転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
キュラソの回は、民家に突入する際に、アンヌ以外の全員で行かず、ダンを後詰としてポインター近くへ残しておく、で早期解決します。……しました。
イカルスは特筆することなし。特段の介入もなく解決されます。
ソガの唯一の介入は、10話が始まる前になされているので……
7話と10話の二話分は、主人公によって、ただダンとアンヌの絆を深める為に利用されました。
また時系列が前後しますが、今回の想定としては7、8、9と終わって10話に
突入する少し前に挿入されるお話です。
安心してください。ちゃぶ台と腹パンの話はこの後でちゃんとやります。
「しかし嬉しいなあ! お前の方から誘ってくれるなんて、どういう風の吹き回しだ?」
「いやあ、毎度毎度ソガ隊員にばかり気を遣わせるのも、悪いなと思ったんですよ」
「お、なかなか言うようになったじゃないか!」
「なに、先輩方のおかげです」
「こいつぅ!」
非番用の隊員専用車両のハンドルを切りながら、ソガ隊員が笑う。
彼は冗談だと思って受け流したが、今のは紛れもなく本心だ。
本当に、彼らのおかげだと思っているのだ。
ウルトラ警備隊に所属してからというもの、先輩隊員達が、代わる代わる僕に世話を焼いてくれる。
特に、週に一度の休暇が重なると、誰かが必ず、僕をあらゆる場所に誘い出しては、さまざまな事を経験させてくれた。
食事、スポーツ、ドライブ、読書、ピクニック……どれもM78星雲ではあまり馴染みがなかった文化ばかりだ。
そもそも、我々の種族では『休暇』という概念が薄い。
我々にとっては、この銀河の平和に貢献することこそが、何よりの喜びであるし、肉体的な消耗も、クリニックに行けばたちまち回復できる。
特に叔母は、その能力がとびきり高く、僕も鼻が高い。
『休暇』というのは、我々のように強靭な種族には不要な事だと思っていた……地球に来るまでは。
この星の食事は、美味しい。特に、誰かと食べるのは最高だ。
食事だけではない、この星の文化は素晴らしい。そのどれもが、自分の内面を見つめなおし、この美しい自然との繋がりを再認識することに繋がる。
星図を作るために、大気圏外から覗いていただけでは、決して得られなかった経験ばかりだ。
そして、それらを行う事で、戦いで消耗した体に、活力が漲ってくるのだ。
実は、この星で得た素晴らしい知識と経験を、恒点観測の報告書とは別に、個人的に纏めているところだ。故郷の仲間達にも、僕の得た感動を少しでも知ってほしい。
文明監視局にこの資料を提出すれば、非常に価値あるものと認められる確信がある。最近、監視員の任に就いた、あの生真面目な後輩も、きっと大喜びしてくれるはずだ。……と同時に監視局からの厳重注意は覚悟の上だが。
そしてこの、貴重な時間に誘ってくれるのは、アンヌ隊員が大半を占めるが、次に多いのは、このソガ隊員だった。
しかし……
「おいどうした、今日はお前の見つけた穴場に連れてってくれるんだろ?」
「え? ええ、この前の事件の調査の為に、たまたま入っただけなんですが……これがなかなか、うまいコーヒーを出すんですよ」
「へえー、駅前の喫茶店とは、こりゃまたずいぶん洒落た店で張り込んだな」
「見晴らしが丁度よくて……」
あの店のコーヒーを彼にも教えてやりたいというのは本当だ。
しかし……罪悪感とは、こんなにも神経がざわつくものなのか。
明らかに、もう半分の目的を、僕の心が嫌がっている。
今日、彼を連れだしたのは……気になる事を確かめるため。
このソガ隊員という男が一体何者なのかということだ。
「それにしても、怪我はもうすっかりいいんですか?」
「ああ、ドクターの腕がいいからな。……そうそう、そのドクターといえばだ。良かったのか? 俺なんかを誘ってて。 今日だって、アンヌとデートが出来たろうに」
「ハハハ、彼女とはそんなんじゃありませんよ」
「お似合いだと思うけどな……嫌だぜ? 主治医の嫉妬を買うのは。モルヒネ無しで手術なんてされた日にゃあ……」
この男は、やけに僕とアンヌを、夫婦にさせたがっているように感じる。
確かに彼女は慈愛と勇気を兼ね備えた魅力的な女性だと思う。
献身的な博愛の精神は、叔母や無き母を彷彿とさせる。
この姿を取った今なら分かる、地球人の美意識からしても、可愛らしい。
しかし……それだけだ。
彼女は同僚であり、戦友だ。
それを言うなら彼のほうこそお似合いではないか?
