転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「なんにせよ、本当にソガ隊員が不調なら、周りが助けてあげれば良いのさ。全員で少しずつ、彼の仕事を分担すれば、わけないよ。そうすれば、ソガ隊員も安心して休めるはずだからね」
「そうね、例えばアナタがしているように?」
「……バレたか」
そう言って、照れ臭そうに頭を掻くダン。何を隠そう、彼が終えてきたパトロールは、元々ソガの担当区間だったのだから。
「でも、僕だけじゃない。フルハシ隊員やアマギ隊員だって、口では言わないだけで、そのつもりのようだよ」
「ええ、それを言うなら隊長だってそう。立場上は厳しくしないといけないだけで、キチンと伝えれば分かってくれるはずよ。ソガ隊員も変な意地を張ってないで、ハッキリ言えばいいのに」
「……そうだね」
とはいえ、新たな敵の姿が見え隠れする今、一人だけ休暇を取ってゆっくりするなど、彼の性格上できっこないだろう……という事も分かってしまう。
確かに非番のソガ隊員は、誰かが声をかけない限り、昼過ぎになるまで部屋から出て来ないくらい『眠る』という行為が好きだ。なによりも。
しかし、それはあくまで地球が平和な時に限る……というのは、もはや但し書きすら必要ないくらいに、皆の中で共通認識だった。
『やつがああしてグースカ寝てるうちは、俺達もこうして暇してられるってわけだぁ。……そうだ、昼飯中に緊急招集で呼び出されちゃかなわねぇ。これからひとっ風呂浴びる前に、ソガをベッドへ縛り付けにいこうぜ!』とは、いつだったか道着を担いだフルハシ隊員の談。
どうせ鍵を開けて貰わないと、こっそり入れやしないのに。この人もまったく素直じゃないんだから。
あの時は、フルハシが何度も力任せにノックをし過ぎたせいで、寝起きのソガ隊員に、凄い剣幕で怒鳴られて非情に怖かった。
――結局、三人でいつものカレーを食べてる最中も、ずっとぶつくさ言っていたっけ。
電子錠が壊れるから、次からは静かに入って来いと教えて貰ったパスワードが、なんとスリーセブンのゾロ目だったのには、いくらものぐさでも無用心過ぎやしないかと呆れたものだが。
……今の彼がなぜ、あんなにも苦しそうなのに、それを黙っているのか。その理由の一端が手に取るように分かるからこそ、それを打ち明けて貰えない事が、酷く寂しい事のような気がする。
だが、分かるからこそ、何も言えなくなってしまうのかもしれない……きっと自分なら、そうして欲しいと思うだろうから。
そうするには充分すぎる時間を、彼らは共に過ごしてきたのだ。
――だから、今度の事件が解決するまで、ソガ隊員は本当の意味で休む事が出来ないんだ。医務室でいくら寝てても足りないだけさ。そうだ、きっとそうに違いない。
「いけない、アナタも寝なくちゃ! 引き留めちゃってゴメンナサイね、疲れてるでしょうに」
「いや、いいさ。キミと話せて良かったよ。ソガ隊員の事、もっとちゃんと見ておかないといけないって、分かったからね。アンヌも頼めるかい?」
「もっちろん! 第一、みんなの健康管理は、元からアタシの役目なんだから!」
ドンと、自身の豊かな胸を叩くアンヌ。
ダンはそんな彼女の艶やかな髪を、無意識のうちに撫でようとしていた事に気付き、慌てて動きを止めた。
――いけない、気を付けなくては。
自制を籠めて、上げかけた手は、代わりに目の前のドアノブへ置き直し、扉を開く。
何を隠そう、ここは自室の目の前だったのである。
「それじゃあね。ダン、おやすみなさい」
「……ああ、おやすみ。アンヌ」
無邪気に手を振るアンヌへ、ドアの隙間からニッコリと笑いかけてから、ダンは私室へと引っ込んだ。
……そして。
電気の消えた暗い室内へ、ゆっくりと向き直った時。
彼の顔からは表情がゴッソリと削げ落ち、貼り付けていた柔和な笑みは、影も形も見あたらなかった。
ちらりとフクロウ型の壁掛け時計を見れば、もう23時。
アンヌの言うとおり、明日の早朝に備え就寝しなくてはならない。
そのまま二、三足を進め、ベッドへうつ伏せのままばったりと倒れこむが、しばらくしてからもぞもぞと腕だけを動かして、枕元の計器類を引っ掴む。
ごろりと仰向けになって、それらで数値を測り、薄らとあけた瞼の隙間から、結果だけを読み取った。
脈拍200、血圧300、熱が60℃近くある……
「……よし」
――まだ許容範囲だな。
気を緩めた瞬間、ダンの頬や額、いや全身の肌という肌から、玉のような汗がとめどなく溢れてきた。
彼はただ、仲間達に心配をかけないように、念力で自らの体調を無理矢理コントロールして、元気な風を装おっていただけだ。
なによりも、うっかり本来の体温のまま歩き回って、アンヌに腕でも掴まれようものならば、彼女に火傷を負わせてしまいかねない。あの、ビロードのような美しく柔らかな肌に。
それだけは、断じてあってはならない事だから。
……しかし、今はこうして抑え込めているが、このままさらに悪化していけば、それも段々と難しくなってくるだろう……
宇宙では時々、このような言説を耳にする事がある。
曰く『光の国の住人は、嘘がつけない』『隠し事が下手』
これは、『彼ら』という存在を知る者達の間で、まことしやかに囁かれ、根強い支持を受けているものだ。
しかも驚くべき事に、その支持者というのが彼らに対して友好的だろうが、敵対的であろうが、そこにスタンスの差による偏りは全く無く、それどころか『彼ら』自身の中にも、それを自覚している者すらいる程である。
……しかし、実際はどうか。
とんだ見当違いも、いいところではないか!
