転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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前回から大分時間が空いてしまって申し訳ない!
ちょっと職場の穴埋めが急に増えまして……

とうとう最終エピソードまであと1話!

ですが!

……ここでいったん箸休めですわ。


お前はだぁれ?(Ⅰ)

 

 

『キャィ! キャィ!』

 

耳障りな甲高い叫びが、月明かりの下で、闇夜の中を躍り狂う。

 

『デュワー!』

 

背後から飛びかかってきたフック星人を、背負い投げで軽々と放り飛ばすセブンだが、間髪を入れずに別の個体が躍り出るため、追撃をする暇がない。

 

まるで新体操選手のような身軽さで、敵の周囲を散々に跳び回り、真紅のパワーファイターを翻弄していくフック星人。

 

洗練された、実に見事な連携だ。

 

それもそのはず、フック星は地表温度が高過ぎるために、殆どの生物は、地層内にできた巨大な洞穴空間に棲息している。

 

光の届かぬ昏い生活の中で、彼らの目は次第に退化していき、代わりに聴覚が異常に発達した。

 

顔面の大部分を覆い尽くす程に肥大化した、反響板のような鼻葉組織から、特殊な超音波を絶えず発し、パラボラアンテナもかくやと言うほど巨大な耳で、その音響反射を拾う事で、周囲の状況を察知する。

 

他種族には聞こえない超音波によるコミュニケーションは、もはや一種のテレパシーの領域に達していた。

 

互いに綿密な声かけをし合う事で、どれだけ機敏で複雑なアクロバットをしても、それが破綻する事は絶対にないのである。

 

これぞフック陸戦隊浸透作戦群の精鋭達が誇る、近接集団格闘術!

 

ウルトラセブンの用いる、恒点観測局の護身術をベースとした我流拳法は、タイマン勝負では無類の強さを発揮するが、多対一の状況には滅法弱い!

 

そもそも観測局では、そんな状況なら真っ先に逃走を推奨していたので、集団戦を真正面から打ち破る事は元より想定されていないのだ。

 

華麗な宙返りを見せつけながら、闇を切り裂き、しなやかに躍る影が三方から迫る!

 

『キャイ』『キィ』『キュアァッ!』

『ジュオッ!?』

『『『キェイイーー!』』』

 

握り拳を突き出して身構えるセブンの眼前で、三つの影が宙を舞う。

 

彼らはセブンに指一本触れようともせずに、脅威的な跳躍力を発揮して、ただその頭上を飛び越した。

 

一体どういうつもりなのか……?

 

『デュ……ア……』

 

その時、セブンが頭を抑え、苦しげに呻いた。

 

『キキィ!』

 

敵が片膝をついたのを見て取り、フック星人の一体が喜色を隠さず声を挙げる。

 

――そう、声だ!

 

彼らの武器は、アクロバットから繰り出される遠心力を乗せた打撃や、三位一体の連携術だけではない。

 

強力な超音波を駆使したエコーロケーション。

それは、反響定位だけに留まらず、武器にもなる。

 

音というのは即ち、振動であり衝撃波だ。

クジラやイルカは、仲間とのコミュニケーションに使う超音波を、至近距離で獲物にぶつけ、その脅威的な爆音の圧によって対象を気絶させてしまう。

 

フック星人もまた、互いの体が触れ合うか否かといったギリギリの距離から、セブンの頭部に目掛けて最大出力の超音波を叩き付け、彼の聴覚と脳に直接ダメージを与えていたのだ!

 

セブンの五感はそれこそ常人の何百倍。

人間ですら、敏感な者ではモスキート音などに不快感や頭痛を覚えるというのに、それを指向性を持って叩き付けられればどうなるか。

いわんやセブンの聴覚ならば。

 

「あっ! セブンが!」

 

フルハシの通報で駆け付けた2機のウルトラホーク。

マンモス団地をバックに、頭を抱えて苦しそうに蹲る真っ赤な巨人の姿に、3号の中でアンヌが叫ぶ。

 

「今助けるぞ!」

 

「待て!」

 

アマギが、セブンを援護する為にホーク3号を先行させる。

そこへピンポン球のようなフック円盤群が襲いかかった!

