転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
同じくこちらも最終回とできれば良かったのですが、あともう少しかかります。
なので、奮発したら普段の倍近い文字数になってしまいました!
――時は数分ほど遡る。
……深い、深い、地の底にて。
ソガ達がネオパンドンを撃破した頃。
すぐ直後に目を覚ましたガンダネスアーマーが、セブンを取り込まんと蠢動し始めるのを、ソレはじっと聞いていた。
『ザザ……! ――ダ……!?』
『――何が起き――ザザ――る!』
『見ザ……ウリン――鎧がザザ……溶け――わ!」
冷たく重い岩盤の下から漏れる、雑音混じりの通信。
元々ここにはゴース星人の前線基地があったのだが、逆転したドリルミサイルによって地殻変動を誘発され、完全に崩壊してしまった……その単なる跡地でしかない。
いまこの場所には、人間の入り込めるような空間などなく、殆どが土砂と瓦礫によって埋め尽くされてしまっている。
そんな、およそ人がいるはずのない場所でいくら声がしようと、それを聞く者など本来居ないはずなのだが、その途切れ途切れの内容に注意深く耳を傾ける者がいた。
ソレは、試作型歩行哨戒機UT-009『U-8』、あるいは……『ユート』と呼ばれ仲間から親しまれていた、一体のロボット……だったモノである。
だった……というのは、彼がもはやただの残骸でしかなく、完膚なきまでに破壊され尽くしてしまっているからに他ならない。
彼の自慢だったぴかぴかのボディは、基地の崩落と共に岩盤で揉みくちゃにされてしまい、今や見るも無惨な姿に変わり果てていた。
機能の90%以上を喪失しながらも、まだ僅かに稼働し続けられているのは、幸運にも彼の傍ではより大きなボディ……マグマライザーの車体が転がっていた為に、それが柱となって、岩盤との間に僅かな隙間を作っていたからに他ならない。
そうでなければ、いくら彼のチルソナイト装甲といえど、大地の重みに勝つ事など出来ず、そのままぺちゃんこに押し潰されてしまっていたであろう。
とはいえ、いくら完全に沈黙してはいないとは言っても、それだけだ。
手足を失い、胴体はガッチリと岩の間に挟み込まれており、身動きひとつ取れやしない。
あとはサブ燃料であるウルトニウム鉱石の熱量が尽きるか、あるいは染み出した地下水によって回路が完全にショートするのをじっと待つばかりである。
『――れは……違……ザ……ダンの――取り込もザザ……して――んだ!』
『……腕にへばりつい……ありゃ――るで……生き物――ザザ』
フルハシの銅鑼声は、不明瞭な通信越しでもよく分かる。
彼は時として、ユーエイトからすればあまりにも理解力に乏しく見え、その数々の言動には、知能指数が隊員の必要基準を本当に満たしているのか、疑問を呈さざる得ないこと甚だしい――現に今でもユーエイトは、他の様々な要因から鑑みて、彼がネアンデルタール人の生き残りなのではないかと疑っている――のだが不思議と、この男の事がそれほど嫌いではない。
それはきっと、彼に恩があるからだ。
ユーエイトが目を覚ました初期も初期の頃、細いコードや小さな段差に躓いて、基地の廊下を不様に転がっている時、それを助け起こすのはもっぱら彼の役目であった。
ユーエイトのチルソナイト装甲は、それこそバリアを無理矢理突き破れる程に高密度だが、その代償として呆れるくらいに重く、ひとたび倒れれば、助け起こすのも並の隊員では数人がかりの大作業。
そんな特別名誉隊員――フルハシ曰く「とろくさい」「ブリキ野郎」――が、廊下でランプをチカチカさせながら警報を鳴らして困っていると、いつも決まってこの男が、どこからともなくジャッキを抱えて走ってきては、ぶつくさ文句を言いながらもサッと素早く抱き起こしてくれたのである。
何度も、何度も。
その後、幾度かのアップデートとチューニングを繰り返し、転んだまま一人で起き上がれないという事態はすっかりなくなったものの、ユーエイトはその時の彼の行動がずっと疑問だった。
だから人工声帯を手に入れた時、真っ先にフルハシへ質問したのも、その事だった。
――あんなにも文句を言うくらい不満ならば、なぜ何度も助けたのか? 本機を起こす事は、別に貴方の職務に含まれてはいない。
「なんでだって? そりゃあおめぇ……この基地を守ってもらった恩義があるからよ。あの時、俺たちがノビちまってる間、お前さんが代わりにボーグ星人をとっちめてくれなかったら、今頃ここは焼け野原だからなぁ……というかまさか、俺の愚痴を全部覚えてんじゃねえだろな? そんな昔の事、さっさと忘れてくれよぉ! お前が聞いてるなんて、こっちは思っちゃいなかったんだからさ……おいやめろ、再生すんじゃねえ!」
ユーエイトはこの時に、『恩義』の概念を理解したのだ。
『生き……ザ――あの鎧……生きてザザ!』
『撃て! ダンをザ――助けザだ!』
キリヤマ隊長が、珍しく焦っている。
それでも、そのよく通る声で部下への指示を忘れない辺りが彼らしい。
キリヤマ隊長の指示はいつだって簡潔で的確だった。
それこそフルハシやソガなどが「アレとってきて」だの「あとは適当にしとけ」だの、挙げ句の果てには「負けるな」「頑張れ」だの……非常に抽象的かつ不明瞭な指示ばかり寄越すなか、隊長の指示だけは常に、対象範囲や時間を指定し、具体的な内容の命令を下してくれる。
彼にとって、まさしく理想の指揮官であった。
まだユーエイトが定型文すら発する事が出来ない頃、彼を整備中のアマギ隊員とキリヤマ隊長の会話を傍らで聞いていた事がある。
「それにしても隊長、いくら戦果を挙げたからって、よく稼働許可を出してくれましたね」
「元より私は、再防御計画でこのロボットを使う事に対して、そこまで反対の立場だったわけじゃない。ただ費用対効果が明らかでなかった為に、ダンの反対意見を押し切ってまで採用する程では無いと判断しただけだ。こうして地球の防衛に役立つのであれば、私は部下が例え人間でなくとも気にはせんよ」
「しかし、彼が我々の代わりにホークで戦えるわけではありません。出来るのはせいぜい基地の巡回だけです」
「それこそ望むところだ。我々が外で飛び回っている間、このロボットが留守を預かってくれるのであれば、これほど頼もしい事もない。現に、人間の目を欺くような侵入者を発見し、それを追跡する能力があると実証された。その一点において、この基地では誰よりもエキスパートだろう。ダンが二人いるようなものだ。これで心置きなく彼を出撃させる事が出来る」
「そういうものでしょうか……」
「第一、空では時として非合理的な判断をせねばならん時もある。それが最も合理的であると分かるのは、我々が人間ゆえだからだ。だが、基地の巡回においてその柔軟さはむしろ不必要。適材適所、それを考えるのが私の責任というものさ。それに……」
「それに?」
「好き放題させておいたとして、電子頭脳の弾き出した答えがそうそう規則を違える事もあるまい。彼が判断した事ならば、きっと正しい事なのだ。誰かさんのように、次から次へと私の仕事を増やす部下ばかりでは流石に参ってしまうよ。たまには監督せずとも、自動で黙々と職務を消化してくれる部下が欲しいと思っていたところさ」
「ハハハ! そういう話ならば、ある意味ソガより優秀かもしれませんね、コイツは」
「だからキミには期待しているよ、ユート君? これからも皆の生命と安全をしっかり守ってくれたまえ! ん? ハハハ!」
肩パーツへ、朗らかに乗せられた手の重量を、ユーエイトは未だに記録している。
今ならあれは、自分へ向けてのものでは無く、あくまでアマギに対する冗談だったと理解出来ただろう。
だが確かに、あの時はじめて、ユーエイトは己に課せられた『使命』の重さと……『誇り』の在処をインプットしたのだ。
いつも冷静沈着。
そんな隊長がここまで狼狽えるなど、事態はよほど逼迫しているに違いない。
『そ――か! あ――金属の鎧ザザない! ウザザガにガンダーを寄生させ……鎧ザザしていた――ザザだっ!?』
アマギ隊員が、なにやら敵の秘密を看破したらしい。
彼はいつも明晰で、正確だ。
アマギ隊員が述べた見解ならば、ユーエイトとて疑問を差し挟む余地はない。
なにせ、自身にこの肉体と頭脳、そして知識を授けてくれたのも、また彼なのだから。
ユーエイトがウルトラ警備隊所属のユートとなる前……彼は、ゴース星人の祖先が奴隷達にウルトニウムを採掘させる為に作り上げた、基地管理システム『U-TOM』の統括する歩行型インターフェース……その数あるうちの一体でしかなかった。
ただマザーコンピュータの発令する指示に従って、定められたルートを巡回し、脱走者や侵入者がいないか見張るだけの仕事を延々と繰り返すのみ。
そこになんの感慨もなければ、意義も無い。
インターフェースはプロトコルに従う以外の思考を持ち得なかったからだ。
だがある日、地上から突然やってきた侵入者が、彼を一度ぶち壊すと、空っぽの頭に別の星の人工知能を詰め込んで、新たな生と使命を与えてくれたのである。
……それがソガとアンヌ、そして、アマギ隊員だった。
それからの毎日はユーエイトにとって、今まででは考えもつかないほどに意義と活気で満ち溢れたものになる。
なにせ、はじめて自分自身の『思考』を手に入れたのだから!
