転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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史上最大の突入

 

「……で、この珍妙なガラクタはなんだ?」

 

「さあ? なんでもアマギ隊員によれば、敵への欺瞞情報を発信できるよう、プログラミングされているらしいですが……」

 

「がらくた トハ ナンダ。失礼ナ 奴ダナ」

 

「うおっ、喋りやがった……」

 

マグマライザーのコックピットで、今まさに発進の時を待つアオキとヒロタ。

 

彼らは、自分たちが座る筈である操縦席の後ろに、妙てけりんな機械がデン……と鎮座するのを見つけ、さっきまで訝しげに小突いていたのだが、突然それがピーピーと甲高い人工音声でがなり立てるので、ビクリと体を震わせた。

 

まさかロボットが喋るとは。

 

「ワタシハ ユーエイト。 ウルトラ警備隊ノ ハエアル 8番目ノ 隊員デス」

 

「はん、ロボットがウルトラ警備隊だあ? そんなバカな事があるもんか。僕ですら成れないんだ。機械なんぞに先を越されちゃ、かなわないよ」

 

「訳の分からん事を喋るロボットだ。コイツ、壊れてるんじゃないのか?」

 

「すくらっぷニ サレタイ ラシイナ。警備隊ノ 成リ損ナイ共メ」

 

「なんだとお前!」

 

「これは異な事を。我々は、正規の警備隊員ではないからこそ、待機命令に縛られず出撃できるんだ。お前がここにあるのは、員数外の単なる装備品扱いだからだろうが」

 

アオキを制しながら、ヒロタが呆れた声でそう言うと、銀色の機械は急に黙り込んで静かになってしまった。

 

――こんな簡単な問答に窮してしまうとは、喋れはしても、所詮は機械だな……

 

ヒロタが内心でそう冷笑していると、通信機から慌てたような声がする。

 

『マグマライザー! どうしました!? 整備不良でも見つかりましたか!』

 

「んん? どうしたアマギ隊員。こちらは今のところ特に異常無いが……」

 

『ええ? 今しがた、ユートが緊急警報を送ってきたので、何か起こっている筈です。マグマライザーの機内は彼が常時くまなくチェックしていますから……』

 

「ソウデス アマギ隊員。 異常アリ」

 

『どうした!? ……まさか、電送機との接続不良か!』

 

「現在 機内ニ 不審者 2名ヲ ハッケン。ウルトラ警備隊ノ 名簿ニ 登録ガ アリマセン。脅威ガ 排除 サレルマデ まぐまらいざーハ 発進 フノウ ……ピポピポ」

 

「……こ、こいつ!?」

「やりやがったッ!?」

 

よもやそんな強硬手段へ打って出ると思わなかったのか、ギョッとする二人。開いた口が塞がらないと言った様子。

 

それに対し、澄ました顔でとんでもない事を言い出したユーエイトはと言えば、頭のライトをチカチカと点滅させて、彼らの目を眩ませては「立チ入リ禁止 退出セヨ」などと繰り返すばかり。

 

騒々しい彼らの背後からは、通信機ごしだと言うのに、アマギの盛大な溜め息がしっかりと聞こえてくる。

 

『……今更、融通の利かないフリをしたって無駄だぞ、ユート。お前の性能はとっくに分かってるんだからな。だいたい、ソガと二人で野戦訓練中に無断で行方を眩ませたのは、どこのどいつだ』

 

「チェ バレタカ」

 

『頼むから仲良くやってくれよ……今回ばかりは、地球全土の危機なんだからさ……』

 

「仕方 ネェ ナア」

 

彼らの遣り取りを、信じられないものを見る顔で聞いていたヒロタは、彼らしからぬ、非常に不安げな声を上げた。

 

「なあおいアマギ隊員……いったいなんなんだコイツは……」

 

『ああ、彼はUー8。そんなナリでも、一応ウチの立派な隊員ですよ。勿論、正式な書類に記載があるわけでもありませんし、ホークに載って戦えるわけでも無いので、命令と関係なく今回の作戦に組み込む事が出来ましたが……大丈夫、戦力としては下手な人間よりも保証出来ますね。きっと役に立つ筈です』

 

「ホラナ ホラナ」

「嘘……だろ……」

 

得意げにピーピーと電子音を鳴らし始めるUー8と、その場に崩れ落ち、絶望の表情で蹲るアオキ。

 

戦力として保証……? 

それどころか、搭乗員の士気を絶賛削りに削っている真っ最中なのだが……

 

「……どうしてもコイツを連れて行かなきゃならんのか?」

 

『当然! 作戦に必要な装備と人員を徴発すると言ったのは、貴方ではありませんか、ヒロタ隊員。彼こそがまさにそれですよ。撃墜したゴース星人の円盤から、味方識別に使う信号をイチノミヤと割り出しました。しかし、それを発信できるのは、現状そのUー8だけなんですからね。彼がいないと潜入がすぐにバレてしまいます』

 

「……なんてこった」

 

アマギの返答が、あまりにも芳しくなかったので、口をへの字にまげて頭を抱えるヒロタ。

彼はただでさえ、減らず口を叩く奴がとにかく嫌いだったので、人間でもないのにピーピー五月蝿いメンバーが増えて辟易していた。

……何故かと言うと勿論、誰かさんを思い出してしまうからだ。

 

