転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「……ハッ!?」
――ここは……?
「ソガ隊員! 起きちゃダメよ」
優しい声に振り向けば、白衣を纏ったアンヌが、こちらへ駆け寄ってくる。
「運が良いのね、貴方って。ホーク2号が大爆発を起こしたのよ? セブンの来るのがもう少し遅かったら、助かって無かったかもね」
「セブン……?」
そういえば、意識を失う瞬間に、窓からこちらを覗く巨人と目が合ったような……
「おいおい、嘘やろ……」
自分のせいで、彼に余計な変身を強いたのだという事実へ思い至り、堪らず奥歯を噛み締める。
そのままベッドから抜け出ようとすれば、ソガの肩をアンヌがそっと押しとどめ、口許に人差し指を添えつつ、まるで幼子をあやすように諭した。
「ダメダメ。少しは私の言う事も聞いて? 貴方は酷く疲れているんだから……」
「平気だよ……そうだ、円盤は? どうしたん?」
「クラタ隊長達が撃ち落としてくれたわ。もうカンカンだったのよ? 『寝ぼけていたんじゃないか!』って……救助されたのが本当にソガ隊員だって聞いて、すごく驚いてたわ」
「えらい買いかぶるやんけ……だったら、その期待にくらいは応えなくっちゃな」
「いけないわ。体に自信のある人ほど、体の欠陥を知らないものよ。さ、静かにして」
表面上はアンヌの言葉に大人しく従ったソガであったが、その内心は全く逆の事を考えていた。
――こんな事では駄目だ……最終回をハッピーエンドで終わらせる為には、俺がもっと頑張らなくては……
とは言え、少し身動ぎするだけで心配性なアンヌが飛んでくる以上、さしものソガと言えども、頭の中で今後のプランを考える以外に出来ることもなく、医務室のベッドで長めの休息を余儀なくされる。
なによりも、そんな風に決意を固めた本人自体、意気込みとは裏腹に、気付いた時にはすやすやと寝入っていたのだから、世話はない。
結局、厳しい監視の下、医務室で過ごした数日間の殆どを寝て過ごし、逆に静かすぎた為か、不安を感じたアンヌが何度も立ち上がっては、静かに生死確認する程だった。
こうして、不健康そのものと言えたソガの肉体は、白衣の天使の治療が効いた事もあってか、ひとまず危険域を脱したようだ。
だが……
―――――――――
作戦室にて。
「頻々と飛来する宇宙からの飛行物体、そして怪電波、異常なデリンジャー現象、地球がこのところ不穏な空気に包まれていることは、諸君もよく知っての事と思う」
キリヤマ隊長が、集めた部下達の前で、直近の動向を改めて整理していた。
深刻な顔で頷く隊員達。
しかし、そんな中ただ1人だけ、虚ろな瞳で中空を見つめながら、ぼんやりと突っ立っているだけの者がいる。ソガだ。
辛うじて瞼は開いているのものの、焦点が定まらず、もはや白眼を剝きかけていると言って良い。
隣のアマギが眉をしかめつつ、こっそり脇腹を突いて起こしてやるも、ハッとした次の瞬間には上体がフラフラとメトロノームのように揺れ始める始末。
その様子を、顔は前に向けたまま、視線だけで心配そうに見つめるダンとアンヌ。
「何者かが大規模な侵略計画を企てているに違いない! レーダーによる監視を厳しくし、パトロールを強化して、インベーダーを一歩たりとも地球に寄せつけないよう、いっそう防衛体制を固めてもらいたい!」
「「「「「ハイ!」」」」……はい」
隊長が方針を発表すると、一拍遅れる返事が一つ。
「……ソガ! キサマ、なんだそのザマは!? 聞いていたのかっ!!」
「は、はい隊長! 確か……不審な宇宙船の侵入が相次いでいるから、パトロールをさらに強化して、史上最大の侵略を阻止しよう! ……という流れでしたよね?」
「……なんだ、ちゃんと聞いているじゃないか」
上の空かと思われたソガの、しっかり要点は捉えた返答を聞き、叱責したままの険しい表情をやや緩め、怪訝そうに溜息をつくキリヤマ。
「ははん、どうせおめえさんの事だから、何か余所事ばかり考えてたんじゃねえのか?」
「おっ、流石ですな先輩。まさしくその通り! これだけ長期間に渡って大規模侵入してきているにも関わらず、未だに尻尾が掴めへんとなると、地底か海底にでも前線基地を作って隠れてるんじゃないかと思っとったところなんですよ!」
「それで眠れなくって、寝不足ってわけか。おめえの寝坊は今に始まった事じゃあねえがよ。そんな態度では後輩に示しが付かんぞ、示しが! 三人を見ろ! ピンシャンしてるだろう? 特にアマギなんかは徹夜で新兵器開発をだな……」