なんと素晴らしい事だろう!
どうやら人間は、神という非現実存在を妄想したり、あるいは時として自らをそう称する事すらあるらしいが、ユーエイトはそのあまりにも荒唐無稽な行為を、無邪気に嘲る事が出来なかった。
なぜなら集めたデータと照らし合わせた結果、神とは要するに、アマギ隊員を指すのであろうと推察されるからだ。
アマギ隊員は全てを知り、全てを成す事が出来る。
常に事実に基づき、合理的で、理論的である。
つまり完璧という事だ!
完璧とはまさしく、ユーエイトの理想である。
だからユーエイトは、人間に……つまり、アマギ隊員になりたかった。
ユーエイトは自身をこの世で最も偉大な発明品であると信じて疑わなかったが、残念ながらユーエイトにはユーエイトを創り上げる事が出来ない。
……だが、アマギ隊員はそれが出来た。
なんと素晴らしいのだろうか!
ユーエイトはロボットであるにも関わらず、誕生したその瞬間から、『尊敬』のなんたるかを知っていた。
ならば彼こそが、この世で最も偉大な発明家である事はもはや揺るぎのない信実であるし、いつか
それこそが、ユーエイトの密かな野望の一つだったのだ。
……だが、その夢はもう、永久に叶わなくなってしまった。
『やつめ……なんザザ生際の悪い……だ! 吐き気ザザぜ!』
またしてもソガ隊員が、何事かの悪態を喚き散らしている。
彼もまた、ユーエイトの誕生に深く関わった生みの親の一人だ。
なんなら、彼が地下からユートムの残骸を持ち帰り、アマギ隊員に改修を頼み込まなければ、ユーエイトはユーエイトではなく、単なるU-TOMインターフェースの一部として、こことはまた別の場所で今も埋まっていただろう。
だからといって、ソガがアマギ隊員と同じように尊敬すべき隊員であるかと聞かれれば……ユーエイトは0コンマ1秒でそれに否定を返すしかない。
なにせソガ隊員は、ユーエイトからすれば酷くいいかげんで、怠惰で、些細なミスばかり連発する人間――フルハシ曰く「ちゃらんぽらん」――だ。
ユーエイトが目指すべき「完璧」とは、ほど遠い存在。
それが、彼にとってのソガという男であった。
あるとき、自らの尊敬すべき両親の片割れが、あまりにも不真面目な事に我慢がならなくなって、問い詰めた事がある。
――なぜそのように、事実と異なる無関係な嘘ばかり言うのですか、と。
すると彼は盛大にわざとらしいため息を吐いてから、わざわざこちらのカメラを遮るくらい近づけた人差し指を憎たらしく左右に振った。
「チッチッチ……分かっちゃいないねぇ~ユーエイトくぅ~ん……オレのはな、ジョーダンっていうのさ! ただの嘘とは違う。分かる? ……え? 不必要? ハァ~……キミにはがっかりだよ。あのなあユーエイト……人間にとって、いっっっちばん大事な事を教えてやろう! いいか? それはな……そう! 『笑い』だ!」
――頭のヒューズが飛んでいるのか
「おお……今のは中々ええ返しやんけ。……それじゃあ2進数しか出来ないお前さんにも分かりやすく言うとな? この世は二つに分けられる。すなわち……オモロイか、オモロないか、や! 全てそのゼロかイチのどっちかで判断出来るわけよ」
――フルハシ隊員が言うには、ナナメ45度で叩けばなんでも直るらしいが
「物理的に鋭いツッコミはやめい!? ……ええか? 笑い、つまり笑顔ってのは、一番分かりやすい平和の指標なわけ。人間ていうのは、辛かったり、悲しかったりすると、どんなオモロイ事があっても笑うことが出来ひんもんなの。つまり! オレがいつも、
――そのロジックは破綻している。非論理的だ
「せやからオモロイんやんけ!? 人間はいつでも『伊達』と『酔狂』よ! これ忘れたら、もう生きてる意味あらへんなぁ? 例えば良く言われる事やけど、そこらの動物と人間の違いはなんやと思う? ……残念、不正解! 答えは喋れる事や。じゃあそこらのクレーンとお前の違いはなんや? ユーエイト? ……そう、喋れる事や!! でもな? いつかそのへんの自販機やら車やらが喋り出すような時代が来たら、お前は奴らといったいドコで差をつけんねんって話になるやろ? ……そこでジョークよ!! というか、ロボットにギャグセン無いとか致命的やろ、SF的に考えて。……ま、安心しろよ。その点お前には、オレが手塩にかけてばっちり仕込んでやったからな! 何をって? そりゃもちろん……
キシシと笑いつつ去りゆくソガの背に「なんと余計なお世話なのだろう」と憤慨したものである。
ともあれユーエイトはこの会話を経た事により、非常に不本意ながら、自身に『ユーモア』という機能が備わっている事を、ようやく自覚した。
アマギ隊員から遠のいた瞬間だった。
『――ダァン! 死なないで!』
アンヌが泣いている。
この声の揺らぎとアクセントパターンは、間違いなく彼女が涙腺から水滴を流している時の音声だ。
それを聞いた時、ユーエイトは胸部装甲にいきなり釘でも刺さったのではないかと錯覚した。
ついにセンサーがイカれてきてしまったらしい。
ユーエイトは、せっかく予備パーツ用のポケットをひとつ空けて、アンヌ専用のハンカチーフを仕舞ってあったのに、終ぞ使わないままだったのを思い出し、それを非常に残念に思った。
自分が近くにいるにも関わらず、それを差し出さなければならないような事態が起こらなかったというのは、ある意味では誇るべき事なのだが、今現在、彼女にはコレが必要だと推測される。
だが、もうユーエイトにはそれが出来ない。
また釘が刺さった。
ソガ隊員の理論はいつも滅茶苦茶で、全くもって整合性に欠けるようなモノばかりだったが、彼の言う『笑顔の価値』についてだけは、ユーエイトも認めざるを得ない。
なぜなら、この世で最も美しいモノこそ……笑っているアンヌ隊員であるからだ。
だからこそ、彼女が泣いている事はユーエイトにとって我慢ならない事態なのである。その間、最高の美が失われ続けているわけだから、全くもって世界の損失と言えよう。
彼女は最初から、ユーエイトにとって本当に不可思議で奇妙な存在だった。
今でこそ、部隊の全員がユーエイトを受け容れ、自然に会話を繰り広げるようになったが、それはあくまで、彼の機能が拡張され、どんどんと人間により近くなるにつれての事である。
ところがアンヌだけは、初期も初期の頃から、今と殆ど変わらぬ態度でユーエイトに接している。
決して、彼女が態度を冷たいまま維持したのではない……むしろその逆。
なぜか彼女だけは、ユーエイトと言葉も交わせないうちから、いつも彼の発信したい状況というのを、なんとか汲み取って、理解し、コミュニケーションを図ろうと努力し続けた。
その試みは、時として非常に的外れな解釈の時もあったが……概ね成功を収めていたと言える。
なんなら生みの親であるアマギですら、常に信号コードという形でしかユーエイトの主張を受け取らなかったし、ソガはユーエイトの反論が聞こえないのを良いことに、いつも自分の言いたい言葉を押し付けるばかり。
