転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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お前はだぁれ?(Ⅱ)

 

「お前が、ウルトラセブンなんじゃないかと思っている」

 

 

そして隊長は、どうだ当たりだろう? とでも言いたげに、ふふんと笑った。

 

 

「……は!? え? 私!? が……セブン?」

 

「もう言い逃れはできんぞ」

 

「いやいや、いやいやいやいや! 少なくともオレだけはあらへんでしょう! ホラ、私がセブンなら、さっきまであそこで戦ってたセブンは何? ……って話になりますよ? なりますよね? だからセブンの正体は私ではありません! ……よ? ね、隊長? あれ、違う?」

 

「ふむ、そうか……そうなるな……ハハハ」

 

「いや、ハハハて……」

 

なにそれどういう感情? ……こわ。

 

 

ソガの困惑を余所に、ひとしきり笑ったキリヤマが、自らの表情を、再び真顔に引き戻す。

 

 

「……いいか? この際だから教えておいてやるが」

 

 

ため息と共に、そう前置きしてから部下へ対し口を開いて曰く。

 

 

「そもそも我々にとってのウルトラセブンとは、まったく未知の存在だ。……そんな中で、今の私の発言は、論理の飛躍に飛躍を重ねた、単なる妄言の類に過ぎない。だから、キサマが今、私に対して返すべきだったのは……『セブンが人間のはずがないでしょう!』という至極単純に、そして常識的な反応であってだな……」

 

「……あっ」

 

「そこへあろうことか、『私ではありません』……などと。その返答には、様々な認識が前提として敷かれている事に、お前は気付いているのか?」

 

 

まるで出来の悪い教え子を、優しく諭すかのような調子で隣へ語りかけるキリヤマ。

 

そしてそれを指摘されたソガはと言えば、シートに深く身を沈め、額に手を当てながら天井を仰いでいた。

 

ウルトラセブンは普段、人間に化けているのかもしれない。……という推測までは、まだ分かる。

だがそれが、宇宙人を監視する組織である防衛軍の、あまつさえウルトラ警備隊の中に紛れ込んでいるなどと。

それもこれだけ長期間。

 

灯台下暗しにも程がある。

 

……勿論、ウルトラセブンという物語を……いや、ウルトラシリーズという作品群を知っている者になら、そんなことは語るまでもない『()()()』なのではあるが。

 

この世界の中では、あまりにも非常識甚だしい妄想といえよう。

 

逆に言うなら、『光の巨人が戦っている間は、その変身者が人間として同時に存在できない』という縛りも、彼らの登場プロセスを知っているものにしか、伝わらない言い訳なのだ。

 

……そして、それに対するソガの返答といったら!

 

勿論、言葉そのものは単に問いを否定しただけ。

だがその時の語調や表情には、やはりどうしても、それを発した者の感情がありありと乗ってくるもの。

 

つまり彼の言葉の裏には、声なき声――貴方も既に気付いているでしょうに――という、隠しきれぬ響きが、どうしても滲み出てきてしまっていた。

 

要は、単純なカマかけに引っかかって、あっさりと語るに落ちた、という事である。

 

彼らの問答は、『部隊の誰かがウルトラセブンだ』という文脈ありきでしか、成り立たない代物だったのだから。

 

……間抜けにも程があるではないか。

シートに撃沈するソガの耳は、誰かさんの肌と遜色ない程度には、真っ赤であった。

 

 

「セブンの正体が、自分()()()()と言う……では、()()()なのだ……? ええ?」

 

「そ、それは……もう勘弁してくださいよ、隊長」

 

「ふん、下手な誤魔化しが通用すると思った罰だ」

 

 

先ほど以上に言い淀むソガに対し、半ば呆れたような声でもって、苦笑する隊長。

 

 

「……実は最近、是非お前を副隊長に……と推挙する声があまりに多くてな」

 

「はぇ?」

 

 

寝耳に水とは正にこのことだろう。

唐突に告げられたソガの口からは、思わず間の抜けた声が漏れてしまう。

 

 

「だが、この程度の腹芸も出来んようでは……やはり、まだまだだ。そうだろう?」

 

「え、ええそうですね……私もそう思います……ハハハ」

 

 

――しばしの沈黙。

 

 

「……しかし、いずれ誰かに私の役目を引き継がねばならんのは確かだろうな。それがいつになるかは分からんが、その日が決まった時期に来るとも限るまい。……我々の職務はそういうものだ」

 

「……隊長……」

 

「その上で、もしも部隊の中に何か致命的な問題があったのならば、それを共有しておきたいと考える事は、別段不思議では無い……という事までは、理解してくれるな?」

 

「……はい」

 