「まあまあフルハシ隊員、そのくらいで。サロメのセブンロボットからこっち、ヒポック星人やフック船団をはじめ、なにかと事件が続きましたから……」
「特にソガ隊員なんか、怪獣にされかけて、まだ数ヶ月しか経ってないのよ? あともう少しで年明けだって言うのに、しっかり休めてないんだもの」
アマギとアンヌが助け船を出すと、思い出したようにダンが鼻を啜った。
「そういえばこのところ……寒い日が続きますねェ!」
「おおかた、腹丸出しでグースカ寝てたから、風邪でもひいたんだろう! 全く、ウルトラ警備隊としての自覚をだなぁ……」
「なんですって!? その点私は……フッ! ホッ! ハァッ! この通り全然元気ですよっ!」
フルハシから吹きすさぶ猛烈な先輩風にもめげず、ハキハキと体操のように手足を動かしキメ顔でガッツポーズをとるソガ。
「いいぞいいぞ! やっぱりおめえは、そんくらいトボけてねえとな。てっきり、またぞろ宇宙人に洗脳でもくらっちまったかと思ったぜ」
「……相変わらず失礼な人ですね……! いや待てよ?先輩に先輩らしい事言われたのは初めてかもしれん。さては、次期副隊長筆頭としての自覚が芽生えてきましたか?」
「バッキャロウ、おめえの方がよっぽど失礼な奴だよ! こいつぅ!」
「へへへ」
冗談めかしたフルハシに指先で額を小突かれ、ヘラヘラ笑い合うソガ。
なるほど、話してみればやはり普段通りの砕けたやり取りだ。
いくら狡猾な侵略者でも、手駒にここまで巫山戯た態度を取らせる奴はいるまい。
いつもの調子が戻ってひと安心と、内心で胸を撫で下ろす一同。
しかし、ダンやアンヌからは、それがあまりにも空元気なように見えて仕方ないのだった……
―――――――――
朝にそんな一幕があった、その日の夜。
車庫からの帰り道、廊下でふらつくソガの姿がある。
ポインターでの巡回は、ホークでの定期パトロールと違い、決まったコースとタイムテーブルが設定されている訳では無い。
つまり、その日の範囲や所要時間も、担当隊員個々人の裁量に任されており、かなり内容の融通が利く業務なので、気を回したキリヤマが、ソガをホークのシフトから一時的に外す為の方便として割り振ったのだ。
しかし、任されたソガ本人はそんなことなど露知らず、これ幸いと、一日中ポインターを乗り回して帰還したところだった。
彼からしたら、ゴース星人の地下基地が既に出来上がっている以上、さっさと爆薬を満載したマグマライザーを、原作通りに自動操縦で突っ込ませて仕舞いにしたかったからで、事実、それが出来ればこの事件は即座に終了していただろう。
……ところがなんとも困った事に、ソガは肝心なその場所が、いったいどの山だったのかをもうすっかり忘れてしまっていて、全く思い出せなくなっていたのである!
さもありなん。彼もそれなりには番組のファンを自負していたものの、劇中台詞で数回言及されただけの地名や数値までしっかりと諳んじているような、筋金入りのマニアという訳でもなければ、むしろそういった詳細なデータにはあまり興味が無いタイプの人間であった。
そんなのは、ネットを探せばそこら中に転がっていて、気になった時は即座に知る事が出来たので、いちいち全部覚えておらずとも、今まで困った事が無かったというのもある。
……ところが、この世界にそんな便利なものはない。
こちらに転生してから、もう数年は経過している。であれば、原作を最後に見た記憶も、それ相応に古く朧気な物となってしまい、近頃は話の流れを思い出す事すら、ひと苦労だった。
それでなくたって、元より記憶力にはあまり自信が無い方で、あらゆる事が忘却の彼方へ消えた中、重要なキーワードだけは未だ忘れずにいられたのが、本人からしても不思議なくらいだというのに。
なので彼は、『極東基地近郊の』『大きく火口の開いた』『活火山』というヒントを頼りに、最近局所地震や発光現象等の異変が無いかを聞き込んでは、範囲を絞っていくしか無かった。
――尤も、熊ヶ岳という地名だけを覚えていたところで、彼の元いた世界とこちらでは、地理的条件が微妙に異なっている……という事実を見落としていたので、上手く行ったどうかは怪しいところだが――閑話休題。
とは言え、通路をゆらゆら歩くソガの表情が優れないのは、果たして調査が芳しくなかったという理由だけなのか……?
