転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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19:00に間に合わなかったぜ……!
辛うじて日曜日投稿だから許して!


史上最大の隣人

 

アオキは、最初それが何か分からなかった。

なのでひとまず、騒ぎ立てるユーエイトの方へ近付こうとタラップの手摺りへかけていた右手を離したのだ。

 

だが、それが出来なかった。

ブランコの要領で戻ってくるはずの腕から、遠心力を感じられなかったのである。

 

その小さな違和感に、彼は何気なく右手を見た。

 

ない。

 

二の腕しかない。肘から先が、ぷっつり無くなっていた。

 

それでようやく、そこに転がっているのが、自身の右腕であると理解したのだ。

 

「……う、ぐあぁああああーッ!!」

 

認識すると同時に、鋭い痛みが遅れてやってくる。

アオキの神経はサイボーグ手術で強化されていたが、肘から先の入力が突然無くなってしまったがために、凄まじい量のエラーコードが、全て痛みとして脳に叩き付けられてしまったのだ!

 

弾かれたように倒れ込み、地面をのたうち回るアオキ隊員。

 

「アオキ!」

「大変、止血しなくちゃ!」

 

駆け寄ろうとするアンヌを、鋼鉄の腕が押しとどめる。

 

「キケン 電磁ばりあガ 作動シテイマス ヒロタ隊員 彼ヲ コッチヘ」

「くそっ! なんでバーリアが復活してやがる! ユーエイト! きさま、アオキを殺す気かっ!」

「分カリマセン まぐまらいざート 接続フノウ 理解フノウ」

「応急措置をするわ! 辛抱してね! 二人とも、アオキ隊員の歯にマフラーを噛ませて!」

 

ヒロタが引き摺ってきたアオキの右腕を、止血帯で縛っていくアンヌ。

 

「おい、マグマライザーに電送機があるんじゃないのか? このままだと帰れないぞ」

「大丈夫デス ワタシニ 第二ぷらんガ アギggggggg」

「きゃあっ!」

「ユート!?」

 

ソガの問いに答えようとしたユーエイトであったが、その言葉は途中で遮られてしまった。

どこからともなく飛んできた光線が、彼の顔面に直撃したからだ。

 

弱点を射貫かれ、電子頭脳がショートしてしまったロボット隊員は、糸の切れたマリオネットのように膝からその場へ崩れ落ち……がしゃん! と一際大きな音を一つ残して、それきりピクリとも動かなくなってしまう。

 

ハッとしたソガが辺りを見渡すと、彼らはいつの間にかぐるりと包囲されており、無数の銃口が四方八方から狙いを定めていた。

 

今のいままで息を潜めて居たのだろう、円盤の影や岩場の暗がりから、次々に青白い顔が幽鬼の如く現れては、一行を取り囲む兵士の輪に加わっていくではないか。

 

「そんな、どうして……気配は全く無かったのに……!」

ハハハハハハ! やはりおまえだったかユーリーせいじん! さぞおどろいただろう

「あ、あなたは……!?」

 

狼狽えるユーリーを嘲笑うかのように、高笑いが辺りへ響き渡ったかと思うと、皆を包囲していた兵士の一部が銃口を跳ね上げ、左右に素早く分かれていく。

 

そうして分厚い人垣の中に出来た一本道を、まるでモーセの如く我が物顔で歩みでてきたのは一人のゴース星人。

 

地球人からしてみれば、衣装や顔の違いは特に分からなかったが、言われずともその明らかに傲慢な立ち振る舞いだけで理解できる。

 

間違いない、彼こそが侵略者の親玉だ。

 

 

おっと、これではちきゅうじんどもにはわからんのだったなフフフ……我が声が聞こえるか? 下賎なるノン(ではない)マルト(戦士)の民よ』

「くっ! こいつ直接脳内に……っ!」

 

ゴース星人が甲高い耳障りな音を発するのを止めた途端、よりいっそう不躾で威丈高な声が、図々しい響きを伴って一行の頭の中でのたうち回った。

 

頭蓋の中で銅鑼を無理矢理打ち鳴らされているような感覚に、顔を顰めて呻く地球人達。

 

一方でその音色には、気を強く持たねば容易く屈服してしまいかねない――血の奥底に刻まれた、敗者としての烙印、つまり本能に直接囁きかけるような――甘美で危険な香りが含まれている。

 

『武器を捨てよ』

「ぐう……!」

『武器を捨てよと言うのが分からんか! このまま纏めて蜂の巣にしてやっても良いのだぞ……!』

「……くそっ!」

 

