転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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セブン対セブンの激闘(Ⅸ)

 

マックスジョーの右膝を蹴り砕くニセセブン。

 

「うわあああっ!!」

 

支えを失った巨体は、その超重量のままに後ろへ倒れこむしかない。

 

アンドロイドにはセブンの今までの記憶がインストールされている。

そう、彼は()()()()()のだ。

 

キングジョーは如何にして倒されたのかを。

 

そして敵の構造を素粒子透過線でスキャンしてみれば、案の定、敵戦艦の右足だけが不自然に補強されていたのである。

 

後は簡単だった。アイスラッガーで寸分の狂いなく同じ箇所を切りつけながら、その回転数を特殊な周波数に調整。

 

そうして敵の装甲を極限まで脆くした上で、関節構造的に想定外の方向から負荷をかけた。

 

ただそれだけだ。

 

言葉にすれば容易いが、とても一瞬の内に為し得る事ではない。だが、アンドロイドの驚異的な演算能力と精密さを持つ彼になら、それが出来た……というだけ。

 

無線操縦で戻ってきたアイスラッガーを頭頂部へ戻し、無感動にマックスジョーを見下ろすゼロセブン。

その代償として銀の刀の先端が、ぼろりと無残に刃こぼれするが、対する金の鎧はさらに悲惨な傷を負った。

 

「無事か!? マックスジョー! 応答せよ!」

 

キリヤマ隊長がビデオシーバーに叫ぶ。

 

「な、なんとか……」

 

「各員状況報告……!」

 

「右脚部損失……起き上がれません……!」

 

「なに!? 航海長! 折れたのか! 見せてみろ!」

 

「俺のじゃない! マックス号の足だ!」

 

所々の配線が歪み、火花を散らすブリッジ内で、かろうじて意識を保っていた数名が、思い思いに返答する。

 

流石にペガ星人の円盤は、乗員保護に関してはピカイチだった。

急激なGの変化に、突撃時の重力緩衝システムが自動で働いたのか、凄まじい勢いで地面に叩きつけられたにも関わらず、乗組員達は致命傷を免れ、運の悪い数名も気絶で済んでいた。

 

しかし、機体の方はそうもいかなかったのである。

 

「か、艦長……駄目です! 艦橋からの操作を受け付けません!」

「なにっ!?」

「腹部と胸部を繋ぐメイン回路が、今ので断線してしまったようです!」

 

キングジョーは元々、四つのパーツに分離して運用する兵器だった。

 

もちろん、そんな複雑怪奇な機能を持つ接合部を完全再現できる筈もなく、それらの繋ぎ目は本来とは別の方式で、無理矢理連結されている。

 

ただでさえ、全く異なる技術体系の鹵獲兵器を継ぎ接ぎにしているのに、体内のパーツがほとんど純正品では無くなってしまっている為、例えハード面は良くとも、中身の配線部分までは、元機体に追いつけていなかったのだ。

 

腰を思いっきり強打してしまったマックスジョーは、すっかり全身不随に陥っていた。

 

「なんとか立て直せないか!?」

「何度やっても認識されません! ブリッジからの出力がマックスジョーから切り離されてしまって……ああっ!?」

 

半分視界の無くなってしまったメインカメラからの映像を見た通信班長は、思わず恐怖の叫びをあげた。

 

金色の大槌を振り上げた、血染めの悪魔と目が合ってしまったから。

 

『Dywaaaa』

「うわあああっ!」

「ああっ! マックスジョーが!」

 

凄まじい衝撃音が響き渡る。

 

確かにマックスジョーの胸を守る風防は、ウルトニウムルビーとペダニウムサファイアの複層構造で形成され、光を透過しながらも、セブンのパンチすら弾き返す靱性を備えている。

 

しかしあくまで、その強度は船体外殻の中でも二番目止まりであり……それ以上に堅い素材で何度も攻撃されて無事かと聞かれれば……。

 

 

堅い素材、そう例えば特に……ペダニウム製のパーツとか。

 

 

『Dywaaaa』

 

 

完全に逆方向へ折れ曲がった右足を、力任せに膝から捻じ切ったニセセブンは、それをハンマーのように担いで、身動きひとつできないマックスジョーの、七色に輝く胸に目掛けて振り下ろす!