彼らは嘘がつけないのではない。
ただ単に、人を
だからこそ、彼らにとって大切な誰かを守る時や、他者を傷付けない為にでさえあれば、彼らはその多才さを遺憾なく発揮して、とことんまで迫真の嘘を貫き通す!
でなければ、これだけ長い間、ずっと正体を隠して地球人の中で生活し続けるなど、出来るものか。
むしろ『彼ら』は自らの中に、詐欺師としてはいかに天賦の才が隠されているという事へ、全くもって無自覚に過ぎるというべきなのだろう。
彼らはどこまでも純粋で、優しく、強い……だからこそ、それが時として、いかに残酷な仕打ちであるのかという点に気付く事が出来ない……いやむしろ、そう思う自らの心すらも、完全に欺く事ができるのかもしれなかった。
だが、そんな優しきペテン師すらも、ついに周囲を騙し通すのが難しくなる程に、体調が悪化し始めていたのである。
――この異常な症状が、もしや……
彼には直接の原因がハッキリと分からなかったが、自身の体で進行している現象そのものについては、薄らと見当がついていた。
……彼の肉体を構成する光の粒子が、
M78星雲人は、宇宙で度々見られる精神体のみの種族とは違い、はっきりとした独自の肉体を有し、それを行使することで生活している。
だが同時に、そんな彼らの正体は突き詰めれば『光』そのものとも言うべきエネルギーの塊でもあるのだ。
それを、ディファレーターの光を浴びる以前の記憶や、各々の認識に即して用意した仮初めの肉体……単なる強靱な容れ物の中へ、本体たる光の輝きを押し込める事でいわゆる受肉をし、この宇宙に存在している種族。
それが彼らだった。
したがって彼らの肉体は、本来は超高速で移動し続ける筈の光をその場に『留める』という不条理によって、凄まじいエネルギーを生み出し、その余剰でもって各種光線や超能力を駆使する事が出来る。その熱量は小型の恒星にすら匹敵する程だ。
だからこそ、かつてこの地球を訪れた
これが、その星の一般的な生物……つまり人間の姿を偽装する事が出来れば、外界との情報量格差を最低限度まで抑える事ができるというわけだ。
勿論、彼らの本体は『光』であるので、人間に憑依してしまえば、これを簡単にクリアできる。
だが、本来ひとつの命が持つべき時間を、二人で共有するだけでなく、余りにも長期間その状態を保つと、やがて完全に同化してしまう為に、本星の倫理的には決して推奨されず、あくまで目の前に消えゆく輝きがあった時のみ、それを延命する手段としての、緊急避難的な措置でしか許されていない。
もしも、あの時の薩摩次郎が半死半生であったなら、そのような選択があったやもしれぬが……そうなる前にセブンが救った為、彼は気絶程度ですんだ。
だからセブンは、自身の体に有り余るエメリウム粒子――生命体の肉体構成を司る粒子だ――を用いて、彼の生体情報だけを再現し、地球上で暮らす一人の人間、モロボシ・ダンとなったのである!
