転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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狙えない街(Ⅱ)

「それにしても、なんだって急に北川町なんだ? そりゃあ、パトロール先は任意とはいえ……珍しく推すじゃないか」

「知っていますか先輩、この街にはね、アンヌの甥っ子が住んでるんですよ」

「そりゃ本当かい! 知らなかったなあ……ははん、分かったぞ。お前の事だ、ポインターを見せてやろってか」

「彼の運が良ければね……」

「まったく、子供好きな奴だ」

「それに北川町は工場が多くて治安も悪い。そこでこのポインターで巡回すれば」

「血の気の多い奴も大人しくなる。なるほど、考えてんだなァ」

「駅前でいったん停めてください」

 

決心した次の日は、なんの因果かフルハシ隊員との組み合わせだった。

彼は誤魔化しが効きやすくて助かる。

この為にポインターのダッシュボードに仕込みも万全。

 

「コーヒーとタバコ、買ってきますよ。」

「おお、ありがと」

「メビウスでいいですか?」

「……ハァ? 何が?」

「……あ、マイセンか!」

「……何言ってんのか、さっぱりだ。おかしな奴め、早くコレ買ってこい!」

「はぁ……」

 

折角こっちから振ってあげたのに、なんで通じないんだ。

俺にはフルハシの好きな銘柄は分からん。

もういいや同じパッケージので。

 

「はいタバコ、お釣りですよ」

「サンキュ、ここで一服してこうや」

「ええ!? 僕、禁煙中なんですよ?」

「だからさ、可哀そうな後輩に、煙の臭いを嗅がせてやろうってんじゃないか」

「余計に吸いたくなって辛いですよ……指令室に帰ってからゆっくり吸えばいいじゃないですか、我慢してくださいよ」

「つってもこれから運転なんだぞ?」

「それならダッシュボードに残ってるのを、吸いきってからにしてください、チラチラ見えて、我慢が効かないんですよ」

「あ、本当だ。こりゃ面目ない」

 

こんな狭い車内で二人っきりなのに、よりによってこの人に発狂されたら、どう足掻いても死ぬ。俺が。

だから、ここで買ったタバコを、人がいっぱいいる指令室まで温存する必要があったんですね。

 

ようし、指令室までは順調だ。

胸ポケットから煙草を取り出すフルハシ隊員から目を離さず……

 

「ソガ、北川町で暴力事件があったそうだが、出くわさなかったか?」

「え? あ、ハイ隊長!」

「そうか、お前たちの方では特に変わった様子は見られんかったか……」

「ハイ特に異常は……あッ!」

 

しまった!

ちょっと目を離した隙に、よりによってダンがコーヒーをフルハシに渡そうとしている!!

そのフルハシはというと、もう完全に目が据わっているではないか!

おいバカ、やめろ!

 

「さ、どうぞ」

「ダン! 危ない!」

「どおりゃあああああああ!!!」

 

フルハシが雄叫びとともに立ち上がり、自分の座っていた椅子を、無防備なダン目掛けて振り下ろす!

咄嗟に割って入り、ダンを突き飛ばす事には成功するが、振り下ろされた椅子は俺の右腕に命中!! いったぁーい! 

今、人体からしちゃいけない音がしたね。

……あ、コレだめかも。

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~↑!!!」

「ソガ!?」

「フルハシ隊員! 気でも狂ったんですか!!」

「うわあああああくぁwせdrftgyふじこlp!!」

「やめないか!」

 

机の上の物を滅茶滅茶に弾き飛ばしながら、暴れまわるフルハシ。

通信員が五人がかりで一斉に押さえ込みにかかるが、奇声をあげるとそれを苦も無く弾き飛ばしてしまう。

 

「ダン、俺はいい! 先輩をッ……ア゙ア゙ッ!」

「フルハシさん!」

「フルハシ! やめないか!」

「Ugyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaooooooooooooo‼‼‼」

 

ダンが羽交い絞めにしたフルハシの顔面に、キリヤマ隊長が渾身の右フックを叩き込む! 僅かに怯んだ隙を見て、今度は7人がかりで机に押し付ける。

その頭を、アマギが少し離れたところから、丸めた図面でおっかなびっくり叩いているのを、俺は床で悶えながらただ見上げていた。

お前、俺が暴れた時は真っ先に飛び掛かってくるくせに……というかそれ……やたらいい音するけど、ホントに紙製……?

 

「フルハシ! どうしたんだ!!」

「アイェエエエエエエエエエエエエエエエ……ハッ、うーん」

「フルハシさん!?」

 

叫び声がパッタリ止むと、今度は急に意識を失い、糸の切れた人形のようにバッタリ倒れこんでしまった。

 

「おかしなやつだ……」

「ソガ隊員! 大丈夫ですか!」

「ア゙ア゙~↑!!」

「おい揺らすな、こりゃあ折れてるんじゃないか? ……お前も骨折くらいで泣くんじゃないよ」

「まるでキチガイ病院だ……アンヌ、すぐに来てくれ」

「うう……フルハシ隊員、一体どうして……タバコに火をつけたと思ったら急に暴れるなんて……いてえ、いてえよぉ~」

「タバコ……? これか」

 

キリヤマが見つけた吸い殻を、ダンが拾い上げ、嗅ぐ。

 

「……くさい」

「そりゃあ、タバコなんだから臭いのは当たり前だろ」

「いや……違う」

 

ダンがそのタバコを灰皿の上でねじると、灰や葉っぱに交じって、赤い結晶体のようなものが落ちる。

 

「コレですよ!」

「アマギ、これを化学班に回せ」

「ハイ!」

「ソガ隊員、このタバコをどこで手に入れたんです!」

「北川町の……駅前の、自販機だよ……イッ! アンヌ、もう少し優しく……」

「我慢して、早撃ちが泣くわよ」

 

もう泣いてんだよ!

 

「何者かが、毒タバコを使って、我々ウルトラ警備隊に攻撃を仕掛けてきたということか」

「フルハシ隊員とソガ隊員を狙うなんて……」

「優秀な隊員を一気に二名も戦闘不能にするとは、恐ろしい手練れだ」

 

あ、ごめん。半分は俺のミスなんです。

もうちょっとうまくいくはずだったんです……

隠れ家を見つけてアパートごと爆撃して……でもまさかこんな事になるなんて……

なんかもう……いいや……腕痛すぎて、どうでもいい。

マジで痛い。

すまんみんな、あとはまかせた。

……いやマジで許さんからな、ちゃぶ台野郎!




ハイ、タイマーストップ
残念ながら、狙われた街RTA完走ならず。

次回はほぼ原作通りですが、メトロンとの会話シーンは大幅に変わります。
ソガがめちゃくちゃにしてしまったので……

原作では、発狂時のフルハシは、タバコを吸ったライフル魔に足を撃たれて松葉杖をついています。
つまり踏ん張りの利かない状態でダンに松葉杖に殴りかかっているわけですが。

今回はソガが張り切って、タバコ作戦が開始されたほぼ初日に事を起こしてしまったため、冒頭の事件が発生せず、フルハシは万全、松葉杖もなく、凶器は椅子に、そして食らうのは頑丈なダンではなく、地球人スペックのソガ……

あえなく骨折からの退場となってしまいました。

救済ルートによる代償を支払う形となってしまいましたね。
アンヌのおじさん見殺しルートは、ソガが負傷せず、ダンとアンヌの急接近というメリットがありました。

まあ、あの二人はこのイベントが無くても、ほっときゃくっつきますので、ご安心を。

八話において〇〇〇の〇〇〇〇は?


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