転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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史上最大の変身

 

 

「この辺りのはずですが……」

 

「もう発信器の反応では、これ以上詳しくはわかりませんね」

 

「こうなったら、手当たり次第に部屋を開けていくか?」

 

「そうする他ないわね」

 

「ヒトマズ ココニ シマスカ」

 

かなり深部まで辿り着いた救出部隊の面々は、いくつかある扉の前で迷っていた。

 

「……あっ! 後ろから気配が近づいています!」

 

「おい! 速くしろ!」

 

「ムム 電子ロックガ 変ワッテイル」

 

「だったら当たりって事だ! なんとかしやがれポンコツ!」

 

「急カスナ」

 

「もう足音が聞こえるわ! ユート!」

 

「チョット 待ッテ」

 

背後の曲がり角の方へ視線をやりながら、みんなで銀のボディをぺちぺち叩く。

そうこうしてる内に、廊下の床に敵兵のシルエットが伸びてきた!

 

もう駄目か……と武器を構えるアオキとヒロタ。

 

「解読カンリョウ。アキマシタ」

 

「それ! 中へ!」

 

ドアが開くと同時に、ユーエイトの背中を押しつつ部屋へ雪崩れ込む一同。

 

背後でドアが閉まるのを確認して一息ついた。

 

「今のは危なかったな……」

 

「ふぅ……助かった」

 

なにがたすかったんだ?

 

「えっ!?」

 

振り向けば、二人のゴース星人が椅子の影から光線銃を構えてこちらを狙っているではないか。

 

背後の敵から身を隠す事を優先するあまり、室内の確認が不十分なまま突入してしまったのだった。

 

さらに運の悪いことに……

 

「ウワ」

おい、これはいったいどういうことだ

このロボット、むねのマークがちげえぞ

 

今しがた閉めたばかりの入口が開いて、数人のゴース星人が入ってきてしまう。

なんと歩哨の目的地は、この部屋だったのである。

完全に挟み撃ちの形となり、反撃の機を逸してしまった。

 

いかにヒロタやアオキが早撃ちの名手とはいえ、この状況から逆転するのは非常に難しい。

おそらく誰かしらが犠牲になる覚悟をしなくてはならないだろう……

その時。

 

「ま、待って! う、撃たないで! 味方よ!」

 

ユーリーが両手を挙げて前に進み出た。

 

む、おまえはユーリーぞくのおんな。ろうやにぶちこまれたはず

「違うわ、あなた達の首領と取引したの! ウリーを返してもらう代わりに、地球防衛軍の邪魔をするって!」

「なにッ!?」

「やっぱり裏切ったのか! このアバズレッ! ……うっ!?」

「動かないでっ!」

 

怒りのあまり、マルスを乱射してやろうとしたヒロタは、背中になにか鋭いモノが押し当てられた事に気付き、体を硬直させた。

 

冷や汗を垂らしながら横目にみれば、隣のアオキが自身の背後へ、驚愕の表情を向けている。

 

「あ、アンヌ隊員……なにをしてるんです……!」

 

なんと、ヒロタにウルトラガンの切っ先を押しつけて脅していたのは、他でもないアンヌ隊員なのだった!

 

しかし、一番困惑していたのも彼女自身なのだろう。

なぜ自分でもこんな事をしているのか、理解できないといった顔で慄いている。

 

「え、わたし……どうして……」

「うふふふ……」

 

すると、動揺と嘲笑がまったく同じ声で紡がれた。

なんと、ユーリーが星人達の隣で笑っているではないか!

 

「こんなこともあろうかと、その女は既に私の術中よ。アンヌ、こっちにいらっしゃい」

「ハイ……」

 

ユーリーが手招きすれば、途端に彼女はとろんとした目つきとなり、アオキの腰からもウルトラガンを引き抜いて、男二人に照準を合わせながら、ふらふらと覚束ない足取りで、部屋に居座るゴース星人とユーリーの傍らに立ち位置を移した。

 

「アア コノ世ノ 終ワリダ」

「おのれ……」

「やっぱり宇宙人なんか、信用するべきじゃなかったんだ!」

 

両手を頭上に掲げた降参のポーズで、武装解除しながらも、憎々しげにこちらを睨みつける彼らの視線に、ユーリーは僅かにたじろぐが、それを一切無視して、傍らのゴース星人に取り縋る。

 

「さあ、これで信じてくれたでしょう? ウリーはどこ!? 早くあの子に会わせて頂戴!」

 

ハハハ、こどもかわいさにそこまでするとは、みさげはてたおんなだな。いいだろう、おもしろいものをみせてくれたれいだ。ガキはあちらのへやにいる

 

「この地球人の女はどこに連れていけばいいのかしら? 先に捕まった男と、つがいにしろと言われているの」

 

おなじへやにせんのうカプセルがあるはずだ。そこにほうりこんでおけ

 

「……わかったわ」

 

そして彼女らは、男たちの方へ向き直った星人の背後で頷き合い――

 

「「えぇーい!」」

 

息を合わせて目の前の兵士に襲いかかった!

アンヌは敵の後頭部へ、銃床を思いっきり振り下ろし、ユーリーは体全体で飛び付き、相手を床へ引き倒す。

 

な、なにをす――ぐわっ

「とりゃあっ!!」

 

突然の事で呆気にとられた歩哨達へ、咄嗟に両肘を打ち込むアオキ。

その隣では、ヒロタが振り向きざまに、一番近い相手を左フックで殴りとばし、その手にあった光線銃を奪い取った。

 

「ヒロタ隊員!」

「アンヌ! 目を狙え!」

ギャッ!

「今だ! ユーエイト! 合わせろ!」

「ハンゲキ ハンゲキ」

 

アンヌとヒロタの銃撃で怯んだ隙に、ユーエイトとアオキのコンビネーションが炸裂!

百万馬力のラリアットと、ステーション仕込みの鋭い回し蹴りが、ミキサーのように星人達を攪拌する!