だが、それでも完全に消費をゼロと出来るわけでもなく、ましてや、エメリウム粒子の精製能力が落ち、念力も弱まった今、人間態を保つ事すら並大抵ではない。
果たして元の姿と仮の姿、どちらでいる方の消耗が
今はまだ、辛うじて人間態でいる方が楽だろう。だが、もう少しすれば……それを保つ労力の方が、ずっと上回るはず。
だが、例えそうなったとしても、ダンはこの姿でいる事を望んだだろう。
なぜなら地球人の姿には、消費エネルギーを抑えるという利点が無くなっても、もはや替えの効かないもうひとつの意味があるからだ。
モロボシ・ダンとして……ひとりの地球人として、彼らの仲間であり続けるという意味が!
だから、例えどのような犠牲を払ったとしても、この姿を捨てるという選択肢は……ない。
そうか、もしかして……
「貴方も……そうなのですか……?」
ベッドの上で、うわごとのように呟いた。
そんな時だ。気を失うように眠っていた彼の枕元に、何者かの気配がする。
『340号!』
突如として響いた呼びかけに、スイッチの入ったアンドロイドの如き無機質さで瞼を上げるダン。
その開ききった瞳孔の中には……真紅の肉体に白銀の面、星々の輝きを宿したような鋭い眼光を持つ、彼のもう一つの姿が、そっくりそのまま写っていた。
『……いや、地球での呼び名にしたがって、ウルトラセブンと呼ぼう。君の体は過去の侵略者たちとの激しい闘いによって、多くのダメージを受けた……』
セブンの脳裏を、これまでの記憶が走馬灯のように駆け巡る。
ブラコ粘菌の栄養体達が駆る遊走船団に包囲されたり、シャドウマン達の親玉を追いかけに行った時、逆に囚われの身となり、危うく連れ去られそうになった自分を、間一髪で助けてくれたみんな。
超弩級の排水量を誇る三式アイアンズロックとの、刻一刻を争うチェーンデスマッチに駆け付けてくれたマックス号。馬力と砲火の飛び交う一大海戦。
悪魔の如きアロンの襲来で、基地の存亡をかけた血みどろの死闘を、文字通り背中を預けて戦い、散っていったパイロット達や陸戦隊。
そしてなによりも、ペダン星人の神戸事変!
あれこそまさに、セブンと人類の共闘が勝ちとった尊い勝利だ。
全てが昨日の事のように思い出される。
どれもこれも、血で血を洗うような激闘だったが、それで深く傷付いてしまっても、セブンは何一つ後悔などしていなかった。むしろ誇らしいとさえも!
『これ以上、地球にとどまることは非常に危険だ。ウルトラセブン、M78星雲に帰る時が来たのだ!』
その通り、これ以上地球に留まれば、やがて人間態の保持どころか、ウルトラセブンとしての姿さえも、保てなくなる時がくるだろう。
「しかし、この美しい星を狙う侵略者たちは、あとを絶たない、僕が帰ったら地球はどうなるんだ……?」
シャドー革命軍の浸透戦術や、キル族のスパイナー掠奪も、マゼラン星雲からの惑星弾道弾だって、セブンがいなければどうなっていたか。
まだまだ人類の力は、この広大な宇宙の中において非常にちっぽけだ。ウルトラ警備隊がいかに知恵と勇気に優れていようとも、それを容易にひっくり返してしまうような科学や歴史がごまんとある。
『セブン、今は自分のことを考えるべきだ……地球にとどまることは、死を意味する……』
彼の肉体は、『光』だ。辛うじてヒトの姿へと押し込められているに過ぎないそれらが、エメリウムの楔から解き放たれてしまえばどうなるか。
彼らは光であるが故に、厳密には『死ぬ』事は無い。
だが、宇宙という漆黒の海原へ散り散りになってしまった粒子を、再びひとつひとつ掬い上げて、塊に戻すのは非常に困難でもある。
確かに彼らは、厳密に言えば滅びる事はない。しかし一度、個としてのカタチを保てなくなり、宇宙の闇と同化したならば、それは一般的な生命体の感覚に照らし合わせて考えて、『死』と同義であると見做されるのではないか。
ワイルド星人に魂を盗まれた時や、ガッツ星人の自我崩壊因子で処刑されかけた時、もしも、頼もしき彼らが救い出してくれていなければ……ダンは今、ここでこうして苦しむ時間すら与えられていなかっただろう。
そのことを、片時も忘れた事はない。
「……元の体には戻れないのか?」
傷付き、エメリウム粒子の精製能力が落ちたから、これ以上は肉体を保てないというのなら、その傷さえ癒えれば、またあの頃のように全力で戦えるという事である。
度重なる激闘の中で技術を磨き、幾多の技と戦士としての覚悟を備えた今、肉体までも再び全盛期へと戻ったならば、今度こそセブンは誰にも負けないだろう。それこそ、あの
『それには、M78星雲に帰る必要がある。君の体は人間とは違うのだ!』
セブンとて自らの傷が、決して生易しいものでは無い事くらい分かっている。エメリウム粒子の精製器官は、人間の脳や心臓のように繊細だ。
勿論、人類の医学書にそのような臓器に記述などありはせず、例えどれだけアンヌやキタムラ医師が優秀なドクターであろうとも、まったく未知の患部を診る事など出来ず、このまま彼女らの治療を受けたところで、体が良くなる事は無い。
しかも、本星においてだって非常に困難な治療を成功させねばならず、出来るとすれば、銀十字軍の優れた医師である叔母のように、一握りの人材だけだろう……とも。
だが!