観念したヒロタ達はウルトラガンやマルスを投げ落とし、その場で膝をつく。

アオキは負傷し、ユーエイトも停止した現状、この人数差では勝ち目が無い。なんとかして逆転の隙を待たねば……

 

平伏す地球人達に満足そうに頷くと、我が子を抱きしめながら怯えるユーリーを見下ろすゴース星人。

 

『一度は逃げ出したにも関わらず、おめおめとここへ帰ってくるとは……つくづく愚かな女よ。もはや用済みの貴様一人、そのまま何処へなりと消えてしまえば、追わずにおいてやったものを』

 

「私がこの子を置いていくものですか!」

 

『ほう。祖を同じくするよしみで、あれこれと世話してやった恩を忘れ、このように仇で返す貴様のような恥知らずが、いまさら母の愛を語るか』

 

「恩ですって!? 最初からウリーを兵器に使うつもりだったくせに! この子は戦いの道具じゃないわ!!」

 

『くくく……これは異な事を。そやつは元より、兵器としてこの世に産み出された単なる道具に過ぎん。見ろ! その身に秘めた圧倒的パワー! 凄まじい超能力! まさしくこの銀河を、破壊と混沌の渦へ叩き込む為にこそ作られた、最強の兵士に相応しい最高傑作ではないか!! その存在意義を否定するなど……なんとも酷な事をするものだなぁ?』

 

「……貴方達の好きにはさせない!」

『ほざけっ!』

 

愛する少年を抱きしめたユーリーは、ゴース星人の首魁を睨みつけ、なんらかの超能力を発揮しようとした。

しかし、敵が足で地面を軽く打ち鳴らしただけで、紫の髪が波打ち、激しい思念波が彼女を飲み込んだ。

 

「ぐうっ!! ……あがっ……」

「ユーリーさん!?」

『彼我の差すら分からずに噛み付いてくるなど、不遜にも程があろう。戦士でもない貴様が、この我に敵うとでも思ったのか? ……しかし、貴様のような弱い術者を頼りにするしかないとは、いっそ憐れみすら覚える。たった一人の感覚を欺くだけで、こちらの存在を丸ごと隠す事が出来るのだからな。そのおかげで、厄介なモロボシ・ダンを、こうして罠に嵌める事が出来たが……ん?』

 

侵略者のボスは、アンヌ達の腕の中で呻きながら、滝のような汗を流す隻腕の男の顔を覗き込むと、非常に不服そうな舌打ちを漏らした。

そして握り拳を振り上げつつ、背後の部下たちを怒鳴りつける。

 

『これはモロボシ・ダンではないっ!! 貴様ら! 単なる地球人に、あれだけしてやられたのか!? この役立たずどもがっ……! 奴隷種族にも劣るとは、なんたる体たらくだっ! 本星に帰還したら覚えておけっ!! こいつめっ! こいつめっ!』

おゆるしを! おゆるしを!

 

部隊の責任者なのだろうか、左右に控える配下を怒りに任せて打擲するゴース星人。

その隙にソガは、敵の配置を見渡しなんとか打開の糸口を探ろうとするが、ほとほと困ってしまう。

包囲陣を抜け出したところで、マグマライザーの周囲には、どうやら見えないバリアが展開されているらしく、帰る事が出来ないからだ。

 

本来であればユートがそれを遠隔で解除する手筈だったのだろうし、実際にそれが正しく行われたのは、アオキがタラップまで辿り着いた事からも明らかである。

 

しかしその直後に、敵がなんらかの妨害工作を働き、バリアが再起動してしまった。

アオキは運悪くその境目に立っていた為に、伸ばした腕が切断されたのだろう……いや、あの口ぶりからはそうして彼を無力化出来るように狙っていたのかもしれない。

 

大方、自分たちが辿り着く前にマグマライザーを見つけられてしまったのだろうが……バリアがあるのにどうやって……

 

「おい! マグマライザーにいったい何をしたんだ!?」

『誰が口を利いて良いと言った!』

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ーっ!」

「ソガ隊員!」

 

ゴース首領の鋭い眼光を受けた途端、激しい頭痛に襲われ、地面をのたうち回るソガ。

ヒロタも、敵が絶対的な隙を晒すまでは、下手な動きが出来ない。

いかに彼がソガと双璧を成す早撃ちの名手と言えど、ひと睨みで如何様にもできる相手が手合いとなると、流石に向こうに軍配が上がる。ましてや、今の得物は取り回しに難がある長物のマルスとくれば尚更だ。

