転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「ただいま!」
「おかえりなさい、ソガ隊員」
廊下をすれ違いざまに警備の兵士と軽く挨拶を交わす。
「パトロールご苦労様です」
「そちらも基地巡回、ご苦労さん」
ビシっと敬礼しながら俺を出迎える防衛隊員のみなさんは、ほぼ全員が尊敬の眼差しでこちらを見てくる。
そう、相手が誰であれ、朗らかな空気を崩さず、気さくでフレンドリー
それがソガ隊員だ。
パトロール等の割り振られた任務をこなし、合同訓練でも精鋭たるウルトラ警備隊に恥じぬ成績を維持し、こと射撃演習ではトップ。
あれから数週間だが、この
それもこれも、全てはこのソガ隊員の肉体が持つ抜群のスペックによるもの。
この広い広い防衛軍極東基地を、端から端までジョギングしても息一つ上がらないとか、前世では決して味わえなかった経験だ。
射撃なんて目を瞑っても当たるんじゃないかと思うくらい楽勝だし、ホークなんかの操縦も頭に叩き込んである。
いやほんと、本人の記憶と能力を引き継げてるのが一番ありがたいね。
そして今日のパトロールは終了、この後は待ちに待った非番。
……何するかって? そんなの決まってる!
基地内部の自室にたどり着いたら、そのままソファへダイブ!!!!
そして腹の底から絞り出すように一言!
「つらい……」
とてもつらい
頭脳と肉体は人類の中でも最高峰に近いものをお渡しされている自覚はある、が……
元一般人にいきなり軍隊生活とか、いやーキツイっす。
というか、朝が早すぎて辛い。こちとら三度の飯より寝るのが好きだったのに、5時起床て。
幸い、生活習慣も肉体準拠のようだから、そこまで眠いとかじゃないんだけどね、心がね、眠いんよ。
訓練とパトロールの繰り返しも、なかなかやばい、そろそろボロが出そうで戦々恐々としている。
だが、俺のせいでソガ隊員の勤務評価が下がるのは激しくマズイ。
これまでに分かった事だがどうやら、まだウルトラ警備隊のメンバーは俺=ソガを含めて5人。
モロボシ・ダンのダの字も見当たらない。
つまり、ウルトラセブン本編開始前ということなんだが……本編開始前で既に心が折れそうなんだわ。
マン兄さんの前にお出しされた並みいる角持ち怪獣達の如くボッキボキなんだわ。
そしてなにより……
そんなことを考えながら微睡んでいると、唐突に部屋のコールチャイムが鳴る。いったい誰だ?
「ソガ、私だ。まだ起きているか」
「ハッ! ……少々お待ちください」
おっと! まさかのキリヤマ隊長自らのご訪問とは……バレたか?
なぜだ!? オレの擬態は完璧だったはず!? なぜバレた!?
慌ててドアロックを解除すると、キリヤマ隊長がにこやかに立っていた。
よかった、まだウルトラガンで撃ち抜かれたり査問会にかけられるわけではなさそうだ。
「すまんな、パトロール明けに」
「いえ、滅相もない。しかし、どういったご用件で?」
「いやなに最近、射撃場でおまえを見かけないものだから、どうかしたのかと思ってな」
しまったああああああああああああああああ
そういえば
この数週間、スケジュール通りの任務はきちんとこなしていたが、それ以外の自由時間は部屋に籠りっきりだったわ。
げに恐ろしきは隊長の観察眼よ、よく見てるんすね~上司の鑑か~?