 

「うわっ!」

「きゃあ!」

 

球体円盤群のトラクタービームによって、空中に固定されるホーク3号。

 

「いかん!」

「隊長、人工太陽弾を!」

「なにっ!」

「奴らは夜行性だから強い光に弱いはずです! それでカタがつきます!」

「よし、発射!」

 

円盤群の頭上で、極小の日輪がバッと煌めき咲き誇る。

 

たった一瞬の事だと言うのに、それだけで円盤群は蜂の巣を突いたような大騒ぎ。

 

操縦を誤り、僚機に激突して爆散する機体もあれば、パイロットが気絶したのか、そのままフラフラと眼下の団地型前線基地に墜ちていき炎上する円盤達。

 

高い練度で密集陣形を敷き、見事な弧状の突撃形態を描いていたのが仇となった。

 

忽ち大混乱に陥って、右往左往する隙を、警備隊が見逃すはずもない。

 

すっかりトラクタービームの照射も止んで、自由になった3号からミサイルが雨霰と降り注ぎ、辛うじて立て直した機体には、1号からの狙い澄ましたレーザーが突き刺さる。

 

人工太陽の輝きは一瞬であったが、炎に巻かれて次々と墜ちていく円盤達のおかげで、光源が絶える事は無い。

さながら、灯火に灼かれる胡蝶の如し。

 

「弱点が分かればこっちのものだ!」

「喰らいなさい!」

 

瞬く間に円盤を片付けたホーク3号が急降下。

蹲るセブンを取り囲む、巨大フック星人達の中心に目掛けて、人工太陽弾を解き放った!

 

『『『ギュアアアァッーー!』』』

 

彼らの目は、退化しているとは言え、完全に無くなった訳ではない。

 

むしろ僅かな明かりの中でも、洞窟が外と繋がっている方向は見えるように、顔面の表皮には光の強弱を受容するための桿体細胞が全方位に散在していた。

なんなら、人類がとっくに捨て去ったハズの紫外線すらも、彼らにとっては可視光だ。

 

フック星人の戦闘服が透明なのは、彼らの世界に色が存在せず、互いの位置把握の為に、音や光を反射しやすい素材を選んだからに過ぎない。

 

そんな服が鏡のように、お互いの視覚器を……つまり顔面を灼いた。

 

明順応すら許さぬ一瞬の輝きと、太陽が現出する際の凄まじい爆音によって、フック星人達の世界は、白一色に塗りつぶされてしまったのだ。

 

『デュワ!』

 

直ぐさま立ち上がったセブンは、腕をL字に組んで、太陽光線を三方へ同時発射した。

 

彼らの戦闘服に、生半可なビームでは弾かれてしまうので、純粋な熱量が必要だったというのもあるが、彼も彼で、ぐわんぐわんと歪んだ視界の中で、他の小細工をする余裕が無かったのである。

 

本当は極太の光線で3匹同時に薙ぎ払うつもりだったのだが、エネルギー残量がそれを許さなかった。

 

「よっしゃああ!」

 

蒸発したフック星人を見下ろしながら、ホーク1号の中で、ソガがガッツポーズを決めた。

 

「よし、3号はそのまま帰投せよ。私たちは、撃ち漏らしがいないか、念の為パトロールしてくる」

 

『了解!』

 

「というわけだソガ、一廻りするぞ。少し付き合え」

 

「もちろん。お供します」

 

通信機を戻したキリヤマの事後承諾を、二つ返事で了承するソガ。

 

戦闘終了によって一気に緊張状態から解放され、酷い眠気がじんわりと迫ってきていたが、そんな事はおくびにも出さず、眼下の街を見下ろす振りをしながら、こっそりとアクビを噛み殺した。

 

本当は、今すぐにでもベッドへダイブしたいくらいであるものの、念には念を入れるのが、彼の流儀だ。

 

キリヤマのこういった、侵略者に対する徹底的な態度に関しては、非常に好ましく思っているので、彼としても否は無い。

 

とはいえ、事が完全に『解決した』のを知っている身としては、確認作業へいまいち身が入らないのは、如何ともし難いが。

 

「……ところで、ソガ。我々が出会ってから、もう……どれくらいになる?」

 

「ふぁはぇ? ……失礼。そうですねぇ……」

 

完全に気が緩みきっていたところへ、唐突に投げられた世間話に返事をしようとすれば、開いた口から噛み殺したはずのあくびが暴発してしまい、慌ててシートに座り直し、居住まいを正すソガ。

 

横目でチラリと確認すれば、隊長は鼻先で苦笑しつつ、穏やかに前を向いたまま。

どうやらお目こぼしして頂けるらしい。

 

上司の寛大さに甘えつつ、ソガは指折り数えた。

確か、ダンが入隊して直ぐに、先輩の誕生日会にかこつけてレクリエーションをやったから……1年目はクール星人の物真似でお茶を濁して、2年目はええっと……

 