『ああそれと……ご覧の通り、そいつは僕やソガなんかよりも、ずっと偏屈で頑固者ですからね。おまけにプライドの高さは貴方達と似たり寄ったりですから、くれぐれも機嫌を損ねたりしないように。いつもの調子で憎まれ口を叩こうものなら、すぐにヘソを曲げますよ。我々のように甘くはないと、さっきので分かったでしょう?』

 

「どうしてそんな面倒臭い設定にする必要が……おい待て、いつもやってるとはどういう意味だ?」

 

『ユート、気持は分かるが今日ばかりは大人しくするんだ。お前がぐずったら、それだけソガを助けるのが遅れるんだからな? 分かったな? 絶対だぞ!』

 

「ハイハイ 分カリマシタヨ」

「待て、俺は納得してないぞ! さっきの言葉は……」

 

『……あと少しで発進準備が整います。みなさん席についてください。それではご武運を』

 

「おいアマギ隊員、アマギ隊員!?」

 

それきりぷっつりと黙して語らぬ通信機に向かって、ヒロタは舌打ちを一つ落としてから、操縦席の座席にどっかりと腰を降ろした。

 

「……ふん、何が哀しくて、人間サマが機械のご機嫌なんぞ取ってやらねばならんのだ。俺はごめんだぞ」

 

「全くだ、馬鹿げてますよ! だいたい、戦力は最初から僕らだけで充分なんだ!」

 

「イイノカ。 僕ガ 敵ノ 識別ヲ 誤魔化シテ ヤラナカッタラ タチマチ アノ 地底みさいるデ 迎撃サレルカモ シレナインダゾ」

 

「そうなったらキミも木っ端微塵だ、ロボット君。ああいや、機械は最初から死ぬのが怖くないのかな? ハハハ」

 

「イイエ。 ワタシノ ぼでぃハ ハイマンガンすちーるト ちるそないと製デス。マグマライザーノ 装甲ト 合ワセテ 計算スレバ 生存確率100パーセント ピポピポ」

 

「こ、コイツ……自分一人だけは生き残れると言い出しましたよ……警備隊の風上にも置けない奴だな……」

 

「テメエ ニハ 言ワレタク 無イナ、アオキ。僕ハ  知ッテルンダゾ」

 

「し、知ってるってななな何がだだ?」

 

急にしどろもどろで、目線があちらコチラへとっ散らかるアオキに、ヒロタは首を傾げて――ひとつ思い当たる事があった。

もしや、彼が一度、敵に洗脳されて手先にされた事だろうか。

 

確かにあれは、度し難い程に屈辱的な過去だが、アオキはヒロタと違って、仲間を誰か殺したわけではない――もしや、そうなる寸前だったところを、ソガに尻拭いでもしてもらったのだろうか。ありそうな事だ。

 

それを、これ程に恥じて、後悔していると言うのなら……この男もまた、自分と同じと言うわけか。

 

途端ヒロタは、この生意気な後輩に、妙なシンパシーが湧き上がってくるのを感じた。

 

「おい、そこまでにしてやれ。お前が、自分を単なる機械でないと主張するのは勝手だが、他人の恥部を弄くり回しても痛む心が無いというのは、どうなんだ。そういう話なら、おれの方こそ、アオキ以下さ。なにせ、正真正銘の味方殺しなんだからな。さあ、詰ってみろよ」

「……」

「ヒロタ隊員……」

 

しばしコックピットに沈黙が落ちる。

尤も、この中で一番針の筵なのは、アオキであったが。

 

「マア イイサ。僕モ、ソガ隊員ニハ 恩ガ アルカラナ。アイツノ 為ナラ 君ラト 手ヲ 組ムノモ ヤブサカ デハナイ」

 

「……恩?」

 

「ソウダ 僕ガ 最初ニ コノ基地デ 目覚メタ時ハ、今ヨリ ズット ぽんこつデ 誰モ 役ニ立ツナンテ 思ッテハ イナカッタ。廃棄スンゼン ダッタンダ」

 

「ほう?」

 

「ソレヲ ソガ隊員ガ ミンナヲ 説キ伏セテ ナントカ 倉庫ノ スミデ 置イテ クレルヨウニ シタンダ。 彼ガ 庇ッテ クレナケレバ 今頃ハ すくらっぷニ サレテ 君ラノ 言ウトオリ がらくた同然 ダッタダロウ。オマエト 似タヨウナ モンサ アオキ」

 

「ユーエイト……」

 

「……世も末だな」

 

隣で早くも絆されかかっているアオキへ『正気かコイツ』と言わんばかりの視線を投げかけ、呆れたように呟くヒロタ。

 

「ワタシノ 生ミノ親ハ アマギ隊員デモ ソガ隊員ハ 育テノ親 ミタイナ モノダ。彼ラガ ワタシノ 両親ナンダ。 ダカラ アオキ サッキマデノ 事ハ 水ニ 流シテ 協力シヨウ ジャナイカ。オマエモ ソガ隊員ヲ 助ケタイ ノハ 同ジダロウ」

 

