転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「起きて……ソガ隊員! 起きて!」
カプセルは容易く開いた。
開いた……というよりは、ユーエイトとアオキがこじ開けたという方が正しいが、元より無力化した対象を洗脳する事が目的で、檻としての機能は二の次なのだろう。
さほど強固な造りでは無いようだ。
しかし、カプセルが開いたからといって、すぐさまソガ隊員が目を覚ますとは限らない。
なにせ、先ほどまでゴース星人の生体スピーカーにされていたのだから。
最悪、手術無しでは意識が戻らない可能性すらある。
アンヌが気付け薬を嗅がせるか、それともカンフル剤を注射すべきかと悩んでいると……幸いな事に、今回は強度の浅い催眠だったらしく、頬を二三度叩くだけで、彼はすぐに目を覚ました。
「ソガ隊員……! よかった! 私よ、分かる? 助けに来たわ!」
「……よう、久しぶりだな、アンヌ。天使かと思ったぜ」
それを聞いて、アンヌとアオキは思わず笑顔で頷きあった。
よもや宇宙人の走狗に、ここまで気さくな挨拶は出来まい。
「普段の軽口が叩けるくらい元気なら大丈夫ね。安心して、あれからそんなに時間は経ってないわ」
「そうかい? 俺としちゃあ、もうずいぶんと長い間ねむってたような気分だがね……おっと!」
そう言って、ソガ隊員は自分が座らされていた椅子から立ち上がろうとしたが……やはり精神汚染の後遺症があったのだろう。
一歩踏み出した途端に足がもつれて、そのまま前に倒れ込んだ。
彼が床に顔面を強打する寸前、横から素早く伸びた腕が、ソガ隊員の体を受け止める。
「いや、助かったよ……ん? 待てよ、その顔……まさかお前、アオキか!? どうしてここに?」
「覚えていて下さったんですね! そうです、不肖アオキ、僭越ながら貴方に受けた恩を返しに上がりました!」
「う、うん……」
輝く笑顔でそう述べるアオキ。
ソガがその勢いに気圧されていると、後輩に抱きとめられたままだった彼の肩を、浅黒い手がぐいっと引っ張り、力任せに助け起こした。
「おい、いつまでも情けない姿を晒すな。相変わらず締まらん奴だな、きさま」
「……ヒロタ」
そこには、同じ日に入隊し、同じ釜の飯を食い、同じ訓練に汗を流し、袂を分かったはずの男がいた。
彼らは、しばし無言で見つめ合ったが……やがてソガが気恥ずかしげにぽつりと零した。
「まさかお前に助けられるとはな……」
「勘違いするな、お前には勝負を預けてある。その決着がつくまでは、つまらん場所で勝手に死ぬのはおれが許さん! それだけのことだ」
「……そうか、じゃあ礼は言わんぞ」
ふん……と鼻を鳴らし、複雑そうな表情で顔を背けるヒロタ。
しかしその視線の先で、ユーリーがじゃらじゃらと鎖のようなものと格闘しながら、半ば半狂乱に陥っているのを見つけた。
近付いてみれば、どうやら彼女は目当てであった息子とやらを見つけたはいいものの、眠っているらしい彼のその手足が枷で戒められている為に、このままでは逃がすことが出来ないとパニックを起こしているのだ。
「ああ! ウリー! こんなひどい! どうしたら……はやく……はやくしないと基地が爆破されてしまうわ……!」
「おい、女! どけ!」
「え? ……きゃあ!」
焦りで潤んだ瞳のまま、振り向いた彼女は驚愕した。
ヒロタがあの長大なライフルを構え、銃口をこちらへ向けていたからだ。
咄嗟にウリーを背に庇い、声もなく震えるユーリー。
「ひ、ヒロタ!? 何やってる!? よせ! ……えっ!? アンヌっ? アンヌがふたり!?」
「ええい、うるさい! きさまは黙っていろ! お前もお前だ! そのガキが大切ならさっさと退け! それとも、親子で心中するつもりなら置いていくぞ!」
「多分大丈夫よ、ユーリーさん。そろそろ分かってきたわ、この人のこと……」
アンヌの言葉に生唾を飲んだユーリーが、恐る恐る横にずれていけば……
「さっさとしやがれ!」
続けざまに銃声が四つ!
たちまちマルス177が煌めいて、少年の四肢に繋がっていた鎖を、あっという間に焼き切ってしまった!