 

容赦なく繰り返される破壊の意志。

 

何度も、何度も。

 

「そ、損傷拡大!」

「胸部ダメージ77%突破! これ以上は持ちません!」

「ぐわっ!」

「ペダニウムエンジン出力低下、尚も進行中……!」

 

機体に衝撃が走る度、そこかしこから火花や蒸気が噴出し、乗組員を苛んでいく。

ついに、ばきりと一際大きな破壊音が聞こえると、マックスジョーの窓に、蜘蛛の巣の如き亀裂が無数に走っていた。

 

「……や、止むを得ん……総員退艦……」

「ああっ! 間に合わないッ!?」

 

トドメを刺すべく、金の斧を高々と振りかぶる深紅の巨人……

海兵達が死を覚悟した……その時!

 

『ダァー!!!』

『Dywaaaa』

 

天空から飛来した太陽の使者が、錐揉み回転しつつ、悪魔の胸を蹴り抜いた!

 

「せ、セブン……」

「セブンだ……」

「本物だ……本物が来たぞー!」

「俺達のセブンが来てくれた!」

 

皆の声援を背に、自身の偽物と対峙する紅蓮のヒーロー!

 

しかし、彼は明らかに肩で息をしており……

 

「アッ! 見て、セブンの額を!」

「……点滅している!」

「敵も馬鹿ではあるまい。偽物を用意する以上、本物の動きは封じておいたはず」

「だからさっきは、自分の代わりにアギラを寄越してくれたのね」

「きっと敵に捕まって、拷問を受けていたんだ!」

「それを無理やり振り切って、駆け付けてくれたってのか!?」

 

誰から見ても、明らかな消耗のサイン。

 

墜落寸前の飛行型アンドロイドを一撃で粉砕し、驚異的な速度で海上を駆け抜ける加速アンドロイドとの、スピードを超越した激闘を経て、ついにセブンは仲間達の元へ姿を現した!

 

しかし、戦友の危機へ間に合うためには、充分なエネルギーチャージを行えず、かろうじて最低限の巨大化状態を維持するのが精いっぱいという有様だった。

 

「くっそ……マックスジョーが動けばなぁ……マグネリウムエネルギーを分けてやれたんだが……」

「そうだ! アレをぴぴーと撃ちかけてやりゃあ、セブンはたちまち元気になる! アマギ、なんとかなんねぇか!?」

「残念ながら……マグネリウム発振機はここにはないよ」

「なんで!? マグマライザーついてんじゃん!?」

 

ソガは擱座したマックスジョーの左腕を指さした。なんなら、彼がマグマライザーを格闘兵装として転用する提案をしたのは、密かにこれを狙っていたからだ。

しかしアマギはゆっくりと頭を振る。

 

「僕たちがセブンを救い出した時に乗っていたのは2号機……マックスジョーの左腕部に使われているのは……1号機の方だ」

「なんだって!」

「そもそも、なぜアレの転用許可が下りたと思う? キミたち二人がクレージーゴン相手に無茶をして、車体中央部の構造体がすっかりお釈迦になってしまったからだ! だからガッツの時には当然動かなかったし、機体に累積したダメージで、もはや修理するよりもパーツに使ってしまった方が早いと判断されたんだ!」

「そうか、あん時にセブンが引っこ抜いた奴か……」

「クレージーゴンに挟まれて……ん? クレージーゴン?」

 

その言葉に引っかかりを覚えたソガは、腕組みしながらすっかり物覚えの悪くなった頭を懸命に働かせ、しばし黙り込んでからハッとした。

 

「1号機ならアレが出来る!」

「何ができるってんだ?」

「MHサイクルレーザーが撃てます!」

「……お? おお!? なんかあったな! そんなもん!」

「あれで回路を狂わせてやれば……少なくとも……マシ……うーん」

 

言いながら、ソガは段々自信が無くなってきた。

もしもカナン星人の光線が効いたとしても、そのまま機能停止するのではなく、あくまで暴走するだけという事が分かっている。

 