なんといっても……彼女は地球人、僕は宇宙人なのだ。
それを……ソガ隊員は本当に気付いていないのだろうか?
だからこそこんなに無邪気に僕たちをくっつけようとしているのか……?
分からない。
彼の言動はどこかおかしい。僕の直感がそう告げるのだ。
本当に地球人なのだろうか?
僕のように、宇宙人が仮の姿を取っているのではないか……?
しかし、間違いない。彼の肉体はまさしく人間だ。
だからと言って安心できない。
僕もこの姿に擬態している時は、念力でホメオスタシスを、地球人の平均値に押さえ込んでいるが……それが出来るのが、僕らだけとは限らない。
ヴィラ星人の件もある。
しかし、それならば、なぜ?
……なぜ、僕に構う?
僕のように、地球を愛したからなのか?
ならばなぜ、僕の正体を知りつつ、僕に正体を明かさない?
それでいて何故、僕に接近する?
……分からない。
「ソガ隊員は……最近、気になる事とか、無いんですか?」
「気になること……そうだなあ……銀のトサカ頭の怪獣ロボットは、元気にしてるかなあ」
ウインダムのことだ!
「その怪獣がどうして?」
「どうしてって、そりゃあ命の恩人だからさ、アイツがいなけりゃ、俺もお前も今頃お陀仏だ。礼の一つも言ってやりたいもんだよ。」
「お礼……」
「ギョロ目とはいったん、貸し借り無しだからな。あとはあのトサカロボットに借りを返さなきゃ、居心地が悪いのさ」
「……でも、彼らは怪獣ですよ?」
「ダン、俺はな……驚くなよ? あいつらはセブンの子分なんじゃないかって睨んでるんだ」
「えッ!」
「セブンだって、俺達と同じく、四六時中出撃できるわけじゃないんだろう。そんな時、アイツらが、ご主人様の準備が整うまで、時間を稼ぐ。……アイツら、消え方が一緒だったんだよ、きっとセブンのとこに帰って行ったんだ。そのあとセブンが来たから間違いない」
これだ!
一足飛びにほとんど真実を言い当ててしまっている!
確かに、彼らの姿を見ていたというなら、地球人が真相にたどり着いてもおかしくはない。
しかし果たして、そうだろうか……?
そもそも、僕は彼らの姿を見せるつもりは無かった。
だから確実に孤立無援だと思った時にしか使わなかったのに……早々に彼らの存在がバレてしまった。
しかし、それに気付いていたというなら、何故、僕にその事を伝えるのか……?
その意図が掴めない。
「そうだ、ダン。いつかのキュラソーから来た通り魔、奴の
「ええ、そうしないと逃げられてしまうと思って」
「……だったらお前さんに、いいものをやろう」
信号待ちの時間を使い、ソガ隊員から手渡されたものは、件の高性能爆薬と同程度の大きさのカプセルだった。
「……これは?」
「小型
「
「そう、そいつは何の設定もできない。頭をひねり混んだら5秒後にボカン! ……いや、ボスン! 精々、少し強い爆竹程度だ。俺がこの前使ってただろう」
「ああ、盛大に投げまくっていましたね……しかし、なぜわざわざそんなものを?」
「……ワルサーP38って知ってるか?」
「いえ……そいつが何か悪さをするんですか?」
「いやいや、銃の名前さ。第二次世界大戦でドイツが作った名銃でな。当時としては革新的な性能を持ち、外観もスタイリッシュ、今でもコレクターには人気の銃さ。とにかくその素晴らしい銃を撃ちまくれたドイツは意気揚々とソ連に踏み込んだ! どうなったと思う?」
「さ、さあ……?」
世界大戦、アマギ隊員に連れられた図書館の資料で知った。
かつて、大昔にこの星で行われた、同種族間の愚かで凄惨な縄張り争い。
セブンはこの話題が苦手であった。
自身の愛した地球人が、かつてはこのように野蛮な行為を平気で行う種族であったのだと突き付けられるようだったからだ。
しかし、どんなに悲惨で虚しい過去も、過ちから目を背けては前に進むことはできない、というのが、M78星雲で大切にされている信念だ。
現に、そのような成り立ちのおかげか、地球の科学力は兵器分野に関してだけは著しく発展している。
全宇宙で見ても、このように歪な発展の仕方をしているのは地球くらいなものだ。
その為に、外宇宙からの侵略をはね除けられているという側面があるではないか。
言語翻訳機も無く、ようやっと惑星探査に乗り出し始めたような種族が、である。