「ああ! 今のは僕も態度が悪かった。謝るよ。あの人を救う為に力を合わせるんだ! ユーエイト、いやユート!」

 

ロボットの差し出した、やっとこの如き右手を、力いっぱい握りしめて頷く若き隊員。

 

とんだ茶番だと思いつつ、それをボンヤリと眺めていれば、一人と一機が握手したまま首を回し、無言でこちらを見詰めてくるではないか。

 

「……あーはいはい、分かったよ! 『地球を救う為には君の力が必要だ。手を貸してくれ、ウルトラ警備隊隊員のユーエイト君』……これで満足か!?」

 

「ウム ヨキニハカラエ」

 

「くそっ……だからこんな辺鄙な所には来たくなかったんだ! 何がウルトラ警備隊だ……おかしな奴しかいないのか? まったく……おっ」

「あっ……」

「オヤ」

 

仏頂面でヒロタがブツブツと文句を垂れる中、コックピットの扉が開いて、そこから一人の小柄な女が現れる。

 

一同は最初、アンヌ隊員が入ってきたのかと思った。

 

しかし、ブルーグレーの隊服に身を包んだ彼女は、特に何かを告げるでもなく、伏し目がちにそっと頭を下げただけで、そのまま機内をキョロキョロと見渡すと、空いている後部座席へ静かに着席してしまうではないか。

 

本来そこは、聴音や通信を担当する者の座席なのだが、別に計器をチェックする訳でも無く、ただ楚々として座っているだけの彼女を見て、彼らはその正体を理解した。

 

この女、顔こそはアンヌ隊員と瓜二つだが、その実、中味は異星人らしい。確か、ユーリーだとか呼ばれていた覚えがある。

 

どうやら隊服に着替えてきたのだろう。肉体がアンヌの遺伝子を使って構成されたクローンだと言うならば、なるほどユニホームのサイズも、彼女の着替えを使えば問題ないということか。

 

しかしこうして、その小顔に不釣り合いなほど大きな警備隊のヘルメットを被っていると、ますますもって、アンヌそっくりと言わざるを得ない。まるで本人だ。

 

「模造された女……」

 

異星人の技術とやらに、ただただ驚嘆するアオキ達。

 

「ふん、ユーリーと言ったか? シートベルトの付け方くらいは、説明しなくても分かるな?」

 

ヒロタの問いかけに、コクリと頷く女。

覚束ない手つきで、彼女が腰に固定具を装着するのを見届けてから、彼は不愉快そうに鼻を鳴らし、マグマライザーの発進準備に取りかかる。

 

すると、隣のアオキが眉を顰めながら、起動したエンジン音へ紛れるように、ひそひそと耳打ちしてきた。

 

「ヒロタ隊員……本当に彼女も連れて行くんですか?」

 

「さあな、だが奴は特殊なテレパシーを使うらしい。人質として捕まっているガキの居場所が分かれば、そこにソガがいる可能性も無くは無い」

 

「その話、信用できますかね?」

 

「馬鹿言うな、宇宙人の女なんて信用できるか。だが、弾除けぐらいには使えるだろう」

 

「ああ、そういう……まあ、足を引っ張られなければいいんですけど……」

 

不審げな目付きで、後ろの女をチラリと一瞥するアオキ。

彼女は、自分が話題に上っているのを知ってか知らずか、前の二人とは視線が合わないように顔を背け、暇潰しとばかりに、壁のメーターが左右に振れるのをぼんやりと目で追っている。

 

「なんて不気味な女なんだ……何を考えているのか分かったもんじゃない。裏切ってきたら、どうします? 後ろから撃たれるのはゴメンですよ」

 

「下手に動かれるよりも、そっちの方がマシだろうさ。もしも変なマネをしたら……」

 

そう言ってヒロタは、座席の横、直ぐ手が届く距離に置かれたマルス177を軽く撫でつけた。

 

「お前も、警戒を怠るなよ」

 

「ヤレヤレ、とんだお荷物だ……」

 

肩を竦めたアオキは、出力に問題が無い事を確認し、レバーのロックを解除していく。

 

「エンジン出力安定、電力供給問題なし!」

 

「各装置との連結確認! ユーエイト、機体内部に異常は無いか?」

 

「異常ナシ 異常ナシ。機内ノ 生命反応チェック 完了。出撃めんばーハ 今載ッテイル 全員デ 間違イ ナイカ」

 

「ああ、問題無い」

 

「最後ノ 1人ハ アンヌ隊員 ダッタン デスネ。ソレナラ ソウト 早ク 言ッテ クダサイヨ」

 

「……あたし、アンヌじゃありません……」

 

「マタマタァ 緊張 シテル ノカナ。大丈夫 今日ハ 僕ガ 守ッテ アゲマス」

 

「……ぷっ」

 

後ろの会話を聞いていたアオキが、小さく吹き出した。

ヒロタも流石に失笑するまでは行かずとも、我が意を得たりとばかりに口の端を歪ませ、小声で囁いた。

 

「はん、女の見分けもつかんらしい。何だかんだいっても、所詮はこれが機械の限界らしいな」

 

「まあまあ、あんまり言うと可哀想ですよ」

 

「……お前も、入れ込むのは大概にしておけよ。あっちを庇って怪我でもされちゃ敵わん」

 

