転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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史上最大の暗雲

 

「こいつッ!」

 

アマギが振り返り、背後のゴース星人を直ぐさま撃ち抜いた。

 

今度はトドメを刺し損ねないように、倒れた敵に向かって、何度も何度も執拗に、ほとんど半狂乱になりつつ星人の死体へ残弾を撃ち込んでいく。

 

その腕を巻き取るようにして、アンヌと似た女が首を振りつつ制止した。

 

「もう充分です! 死んでいます!」

「ハァ……ハァ……そうだ、ソガは?」

 

上空を見上げてみるが、ピンク色の電磁カプセルは何処かへ飛んでいってしまった後。

 

どうやら一度起動した後は、自動で回収されるようになっているらしく、発動者を殺したからといって、逆回しで戻ってくるという事はないらしい。

 

「駄目か! ……だいたい、キミさえいなければ……おい!」

 

蹲り、地面に転がるゴース星人の死体に向かって、両手を合わす謎の女を、アマギは腹立ち紛れに腕を引き立て、少々乱暴な扱いをした。

 

すると、振り返った顔が、益々アンヌそっくりであったものだから、バツが悪そうに目を逸らす。

 

「う……キミは、いったい何者なんだ?」

「わたしは……」

 

その時、隊長達の攻撃に晒されていたウリンガが、ついに我慢の限界といった様子で身を揺すり、プロテクターについたトゲを四方八方へやたらめったら投げ飛ばし始めた!

 

その流れ弾は、当然こちらにも飛んできて、二人のすぐ近くの岩へ突き刺さり、表面から発する激しい冷気によって、あっという間に氷塊へと変えてしまう。

 

「キャッ! ウリー! お願いだから乱暴はやめてちょうだい! 聞こえないの!?」

「あの怪獣について知っているようだな……ひとまず、ここは危ない! 着いてくるんだ!」

「ウリー! ウリー!」

「隊長! ソガがやられました!」

『なにっ!』 

「なお、関係者と思しき民間人一名を保護! 安全確保の為、離脱します!」

 

アマギは、もがくアンヌ似の女性を俵抱きにして、戦線を離れていくのだった……

 

「よし、アマギの退避を援護するぞ! フルハシ! スモーク弾用意!」

「了解!」

 

忽ちウリンガの周囲に、モクモクとおびただしい量の煙幕が展開され、その巨体をあっという間に覆い隠していく。

 

『はあっ? ふぅーん! とおぁ!』

 

白煙の切れ目から、鉤爪の生えた厳ついグローブが空を切っているのがチラリと見えるあたり、周囲がいきなり見えなくなって、パニックを起こしているらしい。

 

『デュッ!』

 

これを好機と見たセブンは、地面に転がっていたアイスラッガーに飛び付いて、無様に転がりながらもそれをキャッチ。

 

そのまま、前転の要領で一気に身を起こすと、アンヌのホーク3号を追って、無防備な背中を晒していたパンドンを素早く切りつけた!

 

『ギャッ……ギャ……』

 

分断された左手と右脚が宙を舞い、ドウッと荒れ地に倒れ込む怪獣。

 

一匹を無力化したのを確認し、残るもう一匹に光線の狙いを定め……

 

――《お願い! その子を殺さないで!》――

 

――なにっ!?

 

突如、頭の中へ響いた声に、ピタリとその動きを止めた。

 

いや、止めざるを得なかった。

 

なぜならその声が、愛しい人と同じ声をしていたからだ。

 

だが、今まで限界ギリギリの所で張り詰めていた集中の糸が、それでプッツリと途切れてしまったセブン。

 

意識を失ったように、どたりとその場へ倒れ伏すと、彼の肉体は、自らの意思に反して光の粒子に置き換わり、最も消費の少ない体……モロボシ・ダンの姿へ戻っていった。

 

その直後、ウリンガに目隠しをしていた煙幕が、丁度効力を無くし始める。

 

ようやく視界が開けた彼は、首をしきりに振って、まるで何かを探している風にも見えたが、あいにく周囲には無惨に切り裂かれたパンドンの死体しか見当たらず、落胆したように肩を落としてから、何処かへと姿を消したのであった……

 

 

―――――――――

 

 

基地のメディカルセンター。

 

その医療用ベッドには、ダンが血と包帯に塗れた痛々しい姿で横たわっている。

 

現場の状況がひとまず落ち着いた後、荒野でひとり意識を失った状態で発見されたダン。当時は、まるで眉間がかち割れたように大量出血しており、もはや手遅れかとみな顔面蒼白となったが、辛うじて息があった為に、ここへ急いで搬送されたのだ。