「ああっ! ウリー! ウリーッ!!」
「ええい、静かにせんか馬鹿! 寝かせたまま負ぶれ! ガキは起きていると何するか分からん」
「ありがとう御座います、ヒロタさん……」
「チッ、お前に感謝なんぞされる謂れはない。お前達がこのまま騒いでいたら、敵が寄ってくると思っただけだ」
苦み走った顔でそっぽを向いたヒロタであったが、ふと気付けば、ソガがこちらを向いてニタニタと笑っているではないか。
「何がおかしい」
「いや、いや。ヒロタよ。お前さん、いつからそんな……『つんでれ』な奴になったんだ? ん?」
「つん……なんだそれは」
「さあ、実は俺にもよく分からん。分からん……が、とにかくお前のように難儀な男の事を指すらしいぞ」
「……なにを訳の分からん事を言ってるんだ。やっぱりウルトラ警備隊には、頭のおかしな奴しかいないのか」
もはや怒りを通り越して呆れるしかないヒロタ。
先ほどなどは、久しぶりに顔を合わせたのもあり、少しは以前のような精悍さを取り戻したのかと錯覚したが、なんという事はない。
やはりこいつはこのように巫山戯た男なのである。
これから先、一生相容れる事は無いのだろう。
「MS爆弾の設置も完了です!……おや、どうしました? お二人とも?」
「なんでもない!」
「お、手際が良いなアオキ。基地は時限爆弾で吹き飛ばすのか?」
「マグマに積んである爆薬だけで足りるか分かりませんからね……念の為ですよ。帰り道に仕掛けていきましょう」
「どう? ソガ隊員? 歩けそう?」
「ん……」
アンヌに促され、よろよろと千鳥足で歩き出すソガ。
頼りなげな歩調に反し、本人の顔は真剣そのもので、そこには焦りと悔しさが滲み出ている。
「やっぱり、練習通りとはいかねえか……」
「……外部から無理矢理に体のコントロールを奪われていたから、脳と運動神経の接続がうまく確立できてないのかも。痺れが取れるまでは私が支えるわ。ヒロタ隊員、アオキ隊員。カバーをお願い」
「お任せください!」
「すまねえな……」
「まったく世話のかかるやつだ」
「ウラヤマシイゾ」
「うわっ! お前は……U-8か? お前まで来てくれたのか。ありがとよ」
「礼ハ イイカラ ソコ代ワレ」
そんな益体もない文句を言っていたユートが、突如としてランプを点灯させながら警告音を発した。
「キケン キケン どあろっく解除」
「来るぞっ!」
部屋の扉が両側へ大きく開放され、数人のゴース星人が雪崩れ込んでくるではないか。
しかし!
「くらえっ!!」
ヒロタの構えたマルスによって、先頭の二人が即座に撃ち抜かれ倒れ伏す。
その間に、アオキは懐からウルトラガンを抜き放ち、それを乱射しつつ後続の敵へめがけて猛突進!
射撃に怯んだ隙をつき、豹のような身のこなしで懐に潜り込むと、ガラ空きの顎に強烈なアッパーカット!
「ホァアアーッ!!」
『ウギャアアア!!』
髪を振り乱し、宙を舞う宇宙人の体。
それを呆然と見やる仲間の首筋に鋭いハイキックが炸裂!
「アタァッ!!」
『よくもやったな』
「ワチャーッッ!!」
仲間を倒され激昂した敵兵が飛びかかってくるも、それを蝶の如くひらりと躱し、逆に勢いを利用して投げ飛ばした!
倒れた相手に猛虎のような無慈悲な突きの追撃が突き刺さる!
ピクリとも動かなくなった敵から拳を引き抜き、残心を取りつつ、油断なく辺りを睥睨するアオキ。
狼狽えたように引けた腰で、動揺も隠さぬままに自身を取り囲む敵兵達を、彼は鋭い眼光で威圧した。
「なぁ……アイツ、本当にアオキか? もしかして外身だけ本物で、魂は別人のが入ってたりしないか……?」
「もう、なにを馬鹿な事言ってるのよ。そんな事あるはずないじゃない……確かに、とても生身とは思えない怪力だけど……」
「いや、そういう意味じゃなくってな……」
アオキの見違えたような活躍を訝しむ二人。
さもありなん。
アオキ隊員は改造人間である。
何をかくそう、彼の肉体は現在、科学の粋を集めた最先端技術の結晶、恐るべき半サイボーグ状態となっていたのだ!
彼はV3基地での度重なる過酷な任務の中で、ある時ついに集中砲火を食らい、それを避けきれなかった事があった。
不時着や脱出が可能な地表と違って、宙間戦闘での被弾は、即ち死を意味する。
ところが、常人であれば確実にそこで命を落としていたであろう状況の中、彼は類い稀なる栄達心と、呆れる程の負けん気を燃料にくべて、空中分解寸前の機体を立て直し、半死半生になりながらも、ついにステーションまで帰還したのだ!
――こんなところで死んでたまるか……ぼくは、ぼくはあの人に勝ちたい!――
ソガに対する常軌を逸した対抗心が、アオキを死地から這い上がらせたのだった。
しかし、いくら帰ってきたといってもそれで助かった訳では無い。
爆散しなかったのが不思議なくらいの攻撃を受けた事に変わりは無く、ボロボロの機体と同じように本人もまた瀕死の重症を負い、一時は心肺停止にまで陥ったくらいだ。
だが、彼の悪運は終わらない。
本来であれば、そこで死を待つばかりであった彼を救ったのがなんと、かつてノガワ隊員を恐怖の殺人マシーンに作り替えてしまった、あのボーグ星人のサイボーグ技術だったのである!
ステーションV3は、単なる防衛拠点にあらず。
イシグロ隊員やシラハマ隊員といった解析、機械工学のエキスパートが集まる事からも分かる通り、無重力化での貴重な動作サンプルを記録できる、実験施設としての側面があった。
言わば宇宙に浮かぶ極東基地と言っても過言ではない。
そんなV3になんの因果か、キタムラ博士によってノガワ隊員から摘出された簡易サイボーグの特殊インプラントと、それを解析して作製された試作強化パーツ達が、一式保管されていたのである。
アオキは意識を失う寸前、まだ試験段階で、適合するかも分からないその改造措置の被験者として、自らの肉体を使ってくれるよう、クラタ隊長に志願したのだった!
こうして生まれ変わった不死身の躰!
星の悪魔を叩いて砕く。
アオキがやらねば誰がやる!