「何も、お前の正体が知りたい訳では無い。だが、私が必ず知っておかねばならない事が一つだけある! もしも私の懸念が杞憂ならば良い。……しかし、私の予想通りなら……そこに本来、座っているべき男が()()()()()()()()なのだ」

 

「……ッ!?」

 

 

それを聞き、目を見開くソガ。

ここまで言われてはじめて、隊長が真に知りたがっている事柄――なぜダンは野放しになっているのに、自分にはこうして話をもってきたのかという違和感も含めて――を理解したのだ。

 

嗚呼……本当に、自分の事ばかり考えていて嫌になる。

そうだ、全くそこに思いが至っていなかった。

自分だけは、それを絶対に忘れてはいけなかったのに。

 

 

「自らの意志なのか、はたまた何処かへ囚われているのか。ならば我々は、彼を救出せねばならないだろう。いや、それとも……もう、どこにも()()()のか。少なくとも、これほど長期間、姿をくらましているには、何か理由があるはずだ。私には……この部隊の長として、それを知っておく責任がある」

 

「それは……そう……ですね……」

 

 

彼は決して、ソガの正体を暴きたいのではない。

自身が監督するべきはずだった、もう一人の部下(本当のソガ)の消息を、確認しておきたいだけ。

 

……何が原作知識は役に立たない、だ。

そんなことは彼らにとって、はなからどうでもよい事だったじゃないか。

思い上がりも甚だしい。

 

 

「……別に今更、何かが判明したところで、お前との関係が変わる訳でもあるまいに。……それともやはり、我々は……」

 

 

操縦桿を握ったまま、僅かに男が目を伏せる。

 

 

「おれは……そんなに頼りないか」

 

「……」

 

 

なるほど、これは――

決して詰問や尋問の類ではなく……ただ単に、互いの信頼感に関する確認に過ぎないのだなと、ようやくソガは……本当に遅ればせながら気付いた。

 

敬愛する上官が、いままで聞いたこともないような、酷く寂しげな声でそんな事を言うので、それを聞いた彼の胸は、ざわざわと波打って仕方ない。

貴方にそんな事を言わせるつもりは、なかったのに。

 

そして、そう気付いてしまったら、もう。

 

 

――ああ、だめだ。

 

 

これ以上、意固地な仮面を維持する事が、彼には不可能だった。

 

なにせ彼もまた、宇宙一のお人好しが好きで好きで堪らない、次元を越えた甘ったれなのだから。

 

 

「……ははは」

 

 

それを自覚した時、張り詰めていた風船から、空気の抜けるような音と共に、笑い声とため息が漏れた。

 

隣の気配が何か変わった事を悟ったのか、キリヤマは再度、口を開く。

 

 

「……もう一度だけ聞くぞ、ソガ。私が部隊に呼んだ男と、お前はまったくの別人だ。ならば……」

 

 

今度こそ、部下の方を向き直り、そのさっぱりとした顔をじっと見つめて、こう聞いた。

 

 

 

「来たのは、誰だ?」

 

「……」

 

 

 

交叉する二つの視線。

 

ただ、ホークのエンジンが奏でる甲高い風切り音だけが二人の間を震わせる。

 

長い永い、けれどとても短いほんの一瞬が過ぎてから、男は両手を挙げて降参の意を示した。

 

 

「……ふぅー……参りましたよ、隊長。やっぱり貴方は恐ろしい人だ」

 

「何を言うか。この頑固者」

 

「頑固……ですかねぇ」

 

「ああ。ダンと似たり寄ったりだ」

 

「そりゃ光栄ですねぇ」

 

 

ソガは、さっきまで気を張り詰めていた反動か、しばらくふにゃふにゃ笑っていたが、やがて顎に手を当てると、何事かを考えはじめた。

 

 

「んでさっきの答えですがね……隊長。質問に質問で返す無礼をお許しください」

 

「……もういい、この際だ。多少の事は許してやる。何だ?」

 

「えっと……竹取物語ってご存知ですよね」

 

 

突然の問いかけに、キリヤマは返答するまで多少の時間を要した。

 

 

「……いきなりなんだ? かぐや姫の話がどうした?」

 

「じゃあ、『イシモチノオオジ』……だったかな? いや、クラナントカ……? イソガミノ……?」

 

「待て、まさか五人の貴公子か……? 恐らくだが、お前が言いたいのは庫持皇子(くらもちのみこ)だぞ」

 

「おおっ! 流石です隊長! ソレです!」

 

 

キリヤマも、上級士官として、それなりの教養は身に付けている。

だからこの程度は答えられて当然ではあるが……突然まるで関係無い話を振った割に、引き合いに出した本人の方が知識があやふやなのは、いかがなものか。

 

