転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる! 作:Mr.You78
ダンとアンヌが北川町のタバコ自動販売機へ急行すると。
「売り切れか……」
「遅かったわね」
「そうでもないさ、今にタバコを入れに来る奴がいる。そいつが来るまで張り込むんだ!」
ダンとアンヌが、自販機を見下ろせる駅前喫茶店の窓際席を確保した頃。
基地では赤い結晶体の分析結果が出ていた。
「宇宙ステーションV3の隊員が、ワイ星探検をしたときに持ち帰った、宇宙ケシの実がありましたが……あれとよく似たモノです。もちろん地球上には存在しません」
この成分は、他人が全て敵だらけであるという幻覚を見せ、人間の理性や感情を失わせるという効果があるらしい。
報告をするカネダ分析員は身震いした。
「それをタバコに仕込むとは……恐ろしい事を考えたもんです。人類の約半分くらいは、タバコを吸っているんですからね」
張り込む二人は、怪しまれないように頼んだコーヒーを飲みながら、アマギからの報告を聞いている。
「誰でも使う日用品に毒を仕込み、ばらまく。ウルトラ警備隊の隊員であっても、そういった物まで注意できないからね」
「独特の匂いや味のする毒を気付かれないように、このコーヒーみたいな、香りや苦みのより強い食品に混ぜるというのは、地球でも宇宙でも同じなのね」
「実に恐ろしい奴だ……見ろ、来たぞ」
全身黒ずくめの怪しい男が、バンから降りて、自販機にタバコを補充していくのを、真剣な表情で見つめる二人。
やがて補充を終えた男のバンを追跡する。
ダンは追跡中のタクシーの中で、基地へタバコの差し押さえと使用禁止令発令を提案しながら、ある匂いを記憶の中で探っていた。
タバコや、宇宙ケシのような臭みとはもうひとつ別の、微かな甘い香り。
工場街には似つかわしくない、甘ったるい残り香を漂わせて、バンは夕暮れに差し掛かる下町の、舗装の満足にされていない、ぬかるみだらけの道を進んでいく。
やがて男は、ぴっちりと着込んだ黒スーツとはまるで正反対の、うらぶれた二階建てのボロアパートへと入っていった。
基地への連絡員としてアンヌを残し、ダンはウルトラガンを構え、ほの暗いアパートの廊下へ単身潜入するのだった。
物が雑多に置かれた廊下では、野良猫がマタタビを嗅いだように転げ回っていたが、突然の乱入者に驚いて、走り去っていく。
満足に日の差し込まない廊下を突きあたりまで進んだところで、突然開いた扉の中へ引きこまれるダン。
「おッ!?」
「ようこそウルトラセブン。我々は君の来るのを待っていたのだ。」
「なに!?」
部屋の中では、くらくらするような甘ったるい芳香が充満しており、差し込んだ西日を反射して、その極彩色に彩られた肢体を、つやつやと輝かせながら、上辺だけは紳士的な言葉を投げ掛ける宇宙人を見て、ダンは己の推測が確信となった事を理解した。
メトロン星人だ!
