転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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史上最大の邂逅

 

「次はこちらの道だと思います」

 

「……ああ、発信機の反応とも、大まかには合ってますね」

 

ユーリーの誘導に従い、基地内を進んでいく一同。

 

「ここまでは順調だな……」

 

「ホント、ユーリーさんのおかげで助かっちゃう」

 

「カイテキ カイテキ」

 

すると、先頭を行く彼女がハッとしたように立ち止まり、緊張の面持ちで振り返った。

 

「この気配は……彼らが来ます! みなさん、隠れて下さい!」

 

「なにっ!? ……どこに隠れろって言うんだ?」

 

素早く辺りを見渡し、皮肉げに方眉を上げるヒロタ。

 

なにせ、彼らが現在進んでいる基地内の廊下は、ただの狭い一本道であり、群青色の壁に左右を囲まれているばかりか、物陰がひとつも無い。

 

おそらく前方の角から敵の歩哨が来るのであろうが、どう足掻いても丸見えだ。

 

なので、ヒロタとアオキは早々に諦めて、素早く戦闘態勢を取った。逃げ隠れするよりも、見敵必殺で先制攻撃した方がはやいと踏んだのである。

 

せめてソガを回収するまでは、出来る限り隠密行動で進みたかったのだが、こうなってしまっては仕方ない。

 

得物を構え、あとは強行突破あるのみだ……と思っていたら。

 

「オイコラ 何ヤッテル コッチダゾ」

 

「な、なにをする……っ」

 

横から伸びてきたパワーハンドで引っ張り込まれ、目を白黒させる二人に、口元へ人差し指をあてたアンヌが「しーっ」と黙るようにジェスチャーする。

 

何が何だか分からぬまま、視界が暗闇に閉ざされると、狭く苦しい空間に、四人分の小さな息遣いが聞こえるばかり。

 

「……行ったと思います」

 

「アケルゾ」

 

ぷしゅ……と空気の抜けるような音と共に、視界が一気に開け、息苦しい壁の中から我先にと廊下へ転がり出る一同。

 

「な、なんだったんだ今のは……」

 

「アッ! 壁に穴が開いている! いつの間に……」

 

先ほどまで自分達が居たのであろう空間を振り返ったアオキは、一様だと思っていた壁面が、引き戸のようにぽっかりと口を開けているのを見て驚いた。

 

困惑する彼らの眼前で、ユーエイトが壁に設けられたソケットの如き小さな穴へ、サブアームの先端を差し込めば、先ほどと同じ空気音と共に扉がスライドして、ぴったりと元の位置へ収まるではないか。

 

再びツルリとした質感の単なる壁へ戻った場所には、取っ手もなければ蝶番も見当たらず、そこに隠し扉があるなど、言われなければとても気付けないだろう。

 

こうも最初から部屋など無かったかのように振る舞われると、先ほどまで自分達がそこに居たのだ、という実感すらあやふやで、まさにキツネにつままれた心地である。

 

ソケットからサブアームを引き抜いたユーエイトは、どこか気恥ずかしげにそれをイソイソと折り畳むと、胸部装甲の中へ素早く格納した。

 

「めんてなんす用ノ 通路ダ 流石ニ 五人ハ 狭カッタナ」

 

「こんなものがあったのか……待てよ? バカ正直に廊下なんぞ進まずに、こちらを使えばいいのでは?」

 

「駄目ダ スグニ イキドマリダゾ」

 

「せいぜいが緊急避難先にしか使えないわけか。やれやれ、そう上手い話は無いって事ですね」

 

そう言って肩をすくめるアオキだったが、ふとこんな疑問を口にする。

 

「……それにしてもユーエイト、よくこんなスペースがあると分かったな。開けるのだって、そうもすんなり行くものかい?」

 

「マア ソノ ナンダ。 ムカシ トッタ キネヅカ ッテ 奴サ」

 

「……は?」

 

