す。
禿頭に顎鬚を蓄えた貫禄ある壮年男性と、その隣に立つ女の顔は……さっきの!!
「ウッフッフ……ようこそセブン。ミイラとりがミイラ……まんまと罠にかかったわね」
「罠!?」
「ここは海底にある、我らサロメ星人の海底工場」
「工場……?」
いったい何の……?
疑問と共に再びダンが視線を動かすも、部屋の中にそれらしいものは見当たらない。
あくまでここはダンを捕らえる為の部屋ということか。
一つだけ普通ではない点を挙げるとするならば、天窓には水面のように揺らめく光が淡く反射しており、ここが海底にあるという先程の言葉は、どうやら本当らしい。
いったい、いつの間にこんな基地を……
階段を降り、ダンのすぐ隣までやって来た彼らが、ライトの下に照らし出される。
目の醒めるくらい鮮やかな群青色をした生地に、煌びやかで繊細な銀の小洒落た装飾が施された、上品な仕立ての装束とは打って変わって、それらを纏う彼らの瞳には強い嘲りと、過剰なまでの自信が見え隠れしていた。
サロメ星人達の着用している手袋とブーツが、これまた抜けるような白さで暗闇に映えて、それを見たダンに、あたかも警備隊の仲間達を連想させたが、泥にまみれ草臥れた自分達のモノとは違い、星人達の装備は卸したてのように新品同然の輝きを放っていた。
「あなたは私たちの作っているものを見たくて来たのでしょう。ことにあなたには、ぜひにでも見てもらいたい」
サロメの女が、自信作を披露したくて堪らないといった表情で、ダンの顔を覗き込む。
「開け!」
女が白い手袋を振れば、ダンの固定されている台座がグググと上体を起こすように傾き、硝子張りの向こうで、巨大なシャッターが持ち上がっていく……
徐々に室内へ光が満ちていき、眩しさに目を細めたダンが瞼を開いた時、そこへ映った光景とは……!
「あっ……!?」
驚愕のあまり、言葉を失い二の句も告げず固まるダン。
大樹のようにそびえ立つ巨躯。
工場のライトを反射し、ギラリと輝く銀色の装甲。
そして……その全身を余すこと無く染め上げる赤、紅、朱!
恒点観測員の業務で数多の銀河を飛び回り、様々な現象や光景を目にしてきた、あのダンをして、その衝撃は未だかつて無いものであった。
それもそのはず、彼の眼前にはもう一人の自分……ウルトラセブンが直立不動のまま存在していたのだから!!
「いかが……?」
挑戦的な微笑みと共にこちらを振り返るサロメ星人の後ろで、今まさにクレーンで吊り下げられたアイスラッガーが、キュラキュラとガラスの前を横切っていき、そびえ立つセブンの頭頂部へ重々しい音を響かせて装着される。
海底工場……何を作るための?
如何に信じがたい事実であろうと、もはやこれを見せつけられては、答えなどただ一つしかない。
彼らは、
「こんなもの作って、どうするというんだ!」
「無敵の超人ウルトラセブンを、我らの味方にできたら……」
「セブンは地球人の味方だ!」
「それがもうすぐ地球人の敵になるわ! 地球上のあらゆる物を破壊する、ウルトラセブン……正義の味方が悪魔の代名詞になるのよ!」
「地球人はセブンが、侵略者になったと思うだろうなぁ……?」
しかし、その時ダンの脳裏に閃くものがあった。
「フン……」
「どうした、ダン?」
「つまらない虚仮威しだ。アレはまだ未完成だろう!」
「なに?」
「いくら完成間近でも、ひとつだけ足りないものがある……ウルトラビームだ! お前達にはアレを動かすエネルギーが分からない。だから僕を捕らえてビームの秘密を自白させようと言うんだな!?」
ダンにはある種の確信があった。
さっきは模造された自身の姿に動揺してしまったが、工場で造り上げたと言うならば、アレは生き物ではない。
きっとロボットだ。
ならば、あれほどに巨大な建造物を動かすには莫大な動力源が必要なはず。
そうでなければ、MJ号を動かす為に、ソガ隊員やアマギ隊員があれほど駆けずり回って頭を捻る必要も無かったのだから。
彼らの苦労を知っているダンには、サロメ星人の抱えている悩みが手に取るように分かった。
ならば話は簡単。
自分が奴らの拷問に屈せず、時間を稼げばいい。
幸いな事に、ハイドランジャー隊のお陰でこの工場の場所は分かっている。
それならば、きっと彼らが助けに来てくれるに違いない。
それさえ心の支えにすれば、どのような方法であろうと耐えきる自信が……
「ハッハッハ!」
「何がおかしい!」
「これは傑作だ。大した推理力だともダン。しかし……とんだお笑い種だね」
「えっ?」
サロメの男がニヤリと笑う。
そして、衝撃の事実をダンに叩き付けた!