であればそれをニセセブンに使ったとて、ただセブン並みの強さをもつクレージーゴンが爆誕するだけだからこそ、彼はあの兵器を今まで選択から無意識に除外していたのだから。

 

「待てよ、レーザーならどっちみちダメじゃねえか。さっきのバリアで防がれてオシマイだぁ」

「そっかぁ……」

 

フルハシの言葉に、がっくりと膝をつくソガ。

 

……そうだった。あのニセセブンは何故か知らないが、原作になかった能力を搭載している。

もしもあれがダブルオーの使っていたバリアなら、確かエメリウム光線すら防いだような……

 

セブンに対して使うマグネリウムエネルギーならいざ知らず、敵に対してつかうMH光線では……お手上げだ。

 

「待って下さい。なぜ二人とも……いや、ソガ隊員は、アレが敵に効く前提で話を進めているんです?」

 

「なぜって? そりゃあアレはロボット怪獣の特効兵器みたいなもんだし…………あ」

 

「そうだ。もしもニセセブンがU-TOM兵器ならば、そのプランで間違いは無い。だが、同族を捕まえてきて洗脳していたり、クローン培養したのだったら? それに例え体はメカでも、脳などの中枢神経が有機体であるサイボーグだったなら、やはりアレは効かないぞ。別のプランが必要だ」

 

「で、でも……」

 

ソガは知っている。

ニセセブンが完全なロボットである事を。

だがそれは。

 

「なあソガ……()()()()()。あの偽物は……ロボットで間違いないんだな?」

 

「……」

 

アマギがソガの肩にそっと手を置いた。

そして、彼の手も微かに震えているのを感じとったソガは……

 

「……その通りだ! あれは……サロメ星人の作ったセブン型ロボットだっ!!」

 

決意と自信に満ちたソガの表情を、真正面から覗き込んだアマギは、穏やかに微笑んでから目を閉じる。

 

「ありがとう、ソガ隊員」

 

……そして、再び見開かれた彼の瞳には、普段通りに、深い叡智と理性の煌めきが宿っていた!

 

「ならば話は簡単だ。マグマライザーのコックピットはまだ生きている。……こんな事もあろうかと、制限を解除すれば、サブ権限で単純な操作を出来るようにプログラミングしておいた」

 

「……本当か!?」

 

「ああ、マックスジョーは未知の技術の寄せ集めだ。一つくらいは既知の技術を入れておかないとな」

 

「アマギィ!!」

 

「やめろ暑苦しい」

 

感極まって足に縋りつくソガを、心底鬱陶しそうに引きはがすアマギに向かって、今度はフルハシが疑問を呈す。

 

「でもよ、敵のバリアはどうやって破るんだ?」

 

「それについては問題ありません。一口にレーザーと言っても所詮は電磁波。特にMH光線は電波に近い性質を持ちます。電磁波の中でも電離が可能なものとそうでないものがあって、MHサイクルは超低周波に属する、所謂ELFなので……」

 

「あー……つまり、どういうこったよ」

 

「加害能力が低く……えっと……ベクトル方向の勢いが弱いので、そもそも拡散されません」

 

「なにぃ!? 勢いが弱いから逆に通り抜けられるだぁ?」

 

「……こういうコトよ、フルハシ隊員」

 

するとアンヌが横合いから、フルハシの鍛え抜かれた腹筋に向かって思いっきりパンチをかました。

突然の事にギョッとしたフルハシは、咄嗟に大きな掌で彼女の細腕をパシリと受け止める。

目を白黒させたままの彼に優しく微笑んだ彼女は、そっと慰めるように逞しい肩をゆっくりとさすり……

 

「……ね?」

「ん? ……ああ! そういうことかぁ!」

 

途中で自身が握り込んだアンヌの小さな拳と、肩に置かれたままの左手を交互に見比べ、フルハシは大きく納得した。

 

「一番の問題はあそこへどうやって行くかですが……」

 