「今は帰れない……地球に恐ろしいことが起こりそうなんだ! ……それに、ソガ隊員だって……このまま、放っておくわけにはいかん!」
――今度の戦いは、これまでのどれよりも、辛く激しいものとなるに違いない。
セブンの超能力は弱っていたが、それでも彼の第六感……否、鍛え上げた戦士としての勘が、そう囁いていた。
それに、今更セブンは自分が死んでしまうことなどは、とっくに計算外だった。
命というならば、そんなものはガッツ星人やポール星人から挑戦を受けたあの時に失ってしまっていたはずのモノで、彼らがいなければ、今こうしている事すら出来なかったのだから。
確かに、これまでセブンは何度となく彼らの命を救ってきた。
しかしそれと同時に彼らもまた、紛うこと無く命の恩人なのだ!
そんな人類が、先住民との不幸な歴史を乗り越え、新たな一歩を踏み出そうとしている。
血を吐きながら続ける悲しいマラソンなどではなく、宇宙の何処かに咲く、一輪の美しい平和の華を探す旅の、偉大なる一歩を!
それを誰かに邪魔など……させるものか。
決して、この命に替えてだって!
――地球防衛軍は仲間を見捨てない――
その言葉はもはやセブンにとって、どうしても逃れられぬ呪縛ですらあった。
だが同時に、決して捨て去れぬ美しい絆の証であり、何物にも代え難い絶対の誇りなのだ!
『……ひとつだけ忠告する。闘ってこれ以上エネルギーを消耗してはならん! M78星雲に帰ることができなくなってしまう』
それに対しセブンは、ベッド上の肉体を一切身動ぎさせぬまま、内心でゆっくりと首を振った。
自らの覚悟を宣言し、心へ刻み込むように。
――なにより彼が……僕の大切な友人が、必死に耐えて頑張っているのに、僕だけがひとり音を上げて帰るなんてことは……そんなこと、許されない!!
『……変身してはいかん!』
その拒絶を聞いた時、ダンの瞳の中の生き写しが、初めて激昂したように声を荒げ、強く厳しい口調で
と同時に、伸ばした真っ赤な指で空を切り、ダンの胸と、部屋の壁を一直線に切り結ぶ。
すると、ポケットのウルトラアイが、弾かれたように飛びだした。
「ハッ!?」
そこで夢から覚め、思わず飛び起きるダン。
そして少しばかり冷静になって、額に浮いた大量の汗を拭う。
――今のはいったい……まさか……? いやそんな筈は無い。
もしや、恒点観測員340号としての無意識が、主人格へ警告する為に見せた幻なのだろうか……?
不安を解消するためか、拠り所である筈のデバイスを求め、指が勝手に胸ポケットを探る。
……しかし。
「あっ……!」
――ない! ……ウルトラアイが無い!
慌てて辺りを見渡したダンは、部屋の一点に視線を固定すると、やおら立ち上がって、非常に怪訝な足取りでそちらへ近付いていく。
そこには、フクロウを模した壁掛け時計に、しっかりとウルトラアイが
レンズデバイスの向こう側で、秒針代わりの振り子に合わせ、フクロウの瞳がアッチコッチ、アッチコッチ……
恐る恐るウルトラアイを外すダン。
その頭に響くのは先ほどの言葉。
変身してはいかん……
変身しては……
明日はからは放映時間19時から
貴方は原作『ウルトラセブン』を観たことが
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ある
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ない
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なかったが、本作をきっかけに視聴した。
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他昭和ウルトラシリーズは観ていた
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平成ウルトラシリーズは観ていた
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令和からだゼェェット!
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そんなにシンが好きになったのか(完全新規
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その他(感想欄かDMにでも)