「ロボット ナラ コレクライ 朝飯前 ダゾ」

 

「うーん、そういうものか」

 

それを後ろで聞いていたアンヌは、いつになく言い淀むユートに小首を傾げた。

付き合いの浅いアオキは納得したようだが、普段はおしゃべりの――それこそ、大抵は言わなくてもいいことほど大胆に発言する――彼がここまで言葉少なく話を切り上げてしまうなんて。

 

いつもであれば、アオキの感嘆に、2倍量の自慢が飛んで来てもおかしくない場面である。

 

「先ヲ 急ギ マショウ」

 

そそくさとこの場を後にしようとする彼の後ろ姿を、不思議に思いながら見つめていると、アンヌは不意に記憶の奥底が刺激されるような……この光景を自分は以前にもどこかで見たことがあるという、確信めいた気分へ陥った。

 

だがそれは有り得ない、ゴース星人の基地に潜入した事なんて今まで一度もないはず……いや。

 

群青の長い廊下を、金銀に輝く背中がえっちらおっちら歩いていくのを見た時、アンヌはようやく、この基地に足を踏み入れた時から感じていた、強い既視感の正体に思い至ったのだ。

 

「もしかしてユート……アナタが元いた施設って……」

 

「アンヌ 隊員」

 

「……いえ、なんでもないの。ごめんなさいね」

 

立ち止まったユートが、こちらを振り返らずに自分の名を呼ぶのを聞いて、アンヌはそれ以上口にするのをやめる。

 

その代わり、つるつるとした金属光沢をひんやりと放つ後頭部を、細く柔らかな指で撫でることにした。

 

「アナタが仲間に居てくれて良かったわ、ユート。凄いじゃない」

 

「アンヌ サン」

 

普段通りに 抑揚のない無機質な人工音声が発される。

 

「アリガトウ」

 

ちかちか点滅するライトに柔らかな微笑みが返事をした。

 

 

―――――――――

 

 

「……ここは?」

 

オレが目を覚ますと、そこは何も無い、どこまでも真っ白な空間だった。

 

ゆっくりと上体を起こし、辺りを見渡してみても、ただ薄ぼんやりとしたモヤのような何かが視界を覆い尽くすばかりで、全然向こう側が見えん。

 

自分が、床か地面に寝転がってる感触はするんだがなあ……どうもその下に空間が広がっているような奥行き感がある。

 

「え、なにここ知らん……こわ」

 

視覚的には、まるで宙に浮いてるみたいになっているので、オレとしては是非やめて頂きたいところなのだが……。

ちょうど、透明なガラス板に座っているようなカンジか?

 

しかし、手で触ってみてもそれが何なのかまるで分からんし、本来なら感じたであろう足が竦むようなゾワゾワした高所での恐怖もない。

 

「お? なんやもちもちしとるやんけ……へへへ」

 

掌で少し押してみれば、指が沈み込むような弾力を感じる。

かと思えば、握った甲の部分で軽く叩いてやると、コツコツと硬質な音が帰ってきた。

 

なんとも変な場所だ。

はて、オレはいったいどうしてこんな場所にいるのでせう?

 

こめかみに指を当てて、直前の事を思い出してみる。

 

確か……ゴース星人が来て、出撃して、パンドンが出て……なぜかウリンガが現れて……

 

そうそう、アンヌがいきなりウリンガに走り寄っていくもんだから、それを呼び止めようとしたら、ゴース星人がこっちを狙ってて……あ。

 

 

「……え、もしかしてオレ……死んだ?」

 

 

あ~……これは……やらかしましたわね。

 

オレ、ここまでなんとかやってきたのに、最後の最後でミスったんか……うわキッツ。

 

ほんじゃあ、ここがいわゆる死後の世界……ってコト?

 

ハハハ……もう笑うしかあらへんわ。あーあ。

 

「はああ……」

 

……まあでも、しゃーない。死んだらそこで終わりや。

な、切り替えてこ! 気にしない気にしない!

