転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
「地球は我々人間のものだ! 侵略者は出ていけ!」
『ほざけ! なんの力も持たぬ弱者共が! 纏めて皆殺しにしてくれるわっ! やれぃ、ネオパンドン!!』
「「ザバンギ! 今こそ、そなたの力をみせるのです!」」
「お願いミクラスーっ! あともう少しだけ踏ん張ってーっ!」
雄叫びをあげながら、敵に向かって猛然と走り込む怪獣達。
双頭の巨獣と、二頭の戦士が激突する。
ミクラスが激しく消耗しているとはいえ、数ではこちらの方が上だ。それも両者共に尋常ならざる膂力を持つ腕自慢。
だというのに!
「……互角かっ!?」
「なんてやつだっ!」
「進化したパンドンの戦闘力は、怪獣二体分にも匹敵するのか……」
『いいや……違うなぁ!!』
眼下でがっしりと組み合う怪獣達の様子に、ホークの中で慄く警備隊メンバー。
しかしアマギが漏らした呟きに呼応するかのように、パンドンは長い二つの首をくねらせると、上空を旋回する3機のウルトラホークに火球を撃ち出す余裕を見せつけた!
そして無数に撃ち出された火球の一つが、ガンマ号の巨大な翼を掠める!
「うわっ!」
「フルハシ! アマギ!」
「だ、大丈夫です! ですが2番エンジンをやられました!」
「これ以上は持ちません……不時着します!」
ガンマ号は黒煙を吹き上げて高度を下げていくが、フルハシの腕ならば不時着に失敗することもないだろう。
しかし、これで警備隊は戦力の三分の一を失ってしまった。
「これじゃ迂闊に近寄れないぞ!」
「しかし我々が離れれば、あの首が今度はミクラス達を狙う事になる!」
「しかし、東京はどうするキリヤマ!」
「……やむを得ん! 部隊を分けるしかあるまい! アルファ号の加速力なら間に合う筈だ! 行ってくれ、クラタ!」
「馬鹿野郎! ただでさえ今の状態で相手になってないんだぞ! ガンマ号が落ちたってのに、俺が抜けてどうにかなるもんか! お前が向こうを立て直してこい!」
「……くっ! すまん、みんな! あとは……!」
歯噛みして、操縦桿を握りしめるキリヤマ隊長。
苦渋を飲み込み、任せたぞ……と離脱しようとした彼の耳に、いつか海底で聞いたあの声が響く。
《それには及びません、キリヤマ隊長》
「なにっ、どういう事です、ヤオ代表!」
ヤオがその疑問に答えるよりも早く、通信機からは焦ったタケナカ参謀が再びの催促をよこしてくるではないか。
『キリヤマ隊長! どうした! 応答せよ! 私からもグビラの背ビレが視認出来た! 猛スピードで湾港に突っ込んで来る! 参謀本部の防御能力でもいつまで持つか分からない!』
ビデオシーバーの画面をチラリと見れば、タケナカは既にウルトラガンを構えて港に立っている。
かくなる上はと、最前線で陣頭指揮をとっているのだ。
東京沿岸には地球防衛軍の参謀本部がある。
彼らが抜かれてしまえば、指揮系統を怪獣に踏み荒らされ、上空でなんとか拮抗している円盤迎撃も、一瞬で瓦解してしまうだろう。
そんな中、野外指揮所で隊員の張り上げた大声が、通信に割り込んできた。
『参謀! グビラの後方より新たな反応が接近!』
『上空の戦闘機より、海中に巨大な影が……さらにふたつ見えると!!』
『なにっ!? ……ここに来てダメ押しか……』
舞い込んだ凶報に、画面上のタケナカは顔を歪ませた。
ただでさえ怪獣一体の襲撃に、蜂の巣を突いたような騒ぎであるのに、三体同時上陸など防ぎきれる筈が無い。
せっかくかき集めた残存部隊でも、時間稼ぎすら出来ぬうちに一瞬で踏み潰されてしまうだろう。
『ウルトラ警備隊……すまない……君達の健闘を祈る』
「参謀っ!」
しかし! 突如として噴き上がる巨大な水柱!
海中で何か巨大な質量同士が凄まじい勢いで衝突したのだ。
やがて海面を突き破り現れたのは、硬質で鋭い角を持ち、熱帯魚の如く毒毒しい模様の鱗に身を包んだ、巨大怪魚!
だが、のたうつグビラの両隣から、新たにふたつの大きな影が立ち上がり、海水を滴らせながら、怪魚の行く手を阻んでいるではないか!