 

「お見事!」

「ドンナ モンダイ」

「さあ、行くぞ! せーの!」

 

仕上げとばかりに鉄腕と剛腕が唸りをあげて、最後に残った敵兵を廊下の壁にめり込ませた。

 

「ふぅ……流石の早撃ちね」

「そっちこそ、大会に出れば良いところまで行けたろうに」

「きゃあー!」

「……はっ!?」

 

一息つけるかと思いきや、後ろから上がる悲鳴。

振り向けば、ユーリーが先ほどの星人に組み付いたまま、部屋の床をゴロゴロくねくねと転がっているではないか。

なんとも不格好だが、本人達にしてみれば必死である。

 

「こ、この……! はやくー!」

このクソアマ、ぶっころしてやる

「ユーリー! そのままっ!」

 

ゴース星人の顎を、走り込んだアンヌがブーツで蹴り抜き、ようやく青い影は一人も動かなくなった。

 

「……はぁ、はぁ……ありがとう、アンヌさん……」

 

「ううん、お礼を言うのはこっちよユーリーさん。アナタの機転のおかげで、全員無事だわ」

 

そう言って、笑顔でユーリーを助け起こすアンヌ。

彼女らのもとに、しかめっ面のヒロタが、左拳をさすりながら近付いた。

 

「……一応聞いておくが、さっきのは演技……という事で間違いないな?」

 

「はい……」

 

「ふん、そうか」

 

「そうか……って、それだけ? 他に言う事があるんじゃない?」

 

「これ以上、何があるって言うんだ?」

 

「まあ!」

 

そんな冷たい物言いに、アンヌは目を剥き頬を膨らませて抗議しようとしたが、それより先に目ざとく彼が先ほどから左手をしきりに気にしている事を見てとった。

 

「ヒロタ隊員。その左手、どうしたの?」

 

「いやなに、やつらの顔面が思った以上に硬くてな……まるでヘルメットを殴りつけたような手応えだった。もう二度とやらん」

 

「それは大変! 冷却剤をスプレーしましょうか」

 

「よしてくれ! この程度で大袈裟な……」

 

「おやおや、いいんですね? じゃあ来年の大会で僕に負けても、怪我のせいだと言い訳しないでくださいよ?」

 

「なんだとアオキ!」

 

ムカッときたヒロタは、振り返って不遜な後輩を睨みつけるが、彼があまりにもあっけらかんとしているので、少々不思議に思い、首を傾げる。

 

「……お前はなんともないのか?」

 

「なんともない、とは?」

 

「それこそ素手で何人も倒していたように思うが……」

 

「ああ、あれですか?」

 

アオキが半笑いで背後の惨状を親指で指す。

よくみて見れば、最後にユーエイトと二人がかりで殴られた星人など、顔面が拳の形に陥没し、ひび割れから青白い血を垂れ流しているではないか。

 

これには流石のヒロタも思わず鼻白む。

 

「お前……どんなパンチをしてるんだ」

 

「え? ハハハ、まあちょっとね……地上の皆さんとは鍛え方が違いますよ」

 

「変ねぇ、ステーション勤務は、むしろ筋力が低下するって聞いたけど……」

 

「いやなに、ヒロタ隊員とアンヌ隊員が援護射撃で動きを止めてくれたおかげですよ。それでなくともコイツらは棒立ちでしたから、大して変わらなかったかもしれませんが……ああそうだ、さっきの奇襲は鮮やかなお手並みでしたね。二人とも、はじめから打合せていたんです? あんまり見事な変わり身だったものですから、この僕でなければ咄嗟に反応などできなかったでしょう」

 

「ううん、ユーリーさんがテレパシーで『信じて』って。だから即興で合わせてみたの」

 

「うへえ……」

 

「うへえ、とは何よ!」

 

「だって……ねぇ……?」

 

ヒロタと顔を見合わせたアオキは、なんともいえない顔で顔をすくめた。

 

「女だてらにあんなのを見せつけられちゃ、恐ろしくって仕方ありませんよ。いつ足元を掬われるか分かったもんじゃない。ウルトラ警備隊なんかやめて、女優でもされたらいいのでは? そうすれば枠が空きますし……」

 

「やめておけアオキ。女ってのは、一度恨まれると面倒くさい生き物だぞ」

 

「……アラ、そうですか!」

 

たちまちアンヌの目が三角に吊り上がりかけて……

 

「流石ハ アンヌ隊員ダ。キレイナ ダケ ジャナクテ カッコイイヤ。ユーリーサン モ スゴイ スゴイ」

 

「ユーエイトさん……ありがとう」

 

後ろで繰り広げられていたそんな遣り取りを耳にして、怒るのをやめる代わりに、ニッコリとした笑みを浮かべ、こう頷いた。

 

「これでハッキリしたわね。アナタたちがウルトラ警備隊になれない理由」

 

「え? なんですって? 理由?」

 

怪訝そうに顔を見合わせる男達の前で

 

「入隊資格は『紳士たれ!』よ。……ま、せいぜいお励みなさいな。丁度いまから、参考になりそうな人を助けに行くんだから……うふふ。さ、こんな人達は放っておいて、行きましょ二人とも!」

「ハーイ」

「えっ? え?」

 

呆気に取られる男共を尻目に、戸惑うユーリーの手を取って、さっさと部屋を出て行くアンヌ。

その後ろに着いていくユーエイトが、すれ違い様に二人を揶揄った。

 

「ヤーイ 紳士タレ 紳士タレ。 トコロデ 何ニ カケルト 美味シイ デスカ」

「食べ物じゃないわね……」

「……おい待て! おれは別に警備隊になりたい訳じゃない! 自分の意思で蹴ったんだ! 聞いてるのか……!」

「紳士……紳士? ソガ隊員が……?」

 

警備隊失格の烙印を押されたショックよりも、その部分が引っかかって仕方ないアオキは、床に転がる星人の死体を跨ぎながら、首を捻るばかりであった。

 

 

――

 

 『ダンは死んで帰っていくんだろうか……もしそうなら、ダンを殺したのは俺たち地球人だ。やつは傷付いた体で最後の最後まで、人類の為に戦ってくれたんだ! ダンを殺したのは俺たちなんだ……あんないいやつを……』

 