「そういやもう2年……いや、そろそろ3年になるんですかねぇ?」

 

「3年……そうか、3年か……」

 

「それがどうかなさいましたか? 隊長?」

 

「いや、随分と長いこと戦ってきたものだ、と思ってな」

 

「そうですねぇ……!」

 

操縦桿を握りながら、しみじみと呟くキリヤマに、しきりに頷いて同意を示すソガ。

 

思えば遠くまで来たものだ。

 

「私などは、ダンを迎えて部隊が本格的に動き始めたのが、ついこの間の事のように感じる。3年どころか、実はあれからまだ1年も経っていないのではないか……とすら思うよ」

 

「忙しかったですもんねぇ……時が経つのは早いと言いますが、あっという間でしたね」

 

「ハハハ! お前もまだまだ若いだろうに。その歳で言っていたら、私くらいになると、もっとだぞ。光の速さでも抜かすつもりか?」

 

「ウラシマ効果の逆バージョンみたいなもんでしょうか……ふふっ」

 

「ハハハ。相変わらずとぼけた奴だ」

 

謹厳実直で鳴らすキリヤマ隊長といえど、任務中の怠慢や重篤な命令違反でもなければ、そうそう目くじらを立てたりはしない。

 

むしろ旧友があれであるからして、例え階級下の部下相手であったとしても、こういった軽口の応酬を好んでいるフシすらある。

 

勿論、ホークを飛ばしているのが彼本人であるというのも大きいだろう。

頭では別の事に思考を割きながらも、キリヤマの操る翼が奏でるエンジン音は、まるで自動操縦かと思う程に均一で、迷いが無かった。

 

操縦席に座っているのが逆であったなら、もう少し集中しろと軽い叱責が飛んだかもしれない。

 

そんなキリヤマがふと、世間話の続きでも語るような、さも普段通りと言った調子でその言葉を紡いだ。

 

「……そろそろ、良いのではないか?」

 

……と。

 

「ん? 何がです?」

 

問われたソガは、当然のようにその内容が分からず、きょとんとした表情のまま首を傾げる。

 

わざと惚けているのか、それとも本当に素で聞き返しているのか。

……きっと後者なのだろう。彼は元来、随分と察しの悪い性分なのだという事を、これまでの時間でキリヤマはもうすっかり把握してしまっていた。

 

「……3年。お前が言った通りだとしても3年だ。確かに人の生の中に占める割合としては、まだまだかもしれん。だが、我々が共に同じ釜の飯を食い、轡を並べて戦った期間としては充分に長く、単なる数字それ以上に濃密な時間だったと……私は思う」

 

「……ええ、その通りですね」

 

「お前達は私にとって、部下であると同時に……もはや無二の戦友だ。死地に赴くにあたって、この背中を預けるに値する、かけがえのない仲間だと心から……信頼している」

 

「……貴方にそう言って頂けるなんて……私には……身に余る光栄です」

 

尊敬する男からの告白に、ソガは一瞬、虚を突かれたように目を見開いたが……やがて瞑目し、ゆっくり顔を伏せた。

少しばかりの気恥ずかしさすら覚えながら、それでも、先の言葉を無言で噛み締める。

 

「……だが、果たしてお前にとって私は……良き上官足り得ただろうか? 勿論、お前達に相応しい指揮官たれと、常に自分を戒めてきた自覚はある。時にそれが行き過ぎた場面もあったと……いや、それすらも私の一方的な自惚れに過ぎず、さらなる苦労をかけていたのやもしれんな」

 

「そんなことはありません! ウルトラ警備隊の隊長は……やはりキリヤマ隊長、貴方しかいない。私は貴方の下で戦えた事が、本当に……その……誇りなんです!」

 

「誇り……か。お前の口からそんな言葉が聞けるとは。嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

 

キリヤマの口角がほんのりと上向いたように見えたが……それも錯覚だったのだろう。

 

「例えそれが、世辞であっとしてもな」

 

次の瞬間には、その口が真一文字に引き締められてしまっていたので。

 

「せじ……? まさか私がお世辞で言っているとお思いで!?」

 

ソガの顔が驚愕の色で跳ね上がる。

 

「違うのか? お前は口が上手いからな。人の心をくすぐる事にかけては天下一品だ。私であっても、気を抜けば足元を掬われかねん」

 

「そんな! 違います! 私は本心から……」

 

「だったら」

 

憤慨するソガを、キリヤマはチラリと一瞥すると、彼の言葉を遮り、今まで心にわだかまっていた疑念をついに……投げかけた。

 