『うわっ!? ……なんだあれはっ……!』
「参謀! タケナカ参謀! いったいどうなさったのです!」
『わ、わからん……海藻の化け物と、大ダコのような姿の怪獣が……いきなりグビラと戦いを始めた!! 何が起こっているんだ……!!』
誰もが急変した状況に驚く中、アンヌの隣に立つノンマルトの巫女、ヤオの妹であるヒメが冷静に告げる。
「アンヌ、仲間に伝えていただけますか? 彼らは味方です。ご安心めされよ、と」
「えっ? 味方? ……つまり、新しく現れた怪獣というのは……ノンマルトの……?」
ゆっくりと頷くヒメ。
「ええ、タッコングとザザーン。どちらもガイロスのように我らノンマルトの友です。……そして、2匹だけではありません」
「えっ?」
―――――――――
東京上空では、突如飛来したゴース星人の円盤群と、防衛軍のパイロット達の間で熾烈な空中戦が繰り広げられていた。
迎撃に参加しているのは極東基地や参謀本部から緊急発進したウルトラガードだけでなく、F-4戦闘機を始め、各駐屯地から駆け付けた数々の航空機が入り乱れ、挙げ句の果てには退役寸前のF-104といった旧式機の姿まで見受けられる。
文字通り、日本全国から掻き集めた、残存部隊による総力戦なのだ。
「こちら302飛行隊! 遅くなった! 加勢する!」
「ありがたい! だがF-4じゃあ分が悪いぞ!」
「誰か! 204のカバーに入ってくれ! こっちは手が空きそうも無い!」
「無茶言うな! こちらも精一杯なんだ!」
「海から怪獣が来てるんだ! 地上部隊が踏み潰されちまう!」
眼下で逃げ惑う市民を守るために、最大速度で駆け付けたパイロットは皆、防衛軍の精鋭ばかりだが、なんと言っても機体の性能差が段違いである。
なにせゴース星人の円盤は、あのウルトラホークとですら互角の勝負が出来る程の難敵だ。
ましてや、ここでの主力であるウルトラガードは、攻撃性能や防御力ではホークに一段劣る。
機動力だけならば、さほど遜色がない為に、なんとか戦いになってはいるが、流石に敵の数が多すぎた。
物量差を埋める為に、通常の航空機まで駆り出したものの、あくまで補助戦力でしかない彼らの機体では、ありとあらゆる面で大きく水をあけられてしまっている。
ただでさえ敵は三次元機動で重力や慣性の楔から解き放たれた動きをしてくるのだ。ここでは航空機同士のドッグファイトで培われた常識や勘が一切通用しない。
一進一退の攻防戦の中で1機、また1機と脱落してゆく戦闘機たち。
そんな中で、一際大きな飛行物体が護衛の円盤を引き連れて降下してくるではないか。
「305飛行隊より本部! 形状の違う敵を発見! 箱状で、速力は低いが他の円盤より二回りも大きい!」
『こちらでも確認した! それは恐らく敵の輸送艦だっ! ウルトラ警備隊の報告では、怪獣すら運ぶ能力があるらしい!』
「なんだとっ!? 怪獣!?」
パンドンキャリアーと同系列と思しき兵器の登場で、俄に浮き足立つ防衛軍。
迎撃戦の指揮を執るマナベ参謀が、額に汗を浮かべつつ戟を飛ばす。
『件のパンドンが入っているにしては機体のサイズが小さい! だが、地上戦力の揚陸を狙っているやもしれん! 爆撃用に改修している可能性もあるっ! なんとしても撃墜せよっ!』
「りょ、了解!!」
「誰か! あの揚陸艇を落とせる者はいないかっ!」
「こっちはダメだっ! 完全にマークされてるっ!」
「なんて過保護なエスコートだ! よっぽど落とされたくないらしい!」
「こちらの爆撃艇はまだ発進できないのかっ!?」
『君らを上げるのに精一杯だったんだ! 進路妨害だけでも出来ないか!? 爆撃艇が行くまで時間を稼いでくれ!』
「無茶言いなさんな!」
「11番機! ケツにつかれてるぞ!」
ウルトラガード達がなんとか接近を試みるも、即座に敵の護衛機が牽制に動き、近寄る事すら出来ない。
本部上空はもうすぐそこだ。
そんな時、大型機の下方から急激に上昇する機体がある。細長い胴に小さな翼の独特なシルエット。
ウルトラガードが護衛円盤を引きつけた一瞬の隙を突き、僚機を囮にしたF-104が、投影面積の少なさを活かしてレーダーの死角から奇襲を仕掛けたのだ。
「おい! そこの三菱鉛筆! そんな古臭い機体で無茶するな!」
「うるさいっ! 15年前、俺の先輩達はな……コイツであのヒトツ目野郎共の円盤と刺し違えたんだっ! VTOLなんかなくたって、弾さえ当たりゃあ墜とせるって事を……今度こそ証明してやるっ!」
機体下部のハードポイントがキラリと煌めき、サイドワインダーが一直線!
目標艦の下方を警戒していた戦闘円盤のど真ん中へ、毒蛇の牙が突き刺さり、敵を真っ赤な花弁に変える。
その爆炎を突っ切って進んだ栄光の有人機は、抱え込んだバルカン砲を標的にありったけ叩き込みながら、堅牢な鉄箱に迫っていく。
「うおおおっ……! 食らえっ!」
そしてすれ違い様に、鈍亀の土手っ腹にトス爆撃をお見舞いして宙返り!
空中で下方から爆撃されるという非常識な事態に、流石のゴース星人といえども対処できなかったらしい。
「ハッハー! 人様の家で、そんなデカい面して飛んでるからだ! これに懲りたらとっと宇宙に帰り……やが……れ……」
だが、爆風の中から無傷の輸送艦が現れるのを見て、古参パイロットは絶句した。
その時はじめて、ウルトラ警備隊が撃墜出来なかったという事が、どういう事かを心の底から理解したのだ。
「嘘、だろ……」
彼我の戦力に差がありすぎる。
腕前どうこうの話じゃない。
「アマノ二佐……アンタらもこんな気持ちだったのかい……?」
フッと気力が抜けたのか。
そして、視界の横からヌッと出て来た攻撃円盤と、キャノピーごしに目があった。
「しまっ……!」
パイロットが死を覚悟して目を細めた……その瞬間!
何か細長くてしなやかな物体が、両者の間にするりと滑り込んだかと思うと、その勢いのまま、鞭のようにしならせた先端部分で、円盤を思いっきり弾き飛ばしたのである!