 『そんなバカな。ダンが死んでたまるか! ダンは生きてる。きっと生きてるんだ! 遠い宇宙から、俺たちの地球を見守ってくれるさ。……そしてまた、元気な姿で帰ってくる!』

 

モ~ロボシダンの~♪ 名~を~♪ 借~り~て~♪

 

朝焼けの向こうに、元気だった頃のダンが笑顔で駆ける姿を仲間たちが幻視したところで、オレはようやく画面から視線を外し、涙を拭った。

 

ああ……最高だ。

いつ観ても素晴らしい。

 

古今東西あらゆる最終回の中でも、文句なしに完成された究極の最終回と言っても過言ではない(※オレ調べ)

 

物語の締めくくりとして、これほどまでに美しい形があろうか……? いや、ない。(※個人の感想)

 

……尤も、あくまで『創作物の結末』として観た場合の話であって、現在のオレという少々特殊な立場からすれば、全く持って真逆の意見を抱くしかないが。

 

「おいおい、大の男がたかがテレビで泣くな」

 

「みっともないですか……」

 

「……ま、気持ちは分かるよ」

 

そう言ってソガ隊員は、オレの肩を優しく小突いた。

 

「……ともあれ、なんでソガ隊員が原作知ってんやという理由は分かりました。逆になんでここでセブンの放送見れるんかは分かりませんが……」

 

「そいつは簡単さ。これはな、記憶だよ。お前さんがテレビを観ていた記憶……」

 

「記憶?」

 

オレは首を傾げる。

その記憶が薄れてしまって、非常に困っていたくらいなのだが~?

 

「おいおい相棒、自分で言った事も忘れちまったのか? 記憶ってのは、例え本人が忘れたと思っても、脳は覚えているもんだってさ! 先輩の前で偉そうに講釈を垂れていたじゃあありませんか大先生。ただ、それをうまく引き出すことが出来ないだけで」

 

「ああ……! そういやそんな話もありましたねぇ!」

 

「ま、相棒の場合は脳ミソが俺のもんだからな。前世の記憶ってのは、その魂だか精神にでもくっついて来たんだろう。だから、使わないものから先に、どんどん消えていっちまうわけさ」

 

「ほほう……いやあ、それでもセブンの記憶だけはキッチリ確保してるあたり、我ながら流石を通り越して重症だな……偉いぞオレ! ……ァイテっ!」

 

自画自賛していると、頭をぺちんとはたかれた。

 

「調子に乗るな。使わないと忘れるって言ったでしょうが。なんでそう、都合良く番組の記憶だけ残ってると思う?」

 

「え? ……前世のオレが、もう救いようも無いくらいの限界セブンオタクだったから……?」

 

「バァカ! 俺がここで何度も何度も繰り返し視聴してやったからに決まってるだろ! お前が忘れないように!」

 

「あっ! なんだぁ! そういう事かぁ! こりゃ重ね重ねありがとうございます!」

 

「ハァ……こんな恩着せがましい事言わせないでくれ……まあ実を言うと、ここじゃあトレーニング以外にやることが無いもんでな。おかげで良い暇潰しにはなったぜ」

 

そう言ってソガ隊員がオレの後ろを指差すと、そこにはいつの間にか防衛軍の地下トレーニングルームが広がっていた。トランポリンやダンベルだけでなく、いつもの射撃場まで再現されてある。

 

なるほど、記憶と想像力さえあれば精神世界もある程度は自由自在ってわけか。

使いこなしてらっしゃる……

 

腰から引き抜いたウルトラガンで、壁際に吊されたターゲットを撃ち抜くソガ隊員。

 

「お見事!」

 

「一応、いつ体が返ってきても良いように、訓練だけは欠かさなかったが……流石に基礎トレーニングの反復ばかりではなあ。それこそ、これがなけりゃ気が狂ってたかもしれん。今じゃ俺も、相棒よろしく立派なセブンキチさ」

 

「特撮沼へようこそ!」

 

「なにがようこそ! だ、バカタレ」

 

呆れたように溜息をつく彼だったが、突然、何か悪戯でも思い付いたような顔で、オレの方をニヤリと見つめる。

 

「……何です?」

 

「面白いもんを見せてやろう……ここではセブン以外にもう一つ、電波の入るチャンネルがあるんだ。俺のお気に入りさ」

 

「ほう、どんな番組?」

 

「これだよこれ……ほら」

 

ソガ隊員がテレビの小さなチャンネルボタンを押し込めば……

 

「あっ……!」

 

 『どうです、保安官? 我が星の誇る最上級コンソメスープ(ハイオク)のお味は? お気に召していただけましたかな? もしもよりジャンクな味がお好みでしたら、あちらに重油のビスクもご用意しておりますし、お口直しに灯油カクテルもございます。後ほど、メタンハイドレートのソルベをお持ちしますね』

 

 

ポチッ

 

 『いいかいヒロシ君。誰かと仲良くなる為に大事な事は、相手の言い分や考え方をきちんと知った上で、こちらから歩み寄ってみる事さ。まずはその一歩が重要なんだ』

 

 うわぁ、我ながらなんと歯が浮く台詞だろう。首筋が痒くなってきた……

 だいたい、なんでオレがこんなクソガキのお守りせんならんねん!

 ポインターは火山観光のタクシーじゃねえんだぞ!

 それもこれも、全部お前のせいや! このショタコン覗き魔ストーカー! 後ろの目ん玉撃ち抜いたろか!?  

 こっちは気付いてんやからな!?

 

「あの……」

 

ポチッ

 

 『ひぃいいっ!? この認識票は返す! 返すからどっか行ってくれぇええ!!』

 

 頼むからホラー系怪獣だけはやめろって言うたやろがボケェ!?

 こちとらゴースラーとキュドラがトラウマやねんぞぉおああああ!!

 

 『びっくりするほどユートピア! びっくりするほどユートピア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ゙ーー!!!』

 

「も、もう勘弁してください……」

「なんだ、他にもお勧めのシーンが沢山あるんだがな……」

「お勧めせんでええっ! そんなもん!」

 

チャンネルを次々変えながらくつくつ笑うソガ隊員に、オレは恥ずかしさで悶えそうになるのをなんとか堪えつつストップをかけた。

 

いや、そらそうね。

さっきの番組が、オレの記憶を基にしてるってんなら、こっちもあるわな。

やめろやめろ! 挿入歌を入れるな! それはオレの鼻歌や!