 

『……まあよい、無礼を赦そう。丁度その思い上がりを正してやろうと思っていたところだ。見ろ!』

 

精神波による責め苦から解放されたソガが、首領の指さす先を振り向けば、マグマライザーの分厚い扉が開いて中から人影らしきものが這い出てくるではないか。

それは非常に重重しくぎこちない動きで、ゆっくりとタラップを一段一段降りてきた。ピーピーと耳障りな電子音と共に。

 

「うそ……そんな……」

 

見覚えのあるシルエットに、アンヌがハッと息をのんだ。

驚くべき事に……マグマライザーの中で妨害工作を行っていた者の姿は、彼らのよくよく知っているものだったのだから。

 

「ユート……!」

「ばかなっ! ブリキ野郎がもう一体!?」

「いや違う。あれは……ユートムだ……」

 

ようやく地面に降り立った鈍色の鉄人は、先ほど凶弾に倒れた仲間とほとんどそっくり同じ姿をしていた。

しかしその胸部には、ユーエイトがかつて自慢気に見せびらかしていた真っ赤な警備隊のエンブレムが無く、ただぐるぐると渦巻きめいた、無味乾燥な識別番号が割り振られているのみである。

 

『お前達が我々の機械人形を連れ回している様は、なかなか見物だったぞ。そのように古ぼけた骨董品を、たかだか一体再起動出来たというだけで、あれほど得意げになれるとは、滑稽を通り越してもはや微笑ましくすらある。どうやら愛玩奴隷の才能もあるらしいな?』

「くっ……!」

『だがそれを見る限り、先遣隊の採掘基地を爆破した下手人も貴様達であろう……この薄汚い盗っ人どもめ! 我らが使う予定の拠点が一つ減ってしまったではないかっ!』

「採掘基地……?」

「ハッ……!」

 

訳の分からない言い掛かりで激昂しはじめた宇宙人を、ヒロタやソガは訝しんだが、アンヌにはその内容が分かってしまった。

 

彼が言っているのは……いつだったか薩摩次郎青年を救出に向かった際、障害となった謎の地下施設の事だろう。

つまりゴース星人は一度、はるか昔に地球へ来ており、ユートがこの基地を我が物顔で歩き回る事が出来たのも、彼自身がゴース星人の置き土産だったからに他ならない。

 

それは裏を返せば、彼らもユートの同型機を自由に動かせるという事だ。

 

隠された真実に慄くアンヌの眼前で、敵のユートムは電磁バリアに近寄ると、徐にその宇宙金属製のボディを不可視の壁に押しつけた!

 

すると、境界面と凄まじい火花を散らしながらも、こちら側へその歯車で出来た顔が生える。次に腕が、足が、そして胴が!

なんと驚くべきことに、ユートムは高密度の装甲厚にあかせて、バリアをそのまま突破してしまったのである!

 

もちろん、煤けたボディは金槌で殴られたボンネットの如くへこんだり破れたりして無傷ではない。そう何度も使える手では無いのだろう。しかし一瞬潜るだけでよいのならば、彼らにとってのバリアは致死の壁ではなくなるのだ。

 

『やはり盗掘者に相応しいのは死あるのみ。そうだ良い事を思い付いたぞ。アレをここへ!』

ハッ!

 

首領の言葉に部下達が運んで来たのは……道中で仕掛けてきたMS爆弾である。

 

『目には目を、歯には歯を! 採掘基地の礼だ。貴様らの首と共に、この爆弾を送り返してやるとしよう! こちらから逆侵攻する手間が省けたわ! クク、クク、カハハハハハハ!!』

「まずい……!」

 

ソガ達の顔から血の気が失せた。

仲間の救出に失敗したどころか、敵に基地への侵入路を与えてしまったのだから!

 

『さあ! 処刑の時間だ! 不届き者には罰を! やれ!』

 

首領の後ろから、処刑人達が剥き身の重力サーベルをギラつかせながら歩み出る。

武装解除してしまった彼らでは、生身で立ち向かうしかない。万事休すか!

 

覚悟を決めて、アンヌがごくりと生唾を飲み込んだその時!

 

「アンヌ……アンヌ聞こえるカ」

「えっ?」

「合図をしたラ、目と耳をふさぐんダ。いいね?」

 

誰かが、彼女の耳元でそっと囁いた。

ソガでもヒロタでもない。

だが……どこか優しいその声は、とても懐かしい響きを伴って、アンヌの耳に染み渡る。

彼女が記憶の底から、声の持ち主が誰だったのかを手繰り寄せようと……

 

しねい!