 

よっしじゃあ、せっかくやし、お約束のアレ言っとくか!

 

 

「知らない天井……が、ねえな。……床?」

 

「何やってんだ? お前さん」

 

「ほわあアアアアアア~~ッ!!??」

 

「うわあ! うるさいなあ、もう……」

 

後ろから急に声かけられたもんだから、びっくりしてクソデカ悲鳴が出てしまった。

 

「び、ビビッたぁ~……え? なになに? なんですか?」

 

どんくらいビビッたかと言えば、座った姿勢のまま、ケツの力だけで3センチくらい飛び上がったんちゃうかな、今。しらんけど。

 

いやだって、自分一人しかおらんと思って、さっきからめっちゃ独り言ブツブツ呟いてたのに、それ全部聞かれてたってことでしょ?

心臓止まるか思ったわ。もっと早く声かけて?

 

怖いの紛らわす為に夜道を大声で歌いながら帰ってたら、暗がりの向こうから人歩いてきた時くらい焦る。あれ、クッソハズいよね。

 

そんとき歌うの止めるべきか、そのまま続けるべきか迷わん?

 

だって徐々にフェードアウトしてくのも余計に恥ずかしいし……いやむしろデュエットしてください。オレの歌声は全然恥ずかしいモノではないので! という精神の下に押し通すことにしている。

 

「なんでまあオレはそういう時に全然そのまま歌い続ける派なんですけど、アナタはどっち派の方ですかねぇ?」

 

「お前さん……頭大丈夫か?」

 

「まあ大丈夫かどうかと聞かれましたら色々あって混乱中に謎の場所で謎の人にいきなり背後をとられてるわけでして超絶ピンチの中にもこうして狂人ロールをぶちかます事によってなんとかイニシアチブがとれんものかと画策するくらい大丈夫ではないです」

 

「……なにバカなこと言ってんだ。早くこっち向けよ」

 

「あ、振り返って良かったんですか。そんじゃ失礼して……」

 

両手を挙げながら、降参のポーズをとっていたのだが、相手はひとまず敵意がないようで安心した。

 

許可も出たので恐る恐る振り返って、その顔をみ……て……

 

 

「……あ、あ……ああアナタはっ……!?」

 

「ヨッ!」

 

「そ、ソソソ……ッ!」

 

柔やかな表情で、気さくに片手を挙げるその人は……

 

 

「ソガ隊員ッ!!??」

 

「よせよ、お前さんだって『ソガ隊員』だろうが。その顔で言われても変な気分だぜ」

 

「えっ? えっ? なんで? ソガ隊員? ん、本物ですか? ハァ? マジ? え、あ、オレ……その、あの、えっと……あ、ファンです……」

 

「まあ……それは知ってる。いいから落ち着けって。取って食いやしないさ」

 

「あの、握手していただいても……?」

 

「……別にそれくらい構わないんだが……ホラ、これでいいか?」

 

「わあ……ありがとうございます……うわすっげぇ……オレ一生この手ぇ洗いませんわ……」

 

「あのなあ……お前さん、今まで何回ダンと握手したんだよ……今更、俺なんぞと手繋いでそんなに嬉しいか?」

 

「嬉しいですっ!!」

 

「ああそう……いや、そりゃ悪い気はしないぜ? でもねえ……なんともフクザツだなぁ」

 

その言葉通りに、苦笑いを浮かべて頭を掻くソガ隊員は、仕草も表情も、オレの大好きなあのソガ隊員だ。

 

オレの演じる薄っぺらい偽物なんかじゃなく、本物のソガ隊員。

 

「……あ」

 

「どした? 顔色悪いぞ?」

 

「す、すすす……」

 

「す?」

 

「マジすんませんでしたーァッ!!」

 

恐らく人生最高速度のジャンピングスライディング土下座が決まった。

 