「な、なんだ!?」
「うわっ! なんだアレはっ! また新手かっ!」
「だ、誰か! 俺の機体の周りを何かが飛んでるんだっ! いったい何が見えるか教えてくれっ!」
「……もうダメだ、俺は頭がイカレちまったらしい。先に行くぜ戦友……」
『なんだ! 何が起きてるんだ! 報告せよっ!』
「り、龍だ……龍が飛んでいる……!」
『なにっ、龍だと!?』
月明かりに照らし出されたその姿は、まさしく龍であった。
絵巻物から飛び出してきたかと見紛う程に、立派な髭と角を生やした龍が、鱗に包まれた長大な体をくねらせて、戦闘機と円盤の入り乱れる戦場の中を縦横無尽に飛び回っている。
龍は、防衛軍機の間を器用にすり抜けると、牙の並んだ口をパカリと開き、そこから大量の稲妻を吐きだして、ゴース円盤を次々に撃墜していくではないか。
そして丸裸になった揚陸艇に猛然と突撃したかと思えば、しなやかな体をぐるぐると巻き付けて、渾身の力で締め上げた!
あれほどに堅牢な装甲が、轟音と共にまるでボール紙のように容易くひしゃげていき、やがてバラバラになった機体からは、大量の戦車や機械化兵器と思しき物体が空中へ放り出されて落ちていく。
そして、無惨な姿となった鉄塊を放り出した龍は、眼前で起きた事象に困惑する防衛軍機の周りを旋回しながら、それらを守るように追従してくるではないか。
「あの龍は……味方だ! 敵の輸送艦をぶっ壊してくれたぞ!」
「そんなバカなっ!」
「俺は夢でも見ているのか……?」
突如として現れた謎の存在に、敵も味方もひたすら混乱する中、通信機からハスキーな女性の声が響く。
『こちらウルトラ警備隊のアンヌ隊員より。東京で戦闘中の部隊へ! 新たに現れた三体の怪獣は、味方です! 誤射に注意してください!』
「こちら参謀本部直轄のキシダ! その情報は確かなのか、アンヌ隊員!?」
『はい、彼らはノンマルトが使役しています! 海底人のヤオ代表達が向かわせてくれたんです! タッコングとザザーン、カイリュウの三体がいるはずです!』
「リーダー! 確かに海岸でも二体の怪獣が、グビラと戦闘を行っているのが見えます!」
「海底人……実在したのか……!」
「海軍のやつらの与太話だと思ってたぞ……」
「よし、各機! 大海龍を中心に、編隊を組み直すぞ! 我に続け!」
「了解!」
―――――――――
アンヌがビデオシーバーに向かって情報を伝え終えると、ヤオが振り向き静かに頷く。
「地上人はかつて、我々だけでは倒せなかったボスタングを、鉄と火の力で滅しました。貴方がたはそうと知らなかったでしょうが、結果的に我らの都は守られた。……だから、今度は私達がその恩を返す番です」
「地上人の都は、我らノンマルトが守ります。だから私達を信じなさい、アンヌ」
「ヤオさん、ヒメさん。ありがとう……でも……」
アンヌの表情が僅かに曇る。
ノンマルトは長らく争いをしてこなかった。
だからこそ、不安を隠せないのだろう。
「安心して下さいアンヌさん。怪龍は、私達が幼い頃よりずっと一緒に育った友です。まさに一心同体。例えこのように離れていても、あの子とは心で繋がっています。空の上で私達に敵う者などおりません」
「ザザーンも確かに普段は大人しく気が小さいが、今のように海が汚れて力が弱まる前は、暴れ者のタッコングすら慴伏させる実力者だったの。そして、今のように汚れきった水の中でこそ、タッコングは真の力を発揮する」
「両者が力を合わせれば、グビラ一匹押し留めるくらいはできましょう。もとより、あの怪獣もまた、我らと共にあったのですから」
「……そうだったのですか!?」
驚くアンヌに、コクリと頷くノンマルトの双子。
「ですが、彼を従えていた氏族はもういません……ヒメ、グビラの様子はどうかしら」
「駄目。やはり、かの氏族のようにはいかない。皆もなんとか頑張ってくれてはいるが……こればかりは。グビラの声が聞こえないと言っている」
「そう……残念だけれど、倒すしかないようね」
「大丈夫だ姉上。ノンマルトはもう、何も出来ず、泣いてばかりの弱い存在ではない!」
ヒメが拳を握り、そう言い放った時だ。
「うぐっ!」
「ヤオさん!」
「姉上っ!」
苦悶に顔を歪ませたヤオが、胸を押さえて蹲る。
アンヌとヒメが駆け寄るも、それを手で制すヤオ。
額に脂汗を滲ませつつ振り返ると、ザバンギとミクラスがパンドンに殴り倒されている所であった。
「ザバンギを……押し返すなんて……」
「有り得ない、我らの守護神を腕力で捻じ伏せた!?」
「ヒメさん! どうしてヤオさんが苦しんでいるのっ? もしかして、あの怪獣が圧されているのと関係があるんじゃ……」
「……先程言った通り。我らは怪獣の言葉を聞き、心を通わせ、文字通り一心同体となる事で、その強大な力を借りる。裏を返せば、怪獣の痛みは我らの痛み。ザバンギが傷つけば、そこに力を注ぐ姉上の生命もまた、等しく失われていくことになる……!」
「そんなっ!」
血相を変えるアンヌなど目に入らないという様子で、ヤオを抱き抱えるヒメ。
「やはりザバンギを姉上一人で覚醒させるのは負担が大きすぎる! 私も肩代わりを……!」
「いいえヒメ。あなたは怪龍やザザーン達に専念するのです。あなたがこちらまで引き受けたら、氏族の力を彼らに注ぐ者がいなくなってしまう!」
「ヤオさん……」
震える足を叱咤して、再び立ち上がるヤオ。
彼女の意思に応えるかのように、ザバンギはゆっくりと身を起こし、パンドンに向かって大きく吼える。
『ガオォオン!』
『ギャアアーッ!!』
『GRAAAA!!』
双頭怪獣が、それぞれの嘴から大量の火球を吐き出す!