尻もちをついたままの姿勢で機能停止したマックスジョーの左手は、高々と掲げられたままになっており、地上からはとても登る事が出来ない。

しかし、背後でセブンと偽物の戦いを見守っていたキリヤマが、腰に手を当てこちらを振り向いた。

 

「安心しろ、私が連れていってやる」

「……隊長」

「決まったか? ではこれよりマックスジョーを再起動し、セブンを援護する。フルハシ、ソガ、アマギはパラシュートを装備してβ号へ。アンヌはここに残って退艦してくる乗組員を救護するんだ。いいな!」

「「「了解!」」」

「……ん、パラシュート……?」

 

―――――――――

 

『デュワ!!』

『Dywaaaa』

 

額から放たれたエメリウム光線が互いの威力を相殺し、両者の中心で激しく火花を散らす。

 

「ダンの奴め、やっぱり生きていたか!」

 

「でもご安心下さい。もはや彼にエネルギーはなく、動ける味方もいません。我らのセブンに勝てるはずがありませんわ」

 

「そうだな。このままスタミナ勝負に持ち込んで、削り倒してしまえ!」

 

『Dywaaaa』

『ジュアーッ!』

 

戦士達が、同時に必殺武器を投げ放ち、敵の刃を弾き返す。

そのまま激しく空中戦を繰り広げるアイスラッガー。

しかしなんと、徐々に偽物側が押されていくではないか!

 

「やったー! 奴さん、マックスジョー相手に無理するからだ。アイスラッガーの投げあいなら、俺達のセブンが有利だぜ! 見ろよ、ソガ!」

「ごめん先輩。いまそれどころじゃない。……誰だよ、こんな作戦考えたの……」

「元はと言えば、お前が言い出した事じゃないか」

「まさか落下傘訓練がホントに活きる場面がくるなんて……トホホ」

 

ベータ号のハッチにしがみ付きながら、青い顔で震えるアマギとソガ。

 

「こんなの正気じゃない……」

「へへ、俺たちゃもうとっくにそうだったよ。シラフで地球が守れるかってんでぃ!」

「いいか! チャンスは一度きりだ! タイミングを誤るなよ!」

「……ええい、ままよ!」

 

ベータ号が、敵に悟られないよう、巧みな低空飛行で擱座したマックスジョーの上空を飛ぶ。

 

「今だ! いけっ!」

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙~!」

「どりゃあああー!」

「へ、ヘヤァ~!」

 

ロープで互いを結んだ三人が、マグマライザーへ飛び降りるのを確認し、注意を逸らす為ニセセブンへの攻撃を開始するキリヤマ。

 

意を決して飛び出したソガはと言えば……

 

「う、うわ~! 助けてぇ~!」

 

見事にマグマライザーへ引っかかったロープの先で、ぶらんぶらん揺れつつ叫んでいた。

 

「ったくビービーうっせえなぁ……言われなくとも今引き揚げてやるよ」

 

どっしり構えたフルハシが、半ベソの後輩達を引き揚げると、三人で力を合わせ、上開きになってしまったマグマライザーの重たいハッチを持ち上げる。

 

「どうだ? アマギ?」

「……ああ、これなら制御系統を切り替えるだけだから直ぐだ」

「よっしゃ! 後は任せたぞ、ソガ!」

「ええ! 絶対に外したりするもんですか!」

 

斜めに傾いたシートに座り、意気揚々とスコープを覗くソガだが……

 

「あれ? 動かないぞ?」

「どうした?」

「いえ、マックスジョーの腕が動かないんです……これじゃ照準が合わせられない!」

「そんなハズは……まさか!」

 

慌てて計器をチェックしたアマギが、頭を抱える。

 

「し、しまった……メインエンジンの出力が足りない……」

「なに、出力が?」

「ええ、胸の採光窓がひび割れてしまったから、充分な明るさを確保できなくなったんだ! 光がないとペダニウムエンジンは動かない!」

「なんだとっ!?」

 

予想外の事に驚愕するメンバー達の前で、二人のセブンが格闘戦を始める。

 

両者一歩も引かないデスマッチが繰り広げられるなか……

 

『Dywaaaa』

 

まるでガッツポーズのように両腕を掲げたニセセブンの口から、白銀に輝く息が吐き出された!