「僕がそんなセンチメンタルに見えますか?」

 

「……さてな」

 

『サードゲートオープン! サードゲートオープン!』

 

『オールライト? レッツゴー!』

 

「マグマライザー、発進!」

 

銀の円錐が唸りをたてて、超震動波で砂粒にまで粉砕された岩盤を穿ち抜く。

 

機内には、履帯が砂利を踏みしめる音だけが響き、先ほどまでの余裕な態度はどこへやら、一言も発さず真剣な表情で操縦に専念する二人の臨時隊員。

 

彼らは目を皿のようにして前方を見つめていたが、コックピットからは、土砂と岩石しか見えず、当然なんの変化もない。

 

それでも、僅かな異変すら見逃すまいと、気を抜く事なく任務に集中し続けるアオキとヒロタ。

経緯はどうあれ彼らもまた、非常に責任感の強い優秀な隊員達なのだから。

 

……そうして、基地をたってから10分に差し掛かろうという頃だったであろうか。

 

「さて、そろそろかしら」

 

後ろの座席からそんな声がする。

 

「……ほう、いったい何がそろそろなんだ? 自爆でもする気か? 宇宙人のスパイめ」

 

左手で操縦桿を握るヒロタの右手は、既にマルスの上へ添えられている。アオキも、後ろを向きこそしなかったが、シートに隠れるようにして、片手を胸元へ忍ばせていた。

 

しかし、女はそんな彼らの警戒を笑い飛ばすかの如く、非常に軽やかな声で返事を寄越した。

 

「アラ、おあいにく様。あたし、宇宙人じゃありません! れっきとした地球人よ。失礼しちゃうわ、もう!」

 

「なにっ!?」

 

驚き思わず振り返った二人の前で、謎の女はさっきまでのしおらしい態度はどこへやら、茶目っ気たっぷりに片目を瞑り、溌剌とした笑顔で舌を出してみせる。

 

「アンヌよ。ユーリーじゃなくて、漢字の友里のほう。嘘ついてゴメンなさいね。でも、貴方たちったら全然気付かないんですもの。面白くなっちゃった。女の見分けもつかない……だったかしら?」

 

「アンヌ隊員!? どうしてここに!?」

 

「そうだ! ユーリーとかいう宇宙人はどうした!? 奴の道案内が……」

 

「そうね。もういいわよ、ユーリーさん。出てらっしゃい」

 

「お、おい……まさか」

 

アンヌが機内スピーカーに向かってそう語りかけてから暫く、扉の向こうから、紫の簡素な装束に身を包んだ、もう一人のアンヌが現れた。

 

否、非常に申し訳なさそうな顔で恐縮している方こそ、本物のユーリーである。

彼女らは別に、服を着換えてなどいなかったのだ。

 

「バレるといけないから、出撃確認の時は、仮死状態になって、コンパートメントに隠れて貰ってたの。でも、いつまでも医療ベッドで荷物のフリしていて貰うのも可哀想だから……」

 

「すみません……少しの間だけなら、精神を肉体から引き離しても生きていられるんです」

 

「ワア アンヌ隊員ガ 二人。ココハ 地上ノ 楽園カ」

 

「ごめんねユート。騙すような真似して」

 

「イイエ。ワタシハ 最初カラ 分カッテ イマシタヨ。二人ハ 生命エネルギー量ガ 違イスギマス」

 

「んもう! だったらちょっとくらい空気読んで欲しかったわ! いつ貴方が言い出さないかヒヤヒヤしたんだから!」

 

和気あいあいと喋りだす彼らに唖然としていたが、やがてヒロタがハッとしたような顔で、苦言を呈す。

 

「待てアンヌ隊員。キミには待機命令が出ていた筈だ! これは重大な命令違反だぞ!」

 

しかしアンヌは、そんな指摘に一切怯んだ様子も見せず。

 

「そうね。でも、あたしはウルトラ警備隊員であると同時に、医者よ。そして、ソガ隊員の主治医でもあるわ。医者はね、常に患者にとって最大限利益のある治療を選択しなければならない義務があるの。あたしは、ウルトラ警備隊員としての使命を受ける前に、それを自身の医学に誓ったわ。これを破ったら、あたしは二度と、軍医として胸を張る事が出来ない。命令違反が何よ! 除隊でもなんでも、どうぞ!」

 

「そんな無茶苦茶な理屈が通るかっ!」

 

ついに席から立ち上がり、アンヌへ詰め寄るヒロタ隊員。

しかし、対するアンヌも負けじと胸を逸らし、腰に左の拳を当て、残った右の人差し指で彼の胸元を突くように示す。

 

「無茶苦茶ですって!? それなら貴方の言ってた事も大概よ、ヒロタ隊員? 何なの? 自分の権限で自分を異動させるって……そんなの許されるわけ無いじゃない!」

 

「う、ぐ……」

 

「ははあ、これは一本取られましたね」

 

アンヌの反撃に、二の句を継げないヒロタ。

暴論を振りかざして出て来たのは、彼も同じである。

そして、アオキとユーリーについても、指名したのはヒロタと言うことになるが、それも半ば泣き落としで許可を捻じ込んだようなものだ。

 