最近得た知識をかき集めて、地球風に例えるならば、ガレオン船でアメリカ大陸に上陸したコロンブスが、手漕ぎのカヌーに乗ったインディアンからレールガンをぶっ放されるようなものだ。
その為に、地球が宇宙に進出する前に、我々が支配し、銀河の平和を守るのだ、等と嘯く連中が、自分達の乗ってきた船の残骸を提供して、その航海技術をメキメキと伸ばしているのは、皮肉としか言いようがない。
「負けたよ。緻密な機構がウリだったワルサーは、冬将軍の寒さで凍り付いてまともに動かなかったんだ。対して、ソ連のトカレフは造りは雑で当たりゃあしない。だが、とにかく単純で、頑丈だった……俺達みたいな鉄砲マニアの間じゃあ有名な話さ」
彼はいつもこうしてこの星の歴史や生物のウンチクを話してくれる。
これは、今すぐにでも自室のレポートに書き残したい。
やはり、ソガ隊員との休暇は心が躍る。
「警備隊の装備は全て最新鋭の精密機器、ワルサーP38も真っ青! そんで、そいつはトカレフさ」
「単純で……頑丈」
「そう、この先どんな場所で戦う事になるかわかりゃあしない。切り札のウルトラガンすら使えないような、極寒や灼熱、未知の空間だってあるだろう。そんな時はひとまずこいつを投げてみる事だ。こいつが動かなきゃ、どんな装備も役に立たん。弾だってタダじゃないんだ。温存しとけ。……因みにそいつはタダ同然だ、なんせ、低性能だからな」
なるほど、彼の言いたいことは伝わった。
最低限度の性能も、時には必要であり、それが打開策足り得る可能性があるという事か。
古い物を大切にする地球人らしい発想だ。
僕を案じて、窮地でも信頼できる武器をくれたのか。
「優しいですね、ソガ隊員」
「……優しい? 俺が?」
「だから、彼らも必死で助けようとしたんでしょう?」
「……恩を売れば、警備隊の兵器開発に協力してくれるだろうと思っただけだ」
憮然とする彼の言いぐさを聞いて、それは違う、と心の中で反論する。
確かにそういった思いも無かったではないだろうが……
あの日、あの部屋で大いに笑い、通信機で喉を枯らし、翌朝、真っ赤な目で遅刻したこの愛すべき地球人の真意が、そのように打算にまみれた物であるはずがない。
なぜそんな大事な事を忘れていたんだ。
猜疑心によって、心の中の第三の瞳が曇っていたのだろう。
やはり、慣れないことはするものではない。
僕は一体何を考えていたのか。
この素晴らしい友情を疑うなんて。
僕の勧めたコーヒーを、旨いと喜び、自分の頼んだガトォショコラなるケーキを分けてくれるこの戦友が、一体何者かなんて関係ないのだ。
彼は、彼なのだから。
――後日、四次元空間に迷い込んだダンは、ウルトラアイによる変身を封じられ、咄嗟に怪獣カプセルを使おうとした。
しかしその間際、この日の言葉が頭を過ぎり、その贈り物を代わりに投げた事によって、この四次元空間の『なにもおこらない』という特性を把握した。
かけがえのない仲間を失うところであったと安堵し、戦友の助言に感謝すると同時に、再び疑心が鎌首を擡げ、頭を抱える事になる。
というわけで、自分を棚に上げてソガを怪しむダンと、セブンの疑心にまるで気付かない能天気なソガ、というお話でした。
セブンは、本業の片手間に地球を救いながら、休暇を使って人類文化史の編纂を行うという筋金入りの仕事人間なのでした。
今話でソガが引き合いに出した逸話ですが、他にも不凍液などの様々な要因だとか、そもそもP38だけの話ではないだとか、とても実話に忠実とは言えませんが、セブンを納得させられればいいや、程度の認識で話しています。
そしてその微妙に間違った知識は彼によって光の国へ……
次話のアンケートです。
読者様にお知らせします……明日、14日の午前零時の時報と共に、アンケートが締め切られます。……あとしばらくお待ちください。
―――
なんと、いつも挿絵をくださっているD×3様から、エンドカードのプレゼントですよ!
【挿絵表示】
カプセルの中身は誰なんでしょうね~
八話において〇〇〇の〇〇〇〇は?
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る
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ぬ