 

「それでですね。ご存知の通りこの竹取物語が、日本最古のSF小説でありながら、かつて地球を訪れた月星人とのファーストコンタクトについて公に記された、唯一の文書かつ有力な証拠である事は疑いようも無く明白なわけですが……」

 

「……ん? 待て」

 

 

またぞろ変な事を言い出したぞ……と、キリヤマは眉を顰め、胡乱げな視線を投げた。

 

それをのたまうソガの口調が、明らかに芝居がかっているため、あくまで『そういう設定の与太話ですよ』とでも言いたいのだろうが……

 

 

「これまた突飛な話を」

 

「いえいえ、突飛だなんて。そもそも月の貴人であるカグヤが、何故地球に来訪したのか? それは月文明で何らかの事変が巻き起こり、王族の血筋が万一にも害されないよう、ほとぼりが冷めるまで辺境に亡命させていたに違いありません!」

 

 

指を振って、さも名案だとでも言いたげに力説するソガ。

ともあれ隊長としても、彼の主張を受けて、まあそういう解釈があっても悪くはないかと、苦笑する。

 

 

「なるほど、『もと光る竹なむ、一筋ありける』というのは、山頂に不時着した緊急脱出艇が、(おきな)には輝く不思議な竹としか認識出来なかったと」

 

「昔の人には『宇宙船』という概念がそもそもありませんからね。というより、タケノコと見間違えるくらいですから、凍結保存した受精卵を封入した、大気圏突入カプセルだったのかもしれません。コールドスリープが解除された後は、何らかの成長促進作用が働くように遺伝子制御されていたならば、三ヶ月で成人したというのも頷けます」

 

「……お前が語ると、途端に筋が通っているようにも聞こえてくるから、面白いものだな」

 

「いえ、面白いのはここからですよ! カグヤから、五人の貴公子に出されたお題。あれは別に、架空の無理難題をふっかけた訳では無く、実はカグヤが本当に欲していた物を、藁にも縋る思い……もしくはダメ元で、探して貰ったんです……なにせ、あれらは壊れてしまった、宇宙船の重要なパーツなんですから!」

 

「ほう! 石の鉢がか?」

 

 

……と、少々小馬鹿にした風に混ぜっ返せば、言い淀むでもなく、ソガはますますもって自慢気に胸を張り……

 

 

「ええ! そこがこの話のミソですよ! 御仏(みほとけ)石鉢(いしばち)と言うのは、実は旧式の重力波エンジンの事なんです」

 

「なに? ……エンジンときたか」

 

「でも、宇宙という概念すらない当時の人々に、『宇宙船のエンジンを探してくれ』なんて言っても伝わりっこ無い。だからカグヤは、ギリギリ伝わりそうな言い回しをする必要があったんですね!」

 

 

……ふむ。

と、知識人としてのキリヤマは、少しばかり納得してしまった。

 

別々の文化圏から文化圏へ、固有の何かが伝来した際に、中身がその面影だけを残して、現地の人々にとって別の身近なモノに置き換えられてしまう……という事態は、往々にして起こりがちであると知っているからだ。

……と同時に、月星人カグヤの涙ぐましい努力に思いを馳せて、同情してしまうが。

 

 

「少なくともその時の天竺には、かつてシャカ星人の乗ってきた、スペースヴィマナ号のメインエンジンが一つだけ残されているはず……という事まではカグヤも分かっていたんですから、あとは一縷の望みを託した訳です。もちろん、偽物だってすぐに見抜けますとも。どんなに頑張っても、単なる石鉢には、エンジンの火なんて灯りませんからね」

 

「ハハハ! 馬鹿馬鹿しいが、なかなかどうして考えたじゃないか。蓬莱(ほうらい)の玉の枝は?」

 

 

ソガは、渾身の冗談が上官にウケた事へ、ホッと一安心した様子を見せると、我が意を得たりと頷き、続きを愉しげに話し出す。

 

 

「蓬莱の枝の絵としてカグヤが見せたのはね、立体集積回路から剥離してしまった、重要部分の配線図だったのです。こちらは素材がたまたま電導率重視の金と銀だったとは言え、よもや地球人の刀鍛冶達が、月文明の加工技術を再現できるレベルの職人芸をもっているとは、カグヤも思っていなかったわけです。図面通りのパーツをお出しされて、彼女もさぞビックリしたでしょうね」

 

「……ははあ、だんだん分かってきたぞ。その分だとおおかた、火鼠(ひねずみ)皮衣(かわごろも)というのは、セラミック繊維の耐熱布なのだろう? 確かにそれさえあれば、シャトルの外壁や、宇宙服を拵える事が出来るな」

 