 

おそらく怪獣とセブンの戦いに至近距離で巻き込まれ、吹き飛んできた石か何かが直撃したのだろうと思われるが、それで姿形を留めていたどころか、命まで取り留めるとは、凄まじい生命力と強運である。

まさにミラクルマンだ。

 

しかし依然として、一切の予断を許さぬ状況である事は変わりない。

応急措置を終えたキタムラ博士が、緊張の面持ちで汗を拭う。

 

「助かりますか?」

「……」

 

キリヤマ隊長の言葉にも無言で返すしかない主治医。

なんとあのキタムラ博士が、である!

 

かつて未知の技術でサイボーグ化された人間をすら、元へ戻してみせた神の腕を持つキタムラ医師ですら、安請け合いしかねる程の重傷。

 

博士のその反応だけで、今のダンがどれほど危機的状況なのかを察し、皆の顔が一気に陰る。

 

そこへ、別の隊服を着た男が入ってきた。

なんとクラタだ。

 

旧友の顔を見て、思わず詰め寄るキリヤマ隊長。

 

「クラタ! V3は何をやっていたんだ!」

「なにぃ……?」

「そっちからの連絡が早ければ、モンスターは宇宙で始末できたんだ! ソガは拉致され、ダンは再起不能のキズを負った! V3の責任だぞ!」

 

あの宇宙船は非常に重装甲で、ウルトラホークの搭載火器では歯が立たなかった。

 

ただし、撃破する方法が無かった訳では無い。

 

……そう、北極基地に駐機されている宇宙爆撃艇。

 

幸いにも、装甲化を優先した為に反重力飛行しかできない敵の速力は非常に低速で、爆撃編隊の絨毯爆撃ならば、完全に消滅させる事も出来ただろう。

 

ただし、宇宙爆撃艇の重粒子爆弾はあまりにも火力が高すぎて、とてもではないが大気圏内での使用など絶対に不可能だ。

 

あれを壊すには、ステーションの早期警戒網に引っかかった時点で、北極基地へ緊急スクランブルをかけるしか選択肢は無かったのである。

 

本来ならばその余裕は充分にあった。

 

だが、基地のレーダーがその姿を捉えられるまでに接近されてからでは最早間に合わない。

 

キリヤマからすれば、先に地上で見つけた敵を相手に、今更のこのこ出て来こられたところで、V3の怠慢としか言いようがないだろう。

 

しかし……

 

「いいがかりはやめろ」

「なに!」

「俺はちゃんと連絡をとった。しかし、そっちからウンともスンとも返事がないんで、気になって降りてきたんだ……」

「……本当か!?」

「キサマァ……!」

 

青筋を立てて振り返るその顔には、俺の言う事が信じられんのか、と大きく書いてある。

 

彼の口汚さは有名だったが、クラタ隊長がそのようにつまらない誤魔化しや責任転嫁とは無縁の男であるというのは、誰からも明らかだった。

 

そもそも、そのように器用な立ち回りができるならば、今更あの悪名高いV3ステーションの突撃隊長など、拝命してはいまい。

 

「当番が居眠りでもしてたんだろ!」

 

不当な名誉毀損を受けた苛立ちを籠めて、吐きすてるように言い放つクラタ。

 

「そんなバカな!」

 

もちろんキリヤマとて、自身の部下をそのように貶されて黙っていられるはずもない。

 

「誰だ!? 夕べの当番はっ!?」

 

医務室に気まずい沈黙の帳がおちる。

もちろんフルハシ、アマギ、アンヌの三人にはこころ辺りが無いので、返事のしようがないからだ。

 

だが、やがて皆の視線がひと所に集まりかけ、途中で必死に逸らされた。

 

そう、その場の全員が昨日の状況をぼんやりと思い出し始めたからである。だがそれはあまりにも……

 

その時、ベットのダンが、朦朧とした意識の中、微かに目を開いて、怒れるクラタの顔を下から見上げた。

 

「……ぼ……ぼく……です……」

 

たったそれだけを絞り出すのもやっとという有様で、途切れ途切れに答えるダン。まさに虫の息。

 

すると、それを聞いたクラタは一度、信じられんというように目を剥いてから、みるみる顔全体を失望の色に歪めると、ダンが重傷という事すら忘れて掴みかかろうとする。

 