銀河でも有数の支配圏を持ち、非常に狡猾であると知られる彼らの放つ香りを、セブンはかつて嗅いだことがあった。
もっとも、目の前の個体は例え夕日の下でなくても分かるくらいに赤々と色づいており、これほどまでに
以前までメトロン星人と言えばオレンジ色、という認識が一般的だったのに。
彼らという種族が、【奴ら】から解放されてからもう数百年、ようやくかつての勢力を取り戻したという事なのか。
「歓迎するぞ。なんなら、アンヌ隊員も呼んだらどうだい?」
まるで敵意を見せる様子もなく、地球人のよく使う小さなテーブルがぽつんと置かれた部屋に、自然に腰を下ろすメトロン星人につられ、セブンも警戒しつつ、勧められるがままに、その対面へとあぐらをかいた。
「君たちの計画は全て暴露された。おとなしく降伏しろ!」
「ハッハッハッ、言いがかりはよしてくれ。我々の実験はまだ十分に終わっちゃいない」
「実験……?」
「そうだ。赤い結晶体が人類の頭脳にどのような効力を与えるのか、それを調べるためにきたのだ。……教えてやろう。我々は人類が互いにルールを守り、信頼しあって生きていることに目をつけたのだ。そう、銀河で危惧されている、あの地球人がだ」
「危惧だと?」
「そう、危惧だ。このように野蛮な種族が、これほど発達した兵器とその攻撃性を抱えて銀河に進出してくるのを、みな恐れている。だから、地球を侵略してそうさせまいと主張する種族もいるという事だ。……だが、地球を壊滅させるのに暴力をふるう必要はない。人間同士の信頼感を無くすればいい。そうすれば、団結しあう事もなく、宇宙へ進出できないまま、やがて自滅していく。どうだ? いい考えだろう」
「そうして、地球人も奴隷にするのか!? 彼らのように」
「奴隷? ……冗談はよしてくれ、彼らは喜んで働いている、自分から。きちんと報酬も与えているよ? 甘い蜜を吸っているのは彼らの方さ、文字通りね。奴隷ではなく、大事な仲間と言って貰おうか」
「貴様達のように、フェロモンで幻覚を見せて操るのを、仲間とは言わん! あれは侵略という!」
「おっと、人の星のやり方に口出ししないでもらうか。宇宙の法でもご法度だろう?」
彼らメトロン星人はメトロン星を原産地とする、結実種だ。
かつてはその実が非常に甘く美味であったために、あらゆる種族に狙われた。
そこで彼らは、生物の脳を惑わし、幻覚を見せる香りを出すように進化し、その実を守った。だが、やがてその香りで自分たちを狙ってきた種族を逆に支配し、侵略を行うようになってしまう。それも、武力ではなく、相手からそう望んで、従うように仕向けるのだ。
彼らの支配圏では、そうして降した種族を自分たちの世話や、資金源の栽培を行わせる労働力として、奴隷のように働かせ、自分たちは貴族階級のように暮らしている。
「お前たちだって、かつては虐げられた側だろうに!」
「おっと、それは聞き捨てならないな。我々は虐げられたのではない、あの方に庇護して貰っていたのだ。それをお前たちが……おかげでこうして、自分達で身を守らねばならない」
「同族を生贄として捧げて得た平和など、まやかしだ! あれはまぎれもなく搾取だ! お前たちがこの地球でやろうとしていることも!」
「地球の権利書に一体だれがサインしたというんだい? ウルトラセブン、君か? ……我々は、ルールに乗っ取って、この遅れた星を庇護してやろうというのだよ」
「そうはさせん、地球にはウルトラ警備隊がいるんだ!」
セブンがそう告げると、メトロン星人は立ち上がり、背後の襖を開け放った。
そこには仕舞われた布団ではなく、先進的な宇宙船の乗り込み口が開いていた。
「……ウルトラ警備隊? ……恐いのはウルトラセブン、君だけだ。……だから、君には宇宙へ帰ってもらう。邪魔だからな。ハハハハハハ!!」
そういって笑うメトロンを追いかけるダン。
メトロンは奥へと逃げ込み、その部屋の両方の扉が閉まる。
先程の部屋とは比べ物にならない密度で充填されたフェロモンの甘い香りに、セブンは自身が罠に嵌った事を悟る。