 

「おかげで退屈はしなかったね」

 

「あの……その、それについてはホンマに、何度言うように申し訳ありません。ごめんなさい。お怒りはご尤もでございます」

 

「ああ、やめろやめろ。別に怒ってるわけじゃない。むしろ俺はね、感謝してるくらいさ」

 

「感謝……?」

 

「ああそうだ。お前は俺には絶対出来ない形で、地球と……ダンを守ってくれた。それだけは誰がなんと言おうが、紛れもない事実だ。別にお前がそうしなきゃならん義理なんて無かったのに、俺の体を持ち逃げせず、しっかりと俺の代わりに戦ってくれた。誰に褒められるわけでもないのにな」

 

あまりにも思いがけない言葉に、オレはうまく返事ができなかった。

 

「確かに俺だって、こんな所に押し込められちゃかなわんよ。ああ最悪さ。あのヤオって奴は、例え女だろうが一発殴ってやりたいくらいに憎い! ……だが、被害者だってんなら、お前さんだっておんなじさ、こんな恐ろしい場所に突然放り込まれて……右も左も分からない、おまけに他人の体……」

 

「いや、ソガ隊員。別にオレ、最初はそんなつもりじゃなくて……もっとこう、俗な……観光気分といいますか……」

 

「ハッ! 動機なんか知ったことかい。物見遊山でウルトラ警備隊が務まりゃ御の字だね。それだけで何カ月も続けられるような生易しいもんじゃないって事は、俺が一番よく知ってる。……隊長の扱き、キツいよなぁ?」

 

「いやもうホンマそれっ!! そうなんすよ!! というか深夜パトロールと星系内巡視と日中勤務が普通にシフトで交代制なん頭おかしいと思いませんかっ!? バイオリズムどないなっとんねんって!?」

 

「あーそうだな、一般人にはちと辛いな……アレは……」

 

ソガ隊員がそう言った瞬間、彼の苦笑いが急激にぼやけだした。

 

「……うゔっ! よがっだっ! オレ! こんなん誰にも言えんぐでッ! ぞんでっ! でもアンタに分かっでもらえだら! オレ、今まで……あ、ありが……ほんまにありがどうございますゔうぅゔ………ゔう……ああ゙……」

 

「おーおー、泣くな泣くな……お前もたいがい涙もろいね。フルハシ先輩じゃないんだから……ま、それでもよく頑張ったな、相棒」

 

オレの肩へ、ポンと手を置くソガ隊員。

それでもう、ちょっとシャレにならんくらい嗚咽が止まらなくなったので、しばらく割愛させて欲しい。

 

「……さて、お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした、ソガ隊員」

 

「うん。幸いここには俺以外誰もいない。ま、我々は一心同体なわけであるから? 一人っきりみたいなもんさ。泣いとけ泣いとけ。男が泣ける時間は貴重だぞ?」

 

そういうとこ九州男児なんすね

 

「……とにかく、そこまで怒ってるわけじゃない、と。……ほんまに?」

 

「……本音を言えば多少はな。だがそれ以上に、見ていてもう少しどうにかならんものかと……仮にも俺の体だぞ? 世間体というかだなぁ……これでも伊達男で通ってたんですよ、俺は。土下座や騙し討ちだの……他に上手い手はなかったのかい先生?」

 

「もうね、あれがオレの限界でした」

 

「分かってるよ……それも含めて許してやる。それに、お前でなきゃ、あのイチノミヤって青年や……ヒロタを救ってやれなかった。礼を言うのはこっちの方さ。ありがとう。奴を生かしてくれて……俺には、ああするしかできなかっただろうからな……」

 

ソガ隊員がテレビの方へ視線をやると、そこにはヒロタの死体の上へ、静かに二丁の拳銃を重ねる自分の姿が映っていた。

 

「だから……恨みっこなしだ。相棒」

 

「分かりました……相棒」

 

彼の差し出した手を、硬く握りしめる。

なんて器の大きい男なんだ。

 

だが、しばらくニッコリと微笑んでいたソガ隊員が急に真剣な表情でこちらに顔を寄せてきた。

握手にこめられた力が増して……いや、痛いんですけど? ソガ隊員?

 

「でも……やっぱりひとつだけ、怒ってる事があるんだ」

 

「え? 今のでチャラの流れでは?」

 

「違う、俺の事じゃない……サエコさんの事さ」

 

「そ、それは……!」

 

今さっき恨みっこなしって……!

 

「お前、何か勘違いしてるだろう。俺は何も、人のフィアンセと勝手に楽しくすごしやがって……と恨み節を言いたいわけじゃないのさ。男の嫉妬は醜いからな」

 

「その割に右手がさっきから痛いんですけど? 声のドスの効き方が凄いんですけど!?」

 

「ハア……」

 

溜息と共に手を離したソガ隊員は、どかりと執務室の椅子に座り込み、足を組んでこちらを睨みつける。

 

「お前は彼女をどうするつもりなんだ……?」

 

「ギクゥ!」

 

「戯けても無駄だ。俺は別に人のプライベートを出歯亀するほど悪趣味じゃない。任務に関係ありそうな時はなるべく起きてるが、それ以外の時は白昼夢みたいにぼんやりとしか分からんし、非番のデートときたら尚更よ。だけどな、それでも分かる事はある……」

 

険しい表情で、床に正座するオレを見下ろしたまま、彼は一言……

 

「お前さん、彼女に言ってないだろう」

 

「……ハイ」

 

流石に、何を? と蒸し返す気にはならなかったし、そうすべき場面で無い事くらいはオレにも分かる。

なによりソガ隊員の怒りは至極正当なものであるからして、彼の指摘がなんであれ、それをはぐらかしたり逃げたりする事は許されないのだ、オレは。

 

「全てを話せとは言わんよ、言ったところで伝わりきるか分からんしな。俺だって当事者でもなけりゃあ、こんな事、説明されたって三分の一も理解できなかっただろうぜ。でもな……いつか別れの時が来るって事だけは、言っておかなきゃならなかっただろうが」