「アオォォオッ!!」
餓狼のあぎとの如き猛攻が、敵の陣形を食い破り、人間台風と化したアオキから逃げ惑う敵を、ヒロタが冷静に撃ち抜いていく。
「ハハハハ! あの時わたしに、フッ! カンフーを極めろとアドバイスしてくれたのは、トゥッ! いつか射撃の通じない敵が現れた時、ハッ! 肉弾戦で圧倒しろという意味だったんですねェヤァッー!!? あの時点で既に、こいつらのような敵の襲来を予期していたとは……流石です、ソガ隊員! まだまだ貴方には敵いません!! アタァッ!」
「オレ、そんな事言ってた……?」
「さあ……言ったんじゃない?」
「何をボサッとしてやがる! 速く行くぞ!」
「地下まっぷ だうんろーど 完了 コッチデス」
―――――――――
地下基地中枢。
ゴース星人のリーダーが、玉座の上で地球人の降伏を今か今かと待っているその部屋へ、手下の一人が紫の髪を振り乱し、息せき切って駆け込んでくる。
『おやぶん! なぐりこみでございます! いったいどうしましょうか?』
『なにっ!? なぐりこみだと! そんなことはもう、ひとをやってはっきりさせろ!』
侵入者の報告に、大きく腕を振り増援を向かわせるよう指示した首領は、椅子の手摺りを激しく打ち付け、顔のまえで両の拳を握りしめて自らの怒りを表現した。
『ちきゅうじんめ!』
あそこまで叩きのめしてやったのに、まだ歯向かう気だとは。
それも直前に、先遣隊を手酷く罠へかけてやったにもかかわらず、馬鹿の一つ覚えのように乗り込んでくるなんて、随分と舐められたものである。
しかし、どうやってこの基地を見つけたのか……
この後の事を、自身のつるりとした顎を撫でながら思案するゴース星人の首領。
ゴース星人の顔面は、苦手な太陽光に耐えられるよう進化した結果、分厚く堅い表皮で覆われ、まるで能面のようにその表情が変わる事はない。なので、いつしか彼らは大袈裟な身振り手振りで感情を表現するようになった。
もちろん、表情筋なども纏めて硬化しているので、口も殆ど退化し、柔軟性を失った彼らの声帯は高音域でしか発声する事が出来ず、多種族とコミュニケーションを取るためには、現地の生物を捕獲して生体翻訳機として使わざるを得ない。
だからこそ、太古の昔に、彼らの祖先からその不便な肉体を押しつけられた哀れな原住民などには、未だに使者を立てて迂遠な接触を図る事を余儀なくされている者もいるくらいだ。
そう、彼らゴース星人は、元々ユーリー星人と先祖を同じくする近縁種である。
しかし、有り余るサイコパワーの代償として、肉体を捨て去る選択をしたユーリー族と違い、ゴース星人達はあえて肉体を維持する道を選んだ。
彼らの星は、あまりにも降り注ぐ太陽光が強すぎて、普段は地下に街を建造し、そこで暮らしている。
しかし、地下空間で昼夜の無い生活をしていると、どうしても日々のサイクルや時間感覚が曖昧になってしまう。
もしもそんな状態の中、ずっと精神体を剥き出しのままでいると、そのうち自己の連続性や、自らがそこで存在しているという生の実感、あるいは他者と個の境界認知をうまく確立できずに、結局は一年も経たず発狂、やがて闇の中へと精神が霧散してしまうのだった。
故に、精神を繋ぎ止める楔として肉の器を手放せない彼らであるが、肉体を維持し続ける以上は、一生地下で暮らしていく事は出来ない。
食料や資源は、地上でしか回収できないものもあるからだ。
そのため彼らは、自身の細胞にサイキックパワーを凝縮しておき、太陽光に曝されて肉体の崩壊が始まると、解放された念力がリアクティブアーマーの如く働き、周囲の屈折率を歪めてそれ以上影響を受けないようにした。
とはいえ、それにも限界がある。だからこそ彼らは奴隷を欲するのだ。自らの代わりに、光の中でも生産活動を行える労働力を。
ユーリー族は死者を使役する事に長けていたが、ゴース一門は逆に、生ある者の意思を捻じ曲げて操る事を得意としていた。かつての始祖、究極の支配者がそうであったように。
その恐るべき力を存分に振るってゴース星人は各地へ次々と侵略の手を伸ばした。その結果、かつて先祖が星々を渡り歩いて集めた数々の奴隷達の働きによって、ゴース星の科学は飛躍的に発展し、特に工学面での発達は、その他の有力な星系と比べても頭ひとつ抜きん出た技術力を持っている。
しかし近年、それらの奴隷も代を重ねて交雑が進んでしまったり、クローニングの限界が来るなどして、徐々に数を減らし、いずれは枯渇してしまうと判明した。
そこで今回、白羽の矢が立った星こそが、この地球だったのである。
地球には、かつての先遣隊が残した施設や、生体工作器が現存している可能性が高いだけでなく、先遣隊の子孫が帰還時に残したとされる文献には、なんとウルトニウムが産出したとの記述もあった!