この場で、何の後ろめたい点が無いのは、それこそユーエイトくらいなものだろう。とはいえ、彼も乗員名簿に名前など載っていないのだが。

 

「それとも、これから引き返して、わたしを基地に置いてくる? それじゃあ間に合わないわよね? 残念だわ、あんなに欲しがってた地位まで返上して、同期を助けに行こうとしたのに」

 

「こ、この女……!?」

 

そろそろかしら……とは、状況的にも心情的にも、もう後戻りが出来ないラインを越えた、という意味だったのだ。

 

なし崩し的に、ヒロタが納得せざるを得ない場所まで来た事を確認してから、アンヌは正体を明かしたのである。

 

まんまと嵌められた事が分かり、ヒロタのこめかみがヒクつく頻度は高まった。

 

「別に貴方達の邪魔をしようって訳じゃ無いの。でも、ソガ隊員を救出できたとしても、直ぐに洗脳が解けるかは分からないし、体力だって消耗しているはずだわ。彼をマグマライザーまで移動させる前に、軽くでも診察できる人間がいた方がいいと思わない?」

 

「……ええい知るか! 着いてきたければ勝手にしろ! キミに関しての責任はとらんからな! だが、今は同格とは言え、到達した階級が最も高いのはおれだ。指示には従って貰うぞ」

 

「勿論よ」

 

忌々しげに吐き捨てるヒロタに、溌剌とした笑顔で頷くアンヌ。

まったく悪びれていない辺りが、ますます癪に障る。

 

だが彼も理性の部分では、名目上の屁理屈はともかく、救出作戦という任務の性格上、アンヌの存在は非常に有難い事が分かっているので、これ以上言い募るのは止めておいた。

 

その代わり無事に帰ったら、こいつらとはもう金輪際、決して関わるまいと心に決めたが。

 

「これだから女は嫌いなんだ……」

 

「アンヌ隊員って、随分としたたかな人だったんですね。……いや、それよりはあの人の影響かな? 手口がソガ隊員と似ているような気もしますし」

 

「いいかアオキ! 騙し討ちを奴の遣り口のように言うのはやめろ。おれの前で二度と言うな! 分かったか!」

 

「は、はあ……」

 

ギッと鋭い眼光でアオキを睨んだヒロタは、憤懣やるかたないといった様子で着席し……

 

ハンドルがひとりでに動いているのを見つけてギョッとした。

てっきり、アンヌを詰問するために立ち上がった際、マグマライザーは一時停止させたものと思っていたのだが……おまけに、無線のスイッチまで勝手にオフになっているのを見つけ、一つの心当たりを振り向いた。

 

視線の先では、ロボットが得意げにライトをチカチカと点滅させている。アイコンタクトのつもりだろうか。

 

「ボクハ 歓迎シマスヨ アンヌ隊員。地獄ニ 天使ダ」

 

「ありがとうユート。あたしもアナタがいて心強いわ。一緒にソガ隊員を助けましょうね。頼りにしてるわよ」

 

「マーカーセーテー」

 

蒸気を噴き出し張り切るロボットを見て、ついにヒロタは、苦み走った顔で足を操縦席の上へ投げ出すと、頭の後ろへ腕を組み、制帽を目深に被って目を瞑ってしまう。

 

「……けっ! やってられるか! アオキ、おれは寝るぞ」

 

「えっ? お待ち下さいヒロタ隊員。今更ボイコットなんて、どういうおつもりなんです?」

 

「どうしたもこうしたもあるか。どうやらこの戦車は、おれたちが操縦せんでも勝手に進むらしいからな。白兵戦に備えて体力を温存させて貰う! 着いたら起こせ。……いや、お前も寝ておくか? そこに高価な目覚まし時計があるからな、タイマーでも掛けとけば、きっと起こしてくれるだろうよ! ふん!」

 

「ちょ、ちょっと……」

 

「アラ、いい考えね、ヒロタ隊員! 流石だわ。いざ戦いになった時は、二人が頼りだもの。今のうちに休んでおいて! 目的地まではユートとあたしが操縦するわ。ユーリー、アナタも楽にしてた方がいいわよ。ずっと気を張りっぱなしだったでしょう」

 

「い、いえ、わたしは……とても休める気分では……」

 

「アンヌ隊員まで……」

 

「大丈夫 カナ コノ チーム」

 

ユーエイトの小さな呟きは、マグマライザーのエンジン音に掻き消されるのだった。

 

 

―――――――――

 

 

「大丈夫なのかねぇ、あの二人は……いくら射撃大会上位入賞者と元ウルトラ警備隊候補生とは言え……敵の本拠地にあんな少数で突っ込むなんて……」

 

「それを一人でやろうとしていたのはいったい誰ですか? ……大丈夫ですよ、ユーエイトも着いてますし、ユーリーさんの誘導があれば上手くいくでしょう。基本は隠密任務ですから」

 

「そのユーリーさんだって、宇宙人とは言っても戦える訳じゃ無いんだし、ユートの奴は、亀が歩いてんのかってくれえ足が遅いからなぁ……敵に見つかったらと思うと心配だよ」

 

「こうなったら、後は運を天に任せるしかありません。我々は、自分に出来る事をやるだけです!」

 