「いまダッ!」

「みんな伏せてっ!」

 

突然地面に蹲るアンヌの姿に、ギョッとしたのはソガだけではない。

今まさに処刑刀を振りかぶったばかりのゴース星人達も、てっきり手榴弾でも投げられたのかと身構えた。

 

しかし、彼らを待っていたのは、爆発音や閃光ではなく……

 

『な、なんだこの音は……?』

……おんがく? どこから?

「これは……クラシックか?」

 

……どこからともなく、ゆったりとしたノスタルジックな音色が聞こえてきた。ピアノとフルートの為に誂えたかの如き協奏曲。

それは聞く者の心に、自然と夕日に沈む街並みを思い起こさせる情緒と優雅さに富んだ素晴らしい曲であったが、このような殺伐とした地下空間で聞くにはあまりにも場違い極まりない代物であった。

 

しかも、突然の事でざわめく者達の心中を嘲笑うかのように、辺りがぼんやりと赤い光に包まれたかと思えば……

 

……ああ、うつくしい……

 

からん、からん……と、そこら中から乾いた音が連続して響き、クラシックに奇妙な二重奏として華を添えた。

 

それは、ゴース星人達が構えた武器を取り落とした音。

ここにいる者達はみな、敵味方の区別無く、突如として戦場を包みこんだ音色に、ただ呆然と聞き入ってしまっていたのだ。

 

『こ、これは……いったい……』

「良い物は、誰が聞いても良いと分かる。そういう事さ。その点、このクラシックというやつは中々に素晴らしい! ワタシのテーマ曲に相応しいとは思わないかね?」

 

何者かが、自分たちの背後から、ゆったりとした歩調で進み出てくるのを、蹲るアンヌは地面から伝わる軽い振動で感じとった。

周囲で何が起こっているのか分からないアンヌの鼻腔を、甘ったるい香りがくすぐる。

 

「ああ、曲の出だしさえ聞かなければ、さほど効力はないはずだ。顔をあげたまえ、お嬢さん」

「……えっ? き、きゃあ!」

 

優しく肩を叩かれて、ようやく瞑っていた目を開けたアンヌは、目の前で夕焼けの如く真っ赤に熟れた顔がこちらを覗き込んでいた為に驚いてしまう。

だが、その異形はアンヌの態度など大して気にも止めず、それどころか彼女の近くにしゃがみ込むと、わさわさとした花弁のような手で、気安く何かを手渡してくるではないか。

 

「特別製の耳栓だ。お仲間に配ってあげるといい」

「あ、あなたは……」

『き、きさま……メトロン星人!! いったい何の真似だ! 我が配下に何をした!』

「お聞きの通り、少々気持ちがささくれ立っていたようだからね。ワタシの作品をプレゼントしただけさ。美しい曲を聞いて、美しい景色を見れば、殺し合おうだなんてそんな野蛮な考え、すぐに捨ててしまうだろう? 少しでも理性のある者ならば、芸術の前ではみな平等なのだよ……まあ少々、地球人の精神に効きやすいよう調整はしてあったがね。まさかキミ達にもここまで通用するとは」

 

後ろ手に腕を組み、自慢気にそう語るのは……かつて地球侵略を目論んだ宇宙人、メトロン星人であった。

 

「争いを止めるのに、暴力を振るう必要はない。ただ、お互いを憎いと思う気持ちを無くしてやればいい。どうだ、良い考えだろう? この分だと、実験は成功だな」

 

『おのれ……聴覚と視覚に働きかけて幻覚作用を引き起こしたな!? なぜ我々の邪魔をする! 貴様も地球人とは敵対していただろう!』

 

「だからといって、キミ達の味方をしなければならないという道理がある訳でもない。それに……不愉快だ」

 

『ふ、不愉快だと!?』

 

幻覚クラシックのせいで、自由に体の動かないゴース首領――彼の部下達のように白痴を晒していないのは、それだけで恐るべき精神力の持ち主だ――の元へ、つかつかと近寄ったメトロン星人は、苦しむ首領の周囲を優雅に歩き回りながら、その姿をしげしげと眺めてこう言った。

 

「キミ達の降伏勧告は見させて貰ったがね……あれは……我々のことをまるきり無視しているじゃないか。別に地球人を奴隷にしようが好きにして構わないが、地上を纏めて吹き飛ばすとは、どういう了見だ? この星に住んでいるのは、別に地球人だけでは無いのだぞ? それを彼らの返答次第で纏めて皆殺しにされては、たまったものでは無い」