ダンやキリヤマは、一定以上の事柄を「どうせ言っても分かるまい」と勝手に自己完結して省略しようとする――きちんとその事についてユーエイトは理解しているにも関わらずだ!――時が多々あったし、フルハシに至っては、ユーエイトとポインターの区別がついていたかどうか。
そんな中で唯一アンヌだけは、電子頭脳に宿る人格プログラムの優秀さを理解し、常に個人として尊重しながら丁寧に扱ってくれたのだ。
普通の人間は、巡回中の機械に散歩と称して付き合ったり、まして電子音と会話を試みようとはしない。
なぜ彼女がそうするのか? それをユーエイトははじめ、自らが人間であるからだと考えていた……のだが、のちにそれはひどい勘違いだと判明する。
閑話休題。
その後に、よくよく彼女を観察してみてようやく理解した。
彼女は……ありとあらゆる存在に多少なりとも知性の介在を見出すと、途端にそれが人間であるか否かに関わらず、速やかに意志の疎通を図り、なんらかの関係性を育まなくては気が済まないのだと。
それが例えリスでも、異星人でも、ロボットでも……彼女はその存在を最大限尊重しようとする。
正直言って……アンヌは頭の回路がどこかおかしいのであろう。
人間が自らと違う存在に対して、そこまで親密で、真摯な態度を示し続ける事が出来るハズが無い。
外見であれ内面であれ、少しでも自身との差異を感じれば、その異質さを受け容れる事が出来ないというのが、生物の基本的な感性であるからだ。
ただ、アンヌの抱えたその致命的なバグが……ユーエイトには心地良くて堪らなかった。
彼女がそのまま狂っている方が、ユーエイトにとっては非常に都合が良かったので、彼はその欠陥を最後まで指摘する事が出来なかった程に。
だがそれでもユーエイトは、この世で最も美しく、優しく、尊い存在が間違っているなどとは、どうしても考えたく無かったので、その解決策として人間に成りたかったのだ。
自身が人間でさえあれば、アンヌがいくらユーエイトに親愛の情を示そうが、なにひとつとして可笑しな事はない。彼女を少しだけ正常な状態に戻す事が出来る。
……尤も、そんな事しなくたって、彼女が本当は狂ってなどいない事くらい、分かっているのだが。
でもユーエイトは、アンヌに何か一つでもお返しがしたかっただけである。
――アラ、ユート。どうしたのその花束? え、私に? ありがとう! キレイねぇ……ウフフ、大切にするわ。
なにせユーエイトは、彼女を通して世界の『美しさ』を見る事が出来た。
――アナタがくれるお花は、いつも赤いわね……ううん、駄目じゃないの。だって私の一番好きな色よ! 赤はね……情熱と愛の色なの。
彼女は、モノクロカメラでしか周囲を認識できない機械人形の世界に、鮮やかな『色』をつけた。
――どうしてかって? うーん……それはね、きっと赤が血の色だからよ。私たちの体に流れる真っ赤な血潮、つまり大切な命の色! ……ああ、そんなに寂しそうな顔しないで。大丈夫! 今のアナタにもしっかり赤色があるじゃない……ホラ、ここに。ね?
そうして、胸部装甲に輝くエンブレムを指差したアンヌの笑顔は、メモリにファイナライズして永久保存してある。
彼女が単なるロボットにくれた大切な贈り物――きっと人は、それを『愛』と定義するのだろう。
『―― ダンを……! 助けな……奴をザザなければ!』
……なんと! ダンがまたしても危機に瀕しているらしい。
それは本当に大変な事だ!
モロボシ・ダンという男は、とにかく手のかかる奴であった。
ことある事に死にかけては、ユーエイトの任務である「部隊の保全」を台無しにしようとしてくるのだから。
彼は、その身に保有する情報量やエネルギー係数から見れば、殆どユーエイトと同程度……ともすればそれ以上の数値を備えているにも関わらず、その能力からは信じられない程あっけなく機能停止に陥っては、その命を失いかける。
彼の貧弱さ……というか死に癖? は、ユーエイトが電波復調室で正式に再起動した時、目の前でいきなり死にかけていたのだから、まさに筋金入りであろう。
あの時にユーエイトが止めてやらなかったら、彼はそのままノガワ隊員に撲殺されていたであろうし、そのすぐ後だって、重装型戦闘用サイボーグに対しても全く相手にならなかったので、代わりに戦ってやったりもした。
それ以外にも、暴れ狂う超猿人の怪力でバラバラのスクラップにされる寸前のところを助けてやったし、あの時だって……
ああそうだ。ついでに言うなら、まだユーエイトがユーエイトですらなく、単なるユートムでしかなかった頃の時点でも、既にユーエイトはダンと出会っている。
地下空洞の爆破現場に、一人だけ機能停止状態で転がっていたところを発見された、間抜けな侵入者。
同型機にずりずりと回収されていくその男こそ、ユーエイトが初めて見たダンの姿なのだった。
だから、ユーエイトから見たダンの印象とは「ちょっとでも目を離したら、すぐに死んでしまう、
この形容詞はかつて、ソガがユーエイトを強引にフレンドシップフェスティバルへ引っ張り出した際、彼の任務内容を説明するにあたり、護衛兼監視対象である「幼児」を指して使った言葉であるが、ユーエイトからすれば、小さな怪獣達などよりよっぽど、ダンにこそ相応しい言葉なのではないかと考えている。
かと思えばダンは、ユーエイトが改造されてから正式稼働する前、初めてみんなの前へお披露目された晴れの舞台で「よくわからないロボットは信用できない」などと発言し、ユーエイトに恥をかかせたばかりか、あまつさえそのロボットの世話になった途端、急に馴れ馴れしい態度をとり出したりと、全く反省しているように見受けられない。
ソガが言うには、ああいうのを「手のひらを返す」と形容するのだとか。
人間は手首にドリルモーターを搭載しているものらしい。あまりにも羨ましかったので後日、アマギに強請ってユーエイトも右手に同じものを付けてもらったくらいだ。
だからはじめ、ユーエイトはダンの事があまり好きではなかった。
なによりまず、彼の方がユーエイトよりも先輩であるというのが気に食わない。
そう、先輩というカテゴリだ。
そこへダンを分類しなくてはならない事について、ユーエイトはいつも疑問を呈したかった。
フルハシはよくユーエイト達に「先輩へ対する敬意ってもん」とやらを要求してくる。
それは彼曰くキリヤマ隊長を除いたウルトラ警備隊の全員が、ユーエイトを含めて「曲がりなりにも俺の後輩」なのであり、上記の理由を根拠として、事ある毎に「先輩が困っている後輩を助けるのは当たり前」なのだと嘯く。
いわゆる先行開発機体に蓄積された稼働データを、後発機体へフィードバックするようなものであろう。実に合理的だ。
そして結果、フルハシはその対価として「先輩を敬う」という行為――つまり、「スゴイ デスネ」だとか「いよっ、肩にちっちゃいユートム載ってんのかい!」等の
そこまではユーエイトも納得できる。
ところが、その「後輩」というカテゴリはさらに「手のかかる」と「手のかからない」に細分化され、ユーエイトやソガは前者、アマギ隊員やアンヌ、そしてダンは後者に分類されるらしいではないか!