これほど好条件の揃った星もないと、すぐさま傭兵を雇い、現地調査をさせてみれば、まさしく予想は的中。
挙がってきた報告書には、ウルトニウムの鉱脈どころか、先遣隊が放棄したと思しき採掘基地と貯蔵庫が丸々残っているのを発見したと記載されており、それを読んだ時は、あまりの驚きに口元がほころぶかと思ったくらいだ。
おまけに同時並行で探らせていた現地の武力組織――地球防衛軍と言うらしい――の地下基地図面までしっかりと偵察済みであり、これはもう勝ったも同然。
早速再侵略に乗り出そうとした矢先、ウルトニウムのサンプル採取を命じた傭兵から、『生体工作器を用いた採掘を開始する』という報告を最後に、ぱったり連絡が途絶えてしまった。
件の傭兵種族は忠誠心が高い事で有名だ。この段階に来てまで雇い主を裏切ったとは考えにくい。
であれば十中八九、報告にあった地球防衛軍とやらに殺されてしまったのであろう。
地球人は、奴隷の中でも目立った特徴はなく、非常に従順で扱い易い種族だったはずだが、この数万年でどのような進化を遂げたというのか。
ゴース星人は短気な者が多いが、長年繰り返してきた侵略によって培われた慎重さも併せ持つ。試しに、手に入れた情報を横流しして、様子見の為に他種族を焚きつけてみたが、結果は失敗。
逃げ帰ってきたその種族から、情報料を巻き上げるついでに分かった事は、傭兵の遺した図面が正確であるという保証と、例えそれを頼りに基地を攻撃しても、心を完全に屈服させなければ決して降伏しない、という現生人類の恐るべき野蛮さであった。
故に計画の大幅な修正を余儀なくされ、外部協力者も募りながらようやく今回の侵略と相成ったわけだが……
『そうだ、おいおまえ。パンドンのかいぞうしゅじゅつはどうなっている? せきにんしゃをよべ!』
『は、それが、あのかたがいうにはかんせいまではあとしばらくと……』
『やつめ、まったくなにをかんがえているのだ。かんぺきしゅぎもこまりものだな……いそがせろ!』
首領が気にしているのは回収したパンドンの改造措置に関する進捗だった。
そう、各地を襲わせた怪獣などは本来、目眩ましを兼ねた囮に過ぎない。
ウルトラセブンをこの大陸から引き離し、あわよくばエネルギーを消耗させるための捨て駒なのだ。
いくら野生化していたとはいえ、所詮は先遣隊が開拓に使っていた工作器群。結局はそのどれもが地球人にすら倒されていたような面子では、ウルトラセブンにトドメを刺すことは出来ないだろう。
やはり今回の侵略において最大の障害こそウルトラセブン。奴の息の根を止めるまでは、人類を降伏させたとしてもいつ邪魔が入るか分かったものではない。どんな手を使ってでも確実に抹殺しなければ……
つまり、計画の最終段階を担う重要なピースこそ、本星から運んできたパンドンなのだった。
しかし、あの怪獣に果たしてウルトラセブンを殺すに足るパワーがあるか?
……否。
だがそれで良い。パンドンがそのままではセブンを越える事が出来ないなど、最初から折り込み済み。
なぜならゴース星人にとってのパンドンは……単なる素体、言わば未完成品でしかないからである!
パンドンの真骨頂、それは、サイボーグ手術への適合率と、素体としての優秀さ。
そもそもこの怪獣は、ゴース星近辺の星系に棲息する原種を品種改良し、生体兵器に仕立て上げたもの。
原種は確かに怪獣としても強力だが、その凶暴さは逆に、兵器として御しにくいという事だ。
第一、二つの首が別々に思考するなど、訓練が難しいというレベルではない。
故にゴース星人はまず、この怪獣の二股に分かれた首を、遺伝子操作によってひとつに縫い付けてしまうところから始めた。
これにより、二つ分の頭脳を巨大な右脳と左脳として扱う事で、知能を飛躍的に向上させ、ようやく家畜化が可能となったのである。
さらにそれだけではない。細長く伸びた首を合体させた事により胴体の延長、つまり体内容量の大幅な拡張に成功したのだ!
こうする事で、ゴース星の優れた機械工学を埋め込む余地が生まれ、サイボーグ手術を施す事による強化拡張や現地改修を可能とした。
こうして見た時にゴース星人は、パンドンという怪獣が持つ、改造素体としての圧倒的なポテンシャルに驚く事となる。
サイボーグにおいて、最も高価な部品は何か?
それは中枢神経、及びそれに付随する各種の感覚器官と言えよう。
ただでさえセンサーやコンピュータは精密機器であり、これがさらに戦闘用ともなれば、性能と耐久性を両立させねばならず、コストは青天井だ。
ところがパンドンは素体の時点で既に、なにもせずとも視力は2倍、脳も2倍、なんなら嗅覚も聴力も2倍2倍!
改造などせずとも、最初から優れた動体視力と反射神経を持つ怪獣であれば、あとはそれ以外の部分で戦闘能力を補ってやれば良い。なんと改造し甲斐のある怪獣だろう。
しかし、ここまで列挙したような無茶な改造が、果たしてそう上手く施せるものなのだろうか?
巨体へ機械部品を強引に捻じ込み、遺伝子まで弄くってしまうなど、拒絶反応も相当なものだ。
普通の怪獣であれば確実に死に至るはず。
そこでパンドンが持つ、もう一つの特異な性質が鍵を握る。
この怪獣は、細胞の増殖速度が異様に早いのだ。
パンドンの肉体を構成するスピニー細胞には、周囲のあらゆるエネルギーを取り込み急激に活性化、爆発的に分裂増殖するという特徴を持つ。
その際にエサとなるのは何も有機物に限ったわけではなく、鉱石中に含まれる化学反応係数や、果ては生物の発する微弱なリビドー波すらも刺激に変えて、細胞分裂のスイッチを入れ、2次関数的に増えるのだ。
これによりパンドンは、外傷からの回復力が異様に高く、手術痕や炎症部位が即座に癒えるばかりか、細胞の構成成分による無機物との親和性の高さから、本来は異物として免疫で阻害される筈のインプラントを、元から体の一部だったかのようにすっかり取り込んでしまうのであった。
ここまで来れば、もう気付くはずだ。
パンドンを究極の怪獣たらしめる為に、最も都合の良い素材が何なのか。
それこそが、ウルトニウム。
全身の表皮にあの鉱石を移植すれば、かの石が発する無限のエネルギーと、ウルトニウム本来の性質である波長変換率の高さを取り込んで、パンドンは半永久的に自立戦闘が可能な、無敵の戦闘マシーンと化すのだ!