「今度はお前かっ!」

「クラタさん!」

「一人ならず二人もミスを犯すなんて……それでも地球防衛軍の隊員達か!? 無線機が故障だなんて言わせんぞ! 通信室で何をやっていたっ!? イビキでもかいて寝てたんだろう!?」

「う……ぐうっ……」

 

今のダンにはクラタの叱責すらも、傷を抉るような威力がある。

 

「自業自得だ! おいキリヤマ。人に文句を言う前にな、自分の部下の教育をするんだ!」

 

苦しむダンを冷笑し、旧友に正論で喧嘩を売るクラタの機嫌は今、過去最低に悪かった。

 

ソガにダン。

 

彼らが奴を支えてくれるからこそ……と見込んでいた若者達が、とんだ軟弱者ばかりだったと判明したからである。

 

そしてその煽りを食らうのは決して本人達ではない。彼らは死んでしまえばそこで終わりだろう。楽なものだ。

だが、その死の責任と呵責をこれからずっと背負っていくのは、指揮官であるキリヤマなのだ!

 

そして今、彼の悪友は大切な部下を、一気に二人も失おうとしている。

 

それが分かるクラタからすれば、二人とも酷い裏切り者に見えて仕方なかった。

いっそお前達が、最初から無能であってくれればよかったのに……それ程に、憎い。

 

なので余計に、ソガの分も合わせて、ダンを詰る態度に力が籠もる。

 

……だが、ふと顔をあげて見れば、その場の四人が若干の敵意すら滲ませた険しい瞳で、クラタの事をまじまじと睨んでいる事に気がついた。

 

――そんなツラで俺を見る権利があるのか?

 

一人一人、じっくりとそれを正面から受けて立ち、最後に、あの悪たれの顔にも同じ色――悲しみや憔悴に勝る程の怒りが燻るのを見て、ようやく口を噤む。

 

――そうかい

 

そうしてクラタは、若干バツが悪そうな顔でメディカルセンターを後にした。

 

「……そういえば」

 

キリヤマもキリヤマで、昔馴染みについて内心の機微が分からぬでは無かったが……あれ以上続けられていては、これ以上の冷静さを保てていたかどうか。

 

あそこでクラタが矛を収めてくれてよかったと思いつつ、それ程までにソガの不在と、なによりも目の前にいるダンの姿が、自身へどれほど重い衝撃を与えているのか再認識した。

 

だからこそ、先ほどのやりとりで微妙な空気となってしまった医務室を換気する意味も兼ねて、もう一つの懸案事項について尋ねる事としたのである。

 

「保護した民間人については?」

「は、それが……」

 

いつになく言い淀むアマギ。

常に確定した事実へ基づいて会話を展開し、だからこそ歯に衣着せぬ物言いの彼が……珍しい。

 

「私が思っていた以上に、複雑な事情のようでして……ひとまず、直接聞いていただきましょう」

 

アマギがカーテンを開けると、そこには一人の女がベッドへ楚々として腰掛けており、キリヤマ達に気付いたのかやおら立ち上がり、深々と礼をする。

 

彼女の衣服は紫色の簡素な布だが、腰の部分を赤い帯で巻いており、不思議と高貴な着物のようにも、患者の着る貫頭衣のようにも見えた。

 

だが、警備隊の全員がハッと息を呑んだ一番の理由は、お辞儀を止め、ゆっくり面を上げた彼女の顔を、正面から見たからだ。

 

「ア、アンヌ……!」

 

男性陣は、心底たまげた様子で二人を何度も何度も見比べるが、当のアンヌ隊員本人が受けた衝撃はそれ以上。

 

口をあんぐりと開け、掠れるような呟きを、喉の奥から絞り出すのが精一杯だった。

 

「ワ、タシ……だわ……」

 

「違います。私、アンヌじゃありません」

 

それに対し、寂しそうな表情で首を振る謎の女。

だが、否定をするその仕草も、その声も、益々もってアンヌそっくりだったので、周囲の困惑はいっそう深まるばかりだ。

 

「私の姿は……アンヌさん、貴女からただお借りしたものに過ぎません。私は、宇宙人なのです」

「なに、姿を借りた?」

「はい……私はユーリー星人という、精神体のみの種族なのです。我々は、星の外で活動するためには、こうして肉の器を用意する必要があります」

「ひゃあ、するってえと、まるで幽霊みたいなもんかい!? ……で、でもアンヌはいまこうして……借りるったって、どこから!?」

 

フルハシが大量の疑問符を浮かべながら、なんとか話に着いていこうとするが、彼が飲み込んだイメージは、幽霊が人間に憑依するようなものだった。

 