「そうだな……」

 

アマギは、ホーク1号の武装を最終チェックしながら、所在無さげにするフルハシを宥めた。

 

ホーク3号は先ほどの防衛戦で弾薬と燃料を使い果たし、あと1時間程度では、とても整備が間に合わない。

 

ホーク2号はソガと共に撃墜され、セブンが彼を救出した後に跡形もなく爆散してしまったし、あとは1号だけが頼りなのである。

 

「なあおい、ウエノ。各国基地の様子はどうなんだ?」

 

「ハッ、あまり芳しくは……ニューヨークでは新型爆弾の完成まで遅滞戦闘に移行し、飛行隊の一撃離脱戦法でなんとか時間を稼ぐ方針のようですが……モスクワは現在も戦闘中なのか、連絡がありません。どうやらペギラの引き起こす無重力現象で戦列が維持できず、上手く火力を集中出来ていないようです」

 

「ロンドン支部ではグローリア級潜水艦隊が緊急浮上、即席の対空陣地を形成して、円盤群の撃墜に成功したとのこと。しかし、上陸してしまったゴルゴスには連装砲の効果が薄いらしく、サンダーチャイルド二世の他、複数のモニター艦をテムズ川に集結させて、艦砲射撃を実施する予定だとか……」

 

「フルハシ隊員! パリ本部より通信です! 鹵獲要塞『シャール・ド・ディノゾール』は二体怪獣へ吶喊、三連主砲の砲撃でネロンガを怯ませ、大質量を用いた攻撃によって撃退する事に成功……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「おおっ!」

 

「しかし損傷大のまま、残るテレスドンとの格闘戦へ移行。激しい戦闘の末、最期は零距離でのブラスター発射により辛くも相打ちへは持ち込みましたが、こちらも大破。完全に沈黙……尚、一度逃走したネロンガは戦闘途中より行方が分からず、無線戦車隊も含めた地上戦力が全滅したため、追撃は断念したとの事です。」

 

「そうか……」

 

前半部分を聞き、晴れやかな表情でアマギと頷きあったフルハシだったが、鹵獲要塞の壮絶な散り際を知り、すっかり肩を落としてしまった。

 

手負いの片割れを取り逃がしたというのも大きいだろう。しばらくパリ本部は、怪獣に対する警戒態勢を解く事が出来ない。

 

「ヨシダ隊員。火星の開拓団の様子は? 何か言ってきましたか?」

 

「それが……あちらからの連絡どころか、こちらの通信が届いた形跡もありません。何らかの電波妨害かもしくは……非常に申し上げにくいのですが、もう……」

 

「縁起でもねえ事言うな! アニキ達がそう易々とやられちまう訳ねえだろ? それどころか今頃、敵の前線基地に殴り込みをかけて、切った張ったの大立ち回り真っ最中よ! 連絡に気付かなくったって、当たり前だぜ! きっとそうさ! そうに決まってらぁ! な?」

 

「ええ! 火星にはあの人達がいるんです。最後まで諦めずに、なんとかしようと頑張っているはずだ。交信を続けて下さい。『地球を片付けて、絶対に救援へ向かいます。それまで耐えて欲しい』と……」

 

「……分かりました!」

 

そんな中、アマギのビデオシーバーに着信がある。

 

「おや、誰だろう……こちらアマギ」

 

『アマギ隊員、私だ、キタムラだ』

 

「ああ、キタムラ博士。いかがなさいましたか?」

 

『ひとまずコチラが落ち着いたから、モロボシ隊員の鎮痛剤を取りに来て欲しいんだ』

 

「それは構いませんが……アンヌはどうしたんです?」

 

『おや? アンヌ隊員はユーリー君と一緒に出撃したのではなかったのかね? モロボシ隊員の世話は、アマギ隊員に頼むようにと言って、出て行ったが』

 

「な、なんですって!?」

 

普段アマギが決して発さないような声を出したものだから、作戦室中の視線が、一瞬だけひとつに集中する。

 

全員から見られている事に気付いてハッとしたアマギは、周囲に苦笑いをぺこぺこと振り撒きつつ、居心地悪そうに肩を丸め、同じく愛想笑いで「なんでもないよ」と連呼するフルハシと二人、部屋の隅に寄ってから、左腕のシーバーを出来るかぎり顔に近づけた。

 

「あの……すみませんキタムラ博士。もう一度お願いできますか?」

 

『なんだ、彼女から聞いて無かったのか!? ユーリー君と特殊な任務があるから、仮眠室のモロボシ隊員をよろしく頼むと……』

 

「あ、ああ~……いや、こちらも今、かなり立て込んでいまして、少々行き違いがあったみたいですね。鎮静剤でしたっけ。了解しました。直ぐに取りに行きます」

 

『ああ……なるべく早く頼むよ』

 

シーバーを折り畳んだアマギは、顔いっぱいに疑問符を貼り付けたフルハシと顔を見合わせる。

 

「こいつぁいったい……彼女、どういう手品を使ったんだぁ?」

 

「少なくとも、マグマライザーからは何も言ってきてませんから、未だにアンヌの密航が発覚してないか……」

 

「全員を丸めこんだって? アオキとヒロタを? 奴ら、ソガみたく、フェミニストの紳士でござい……ってガラでもねえだろ」

 