 

『だまれ! この星は元より我らの物だ! 貴様は侵略に失敗したのだろう! 今更何を口出しする権利がある!』

 

「権利? 笑わせるね。いったいキミがいつ、地球の権利書にサインしたと言うんだい? 先祖が一旦棄てた土地へ、今更帰ってきたのはそちらの方さ。この星で生活していた長さなら、お前なんかより我々の方がよほど先輩だぞ。まずは菓子折持って挨拶に来たらどうなんだ? まったく、ご近所付き合いってもんが、分かっちゃいないね……」

 

『ご、ご近所!? なにを訳の分からん事を……! ええい、貴様も死刑にしてやる! 侮辱罪だ!』

 

「話の通じない輩はこれだから……マナーの守れない奴は、こっちからも願い下げさ。入居はお断りだよ。自分たちの生活圏にこんなのがいたら、ささやかで幸せな生活というのが台無しだ。……だから、キミには宇宙へ帰ってもらう。……邪魔だからね」

 

メトロン星人がそう言い終わると同時、地下全体を揺るがす衝撃と、続いて何かが破壊される凄まじい騒音が、基地の奧の方から聞こえてくる。

 

「どうやら彼女たちも上手くやったらしいな」

 

『な、なんだ今のは!? 時限爆弾は全て回収したはず……』

 

「いいや? 我々の身の丈では、この基地を破壊するような爆発物は用意出来なかったのでね。ちょっとキミ達のを拝借させて貰ったよ」

 

『ま、まさか……ドリルミサイルを……馬鹿な! アレを起爆すれば貴様らもただでは……!』

 

「よしてくれ。大地震なんて起こされちゃこっちも迷惑だ。だから……信管を抜き取って発射しただけさ、そのまま真下に、ね」

 

『な、なに……っ!?』

 

驚愕するゴース星人の顔を見て、心底愉快で堪らないといった様子のメトロン星人は、腹を抱えて大笑い。

 

「あとは地下のマントルから高熱のマグマが流入して、全てを呑み込んでくれる。この基地はもう終わりさ……ハハハハハハ!!」

 

『ばか……な……』

 

崩れ落ちるゴース首領を尻目に、くるりとこちらを振り向いたメトロン星人は、アンヌによって配られた耳栓をつけ、幻覚から解放されたばかりの一行へ、さも、初めて気が付きました、と言わんばかりのリアクションを取りながら、仰々しく一礼する。

 

「これはこれは! 親愛なる地球人諸君、ご機嫌麗し…………くは、無いようだね」

 

「貴様は確か……メトロン星人?」

 

「いかにも。ああ失礼、今日は名刺を持ってきていないんだ。キミ達なんかと顔合わせする予定じゃなかったものでね。不用意を許してくれたまえ」

 

「聞きたい事は沢山あるが……さっきから続くこの揺れは?」

「彼のお仲間が、ドリルミサイルを逆転させたんですって」

「仲間……? 仲間がいるのか? ドリルミサイルを扱えるような?」

 

「いやあ、うちの女性陣は優秀な工作員なもので。プログラムを書き換えるならまだしも、未設定で発射するだけなら造作もない。ワタシの役目は、彼女らの作業が終わるまでの陽動だったんだが……誰かさん達が大暴れしてくれたおかげで、何もせずとも良くなってしまってね。楽なのはいいが、暇で仕方無かったんだ」

 

「……ひとまず、助かった。ありがとう」

 

「礼を言うならあっちにしてくれ。アイツがどうしてもと言うんでね。そうでもなければ、高みの見物で済ますつもりだったよ。まあ、素直に感謝を受け取るとは思えんが……」

 

メトロン星人が指し示す方を向けば、ユーエイトに何か影法師のようなものが覆い被さっている。

 

「ふぅ……これはまた随分と旧式ダナ。造りが単純なおかげで直せはするガ……正直、博物館に寄贈するほうがいいんじゃないカ?」

 

「すく らっぷ ニ スル ゾ」

 

「恩人に向かっテ、なんという口の利き方ダ」

 

「その声……ダーク……! やっぱりあなた、ダークなのね!」

 

「うわッ!」

 

アンヌが影法師の背中に抱き付くと、彼の纏っていた闇が霧散し、その下から目玉の突き出た黒っぽい外套膜がにゅるりと現れ、大慌てで手足をジタバタさせる。

 