人類最高峰の精鋭であるウルトラ警備隊としての身体能力をフルに活かし、ズササーッ! という音が聞こえるくらいの勢いで、ソガ隊員の足元に滑り込んで頭を地に擦り付ける。

 

「おいおい、今度はいきなりなんだあ? ……まったく勘弁してくれよ……」

 

「いや、勘弁して頂かないといけないのはオレの方です! ほんまに申し訳ありませんっ!!」

 

「うーむ……一応聞いといてやるか……それは一体、何に対する謝罪なんだ?」

 

「まず一つ目はですね……やっぱりその、貴方の肉体を乗っ取って、好き放題やってた事です!」

 

「……ま、そうなるよな。ハハハ……」

 

オレの頭上で、彼が溜め息をついた。

やがて、オレの肩にポンと優しく置かれる手。

 

「でもそれは、別にお前さんのせいじゃない。違うか?」

 

「……いいえ、はじめは例えそうだったとしても、オレは一度、貴方に体を返すチャンスがあった。それを断って、居座り続けたのは……やっぱりオレの意思です」

 

「頑固だねぇ……とにかく一旦、顔は上げろ。謝るにせよ怒るにせよ、面と向かい合って話すとしようぜ。……それともなんだ、相手に目も合わせないで頭下げ続けるだけが、お前さんの誠意ってやつなのかい?」

 

「……確かに」

 

お言葉に甘えて体を起こせば、しゃがみ込んだ彼の顔がすぐそこにあった。

 

この数年、洗面台で見続けてすっかり自分の顔という認識になった顔。

 

だがそこに浮かんでいる表情は、オレの貼り付けたような胡散臭い笑みなどではなく……どこか柔らかい、それでいて頼もしさも感じさせる、あの笑顔だった。

 

「座って話さないか。安心しろ、時間はまだある」

 

ごくごく自然体のまま、彼は親指で自身の背後を指差す。

おお……なんかこう、何気ない仕草の一つ一つが既にカッコイイっすね。

 

言われるまま、肩越しにそちらを見やれば……いつの間にか座布団と……ちゃぶ台が用意されていた。

 

「いや、なんで?」

 

なんでちゃぶ台? ホワィ?

 

「ああ、言って無かったが……どうやらここはお前さんの精神世界ってヤツらしい。いつだったか、あのヤオとか言う女が、過去を追体験させるためにテレパシーを繋いで来ただろう? あれと似たようなもんさ。欲しいと念じれば、そのイメージが投影される」

 

「どうやって出したかじゃなくて、そのチョイスになった理由を聞きたかったんスけど……」

 

「趣味だ。お互いのな」

 

「はあ……」

 

促されるまま、座布団の上に胡坐をかき、背筋を伸ばしてから、ソガ隊員と改めて対面する。

 

ちなみに彼は片膝立てて足を伸ばし、後ろへ左手をついた姿勢で寛いでいた。

サマになってんなぁ……

 

「さて、積もる話をする前に……まずは状況を説明しといてやろう。気もそぞろで話されちゃ、俺もかなわんからな」

 

「状況……?」

 

「ん? さっき、死んだとかなんとか言っていなかったか? てっきり二つ目のゴメンナサイはそういう意味かと思ったんだが」

 

「あっ! そうじゃん! ……オレ、結局ミスって貴方ごと死んでしまいました……本当に……なんと言えばいいか……」

 

「ああ安心しろ。それに関しちゃ勇み足だよ。もしそうだったら、この空間でこうして呑気に話してなんかいられないさ。捕まって気絶してるだけだ。俺達は、死んじゃあいない……まだ、な」

 

「えっ! ほんまですか!? なんや良かったぁ……」

 

ひと安心したら、一気に力が抜けた。

そのまま後ろへ両手を投げ出し、大の字に寝転ぶオレ。

 

なんだあ……死ななきゃ安いよ。

助かった助かった。

 

……ん?