そのためには、怪獣の全身を覆うだけに大量のウルトニウムが必要となるが……問題はない。それは既にゴース星人の手中にあった。
地球に侵入し、傭兵の報告書にあった地点を真っ先に調査した時、採掘基地が何者かによって既に破壊済みであると知った時は、思わず落胆を隠せなかったものだが、その奥に貯蔵庫がまだ潰れずに残っているのを発見し、首領を含めた全員が狂喜乱舞するのを止める者はだれもいなかった。
恐らく、爆弾か何かで破壊したのであろうが、基地全体を完全に消滅させるには、使用する爆薬量が僅かに足りなかったと思われる。
あとほんの少しでも多めに設置されていれば、貯蔵庫も同じく吹き飛び、基地が長年をかけて掘り出したはずのウルトニウムも、地殻変動によって、本来あるべき地層の奥深くへ散らばってしまっていたかもしれない。
その時は、例の装置どころか、パンドンの改造も未完成のまま実戦投入せざるを得なかっただろう。
思えば、これだけ周到に用意した作戦とはいえ、やはり実行に移してみれば、予定通りに行かない部分も多々あった。
その度に、小さな幸運が積み重なり、ここまで漕ぎ着けられたのだ。それこそ、敵の警戒網が想定以上に厳しく、建築資材の輸送が滞ったり、パンドンを本星から取り寄せた際も、想定以上の迅速さでウルトラ警備隊の迎撃を食らい、地下基地の居場所を秘匿するためにキャリアを直行させる事が出来なかった。
ただ、追っ手を撒こうと仕方なく出撃させた素の状態のパンドンでも、それなりにセブンと戦えていたのは僥倖だったと言える。
予想外の形勢有利に、慌ててウリンガを増援で向かわせたが……少なくともあれでかなりのダメージを与えられたはずだ。相討ちでパンドンをやられてしまったが、なあに、最初から改造するつもりだったのだから、お釣りが来ると言っても過言ではない。
そしてダメ押しとばかりに、人間態であるモロボシ・ダンが治療中のうちに抹殺すべく、極東基地を増強した円盤編隊で空爆してみたが、うまくトドメを刺すことは出来たであろうか。
理想を言えば、富士要塞もろとも不意打ちのドリルミサイルで木っ端微塵にしてしまいたかったが、流石にこちらの本拠地と近すぎる。爆撃機のグランドバスターでお茶を濁すしかなかった。
ともあれ、世界各国へ出現させた怪獣軍団に呼応して再出現しない辺り、本当に殺すことができたのかもしれない。少なくとも、現在は戦闘不能状態だろう。
ここまでくれば、天運は自分たちの方へ味方していると確信できる!
あとは地球人との全面戦争を残すばかりだ。
『おやぶん、ねずみはよにん! ひとりはユーリーぞくのおんなです! ほりょのちきゅうじんと、ガキをつれてにげるつもりかと』
『なに、ユーリーぞくのおんなぁ……?』
侵入者の一団にユーリー星人がいると聞き、腕組みをしつつ思案するゴース首領。
『(ははあ……さてはあの女、テレポートで一度脱出したのか、随分と無茶をするものだ)』
確かにユーリー族の超能力は、ゴース星人のそれよりも強い。拘束を抜け出して瞬間移動も可能だろう。
しかし、何の訓練もしていない者が、いきなりそのような高度な技を使うなど並大抵の事では無いはず。
あの女の力量では、自らの生命力の半分を消費して行う、ほとんど捨て身の行為に等しい。
首領の見立てならば、一度きり使えれば上等で、出来て二回といったところか。地球人を何人も連れて戻ってくることなど到底不可能。
『(では、この基地までの移動手段があるはず……)』
『おい、ドリルミサイルはぶじなんだろうな?』
『ハッ! やつらのしんろとははんたいがわです!』
『それならよい。しかし、ウリンガはだいじなせんりょくだ。うばわれるのはいかん……ふむ』
髪をなでつけながら、思考を纏めたゴース首領。
なにより、ここまで舐めた真似をされて、そのままおめおめと逃がせば、ゴース星の沽券にかかわる。
『いいか、きちのしゅびたいをすべてしゅうけつさせろ! ちょうへいのこぞういがいは、うちころしてかまわん。いきてかえすな! みなごろしにしてしまえ!』
―――――――――
『きたぞ! うてうて!』
「そんな弾が当たるかっ! でぇぇやぁあッ!!」
『ばかなっ!? ぐわあぁ……』
挟撃されやすい廊下ではなく、身を隠す障害物の多い格納庫や電気室を突っ切りながら、マグマライザーを目指す非正規警備隊。
その先頭を行くアオキは、ジャンプや前転を織り交ぜながら、待ち受けるゴース星人達の銃撃を躱しつつ、脅威的な身体能力を発揮して格闘戦を挑み、後ろの面々の為に道を切り拓いていく。
「たぁーッ!」
『いったいなんだあいつは!? ほんとうにちきゅうじんなのか!? しんじられん!』
『まさか! やつがうわさのモロボシ・ダンなのでは!?』
「でぇぇえい!」