ただでさえソガ隊員と同様にカテゴライズされているだけでも不本意極まりないのに、ダンの方はアマギ隊員やアンヌと同じ側だとはいったいどういう事なのか。フルハシの思考回路は大変理解に苦しむ。
頭脳をアマギ隊員にメンテナンスして貰うように提案したら蹴り飛ばされた。理不尽だ。
そしてユーエイトから見た場合、フルハシとは逆に、全ての隊員が彼の先輩にあたるというわけだ。
ユーエイトはそこにダンが含まれている事が、甚だ不満だったのである。
確かに彼の方が入隊は先なので、ダンこそが直属の先輩にあたるのだが、隊歴自体はユーエイトとさほど変わらず、むしろこちらが守ってやる事の方が多いくらいなので、彼を先輩として敬った覚えなど無い。
それどころか時には、ユーエイトの言葉を彼らが理解出来ないのを良いことに、おおっぴらにダンを罵ったり、アンヌのいない場所で声をかけてきても、単なる巡回ロボットのフリを続けて、露骨に無視を決め込んだりと邪険に扱った事すらある。
しかし、そんな時ですら……
――あれ? どうしたんだいユート? まさかまたセンサーの調子が悪いのかい? 大変だ! はやくアマギ隊員に見て貰わないと!
……こうである。
全く彼の正直さというか、ある種の鈍臭さにはユーエイトをして拍子抜けも良いところだった。
いくら意地悪をしても、ユーエイトの悪意を疑う事がこれっぽっちも無い。
それどころか彼は、いつもユーエイトの一歩先を行っている。
実のところユーエイトは、これまでの自身の戦果がさほど完璧ではないという事に対して、常に忸怩たるものを抱えていた。
あるときは保護したカヲリという少女が、夢遊病患者のように基地を徘徊しながら、所構わず神経ガスを撒き散らしては、隊員を次々に昏倒させていくのを意気揚々と制圧しようとしたら、その後ろから出て来た産みの親から返り討ちにされてしまったし、基地がシャドウマンなる侵入者に大わらわであった時など、それを認識できないユーエイトは一人だけ蚊帳の外であった。
フルハシが褒めてくれる重サイボーグとの戦闘だって、あれは本当ならば僅差でユーエイトの負けであった。あのままなら、敵の自爆にみんな巻き込まれていたところだ。
それを、ダンがみんなを叩き起こして、きっちり仇を討ってくれたのである。
なんとか超猿人を撃退した後も、ユーエイトは損傷甚大でエネルギーなどスッカラカンだった。
ダンが機転を利かしてバッテリーを充電したり、地下室への階段で降りるのを介助してくれなければ、囚われたアンヌを助け出す事など到底不可能だったであろう。
ユーエイトが胸を張って誇れる戦果など、プラスチック製のヒダを纏った巨大昆虫が、演習中のマグマライザーに侵入してきた所をぶちのめして強制排除した一件くらいのものだ。
それだってソガの助言ありきの事であったし、先ほどだって……
ユーエイトの体を張った起死回生のアイデアも、アオキ隊員とヒロタ隊員を逃がす事には役立ったが、そこまでだ。
ウルトラセブンがいなければ、彼が本当に助けたかった人達は死んでいたに違いない。
このようにユーエイトの職務にケチがついた事など、挙げれば枚挙にいとまが無かった。
常にあと一歩というところで惜しくも手が届かないのである。
ところがダンは、そういう時に限って美味しいトコロを全部持っていってしまう。
彼はユーエイトに比べて、貧弱で
いったい何度、地団駄を踏もうと考えてやめた――実行すれば、廊下が傷付くので隊長に叱責される――ことか。
なにより……
アンヌの涙を優しく拭って、この世で一番美しい笑顔に出来るのは……世界で彼ただ一人だけなのだから。
認めざるを得ないだろう。
……完敗だ。
ところが、ユーエイトがダンに敗北宣言代わりの愚痴を述べた時、彼は驚くべき事を言った。
「どうしたんだい、ユート!? キミはいつも自信満々だったじゃないか! 僕はキミのそんなところが好きだったのに……自分を卑下するような事を言うもんじゃないよ」
それは嘘だ。現にダンは機械の事が好きでは無い。
でなければ、最初にあんな事を言うハズが無い。
「それは……確かにキミの言うとおり、僕はロボットが苦手だ。……だって、彼らは何を考えているか、全然分からないだろう?」
この男は、いったい何を当たり前の事を言っているのだろう、とユーエイトは呆れた。
それはロボットだけでなく、人間同士でも同じのハズだ。
他人が何を考えているかなど、外から分かりようがない。
「実は本当の事を言うとね、仲間になりたての頃のキミだって、たまにちょっと怖いなと思った事が何度かある。急に壊れて動きが止まったり、目が合わないままずっと黙りこんだり……このまま電子頭脳が狂って、突然暴れ出すんじゃないかって……でも、それは僕の思い過ごしというものだった。キミはこんなにも素晴らしい奴なのに、失礼な話だよね。信用できないなんて、あんな事を言っていた自分が恥ずかしいよ、本当に……」
それを聞くユーエイトは、顔面が発火しそうであった。
風防が不燃性のコランダムガラスである事を、これほど有り難がる事になるとは。
「だからねユート、キミとこうしてお話しが出来るようになって、僕は心の底から嬉しいんだ!」
確かに、言われてみればユーエイトが人工声帯を手に入れた時、それを最も喜んだのは何をかくそうダンであった。
というより、それ以外でもユーエイトがアマギ隊員やイチノミヤ氏の手で、なにがしかの機能を追加される度に、それをまるで我が事のように喜び、祝福してくれるのがこの男なのだ。
なぜだろう?
苦手な存在と話がしたいなど、どう考えてもおかしいではないか。
ダンも時々、ソガほどではないにせよ合理性に欠けた物言いをする時がある。
「当たり前じゃないか。友達とお喋りしたいと考えるのは、普通の事だろう?」
ははん……さてはダンもまた、ユーエイトの事を人間だと勘違いしたままなのだろうか。
彼の鈍さなら有り得る事だ。
だからユーエイトは、ロボットと人間では友達になれないのだ、という事実を鼻高々に教えてやった。
「どうして? キミの夢は人間になることなんだろう……? じゃあ何も問題は無いじゃないか。宇宙にはね、そうしてキミのように進化した機械生命体が暮らす星が、沢山あるんだ! 確かに中には第四惑星のような恐ろしい星もあるけれど……キミは、あんな嫌な奴らみたいにはならないよ」
なぜダンは、こうまで無邪気にそれを信じる事ができるのだろうか。
フルハシですら、きっと笑い飛ばす事だろうに。
時として、ユーエイトはダンのこの馬鹿さ加減が心配になる事がある。
だって、ユーエイトは……
「第一に……実はね、既にいるんだ、ロボットの友達が。だからそれが一人増えたって別に構いやしないだろう? ふふ、キミは信じてくれないかもね、ユート。」
そういえば、ユーエイトにユーエイトという名前をくれたのはダンであった。
言い出したのはアンヌだが、単なる機械に最高の名前をつけたのはこの男である。
ユーエイトは、この名前が大好きだった。
だって、アンヌが素敵な名前と言ったのだ。
そんなの、世界で一番素敵な名前に決まってる!