対する二体の守護獣も、それに負けじと火炎を噴き出し、炎の渦で敵の攻撃を相殺していく!
まるで、火炎放射はこちらが上だと誇示するかのような、両者一歩も引かない火球同士のぶつかり合い!
巨獣達の意地と誇りが渦を巻き、夜の帳を真っ赤に染め上げる!
「わたしはあの時……ソガ隊員に、誓ったのです! この残された命は全て、ノンマルトと地上人の未来の為に捧げるのだと! あの方達があそこで戦い続ける限り、わたしが一人逃げる事は許されない! わたしには……そうすべき責任がある! ……それがわたしの……夕顔の約束!」
「……姉上」
「だから……あなたが我らの守り神だと言うのなら、今度こそ! 応えて!! ザバンギーっ!!」
『……ガオオオォーーッ!!』
ザバンギの胸に刻まれた文字が、一際明るく脈動した。
すると瞬く間に彼の吐き出す炎の勢いが増していき、パンドンの火球を押し返してゆく!
『なにっ……バカな!?』
『……ギャッ!?』
そして遂に、火球の出所……つまりパンドンの右首へ到達したザバンギの炎は、そのまま一挙に膨張し、凄まじい爆発を引き起こして、空間ごとそれを跡形もなく吹き飛ばしたのである!
「や、やった!」
「残りは片方の首だけだ!」
『……ふふふふふ』
しかし、パンドンの肉体がまたしても妖しく明滅する。
全身から陽炎のように立ち昇ったエネルギーが、失ったはずの首の根元へ集まっていくと、そこから逆回しのように肉が生えていくではないか……!
「く、首も再生するのかっ……!」
『ハハハハハハ! 言っただろう! もはや我らは生物の枠組みすらも超越したと! 故にネオパンドン! これぞ不滅の力だぁー!!』
「届かなかっ……た……」
「あんなもの、どうやって倒せばいいの……!?」
「……いや! 諦めるな、みんな!」
「ソガッ……!」
挫けそうな皆の心を、彼の言葉が震いたたせる!
「大丈夫だっ! ネオパンドンも生き物さ! 必ず死ぬ! 敵のハッタリに騙されるなっ!」
「で、でも……現に今、首だって再生したわっ!」
「ああ! 確かに生命力は凄まじいな! でも今のは……死んで無かっただろう!?」
「……そうかっ! 首か! 片方の首が無事な限り、パンドン自体が死んだ訳では無い! 例え致命傷を負ったとしても、どちらかの首が生きてさえいれば、奴にとっては単なる擦り傷に過ぎないと言う事だなっ!?」
「その通りです! 隊長! つまり奴を倒すには……」
「「両方の首を同時に殺すしかないっ!」」
『ふん……それが分かったところで何になると言うのだ?』
「いいかゴース星人! お前に相棒からの伝言を教えてやるぜ……なんでも『血が出るなら殺せるはずだ』だとよっ!」
『世迷い言をっ!』
突っ込んできたミクラスを片手で受け止め、ザバンギの尻尾を掴んで振り回す大立ち回りを見せるネオパンドン。
『ふふふ……ザバンギとか言ったか。多少はパワーがあるようだが、所詮は辺境の雑魚怪獣……キサマの強さの源は……あれだなっ!?』
再生したばかりの右首が、ぎろりと怪獣達の後方を睨みつける。
その視線の先には……アンヌと乙姫達!
「やらせるかっ!」
「アンヌ! 狙われているぞ! 二人を連れて逃げろ!」
「二人とも! こっちよ!」
「だ、だめ……です……今動けば……」
「姉上!」
見ればザバンギとミクラスがパンドンをなんとか押し留めている。
ヤオが念を送るのを止めれば、拮抗が崩れ、どちらにせよ踏み潰されてしまうのだ。
「ここはわたしが食い止めます……二人だけでも……!」
しかしその為に目を閉じ集中するヤオは息も絶え絶えで、歩くどころか立っているのもやっとという有様だった。とても逃げながらザバンギを操る事は出来ない……
そんな巫女の体が、突然にヒョイと浮き上がり、枯れ枝のような軽やかさで宙を舞う。
「きゃっ!」
「なぁに言ってんだ! そういうのはな、男の仕事だぜっ! べっぴんさん!」
「フルハシ隊員!」
「おう! 待たせたな!」
にっと笑った益荒男が、丸太の如き剛腕で巫女の体を担ぎ上げ、なんの苦も無く走りだす。
「地上人! 姉上を荷物のように扱うでない! この無礼者!」
「おいおい勘弁してくれ、こんな時にお姫様だっこなんかしてられっか……よ!」
「う、うわあ! 何をするのです! 離しなさい! この野蛮人めっ! 妾に触るなっ! 降ろせ!」
「ハハハ! なんせアンタも担がなきゃなんねぇんだからよっ! 妹の方は随分じゃじゃ馬だなぁ……まるでナツコみてえだ」
「もう少しデリカシーとか無いの? ナツさんに嫌われないか心配よ」
「へっ、そんなもんはソガの奴にでも注文してくれ!」
「あっちにも無いわよ!」
「おっと! アンヌはダン以外は眼中に無いんだった! こりゃ失敬」
「フルハシ隊員! ……どうして袋叩きにされているんです? はやくこちらへ! 援護します!」
乙女達に背中をぽかぽか殴られながら、ガハハと走るフルハシ隊員を、エレクトロガンを構えたアマギが手招きする。
『ばかめ、逃げられると思ったか……?』
「ああ! 逃がすね!」