「お見事! いやあ、隊長も鋭くなってきたではありませんか……ではなぜ、そんなに大事なパーツをカグヤは自ら探しにいかなかったのでしょうか?」

 

「翁達を放っておけなかったのではないか?」

 

「それもありますが……実はね、彼女は夜な夜な屋敷を抜け出すと、屋根の上をひらりひらりと飛び回っては、京に蔓延る妖怪変化達と、月明かりの下で死闘を繰り広げつつ、(みやこ)都の平穏を守っていたんですよ!」

 

「なにっ!? やけに急展開だな? つまりカグヤは翁への恩を返すために、京の都を守る使命があるので離れられんと……」

 

「そうです。パーツが揃えば、彼女は宇宙船を再稼働させて、武装の補給が出来るのです。お察しの通り、この妖怪変化というのもね、地球を狙う侵略者共なんですよ。光学迷彩や光線銃を駆使する宇宙人なんて、当時の地球人にはあやかしの類でしかありませんし、対抗できるのもまた、同じく異星の技術を使うカグヤだけ、というわけです」

 

「なんだか昔話が、随分と身近な話題となってしまったな……」

 

「そりゃあ防衛軍のいない地球の方が、今よりよっぽど手に入れ易かったはずなのに、当時は全く宇宙人が来なかったと考えるよりはよっぽど自然でしょう。今こうして、我々人類が我が物顔で暮らしてられるのも、カグヤが彼らの先遣隊を蹴散らしてくれたから……ってのは、どうです?」

 

「ハハハ。ならば彼女に感謝しなくてはな。……それなりに楽しめたぞ。退役したら、小説家でも目指してみるか?」

 

「いやいや、私なんてとてもとても……」

 

 

たわいも無い褒め言葉に、ひらひらと手を振り謙遜していたソガだが、やおら姿勢を正すと、再び真面目くさった顔に戻り、またそのよく回る舌を動かし始める。

 

「さて、ここまでが『()()()()()()()()()()()()()竹取物語』でありますが……隊長、貴方は私に感謝する事になるでしょう」

 

「ふっ……なぜだ?」

 

「このパトロールから帰って、一眠りすると……翌朝、目を覚ましたのは宿舎のベッドではありません。見知らぬ天井は何故か木造で、畳の上に布団を敷いて……横を向けば寝所には御簾(みす)がかかっていて……あら不思議。なんと明日、隊長は起きたらクラモチの皇子になっていたんです」

 

 

 

「……は?」

 

 

 

キリヤマの喉から、一段低い声が漏れる。

 

 

「……ソガ。私はな……あれでも真面目に話をしていたんだぞ」

 

 

この男は、多少好きに喋らせておくくらいが丁度良いと思って、腹を決めるまでの時間が必要なのかと、待ってやっていたが。

 

いったい何時になったら本題に入るのか。

関係の無い与太話をうだうだと聞かされる方の身にもなって欲しい。

いい加減、我慢にも限界があろうというものだ。

 

しかし……

 

 

「何をおっしゃいますか隊長。私は、これでも大真面目に話しておりますとも」

 

「なにっ」

 

 

睨んだ先の男が、これまたよく澄んだ……曇り一つない瞳で、こちらを真正面から見返してくるものだから、キリヤマは多少面食らった。

 

どう考えても、さっきまで喋っていた内容はくだらない馬鹿話なのに、次に彼の口から出た声が、今までにないほど、ひどく真剣味を帯びたものだったからだ。

 

 

「……貴方がたとは、腹の割り方というのが、少々違う自覚はあります。でも、私にとっては大事な事なんです」

 

「むぅ」

 

「……だからもう少しばかり、オレのくだらない思考実験に付き合ってはいただけませんか。その上でなら、何もかも、お話できましょう」

 

「……本当だな?」

 

「ええ」

 

「では……好きに話せ。幸い、時間はまだある」

 

 

 

ありがとうございます――と前置きして、彼は話しはじめた。

 

 

 

――さて、隊長は博識なので、クラモチの皇子がどう失敗したかもご存知でしょう。

 

彼は職人に代金を払わなかったので、カグヤに見限られてしまいます。

 

 

ではどうすればいいか?

 

簡単です。素直にお金を払えば良い。

 

 

とはいえ、中身は隊長ですから別にカグヤと結婚したい訳でもなければ、求婚を取り下げてかまいません。

 

ただ、先程の話を踏まえて考えて頂くと……

 

 

え、カグヤに協力を申し出る……?