「いきなり何をするンダッ!」

「良かった! ダーク! 心配してたのよ……本当に……会えて良かった……ダーク」

「……マア、なんとかやっているヨ」

「ヒト ノ 上デ アンヌサン ト イチャ ツクナ ブッ 飛バス ゾ」

「もう! そんな意地悪言わないの!」

 

久々の再会に、アンヌは涙ぐみながら、ダークのひんやりとした背中をもう一度強く抱きしめた。

ダークは、まさか彼女が泣くとまでは思わなかったので、皮肉を言うのも忘れ、恥ずかしそうに頬の向こう傷を指で掻きつつ、静かに地面へ視線を落とすしかない。

 

するとその視界へ、黒ずんだ白いブーツの足先が入ってくる。見上げれば、こちらを不思議そうに見つめていたのは……ソガであった。

 

「……やあソガ」

「お前は……ペガッサ星人……」

「どうしたのソガ隊員? ダークよ、忘れちゃったなんて言わないわよね? ……そうか、貴方はこの姿を見るのは初めてだったかしら! これがダークの本当の姿なのよ……」

「いや……彼トハ……ああそうか」

 

ソガとは一度、ダークゾーンを纏わない姿で会った事がある……と言いかけて、ダークはハッと思い直した。

あの時の邂逅は、二人だけ……正確にはダンと三人だけの秘密にしてくれと言ったのだったと。

 

こんな時にも咄嗟に、()()()()()()かのように振る舞えるとは、案外、ソガも嘘が上手くなったらしい。

 

「久しぶりだなソガ、ペガッサの一件以来カ」

「あ、ああ……そうだな」

「……? まあイイ。どうやらこのロボットがキミ達のメカニックなのダロウ? 本当は一緒に連れて帰ってやりたいガ……地球人の前でこうして姿を晒した以上、我々の隠れ家まで教える訳にはいかナイ。理解してクレ」

「大丈夫だ。自分たちの事は、自分たちでなんとかする」

「それは良かったよ! てっきり地球人と一緒に帰る羽目になるかと思って、戦々恐々だったんだ。ああいや、貴方のような美しい方とご一緒するのが嫌な訳ではありませんよ、お嬢さん。誤解のなきよう」

「は、はあ……?」

「オイ ナンパ スルナ」

 

場がうまく纏まりかけたその時……!

 

『このまま帰してなるものかぁ……!! やれぇ!』

 

ゴース首領が腕を一振りすると、先ほどまで惚けたように突っ立っていた敵兵達が、突如として苦しみ出したかと思えば、狂ったように雄叫びをあげて、近くで動くものに襲いかかりはじめた!

 

「……なるほど、配下の理性を奪い去ったか。確かに闘争本能と破壊衝動を増幅すれば、芸術を理解する余地もなくなるが、あれでは獣と同じだ。酷い事をする」

「言ってル場合カ! こっちにも来るゾ」

「ダーク、撃て」

「ウチにある銃は2丁だけダ! 全部彼女らに渡しタ!」

「おっと、まずい」

 

敵の殆どは同士討ちに興じていたが、見境が無いと言う事は、襲う相手や行動に秩序がないという事だ。

そのうちの数人が、運悪くこちらを標的にして、血走った瞳のまま突進してきた!

 

このまま猛り狂う暴力の獣に蹂躙されてしまうのか!?

 

……ギャ!

ゲェッ……!

 

だが、両者の間にある空間が、陽炎のように揺らめいたかと思うと、そこからふた振りの巨大なハサミが脈絡もなくまろび出て、走り込んできた敵を袈裟懸けに引き裂いてしまった!

 

文字通り真っ二つになり、青い血と臓物を撒き散らしながら倒れるゴース星人達。

その時飛び散った青い塗料が、そこに隠れていた恐るべき暗殺者の輪郭を縁取っていく。

 

「ふっふっふっ……弱い! 弱すぎる! このような弱卒ばかり引き連れて、この地球を侵略しようなどと……片腹痛いわァ!!」

 

水泡が弾けるような、シュワシュワという音と共に保護色を解除して、地下の闇の中へ姿を現したのは、黒い甲殻と立派なハサミを備え、格子状の首と真っ赤な胴体を揺する大柄な異星人。

 

なんとそれは……かつてマックス号を乗っ取り、地球防衛軍の破壊を目論んだゴドラ星人なのだった!