だから、幽霊星人がアンヌの体を借りたというなら、本人は操られている筈である。しかし、実際には二人とも別人としてここにいるではないか。

 

「この肉体は……そちらにいるアンヌさん、彼女の遺伝子情報を基に培養した、クローン体なのです」

「何だって! クローン!?」

「はい、ですからアンヌ隊員に似ているのも当たり前。ですが中身は、あなた方地球人とは全く違う種族なのです」

「なるほど……」

 

まだ完全に理解した訳ではないにせよ、ある程度の納得をもって頷く警備隊のメンバー達。

 

しかし、キリヤマは彼女の話を聞いて、ひとつ引っかかりを覚えずにはいられなかった。

 

「待て、アンヌの遺伝子情報……? それは一体どこから?」

「……」

 

それを聞かれた途端、気まずそうに顔を伏せ、黙りこくる女。

キリヤマが半ば何かを確信したような表情で見つめる中、他の三人はどうした事かと心配げに首を傾げる。

 

だが、女もついに意を決したのか、キリヤマへ正面から向き直り……

 

「申し訳ありません。我々ユーリー星人は以前、こちらの地球防衛軍基地に侵入した事があります」

「な、なんだって!?」

「いつの間に!」

「そんな筈ないわ! 今までの侵略者は私達とセブンでみんなやっつけて来たもの!」

 

あまりにも衝撃的な告白に狼狽える三人。

しかしそんな中、アマギがふと何かに気付いたように口元を押さえ、頭を回し始めた。

 

「待てよ……? 精神体……遺伝子情報……侵入……気付かない……そうか! まさか!?」

「やはり……」

「なあおい、どういうこったよ……俺にも教えてくれよぅ……」

 

少ない情報とこれまでの記憶を頼りに、おそらくそうではないかと当たりをつけたアマギと、その様子に自らの懸念がどうやら的中していたらしい事を悟るキリヤマ。

 

完全に白旗を上げたフルハシが二人に取り縋るが、その必要は無かった。頷いた女が、再び真実を語り出したからだ。

 

「そうです。我々ユーリー星人は、シャドウマンを使って基地から機密情報を抜き出し、それを囮にウルトラセブンを誘き出す事に成功しました」

「シャドウマン……?」

「分かった、あの動く死体の事件だわ……!」

「なんだと!? じゃあ、あんとき盗んだ情報で侵略の準備が整ったから、今頃になって攻撃を開始したってわけか!」

 

カッときた様子で腕捲りするフルハシを、女が懇願するかのように制止する。

 

「お待ちください! 我々ユーリー星人の計画は失敗したのです! 今、この地球を狙い、あなた方のお仲間を誘拐したのはゴース星人です!」

「なに、ゴース星人?」

「確かに、我々を攻撃してきた宇宙人の姿は、彼女のように地球人を模したものとは違っていました。そしてソガが捕まった際には彼女もぼくらと一緒にいたんです」

「ふむ……」

 

状況証拠から、女が今回の敵とはどうやら別口らしいと推察するアマギ。しかし、だからといって怪しさが無いという訳でも無い。

 

「でも……あなたはあの時、後から現れた怪獣に向かって、何かを呼びかけていた……何か知ってるんじゃありませんか?」

「はい……それについても、今からおはなし致します」

 

ユーリーの女は、アマギ達がひとまず冷静に話を聞くつもりであると分かり、ホッとした様子で胸を押さえ、再び口を開く。

 

「まず最初に出てきた、赤い二つの顔を持つ怪獣……あれはゴース星人の連れてきた、パンドンという怪獣です。そして、後から出て来た方こそ……ウリンガ」

「ウリンガ?」

 

深く頷く女。

 

「ウリンガ……宇宙の言葉で『最も強き子』という意味を籠めて名付けられました。彼こそが、ユーリーの科学の粋を集めて作られた、究極の人造兵士なのです」

「なに、人造兵士?」

「はい……正式にはウルトラレイブラッド=タイプゼロ……ユーリーに古代より受け継がれてきた、恐るべき闇の因子を、考え得る限り最良の肉体サンプルへ埋め込む事で、銀河で最も強い肉の器を造り出す……それが『究極の子供達計画』でした」

「……ま、待ってください、その考え得る限り最良のサンプルと言うのは……」

 

真っ青になりながら、微かに震えた声のアマギ。

それを見てフルハシは、いったい何をそんなにビビっているんだ……と脇を小突こうとした直前、天啓のように閃きが降りてきた。

 