 

「まだ?」

 

「そう。まだ死んでない。……言い換えれば、今この瞬間に死んでいないだけ、とも言う」

 

「どういう意味で……?」

 

「思い出してみろよ。俺たちゃ今、アマギの代役をやってんのさ。居場所は十中八九、ゴース星人の基地内だろうぜ。そして、そのままここにいたら、どうなる?」

 

「……あ、そうか! この後は自動操縦のマグマライザーが突っ込んできて……」

 

オレが答えると同時に、シュボッと小気味良い音がする。

いつの間にかタバコを咥えていたソガ隊員が、手元でマッチを擦ったのだ。

 

「そういうこった」

 

用済みの燃えさしを軽く振り、火を掻き消しながら、事も無げに言うではないか。

 

「いやいや、そういうことって……あ! でも待って下さい! それは最悪のケースです。これから言う事は、非常に、ひっじょーに不本意かつ無責任極まりない発言なんで、なるべく口にしたくは無いんですがね……実は爆発の直前にね、セブンが助けに……」

 

 

……来て、くれるのか?

 

 

喋っている途中にハタと気付く。

それはあくまでもオレの知っている原作での話だ。

 

だが、既にこの世界はその流れから大きく逸脱してしまっている。

 

オレが最後に見たセブンは、パンドンとウリンガに挟まれてボッコボコにされていた。

怪獣一匹と戦うのすら一苦労という有様だったのに、二体と同時に戦って、セブンが無事である保証なんてどこにもない。

 

オレは戦闘中に捕まってしまったから、あの後どうなったのか全然分からないのだ。

 

ダンは大丈夫なのか? まさか……死んだりしてないよな……?

 

精神世界だというのに、全身から嫌な汗が噴き出し、鼓動が早くなるのを感じる。

 

特にあのウリンガが問題だ。

元は別シリーズに登場した怪獣だが……このウルトラマンレオという作品、防衛チームのMAC隊員はバンバン殉職しまくるし、最終的にそのMACは……モロボシ・ダン隊長も含めて全滅するという、ヤバヤバのヤバな作品なのである!

 

そんなシリーズから出て来た怪獣とか、あまりにも不吉すぎるやろ……ましてや、この世界は物語ではないのであっ……て……

 

「……待て、待て待て待てヤバイヤバイヤバイ!!」

 

オレはさっき、なんと言った?

 

最悪のケースだと……?

 

そんな事はない。マグマライザーが突っ込んできて、基地ごと爆死するのは、決して、最悪じゃあない。

 

いやむしろ、それは『うまくいった』パターンですらある。

 

たった一人の……オレと彼を合わせて二人分として換算しても、それっぽっちの犠牲で事が終われば、それは圧倒的に『良い』方なのだ。

 

オレ達にとって、考えられる限り最悪のケース……真に阻止すべきバッドエンドと言うのは……

 

 

ゴース星人の基地が、見つからない事である。

 

 

原作通りの流れなら、原作通りに地下基地が見つかり、原作通りに爆破されるだろう。

でも……もう変わってしまった。

 

ウルトラ警備隊は、敵の前線基地を見つけられず、時間切れの人類は、地底ミサイルで跡形も無く吹き飛ぶかもしれない。

 

それより多少マシなルートとしては、全面降伏で人類皆奴隷墜ちからの火星で一生強制労働コースもあるが……そんなの死んだも同然だ。

 

他の宇宙人相手ならいざ知らず、よりによって今回の相手にだけは、絶対に負けてはならなかったのに。

 

「ど、どどどどうしようソガ隊員……オレ……ヤバイこと気付いちゃった……オレのやらかし、地球規模かもしれん……」

 

 

思わず頭を抱えながら、意味もなく助けを求めてしまった。どうしようもへったくれもない。もうどにもならないのに……

 

胸のあたりがキュッと苦しくなる。

彼はどう思うだろうか……恐る恐る見上げてみれば……

 