追撃の為に首を伸ばしたパンドンの顔に、ホークのミサイルが命中する。
煩わしそうに鎌首を擡げて、上空を睨みつけるネオパンドンだが、そうして戦場を睥睨すると、途端に嘴を打ち鳴らして下品に笑い始めるではないか。
魂だけとなり、能面のようだった肉体から解放されて、ゴース星人は初めて口を吊り上げるという行為を行った。
戦場に響く念話からは、腹に渦巻く邪悪さを隠しもしない悍ましい響きが感じられる。彼の機嫌は今、最高潮に達しているのだから。
『ギャハハハハハ! 忘れていまいか? 愚かな地球人ども』
「なんだと……? 何をする気だ!」
『……こうするのだっ!』
そしてパンドンは、二体の怪獣と押し合いながら一歩も動けぬ自分に代わって、もう一体の傀儡にある事実を教えてやったのだ。
『何をしているタイプ=ヌル! そこにお前の母親がいるぞ! そうしてまた奪われるのか!』
『はっ!?』
その声に反応して振り返ったウリンガの目には、男達に連れ去られている母の姿が映った。
彼が最も愛して止まない、大切なただひとりの人。
『……ママ!?』
『デュ!? ……いかん!』
その瞬間、ウリンガの頭から憎悪も怒りも全て消え失せ、ただひとりの幼児に戻った。
彼の視界には、つい今し方戦っていたウルトラセブンの姿すら映っておらず、敵を放り出して全速力でそちらに向かって走りだしたのである。
ただ、彼は愛する母に抱きしめて貰いたかっただけ。
だが、そのたった一つの願望に支配され、ありとあらゆる事が抜け落ちた彼の思考からは、自身の体が現在、どれほど巨大になっているかという事実すらも忘れ去られていただけだ。
『ガオオオォ!?』
『GRaa!?』
巫女の元へ巨人が襲いかかるのを見て、ザバンギは咄嗟にその行く手を阻むために飛び出した。
当然だ。狙われているのは彼の大切な海の子らなのだ。守護獣はウリンガの素性も知らなければ、その目的を察する材料もない。
深海の如き鋭い冷気を放つ、刺刺しい邪悪な鎧を纏った戦士をがっしりと羽交い締めにし、暴れる巨大な子供を無事に押さえこんだ。
だが。
『かかったな、バカめ!』
さっきまで左半身を拘束していたザバンギが離れた事により、自由になった腕でミクラスの横面を思い切り殴り飛ばすと、ネオパンドンを邪魔するものは、もはや何者もいなくなった!
二股にのたうつ首が、荒れ地をひた走る地球人達に狙いを定め、嘴に特大の炎が凝縮されていく……
『――アンヌ! 危ない! ジュワッ!』
「ダン!」
もはや阻止が間に合わないと悟り、射線上へ飛び込んだ銀の巨人は、大切な者達の上に覆い被さり、その身を盾として擲った。
四つの瞳が妖しく輝き、無防備な赤い背中を嘲笑う。
『地球人諸共、劫火に沈め! ウルトラセブン!』
「ダァーーーン!!」
刹那!
『GAPYOOOOOOOOOOOSU!!』
爆炎と閃光が巻き起こり、夜空を黄金の虹が切り裂いた!
『なにっ!』
「あれはっ!」
低音と高音が、複雑に混じり合う奇妙な二重奏。
背後から聞こえた咆哮にパンドンが首を回せば、そこには太古の昔より蘇った偉大な巨亀が、金色の輝きを背負って大口を開けていた!
「パゴスッ!?」
口髭を蓄えた顎の中では、既に金の粒子が激しく渦を巻き、解き放たれる瞬間を今か今かと待っている!
それを見た瞬間、ネオパンドンの全身を戦慄が駆け巡った!
彼は本能の奥底で理解したのだ、あの金の螺旋が秘めた破壊力は、自らを殺し得る致命の一撃であると!
パゴスの分子構造破壊光線の前では、物理的な防御力など一切が意味を成さない。
ウルトニウムコーティングも、再生力も、その暴力的な螺旋が全て穿ち抜いてしまうのだ!
……しかし、それは撃たれてしまえば、の話である!
『見誤ったな、鈍亀が!』
パンドンは素早くその場を飛び退ると、今まさに放つ直前まで熱量を臨界させていた、禍禍しい偽りの日輪を吐き出した!
強力な攻撃は、それを放つまでの溜めが生じる。
攻撃動作の直前だったパンドンと、出現したばかりのパゴスでは、エネルギーチャージに絶対の差があったのだ!
膨大な熱量で地面を抉りながら突き進む双頭擊炎弾。
通過した場所では、あまりの高温に融解した岩石が、ガラス状に輝いている程の必殺攻撃!
いかなる怪獣も、当たれば塵も残さぬ葬送の劫火!
その巨大火球はパゴス目掛けて一直線に突き進み……
――かかりおったな! 阿呆が!
命中の瞬間、黄金の閃光が迸り、渦巻く光の中へ巨亀の姿が掻き消える。
『な、なにっ!?』
背後の崖にぶち当たり弾け飛んだ火炎弾は、結果的に誰の命も奪わなかった。
これぞパゴス一世一代の大勝負!
原子力怪獣であるパゴスは非常に燃費が悪い。
もはやカプセルのエネルギー残量では、顕現しても僅か数秒すら保たない事を理解していたパゴスは、あえて出現せず布石として、カプセルの中で時が来るのを虎視眈々と待っていたのだ!
そして、待ちに待った致命の瞬間に、敵の機先を制すたった一度の虚仮威しをお見舞いしてやったのである!
これぞ数万年を生きる古代怪獣の老獪さ!
パゴスが雄叫び一つで稼ぎ出した僅かな隙こそ、まさに必殺の0.4秒!