 

ふふ、流石は隊長。貴方ならそう言うと思っていました。

 

 

でもカグヤだって、いきなり地球人を信用したりはしませんから、「次はこういう形の枝を見つけてください」としか頼まれないでしょうね。

 

とはいえ、これまた驚いた事に、隊長はその図面に見覚えがあります。アンヌやアマギが相談していた治療ポッドの設計図にそっくりなんですよ。

 

 

うん? カグヤは怪我をしているのかって?

 

まあ、日夜戦いに明け暮れてるわけですから、さもありなん。

 

ただでさえ、地球と月では環境も違うアウェーですから、単なる風邪でも、カグヤには未知の風土病みたいなもんです。

 

 

それで、他の皇子が持ってくるハズの龍の玉ですがね。なんと駿河の山の麓で、折よく竜が暴れてるという噂があるではありませんか。

 

 

手勢を引き連れ、向かった現地で聞き込みすれば、なんでもその竜は、湖の中に棲み、牛の頭を持つ白蛇で、雷を自在に操るというんです。

 

 

これまたビックリ、龍というのはエレキングの幼体ではありませんか!

 

幸いにも成長が遅いのか、まだ身の丈七尺程度の大きさしかありませんが、当時の日本ではまあ……間違いなく化け物ですね。

 

 

「……七尺……約2メートルか……」

 

「あれ? 意外と小さいですね? じゃあ奮発して5メートルにでもしておきましょうか」

 

「待て、私を殺す気か?」

 

「それでも隊長なら何とか出来るでしょう? 我々は既にその10倍の同種と戦った事があるんですから」

 

「……確かに人間の強さは知恵と経験だな……仕方ない」

 

 

ソガの煽てに乗った訳では無いが、キリヤマは例え些細な思考実験の類だとしても、化け物退治の専門家として、出された挑戦には応えてやらねばならん、という気概を見せた。

 

 

「ではまず、手勢の具足を松脂(まつやに)と牛の(にかわ)でしっかり塗り固める。そして竹槍の中程に濡れた手拭いを縛り、地面に着くまで垂らしてアースとした物を皆に配るとしよう」

 

「ほほう!」

 

キリヤマが即座に、古の日の本でもなんとか行えそうな対抗策を捻り出せば、きらきらと目を輝かせるソガ。

 

あまりにも純粋に期待の眼差しを向けられたものだから、尻が痒い。

しかしこの程度では、いかに幼体とはいえ、弓や刀であのエレキングを倒すにはまだ足りないだろう。

さらなる策が必要だ。

 

この調子で頭を回す。

 

「あとは……村々を巡って煙草のヤニを集めさせても良いかもしれんな。エレキングの体には鱗が無かった。恐らく奴は皮膚呼吸であろうから、水溶性の毒性物質を桶一杯に引っかけて……やれ……ば……」

 

 

その時……がくん、と。

 

ホークの高度が下がり、機体が一瞬、ほんの一瞬だけ大きく揺れた。

 

もちろん、次の瞬間には元の軌道に戻り、振動は小刻みなものに変わったので、墜落してしまう事は無い。

 

なんとも珍しい事に、誤って乱気流へ突っ込んでしまったため、気圧の段差で躓いてしまったようだ。

 

 

常に無く、非常につまらないミスをしたと言うにも関わらず、キリヤマは口を真一文字に引き結んで、じっと前ばかり見つめたまま動かない。

 

その瞳は、眼前に広がる眩い夜空を映しながらも、どこか別の場所を見ているような、ともすれば上の空とも取られかねない、奇妙な目だった。

 

彼の眉間には、いまや渓谷のように深い溝が刻まれ、その間を、一筋の汗が、たらりと静かに垂れていく。

 

 

そこへ、場違いに暢気な声が、やけに大きく響いた。

 

 

「なるほど! ニカワと煙草のヤニとは! 絶縁体で武器を作り、毒攻めをするという訳ですね!? 流石、隊長は戦上手だ! もしもその場にいたのがオレだったなら、ちょっと考えつかなかったでしょうなぁ……やっぱ本職はすげえや」

 

 

頭の後ろで腕を組み、シートにもたれ込んだソガは、暫く何かを懐かしむように目を瞑っていたが、やがて耳鳴りのするような沈黙に耐えかねたのか、天井を見上げつつ、上官に尋ねた。

 

 

「……続きをお話ししても?」

 

「…………好きにしろ」

 

 

許しが出たので、彼はまたポツリとポツリと言葉を紡ぎ始めた。

 

しかし、今度はどこかその声に、妙に実感のようなものが籠められているような気が、しないでも無かった。

 

 

「そんでまあ、こうして考えた策でもって、化け物退治に成功したクラモチは、それからどんどんと功名を立てていくでしょう。なんせ竜退治の英雄ですからね。他にもゴーガを火炙りにしたり、相撲好きのカッパ星人を軍隊式格闘術で制圧したり……」