「確かに今の俺達からは、地上の様子がどうなってるかも、ダンが無事なのかさえまるきり分からんし、かといって装置で眠らされていては、手も足も出しようがない。もはや出来るのは神頼みだけさ。ハハハ」

 

指の先から煙をくゆらせながら、あっけらかんと言い放つソガ隊員。

 

「……いや、オレが言うのもなんですけど、いくらなんでも、この状況でゆっくりタバコ吸ってられんの、ちょっと肝が据わりすぎてはるんとちゃう?」

 

「何言ってんだ。こんな時だからこそ、まずは一服やるんじゃないか……どうだ、お前さんも? ん?」

 

「いや、オレは吸わない主義なんで……」

 

「……そうか、お前さんはそうだったな。しかし、まったく理解できんね。こんなに美味いのに……」

 

言葉通りに、指で挟んだタバコを飲んでは幸せそうに目を細めるソガ隊員。

 

「……想像つかんな、煙草の無い生活なんて。……それとも、お前さんの時代は、こんなの吸わずともいいくらい、楽しい事が沢山あるのかい?」

 

彼が吐き出す紫煙をぼんやりと目で追いつつ、なんとなく胸元を押さえるオレ。

 

「まあ、それもありますけど……確か……そもそも小さい時から気管か肺が悪かったんやと……思います、多分」

 

するとそれを聞いたソガ隊員が途端に咽せて「それは悪い事を聞いたな……」とでも言いたげな表情で眉を下げた。

 

「ま、精神体に健康もへったくれも無いんで、存分に吸って頂いて結構ですよ」

 

「……ハイそうですかと吸えるかい」

 

「気にしなくてもいいのに……すんませんねぇ」

 

ちゃぶ台の上に置かれた灰皿へ、紙巻きの先端を押しつけたソガ隊員は、そこから立ち上る煙を名残惜しそうに見つめたまま、ポツリと呟く。

 

「お前さん……結局のところ、本当の名前はなんて言うんだ? いつまでも『お前』呼びじゃ、座りが悪くって仕方がないよ」

 

「いやあ、それがもう……前の事は殆どなんも思い出せなくてですね……はじめの頃はそれなりに覚えてたんですが……タバコの件も、あくまでメトロン星人相手に試行錯誤してた時の記憶なんですわ……へへへ。お恥ずかしながら記憶力はとんと悪くってね……」

 

「そうか……」

 

目の前でソガ隊員の顔がどんどん曇っていくが、オレとしてはただただ頭をかくしかない。

そんなに深刻そうにされても困ると言うか……

 

「だからね、例えその記憶があったとしても、前のオレがタバコを煙たがってたのかとか、逆に羨ましがってたのかとか、そこに付随してくる生の感情的なモノは全然無いわけですよ。吸わなかったのも別に嫌悪感があるからじゃなくて、ただなんとなく惰性でそうしてただけで……」

 

何の気なしに、灰皿で燻る吸いさしを、指で摘まんで試しにちょっと吸ってみた。

 

……なんか口からモクモクするけど、なんも分からん。

 

吸い方が足りんのか……?

 

「……っ!?」

 

「あーもう……お前さんみたいな奴に、良さが分かるもんかい。勿体ないから返せ。煙草が可哀想だ」

 

勢いまかせに煙を吸いこみ、盛大に咽せるオレの手から、先端が真っ赤になったソレをひったくり、背中をさすってくれるソガ隊員。

 

「あのねえ……いいかい相棒。吸い方にも上手い下手ってのがあんの。おこちゃまが背伸びして吸うもんじゃないのよ、わかる?」

 

「ゲホッ……あの……お言葉ですけど、多分オレの方が年上だったと思いますよ……?」

 

「ハッ、記憶喪失が言っても説得力無いね。それに俺から言わせりゃ、煙の吸い方も知らんようなやつぁ、いくつになっても甘ちゃんだぜ」

 