ついに彼は、段差も無いのに躓いて、危うく転んでしまうところだった。
そうならなかったのは、横から腕を支えてくれる人物がいたからだ。
「おっと!? ……サンキュー、悪いなアンヌ……」
「ソガ隊員、いけないわ。すぐ精密検査を受けましょうよ」
「精密検査……?」
「そうよ、体の内部を徹底的に調べてみる必要があるわ!」
「……そんなん意味あらへん」
小さく呟き、スタスタと歩き去ろうとするソガ。
……その実、本人が思うほど足早に出来ていないのが、ますますもって滑稽だ。
「どうしたのソガ隊員? 何でもないことじゃないの。レントゲン写真と心電図をとるだけなんだから」
アンヌの言葉にも耳を貸さず、どんどん廊下の奥に進み……
「ねっ、私のお願いも聞いてちょうだい。さっ……行きましょ!」
「そんな事言ったって、検査の結果が良かったから、オレは退院できた。違うか?」
「そ、それはそうだけど……」
確かに本人の言うとおり、しばらくベッドで安静にしていたソガは、驚くほどの回復力で、みるみる数値が正常化していった。
彼が寝ている間にこっそり測った脈拍や血圧も、100を下回るくらいにすっかり落ちつき、熱も下がって35℃程度しかなかった。
他でもないアンヌが計測した数字であり、計器の故障かと何度も確認したが、彼は健康体そのものだったのだ。
「でも、もっとよく調べれば……」
「なんべん見たって、おんなじや!」
尚も言い募るアンヌに、ついに声を荒げてしまうソガ。
……と、そこへ。
「二人とも、いったいどうしたんだい?」
「ダン!」
ホークでの哨戒任務から帰ってきたダンが仲裁に入る。
「聞いてよ、ソガ隊員が検査を嫌がって、話を全然聞いてくれないの」
「嫌がってる訳じゃ無い! 問題も無いのに、そんなんしても意味が無いって言うとるだけやんけ! 自分の体の事は自分が一番分かっとる! ……ほっといてくれ!」
「待ってください! ソガ隊員……」
踵を返すソガの手首を、ダンが掴もうとした。その時。
「……ッ!?」
伸ばした指が肌へ触れた途端に、掴まれた方では無く、掴んだ方の顔が驚愕に歪み、直ぐさま手を引っ込めてしまう。
丁度、熱したヤカンでも触ったかのような様子だった。
そうしてダンが捕まえ損ねてしまったせいで、背後で驚く仲間になど、全く気付かぬ様子のまま歩き去ってしまうソガ。
二人はその頼りない背中を、ただ見送るしかない。
やがて、怪訝そうに振り返ったアンヌは、想い人が掌をなんども握ったり開いたりしている事に気付いた。
「……さっきはどうしたの、ダン? ……まさかソガ隊員、また熱がぶり返していたの!?」
「あ、ああいや……そうじゃないよ」
実際は、その真逆。
握ったソガの手首がとても冷たく感じられ、驚きとダン自身の事情も相まって、咄嗟に指を放してしまったのだ。
「……ソガ隊員が外帰りだったのを、すっかり忘れてたよ。彼の手があんまり冷たいもんだから……」
「手が……?」
アンヌが何気なく、彼の指を優しく包もうとすると、ほんの一瞬だけ、ダンの体がぴくりと硬直したように見えた――今まではそんな事無かった――ので、不思議そうに首を傾げると、そのまま何度か掌でにぎにぎと揉み込む。
「わあ……アナタの手はこんな寒い日でも、おひさまみたいにぽかぽか温かいのね……」
「……そうかい? そういうキミこそ、暖かいよ」
「まあ!」
頬を染めるアンヌの内心を余所に、ダンは真剣な表情で彼女の掌を引き寄せ、それを両手の指でなんどもさする。
――そうだ、これが人間の……人肌のぬくもりだ。
アンヌの指から伝わる柔らかな温度が、ダンの不安に塗れた心を癒していく。
ただ単純に、彼女の体温が特別高いという事ではない。こうしていると、アンヌ自身が持つ、迸るような生命力から齎された魂のきらめき、ある種の波動ようなものが、掌を通して感じられるのである。