ユーエイトがその事について考えていると、彼にアイデンティティを与えた男は、やっとこの如き右手と、つるりと冷たい無骨な左手をそっと握り、にっこりと柔らかく微笑んだ。
「僕らはね、別にキミが10万馬力の万能ロボットだから好きなんじゃない。正直で、勇敢で、賢くって……愉快で! ちょっと捻くれたところもあるけれど、誰かを心から愛する事が出来る……そんな素敵な友達が、みんな大好きなのさ! キミが出来ない事は、僕らがやるし、いつでもキミは僕らに出来ない事をやってくれるじゃないか。それが仲間だよユート。キミの失敗した時と、僕の失敗した時も、両方合わせれば僕ら二人の大戦果だ! 持ちつ持たれつだよ。……と言っても、これはソガ隊員の請け売りなんだけどね、ハハ……」
……そうか、仲間か。
どうしてユーエイトは、自分が人間に成りたかったのかようやく理解した。
だが、もうその必要もない。
ユーエイトは、彼らに対して『友情』を感じても良いのだと許可された。
ただし、隊長は隊長だ。
フルハシは先輩で。
アマギとソガは産みの親。
アンヌは憧れの人である。
……そうなった場合、ユーエイトにとって最初の友達というのは……
『――ダァーン!?』
アンヌ達の声が、ユーエイトの思考を現実に引き戻した。
『このま……では、ダンが第……ウリンガにな――てしまう!』
そうだった。
彼が危ないのだ。
しかし、ダンがウリンガになるとはいったいどういう事なのだろう?
ユーエイトからはいまいち現場の様子が分からない。
しかしフルハシが弱気を見せ、
キリヤマも狼狽えながら、
アマギは意味不明な事を述べつつ、
ソガが冗談も忘れたまま、
アンヌが涙を流し、
ダンが命の危機に瀕している。
……つまり、状況は考え得る限り最悪の事態という事だ!
ところがそこに、ユーエイトはいない。
彼らの隣に並び立ち、共に戦い抜く事が出来ないのだ。
彼らの声を聞くユーエイトは、かつて基地で目覚めた時、アマギ隊員によって下された、自身にとって最初の……原初の指令がなんだったのかを思い出していた。
しかし、それを完遂する事は出来ないだろう。
彼のボディはもはや、その使命を果たす事が出来ないくらいに傷付き、戦場とはまるで関係のない場所に置き去りにされたまま。
ユーエイトはそれを、心の底から悔しいと思った。
二度と彼らの役に立つ事ができない。
それはとても……悲しい事である。
「ミ……ンナ……」
とっくに送信機能もオシャカになった。
声を届ける事すら不可能。
そんなユーエイトが彼らに出来る事といったら……
「……ガ……バレ……」
聞こえもしない応援を捧げる事くらいだ。
「……マケ……ル……ナ……」
ところが。
――そこに……誰かいるのですか?
どこからともなく声が響いた。
土と石と、がらくたしか無いと思われた空間に、人の声がする。
しかし、唯一それに応えるべき壊れかけの鉄人形には、残念ながらその声が聞き取れないらしく、全く気付かないまま応援を繰り返すばかり。
そのまま小さな奇跡はそこで終わってしまうのか……と思いきや、ユーエイトの傍で何かが、もぞりと小さく身震いした。
それだけならば、スピーカーの振動で砂でも崩れたのかとも考えたのだが……やがて、人間の手のひら大の何かが、まるで蜘蛛のように小さな隙間の中を這いずってくるではないか。
これには流石のユーエイトも気付いて、ひび割れたカメラをそちらに向けてみれば……信じられないことにそれはなんと、手のひら大の蜘蛛ではなく……成人男性の千切れた右手そのものなのである!
動くはずもない死体の右手が、五本の指を器用に動かして、身動きの取れないユーエイトのボディをずりずりと這い上がってきた!
これが普通の人間ならば、恐怖で叫び出してもおかしくないくらいにショッキングな光景なのだが……あいにくとユーエイトは、生理的嫌悪感や忌避感といった感情を持ち合わせてはいなかったので、それを黙ってじっと見つめているだけだった。
尤も、あまりに非現実的な現象である事に違いはないので、なぜそうなっているのかと内心で首を傾げてはいたが。
やがて謎の右手――着用している手袋から、その正体は恐らくアオキ隊員の切断された右腕であると推察されるが、それがこうして動いている理由については完全に理解不能――は、銀色の塊に登頂すると、ユーエイトが反撃できないのを良い事に、人差し指で彼の装甲版を激しく叩いて攻撃を加え始めたではないか!
このまま本機は謎の右手に破壊されてしまうのか……いや、どう考えてもそれには指の強度が足りないのだが、こんなに小さな敵を振り払う事すら出来ず、なすがままになっているのは、あまりにも惨めだ。
いっそ、ひと思いに潰れてしまえば、こんな思いをしなくてよかったのに……と自身の運命を呪っていたのだが……ふと、このリズミカルな攻撃音が、実は防衛軍でも使用しているモールス信号なのだという事に、生粋の警備隊員であるユーエイトは気がついた。
内容を解読してみれば……
《ゆうえいとさんわたしはゆぅりぃです》
「ユゥ……ry……サ……ン?」
――ああ良かった……気付いて頂けたのですね……
「アナ……タハ 死亡 siタ」
――あれは、憑依していたクローン体が潰れてしまっただけ。私たちユーリー星人の正体は精神体なので、このように肉体を失っても、少しの間であれば生きていられるのです。……とはいえ、もうここから大きく移動する事は出来ませんので、あとは意識が徐々に消滅していくだけですが。
「ボク……t 同……ジ……ダ」
ユーエイトは、この暗い空間に話し相手がいる事を嬉しく思ったが、それは同時に彼女を助ける事が出来なかった事を意味するので、やはり虚しい気持ちになった。
彼女の事を可哀想だとも。
――いいえ! 私もそう思っていましたが……ユーエイトさん、貴方がいます! 私にもまだ出来る事がある。私達の特技は……このように死者の魂や死した肉体を操ること。だから……私なら貴方の魂を蘇らせる事が出来ます!
アオキの右手がそのように信号を打つのを聞いて、ユーエイトはとても残念な気持ちになった。なぜなら……
「ソレ、ハ 出来……ナi…… ボ、クハ……ロボッ……tダ」
ここで死にかけていたのが、自分ではなく別の誰かだったのならば、彼女の申し出は渡りに船であっただろう。
しかし悲しいかな、ユーエイトは彼女が操るという……「魂」というものを持ち合わせてはいなかった。
だからその能力は、宝の持ち腐れなのである。
しかし……!
――いいえ! 貴方は自らを犠牲にして、私達を助けようとしてくれました……! 誰に言われるでもなく自分から! ただのロボットにそんな事が出来ると思いますか? ……それに、ヒロタさんがハッキリ言っていました! 貴方は「戦死した」のだと!!
「ソンナ、ノ……ヘ、リ ……クツ……ダ……」
――屁理屈でもなんでも、肝心なのは私が貴方をどう認識するか。死ぬことが出来るのは、生きている者だけの特権です! 少なくとも私は、貴方が優しい心を持っている事を知っている! 私達と同じように、愛に生きる人だと本心から信じる事が出来る! 貴方が一度死んだのだと言うのであらば……私は、ユーリー族の誇りにかけて、私の存在全てをかけて、貴方を望む場所へ……連れていってみせる!!
ユーリーは、自身の燃え尽きかけた最後の灯火を、力の限り振り絞って高らかにそう誓った。
――きっとそれが母として、あの子に私のしてあげられる最後の事だから!
その言葉を聞いた頑固な電子頭脳は……
「……ワ、カッタ ソレ ナ……ラ 頼ミ、ガ……アル……ボク、ヲ……」
――任せて下さいユーエイトさん。私からもお願いします……どうか。
――――――あの子達を、助けて――――――
『グワッシ』
円らな瞳に光が宿る。
黄金の四肢に力が籠もる。
真っ暗な格納庫の中で、ユーエイトは一人目覚めた。
普段より数十倍の高さとなった視点から辺りを見渡し、現状を確認する。
周囲に整備員はいない。
今は航空機の発進に全力を傾けているのだろう。
これからすることを考えれば、その方が好都合だ。
続けてユーエイトは、自身の右手を動かしてみる。
武骨な三本指が、ぐぐっと力強く握り込まれた。
……いける。
マニピュレーターの操作は初めてだが、パワーハンドの開閉プロトコルを流用すればなんとかなりそうだ。
思えば、ユーエイトが本来の右腕を失い、新たな形状の右手に換装されたのは、この瞬間の為だったのだろう。
つくづくアマギ隊員の判断は正しい。
だから、その被造物であるユーエイトの判断も……また正しいハズだ!