そう言って、取り上げた紙巻きを再びふかし始めたソガ隊員は、ニヤリと口角を吊り上げて指を二本立てた。

 

「さて相棒。さっきの話についてだけども、二つ報せがある」

 

「はい?」

 

さっきの話と言うと……オレのやらかしで地球がヤバイというアレか。

 

「確約は出来ないが、うまくいけばゴース星人の基地が見つかる目はまだある……あくまで可能性の話だがな」

 

「えっ!? ほんまに!?」

 

どうして彼にそんな事が言えるのか。

驚けばいいのか安心すればいいのか分からず、オレが訝しげにしているのを見て取ったのだろう。

 

ソガ隊員はこちらに目配せすると、自分の右胸をポンポンと軽く叩いてから、そこにある隠しポケットへ指を入れた。

ちょうど、ダンがウルトラアイを入れているあの場所と逆側だ。

 

まるでマジシャンのように、勿体ぶって取り出したるは……なんてことはない、真新しいカートン箱。

 

「はあ……?」

 

意図がさっぱり分からず間抜け面を晒したままのオレ。

こちらが思った以上に鈍いと気付いて呆れたのか、彼はカートンから選び出した2本目のタバコで、無言のうちにこちらの右ポケットを指し示す。

 

「いや、そんな事言うても、こっちは使わんし……」

 

オレが普段から切り札を入れているのはいつも左側なので、こっちはあまり使ったことがない。

 

半信半疑でそちらを弄ると……

 

「ん? なんやコレ」

 

指先に何かがコツンとあたった。

それを引っ張り出してみれば……

 

「え? 発信器……?」

 

確かにそれは、オレが以前ダークに仕掛けたのと同じ型の発信器だった。

しかしこんなもの、入れた覚えはないんだが……

 

「俺が入れといた」

 

「エエッ!? いつ!?」

 

「昨日の晩、お前さんが机でプッツリ気絶した後だよ」

 

「あ、そういやいつの間にか寝オチしちゃったんスよね~~ん?」

 

という事は……

 

「……やっぱり、あの時のブローチも……貴方が仕込んでくれてたんですね、ソガ隊員」

 

「あれま、バレていたか」

 

対して悔しくもなさそうに呟きながら、マッチを擦るソガ隊員。

 

「俺もよく分かっちゃいないんで、あまり確かな事は言えんのだがね、どうやら我々の意識は表裏一体。昼間、お前さんがハッキリしてる間、俺は精神の奥底でこうしてぼんやりまどろんでいるが、ひとたび表の意識が無くなると、お前さんが沈んでくる代わりに、今度はこっちが表層に向かって浮かび上がるように覚醒する……いわばシーソーみたいな関係らしい。少なくとも俺はそう解釈してる」

 

「ははあ……なるほど。ヤオさんの説明と照らし合わせれば、それなりに辻褄は合いますね。オレはあくまで、ソガ隊員をベッドに押し込んでる間のピンチヒッターに過ぎないらしいから」

 

「とはいえ、俺の意識だか魂だかだけが目覚めたところで、肉体の方はぐっすり眠ってるわけでしてね。これを無理矢理動かすのが大変のなんのって! だから、あまり大した事は出来んわけさ。……本当はもっと分かり易いヒントをみんなに残してやりたかったんだが……果たして上手く伝わったかどうか……」

 

「ヒント? 発信器だけではなく?」

 

「うん。当然、そんな状態で文字を新しく起こすなんぞもっての外だから、既にあるところから取ってくるしかなかった……ホラ、お前さんがはじめの頃、先の話を忘れちまわないように、出来事や順番を書き殴ったノートがあったろう。毎晩、作戦を考えるのに使ってたアレさ。あそこから、なんとか使えそうな部分だけ指で千切って、ぎりぎり意味が通る文にしたんだ」

 

「そんな誘拐犯の怪文書みたいな……」

 

「言うなよ、俺だって精一杯だったんだぞ? だいたい、相棒がもっと綺麗に書いといてくれれば、詳しいメッセージに出来たのに……」

 

「うぐ、それは……その……簡単に読まれちゃマズいもんなんで……念の為というか……」

 

もにょもにょと言い訳するオレを、ソガ隊員が半眼で睨んでくる。

……そーだよ! 機密性とか関係なく、普段から字が汚ぇよ! 悪かったな!