 

『デュワァーッ!?』

「ま、まずい! 冷気だ! ヤロウ、セブン対策にあんなもんまで積んでやがった!」

「そんな!」

 

太陽の子を蝕むダイヤモンドダスト!

サロメ星人がプロトタイプで真に研究していたのは、空気中から温度を取り出してしまう技術!

周囲の窒素から熱量を奪い、液化したソレを相手に吹き付けるセブン殺しの秘密兵器!

 

火炎放射はその研究過程で生まれた副産物にすぎなかったのだ!

 

「ハッハッハ! お前はゼロセブンには絶対に勝てんと言っただろう! ここがお前の墓場だ! 死ね、ダン!」

 

「くっそぉおおお……! 動け! 動けよおおっ!!」

 

「やめろソガ、そんな事をしても……」

 

ガチャガチャと狂ったようにレバーを動かすソガをアマギが止めようとした時……

 

ガコン

 

「……えっ、動いた?」

「そんなまさか……」

 

半信半疑でチラリと横を確認したアマギは目を疑った。

出力を示す数値が、僅かに……ほんの僅かにだが、先ほどよりも上がっている。

 

なぜ? 時間が経過してペダニウムエンジンに太陽エネルギーが集まったのか……? いやこの短時間でそんなはずは……

 

「どうなんだ? 直ったのか? 故障か?」

「い、いえ……確かに出力は上がりましたが、原因は……」

「そうか! まだ直りきってねえんだな? いよーし! 任せろ!」

 

困惑しっぱなしのアマギを置き去りにして、腕まくりしたフルハシが周囲の壁を手当たり次第に叩きまくった。

 

「ちょ、ちょっと! 何をしてるんです?」

「機械なんてな! 叩きゃあ直るんだよ! ウチのテレビもお袋がブッ叩いたら映りがよくなったもんさ! ここか!? ここか!?」

「うおおおっ! 動け! 動けええ! 今動かねえで、いつ動くんだよこのポンコツー!!」

「や、やめろ! 二人とも! そんなので動くわけないだろう!」

 

狂ったようにレバガチャするソガと、盛大に騒音を撒き散らすフルハシに囲まれ、アマギは気が変になりそうだった。

ところが、そんな彼を嘲笑うかのように、出力ゲージがみるみる溜まっていくではないか!

 

「ば、馬鹿な……」

「うおおっ! このままセブン一人に戦わせてられるかってんだよォーッ!」

「そうだ! 俺達がアイツを助けてやらなきゃあ、いってえ誰がやるってんだ!?」

「二人とも……」

 

その時、一心不乱の仲間達を見つめるアマギの脳裏に、ある一小節がよぎる。

 

――ダイテッカイを完成させるのには、人の熱い思いが必要なのです。

 

「……そうか、量子変換システム……」

 

損傷により、最大出力が低下してしまったペダニウムエンジンを補助するために、サブエンジンとして搭載されていた、眉唾物の機関名がアマギの口から思わず漏れる。

 

量子レベルの変換システムは、人の思いをエネルギーに変換することが可能だなどと、所詮は空想科学小説の中だけの話だと思っていたが……

 

――しかし、それは不可能ではない。科学を夢見たあの日のことを、忘れさえしなければ。

 

「そう……ですね」

 

「アマギ……?」

 

休憩中に読み進めていたら、今やすっかりファンになってしまった著作のテーマは、アマギの心にも確かに響いていた。

彼もまた、かつて科学を志した純粋な少年の一人だったのだから。

 

レバーを握るソガの手に、アマギの繊細な指が重ねられる。

 

「ソガ、科学は常に、正義のために在らねばならない……そうだな?」

 

「……ああ! そうだ! 決してあんな存在を許してはならない!」

 

「よし、フルハシ隊員! こっちへ!」

 

「どうした!?」

 

「地球を救うには、我々とマックスジョーが一つになるしかないのです!」

 

「お? ……おう!」

 

フルハシの武骨な手が、レバーの上から添えられる。

 

「ソガ! お前の熱い思いを、マックスジョーに注ぎ込むんだ!」

 

――そうすれば、あの荒ぶる神を、正義の神に変える事が出来るでしょう。

 

――この美しい星を、素晴らしい友のいる星を、異星人に侵略させてはなりません。

 

「「「うごけぇええええ!!!」」」

 

三つの心が一つになれば、一つの正義は……100万パワーだ!!