「我らのセブンは……既に完成しているのだよ」
「なんだって!?」
目を見開き、蒼ざめるダン。
「君は……いや、君達は……些か強すぎたな」
「強すぎた……?」
「そうよ、私たちのセブンが完成するまでに、どれくらい時間がかかったと思うかしら? いくらサロメの科学力でもこれほどの作品を造り上げるには、一日二日では足りないわ……」
「教えてやろう。我々がこの地球にやってきたのはな、ダン……お前があの空で磔にされていた、まさにあの時なのだ」
「なにっ!」
ガッツ星人の挑戦!
あの時から既に地球へ潜伏していたと言うのか!?
「私達は、以前から地球に目をつけていたけれど、どうしても準備が大掛かりになってしまう……」
「そんな時にとあるルートから、あの自意識過剰な鳥頭共が、貴様の暗殺計画を練っていると教えて貰ってな。早速、我々も一枚咬ませて貰うことにしたのだ」
「彼らは真正面から敵対すればタダでは済まないけれど、その実、こちらがその膨れ上がった自尊心を満たしてやれるなら、随分と取り入り易い相手だったわ。知っていて? ガッツ星人は、最初から下手に出て来た相手には、存外度量が広いのよ」
「奴らは貴様の死体には興味が無いようだったので、処刑後はこちらで引き取る手筈だった。その代わり、あの粗悪品の量産に関しては此方が請け負ってやるという契約だったのだよ……もっとも、思っていたよりも基礎設計がしっかりしていて驚いたがね。我々も久々にやり甲斐のある仕事だったとも」
まさか……アロンがあんなに沢山出て来たのは、彼らの仕業だったのか!?
そのせいで大勢の隊員達が……よくも!
「本当にガッツ星人は素晴らしい働きをしてくれた。地球防衛軍の総力を一手に引き受けて貰えたので、我々も機材の搬入が自由に出来て助かったものさ。なあ?」
そうして笑いあうサロメ星人達。
ダンのこめかみに血管が浮き出てきている事に気付いているのか、いないのか。
「おまけに……こんなものまで」
ひとしきり笑ったサロメ星人は、得意げに何かの紙束をヒラヒラとダンの眼前に掲げた。
「なんだそれは……!」
「まあ待て慌てるな。なになに……? タキオン関数、M2SH3GWFB1……?」
「ま、まさか……」
勿体ぶって、サロメ星人がゆっくりと読み上げて行くにつれ、ダンは自身の血の気がサァーッと引いていくのが嫌でも分かった。
「気付いたかね? そう、これこそが……貴様の暗殺計画書だ! ウルトラセブン!」
勝ち誇ったサロメ星人が、拘束されたままのダンに突きつけた書面には、宇宙共用語ではっきりと記されていた。
『セブン抹殺計画』と。
「奴らは実に理解し難い価値観で動いていたが、その分析力と強さに関しては、まさしく本物だった! 我々も素直に賞讃するとも。こうして貴様の弱点まで悉に解き明かしてくれたのだから……! 実に理路整然とした計画だ、まるで取り扱い説明書だよ。これを読めば、誰でもウルトラセブン博士になれる! しかし!」
「そんなガッツ星人すらも、お前達には勝てなかった……!」
二人揃って、パチ……パチ……と手を打ち鳴らすサロメ星人達。
「先ほど私は、ガッツ星人を褒め称えたが、その実! 真に賞讃へ値するのは君達だろう! ウルトラセブン、いやそれを含めたウルトラ警備隊! まさに君達こそが! どんな敵にも負けた事の無い、無敵の地球防衛軍なのだ!」
「くそっ! 彼らを馬鹿にするな!」
思わず唾を飛ばして反論するダン。
しかし、かぶりを振ったサロメ星人は、拍手を止めた腕を後ろ手に組み、ガラスの向こうで屹立する最高傑作をしげしげと、満足そうに見上げる。
「馬鹿にしてなどいないさ。我らがセブンは、我がサロメ星の科学を結集して作り上げたものだ。完成すれば天下無敵……我らの計算では、本物のセブンでも倒せる!」