 

「……それは……」

 

「自分が消えても、俺という人物はそのまま残り続けるから大丈夫だとでも思っていたか? ……そんなわけあるか! 少なくともこの世界の彼女が愛しているのはお前さんだ! ああ確かに、てめえが消えた後、彼女を幸せにする責任は俺にある。お前がそうしたくても出来ない事だって分かるさ。だから頼まれなくたってそうするつもりだよ! でもな! ケジメは付けてから出て行くべきじゃないのかっ!?」

 

「け、ケジメって……! オレはちゃんとソガ隊員にいつでもお返し出来るように自重してましたが~!? 僕らはねぇ! それこそ昭和の男らしく、籍を入れるまでは清い交際でいましょうねって! 彼女ともキチンと話し合って納得して貰ってます! そりゃキスの一つでもしてりゃあ、てめえ責任とれやという話にもなるでしょうが、スキンシップがなんも無しもそれはそれで彼女に失礼やし、上手いことせいぜいがハグ程度までに抑えてやねぇ……!」

 

「は、ははははぐう~~!? きさんっ、こげな時になんば言うちょるがや!? ……いや、いずれ別れると分かっている相手になんて不純な! 慎みは無いのか!?」

 

「は? たかがハグでなに言うとんねんアンタ……? あれ、意外とウブなんか? ごめん、勝手にプレイボーイなんやと思ってましたわ……」

 

「俺が初心かどうかは関係ない! みだりにそう言う事を口にするのが、破廉恥だと言っとるんだ!」

 

なんか突然、急にソガ隊員が真っ赤な顔で怒り出した。

仲良くするんもアカンのか?

 

そんな事言ったって、婚約までしといて、そっから急に冷たくあしらって逆に愛想尽かされたらどうすんねん。

だからさっきから、ギリギリ婚約解消されん程度に付き合うフリまでで、実際には手だしてへんから安心してくれ言うてるのに……

 

「じゃあなんですか? 『キミが今まで会っていた男は偽者なんだ。いつになるかは分からないけど本物が戻ってきたらそっちとよろしくやってね』って言うんですか!?」

 

「実際にはそうなるんだ! 違うのか!」

 

「でも彼女はそれを知らない。確かにどうもサエコさんは、オレを未来人だと疑っているフシがある。でも、まったくの別人である事までは確証がないはずだ! それならそこは上手くぼやかして、『実はあれは未来からきたソガ隊員だったんだ』くらいに落ち着かせた方がええでしょ!?」

 

「彼女の気持ちはどうなる?」

 

「これが彼女の気持ちを考えた結果ですよ。婚約者がいきなり別人になって、さらにまた変わるなんて! サエコさん、今後はアンタと幸せにならなアカンねんで!? せやったら変な雑音入れんとシームレスに移行した方が絶対ええ! 知らぬが仏って言うでしょが!」

 

「しゃあしぃ! こんがんたれがっ!」

 

ついにオレの胸ぐらを掴み上げるソガ隊員。

 

「俺が今の今まで、お前から体を取り返さなかったのはなぁ! 相棒が自分の口で、きちんとサエコさんに伝えられるように待ってやってたんだ! それをどうだ! 彼女をほっぽり出したまま、やれロボットだ、宇宙人だと駆けずり回りやがって……挙げ句の果てに、もうこんなにボロボロじゃないかっ!? ダンの心配なんかしてる場合かっ!! 少しは自分の事を労ったらどうなんだっ!?」

 

「そんな事言われたって……っ!」

 

なにもかも、今更じゃあ、ありませんか。

 

「……っ! ……すまん、怒鳴ったりして……相棒があんまりウダウダ言うもんだから、すっかり頭にきてしまったんだ……確かにお前さんはお前さんで、常に必死の全力投球だったって分かっちゃいるんだぜ。あれが文字通りの精一杯、他の事にかまけてる余裕なんかこれっぽっちも無いってな……悪かったよ」

 

「ソガ隊員……」

 

「だがそれじゃ……あんまりにも報われねえじゃないかよ。お前も、サエコさんも、他のみんなだってそうさ。……相棒は、ダンが俺達に別れも告げずに帰っていくのが嫌で、今まで頑張ってきたんだろうが? それがとても寂しくて、哀しい事だと分かっているのに……どうして自分をその勘定から外してしまうんだ?」

 

「ダンとは違います。少し似ているようでも、オレの場合はまったく別のパターンだ。彼が帰ってしまえば、モロボシ=ダンという青年もまた、姿を消す……でも、オレが消えてもアナタが残ってくれる。オレという人格がいた事を、誰も最初から知らなければ、彼らの中で別れは発生しない!」

 

「お前という存在が、これまでやってきた事を誰も知らず、覚えてもいないなんて……本当にそれでいいのか? だったら、お前自身の幸せはどうなるんだ?」

 

「オレ自身の幸せ……?」

 

そんな事……考えた事も無かったな……

まあでも答えは決まってる。

 

「もう既に充分幸せでしたよ。そして、オレがこれ以上幸せになる必要はない。オレは元々、この世界じゃ不純物だ。それがあんまり高望みしすぎて、逆にノイズなるなんて……あっちゃいけない事なんです。オレがここにいる意味はね、少しでもこの世界を良くすることだ。そうでなけりゃ、オレが幸せになる権利なんて……ありませんよ」

 

……するとソガ隊員は、ハトが豆鉄砲でも食らったような顔で、ただただポカンと口をあけ……

 

「フフフフフ……ハハハ、ハーッハッハッハ!」

 

腹を抱えて大笑いし始めた。

 

「……え? そんなウケるとこありました?」

 

「こ、こりゃ傑作だ! まさかお前さんの口から、そんな台詞が出て来るなんて! あんまり柄にも無いような事を言いなさんな! ほ、本気なのか冗談なのか、しばらく判断つかなかったぜ……!」

 

「が、ガラにも無い……?」

 

「だってそうだろうが? だいたいお前さん、やれ大義だの権利だのと、元はそんなに責任感のあるタチでもなかったろうに! それとも何か? 先輩や隊長に引っ張られでもしたのかい? 朱に交われば赤くなるとは言うが……ま、確かにそうか。いつも隣にいたのが、よりによってあの、とびきり赤い大真面目だったからなぁ……そうもなるか、うん」

 

……待ってくれ、それはシンプルに失礼では?