彼女を常に突き動かしている強い信念とバイタリティの余波は、いつも朝の日差しのように清らかで、それでいて夏空の如く元気に満ち満ちていた。
それがあまりにも心地よくって、ダンは気が付くと、自分でも知らないうちに、ついついアンヌの傍へ寄り添ってしまうのだ。
そしてそれは、彼女だけに限った話ではなく、部隊のみんなにも言える事。ウルトラ警備隊は心身共に強靱な精鋭中の精鋭なので、その身から発散されるパワーも人一倍に鮮やかで、強い。
それでいて、皆それぞれに違った鼓動でメロディーを奏でるものだから、彼らが作戦室で集まっていると、本当に眩しくて――美しかった。
時には、目の前で小さな銀河が生まれる瞬間を目撃しているかのような感動すら覚える……みんなと触れ合う度に、その光のあたたかさを受け取っては、自分もその宇宙の一部になったような気がして。
あの光景……ダンは、そんな彼らを見るのが、本当に好きで好きで堪らないのだ!
隊長は、打ち寄せる荒波の如き険しさと、玄武岩にも劣らぬ揺るぎない頼もしさの中に、石英のように煌めく平和への思いが隠されている。
どっしりと、広大な大地のように構えたフルハシは、そこにごろりと寝転がってみれば、新芽の生い茂る、豊かでふかふかとした森の中にいるようで。
アマギの瞳は、湖畔を思わせる静かさを湛え、秋のように深いけれど、その奥底にはいつも、鮮烈なまでに情熱の色が煌々と輝いていた。
そして、ソガ隊員は――
だが、先ほど掴んだ手首には、物質的な温度だけではない、どこかゾッとするような、不気味な冷たさを感じたのだ。
そう、まるで。
「……人形と握手したみたいだった……」
「えっ?」
アンヌに聞き返され、ハッと我に返ったダンは、慌てて頭を振って、無意識のうちに口から溢れた呟きを掻き消した。恐ろしい考えを、頭の中から追い出してしまうように。
……よりによって、大好きな親友に対し、なんと不吉な想像をしてしまったのか。ダンは自分がそんな事をちらとでも感じた、それ自体に嫌悪感を覚え、恥じ入るように目を閉じた。
そして、友の消えた方向を見つめながら、嘘偽りない本心を口にする。
「心配だなぁ……」
「そうね……注意力低下、抑うつ、イライラ感にめまい……明らかに睡眠不足の症状だわ。でも、そんな筈は無いの!」
「どうして? 今朝もソガ隊員が自分で言っていたし……」
「あの人ったら、この数日間、ほとんどずっと眠り続けていたのよ!? 身動ぎひとつしないで! 泥のように眠るっていうのは、まさにああいう事を言うんだわ……死人と過ごしてるんじゃないかと思ったくらいよ。それでも寝足りないって言うの?」
「……っ!?」
アンヌの何気なく口にした評価が、自身の感想とかなり近しい形で出て来た事に、ダンは背筋の凍る思いがした。
ならばこそ、無理やり笑顔を作り、穏やかな声に微かな震えすら混じらぬよう注意を払うと、努めて明るく振る舞うダン。
「寝過ぎて逆に疲れたんじゃないかな。ほら、検査の数値は良かったんだろう?」
こうして半ば、自分に言い聞かせる為だけの台詞を吐く。
……そうでもしないと、彼がどこかへ行ってしまいそうな予感がして。
「そうなの。だから余計に分からないのよ……アタシもこんなのは初めてだわ。確かに睡眠も体力を使うけれど……逆に、なにか恐ろしい病気が隠れてるんじゃないかって……」
ダンはもう一度、友を掴み損ねた自身の掌へ視線をおとす。
アンヌの熱に、じんわりと包まれた指先ではしかし、髄まで切り裂くような冷たさが、芯の方で未だに強く残っていた。
明日の更新は、劇中時間に合わせて23時
貴方は原作『ウルトラセブン』を観たことが
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なかったが、本作をきっかけに視聴した。
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