 

量子システムによって変換された勇気と熱意によって、エンジンが再起動し、背部クレーンを支えに使ったマックスジョーが上体を起こす!

 

「偉いぞ! それでこそだぁ! マックスジョーは男の子!」

 

「くそっ!! こっちを向きやがれー!」

 

口のスリットから蹲るセブンに向かって冷気を吐きかけ続けるニセセブン。

電子頭脳があると思しき額を正確に狙わねわなければ効果は無い。

 

「顔を向けさせればいいんだなっ!」

 

急降下したベータ号がセブンロボットにミサイルを浴びせかけ、わざとその顔面を掠めるように低く飛び、敵の注意を引いた!

 

一直線に飛ぶベータ号に狙いを定めたニセセブンの額から、エメリウム光線が銀の翼を貫く。

黒煙を上げながらフラフラと墜落していく小型戦闘機。

 

「ぐわっ!」

「隊長!?」

「私に構うな! お前は自分の使命を全うしろ!」

「……うおおお、くらええええ!!!!」

 

対空攻撃の為に、不用心に振り返った敵ロボットの額へ目掛け、マックスジョーの左腕から虹色のオーロラ光線が照射される!

 

気付いたニセセブンが咄嗟に頭を傾け避けようとするも、彼の首は火花を散らすばかりで、まるで寝違えたように動かない!

 

『Dywaaaa』

 

当然、電磁フィールドを張ったゼロセブンだったが、壁に当たった光線はそこからプリズムのように乱反射して、彼の顔面を照らした!

 

頭を押さえ、身悶えるアンドロイドセブン!

 

「やったー!」

 

「効いてるぞ!」

 

「な、なんだあの攻撃は!? なぜフィールドが効かん!?」

 

「わ、分かりません……! そんなはずが……!」

 

しかし、苦痛に仰け反ったのが幸いしたのか、偽物の頭部はすぐにオーロラビームの射線から外れてしまった。

 

「ビームはあのぺダン星人のロボットからだ! 奴は今動けない! 後ろへ回り込め!」

 

『Dywaaaa』

 

素早く地面を転がった巨大アンドロイドは、座り込んだままのマックスジョーの背中へ、L字に組んだ腕から極太の太陽光線を発射しようとする。

 

『デュ!? ダァー!!』

 

「「「わぁああああ!!」」」

 

なんとか飛びついたセブンによってゼロワイドショットの直撃を免れたものの、掠っただけで凄まじい威力だ!

 

今度は組み付いた戦士に向けて、至近距離から冷気攻撃! なんという戦闘力! アンドロイドゼロセブンは無敵なのか!?

 

『ぐわあ……』

『こ、このままじゃヤバいぞー!』

「みんな……ッ!」

「ま、待つんだ! アンヌ隊員! どこへ行く!」

 

ビデオシーバーから流れる悲鳴を聞いて、海兵達を手当てしていたアンヌが脱兎のごとく駆け出した。

 

走る……走る!

 

精鋭として鍛え抜かれた健脚で、彼女が目指していたのは……

 

「……良かった……生きてる!」

 

アンヌは恐れる事無く、地に伏せる怪獣の目の前まで行き、僅かに呼吸する緑の瞼に向かって大声で叫んだ。

 

「アギラーっ! 起きて! アギラ―!」

 

ざらざらとした表皮にぴったりと手をそえて、巨大な顎に祈りを捧げるアンヌ。

 

「お願い……みんながピンチなの。このままでは貴方のお友達も死んじゃうわ! お願いよ、起きてアギラ。今は貴方だけが頼りなのよ!」

 

『a……gra?』

 