 

「第一……幸せになる権利だあ? バカ言っちゃいけねえや。誰が持ってるんだ、そんなもん」

 

「え?」

 

「権利や義務なんてものはなぁ、所詮は人間が勝手に考え出したもんだろうが。だったら犬や猫、そこいらの虫や魚に権利が分かるのかい? 分からんだろう。それとも何か? 誰かがその『幸せになる権利』とやらを発効してやったら、周りの奴らはソイツが幸せになるようにあれやこれやと世話を焼いてやらなきゃならねえのか? 馬鹿馬鹿しい」

 

「それ言い出したら、言葉の意味あらへんやないですか……」

 

「そうそれだ。まず人生に意味を求めるな! 元から生きてる事に意味なんかありやしないぞ、相棒! 俺達が生きようが死のうが、宇宙の形が変わったりするもんか。そんな小難しい事考える必要なんてない。生きたいから生きる! 幸せになりたいから頑張る! それくらいシンプルでいいんだシンプルで!」

 

オレの隣に腰を降ろした彼が、肩へと回した腕でこちらを力強く揺すってくる。

 

「幸せってのは、誰かに気を利かせて譲ってもらうものじゃない。ああ、タバコが美味いなあ……と思えるこの瞬間の為に生きるのさ。そしてそれは、自分自身で掴み取ってこそ価値がある。お前さんがさっきから言ってるのは、誰かに許して貰おう、認めて貰おう、そればかりだ。人の生き死にや幸福に、他の誰も口出しなんてできやしないんだ!」

 

「……あれ? でもその理屈だと……ソガ隊員もオレの自己満足に口出しできないのでは……?」

 

「……ん? おっと、確かに言われてみればそうだなあ……いや、まいったねコリャ! 一本取られたよ! やっぱり口じゃあ、お前さんには敵わんな! ハハハ!」

 

スパーッと煙を吐き出したソガ隊員が、豪快に笑う。

つまり彼は、別にオレを論破しようなどと最初から考えてはいなかったと言うことだ。

 

要は、勝手に諦めるなと言いたかったのだろう。

それとも単に励ましたかったのか。

 

兎に角、それに関しては彼の思惑通りというわけだな。

すっかりペースは向こうのもの。

かなわないのはコチラの方である。

 

だが、そうしてひとしきり笑っていたソガ隊員だったが、やがてタバコを咥えたまま、穏やかな声でポツリと呟いた。

 

「だとしたら、俺も気にする必要なんて無い……か」

 

「気にする……とは?」

 

「うん。実はさっき言いそびれた事だ。俺がみんなに、この場所のヒントを教えた事についてのな」

 

「……ああ! 確かに2つって言ってはりましたね。そのあと話題があっちゃこっちゃ行ってしまいましたが……」

 

「簡単に言えば覚悟の話だよ。俺達はここで死ぬかもしれない」

 

「……今更では?」

 

「お前さんにとってはな。だが……仮にも、そうなるように仕向けたのは俺だ。言わば、勝手に道連れにしたようなものさ……」

 

「いやあ、まだそうなると決まったわけでは……」

 

「まあな。だが、俺の仕込みが上手くいったなら、あの話よりも大分早く事が起こる可能性が高い。マグマライザーの爆破に、ダンが間に合うかどうか……少なくとも、隊長達なら敵の撃破を真っ先に選んでくれるはずだ。俺はそれで良かろうが、相棒がどう考えるかは、さっきまで分からなかったんでね……だから、サエコさんともお別れしておいて貰いたかったわけだ。分かる?」

 

「なるほどなぁ……」

 

しばらくお互い無言が続き、どうにも口寂しくなったオレは、タバコの代わりにチョコレートバーを取り出してポリポリと囓る事にした。

 

スパスパ……

 

ポリポリ……

 

「「うめえ……」」

 

思いがけず被った言葉に、どちらともなく笑いが漏れる。

 

「……ま、なんとかなるでしょ! ならんかったらそんときや!」

 

「ハハハ、俺は羨ましいよ。お前さんのその楽天さがな。無邪気というかなんというか……」

 

「大丈夫大丈夫。ダンが間に合わなくても、誰かしら助けに来てくれますって! 先輩あたりがババーッとね! 知らんけど」

 

「お前はフルハシ隊員をなんだと思ってるんだ……」

 

「キングコングの親戚」

 

「ああそう」

 

その時……

 

――ソガ隊員!――

 

我々の上空から、微かにこちらを呼ぶ声がした。

 

「おい、聞いたか」

「ほらね、言うたでしょ?」

 

驚愕の顔を見合わせるオレ達。

 

――ソガ隊員! ねえ! ソガ隊員ってば!

 

「この声……アンヌだっ!」

「……って事は、ダンがカプセルごと持ち帰ってくれたんか!? もうそんなとこ!?」

「どうやら賭けはお前さんの勝ちらしいな……っと。よし! 行くか!」

 

するとソガ隊員は、灰皿にタバコを押しつけて揉み消すと、やおら立ち上がり、尻を払って準備運動をし始めた。

 

「ちょっと、どこ行く気ですか?」

 

「どこって……呼ばれてるんだ。早く目を覚ましてやらないと」

 

「ちょちょちょ! いやいや、そこはオレでしょ」

 

「……そんなザマで、何言ってやがる。寝ぼけるのも大概にしろ」

 

オレの姿を半眼でじろじろと眺めて吐き捨てるソガ隊員。

 

言われてオレも、改めて自分の姿を省みてみるが――ああ、確かにブーツなんかだいぶ土で黒ずんで、制服も心なしか彼のものより草臥れてるような……?