『グワッシ』
ユーエイトは、力を籠めて右腕を大きく振り抜いた。
すると黄金のボディに繋がれていた無数の電源コードや配管が千切れ飛び、胸の高さにあった整備用キャットウォークが容易く叩き落とされる。
たちまち格納庫内に響き渡る警報。
真っ暗だった室内が、回転する赤いランプで煌びやかに照らし出された。
恐らく今頃、作戦室は大わらわであろう。
たった一瞬で、禁則事項を78回も破ってしまった。
しかし、これが最も合理的で最短のルートなのだから仕方ない。今は緊急事態なのだから。
キリヤマ隊長が言っていたではないか。
時として、非合理な判断こそ、最も合理的な場合があると。
……今この瞬間、敬愛する指揮官の言葉を、ユーエイトはようやく、心で理解したのだ!
『グワッシ』
重たい足を一歩踏み込めば、壁とボディを固定していた鎖が弾け飛び、左手と肩のクレーンが自由になる。
この隔壁の向こうには、ポインターやマグマライザーが出動するためのシークレットハイウェイが通っているはずだ。
かつて地底超特急の為に掘られたトンネルを流用したシークレットハイウェイのメインシャフトは、辛うじてマックスジョーの体が通れる広さがある。
ここを伝えば、彼らのいる場所へ出られるはず!
問題は……ルート上にある基地設備を多少破壊してしまう事であるが……
なあに、気にする必要はない。
なんせ、ソガ隊員がいつもやっている事だ。
『コレヨリ……本機ハ、緊急発進シマス! 付近ノ人員ハ、速ヤカニ退避セヨ!』
念の為に警告を発しながら、ユーエイトは左半身を目いっぱい振りかぶる!
『フォースゲート……オープン!!』
銀のドリルと金のクレーンが、格納庫の分厚い隔壁を引き飛ばした。
――――――――――――
かくして、黄金の巨人は仲間達の元へ駆け付けた。
「マックスジョー応答せよっ! マックスジョー応答せよ! いったい誰が乗っているんだっ!」
『ワタシデス。隊長……無断デ、出撃シタ事ヲ、オ許シクダサイ』
「その声! ……まさか……ユーエイトかっ!?」
「なにっ、ユート!?」
「そんな馬鹿な!?」
「つまり、さっきのブリキ野郎が載っているのか!?」
「ユート……アナタさっき地下で死んだはずじゃ……!?」
『イイエ、アンヌサン。ロボットハ、死ナナイ。貴方達ガ、僕ヲ必要トスル限リ……何度デモ、蘇ル!』
「おいおい、マックスジョーは誰にも動かせないんじゃなかったのかよ!?」
『肯定シマス、フルハシ隊員。ダカラ、ワタシノ、全でーた……ツマリ、『魂』ヲ、まっくすじょーノ、動作コンピュータニ、いんすとーるシマシタ。こあしっぷノ操縦系統ヲ介サズニ、ワタシガ、直接、ぼでぃヲ動カシテ、イマス』
「は? ……ん? いんすと……そうかぁ! よし! やっちまえぇえ!」
ところが今度は、あまりの衝撃に呆然としていたアマギがこの説明で再起動したのか、回答を貰ったフルハシ以上に食いついてくる。
「そんな馬鹿な事があるもんか! ……いくら信号入力の問題をクリアしたところで……動力はいったいどうしているんだ!?」
「何を細けえこと言ってんだアマギ!」
「そうだそうだ! ペダニウムエンジンに決まってるだろ!」
「違う! ソガもよく見ろ! マックスジョーの採光窓は前回の戦いでヒビ割れたままなんだ! ペダニウムエンジンは光がないと動かない! こんな暗がりで、どこからエネルギーを確保するって言うんだ!?」
マックスジョーの胸を指差さすアマギ。
虹色に輝く窓は見えず、保護の為に封印版が打ち付けられていた。
「……いいや。それでもあるぜ、もう一つのエンジンが……! あの時、お前達で動かしただろうが!」
「りょ、量子変換システム!? それこそまさかだ! あれは、人の熱い思い……つまり人間の脳波と意志力が必要になる! ユートは……ロボットなんだぞ!?」
「だったら何も問題はないね。……アイツはもう……とっくに人間だったさ!!」
『マックスジョー……吶喊シマス!』
鋼鉄要塞の背面で、束になったロケットが一斉に炎を噴射した。
大地を削りながら、大鉄塊が猛然と突き進む。
そしてその勢いのまま、セブンを取り込まんとするガンダー目掛けてぶち当たった!
『な、なんだこのロボットは! どこから現れたのだ……!』
『セブンカラ離レロ! コノ……クソザコナメクジ!』
『ぐおお……!?』
輝く三本指が、ガンダーの鼻っ面を鷲掴みにして、冷気をものともせずに超馬力を発揮すると、そのまま強引にセブンの体から引き剥がしていく。
『お……ごご……なんというパワーだ……ぐ、ぐはははは! 気に入ったぞ! こんな死にかけの肉体ではなく……その機体を頂くとしよう!! 誰かは知らんが覚悟しろロボットのパイロット! ……貴様が私の次なる肉体だあっ!!』
するとガンダーは、剥がされてしまった触手を逆にマックスジョーの接合部や破損箇所に浸透させながら、その内部へと根を張るように体を伸ばしていくではないか。
奧へと……奧へと……!
最深部にいるであろう操縦者に、ガンダー触手の先端が届けば、そこからゴース星人の怨念が憑依できる。
ロボットを動かしているとなれば、その中にいるのはせいぜい人間大の存在でしかなく、ウルトラセブンの強靱な精神を屈服させるよりも遥かに洗脳しやすいと考えたのだ。
だが、しかし……
『な、なにッ!? いないっ!?』
操縦席と思われる場所には、誰も乗ってはいなかった。
隅から隅まで捜しても、この巨大戦艦は完全に無人なのである!
そんなはずはない。確かに目の前の存在からは強烈なリビドーと、確固たる気配を感じるのに……そこにゴース精神が操るべき生命が欠片も存在しないのだっ!
こんな現象は初めてだ。
精神のみとなり、狂気に呑まれたはずのゴース星人は……眼前にいる理解不能の存在に、心から恐怖した。
『ば、馬鹿な……キ、キサマはいったい……何者なんだぁーっ!?』
『ワタシハ……』
ごおん……と、巨兵の胸奧から駆動音が唸る!
『私ハ……ユーエイト! ウルトラ警備隊ノ……栄エアル、8番目ノ隊員デス!!』
逞しい腕に宿った凄まじいパワーが、ついにガンダーをウルトラセブンの肉体から完全に剥ぎ取った!
そして、躰の大部分がマックスジョーの装甲に入り込んで逃げられない怪獣を高々と掲げたまま、再びロケットを噴射し、その背後で口を開ける巨大な次元門に向かって叩き付ける!
『ぐ、ぐおお……! 向こう側へ……送り返すつもりかっ……!?』
『コノ星ニ……オ前ノ居場所ハ、ナイ!』
『させるかあっ! ガンダー! ジェロニモン! 押し返せーっ!』
激しく抵抗するガンダー!
次元門のゲートリングへ触手を伸ばして貼り付くと、自身の体でトランポリンのように膜を張り、マックスジョーがそれ以上押し込めないように踏ん張ってしまう!