黄金の虹に残響する鳴き声は、古狸の勝ち鬨だっ!
『……GAPYOOOOOOOOOOOSU!!』
「4匹目は貴方だったのね、パゴス。……あの時も助けてくれて、ありがとう」
アンヌは、手元に戻ってきた金色のカプセルに感謝の念を送ると、顔を上げてミクラスに最後の指示を出す。
「今よ! ミクラスーー!」
「ザバンギ! パンドンをっ!!」
大技を放った隙を晒し、呆然と立ち尽くすパンドンを、二体の豪傑が挟み撃ち。
ミクラスの巨大な巻き角が、真っ赤に糜爛した揚げ物のような肌を、フォークのように突き刺した。
ザバンギの鋭いかぎ爪が、ナイフのように手羽先を切り落とす!
『ギャーッ! ギャーッ!』
自らの放った劫火で喉が灼けてしまったパンドンは、両腕を失い、再生するまで反撃手段を失った!
「今だっ! クラタッ!」
「行くぞキリヤマっ!」
倒せ、火を吐く大怪獣!
「合わせろ、ソガ!」
「ヒロターッ! スペシウム弾頭弾……!」
ウルトラホークで――
「「アタック!!」」
V字に切り込んだ二つの翼が、のたうつ首を撃ち落とす!
たった二発きりの試作弾の威力は目覚ましいものだった。
原子番号133番の元素が引き起こす激しい反作用が、物質の持つ原子核を瞬時にスパークさせ、暴れ狂った陰と陽の電価が猛烈な爆発を産んだ!
火星で採取された、希少な鉱物を含む砂を、試験的に弾頭へ搭載しただけでこの威力!
人類にはまだ精製すら出来ない代物で、今はこうしてぶつけるだけが関の山だが、いずれは武器以外の用途にも使える日がくるかもしれない。
その時こそ、地球が外宇宙へ飛び立つ時代の幕開けなのだ!
そのためには、こんなところで立ち止まるわけにはいかないのである!
人類の希望と叡智が詰まった特殊弾によって、頭部を同時に失ったパンドンは、自らが死んだ事にすら気付かぬ様子で2、3歩とその場でたたらを踏んだ。
たがさしもの生命力も、それを司る頭脳がなければ、そこで終わりである。
やがて、肉体の理解が追い付いたのか、思い出したかのようにその場へドウッと倒れ込んだ。
「……やった? やったぞ……勝った!」
「勝った! 俺たちは勝ったんだ! 史上最大の侵略打ち破ったんだ!」
「もはやゴース星人はいない! ダン! ウリンガを早く!」
『分かりました! 隊長! デュワッ!』
ネオパンドンが死んだ事により、そこに憑依していた怨念が霧散してしまったのか、呆然と立ち尽くすウリンガに向かって、セブンがウルトラ念力を使用した。
するとたちまちウリンガの体が空中で1回転すると、そのまま地面へと叩き付けられる。
ウルトラ念力の遠当てだっ!
「よしっ! 着陸してアンヌ達を回収するぞ!」
「何て骨のある怪獣だ、もう弾薬も燃料もすっからかんだぞ」
「ふぅ……あともう少し粘られていたらどうなっていたことやら」
「新兵器があって助かった……アマギ、素晴らしい功績だぞ」
「いえ……それはソガに言ってやって下さい。私は、彼の考えたアイデアに従っただけですから」
「……そうだっけ?」
「まさか忘れたとは言わせないぞ!」
ホークから降りてきた四人と、地上で待っていた面々が笑顔で健闘を称え合う。
「ありがとう、ヤオ代表……あなたがたノンマルトの救援がなければ……感謝します」
「いえ、キリヤマ隊長? わたし達は自らの責務を果たしたに過ぎません……これでようやく……わたしは地球人だと、胸を張って言える……」
「ヤオ……さん」
「ソガ隊員……」
ヤオとソガが意味深な目配せをする横で、キリヤマ隊長が頭上を振り返る。
「ダン! 我々は補給を済ませて東京の防衛に行かねばならない! 君は……どうする!?」
『隊長……わたしは……』
ウルトラセブンは今一度、地上でこちらを仰ぎ見る仲間たちの顔を一人ずつ目に焼き付けてから、自身の守った美しい大地と満天の星空を見比べた。
そして、傍で倒れているウリンガの元にゆっくりと歩み寄ってしゃがみ込むと、気絶した彼の手をとり、そのまま助け起こそうと……
灰色の鎧からニョキリと突き出た大きな目玉が、眼柄ごと、こちらをギョロリと睨みつけた。
『デュワッ!?』
「ハッ! ダン!?」
「な、なんだ! 何が起きている!」
「見て! ウリンガの鎧が……溶けていくわ!」
「いや、あれは……違う! ダンの腕を取り込もうとしているんだ!」
「本当だ! 二の腕にへばりついて……ありゃあまるで……生き物だ!」
「生きてる! あの鎧は生きてるんだっ!」
「そんなバカなっ!?」
『デュワァッ……!』
ウリンガの鎧がドロリと液状化したかと思えば、セブンの腕を伝って、徐々に徐々にその体を這い上がっていくではないか!
鈍色の粘液のようになった鎧の背中からは、脱皮でもするかのように、気を失って脱力した巨人がズルリと排出されてくる。
その巨人は、赤と青が斑に混ざり合った体に、所々銀色のパーツを貼り付けたような姿をしており、その顔面はやや吊り上がった凶悪な目付きをしていたものの、どことなくセブンの面影を感じなくも無い。
おそらくあれが、鎧を纏わないウリンガ本来の姿なのだろう。
つまり、着用者たるウリンガが気絶している中で、その鎧だけが、まるで意思でも持ったかの如く、一人でに動き出しているのだ!