「……だったら、何故。その心の内を……我々に語ってはくれないのだ?」

 

その言葉尻に、僅かな寂しさすらも滲ませながら。

 

「……何の事でしょうか」

 

「ほう。まだシラを切る気か? 私は……ずっと待っていたのだぞ。だが、そちらから言う気が無いならば仕方あるまい、こちらから聞いてやろう」

 

キリヤマはそこで一度、深呼吸を挟み、胸にたっぷりと空気を溜めてから、その良く通る声でどこまでも穏やかに、しかしハッキリと告げた。

 

 

 

「お前は……誰だ?」

 

 

 

男は小さく息を呑んだ。

心の何処かでは、分かりきっていたであろうに、いざ本当にその言葉が上官の口から出て来る事は無いのではと。

彼はそれを聞いてこないのではと、淡い期待を寄せていたのかもしれない。

 

「少なくともソガで無い事は確かだろう。一体、どこから来た何者で……一体、何を知っている?」

 

「……」

 

問われたソガはと言えば、大きく目を見開き……しばらくしてから、人好きのする、あの柔和な笑みを浮かべ、ひときわ明るい声でしきりに頷いた。

 

「ははん、分かりましたよ、隊長。この間、私が危うく人間怪獣になりかけたのを気にしておられるんでしょう。その節はどうもご心配おかけしましたが、セブンにエメリウム光線で元に戻して貰ってからは、この通り! 元気溌剌、後遺症の一つもありません。ご安心ください」

 

「見くびるなよ、ソガ。私は何も、貴様があの時、ヒポック星人の放射能で、中身まで手先に変わってしまったままなのだとか、そういった簡単な事を言っているのではない。下手な誤魔化しはよせ」

 

「しかしですねぇ……私が何者かと言われましても、先ほど隊長がお聞きになった通り、ずっと一緒に戦ってきた、ウルトラ警備隊のソガ隊員に違いありません」

 

彼がそう言い張る瞳には、いっそ清々しいほどに曇りが無く、なんの後ろめたさすら、感じ取る事は出来なかった。

なんと面の皮の厚いことか。

 

「それだ。そもそもお前は何時から……ガッツ星人の虜になった時? それとも、ペガ星人の洗脳? 違う。私が言っているのはな、ソガ。それよりもずっと前……そう、お前は最初から……」

 

「……最初から、なんだって言うんです?」

 

「……一つ確実に言えるのは、私が『これだ』と目をつけて、今後指揮する部隊に必要だと思い、直々に呼びつけたソガという男はな。……自分が侵略者によって怪獣にされかけていると分かった時に、自らを地下深くへ拘束してくれなどと、大人しく願い出てくる殊勝なタマではない。……そうなる前に、自身のこの手で必ず黒幕の息の根を止めてくれると意気込んで、一人飛び出していくような……向こう見ずで、血気盛んな若者だったはずなのだ」

 

「……」

 

その言葉には、流石の彼も顔を顰め、ほんの僅かに視線が逸れた。

 

キリヤマは未だに前方だけを見て、部下の姿を見てはいなかったが、今まで絶対の自信を揺らがせようとしなかった男が、ここで初めてたじろいだのを、その気配から感じとった。

 

「私のよく知る……いや、覚えていた通りのソガは、例えるなら、撃ち出されたライフル弾のような男だった。ただひたすら真っ直ぐに、素早く敵を追いかけていく。だが、お前はまるで……機雷だ。ぷかぷかと波に揺られながらも、一所にじっと潜んで、敵が来るのを虎視眈々と待っている。相手が直前で踵を返すならそれでよし、だがひとたび領域に触れようものなら……その身に秘めた悪意すら全て爆発させて、いっそ恐ろしいまでに牙を剥き、決して相手を逃さない」

 

「……そう、ですか?」

 

「ああ、おかげで想定していたものと、隊の役割はそれぞれ少しばかり変わってしまった」

 

「……はは、なんというかその……申し訳ないです」

 

面と向かってそこまで言われると、流石に気まずいのか、指で頬を掻くソガ。

 

「勘違いしてくれるな。別に責めているわけじゃない。防衛向きの性質だと言っているんだ。……私が奴を見出した時にはダンが居なかったしな。本来ならばソガにやってもらいたかった役割は、彼が充分に果たしてくれている」

 

「……でもそういうのは、フルハシ先輩の十八番なんじゃ?」

 