 

「……」

 

「すると、朝廷の上司である(みかど)からも覚えめでたく重用していただけるでしょう」

 

(みかど)ときたか……」

 

「この帝がまた、人格者でね。実はカグヤが都を守ってるのを知ってて、影ながら手を貸してるんですわ。彼女が戦い易いよう、安倍晴明(あべのせいめい)に結界を張らせたり、時には伝家の宝刀を携えて、夜の戦場へ赴いたかと思えば、化け(ガラス)がカグヤの動きを封じた呪いの綱を断ち切って、そのピンチを助けた事もある」

 

「……ほう、徒人(ただびと)にしては八面六臂の大活躍だな。指導者として、是非私も見習いたいものだ」

 

「ええ本当に、すごい人なんですよ……」

 

 

少しばかり空気が柔らかなものに変わる……が。

 

 

「でも、あくまで帝は帝でしかない。カグヤが人ならざる者である事までは理解していても、彼に宇宙人だ、大気圏だ、等と言ったところで、仕方ないでしょう? だって平安時代ですよ? 別に帝が悪いわけじゃない。ただでさえ彼は、京を治めなくてはいけないのに……そんな事はキャパオーバーじゃないですか」

 

「確かにそれは、無理もないな」

 

 

そしてソガは少しばかり自嘲気味に、やけっぱちさすらも滲ませて、ふふふと笑った。

 

 

「だというのに、帝はこっちの気も知らないで『そちは誰ぞ』と問うて来るんです。まあ、当然ですよね……クラモチがいきなり頭角を現して、カグヤを手助けしようとするわけですから……彼からすれば、朝廷貴族としてそれが誰であろうと掌握しなければならない責任があるし、理解は出来る。でも……ねぇ?」

 

「……」

 

「第一、カグヤが帰ってしまった後の事は、ページのどこにも書いてなくって、誰も知らないんですよ? でも、ミカドやクラモチは、その後も生きていかねばならない。いきなり梯子を外されるようなもんです。それが何時になるかも覚えてないのに……」

 

「……だが」

 

「それに!」

 

 

一際大きな声で、遮るように。

 

 

「……それに、一番大事なのはね、隊長。……寝所に戻って、布団に潜って、目を閉じて……次に起きた時、そこが宿舎のベッドである可能性が、まったくゼロではないって事なんです。翌朝、ふと目を覚ましたクラモチの体から、さっきまでの意識がすっぽり抜け落ちてないって保障は、もうどこにもないんですよ……!」

 

「……ッ!?」

 

 

今度は機体が揺れる事は無かった。

 

むしろ、そうならないようにキリヤマが、ガッチリと操縦桿を握り絞めていたからだ。

 

それでも、汗でじっとりと濡れたレバーが、湿っぽい音を立てた事に気付いた彼は、万一の事があっては拙いと、自動操縦のボタンをぐっと押し込み、胸の奥から長い息をゆっくりと吐き出す。

 

そのまま、部下に倣ってシートに深く身を沈めた彼は、旋回する機体から眼下に広がる街を見渡しつつ、そこへ明かりがぽつぽつと灯り始めるのをじっと眺めながら、無言で何事か考えを纏めているようだった。

 

 

「……申し訳ありません隊長。長々と無駄話をお聞かせした上で、最後にもう一つだけ、質問させて下さい」

 

「ここまで来たら、今更だ。……何だ?」

 

 

振り向いたキリヤマに向かって、ソガは身を乗り出すようにして……それでもまだ何かを迷うように、しばらくコックピットの床を見つめていたが……

 

ついに腹をくくったのか、そっとヘルメットを脱いで顔をあげた。

 

 

「教えて下さい隊長……クラモチは、帝に……なんと言ったら良かったんです……?」

 

「…………」

 

 

自動操縦の規則正しい飛行音と、二人の息遣いだけが聞こえる。

 

 

「そうだな……」

 

 

やがてキリヤマは、泣き笑いのような表情を浮かべた男の顔から視線を逸らし、白んでくる地平線を見やった。

 

 

 

――朝だ。

 

 

 

今日もまた、朝が来たのだ。

 

明日もきっと、来るのだろう。

 

いやもしかしたら……

 

それでも――

 

 

 

「――それでも」

 

「それでも?」

 

「それでも帝は、話して欲しかっただろう」

 

「……っ!」

 

 

背後で男が言葉に詰まるのを感じたキリヤマは、彼を責める意図は無いのだと知らしめるために、その続きを口にした。

 

 

「クラモチが何を思い、何を感じ……何を怖いと思っているのか……例え、宇宙と言う言葉の意味が分からずとも、何かを恐れ、何かを愛する心は変わるまい。少なくとも彼は……去ってしまった者を思って、泣く事が出来る男だ」