「意思を持つ生きた鎧だと!? そんなバカな話があるもんかっ!」
「しかし、現にそうなっているではないか! こ、攻撃! ダンを助けなくては!」
各人がウルトラガンやエレクトロガンで射撃を試みるも、鎧は全く意に介さずセブンの体を這い回り、粘度の増した灰色の物体を触手のように張り巡らせていく。
それどころか、真っ赤な体を半分ほど覆い尽くしたところで、鎧全体が脈動し、何かのシルエットを形作っていくではないか!
なんと驚くべき事にその影は、ウルトラ警備隊にとって見覚えのある姿に近付いていく。
マントのように張り出した外殻、のっぺりとした鼻先から触角の如く伸びた目柄の先で、ギョロりと忙しなく動く二つの目玉。分厚い唇からギラギラと覗く不揃いな歯
忘れもしない。そう、あれは――
「ガ、ガンダー!? あれはガンダーではないか!」
『カ゜カ゜ロロrrrrrrrrrrrrrrrr!!』
なんと! セブンの半身を取り込んだ鎧から生えてきたのは、あの恐るべきガンダーの上半身!
「そ、そうか! あれは金属の鎧じゃない! ウリンガにガンダーを寄生させて、鎧の代わりにしていただけなんだっ!?」
「なにぃ!? 寄生だと!」
「ガンダーは氷で出来た軟体動物だ! 体の形も自由自在に変えられる!」
「よくもそんな気色の悪い実験が出来たもんだなっ!?」
「ウルトラセブンのクローン計画自体が、まさに悪趣味の極地ですよっ! 開発チームの倫理観なんて底が知れてます! 彼らならやりかねないっ! ガンダーめ、宿主が意識を失ったから、より元気のある方へ寄生先を変えようとしている!」
「そ、それってつまり……」
「このままだと、ダンが第二のウリンガになってしまう!」
「全員! ホークへ急げ! 早くあれをダンから引き剥がさねばっ!」
皆が慌てて踵を返そうとした時だ。
上空から、赤黒い衝撃波のようなものが降り注ぐと、駐機してあったアルファ号とベータ号を粉々に破壊してしまう!
「あっ! ホークが……!」
「どこから攻撃されたんだ!?」
「み、みろ! あれはなんだ!」
ヒロタの指差す先には、何か巨大な物体が降下してくるのが見える。
それは黄金の輝きを放つ、大きな環のようであった。
それと同時に、辺りに響く邪悪な笑い声。
『ふふふはははははははは……!!』
「……ばかな、ばかな、ばかな!」
「ゴース星人は倒したのではなかったのか!?」
藻掻くセブンを取り込もうと暴れるガンダーから、群青のオーラが立ち上り、あのなんとも耳障りな嘲笑が聞こえてくる。
『言ったはずだ! ゴースの恨みは不滅! 貴様ら地球人を皆殺しにするまでは、止まりはしないとな! ウルトラセブンを我が肉体とし、その手で貴様らを血祭りにあげてくれる!』
「やつめ……なんて往生際の悪い奴だ! 吐き気がするぜ!」
「あの思念体は、どうやら他者の肉体を乗っ取る事で、その存在を維持し続ける事が出来るようです!」
「なんですって! 本当ですか! ヤオ代表!」
「今は、あのガンダーという怪獣に乗り移っていますが、例えガンダーを倒しても、周囲に生きた存在がいる限り、その中を巡り続けて延々に存在し続けるでしょう……」
「そんな存在……どうやって倒せばいいの!?」
「それは後にしろ! 今はダンを助ける事が先決だ! アンヌ、ヤオ代表! ミクラスとザバンギでガンダーを引き剥がして下さい! 各員は敵の急所を狙え! 怯ませて拘束を緩めさせるんだ!」
「や、やってみます!」
『おおっと! 貴様らの相手はコイツだ! 出でよ! クラッシュホーン!』
ザバンギがセブンに向かおうとした瞬間、空から先ほどホークを破壊した攻撃が飛んできて、出鼻を挫いてしまう。
それはどうやら、宙に浮かんだ金色の円環の中心から発生しているようだ。
やがて輪っかが地表付近まで降下すると、輪の中心から見える向こう側の景色に、びしりと不吉なヒビが入るではないか。
「そ、空が割れた!」
「ま、まさか……!」
パリンと硝子の割れるように、輪の中の空間が粉々に砕け散り、その中から巨大な鋭い角のようなものが生えてくる。
「あ、あれは……怪獣……!?」
「あの装置はいったい……」
『平伏せ! 地球人共よ! これぞ次元門発生装置だ!』
「じ、次元門……だと!?」
装置の中から這い出てきたのは異形の怪獣。
巨大な二足歩行の爬虫類めいた姿だが、一際異彩を放つのは、その背中から前方に向かって生えた二振りの巨大な角だ!