「……いや、分かりませんよ。マグマの全システムを掌握できて、彼女に首ったけの乗組員というのに、一人だけ心当たりがありませんか……?」

 

「アッ……ユートの野郎かっ!? おいおい、機械が色仕掛けにハマッてちゃ、世話ねぇぜ」

 

ポンと掌を打ったフルハシは、悔しそうな顔で地団駄を踏んだ。

 

「チクショー、アンヌめ……一人だけ抜け駆けしやがった! そんないい手があったなら、俺にもひと声かけてくれりゃあ良かったのに!」

 

「……いや、恐らく僕らにはどっちみち不可能な方法ですよ。……さて」

 

アマギはそろりと振り返り、各駐屯地から戦力を捻出しようと、熱く議論を繰り広げる両隊長を窺った。

 

アンヌの不在をどう報告したものか……素直に白状するにも誤魔化すにしろ、伝え方というものがある。その点、フルハシはまったく頼りにならない。故にここはアマギがなんとかするしかないのだが……

 

正直言って、アマギもアマギで、自信などないのだ。

それこそ、頭の回転自体は、部隊の中でも一番という自負がある。

 

……しかし……それが嘘や隠蔽となれば、彼の最も苦手とするところであった。

隠された真実を探求し、白日の下に暴き出すことこそが、彼の信条、生き方であって、その真逆をやれと言われても、自分の考えた言い訳の粗を、思い付いた端から自分で見つけてしまう始末。

 

「その点、あいつは上手くやっていたんだな……」

 

だからアマギに出来るのは、せいぜいが目を背けるくらいのもので……

 

「よし! ダンの看病に行ってきます!」

 

「なに? アンヌが手伝いを必要とするとは……容態はそんなに悪いのか?」

 

「……さ、さあ……? 幸い、隣の科学室で作業は続けられますので、自分はしばらくあちらにいます! では!」

 

「あっ……逃げやがった……じ、自分も! ホークの最終チェックに行ってまいりまぁあす!」

 

その後を追うように、フルハシが取って付けたような敬礼をしてから慌てて退出していくのを、キリヤマとクラタはぽかんと見送ってから、どちらともなくクスリと笑いあった。

 

―――――――――

 

 

「目的地 周辺 デス 自動運転ヲ 終了シマス。起キテ 下サイ ヒロタ隊員」

 

「五月蝿い。そんなにピコピコ言わんでも分かってる」

 

「なぁんだ、結局寝てなかったんじゃありませんか」

 

「目を閉じて休息をとってたんだ!」

 

「いよいよね。ユーリーさん、大丈夫?」

 

「ええ……。ああ、ウリー……」

 

ついにゴース星人の基地に到達したマグマライザー。

 

4人と1体が機外へ出れば、くり貫かれたように広がる巨大な地下空洞の中に、幾何学的なパーツを組み合わせて造られた前線基地が綺麗に収まっていた。

 

「ドウヤラ 円盤ノ 格納庫 ミタイデスネ」

 

「……ん? 待ちたまえユーエイト。どうして君まで外に出て来ているんだ?」

 

「当タリ前ダロ。 ボクガ イナカッタラ 誰ガ 基地内ノ どあろっくヲ 解除スルンダ?」

 

「えっ!? じゃあマグマライザーには誰が残る? アンヌ隊員か? まさか無人で置いて行く気じゃないだろう?」

 

「心配 スルナ アオキ。 皆サン チョット 離レテ 下サイ」

 

ユーエイトの指示に、いったい何をする気なんだと訝しみつつ、マグマライザーから距離をとる一同。

 

「パーソナル迷彩バリア 起動シマス」

 

その途端、マグマライザーの周囲を青白い光が一瞬だけ包んだかと思うと、どんどん輪郭が土色にぼやけていき、最終的には周囲と同化して遠目からでは判別できなくなってしまった。

 

「き、消えた!?」

「おいおいどうなって……」

 

思わずアオキが手を伸ばしかけ……

 

「サワルナ」

「痛ッ……て!?」

「キケン キケン」

 

尻にバチリと、強烈な静電気の如き痛みが走り、仰け反った。

涙目で振り返れば、ユーエイトの広げたパワーハンドの間を、電極のように火花が散っているではないか。

 

「何するんだ!」

 

「光学迷彩ト 電磁障壁ノ 複合ばりあダゾ。 触レバ 今ヨリ モット 酷イ事ニ ナルガ ソレデモ イイナラ ドウゾ オ好キニ」

 

「な、なんて物騒な……」

 

一気に血の気が引いたアオキの代わりに、ヒロタが顎を撫でながら感心する。

 

「ほう……これで万が一にもマグマが乗っ取られる心配は無いと言うことか」

 

「ソウデス 無理矢理 突破 シヨウト スルナラ ワタシ クライ 頑丈ニ ナッテ カラ 出直シテ 下サイ」

 

いくら予定外に人数が増えたとは言え、元より少数だったからには、なるべくなら、退路確保の為だけに人員を割きたくなかったところだ。

 

「で? 帰りはどう入ればいいんだ?」

 

「ワタシガ 遠隔操作デ 解除デキマス」

 