『くうばくでころしたんじゃないのか!? えんばんのりのやつらめ、あんなにじまんしておいてしくじりやがった! ぐわあぁ……』
まさに鎧袖一触。
凄まじい戦闘力で敵兵を蹴散らしていくアオキの後ろ姿を見ながら、マルスの引き金を引くヒロタがぼやく。
「もう全部あいつ一人でいいんじゃないか……?」
「そんな事言って、さっきから死角をカバーしてやってるのはお前さんだろ?」
「ふん、なんのことか分からんな……そこっ!」
鋭い銃声がひとつ、地下室内に響いたかと思うと、タラップの上から青白い影がずり落ちて、ドサリドサリと鈍い音を立てる。
キャットウォークの上から狙撃しようとこちらを狙っていたのだ。
「ヒュー、二枚抜きか。お見事」
「本調子じゃない貴様に褒めて貰ったところで、面白くともなんともない。そんなことより、とっとと勘を取り戻せ! さっきから情けない射撃をしやがって。これだけ歩いてまだ3人か!」
「へいへい、悪うござんした」
アンヌに肩を貸してもらいながら、自由な方の腕でウルトラガンを撃っていたソガは、まったく悪びれもせず、ヒロタへわざと顎を突き出して生返事をする。
そして、不機嫌なライバルへ挑発するような表情を向けたまま、今しがた物陰から飛び出してきたばかりの敵を見もせずに撃ち抜いた。
ところが、撃たれた星人が床に転がり悶えるのを見て、致命傷ではないと分かると、はあっ……と溜め息を吐き出すソガ。
「俺にもソイツがあればなぁ……」
「なんだと! おれの戦果が銃のおかげだとでも言いたいのか!? ……いやまて……ははん、分かったぞ。さぞかしコイツを撃ってみたいと見える。その手には乗るか! やらんぞ」
「ちぇ、ばれたか」
「ふふん、女の助けを借りてるような奴に、この銃はまだはやい。文句があるなら、せめて10人くらいは倒してから言うんだな。それとも、大人しく負けを認めて棄権するなら、一発ぐらい撃たせてやっても構わんぞ?」
「ぬかせっ!」
それを聞いていたユーリーが、すやすや眠る少年をおんぶしながら、潜めた声でアンヌに囁く。
「……ソガさん、もう10人くらいやっつけていましたよね?」
「この人達からしたら、戦闘不能は数に入らないんでしょ。付き合ってらんないわ……ユーリー! 伏せて!」
自身もソガを支えながら、周囲を牽制していたアンヌが、男達のくだらない争いに辟易していると、異星人の母子の向こうで、青白い影が蠢くのが見えた。
すぐさま片手のウルトラガンで敵を昏倒させるアンヌ。
「ア、アンヌさん……ありがとう」
「いいのよ、あなたはウリー君を守る事に集中して。……ちょっと! 護衛対象が疎かになってるじゃない! 二人とも減点よ! 今から仕切り直し!」
「チッ。面倒なルールが増えやがった……」
「えっ!? この場合、護衛対象って俺じゃないのか?」
「ミンナー マッテー」
そんな彼らの後ろから、えっちらおっちらユーエイトが重々しい足取りで追い付こうとしていた時だ。
アオキやソガ達の暴れている大部屋中央よりさらに奧、今まさに目指すべき進行方向の扉が、左右に大きく開け放たれる。
そこにはなんと、簡単に乗り越えられないように急拵えのバリケードが築かれており、三段重ねに戦列を組んだゴース星人達が、超電磁マスケットの切っ先をコチラへ向けて待ち構えていた!
『かまえー! つつ!』
「まずいッ! 伏せろ!」
『うて!』
最前列の兵士が引き金を絞ると同時、ずらりと横一列に並んだ個人携行用小型レールガンが凄まじい稲光を発し、亜音速で撃ち出された飛翔体が直線状の一切合切を貫通しながら破壊していく。
床へ伏せたヒロタ達の背中に、粉砕された機材の木っ端が降り注いだ。
『だいにしゃ! ようい!』
部隊指揮官らしき宇宙人が采配を振り上げ、次なる攻撃を仕掛けようとした時、横っ跳びに奇襲を回避したアオキが、左腕のビデオシーバーに叫ぶ!
「ユーエイトォ! チェーンパンチだっ!」
ガシャリと特大の装填音が鳴り響き、ユーエイトの左手首が轟音と共に撃ち出された!
朦々と立ち上る爆裂ボルトの噴射煙の中から、猛然たるスピードで飛来した鎖付きのチルソナイト鉄球が、バリケードを粉々に打ち砕き、その後ろにいた哀れな戦列歩兵も纏めて吹き飛ばす!
それでも勢いを殺しきれず、攻撃準備を叫ぼうと片手を振り上げた姿勢のまま、恐怖と驚きで彫像の如く固まる指揮官の頬を掠めたかと思うと、その背後にある廊下の壁へ、蜘蛛の巣の如き亀裂を走らせながらめり込むユートの左拳。
「ちぇーんあーむダ 二度ト 間違エルナ」
「いいぞ! そのまま頼む! とうっ!」
射出用炸薬の薬莢と共に排出された愚痴には一切耳を傾けず、アオキは常人離れした跳躍力を発揮し、ユーエイトの左腕から廊下へ向かって、一直線に伸びる鎖の上へすたりと飛び乗った!