「そう思っていたのに、私達は戦う前から、その自信を砕かれた。その後の戦いも、特に苦戦もせず連戦連勝……生半可な敵では、セブンどころかウルトラ警備隊にすら太刀打ち出来ない」
「その通り! セブン。例え君を100%再現できたとしても、それはあくまで同じモノ。全力でぶつかり合った場合、お互いがお互いに同じだけ消耗し、全く同時にゼロ……つまり待っているのは共倒れだ。そしてセブンを失った我々は、丸腰でウルトラ警備隊と戦わなくてはならない。それは御免被る! ……あまりスマートとは言えんしな」
「私達のセブンには、お前とウルトラ警備隊の、両方を同時に相手して尚、それを大きく上回るだけの戦闘力が必要だと分かったの」
「だから私達は、君を完全再現するのは……諦めた」
そう言って微笑んだサロメ星人のリーダーが、白手袋を二度ほど打ち鳴らすせば、奧から同じ装束に身を包んだ手下達が移動式の机をガラガラと押してくる。
まるでルームサービスでも取り寄せるかのような気安さだが、机の上には絹のカバーが掛けられており、場違いさを一層の事引き立てるのに役立っていた。
「ご覧、ダン。これが今回の目玉だよ」
サロメリーダーがサッと布を取り去った時、その下から現れたのは……
白と黒に塗り分けられた、様々な――
―――――――――
「隊長ー!」
「ソガ、アンヌ! ダンはどうした?」
「ハイ、例の女を追って、この灯台にやって来たと思われます。 道中に……これが」
ウルトラホークで駆け付けたフルハシ、アマギ、キリヤマと合流する俺たち。
アンヌの手には、警備隊のマークが描かれた発信機つきの特殊シールワッペンが握られている。科特隊時代から使われていた特殊マーカーを、改良して使い続けている物だ。
「ヘンゼルとグレーテルってか! ダンもやるようになったもんだぜ!」
「だが未だに連絡が無いとなると……」
「ええ、敵に囚われていると見て、間違いないでしょう」
「この灯台の下には、敵の基地がある。恐らくダンも……」
「どうやって潜入します?」
「まともに行っては、ダンの二の舞になる」
そうして考え込む俺達の後ろで、沖合いを航行していたタンカーが凄まじい勢いで爆発し、轟々と真っ赤な炎を噴き上げた。
「なんだ!?」
もうニセセブンの出番か?
こんなに早かったんだな……
文句なしに凄まじい強敵だから、なるべく起動前に基地ごと破壊したかったんだが……間に合わなかったか。
そんな思いで振り返るも、空を飛ぶ巨人の姿は見えず……
おや、おかしいな?
「見ろ! 船の下だ!」
「あれは……触手?」
炎を纏って沈みゆく船に、何か黒くて長いものが何本も巻き付いているような……待てよ、どっかで見たことあるぞ?
その時だった。
そいつが咆哮と共に船を真っ二つに叩き割り、その姿を現したのは。
「あれは……ガイロス!?」
てらてらと水を滴らせる不揃いな吸盤。
鞭のようにしなる触手。
まるでタコのような8本足のあの怪獣は……
「ええええええっ!? ガイロス!? なんで!? ガイロスなんで!? ここで? ハアァー!? 意味わからん!」
思わず頭を抱えて絶叫する。
半ばパニック状態の俺を見てか、フルハシ隊員がぼそりと呟いた。
「なんでぃ、今日はソガが役立たずの日か……」
「ちょっと、どういう意味なんスかそれ!」
「こっちの話だよ……気にすんな。こりゃあ気合い入れねえと……」
気にすんなと言われるまでもなく、俺の頭はもう疑問符でいっぱいだ。
気にするべき事がありすぎる!
え、俺なんか話数とか間違えた?
これニセセブン回だよね?
さっきのサロメ星人じゃなかったの?
もしかしてノンマルト編終わってないとか?
そんな馬鹿な! 有り得ない!
そもそもガイロスはセブンが既に倒したハズ……え、倒してるよね?
大丈夫だよね?
もしかしてオレ、またなんかやらかしたのか……?
……いったい、何が起こってるんだ。