「ははあ、わかったぜ! それで俺達ウルトラ警備隊の遺伝子情報ってわけか! 確かに俺達を素体にすりゃあ、さぞや良い兵士が出来るだろうなぁ!」

 

暢気に力こぶを作るフルハシに、ゆるゆるとかぶりを振るユーリー星人。

 

「申しましたでしょう。あの時の我々の目的は、シャドウマンを使って、ウルトラセブンを誘き出す事だったと……」

「じゃ、じゃあまさか……」

「はい」

 

続きを察して、顔面蒼白となってしまったアンヌに頷きを返し、驚愕に揺れるそれと、全く同じ瞳を悲しげに伏せた女は、一度深呼吸をしてから、アンヌが聞きたくもないような残酷な事実を口にした。

 

「そう、あのウリンガこそ……ウルトラセブンの完全なクローン体なのです」

「……ッ!?」

 

息を呑む警備隊。しかし。

 

「待て、計画は失敗したのでは無かったのか?」

「……そうです。あの子は……ウリーは失敗作でした」

「なに、失敗作?」

「ウリーは……破壊の尖兵として操り人形とするには、余りにも純粋に育ち過ぎたのです。私は、元は単なる研究員のひとりに過ぎませんでしたが、彼の調整役……親代わりとして、そこにいるアンヌ隊員の生体情報をセットされた肉体を与えられました。刷り込みによって、彼を如何様にも操れると上層部は考えたのでしょう。しかし……ウリーの自我は、計画よりも強く発達してしまい、もはやユーリー星人の憑依を受け付けなくなってしまったのです」

 

そう語る彼女の瞳に、確かな誇らしさと、確固たる慈愛の涙が光るのを、アンヌは見た。

 

そしてその瞬間、全て理解したのだ。この宇宙人は、そのウリーという実験体を、我が子のように愛してしまったのだと。そしてもはや、大切なその子をそのような悍ましい計画の贄に捧げるなど、とても出来はしなかったのだと。

 

彼女がもしも肉体だけでなく、心や感情までも全てアンヌをコピーしたのであったら、まず間違いなくそうであろうという確信があった。

 

そして、そんな彼女から無償の愛を与えられて育った存在が、誰かを傷付けるような命令へ素直に従うかと聞かれれば……

 

「みんながあの子を育てる事に反対しました……ですが私は……」

 

勿論、アンヌは星人がウリーと呼ぶ、あの怪獣の子供時代を見たことは無い。全てが想像だ。だがしかし、それでも……自らと同じ顔を持つ相手だからこそ、その過去にどのような事があったのか、この場にいる誰よりも深く共感し、納得し、信じる事ができた。

 

「ところが、そうしてウリーの廃棄処分が決定した時、どこからかあの子の存在を聞きつけたガッツ星人が襲来し、ユーリー星はそれどころでは無くなりました……私達はその混乱を利用して、壊滅する研究所がら命からがら逃げ出す事が出来たんです……」

「なに、ガッツ星人……?」

「そうか……奴さん、最強って言葉に目がねえからなぁ……自業自得っちゃなんとも皮肉な結末だがよ」

「それで、そんなあなた方親子が、どうして地球へ? なぜウリンガは突然、あの戦いに乱入してきたのですか?」

「……」

 

ユーリーの女は、アマギの問いに、しばし瞑目し、悔しそうに唇を噛んだ。

 

それから、かつてガッツ星人にダンが捕まり、その行方が分からなくなった時にアンヌが見せたあの表情で、まさしく痛恨の至りといった様子で事実を釈明しはじめた。

 

「私が……私が愚かだったんです。二人だけで宇宙を彷徨うにも限界がありました……だから……彼らを頼ってしまったんです。ゴース星人を!」

「なぜ、よりによって……」

「我々ユーリー族とゴース星人は、今でこそ大きく異なる進化を遂げましたが、その歴史を辿っていけば、基は祖先を同じくする近縁種なのです。完全に違う場所で興った種族よりは、まだお互いの事が分かるかと……だから、藁をも掴む気持ちで彼らの船団に助けを求め……実際、彼らは快く迎え入れてくれました。ですが!」

「……本当の思惑は別にあった」

「まさかあの子を、侵略用の生物兵器として使う為だったなんて……!」

 

顔を押さえ、泣き崩れる宇宙人の女。

 

「ここのところ、私達は引き離され、一目見る事も出来ない有様でした。恐らく彼らは、私を人質にしてウリーを脅すか、洗脳でもしたに違いありません……」

 