「……アギラ! あのマックスジョーを、貴方の大きな体で支えるだけでいいの! 小さい私にはできないけれど、貴方ならきっと……! お願い、セブンを助けて……!」

 

『AA……AGRAAAAAAAA!!』

 

ゆっくりとその身を起こした怪獣は、座り込んで動かない鉄人形へドタドタと走り寄ると、両脇に腕を通して一生懸命に助け起こそうとした。

 

しかし、どれだけ力を籠めてもビクともしないではないか。

 

エリマキを懸命に動かして、鼻息も荒く悪戦苦闘するアギラだが、非力さだけはどうしようもない。

マックスジョーは呆れるほどに重いのだ。

やはり彼では力不足だったか……

 

「アギラ! 頑張って!」

「負けるなアギラ!」

「おめえなら出来る! ふんばれ!」

「やれぇええ! アギラーーーー!!」

 

『AGRAAAAAAAAAAAA!!』

 

その時、アギラが天に向かって力いっぱいに吠える。

 

……すると、彼の体が眩い光に包まれたかと思えば、みるみるうちにその身が変化していくではないか。

 

体を支える鱗と骨が、まるで鋼鉄のように硬化して、一気に密度を増したかと思うと、全身の筋肉が蒸気を吹き出す程の熱量を帯びて膨れ上がり、彼の心臓はさながら原子炉の如く早鐘を打った!

 

『GRAAAAAAAAAAAA!!』

 

信じられない事に、徐々に持ち上がっていくマックスジョーの大質量……!

 

「よっしゃああ!! お前は最高の怪獣だぜええ!!!」

「いけえソガ!」

「ぶちかませーーっ!」

「くらええええええ!!!」

 

再び照射される虹色の輝きが、ニセセブンを包み込んだ!

 

『Dywaaaa!!』

 

頭部を押さえつつ、地面をのたうち回るニセセブン

 

「いまだ! セブン! ワイドショットだ!」

『デュワ!!』

 

セブンは頷き、その両腕をL字に組んで……

 

『待て! コイツがどうなってもいいのか!?』

 

両者の眼前に、サロメ星人の水中翼船がふわりと浮かび上がった!

偽装宇宙船の下には、トラクタービームによって囚われたベータ号!

 

『ジュオ!?』

「あっ! 隊長……!」

「何をやっている! 侵略者の策に乗るんじゃない! 早く私ごと敵を撃て!」

『デェ……ア……』

「惜しかったなぁ? 地球人共め、ハッハッハッハ!!」

 

高笑いを響かせるサロメ星人達の後ろで、ニセセブンが立ち上がる。

 

咄嗟に攻撃を躊躇してしまったせいで、彼らはアンドロイドを倒す絶好のチャンスを失ってしまったのだ。

 

「さあ! 我らがセブンよ! こいつらを焼き払ってしまえ!」

 

仁王立ちしたアンドロイドは、地に伏せる敵陣営を見下ろした。

 

地球人達のロボットを支える怪獣と……そしてそれを背に庇う真っ赤な宇宙人……

 

「どうした? ゼロセブン? 何をやっている……」

 

偽物ロボットは、しばしの間……自らと同じ姿をした愚かな異星人と視線を交わし……そして、彼が今まで守ってきた、この星の豊かな大地を見渡してから、静かに澄み渡る大空を仰いだ。

 

「ゼロセブン! 早くせんか! 今こそウルトラセブンを超える時だ!」

 

『Juwa!』

 

こくりと頷いたアンドロイドは……眼前の宇宙船を掴んだ。

 

自らの造物主達の乗る船を。

 

そのままトラクタービーム発生装置をメリメリと力任せに剥ぎ取っていくではないか。

 

「キャアアアー! 気でも狂ったのゼロセブン! 誰がお前を作ってやったと思っているのです!?」

「な、何をする……! は、はなせ! 離さんかこの……不良品め!」

 

『Dywa……』

 

『……デェワ』

 

『……Daaaaaaa!!』

 

そうしてから一度だけ、自身と同じ銀色を呈す男の顔をチラリと一瞥すると、そのまま沈みゆく太陽を追って、空の彼方へと飛んでいき……

 