かと思えば、そこを平地と変わらぬ脅威的なスピードで駆け抜けて、敵陣への危険な綱渡りを成功させる。
『く、くるなー!』
「ふん! でやぁーっ!!」
慌てた敵の狼狽え弾を、鎖の上で踏み切ったジャンプの勢いで躱しながら、空中で身を捻るアオキ!
「くらえ必殺ッ――!」
『ザャ!』「宇宙っ!」
『ボォ!』「三段ッ!」
『ガァッ!』「蹴りィイッーッ!!」
説明しよう! 宇宙三段蹴りとは!
大きくジャンプした後、着地せずに空中から連続で三発の蹴りを繰り出すというアオキ隊員の必殺技である!
ある時、クラタ隊長よりセブンの活躍を伝え聞いたアオキ。
未だ見ぬ宇宙からの新入りが、かつて飛び道具も効かない強敵を見事な蹴り技で破ったと知り「だったら僕は、そのもう一段上を行ってやる!」と対抗心を燃やした彼が、ステーションの無重力室に籠もって、猛特訓に猛特訓を重ね会得した隠し球。
通常の物理法則では絶対に為し得ない脅威の3連撃だが、彼の強化された跳躍力とマシンアシストされた全身のばね、なにより天性とも言える身体制御のセンスが、それを可能とした。
『おのれ、モロボシ・ダン!』
『うろたえるな! そういんばっけん』
『やつをうちとって、なをあげよ! かかれーっ!』
着地点の3人を一瞬で蹴り倒し、敵陣のまっただ中へ降り立ったアオキを、ゴース星人達が取り囲む。
長銃の先端に素早くマグネチックナイフを装着した兵士達が、短槍へ早変わりした得物を構え、雄叫びと共に吶喊した。
しかしアオキは、それを闘牛士の如くいなしつつ、逆に奪い取った銃剣を用いて一人また一人と打ち倒していく。
なぜなら彼の心臓付近に埋め込まれた電子チップの専用パーツは、極東基地の長距離レーダーすら動かす、あのユシマダイオードなのである。
そこから身体中を駆け巡る怒りの電流が、彼に素晴らしい力を与えているのだ!
「ハハハ、ゴース星人とやらも、たいしたことないな!」
『ええいこしゃくな!』
「おっと!?」
涼しい顔で挑発するアオキに、指揮官らしきゴース星人はついに痺れをきらしたのか、腰から重力サーベルをぎらりと引き抜き、大上段からそれを振り下ろす!
咄嗟に奪ったライフルで受け止めるが、パキンと軽い音を立てて真っ二つになってしまうではないか!
恐るべき切れ味だ!
『ふふふ、つぎはきさまがそうなるばんだ。かくごしろ、モロボシ・ダン!』
「こちらを向いてよかったのかい?」
『なにっ?』
「今だユーエイトォ! 速射破壊銃っ!」
アオキがシーバーへ呼びかけると、敵の背後から降り注ぐ光弾の嵐、嵐、嵐!
「ソンナ 物騒ナモン 撃テルワケ ネエダロ」
ユートの両手首がガトリングのように回転し、ターボパラライザーの麻痺光線を広範囲にばら撒いたのだ!
『ぐわっ!? なんだこれは』
『まぶしいっ……ぎゃあっ!』
一発一発の効き目は小さくとも、秒間20サイクルの猛烈な弾幕は、それだけで星人達の注意を散らし、その隙をヒロタやアオキが突くには充分であった。
見事な連携によって、勝負は決したかに思われたその時!
「み、皆さん気をつけて! 後ろから大きな悪意の気配がっ!」
「なにっ!?」
『そくしゃはかいじゅうのせっとかんりょう!』
『よくねらえ……!』
いつの間に用意していたのであろうか。
敵は少数の侵入者相手に、なんと牽引式の対戦車砲まで持ち出して、乱戦状態にある敵味方諸共、この世から消し去ってしまうつもりなのだ!
先端部の結晶に光が集まり、その輝きを増していく。
「させるかっ!」
『うぐっ』
しかし、チャージが完了するよりも、マルス177が火を噴く方が速かった。
ヒロタによって撃ち抜かれ、そのまま防盾へだらりと上半身を投げ出す砲手。
だが、それで射撃が止まったのも一瞬のこと。
砲の周囲には沢山の兵士がいる。死体をどけて次の人員が配置についてしまうだろう。
あの巨大な分隊支援火器自体をなんとかしなくては……
「……そうだ、アンヌ。俺の腰に小型爆弾があったはずだ! 投げてくれ!」
「分かったわ!」
動きにぎこちなさが残るソガに代わり、ポーチからカプセル爆弾を幾つかにぎりしめたアンヌが、敵に向かってそれらを投擲する。
低性能爆薬の威力では、ゴース星人に効き目など無いに等しいが、投げられた方からしてみれば、そんな事は分からない。
敵兵が念の為退避した事により生まれた、僅かな猶予で、ソガは頭上にあるキャットウォークのビスを正確に撃ち抜いていくが……
「……思ったよりも造りがしっかりしているな」
「何を悠長にやってるんだっ!」
敵が射撃位置につかないよう、牽制中のヒロタが怒鳴る。
それでも、ソガの取った謎の行動を、正確に読みとった者がいた。
先ほどまでチームの最前列、つまり立ち位置の逆転した今現在での最後尾、大広間を最も俯瞰できる場所にいたアオキには、ソガのやりたかった事を察し、その為に必要な後押しが何か分かったのだ。
「ユーエイトォ! その柱を壊せ!」
「ガッテンショウイチ」
叫ばれた指示に従って、ユートは自身の一番近くにあった鉄骨をパワーハンドでしっかりと掴む。
「もーた サイダイ稼動 フ ル パ ワ ー」
10万馬力が唸りを上げると、みるみる飴細工のようにひしゃげていく鋼鉄の柱。
鉄腕ユートムは伊達じゃない!