もはや体の半分を占めているといっても過言ではない巨大な角は茶色い瑪瑙の如き質感を花っており、湾曲したそれの描く弧の美しさは、ある種の芸術作品めいた印象すらも与えるだろう。
「あの角は……ゴモラザウルス?」
「知っているのか、アマギ隊員!?」
「いや、姿が違いすぎる……」
「あれじゃあまるで、南米のカブトムシか何かだぞ……!」
「なんだ、相棒? ブラックエンド……? なんだそりゃあ? 違う? 結局分からないのか! お前さんの知識とやらも、案外役に立たんな」
「どうしたソガ! お前は知っているのか!?」
「いえ、自分にもさっぱり……」
「なんでい、今日もソガが役立たずの日か……」
「……悪かったよ、相棒」
突如現れた怪獣に闘争心を掻き立てられたのか、ミクラスが角を振り立て突進するも、体長の倍ほどもある長大な敵の角に絡め取られ、容易くヒョイと放り投げられてしまう。
『GRaaa……』
「それ以上はダメ! 戻りなさい! ミクラス!」
アンヌが手を翳せば、目を回したミクラスの周囲を光が渦巻き、真っ赤なカプセルとして帰還する。
「ごめんなさい、無理をさせちゃったわね。今までありがとう。後はアタシ達に任せて!」
「任せてって……どうするんだ!?」
「ザバンギ! セブンを……」
ヤオが、セブン救出のために守護神を向かわせようとしたのだが、謎の怪獣がせり出した角の間にエネルギーを集中させると、まるで電極同士で発生するアーク放電のように光が迸り、赤黒い衝撃波となってザバンギの巨体を木の葉のように吹き飛ばしてしまう。
「あっ! 超振動波だ!」
「なに、超振動波!?」
「マグマライザーに使用されている技術です! つまりあの怪獣の光線は、岩盤すらも粉砕する威力があると言う事になります!」
「近付いてもダメ、離れてもダメ! 隙なしじゃねえか!」
『当然だ! クラッシュホーンは別の時空から呼び寄せた怪獣なのだ。貴様ら地球人が操るような雑魚怪獣では相手にもならん!』
「別の時空からだって!?」
ゴース星人の声に狼狽えるアマギ。
『そうだ! その装置は次元の壁に穴を開け、異なる宇宙を繋ぐゲートとすることが出来る!』
「そんな事が……あっ!!」
ソガの脳裏に、地下で出会った姦しい隣人達が、撤退の直前に言い残していった会話が思い起こされる。
――キミ達イカルス星人を捕まえたのか?――
「そうか、イカルス星人の四次元空間操作技術! その為に……!」
『この宇宙ではどうやら、地上から怪獣を一掃する事に成功したようだが……別の宇宙では……どうだ?』
「ハッ! 見ろ! 次元門の向こう側をっ!」
何かに気付いたキリヤマが、皆の注意を促した。
なんと、クラッシュホーンと呼ばれた怪獣が出て来た後の次元門の向こうには、まだまだ沢山の影が蠢いているではないか!
「あれは……レッドキング!?」
「バカなっ! スカイドンじゃないか!」
「え、エレキングの野郎までいるぞ! ダンが倒したはずだったよなぁ!?」
「……くっ、ケロニアめッ!」
続々とゲートをくぐって現れる怪獣達、そしてクラタはその最後尾に、ある怪獣がいるのを見つけて、思わず歯噛みした。
「おい、あれは……ネロンガだぞ。パリにいた筈のヤツがどうしてここに……!」
「そうか、異なる次元を繋ぐという事は、時間や距離の離れた地点も自由に繋ぐ事が出来るという事です……!」
「各国に怪獣を送り込めたカラクリは、ああいう事だったわけだな」
「奴らは、過去からいくらでも怪獣を呼び出せるのか……」
「俺たちの装備じゃ、あんな数の怪獣を一度に相手なんて、できません! 撤退しましょう!」
「撤退って……どうやって逃げるってんだよ、ヒロタ!」
「それは……」
もはやウルトラホークは無い。ウルトラ警備隊に残されたのは、ウルトラガンと数挺の手持ち武器だけだ。
例え一匹倒したところで、次々と投入される物量にいずれはすり潰されてしまうだろう。
『グハハハハ! ゆけい、クラッシュホーン! 破滅の角笛よ! 全てを灰燼と化せ!! ハハハ、ハハハハハハ!!』
大角に、凄まじい量のエネルギーが集まっていく……
『や、めろ……』
「ダァン!」
「これまでか……!」
その時!
極太の眩い閃光が、上空から帯のように降り注ぎ、クラッシュホーンの角をへし折った!
『―――ッ!?』
声にならない悲鳴を上げて、後ろに倒れ込む巨獣。
『な、なんだ!?』
「今のは……ワイドショット……!?」
「そんなはずは……だって、ダンは今もガンダーと戦って……」
地球人が振り返ると、西の空に、沈みゆく月明かりが煌めく中、一つの光が宇宙から降りてくる。
それは、燃え上がる太陽のように真っ赤な体へ、流星の如き銀の輝きを宿す、星の戦士の姿をしていた。
「……セブンが……二人?」
『バカな……何者だっ!』
ゴース星人の誰何を無視して、ふわりと地面に降り立った宇宙人は、藻掻く同胞に向き合い厳しい声を投げかけた。
『その顔はなんだ、その声はなんだ、その様は! ……立て、340号! ……いや、ウルトラセブン!』
「知らん怪獣出て来た……こわ」
と、ソガのように困惑した読者の方へ。
クラッシュホーン
ウルトラマンやセブン、そして多くの怪獣のデザインを産み出した、芸術家でもある成田氏の作品。
海洋堂の依頼で特別に描き下ろした怪獣であり、ガレージキットなどでしか商品化されていない。
もちろん、映像作品としてはどのシリーズにも登場しておらず、なんならウルトラ怪獣ですらない。
つまり、M78スペースに存在しない怪獣であり、まさしく別次元から呼び出した特別な怪獣。
絵やデザイン上の存在であり、設定すら存在しないので
、いったいどういう怪獣なのか、ソガどころか作者すら知らない。
知るのは生みの親である成田氏のみである。
貴方は原作『ウルトラセブン』を観たことが
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ある
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ない
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なかったが、本作をきっかけに視聴した。
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他昭和ウルトラシリーズは観ていた
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平成ウルトラシリーズは観ていた
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令和からだゼェェット!
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そんなにシンが好きになったのか(完全新規
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その他(感想欄かDMにでも)