それはさながらウツボカズラに滑り落ちたアリのもがくように、ダンに成す術はなかった。
ウルトラアイで変身しようとする理性を、メトロン星人の為に何もするべきでは無いという幻覚が、甘く溶かし込んでいく。
夕日に赤く照らされたアパートが真っ二つに裂け、中からはメトロン星人が惑星間を移動する際につかう双胴の
アパートを見張っていたアンヌの通報で、本部からウルトラホーク一号がキリヤマ、アマギ、そして昏睡から覚めたフルハシを乗せ、夕焼けをバックに飛び立つ。
「うん、中にはダンがいるんだな!? よし了解! 隊長!」
「威嚇射撃だ! 逃がすな! 地上に追い込め!」
ホークからのミサイル攻撃を、その双胴を二つに分離し、回避するメトロンの
驚くホークを、二機で挟み、その後ろをとったかと思うと、短距離用のフラッシュボルトを叩き込んでくる。
「今攻撃してこなかった方を追え!」
「え、ケツに付いた奴はいいんですか!」
「我々にドッグファイトを仕掛けてきたという事は、そちらにダンはいない。もう片方が気を引いて、逃げ去るつもりだ!」
「仲間を誘拐しようったってそうはいくか! 了解!」
片方からの攻撃は、装甲をあてに一切気にせず、攻撃すらしないで逃走していくもう一機の宇宙船に狙いをつける。
「しかし隊長、どうします? ダンが乗ってるなんて……」
「撃ち落とす」
「ええ!?」
「……アマギ、奴らの宇宙船はジェットでは無いな?」
「はい、くっ付いていた状態と今の状態で進行方向がバラバラです」
「ならば反重力式という事だ、外殻を小破させて軟着陸させる!」
「了解!」
「くれぐれも中心部には当てるなよ?」
「ちくしょう、ソガがいればなぁ……こんな時になにやってるんだアイツは」
「フルハシさんがぶん殴るからですよ」
「撃て!」
ホークの攻撃が掠り、外殻に亀裂が入った部分から出火するメトロン艇。
外気が流れ込み、新鮮な空気がダンの思考を洗い流す。
「デュワ!!」
もはや操縦不能のサヤを棄て、工場街に並び立った真っ赤な二人の宇宙人を、沈みゆく太陽が見守っていた。
対峙した宇宙人は互いの距離を両側から走り込み、凄まじいスピードで一気に詰めると、跳び上がり、空中で交叉!
しかし、セブンに手ごたえはない。
振り返ると、メトロン星人が走り去っていく。
至近距離でフェロモンを嗅いだセブンは、先程までの残り香も含めて距離感を僅かに狂わされたのだ!
セブンには見向きもせず、一目散に走り去るメトロン星人!
咄嗟にアイスラッガーを投げるも、念力の集中を乱され、命中しない。
心を落ち着け精神を統一したセブンは、今度こそ、メトロンの姿を捉え、空中でアイスラッガーを反転させる!
正中線を切り裂かれ、くす玉のように落下するメトロン星人。
辺りにむせ返るほど濃厚な甘い匂いがまき散らされる。
セブンは追撃としてエメリウム光線を放つが、狙いがうまく定まらない。
虚空で爆発したように見えるが、メトロン星人の残骸は見当たらず、セブンは捜索をあきらめた。
如何に動物とは違う身体構造のメトロン星人とはいえ、あのように割れて中身をまき散らせば、縫合でもしない限り、1日ともたないことは分かり切っていたからだ。
空中では、ウルトラホークがもう一機の敵を撃墜し、エンジン音を勝鬨代わりに響かせていた。
メトロン星人の地球侵略計画はこうして終わったのです。
最後の最後までセブンを惑わし続けた恐るべき宇宙人にとどめを刺さなくて良いのかですって?
でもご安心下さい。
我々人類が如何に優しいとはいえ、わざわざ侵略者を助けてやるほど、心の余裕はありません。
そんなお人よしなんて、いるはずないのですから……
というわけで、第八話「狙われた街」でした。
あまりにも原作の隙が無さすぎて、改変の甲斐がなくて困りましたよ。
名作過ぎるのも時には困りものです。
なので今回はソガも、メトロンも、セブンすらも、そしてアンケートの内容が分からない読者様と、その結果に委ねるしかない作者、全員が狙い通りに事が運ばないという、お遊び回にしてみました。
次回は腹パン回
タイトル回収ですよ!
八話において〇〇〇の〇〇〇〇は?
-
る
-
ぬ