 

「……では、なおさら言うわけにはいかないではありませんか。ただでさえ帝はカグヤを失って傷つく事になるのに、それでは追い打ちだ」

 

「果たしてそうかな? ……私はそうは思わん」

 

「え?」

 

 

キョトンとした顔の部下に、真顔で振り返ったキリヤマは、件のお伽話に対して、自身が最も納得いかない点を教えてやることにした。

 

 

「あの話で最も同情すべきはカグヤだと、私は思う。この話の作者はなぜそんな酷い事を思い付くのだ、と」

 

「それはもちろん別れというのは……」

 

「違う。彼女は……最後に『哀しい』という事すら忘れてしまうだろう? 私は……それが一番哀しい事だと考える」

 

 

覚えてさえいれば、哀しみ、愛しみ、懐かしむ事が出来る。

 

もしも月の世界が、物思いの無い世界なのだと言うのなら、それはなんと恐ろしい場所だと――

 

 

「……大丈夫ですよ、隊長」

 

 

見ればソガが、目に涙を少し潤ませながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

「天の羽衣に包まれて、カグヤの物思いが消えたというのは……緊急救命具を着せられて、コールドスリープに入ったからです。即座に眠ってしまったら、痛ましいとも愛おしいとも、思わないでしょう? 彼女の記憶や感情が消えてしまったわけじゃない……だから……」

 

「……そうか、ハハハ。なるほどな。……ハハハ!」

 

 

それを聞いて、キリヤマはすとん――とようやく腑に落ちた。

 

この男は……軍人にまるで似つかわしくないこの激情家は、ただ単に自分の見知った誰かが傷付くのが、心の底から我慢ならないだけの……どこにでもいる徒人(ただびと)なのだ。

 

例え物語が三文芝居になろうとも、解釈や設定をねじ曲げてでも、大団円にしないと気が済まないのだ!

 

なんと大それた男だろうか。

 

であるならば……

 

 

 

「分かった。クラモチは何も言う必要はない。下手な事を言ってしまっては、もとの平安貴族の、ケチな庫持(くらもち)皇子(みこ)に戻った時に、彼が困ってしまうからだな。……だろう?」

 

「え……ええ。そうです!」

 

「よし、では……これより帰投する!」

 

 

 

言うや否や、自動操縦を切り上げて、操縦桿を引き倒して急旋回。

 

 

 

「我々はパトロールの結果、何も異常を発見する事が出来なかった。私達は()()()()()()()し、()()()()()()()()。そうだな?」

 

「は、はい……ありがとうございます! し、しかし……良いのですか?」

 

「良いも何も、大いに実りがあったとも。問題が()()()()()()いう事を()()()。パトロールに、これ以上の朗報が存在するのか?」

 

「……いえ! ありません! ……そして……申し訳ありません! 隊長!」

 

パァと顔を輝かせ、敬礼するソガ。

そこで頭を下げてしまっては、台無しなのだが……

仕方あるまい、彼はそういう男なのだから。

 

 

「だが、あれだけ質問に答えたのだ。私からも最後に一つだけ、聞かせろ」

 

「……はい、なんでしょう……?」

 

 

そうして流し目をくれてやれば、途端に不安げな表情でビクビクと怯え出す部下。

本当にコロコロと顔に出やすい奴だ……と思いながら、キリヤマはそれを聞いた。

 

 

「……やはりカグヤは、帰らねばならないのか……?」

 

 

するとソガは……しばらくじっと何かを考えていたようだったが、やがてもう一度だけ、あの妙に真面目くさった顔に戻り、ゆっくりと頷いた。

 

 

 

「カグヤは地球の生き物ではありませんから、この星の環境下にいるだけでも体が蝕まれ、やがて消耗していきます。母星に帰って、不死の薬を飲まさねばならないでしょう」

 

「そう……か……」

 

 

キャノピーに反射した朝日が、二人の渋面を照らす。

だがそれも一瞬の事。

 

重い空気を払拭するように、キリヤマがペダルを踏み込み、ブースターを焚いた。

 

 

 

「朝になったな……」

 

「朝が来ましたね……」

 

 

 

だから、この話はもう終わりにしよう。

 

そう言ったわけではないが、努めて明るい朗らかな声が、どちらともなく重なった。

 

 

 

「……ところで、お前の話は随分と新鮮で面白かったが、本にはしないのか」

 

「え、本……ですか?」

 

「もはや竹取物語とは別物だからな。出版するなら題名が必要だろうが……なんと付ける?」

 

「そうですねぇ……」

 

 

顎に手を当て、考える事数秒間。

 