 

「別に問題ないでしょ」

 

「大ありだ馬鹿野郎。これからパンドンと決戦だって時に、弱った奴を行かせられるかい」

 

「弱ってるって……それはアンタも同じ事でしょ、ソガ隊員」

 

「……なに?」

 

オレの返事を聞き、彼は訝しげに眉をひそめる。

だが、隠しても無駄だ。

 

「そうじゃないかなーとは思ってたんですけどね、さっきのソガ隊員が言ってたので確信しました。あなた……無理矢理オレの体動かしたから、だいぶ消耗してるでしょ。めっちゃ大変って言いましたもんね?」

 

「……」

 

「ペガ星人や、今回みたいな……いや、それだけじゃない。今までだって……ずっと不思議だったんですよ。オレがここぞという時、なんか妙に照準が敵に吸い付くような……ブレが治まる感覚が確かにあった! ……てっきり、これが肉体補正ってやつかとぼんやり思ってましたがね、あれは……あなたがこっそり助けてくれてたんでしょう! 違いますか!」

 

オレがそこまで断言すれば、流石のソガ隊員も目を見開き、驚きの表情で肩を竦め、降参だとばかりに頬を緩ませた。

 

「驚いたね……まさかそこまでバレていたとはな。正直侮ってたよ。変なところで鋭いというか……」

 

「まあね。……というか狙撃はまだしも、早撃ちなんてオレの瞬発力以上の速さで、気付いたら敵に銃が向いてるレベルなんだから、そりゃ怪しみますって。……やっぱり人力エイムアシストだったのか……」

 

「いや、そんな大層なもんじゃないさ。ほんのちょっと体の意識をそこに向けさえすれば……あとは条件反射だ」

 

「それでも、意識が覚醒しきっていない時に、少しずつでも助力をするのは負担だったはず……オレは知らない内にアンタを酷使してたってわけでしょう? その証拠に、ヤオさんがオレを帰そうとした時に不思議がってた。彼女の計算では、あの時点でソガ隊員の意識は万全な状態に戻って、オレはすぐにペロリと剥がれる予定だったんだから」

 

「あの女め……余計な事を」

 

チッと舌打ちするソガ隊員。

 

「そして……あれからアナタが復調したってんなら、オレはとっくに用済みになって、自動的にこの体から弾き飛ばされてたはずだ。でもそうなってないって事は……アナタがそれをしなかったという以上に……出来なかった。いや、意図的に引き延ばしてくれた? まあどっちでも同じですよ。今のまま行けば、ソガ隊員が消耗した状態で……それも、オレという中途半端な足枷をつけたまま戦う事になる。オレが心の奥底にいる限り、完全覚醒が出来ないって事なんだから。知ってます? アレ、めっちゃ眠いんすよ?」

 

「……それでも、お前さんよりはマシだね」

 

「マシ? なぜそんな事が言えます……」

 

反論しようとしたオレに、射貫くような鋭い視線が向けられた。

彼が、今までで初めて見せた凄まじい気迫に、一瞬だが体が硬直する。

 

「相棒、これは言わないでおくつもりだったがな……恨むなよ。ハッキリ言ってやるぞ。お前さんには、()()()()()()()()

 

「なっ……!」

 

ひどく真剣な、一人のプロフェッショナルとしての男が、オレを真正面からじっと見つめていた。

 

「他の事ならいざ知らず、俺にも譲れない一線というものがある。お前は……ひとつミスを犯した」

 

「た、確かにゴース星人の円盤を逃しましたが……」

 

「違うね。あの時のお前は徹夜続きで参ってた。あんな状態、俺だって外す。本来の世界のダンだって外したくらいだ。それなら許した。だから、医務室のベッドでぐっすり休んでる間も、俺はじっとしてたんだ。お前さんが最後の出撃を万全の状態でできるように……」

 

「じゃ、じゃあなぜ……」

 

「そうか……やっぱり、もうそれすら見えてなかったんだな……」

 

一瞬だけ、オレをひどく憐れむような表情でこちらを見るソガ隊員。

その声には、明確な哀しみの色が含まれていた。

 

「だったら尚更だ。いいか相棒、荒れ地でゴース星人の奇襲を躱した後……お前は……反撃を当てられなかったのさ! 敵を倒したのは、アマギの放った光線で、お前が撃った弾は、てんで違う方へ飛んでいった! その時、しっかりと二人分の攻撃が命中していれば、奴にトドメが刺せたんだ。その後に瀕死のゴース星人が息を吹き返す事も無く、こうして捕まることも無かった! キサマは()()()()()()()、射撃を()()()()()! ……こんな体たらくで、地球を任せられるものかっ!」

 

「そ、そんな……っ!」

 

そうだったのか……

ソガ隊員から告げられた内容があまりにもショックで、崩れるようにその場へ蹲る。

 

他の要因が介在しない、まったく素の状態で、ウルトラガンの射撃を外すというのは、単なる字面以上の重大さが、オレ達の間にはあった。

 

防衛軍イチの射撃の名手。

百発百中のスナイパー。

それが彼だ。

 

『ソガ隊員は必中』その絶対の信頼こそ、ウルトラセブンという作品の中で、彼が与えられた役割であり、ウルトラ警備隊のメンバーとして選抜された理由なのである。

 

オレが、どれだけ原作知識の先読みを外そうが、宇宙人に醜態を晒そうが、射撃だけは必ず当て続ける限り、ソガ隊員への期待を裏切った事にはならない。

 

だが……オレはその唯一にして最低限の条件すらも、クリア出来なくなったと言うわけだ。

今のオレはもはや、ソガ隊員のフリを、これ以上続けられない。

 

「なあ……もういいんだ。相棒はこれまで充分なくらいウルトラ警備隊員として、いや、『ソガ隊員』として立派に戦ってきたじゃないか。この世界の誰が知らなくたって、俺が知ってる! ここまでやって、一体誰がお前さんを責められるって言うんだ? ……俺だって、いつかは衰え、前線を退く時がきっと来る。相棒にとっては、それが今だったというだけさ。変な意地を張って、部隊に迷惑を掛ける方がよっぽど駄目だと、気付いているんだろう? な? もう休んでいい。これ以上無理に戦わなくても良いんだ……」

 

ソガ隊員が、オレの肩にそっと手を添え、労いの言葉をかけてくれた。

こんな時まで気遣いを欠かさないとは。

オレのミスのせいで、危うく道連れにされるところだったのに。

 

だからオレは、この人が好きなんだ。ダンと同じくらい!