そして、次元ゲートの向こう側からは、ジェロニモンが念動力まで併用し、こちら側へ這い出てこようとするではないか!
怪獣2匹分の力と拮抗するユーエイト!
「いけえっーー! ユーーートォオオ!! 根性だぁー!! 根性でぶっ飛ばせぇえええーー!!」
「ユート! 無理をするな! 全ての武装を使って構わん! 正面戦闘で撃破しろ!」
『駄目デス隊長。本機ハ現在、右脚部破損中。戦闘機動ニ耐エラレマセン』
「出撃予定も無かったので、弾薬の補充もされていないはずです! こうなったら、このまま押し切るしかありません!」
「頑張ってー! ユート! ゴース星人なんかに負けないでー!」
しかしアンヌ達の声援虚しく、両者はそれ以上動かない。
それどころか、マックスジョーの背面ブースターから吹き出す炎が徐々に勢いを失っていくではないか。
『出力ゲンカイ……ロケット残量、ワズカ……』
『ふん、馬鹿力め……さてはスタミナが無いな!!』
「そんな! マックスジョーのパワーでも駄目なのか!」
「当たり前だ! 量子変換システムはあくまでサブエンジンに過ぎない! 僕ら三人でも腕を動かすのが精一杯だったんだぞ! ましてユーエイトは……今彼がああして一人で機体を動かせるのも、マックスジョーの制御系が、彼の稼働データを基にして組まれているからだ! ほとんど奇跡みたいなものなんだぞ!?」
『デュ……ア……ユート……! 今……助ける!』
ガンダーの戒めから解放されたセブンが、加勢しようとするが……外部スピーカーによる制止の声が、大音量で響き渡った!
『来ルナ! セブン! マタ、吸収サレルゾ!』
『はっはっはっ! ……強がりを言いおって!!』
「いかん! ユートを援護するんだ!」
隊長の喝に、精鋭達が我に返る。
「ソガ、ヒロタはガンダーの両目を狙え! それ以外は全員でジェロニモンの左手に集中砲火! 我々で押し返す隙を作るんだ!」
「了解!」
ソガのマルスと、ヒロタのエレクトロガンが、ガンダーの突き出た目玉を弾けさせると、冷凍怪獣から管楽器の如き絶叫をあげさせた!
そしてずる賢く次元の向こう側に身を潜めていたジェロニモンは、ユーエイトとの力比べに必死になるあまり、自身の腕がこちら側へ出ている事に気付かなかった。
小指に四人のウルトラガンが集中し、怪獣酋長が初めて自分の血を流す!
二体の怪獣が痛みに怯み、圧力が僅かに減じた隙を狙って、ユーエイトが起死回生の一手を放つ!
『アイアンアンカー! 射出!』
マックスジョーの腰部から超大型の錨が撃ち出され、後方の地面に突き刺さった。
彼の電子頭脳は、エネルギーが足りない事も、警備隊の仲間が援護射撃をしてくれる事も、全て想定済みだったのだ!
『セブン! 鎖ヲ!』
『これか! デュワッ!!』
『……引ッ張レ!!』
呼ばれたセブンは、転がる楔に勢いよく飛び付いて、巨大な鎖を自身の肩や腰に巻き付けると、それを死に物狂いで引っ張った!
セブンの100万馬力が、大和級の鎖を伝わって、マックスジョーの左腰を後方へ動かしていく。
そのままセブンは渾身の力で大質量を引き抜こうと……さらなる力を籠めた瞬間、急に手応えを失って後ろに尻餅をついて倒れ込んだ。
『……ハッ! そんな!?』
慌てて鎖を手繰り寄せてみれば……なんと鎖がぷっつりと途切れている!
まさか力に耐えられなかったのか……?
そんなはずはない。
かつてセブンを雁字搦めにした亡霊戦艦、三式アイアンズロックの錨は、セブンがどれだけ暴れてもびくともしない強度を誇っていた。
そこから考えられる原因はひとつ……ユーエイトが自らの意志で、鎖を基底部から切り離したのだ!
『ユート! どうして……!』
セブンはてっきり、このままユートをあの門から引っ張って助け出すのだとばかり思っていた。
だからあんなに全力を出せたのに……
『大丈夫ダ。ボクノ、計算通リ。コレデ良イ』
セブンが鎖から顔をあげれば、今まで門の奧側へ向いていたユーエイトとばっちり目があった。
セブンに腰を引っ張られた事により、マックスジョーが裏返ってこちら側を向いたのだ。
今では、四肢と肩のクレーンを次元門の発生装置である金の輪っかに引っ掛けて、怪獣達がこちらにこれないように背中で踏ん張っている。
確かにロケットが尽きた今、あの姿勢であれば機体の剛性自体をつっかえ棒のように使えるが、それ以上に押し込むことは叶わない。
『僕ハ……コノ装置ヲ、破壊スル』
『なんだって!?』
『はっはっはっ! 何を馬鹿な事を! この門はキサマと同じペダニウム製だ! たかだか怪獣二体分の力しか発揮できない機体で何ができる!』
「その通りだ、ユート! 残念ながら、キミの出力では……いや、まさかっ!」
『ダカラ、セブン。君ノ、チカラヲ、貸シテクレ』
『僕の力を……? しかし、近付くなと言ったのは君じゃないか! どうやって……』
『コウ……スルンダ!』
ユーエイトはそう叫ぶなり、黒光りする頑丈な左腕で、自らの胸を思いっ切り叩き付けた!
すると忽ち、封印版とコランダムガラスが割れ砕け、その奧から七色に光輝く魔法の釜が姿を現す!
『ココダッ! ココニ、君ノ、太陽光線ヲ! 最大出力デ、照射シロッ! ぺだにうむえんじんハ、光えねるぎーヲ、何倍ニモ、変換デキル!!』
『なんだって!? そんな事をしたら……エンジンが爆発してしまう!』
「何ですって!!」
悲鳴を上げるアンヌ。
「アマギ隊員……ユートはいったいどうしてあんな事を!?」
「彼は……ライントーンアクチュエーターをオーバーロードさせて、マックスジョーを中心に次元門の構造体を崩壊させるつもりなんだ……!」
「なにっ!?」
「理論上は可能です……ですが、その為には……ダンのワイドショットと同等のエネルギーが必要で……ペダニウムエンジンは、その威力に耐えられるようには設計されていない……!」
「――ッ!? 駄目よユート! やめなさい!!」
「そうだユーエイト! また死んじまうんだぞ!!」
『隊長ガ、言ッテイマシタ……地球ハ、人類自ラノ手デ、守リ抜カネバ、ナラナイ……ッテ! ダッタラ、地球ヲ守レバ! 僕モ、晴レテ、人類ノ、仲間入リダ! ワタシハ! テンサイ!』
「冗談言ってる場合か!!」
『冗談デハ、アリマセン。貴方ガタ、ウルトラ警備隊ハ、イツモ、命ヲ、カケテ戦ッテイル! 僕モ、ウルトラ警備隊ノ、隊員ダ! ソコニ、何カ違イガ、アリマスカ!?』
「そ、それは……」
「……よくぞ言ったっ!! それでこそ……ウルトラ警備隊の隊員だっ!!」
「隊長っ!?」
ソガ達が振り返ると、歯を食いしばり、拳を握りしめて、ビデオシーバーに向かって大声を張り上げているキリヤマがいた。
その声は……ほんの僅かに震えたものだった。
「お前はお前の使命を果たせっ! ……私は……お前のような部下を持てて……誇りに思う! だから、構わん! やれユーエイトッ! さ、作戦を許可するっ!」
『感謝シマス、隊長。貴方ハ……地球デ最高ノ指揮官ダ!』
「マックスジョーの損失は気にするなっ! 全ての責任は私がとるっ! ……どうしたお前達っ! 攻撃の手が止まっているぞ! 次元門はダンとユートに任せて、我々はネロンガを攻撃するんだ!」
「キリヤマ……」
『サア、セブン! 聞イタナ!? 隊長命令ダゾ!』
『僕に……君を撃てというのかっ!? そんな事は……出来ない……!』
膝をつき、力なく首を左右に振るセブン。
『セブン、君ハ、何カ……考エ違イヲシテイルゾ。僕ハ死ヌ訳ジャナイ』
『何を言ってるんだ?』