「ユート インパクト」
機械仕掛けの隊員が呟くと、彼の右腕が展開し熱量式のパイルバンカーが作動する。
厚さ数センチの鉄骨が、バキンッとベニヤ板の如き音で容易く断裂してしまうその威力!
「コォオオオォ……ハァッ!!」
最後にアオキが、出口付近のコンクリート壁に正拳突きをお見舞いすれば、簡易的に二階部分を形成していた金網の固定用ボルトが壁面ごと割れ砕ける。
支えを失った非常通路は、けたたましい金属音を断末魔代わりに残してその場へ崩れ落ちた!
崩落地点にあった大砲も、兵士も、ついでに通用口もなにもかもを巻き込んで、中二階が全て押し潰してしまったのだ。
後に残ったのは朦々と立ち上る土埃と辺りに散らばる細かい金属部品だけ。
「ケホッ……ケホッ……みんな、大丈夫?」
「い、生きてます……なんとか……ゴホッ」
「このガキ、こんな騒ぎでもまだ寝てやがるぜ……どんな神経してやがるんだ、まったく……」
「将来、大物になりそうね」
「正気か?」
母の背で、すやすやと眠りこけるウリーの寝顔を、微笑ましく見つめながら、柔らかな頬についた埃を払ってやるアンヌ。
周囲を一掃できたおかげで、ようやく静かになった空間の中、よろよろと立ち上がったソガが一言。
「ところで……これは誰のスコアになるんだ?」
「ボクニ キマッテル」
「下らん事言ってないで、はやく歩け!」
「冗談の通じないヤツだな……自分だけ今の連携に絡めて無いからって……」
「本機モ ソウダ ソウダ ト 言ッテイマス」
「なにをっ!?」
「ちょっと、みなさん。やめてくださいよ」
またしても言い合いを始めそうだったところへ、真面目な顔で割って入ったのはアオキだ。
その後に、我が意を得たりとアンヌが続く
「その通り! つまらない事で張り合うもんじゃないわ! 私達はもう、立派なチームなんだから。もっと仲良くしなきゃ! みんなも少しはアオキ隊員を見習いなさい! ね?」
「そうです! 第一、今のが誰の戦果になろうが、どうせ私の撃破数が一番なのは変わらないんですからね!さ、行きましょう! マグマはすぐそこですよ!」
「……」
「……で? 誰を見習うって?」
固まるアンヌへ、皮肉な笑みを残して去っていくヒロタ。
「……褒めたと思ったらすぐこれよ……」
「ああ、俺もさっきのを前言撤回するぜ。やっぱりヤツは正真正銘のアオキ隊員だ。中身は以前と大して違わんらしい」
「人間ってそうそう変わったりはしないものね……」
そう言った二人は諦めたように頷きあって、ずんずん進むアオキの後を、肩を竦めながらついていく。
そうして、無事に追っ手を撒いた一行は、ようやく円盤の格納庫に辿り着いた。
時限爆弾のタイムリミットになんとか間に合ったのである!
「確かあの辺りです! ユート、マグマライザーのバーリアを解除してくれ!」
「リョウカイ」
ユーエイトが頭のライトをチカチカさせて、何かしらの信号を発すると、隅の一角が薄らと発光し、土色の染料が流れ落ちるようにして、マグマライザーの重々しい金属光沢が姿を現した。
「さあ! こっちです! みんなはやく!」
「やれやれ……」
駆けだしたアオキが、一番乗りにマグマへ辿り着き、タラップの手摺りへ右手を掛けて、嬉しそうにこちらを振り返る。
その時。
「異常アリ! 異常アリ! アオキ隊員! ハナレテ!」
「えっ?」
呆けた声に被さるように、マグマライザーの周囲へぐるりと紫電が奔ったのは一瞬のこと。
――ばつん、と……それを聞いた時アンヌは最初、ブレーカーでも落ちたのかと思った。
いや、裁ち鋏を使った時の音だったかもしれない。
とにかくその場の全員が、その瞬間に何が起きたのかを理解できず、数秒動きを止めた。
そして、ユーエイトの発した警告の意味を捉えかね、キョロキョロと視線を彷徨わせれば……遅れて、ドサリ……と、何かが地面に落ちた音がするではないか。
全員の視線がそこへ向き、細長い物体がマグマの傍らに転がっているのを認め……る前に、つんざくような悲鳴が上がる。
それは、切断されたアオキの右腕だった。
そして予約投稿をミスるというね。
来週以降も締め切りに間に合うかは分かりませんが、なるべく頑張ります!
貴方は原作『ウルトラセブン』を観たことが
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ある
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ない
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なかったが、本作をきっかけに視聴した。
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他昭和ウルトラシリーズは観ていた
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平成ウルトラシリーズは観ていた
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令和からだゼェェット!
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そんなにシンが好きになったのか(完全新規
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その他(感想欄かDMにでも)