 

「なにはともあれ、色々と尻拭いをして頂いたようで……本当に申し訳ありません。ありがとうございます」

 

「感謝するのはまだ早い。問題はその仕込みを見つけて貰えるかどうか……一応、ゴース星人に怪しまれない範囲で匂わせておいたが……フルハシ先輩はお前さんくらいニブチンだからね。アマギか隊長辺りが気付いてくれりゃあ御の字さ……」

 

やりきった顔でスパスパやりながら、肩を竦めるソガ隊員。

ナイスフォローです……いやほんまに。

 

「しかし、それで合点がいきました」

 

「なにが?」

 

「いやその、さっきからどうも気になってたんですよね……話の腰を折るわけにもいかへんので、スルーしてましたけど、ソガ隊員がその、なんというか……未来というか、真実というか……あー……」

 

「なぜ俺が本来の展開や、ダンの正体について知っているのか、だな」

 

「あ、やっぱそこも分かってはるんですね。まあ……アレ読んだならそうか……」

 

落書きやら思いつきのメモ書きでぐっちゃぐちゃの中へ紛れ込ませた、セブン本編に関する極秘ノート。

 

いまや、毎晩の一人作戦会議の議事録として、斜線と矢印でもはや何が何だか分からなくなっているソレを、無意識の中を通して読んだ事があると言うのなら、ソガ隊員が原作の存在や、話の展開を知っていてもおかしくはない。

だが……

 

「うーん、読んだというか……全部見た」

 

「見た?」

 

「うん」

 

頷いたソガ隊員は、よっこいしょと膝立ちになりながら腕を伸ばし、いつの間にか傍に置いてあったテレビの電源を押し込んだ。

 

テレビと言っても、上に人形とか置けるくらいに分厚い、ゴリゴリのブラウン管テレビだけども……うわ懐かし! ばあちゃんの家にあったやつ。

 

画面がゆっくり明るくなるにつれ、耳障りな砂嵐の音が聞こえてくるも、彼が画面横に並んだボタンやツマミを回して、チャンネルを変えれば……

 

「そうら、映った」

 

ソガ隊員が体を退けた事により、画面が見える。

そこでは、青や白のカラフルなマーブル模様が、怪しげな音をバックに、グルグルと銀河の如く渦を巻いていた。

 

何も知らない人間が見ても、まったく意味不明だろう。

しかしオレには、それが何か一発で分かった。

 

間違えるはずもない。

 

「……まさか、これって……」

 

画面から流れてくるメロディーに合わせて、何気なく口笛を吹くソガ隊員。

それに釣られてか、思わず無意識の内にオレからも鼻歌が漏れる。

 

「ふんふーん……でっでっでっでっでっでっで~……」

 

この音楽を、自分で口ずさむ以外の方法で聞くのは、いったい、いつぶりになるだろう。

 

懐かしい、本当に懐かしいタイトルコールに連動し、マーブル模様が真っ赤に染まり上がるのを見て、なぜか目頭が熱くなった。

 

 

 

そこに映し出された文字こそが……

 

 

  

 

 

 






これにて書き溜め分終了!

来週からは締め切り相手にマラソンだ!

貴方は原作『ウルトラセブン』を観たことが

  • ある
  • ない
  • なかったが、本作をきっかけに視聴した。
  • 他昭和ウルトラシリーズは観ていた
  • 平成ウルトラシリーズは観ていた
  • 令和からだゼェェット!
  • そんなにシンが好きになったのか(完全新規
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