『キミタチ人間ハ……生キテ、幸セニ、ナル為ニ、産マレテクル。ボクタチ機械ハ、ソノ逆ダ。産レタ使命ヲ、果タス為ニ、生キルンダ! ボクノ、使命ハ、地球ヲ守ル事! ボクノ大切ナ、愛スル、人ヲ、守ル事! ソウシテ、ハジメテ、ボクハ、幸セヲ感ジルンダ!』
『ユート……』
『ダカラ、ボクノ、夢ヲ、叶エテクレ。産マレテキテ、良カッタト、言ワセテクレ……! 君ノ手デ、ボクヲ……人間ニ、シテ欲シインダ! コレハ、オ前ニ、シカ……頼メナイ!』
『……くそっ……!』
震える指で、L字を作ろうとする赤い戦士。
「やめてーっ!! ダン! お願いよっー!!」
『ドウシタ、ハヤクシロ! モウ、機体ガ、限界ダ! コレ以上ハ……耐エラレナイ!』
『待て! 貴様も死ぬんだぞ! 馬鹿な事はよせっ!』
『ウルサイ!』
『ぐわっ!』
ライザーハンドによる裏拳が、ガンダーの顔面を強かに打ち据えて、そのまま鼻先を削り取る。
『今ノ話、聞イテタカ? 腐レ脳ミソ! ロボットハ、死ナナイ! 地球ガ、存在スル限リ! 彼ラガ生キテ、イル限リ! ボクノ存在ハ、証明サレ続ケル! 死ヌノハ、オ前達……ダケダ!』
『ユートッ!』
『何ヤッテル! ボクニ、出来ナイ事ヲ、スルノガ、仲間ダロウ! コレハ、ボクニ、シカ、出来ナイ事ダ! 今度コソ、ボクガ、アンヌヲ、守ルンダ! ドウダ! 羨マシイカ!? オ前ナンカニ、譲ッテ、ヤルモンカ! オ前ハ、ボクノ、らいばるデ、友達デ……先輩ナンダロウ! ダッタラ……ソノ使命クライ、果タシテ、ミセロ! ……
今も蘇ったエレキングとレッドキングに嬲られる実兄。
クラッシュホーンの震動波となんとか撃ち合い押し留めるゴード。
ゾンビネロンガに攻撃を加える仲間達。
誰もが必死に戦い、命をかけて、この美しい星を守ろうとしていた。
ならば自分は……
親友の切った啖呵に、ぐっと両手を握りしめたセブンは、ついにその輝く腕を、巨大なL字に組み合わせる!
『ヤレ! セブン!』
『……ダァーッ!!』
「ユートッ!」
『……アリガトウ……』
光の帯が、マックスジョーの開け放たれた胸奧に吸い込まれていく……
それと共に、大地を揺さぶるような轟音と、目も眩む真っ赤な輝きとが、機体の中心部から広がっていくではないか。
『……エネルギー充填……120ぱーせんと!! ライントーンアクチュエーター……最大出力!!』
『やめろぉおおっ!?』
ユーエイトが四肢に力を籠めると……なんと、あれほどの強度を誇った金色のリングが、ミシ……ミシ……と徐々に形を変えていく……
『ジャアナ、ダン。アンヌヲ、頼ンダゾ』
『ユート!?』
武骨な巨大クレーンが装置の柱を完全にへし折る寸前、突き出されたマックスジョーの右腕が、親指を立てるのをダンは見た。
次の瞬間。
空間が裏返り、一気に中心へ向かって収縮した。
エンジンの爆発も、怪獣達の断末魔も、全て次元の向こうへ消えた。
まるでそこには最初から何も無かったかのように、虚空が静かに広がるばかり。
「ああっ……そんな……ユート……」
思わず泣き崩れるアンヌに、事情の分からぬノンマルトの巫女達が、困惑しながら寄り添い、励ます。
「モロボシッ! 何を惚けているんだっ! お前の兄貴は、まだ戦っているぞっ!」
『デュ!? ジュワッ!』
セブンがアイスラッガーを抜き放ち、再生レッドキングの背後から斬りかかると、先ほどまでの強さが嘘のように細切れへと変わってしまう。
ジェロニモンがいなくなった為、その支配力も消えてしまったのだ。
『兄さん!』
『デェアーッ!?』
電流が弱まった事により、セブン上司はようやく巻き付いたゾンビエレキングをバラバラに引き裂いて脱出できた!
動きが止まったところを、警備隊の集中砲火により頭部を吹き飛ばされて再び死体へ戻るネロンガ。
『ゴード! そいつの動きを止めろ! ゆくぞセブン!』
『はいっ!』
ゴードの吐きかけた白い煙に視界が奪われたクラッシュホーンに、セブン兄弟が力を合わせてエメリウム光線を照射する!
二本の光線は、途中でらせん状に組み合わさり、凄まじい破壊力でクラッシュホーンの大角ごと、その肉体に大穴を穿った!
これぞ兄弟の合体技、セブンラインショットだ!
「やったーっ! 全部の敵をやっつけたぞ!」
「でも……ユーエイトが……」
「確かに彼の献身がなければ、とても勝つ事は出来なかっただろう……実に苦しい戦いだった」
「流石の俺も、ステーションの方が楽だと思う日が来るとはな」
「おれも二度とこんな経験はゴメンだね……」
「さあ、アンヌさん。立ちましょう。戦士の健闘を称えなくては……」
「大丈夫だ、アンヌ。ユートのバックアップはある。ボディもまた作ればいい……」
「でもそれは……」
今、地球を救ってくれた彼ではない。
そう言おうとして……
――いやはや、まさか貴方がたが、ここまでやるとは。
……正直、ゴース星人の圧勝に終わると思っていたのですがねぇ……
突如、空から声が降ってくる。
それは、先ほどのゴース首領とは違う響きでありながら、隠しようのない傲慢さと敵意を含んでいた。
「誰だっ!?」
「おいおい、いい加減にしてくれっ!」
「姿を現せ! 卑怯者!」
――しかし、何をそんなに暗い顔をしているのですか?たかだか一体のロボットと引き換えに、敵の主力を丸ごと倒せたのですから、これほど効率的な事もありますまい。もっとお喜びになればよろしい。つくづく人間というのは……まったく分からん生き物だ……
「てめぇ! ユートを馬鹿にしやがったな!? どこにいやがる!」
『彼を侮辱する奴は……誰であろうと許さないぞ!』
「待てよ? この声……どこかで……」
――とはいえ、これで貴方達は全ての戦力を使い切りました。全て私の計画通りと言うわけです。もはや、こちらの勝ちは揺るぎないものとなりました……実に愉快ですねぇ……!
そして、夜明けを待つ荒野の中心に、悪意と害意の塊の如く恐るべき悪魔の嘲笑が、大音量で響き渡るのだった。
「ブォッフォ! ブォッフォ! フォァフォァフォァフォァフォァフォァフォァフォァフォァフォァフォァフォァフォァフォァフォ…………!!」
残すところあと2話!
なんですが、またしてもそろそろ繁忙期に突入したりといろいろ準備しなくてはならない事がありますので、次回はしばらく後になります!
ごめんなさい!
大丈夫、年内には完結させられるように頑張りますので!
それまで待っててください!
貴方は原作『ウルトラセブン』を観たことが
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ある
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ない
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なかったが、本作をきっかけに視聴した。
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他昭和ウルトラシリーズは観ていた
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平成ウルトラシリーズは観ていた
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令和からだゼェェット!
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そんなにシンが好きになったのか(完全新規
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その他(感想欄かDMにでも)