やがて、上空に大輪の花が咲いた。

 

そのボディの色の如き、真っ赤な紅蓮の花が。

 

「……な、何が起こったんだ……?」

「暴走してコントロール不能になったんでしょう」

「いや……多分……」

 

隣に立つ深紅の戦士の横顔を見たソガからは、その銀色に輝く表情が、どこか寂しげに見えて。

 

「奴らは完璧に再現しすぎたんだ……ウルトラセブンという存在を……」

 

地球を愛した平和の使者は、自らの兄弟が消えた西の空を、しばらくの間、ずっと見つめ続けていたのだった。

 

 





という訳で、第46話「ダン対セブンの決闘」でした。いかがでしたでしょうか。

ウルトラシリーズ……というか、ヒーローもののお約束とも言うべき偽物回。

大抵はデザインや配色が微妙に異なっていたり、強さまではコピーできていなかったりとまちまちですが、ニセセブンに関しては見た目の差異も少なく性能も本当に互角! という恐るべきロボットです。

なので、ソガ的にどう倒すかとなると……まあこうなるよねっていう。
むしろここで出さずして、いったいいつ出すのか!? って話ですよ。

作者の大好きな要素を全部載せした浪漫の塊マックスジョー。やっぱり玩具は売らないとね。
おまけに上層部が新規怪獣は出さずに最終回前の盛り上がる話作れっていうんだから……困ったもんです。過去の怪獣達にも存分に出張ってきて貰いました。

ぺダン回からずっと「警備隊カスタムはいつ出すんですか?」と聞かれ続けていたキングジョーはじめ鹵獲兵器達ですが……いやはや、ようやく出せて良かった。
コイツはコイツで最強兵器ですから、ぶつける相手にも相応の格が必要ですからね……
多分皆さんも、この作者はいつか出すだろうな……と思っていた事でしょう。これ書きたくて筆執ったまである。

実は一部の改造案も、感想欄で防衛隊員の皆さんからいただいたアイデア、及び返信での与太話を基にしていたりします。こういう面白さがweb小説の醍醐味と言えるでしょうね。ありがとうございます。
もしくは変なサンダル履いてる研究員に紛れて、小説サイトに入り浸ってるような不良技術者がいたのかもしれませんが。

逆に言えば、かなり早い段階でコイツの建設プランは既に固まっていたわけで。もう早く展開をゲロりたくてウズウズしてました。ここまで書き進めるのが辛かったぜ……

初見の方の為に補足しておきますと、今回出て来た量子変換システムというのは、平成版セブンの『空飛ぶ大鉄塊』に出て来るロボットに使われていたシステムです。

地球に不時着した宇宙人が、いつか自分の宇宙船を作れる者が現れるのを願って、分かる者が見れば分かるように、自身の小説内に設計図を隠していたのですが、よりによってそれに目をつけたのは侵略者だった……というお話。

これに出て来るダイテッカイが、キングジョーもかくやという強さを見せつけるわけですが……小説の暗号だけで第三者があんな凄いの作れるなら、本人に直接協力してもらえばキングジョー再建とか楽勝やんけ! と例のごとくソガが血眼で探し出したわけですね。

ペロリンガ回でメトロンが探してたのも、このキュルウ星人なのでした。争奪戦には原作知識分のアドバンテージがあるソガがタッチの差で勝利しましたが、危ないところでしたね……

空飛ぶ大鉄塊は、作者が平成版で1、2を争う程好きなお気に入り回なので、興味のある方はご視聴してみて下さい。

あと、勘のいい人は009要素も拾ってくださっていましたが、これはサブタイ考えてる時に思いつきました。
ダン=セブンが不在の中、警備隊5人とアギラ、マックスジョーを合わせた七人とニセセブンが戦うなら、本物も本物で7人の敵と戦って貰うか……! ってなったわけです。

本作は既に00と01が登場してるので、9-2で7人残ってましたからね。
え? セブンは08とは戦ってないじゃないかって? うん、気付いたらいつの間にかマックスジョーが倒しちゃってたんですわ。
勢いって怖いね。ご愛敬ってことでひとつ。
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