「ふむ……ならば結局、お前も持って帰ってこなければならんのか、面倒だな……」

 

「オイ マサカ 向コウデ 捨テテ 来ル気 ダッタ ノカ」

 

「……さてな。まあ、お前が走れさえすれば、別にそんな事は気にしなくてすんだんだが」

 

「ウギギギギ」

 

ユートを揶揄いながら、基地へスタスタと進んでいくヒロタ隊員。

置いていかれまいと他の面子が歩き出す中、アンヌはユーリーの強張った顔を気遣わしげに覗き込む。

 

「大丈夫? ユーリーさん、やっぱり怖い?」

 

「ええ少し……でも、ウリーを助けるためですから」

 

「本当に、その子が大事なのね。こんな危険な場所に、もう一度戻ってくるなんて……」

 

「アンヌさんは……どうしてですか?」

 

「えっ? どうしてって……何が?」

 

突然の問いに戸惑い、大きな瞳を瞬かせるアンヌ。

 

「聞けば、あの方達は……ソガさんという方に大変な恩義があるのだと言っていました。アンヌさんもなのですか? そうでなくては、わざわざ命令違反までして……」

 

「うーん……」

 

アンヌは、ユーリーに投げかけられた疑問に対し、指を顎に当て、小首を傾げて考え込んだ。

 

命の恩人か? ……と問われれば、まあそうなのだろう。

今まで、幾つもの死線を潜ってきたのだ。ソガが居なければ死んでいたかもしれない……という状況はままあった。

 

ブラコ星人のキノコに侵食されかけた時などは、ダンやアマギも含めたあの三人のおかげで、アンヌとその友人は一命をとりとめる事が出来たし、シャプレー星人の罠にかかってしまった時も、二人で連携し、逆に返り討ちにしてやった事だってある。

 

しかしそれは、アンヌの方にも言える事で、同じ部隊なのだから、当然そうなってしかるべきなのだ。

ウルトラ警備隊は、全員が全員の恩人であり、言わば運命共同体のようなものなのだから。

 

しかし……そういう、ある意味当たり前の前提条件を抜きにして考えた上でも……どちらかと言えば、アンヌからソガへ対する貸しの方が多いような気がしてならない。

 

なにせ、彼はいつも呆れる程に無茶ばかりしていて、部隊の中でも負傷率は堂々のトップだからだ。

もちろん、無茶ばかりという意味では――即ち医務室へ運ばれる回数に直結すると考えれば――ダンの方が圧倒的に多く、頻度自体は彼の方に軍配が上がるだろう。

 

だが不思議な事にダンは、何度も大惨事……それこそ普通ならば、死んでいてもおかしく無いほどの事態に巻き込まれていながら、とてもそうは思えないくらいの軽症で済むか、酷い時には、ケロッとした顔で無傷のまま帰ってきたりするのだ。

 

だからこそ重症度で言えば、明らかにソガこそが、アンヌに最も手を焼かせた患者であり、彼女が懸命に治療してやらねば、いったい何度、再起不能になったか分かったもんじゃない。

 

だから、アオキやヒロタのように、一方的に大きな借りを作ったままという訳でも無く、むしろ、ソガの方こそが、アンヌに対する負債で首が回らない状態だと言っても良いくらいだ。

 

とはいえ。

 

「……仲間だから、かしら」

 

「仲間……」

 

「ええ。それに私、約束したのよ、ダンと」

 

「約束って?」

 

すると、僅かな後悔を滲ませながら、彼女は寂しく微笑んだ。

 

「ソガ隊員の事を頼む……って。その時に私、任せてって言ったの。でも……そう、私は出来なかった。本当にソガ隊員の事を心配するなら、あの時、彼の出撃を止めてあげるべきだったのよ。私がちゃんとドクターストップをかけていれば、ソガ隊員は捕まらなかったかもしれない……それが出来たのは、あたしだけだったのに……」

 

「アンヌさん……」

 

「もしもダンがこの後目を覚まして、ソガ隊員にもう二度と会えないだなんて分かったら……彼、きっと悲しむわ。……ううん、それどころか、自分の寝ている間に友達が見捨てられて、私達の誰もそれを止める事が出来なかったなんて……そんなの、嫌よ。ぜったいに嫌」

 

首を振ったアンヌは、瞳に決意の色を煌めかせて、前方にそびえるゴース星人の基地を睨み据える。

 

「だからなんとしてでも、ソガ隊員には無事に帰ってきてもらうわ! あれだけ心配かけさせておいて、ゴメンナサイの一言も無しなんて許さないんだから!」

 

そして、不敵な笑顔で振り返り、茶目っ気たっぷりにウインクした。

 

「……だいたい、ちゃっかり私よりもダンと仲良くなるなんて、嫉妬しちゃうったらありゃしない。その責任くらいは、取ってもらわないと!」

貴方は原作『ウルトラセブン』を観たことが

  • ある
  • ない
  • なかったが、本作をきっかけに視聴した。
  • 他昭和ウルトラシリーズは観ていた
  • 平成ウルトラシリーズは観ていた
  • 令和からだゼェェット!
  • そんなにシンが好きになったのか(完全新規
  • その他(感想欄かDMにでも)
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