 

ゴドラ星人は、そのまま近寄る敵を切り刻み、蹴り倒し、押し潰し、地下空間に響き渡る程に豪快で残忍な高笑いのまま、あっという間に近場の敵を文字通り蹴散らしてしまった。

 

理性を失い、たがの外れたゴース兵達は、リミッターの解除された異常な筋力で襲いかかったにも関わらず、彼女の持つ分厚い甲殻には傷一つ付ける事も出来なかったらしい。

 

そうしてゴドラ星人は、無惨な死体の山から辺りを見渡し、ひとまず立ち向かってくる者が居なくなったと分かると、不満そうなため息を一つ吐き出して、自身の右肩から二の腕にかけてをウットリとハサミでなぞりながら、辺りを憚ることなく恍惚とした声で悶え始めた。

 

「ああ……やはり駄目だ。この身を満足させるオスは未だに現れない……血湧き肉躍る戦いと、総身が灼けるような感覚をくれたのは、後にも先にも貴男一人だけ……おお、待っていて愛しいひと……いつか貴男に相応しい強さのメスになってみせる……だって、こんなに情熱的な愛の証をくれたんですもの……それまでは、こんな弱くてつまらない奴らの相手なんかさせられないわ。貴男に挑戦する栄誉はこの身だけのモノ……」

 

武骨で凶悪な姿からは想像も出来ない程、ねっとりと絡み付くような女の声で語られた内容に、全身の鳥肌が総毛立つ感覚を覚えたソガ達が、彼女の言葉通りにその体を見てみれば、右肩から背中にかけての甲殻が、そこだけボコボコと醜く歪に変形、変色しており、まるでプラスチックを炙った後のような質感を思わせた。

 

人間でいう、火傷のケロイドのようなものだろうか。あれほど強靱な甲殻の鎧に、あそこまで重篤な傷を負わせるには、非常に高い熱量が必要なはずだが……アンヌ達は、そのような攻撃力を持つ存在が、今の地球上にどれだけいるのかを考えようとして……その心当たりが喉まで出かかったところでやめた。

 

自動的に、彼女の言う『愛しいひと』なる者の正体まで分かってしまいそうだったからだ。世の中には知らないままでいた方がよい事実もある。

 

「……む、そんな所にいたのか、黒瓢箪。早く帰り道を用意しろ。この身達は、自分の任務を遂行した。貴様も自分の役目を果たせ。この身が居ないとドロシー達が死ぬかもしれん。彼女らは虚弱だから心配だ……」

「……分かっタ。そう急かすナ。第一、二人が護衛に付いてイルんだから、そっちは過剰戦力だと言っタ筈ダゾ! ……そういう事ダ、アンヌ、ソガ。悪いが仲間を待たせているんでネ。失礼させて貰うヨ」

「う、うん……早くそのバケモ……失礼。戦乙女を連れて帰ってくれ」

「ああ、キリエ。後藤君の誘導ご苦労だった。我々もそろそろ帰還する。コタツの電源を入れておいてくれ。……何? イカルス星人? なあ後藤君! キミ達イカルス星人を捕まえたのか?」

「ああ? うむ、あの耳のデカい髭面の醜男か! 『捕虜の取り扱いは条約に乗っ取って欲しいイカ』とかなんとか軟弱な事を曰ってきたので、ぶちのめしてやったわ! 双子に引き摺らせてあるぞ。全く、一発ぶたれた程度で簡単にノびてしまいおって……これだから弱いオスは!」

「ああうん、キミのパンチを生き延びられた事を褒めてやろうじゃないか。大方ゴース一門の科学奴隷だろう。拾ってしまったのは仕方ない。そいつも連れて行くとして……よし、キリエ。聞こえるかい? 帰ったら出前を取るとしよう。今日はもう疲れた……ん?」

 

引き攣った笑顔で手を振るソガの後ろで、どこかと通信していたメトロン星人が、ふと足元を見ると、そこではヒロタが、マルスで迫り来るゴース星人達を牽制しつつ、こちらを苦々しく睨み付けている。

その背中には、右手を失い痛みに呻くアオキやユーリー親子を庇っていた。

 

「なんだ、宇宙人風情が! 俺は貴様らなんぞに助けてくれと頼んだ覚えなど無い!」

「ああ、別にワタシも地球人なんぞを助けた覚えは無いよ。主治医の頼みを聞いただけだ……ただ……ちょっと失礼するよ。ホラ、さっさと退きたまえ。目障りだ」

「な、何だと!? おい貴様、アオキに触るな……!」

「ええい鬱陶しいな……耳栓を渡すんじゃなかった……」

「大丈夫ですヒロタさん。この人に悪意はありません……」

「おお、素晴らしい判断だ。やはり内面の美しさは外見にも滲み出るものだね、ミセス」

「いや……この顔は……」

 