 

「それでも! このままでは病み上がりの貴方を行かせる事になる! 訓練を続けていても、実戦は数年ぶりのブランクがあるはずです! それに、このままパンドンと戦ってハイおしまいと、そうすんなり終わるとは限らない! ソガ隊員はセブンを全話視聴したかもしれませんが、他シリーズの知識まではないはずだ! オレなら、他の怪獣が出て来たって、覚えている範囲の奴なら対処が出来る……」

 

「おい、あんまり俺を舐めるなよ? お前はウルトラ警備隊が、教科書と答え合わせしなけりゃ、怪獣ともロクに戦えないような軟弱な組織だとでも思ってるのか……!? 俺達はな! 常に未知の脅威と戦う為に集められたんだ! キサマの入れ知恵なんか無くたって! 本来の形に戻るだけだ! 自惚れるなっ!」

 

「……」

 

そうだ。ソガ隊員の言う通りだ。

ここでオレが出しゃばっても、戦力的にはむしろマイナスになってしまうかもしれない。

 

分かっているさ。

これ以上は、ただオレ自身の手で最後まで戦いたいという、単なるエゴに過ぎないって事くらい。

 

「……なあに、安心しな。例えダンやお前さんが帰ってしまったとしても、地球は俺達だけで守っていけるんだと、そう証明してやるよ。だから……」

 

「いえ、分かりました。そこは疑っていません。オレは……みんなを信じているから。ウルトラ警備隊が大好きだから。うだうだ屁理屈言って申し訳ありませんでした。オレに足りないのは……覚悟。自分自身の手で、キッパリ終わらせるという覚悟が、出来ていなかっただけです」

 

「そうかっ! 本当にお前さんは……偉い! なに、戦闘は俺に任せろ。全てが解決したら、ダンやサエコさんとゆっくり話す時間くらい……」

 

「いえ、それには及びません。オレは……もう消える事にしました」

 

「……な、なにっ!? そこまでは言ってないぞ!」

 

慌てて狼狽するソガ隊員。

いや、ほんますんませんね。早く行かなきゃならないのに、土壇場でまで気苦労かけまして……

 

「上手く言えませんが、自分でもなんとなく分かるんです。オレが一旦先に出て、その後にソガ隊員が、中からエイヤっ! ともう一押しすれば、オレはそのままスポーンとこの体からキレイさっぱり抜け出せるだろうなって感覚が。それなら万全とは言わずとも、貴方に変なデバフも掛けずに、出来る限り元々のスペックに近づけた状態で戦える。真に地球の為を考えるなら、この方法が一番理想的な最高効率です!」

 

もはや何の役にも立てないオレが、未練がましくソガ隊員の魂に引っかかっているよりは、そんなもん潔くペリッと剥がした方が絶対に良い。

 

これなら、多少の消耗やブランクで弱体化していても、『原作知識持ちのソガ隊員』という最強の戦士を、ダンの援軍に向かわせる事ができる。

 

すっかり覚悟の完了したオレの決め顔を、口をあんぐり開けたまましばらく見つめていたソガ隊員は、オレがもう決して翻意しないという事を察したのか、小さなため息をひとつだけついて、両手を掲げてカラリと笑った。

 

「まいったまいった! お前さんの頑固さには呆れたよ! 完全に俺の根負けだ。全くこいつと来たら、こうと決めたら梃子でも動きやがらねえ……ダンと良い勝負だぜ」

 

「えへへ、光栄です」

 

「褒めてねえよ。まあいい。それならこれから最後の大一番を決めたお前さんに、一つだけ、伝えたい言葉がある。大事な事だ。ちょっと耳を貸せ。ほら、もっとこっち来い……」

 

「えっ? なになに? なんですか……?」

 

朗らかな笑顔で手招きするソガ隊員にトコトコ近付いて……

 

油断大敵っ!!

 

「ゴパァア゙ア゙ッ!?!?」

 

鳩尾に凄まじい衝撃が走り、鋭く突き刺った握り拳によって、肺の空気が全て外に押し出された。

あまりの痛みと酸欠で眼球が裏返り、急激に聴力が低下していく。

 

確かに体から抜け出す手伝いは頼んだが、魂を直接物理的に破壊しろとは一言も言ってないが?

 

「それじゃあ、お前さんが消えちまうだろうが……良いからそこで大人しく寝てやがれ! ったく、結局これが一番手っ取り早いな」

 

「……ひ、卑怯……も……の……」

 

「あら、すっかり気絶に耐性ついちまってまあ……念のために、も一発行っとくか……?」

 

「死……ぬ……」

 

沈みゆく精神の中で、彼の声だけが徐々に遠ざかっていくのを感じて……

 

「これまでのご褒美だ。お前さんの大好きなウルトラ警備隊の戦いって奴を、俺が思う存分見せてやる! ……特等席でなっ!!」

 

アンヌがしきりに名前を叫ぶ中、オレは意識を手放した。

 

 

―――ソガ隊員……ソガ隊員!」

 

 

アンヌが肩を揺すりながら、彼の名前を呼びかける。

そろそろ気付け薬を注射すべきかと考えた頃、椅子に座らされていた男が薄らと目をあけた。

 

「ソガ隊員……! よかった! 私よ、分かる? 助けに来たわ!」

 

暫く男は、焦点の定まらない瞳でぼんやりと前を見つめていたが、自らを不安そうに覗き込む者達の存在に気付いたのか、そちらへゆっくりと顔を向けると、いつものあの、自信に溢れた頼もしき微笑を口元に浮かべた。

 

「……よう、久しぶりだな、アンヌ」

貴方は原作『ウルトラセブン』を観たことが

  • ある
  • ない
  • なかったが、本作をきっかけに視聴した。
  • 他昭和ウルトラシリーズは観ていた
  • 平成ウルトラシリーズは観ていた
  • 令和からだゼェェット!
  • そんなにシンが好きになったのか(完全新規
  • その他(感想欄かDMにでも)
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