やっぱり絶対この人、途中でダンの正体気付いてるわ。だって最終回でアンヌから衝撃の真実告げられても、「体調悪いなら言ってくれれば……」とかそっち気にしてるもん。
それならそれでダンの不調にも気付いてやってください。お願いします。
「いえ、そのスランプという奴でして……」
「……」
「……腕は鈍っていません、大丈夫です!」
「怖くなったか」
「……」
我々の間に沈黙が落ちる。
「この前の戦いでハイドランジャーが擱座してから、お前の様子がおかしいとは思っていた」
「……」
「海底で酸素がなくなっていく孤独と焦燥は、分かるつもりだ。……俺も小惑星帯で似たようなことがあった。あの恐怖は経験した者にしかわからん」
「……」
「……そしてそれを恥ずかしいとも、俺は思わん」
「……ッ!?」
隊長はどうやら、海底での恐怖体験が俺の人格を変えてしまったと推測しているようだが、少し違う。
厳密には違うが、それほど間違っていない。
確かに怖い。それは紛れもなく俺の本心だ。
だって、本編が始まったら、侵略者や怪獣とドンパチやらなきゃなんねぇんだぜ……?
「俺も戦いが始まる度に恐ろしい。お前たち部下が死ぬかもしれない。状況によっては、部下を殺す命令をしなくてはならないかもしれない。そして、その恐怖も、俺は
「それは……」
「だが、だからこそ私のような者が、隊長をやる意味なのだと、そう信じている」
「意味……?」
「真に恐ろしいのは、この地球を守り切れなかったときだ。私なら、その恐怖を天秤にかけて、お前たちに命令できる」
隊長、そんな事を……
やはり、この人は尊敬できる隊長だ。
「除隊しろ、などとは言わん。お前なら、警備隊に選ばれた意味を、見つけてくれると信じているぞ」
隊長はそういうと俺の腕を力強く叩き、去っていく。
こういう、本編外でも、部下の精神面に気を配ってたんですね、隊長。
しかし、俺がここにいる意味……か……
それは俺も疑問なんだよな、明らかにソガ隊員本人よりもスペックダウンなんだし、原作知識でどうこうしようにも、俺がセブンなわけじゃないから
先回りして侵略を阻止しようなんてしても、絶対に死ぬ。
正直なところ、できる事が限られすぎてるんだよな……ま、限られてるからこそ、より訓練で磨きをかけておくのが大事なのかもしれんが……
隊長はその事を俺に気付かせてくれたのだと思おう。
予定を変更して、射撃場へと向かう事にすると、メディカルセンターから出てきたアンヌとばったりと出くわす。
「あら、ソガ隊員。……そんなに難しい顔をしてどうしたの?」
「うん……」
「禁煙しすぎて、調子が出ないんじゃない?」
「え、禁煙?」
「違うの? 前に私が肺に悪いわって言ったから、気にしてくれてるのかと思ったんだけど……」
……そうか、そういえば、ソガ隊員は喫煙者だったが、オレは違う。
しまった、気付かないところで既にボロが出ている!!
「あ、ああ、持久走でフルハシ先輩に勝つにはここで差を付けるかと思ってね」
「いいと思うわ。でも我慢のし過ぎはかえって体に毒よ?」
「気を付けるよ」
ふむ、こんなにかわいいアンヌに、こうして直に心配して貰えるというのは、役得だ。
それだけでも転生した価値があったかもしれない。
ただ、今日も彼女の髪型はセミロングだ。
やっぱりアンヌはショートの時が一番似合うと思うから、早く別の髪型にしてくれないかな……
とそんなどうでもいい事を考えていたら、ソガ隊員としての俺の記憶が微かな違和感を捉えた。
そういえば……彼女が入隊してからの約2年間、髪型が変わっているのを見たことが無い……!!
ずっとこの、本編初期のセミロングだったぞ……!?
アンヌといえば髪型がコロコロ変わることで有名なヒロインだったハズなのに……
……まさか!! この女!?
そうだとすれば辻褄が合うが、なんていじらしいんだアンヌ……
結局、その気持ちが報われる事はなかったけれども、と寂しさを覚えた所で、オレに電流走る!!
そうか、俺がアンヌとダンをくっつけてやればいいんじゃないか……?
というかもしかして、
見つけた、見つけたよ隊長!! 俺がこのウルトラ警備隊にいる意味って奴をさ!!