「奴はあれで腰の重いところがあるからな。まずはお前が敵の機先を制した後に、じりじりと追い詰める役を任せるつもりだったんだ。丁度、戦車が地面を耕していくように。フルハシは一見派手好きに見えて、その実、仕事ぶりは地道で堅実だぞ。本人は嫌がるだろうが……お前も少しは見習え」

 

「あー……なるほど?」

 

「話が逸れたな……兎に角、どちらもスタンドプレーヤーとして優秀には違いないが、その有り様はまるで逆。これで別人では無いと主張されても困る」

 

「はあ、しかしですねぇ……」

 

「私はな、ソガ」

 

キリヤマはそこで敢えて言葉を切った。

 

ソガは、今度こそ核心を突いた問いかけでもって、逃げ道を無くされるのではないかと身構えた。

いくら詰問されても、こればかりは明かすわけに行かない秘密だ。

 

なんと言っても、肉体は正真正銘ソガ隊員と地続きなのだから、キリヤマ隊長の疑心は、科学的な視点でならば言い掛かりも甚だしいと言える。

 

魂だけ憑依しているなんて、そんなオカルトじみた話、真相を言い当てたのならば、そちらの方が荒唐無稽なのだから、のらりくらりと煙に巻き続ける事も不可能ではない。

 

どう足掻いたって、隊長が100%の正解を口に出来ない以上、全てに対し「いや違います」と首を振るだけでよいのだ。

 

さながら、完全犯罪を成し遂げた犯人と、それに追い縋る探偵のようだった。

どれだけ推理を述べたところで、「証拠はあるのですか?」と返せば、探偵は立証できないと首を振るしかない。であれば犯人が自供しなければ良い。なんと簡単なのだろう。

 

なんなら、別に何か悪い事をしている訳では無いので、一層の事、気が楽だ。

 

もう残すは最終回だけで、そのあとはどうなるか、ソガ本人にだって分からない。

そんな状態で、一体何を告白せよと言うのだろうか。

 

むしろ、ここで秘密をぶちまけてしまって、最後の最後に彼の知識をアテにされる方が困るのだ。

 

彼は、これまでの戦いを通して、ある事実に薄々と気付きつつあったが……この前のニセセブンとの戦いで、もはや確信に至らざるを得なかった事がある。

 

もう原作知識など、何の役にも立たないのだろうと言う事に。

 

元々が、違う結末を求めて奔走してきたのだから、終盤へ行くにつれ、物語が彼の知っているレールを外れてしまうのは当たり前なのだが……

 

気付かないうちに、自分は随分と取りこぼしてきてしまってるんだろうな、と遅ればせながら悟ったのである。

 

サロメ星人の侵略には、明らかにダブルオーの技術が流用されていた。

 

だが、あのダブルオーというのは原作には未登場だったものの……チブル星人の口ぶりから、元々存在はしていたらしい。

ただゼロワンを早々に破壊してしまったから、倉庫で埃を被っていたのを引っ張り出してきたに過ぎない。

 

なのに、原作のサロメ回には影も形も登場しなかった。

それを不思議に思っていたのだが……ある晩、ふと気付いてしまったのである。

 

そういえば、チブル星人のアジトを見つけるのを忘れていたな……と。

 

わざわざ正体の分かっている老人を尾行する必要など無く、その分、玩具の解析に時間を回せると早々に帰還してしまったが……そのせいで、あのボロ屋は防衛軍に差し押さえられる事もなく、ずっとどこかに放置されていたのだろう。そこには設計図か、替えのパーツなんかもあったに違いない。

 

それに思い至った時、思わず乾いた笑いが出たのを覚えている。

よかれと思って省いた行動にも、ちゃんと意味はあったのだ。

 

だからソガとしても、残るゴース星人が、本来の侵略計画をそのまま使用してくるなんて、もうちっとも思って居なかった。

 

でも、彼の脳裏には、あの最終回がどうしてもチラついて離れない。どうあっても、思考が偏ってしまうのだ。

 

だからみんなには、もしも自分の知らない展開が押し寄せてきた時、何も知らない真っ新な状態で、自分には思いつけないような逆転の秘策を考えて欲しい。

 

もう彼は、本気で地球を守る為に、どこまでもシラを切り通し、秘密を墓場まで持って行く覚悟を決めていた。

 

だが、意気込むソガに対してキリヤマ隊長は……

 

肩透かしなくらい柔やかな、非常に親しげな響きでもって、隣の男に問いかけた。

 

「お前が、ウルトラセブンなんじゃないかと思っている」





本当は1話構成のつもりだったんですけど、長くなったので分けました。
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