 

「『転生したはいいが、婚約のハードルが高すぎる!』……とか、どうでしょう?」

 

 

帰ってきたのは、盛大な溜息がひとつ。

 

 

「……前言撤回だ。キサマに作家は向いておらん」

 

「えっ!?」

 

「えっ……ではない。当たり前だろう。なんだその長ったらしい題名は! 文章じゃないんだぞ! 良いか、題名というのは分かり易く、簡潔にだな……! 本当にお前は。題名も長ければ話も長い! もう少し纏める努力をせんか!」

 

「え、ええ……」

 

「だいたいキサマは、書類の書き方からしてなっとらんのだ! まず字が汚すぎる! 入隊時の署名と、昨日の日報を見比べてみろ! まるで別人だぞ! そんな事だから私なんぞに見抜かれるのだッ!!」

 

「ええ~……えっ?」

 

「パトロール結果の報告は、今日中に仕上げて私に提出しに来い! 初心を思い出すまで書き直しッ!」

 

「ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝~……」

 

頭を抱えて苦悶の声をあげる部下の姿に、彼からは見えないようにキリヤマはこっそりと小さく、そして穏やかに微笑んだ。

 

朝日を浴びて輝く銀翼が、愉快そうに体を揺すりながら、武士(ふじ)の山へ向かって飛んでいく……

 

 






というわけで、第47話「あなたはだぁれ?」いかがだったでしょうか。

最終回直前に、こんなドンピシャなサブタイの話が鎮座してるわけですから、身バレ系のエピソードにせねば転生モノとしては片手落ちというものでしょう。

本当は、どっかで見たような顔のサラリーマンが、叔父とのキャッチボールで鍛えた強肩で、フック星人の戦闘員と大立ち回りするフルハシのピンチを救う展開なんかも考えていましたが、ソガと隊長の会話に主眼を当てたかったのであえなく没に。

実は前半部分の隊長の問い「お前がウルトラセブン」については、カマかけであると同時に「ダン=セブン=6人目であるため、本当は主人公こそが7人目」という本作の真実を語ったダブルミーミングになっています。

しっかり見抜いていた何人かの感想欄所属隊員にも、キリヤマ勲章を授与しておきましょう!



さて、次回はついに最終話なんですが……

え? 原作より余裕のあるセブンと、戦力増強した警備隊でクソ雑魚パンドンをタコ殴りにして瞬殺するだけだろって?

ももももちろん1ページで終わるんじゃないででですかねぇ~?
むむむむしろ、パンドンなんか、ナレ死しちゃてたりしてー! ハッハッハ!


――――――



さて、ここからは今後の更新について。

残念ながら、公開はかなり後になると、ここで断言しておきます。

考えているのが、やっぱりせっかくの最終回なんだから、不定期に上げるのではなく、しっかり最後まで書き溜めてから、定期的に公開(毎日なのか毎週なのかは未定)したいな……と。


え? パンドン戦が楽勝なんだったら、なんも書き溜める必要なんかないだろって……?

いやほら、今回みたいに一話構成の閑話のつもりが、書いてるうちに前後編に膨れ上がるとかザラですから、ね?

それはともかく。

なので、書き溜めてから一気に公開という形にするつもりですが……問題は執筆時間が今までよりもさらに減りそうだというところ。

一つは作者の職場がこれから繁忙期に入る点。
これは毎年のことではありますが、まあ年の瀬ギリギリまで続くでしょう。

そしてもう一つは、これから繁忙期にも関わらず、なんか急に人員がゴッソリ減って、その穴埋め業務がこっちまで回ってきた……という事情があります。

今話も、ほとんど戦闘の無い箸休めの会話劇だったにも関わらず、前回からひと月以上も間隔があき、前編投稿後すぐに後編を書き上げられなかった大きな理由に、それらがありまして……

出来ればセブン55周年の今年中には完成させたかったんですが、ぶっちゃけどうだろうなー……という感じ。

今回の前編も、気付けば原作最終回の放映日になってたので、慌ててキリの良いとこでぶった切って投稿したという経緯があります。

最初からプロットありきで書いてるので、大まかな流れや場面はもう頭の中にあるんですが……それを書き起こすのが中々大変でして。

なので読者の皆様には、大変申し訳ありませんが、絶対に完結はさせるのでそれまで少々お待ち下さいというお願いです。

多分、大晦日までに投稿開始出来なかったら、少なくとも進捗状況くらいは、活動報告(なる程、こういう時に使うのか!)に上げると思います。

もし、更新が無くて活動報告も上がらなかったら、事故って転生しやがったなとでも思って下さい。

では! 皆様もお身体にお気を付けて、次回をお楽しみに!
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