フルハシとキリヤマは、セブンが姿を消した後、ウリンガが何かを探すようにキョロキョロとしていたのを思い出した。

 

あれはもしや、この女を探していたのか、もしくはセブンの死体でも持って帰ってくれば母親に会わせてやるとでも言われているのか。

 

「お願いします。どうかあの子を殺さないで! 虫が良い頼みである事も承知です! でも、私にはもうあの子しかいないんです! ウリーは本当は優しくて、あんな事をする為に生まれてきたんじゃないんです! お願いします! あの子を助けて下さい!」

 

そうして頭を下げるユーリー星人に、なんとも対処に困る警備隊。

 

もちろん、地球人として思うところが無い訳では無く、言いたい事も沢山ある。

しかしながら、なまじ外見がアンヌであるせいもあってか、冷たく突き放す事がなんとも難しい。

 

その時、後のベッドから低いうめき声が聞こえてきた。

 

「うっ……」

「ダン! 起きたのね!」

「あの宇宙人は……つまり……」

 

弱々しく掠れた声で、ユーリー星人に問いかけるダン。

 

「セブン、の……子……なのか……?」

「……ッ!?」

 

ハッとする女。

彼女は、それを言おうか言うまいか、しばらく悩んだ様子で押し黙る。

 

「あの子には……父親が、いません。母親も……結局、私は親代わりでしかないんですから……実の子、じゃ……ありません。でも……」

 

その時ユーリー星人は、恥も外聞もかなぐり捨てて、ただ愛する我が子が生き残る為、一縷の望みを託してその言葉を口にした!

 

「あの子に血を分けた家族がいると言うのなら……それは……ウルトラセブン。あの子の本当の家族は、彼だけなんです!」

 

「……」

 

「……ダン?」

 

女から視線を外し、天井をじっと見つめるダン。

 

そして……

 

「ふんっ……う、ぐぁっ!」

 

ベッドから身を起こそうと試み、全身に走る激痛に悶絶した。

 

「ダン!」

「無理するな! ダン!」

「いいからお前はそこで寝てろ、ダン!」

「ダン……」

 

駆け寄る警備隊の四人が見守る中、その身を苛む地獄の痛みに悶え苦しむダン。

 

悪魔のような侵略者から、地球を守るために戦ってきたウルトラセブンにも、ついに最期の時が近づいていた。

 

もう二度と再び立ち上がることはできないのだろうか……

 

死んではいかん。

 

地球は、まだ君を必要としているのだ。

 

がんばれ! モロボシ・ダン!

 

ウルトラセブン、生きるんだ!

 

          ……つづく






というわけで、「史上最大の侵略者(前編)」はこれにて終了。

前後編なので当たり前ですが、溜め回ばかりで爽快な展開がひとつもない状態での引きになり、大変申し訳ありません。

また後編が書き上がるまでしばしお待ち下さい。

では、今年も当作をご愛顧頂き、誠にありがとうございました!
来年も良き年になりますように!



~アンケートについて~
まだ当分締め切らずに置いておくつもりですが、これを書いてる現時点での所感をば。

なんと、実に3割弱の方が、ウルトラセブンを知らない状態にも関わらず、当作をお読みになって下さっていると分かり、ビックリしました!
よくぞまあ手にとって、しかもここまで読み進めてくれたものです。改めて感謝します。

そして、特にその中の16人の方!
本当にありがとうございます!!

あなた方が、新たにウルトラセブンという作品に触れてくれたという事実が、私はとても嬉しい!
分かりますか? 自分の二次創作で、推しの布教に成功したんですよ!? この喜び、この誇らしさ! ありがとうございます。
この作品を世に出して、本当に良かったと思えました。

そして、257人のセブンファンの皆様!
令和の世になっても、未だにあなた方のような根強いファンに支えられ、ウルトラセブンというコンテンツが生き続けているという事がどれだけ素晴らしい事か!

皆様と本作を共有できるという事に無上の喜びを感じる次第でございます。セブン55周年おめでとう!

みんな、いつもこの作品読んでくれて、マジありがとうございます。
それでは良いお年を!

貴方は原作『ウルトラセブン』を観たことが

  • ある
  • ない
  • なかったが、本作をきっかけに視聴した。
  • 他昭和ウルトラシリーズは観ていた
  • 平成ウルトラシリーズは観ていた
  • 令和からだゼェェット!
  • そんなにシンが好きになったのか(完全新規
  • その他(感想欄かDMにでも)
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