しゃがみ込んだメトロン星人は、血の気の失せた顔で悶え続けるアオキの鼻先に、ヒラヒラとした手先を近づけると、それを軽く二、三度振って、何かの粉か香りを嗅がせるような仕草をした。

 

するとみるみるアオキの呼吸が穏やかになっていき、もぞもぞと暴れ続けていた彼が、ついにはぐったりと気を失ってしまう。

 

「お、おい! いったい何をしたんだ! やはり貴様ァ!?」

「五月蠅い地球人だ……麻酔を嗅がせてやっただけじゃないか」

「麻酔……?」

「すごい……彼の精神波が安定しました。生命力の消耗も緩やかになったみたい」

「いやなに、これでも体を切り裂かれる痛みだけは知っているつもりだ。この男を見ていると、こっちまで傷が疼いてくる気がするのでね。自分の為にした事さ……」

「……それでも、礼を言わせてくれ、メトロン星人。仲間の苦しみを和らげてくれて……」

「ほう? こっちは中々話が分かるな。アイツが気に入るだけのことはある……」

 

ソガが礼を言うと、そちらにきちんと向き直り、満足そうに顔……? の表面を撫でつけるメトロン星人。

 

その時はじめて、ソガは目の前で大仰にお辞儀をする宇宙人の正中線に沿って、非常に荒々しく乱雑な縫い跡が一直線に走っている事に気付いた。

 

まるで着ぐるみの補修跡の如く痛々しい傷痕を見て、ようやくソガは、眼前の彼が、かつてセブンのアイスラッガーによって真っ二つにされた、あのメトロン星人と同一人物なのでは……と思い至る。

 

その彼がいったいどうして……

訝しげな視線に気付いたのか、メトロン星人はくすくすと上品に笑い……

 

「人は変わる生き物だ。キミ達も、そうだろう? 女心と秋の空……地球人もなかなか上手い事を言う。ワタシの好きな言葉さ」

「……えっ?」

「まあそれに、自分たちの居場所くらいは、自分たちで守らなくては思っただけの事。他の誰かに丸投げしていて、手遅れになってからでは遅い。これでも、この星から見る夕日は中々気に入っていてね。あれが見られなくなるのは、あまりにも惜しい。……いつまでも、あると思うな、徒桜……」

「おい、ロン! 何をもたもたしているんダ! ララが暴走しかけてルゾ!」

「やれやれ、彼女には逆効果だったか。失敗作だなこれは……しかし、なんという凶暴性だ。野蛮人の相手はこれだから困る……ほうら、帰るよー後藤くーん」

「ふぁい、フェロモンらぁ。いいにほひ」

 

なんだか騒がしい宇宙人達は、そうしてペガッサ星人の生み出した暗がりの中へ溶けていった。

 

「あばよ」

「今度こそ死にかけるなヨ!? 二度目はないからナ!」

「ありがとうダーク……また会いましょうね」

「……アア、そうだナ。さようならアンヌ。ダンによろしく言っておいてクレ」

 

最後に、暴れ足りなかったらしいゴドラ星人が、仲間二人から羽交い締めに引き摺られる途中で……地面に座り込むアンヌの姿をジロジロと矯つ眇めつ睨み付けてから……

 

「フッ……」

 

と、何か勝ち誇ったような嘲笑を残していったのが印象的だった。

当のアンヌは意味が分からないといった様子で首を傾げていたが。

 

「あれが……ダークか」

「前に見た時は影法師だったものね。別にあの姿を見て嫌いになったわけじゃないでしょう?」

「いや……アイツはいい友達を持ったなって思ってさ」

「ダンのこと? 変なこと言うのね……貴方達だって友達じゃないの!」

「そうか……そうだな」

 

ソガは曖昧に笑うと、後ろのマグマライザーを振り返る。

あとは地上に戻るだけだ!





本当は次の話と纏めて1話の予定だったけど、間に合わなくなりそうだから二つに分けたぜ……!
このペースだと七夕までに終わらないかもしれねぇ……!

貴方は原作『ウルトラセブン』を観たことが

  • ある
  • ない
  • なかったが、本作をきっかけに視聴した。
  • 他昭和ウルトラシリーズは観ていた
  • 平成ウルトラシリーズは観ていた
  • 令和からだゼェェット!
  • そんなにシンが好きになったのか(完全新規
  • その他(感想欄かDMにでも)
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